Fate/Victory Order    作:青眼

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というわけで、今回からはFGO第一章『邪竜百年戦争』篇をお送りします。ちなみに、フランス篇のタイトルに間違いはないので、そこは指摘しないでくださいね。

ところで、皆さんはセイレムは楽しんでますか? 自分はああいうのが凄い苦手なので、少しで萎えてます。……頑張って小説書いて忘れるかな。


第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン ーーー護国の英雄ーーー
人理修復、開始


「………今日の訓練は、これくらいでいいだろう」

 

 赤い外套の青年、エミヤは自分が切り払った刀を見ながら自身の獲物を消す。投影魔術という贋作を作り出す彼の魔術は、自分の武器を瞬時に出現させることができ、同時に消すこともできる。便利な魔術ではあるのだが、彼の投影が特殊なだけであって、普通はそこまでの汎用性はない。そのことに溜め息を漏らしながらも、黒鋼はゆっくりと立ち上がる。

 

「まったく、最後の最後まで一本取れなかったなぁ。やっぱり、エミヤは強いな」

「これでも手加減している方なのだがね。とりあえず、弓兵の戦い方と接近戦の手ほどきは出来る限りした。あとは、君がそれをどこまで活かせるに掛かっている。頼むから、何も抵抗できずに敗北する。などという最期を送ってくれるなよ?」

「言われるまでもないさ。こんなところで、死ぬわけにはいかないからな」

 

 シミュレーションルームの電源を落とし、二人は管制室へと向かう。特異点F、あの戦いから既に二週間が経過している。その間、黒鋼はブーディカやエミヤといったサーヴァントたちと組み手をして、自分のレベルアップに躍起になっていた。勿論、彼はマスターでもあるので、的確な指示が送れるようにそういった訓練もしてはいる。だが、何せ彼は武術も魔術も出来ない一般人だ。何故だか魔力だけは余る程あるので、強引に体を強化するという方法でならギリギリサーヴァントと相対できる。体への負担が大きいので、あまりしたくはないのだが。

 さて、普段ならまだ組み手をしている時間帯だが。何故、今回は早く切り上げて管制室に向かっているのか。それは、単純に組み手をしている余裕が無くなったというだけである。

 

「お、来たね。うんうん、いい感じに汗も掻いてあまり緊張してないみたいだ。出立には丁度良いコンディションだね」

「準備運動もしっかりしてきましたからね。それより、準備の方は?」

「そっちは任せて。コフィンの掃除から特異点の座標指定まで、こっちの準備は整ってるからね」

 

 管制室に入り、天井から地面に至るまで真っ青な空間を目の当たりにする。その中にいるのは茶色い髪を一つに括り、いかにもデスクワークをしていそうな雰囲気な男性に話しかけられる。『人理継続保証期間 フィニス・カルデア――アトラス院支部――』の局長を務めるシアリムは、いつもより少しだけテンションが高かった。こちらの体調を気にかけていた。そのことに感謝を言いつつ、この場に集まったオペレーターから観測役の人たちの表情を見る。全員がしんどそうな顔をしているが、その表情はどこか晴れやかだ。どうしてだろうと疑問に思っていると、先ほど入ってきた入り口から新たに人が入ってくる。

 

「皆お疲れさま! 朝食を持ってきたから、一度休憩にしよっか!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 待ってましたァァァァァァ!!」

「ブーディカさんの料理だ! 者ども、並べ並べェ!!」

 

 ここに入ってきたのは自分が初めて契約したサーヴァントであり、そこにいるだけで安心感が増す騎乗兵(ライダー)のサーヴァント、ブーディカだ。赤い髪を後ろで丸く纏め、腰に巻いた黒いエプロンが良く似合っている。彼女が朝食を作るのは驚かなかったが、ここにいる職員が統率された動きで二列に並んでいるのは驚愕する。確かに彼女の料理が美味しいが、ここまで洗練された動きが出来るのだろうか。いつの間にか隣にいた筈のエミヤも割烹着を投影し、彼女の手伝いをしているところも違和感がない。見事な連係プレーにただ圧倒される。

 

「凄いなぁ。あれって、俺も食べていいのかな」

「はい、問題ありませんよ。どうぞ、研砥様の分です」

「あ、これはどうもご丁寧に………って、静謐!? いつからそこに!?」

 

 楽しそうに列を並び、渡された朝食を美味しそうに食べる職員たちを見て少しだけ羨ましく思った自分だが、すかさず渡されたお盆と一切気配を感じさせず近くにいた静謐に驚く。狙ってやったことなのか、いつもは憂い顔な彼女の表情が笑みに代わる。

 

「ふふっ、ブーディカ様が部屋に入ったと同時ですよ。あらかじめ、研砥様の分は別に用意しておいたのです」

「そうなのか。それはありがたいけど、次から普通に渡してくれ。心臓に悪いから、それ」

「すいません。でも、一度やってみて欲しいとブーディカ様に言われまして」

「………意外とお茶目なところもあるのか、あの人」

 

