Fate/Victory Order    作:青眼

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さて、ガチャ報告回の更新も良いですが、ちゃんと本編も更新して行きますよ~。特異点Fから帰還したその先にいたのは、名探偵シャーロック・ホームズ。その口から語られることとは…………?


名探偵、シャーロックホームズ

 

 

 

「シャーロック、ホームズ……? あの、名探偵の………」

 

 特異点Fから帰還した直後。目の前に立った男性の名前を聞いた時、俺は驚きのあまり目を丸くした。聖杯戦争において、サーヴァントの知名度はスペックに直結する。そして、『シャーロック・ホームズ(・・・・・・・・・・・)』といえば、世界中に名前を轟かせた名探偵だ。あまり伝記に詳しくない俺でさえ知っているのだから、その知名度は圧倒的だろう。

 目の前にいるホームズと名乗った男性をジッと見ていると、彼はクスッと笑いながらパイプタバコを口にした。

 

「私を見てその驚きよう。どうやら、本当に君は私のことを知らないようだね」

「え? あ~、え~と。その、俺とホームズさんは、知り合いだったんですか?」

「知り合いかどうかと言われれば、そうだろうね。まぁ、私にとっては第二のワトソン君のような人だったが。なに、さして問題になることでもないだろう」

 

 目を閉じてタバコを口から離し、白い煙を口から吐き出すホームズさん。俺とあのシャーロック・ホームズが知り合いだった。そう言われたことに更に驚いたが、助手のワトソン博士クラスの扱いを受けていたことにも驚きを隠せない。記憶を失う前の俺。というより、特異点Fより前の俺は何をしていたのか、とても気になってきた。

 

「さて、そろそろ種明かしでもするとしよう。付いて来てくれたまえ諸君。君たちに見せて、会うべき人がいる」

 

 自分の言うべきことを端的に伝えたホームズさんは、後ろを振り返って部屋を出る。彼の横に立っていたブーディカさんも習うように出ていくのを見て、俺は彼らの後ろに並ぶように歩き始める。部屋の中は真っ白に塗られていたから気づかなかったが、部屋の外は古い石を積み重ねたような、レンガ造りで出来ている。天井に取り付けられた照明は点滅を繰り返し、どこか退廃的な雰囲気を醸し出している。

―――不気味なところだな。俺は口には出さず内心そう思いながら黙々と歩き続ける。迷路のように入り組んでいるこの道を進んでいると、前の方から声が聞こえた。

 

「さて、目的地に着くまでの間。簡単にここのことを説明しておくとしよう。君も、ここがどこなのか興味があるだろう?」

「ああ。そういや、ブーディカさんはここがどこなのか知ってるのか?」

「まあね。研砥は3日も(・・・)寝てたんだよ? そりゃあ、そんなに時間があれば説明くらい受けれるさね」

「―――待て、3日も? 3日も寝てたのか俺………!?」

 

 ブーディカさんの告げたことが信じられず、更に俺は驚く。どうやら、今の状況は俺の知っていることより深いことになっていたのかもしれない。ホームズの言う目的地に到着するまでの間、俺はブーディカさんから色々と説明を受けた。

 特異点Fから帰還してから3日も寝ていたこと。ここが、カルデアとよく似た環境下にあるということ。何より、既に新たな特異点が見つかりつつある(・・・・・・・・・・・・・・・)ということ。

 

「私もまだ、本格的な説明はまだなんだ。だから、これから一緒に説明を受けるつもりだよ。ホームズは全部知ってるんだけどね」

「当然だとも。私は君たちが来るよりも前にここにいるのだから。さて、そろそろ目的地に到着だ。………先に言っておくが、急に視界が明るくなる。気を付けておいてくれたまえ」

「は? ちょ、それはどういう――――――」

 

 ホームズの忠告を聞いた直後、先頭を歩いていた彼がゆっくりと歩みを止める。それを見ながら俺とブーディカさんも止まる。その瞬間、目の前に広がる視界が青一色に染まる。忠告を聞いたとはいえ、突然のことに対応が遅れてしまう。あまりの眩しさに声を漏らしながら俺は目を瞑る。数秒もすればこの光にも慣れてきたので、閉じた瞳をゆっくりと開く。

 ―――そして、開いた視界の先に広がっていたものを見た時、俺は目を疑った。さっきの青一色に染まっていた光の意味を知ったからだ。だが、そのスケールの大きさに、口を開いて絶句する。天井があるべき場所は真っ青。そして、もう見慣れた地球儀(・・・)のような球体。

 