 静謐に渡されたお盆にある品物は、白い米に味噌汁。どこで獲ったのか分からないが焼き鮭に卵焼きと。朝食と言えばこれだと思う品が揃っている。これとは別に、職員がパンとソーセージを食しているのを見る限り、和食だけに留まらず洋食まで用意しているのだろう。どこまでも用意周到なのはありがたいが、初めの方からこんなに豪勢な飯を作り続けて、食糧の備蓄は大丈夫なのだろうか。それが途端に気になったことだが、目の前の朝食に比べると些末なことだ。近いうちに起こるかもしれない危機について考えることを先延ばしにして、朝食を頂くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、朝食をしっかりところでブリーフィングを始めよう。ここにいる全職員はそれぞれの持ち場に待機してくれたまえ」

 

 いつの間にか自分もしっかりと朝食を取ったホームズが、何やらプリントを収めたファイルを持ちながら指示する。皆一様に満足したような表情で戻っていく様を見て、やはり料理というのは人の精神を癒す物なのだと理解させられる。かくいう自分も、冬木に向かった際に使ったコフィンの前で待機している。

 

「昨日、我々がトリスメギストスを用いて捜索を続けた結果。人理が歪んだとされる七つの特異点の内の一つが発見された。場所、年代は1431年のフランス。この時代と国で大きな出来事と言われると、彼の聖女。ジャンヌ・ダルクが存在した百年戦争の最中に何らかの変化が起こったということが予測される。我々、人理継続保証機関フィニス・カルデア、アトラス院支部は本部に所属するマスター。狭間暮人の援護をしつつこの特異点の原因の排除。ならびに、特異点を構成している聖杯の確保。又は破壊を行う」

 

 ここに集まったのは他でもない。人理を構成するために必要とされた七つの時代に起こった変化の駆逐をするためだ。この場所は、雪山の底にあるカルデア本部をサポートするために作られている。それも、観測機器に関していえばあちらより精度が高い。普通は逆かもしれないが、オリジナルはこちらにあるのだから仕方がないだろう。

 

「各職員はそれぞれの持ち場にてこちらが送り出すマスター。黒鋼研砥の動向を監視しつつオペレートによる援護を行ってくれたまえ。黒鋼君、準備はいいかね?」

「ああ。だけどホームズさん、それはシアリムさんの仕事なのでは……」

「問題はないとも。作戦案は共に考えたが、彼は彼なりの戦いがあるからね」

 

 どこか謎を含めた言い方をしながら、名探偵は次々と作戦の優先事項を述べていく。特異点の排除もいいが、まずは霊脈となる場所に赴きその場で新たな“縁”を結ぶこと。慣れない場所に向かうのだから無理はせず、死なない程度に作戦を実行することなど。当たり前のことから重要なことまでを丁寧に説明する。

 

「―――以上で、私からの作戦概要の説明を終える。それでは、Mrシアリム」

「分かってるよ。黒鋼君、今から死地に向かう君に私からのプレゼントだ。存分に使い潰してくれたまえ」

 

 そう言われて手渡されたのは赤い布上の何か。それを受け取って広げてみると、全身を覆い隠すように長いローブだ。その場で着てみるが、服の長さは手が少し袖に隠れる程度。普段着としては十分すぎる。触っているもの質から何となくだが、それなりに上等なもので作られているものだと理解させられる。

 

「あの、こんな高級そうなものをもらってもいいんですか? 俺、何も返せないんですけど」

「問題ないとも。だってそれ、元々は君の物だしね」

 

 さらっとそんなことを言うシリアムだが、こちらとしては思い当たる物がない。ここに来た際に持っていたのは携帯電話と本。ノートや筆記道具くらいなもの。その中から、どうやってローブを作ったのだろうか。

 

「いやほら、静謐ちゃんやエミヤ君を召喚した時にゲットした赤い布があっただろう? あれ、エミヤ君に解析してもらったところ、『マルディーンの聖骸布』っていう魔力殺しの布らしくてね。向こうで隠密行動をする時に要るだろうと思って縫い上げておいたのさ」

「……さりげなく凄いことしてませんか? それに俺、身長は高い方ですし。あの時の布じゃとても作れないと思うんですが」

「そこはほら。私、錬金術師だからね。ちょいと素材を集めて錬成し直したのさ」

 

 愉快そうに笑いながら、これから先の戦いで必要になりそうなものを渡してくれたシリアムに礼を言いつつ、自分の身に纏うローブを見る。血のような色をしているが、決して見るに堪えないというわけでもなく。どこか自分の体の一部のように感じられる。これでナイフを構えたらアサシンの真似事ができそうだ。

 

「準備はいいかね? よし、ではコフィンに乗り込んでくれたまえ。―――人理焼却。それを防ぐ戦いの幕開けだ。五体満足で帰ってきて欲しい」

「はい。それじゃ、行ってきます!」

 

 二人に別れを言い、すぐ傍にある棺桶のような入れ物。コフィンの中に入り、しっかいりと体を固定する。中で簡単なバイタルチェックを済ませていると、脳内に声が響いてきた。

 

『忙しい時にごめんね? 少し、話をしてもいいかな?』

『ブーディカさん? いやまあ、問題ないけど』

 

 サーヴァントと魔力を渡すパスを通じ、ブーディカの声が脳内に響く。契約しているサーヴァントとは念話が出来るということは知っていたが、何しろ初めてのことなので戸惑った。レイシフトを行う前のチェックはシステムが勝手にしてくれることだから無言でも構わないが、出立直前だというのに何を話そうというのだろうか。

 

『少しだけ気になっちゃってね。研砥はさ、後悔してないの? こんな理不尽な戦いに巻き込まれたこととか、自然と自分が特異点に向かうことになってることとかさ』

『…………あぁ。そういうことか』

 

 彼女に聞かれたのは至極当然なこと。この間の冬木の特異点でも、黒鋼はあまり戦うことを良しとは思ってなかった。あの時は戦うしか無かったから戦っただけで、基本としては戦いたくはない。それでも俺が戦う理由。そんなこと。今まで考えたことも無かった。

 

『…………後悔とか、無念とか。今は思ってないかな。というか、それを考えているだけの余裕もないというか』

『そう、だよね。でも、時間がある時に考えておいて。戦う理由が無い人は、必ず途中で挫折する。私達は君を護るサーヴァントだけど、その君が折れたら意味がないからね』

『………分かった。ありがとう、ブーディカさん』

 

 そこで一度念話を切り、これから先に待ち受ける物に備える。ここは自分が知る世界でもあり、同時に知らない世界でもある。余り知識を過信しすぎると危険だ。常に狙われていると思いながら行動するくらいが丁度いいだろう。

 

『黒鋼君。バイタルチェック終わったよ。いつでもレイシフトできるから、開始の合図はそっちに譲渡するね』

「了解、それじゃあ、行ってきます!! ―――レイシフト、スタート!!」

 

 遂に始まるレイシフト。自分の体徐々に喪われていく奇妙な感覚を味わいながらも、どこか温かいものを感じる。ゆっくりと瞼を閉じ、フランスという未知の大地に思い馳せる―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

 

 これは、ある少女の物語だ。彼女はごく普通の農家の生まれで、彼女もそう生きていくものだと思っていた。しかし、彼女の住む村。ひいては国を舞台に戦争が起こる。その中、彼女には聞こえてしまったのだ。彼女が信仰する主の声が。主は彼女に告げた。この先をどうすればよいのかを。彼女はそれを躊躇うことなく信じ、主が告げた通りに行動を開始した。これが、後の世に聖女と呼ばれるようになる、ジャンヌ・ダルクという少女が紡いだ物語の発端だ。

 

 彼女は主の声の代弁者として最前線で戦った。腰に差した剣は抜かず、信仰の旗を巻き付けた槍を持って味方を鼓舞し、的確な作戦と指示を送り、ついには国を奪還して見せた。まさに奇跡。どこかに存在する主の代弁者というのは間違いではなかったのかもしれない。

――――――しかし。それ故に、彼女は自身が救った国に裏切られた。

 

 

 

 読み書きもできない。元々は農家の少女が前線に立ち、効率的な作戦を立案し、味方を奮起させるなど。とても信じることが出来なかったのだ。しかし事実として、彼女はそれを実行してみせた。だが、現実はそこまで優しい物ではない。彼女は謂れのない罪で投獄され、異端審問に掛けられた。彼女が信じた主の命で動いたという事実を否定せよと言われ続けるも、むしろ彼女はそれを強く否認した。男性に凌辱の限りを尽くされようとも、彼女は最期まで主への信仰を捨てなかったのだ。

 

 

 

 結末として、彼女の最期は火刑だった。罪なき少女であった彼女は。ジャンヌ・ダルクと呼ばれた聖女は、齢19という若さでこの世を去った。しかし、そんな非業な最期を迎えたとしても。彼女は誰も憎まず、主への信仰を捨てずに逝ったという。その生涯はまさに、聖女と呼ばれてもおかしくはない一生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――しかし。もしもだ。そのジャンヌ・ダルクという少女が、その人生に憎悪を抱いたのなら。それは間違いなく復讐者となるだろう。一概にありえないと言い切ることは出来ない。何故なら、それだけのことを彼女はされていたのだから。

故に、これはきっと。彼女にありえたかもしれなかったはずの側面。自分を頼った挙句、火刑に処された彼女が抱いた憎悪が生んだif(もしも)の存在。

 

「………さぁ、地獄を作るわよ。そして思い知らせてあげましょう? 我が憎悪を、我が憤怒の炎を知らしめてやりましょう! ここより世界を、完膚なきまでに破壊する!」

 

 絹のように美しかった金の髪は色素が薄くなり、その肌は死人のように白く、慈愛に満ちていた双眸には怒りと憎しみで溢れ返っている。その背後に現れる、二桁に達する英霊達。その全てに、何かを求めるような怒りの念があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランスという大地を舞台に。新たな聖杯戦争の幕が開ける――――――――――――

 




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