「青、空…………!? 建物中に青空がある!? というか、あの球体は………!!」

「………これは凄いね。正直、想像以上だ。ホームズ、ここは一体……?」

「ここの説明も必要だが、まずは会うべき人がいる。少し待っていて―――」

「いや、その必要はないよホームズ。既に準備は整っているからね」

 

 ホームズさんの言葉を遮り、男の声が部屋の中に木霊する。目の前にある巨大な球体の裏側から、二人の男女がやってくる。男の方は身長が高く、浅黒い肌にボサボサな黒い髪を伸ばした背の高い男性。女の方は俺とあまり年は変わらないように見え、茶色い瞳にオレンジ色の髪を片方だけ結っている。どこかで見たと言うより、見慣れた格好をした女性がこちらに向かってやって来る。

 

「すまないねホームズ。色々と任せてしまったようだ」

「問題はないさ。これから君たちを呼ぼうと思っていたからね。それより、自己紹介をしてあげてくれたまえ。彼は、本当に何も覚えていないようだからね」

 

 ホームズさんの指摘に男は頭を軽く下げることで応じる。男性はひらひらと手を軽く振りながらホームズさんの後ろに、俺の目の前にまでやって来る。その時に俺が感じたのは、純粋に背が高いということだった。俺の身長は、今年の初めに行った身体測定で178cmだ。だが、その俺が少し首を上げて見上げるということは、目の前にいる男の身長は180を優に超えているということになる。普段から人を見上げるということをしなかったので、そのことに少しだけ戸惑いを感じていると、男は微笑みながら口を開いた。

 

「さて、と。初めましてで良いよね? 私はウェイン。『シアリム・エルトナム・レイアトラシア』という。ここの管理人みたいな者だ。それで、こっちの女の子は―――」

「初めまして。『藤丸立花(ふじまるりつか)』と言います。ここではマスター職と並行して、オペレーターもやっています。よろしくね?」

「あ、はい。黒鋼研砥、です。ところで、その………。ここはどこなんですか?」

 

 自己紹介を終えた後、俺は素朴な疑問を2人に尋ねてみた。それを聞いたレイアトラシアさんはクスッと笑いながら、仰々しく手を大きく広げた。

 

「そうだね。まずはここの説明をするとしよう。その前に黒鋼君、君はここでの記憶を失っていると聞いている。いや、別にそれが悪いことだとは言ってはいない。2,3。君に質問したいことがあるだけさ。構わないかな?」

「………? はい、別に構いませんが。えと、レイアトラシアさん?」

「敬語は不要。そして、私のことはシアリムさんと呼ぶように。それじゃ、さっそく質問だ。君は過去の時代へと移動するシステム。疑似()にとって必要な物を知っているかね?」

「………? え~と、人類の未来を計測する『カルデアス』と、過去の時代へと送り込むための『コフィン』。ですよね?」

 

 シアリムさんが説明をする前の確認だと付け加えた質問に、俺は躊躇うことなく答える。そのことに指を伸ばして軽く舌打ちをしながら「27点」と言葉を返した。

 

「確かに、君の指摘通りこの地球儀のように青く美しい球体。『疑似地球環境モデル・カルデアス』。そして、『疑似量子転移(レイシフト)』システム。この2つは極めて重要だ。まぁ、他にも『事象記録電脳魔・ラプラス』とか、『霊子演算装置・トリスメギストス』とか。他にも重要な物があったりするだけどね。それじゃ、次の質問だ。君はさっき僕が言っていた『トリスメギストス』を作ったのは誰か。覚えているかい?」

「確か……。カルデアを裏切ったレフ=ライノール、ですよね」

「その通り! なんだ、私たちのことを忘れているだけで大切なことはちゃんと覚えているじゃないか!」

 

 そこら辺の説明は面倒だったんだよね~。シリアムさんは白衣から飴玉を取り出してこちらに渡してくる。礼を言いながらそれを口にすると、とても甘い味が口の中に染み渡る。どこか懐かしい味に思いを馳せていると、彼は指を鳴らして天井を指し示した。

 

「さて、それじゃ最後の質問だ。レフが作り上げた『トリスメギストス』。その元となったオリジナルの名前を。そして、それがどこにあるのか。君は覚えているかな?」

「はい……………? え~と………………。あれ…………分からない?」

 

 今まで遊んでいたFate/Ground Orderにおける設定。それに関することは色々と知っているつもりだったが、ここでまだ俺の知らぬ言葉に遭遇する。さっきシリアムさんが言っていた『ラプラス』のことや、『カルデアス』の周りを覆う観測器具、『シバ』のことも一応知ってはいる。けれど、『トリスメギストス』にオリジナルがあったことなんて俺は知らないし、聞いたこともなかった。それでも何か覚えていないかと必死に記憶を掘り起こしていると、シリアムさんはまたクスッと笑いながら説明を続ける。

 

「はい時間切れ~。正解は『疑似霊子演算装置トライヘルメス』でした~。ま、これは『トリスメギストス』か、裏切り者のレフについて詳しく知ろうとしない限り分からないことだから仕方ないね。答えられなかったことは問題じゃあない」

「は、はぁ………」

 

 飴玉をくれたり質問してきたりと。色々と分からないことをするシリアムさんに、俺はつい戸惑った声を漏らしてしまう。それを聞いたか否か。隣に立っている藤丸さんがシリアムさんをジト目で睨みつける。

 

「あの、シリアムさん。黒鋼君は記憶を失ってるんですからあんまり深い質問は控えてあげてください。虐めですか。訴えてきましょうか?」

「残念、僕は子供興味はないんだ。それに、これは虐めじゃない。ただの確認だよ」

 

 藤丸さんの目線と言葉を適当にあしらいながら、シリアムさんは懐から小型の単発を取り出す。それをこちらに見せながら説明を再開する。

 

「さて、それじゃさっきの続きだ。『トリスメギストス』のオリジナル、『トライヘルメス』はどこにあるのか。それは、魔術世界の少し深いところに繋がっている人なら誰もが知っていることだ。世界を7度破壊しうる兵器を作り、それを封じてきた、まさしく兵器の墓場! ―――ようこそ黒鋼君。『人理継続保証期間フィニス・カルデア アトラス院支部』へ!!」

 

 心の底から楽しそうに、シリアムさんは両手を広げて俺を歓迎する。言われた方である俺はというと、正直、実感が持てなかった。というより、言われたことを事実と認識すらしていない。

 カルデアのアトラス院支部? レフが創造した観測機のオリジナルがある施設が、ここだと? いやそれ以前に。俺が全く知らない単語や物語が展開されていることに驚きが隠せなかった。戸惑いのあまり、頭に手を当ててゆっくりと1つずつ理解することに努める。俺の知っていることが何1つ通用しない世界に放り込まれた気がするが、それをできる限り考えないように努める。すると、シリアムさんが「続けるよ」と呟いた。

 

「まぁ、君は今目覚めたばかりで理解しようにも理解が追い付かないところがあるだろう。けれど時間は有限だ。限りなく重要なことしか言わないから、とりあえず頭の片隅にでも入れておいてくれ」

「は、はぁ…………」

「うん、それじゃ説明を続けよう。まずは、このアトラス院支部が作られた理由だが、まずはカルデアについて軽く説明しよう。雪山の底にある魔術工房。あれを作った人は分かるかな?」

 

 とりあえず、今は全体の説明を受けることが先だとシリアムさんが言うので、俺はそれに応じて回答する。カルデアを作ったのはオルガマリー所長の親御さんではないかと。これは、冷静に考えれば分かることだ。確か、彼女は親からカルデアを預かった云々というセリフが、俺のもといた世界ではあった。それをそのまま言うと、シリアムさんは頷いて肯定する。

 

「正確には彼女の父親、『マリスビリー・アニムスフィア』が制作したのがあのカルデアだけどね。彼、60年近い歳月を捧げていたからねぇ。私としても、何が彼をそこまで突き動かしたのか分からないが………。ま、それはいい。ともあれ、ここにはカルデアにある施設の一部がそのまま作り置かれてある。もっとも、そんなにスペースはないけどね」

「マリスビリーさん………。え、でも『カルデアス』とかコフィンとかの作成にも費用がかかったんじゃ? そもそも、魔術師のマリスビリーさんに、錬金術師の巣窟であるアトラス院がそこまでする義理はないじゃ……」

「お、中々鋭いね〜。まぁ実際そうだったんだけどね。けと、まさかアトラスが書き残してしまった契約書を取引材料に使われちゃったらね~。こっちとしても最優先で回収しないといけないものだったから、協力を惜しまなかったのさ。ご先祖様も大変な物を残して逝ってしまったものだ」

 

 やれやれと溜め息を吐きながら、シリアムさんは手を振って心の底から呆れた態度を振りまく。またも知らない言葉に頭を悩ませていると、隣に立っている藤丸さんが間に入って説明してくれる。

 

「え~っとね、私もよく知らないんだけど、アトラス院が創立された時。つまり、初代院長が何枚か書いてしまった契約書のことらしいよ。契約書を持っている人に対しては、特別な援助をするって約束したんだってさ」

「正確には7枚だよ立香。君も、一応は私の弟子なんだから、必要最低限の知識を持っていてくれないと困るよ?」

「はいはい、駄目な弟子ですいませんでしたね~」

 

 悪びれた様子を見せることなく、藤丸さんはめんどくさそうに呟きながらジト目でシリアムさんを見ている。それを見たブーディカさんがクスッと笑いながら会話に入ってきた。

 

「仲、良いんだね2人とも」

「べっつに~~。親を亡くした私を拾ってくれたのがこの人で、たまたまシリアムさんが錬金術師だったから、それを学んでるってだけですよ~」

「まったく、この子はいつもこんな感じでね。我ながら、どこで教育を間違えたのやら………」

 

 頭が痛いといいながらも、シリアムさんは優しい手つきで藤丸さんの頭を撫でる。それを照れくさそうに暴れて逃れようとする彼女は暴れるが、本気で抵抗しない辺りまんざらでもないように見える。それを見たホームズさんは咳を立てる。

 

「親子のスキンシップ中すまないが、話が脱線してはいないかねMrシリアム?私が代わりに説明しても構わないかな?」

「ごめんごめん、少し調子に乗ってました。で、どこまで話したかな……。そうそう! 契約書の所までだね! 要点だけ纏めれば、アトラス院(こっち)は先祖が書いちゃった契約書を渡すことを取引に使われて、費用とかも一部こっちが負担して支部って形の疑似カルデアを作っちゃたってことよ。しかも、この日のために一部の人以外は出払っちゃて、知らない内に人理焼却にも巻き込まれたしね~」

 

 どこか遠い目をしながらも、シリアムさんは今までの会話の要点だけを纏める。大雑把だったが、とても分かりやすかったので、こちらとしてはありがたい。だが、まだ重要な部分がまだ分かっていない。

 

「あの、ここのことは分かったんですけど。まだ俺、私の記憶のことについては何も……」

「あ、それ聞くかい? 今聞いちゃうかい? 多分長くなるけど、それでも?」

 

 どこか鬱陶しくこちらに絡みながら聞いてくるシリアムさん。どうやら、今の俺には聞かれて欲しくないことのようだ。だが、俺としては引くに引けないところだ。俺がFGO世界(こっち)に来てしまったのは何か作為的ことかもしれないが、その原因が突き止めることができるのであればそれに越したことはない。何より、ここにいる人たちはこっちの俺(・・・・・)のことを知っているみたいだ。なら、何で俺がこっちに来てしまった理由を知っているかもしれない。

 自分がここに来てしまった原因が分かるかもしれない。というより、それを知るまでは引かないという決意を固めようとしたその時、ホームズさんが何食わぬ顔で口を開いた。

 

「恐らくだがね。君は『根源の渦』に触れてしまったのだと思うよ」

「――――――は?」

 

 呆然と、ホームズさんが口にした言葉聞いた時。この場にいる誰もが動きを止めた。息を吸うために息を吸って吐いての音しか聞こえなくなったこの場において、ホームズさんだけが何気なくタバコを吸い、口から煙を吐き出しながら呟いた。

 

「聞こえなかったのかい? なら、もう1度言おう。黒鋼研砥君、君はね。アトラス院が行った実験で、ほぼ間違いなく『根源の渦』に触れたのだよ」

 

 静かになってしまった偽の青空の下、ホームズさんの低い声が部屋に響いた。どうやらこの説明会。簡単に終わりそうにはないらしい――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけでまさかの新事実。主人公はどこぞのチートの権化、根源接続者だったのでした~。でも、本人はそんな記憶はないし、というか俺、そもそも根源なんて見たことないし二次元の世界の事情を出されてもちょっと………。といった感じです。ですが、そんなことはお構いなしで話は進んで行きます。頑張れ主人公、なに死にはしないさ。死ぬような目には遭うけどネ!

次回は根源に接続した実験の詳細と、できれば英霊召喚まで行きたいところです! 完全オリジナル設定が入ってしまいましたが、いかかだったでしょうか? 皆さんの意見も聞きたいので、時間がありましたら是非とも感想をお送りください。勿論、誤字脱字等の報告もお待ちしております。

また、近日中に別作品にて、ホームズピックアップガチャの報告回を投稿する予定なので、そちらも読んでいただければと思います!

ここまでの読了、ありがとうございました!
次回も楽しみお楽しみに!

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