Fate/Victory Order    作:青眼

11 / 20
 今回はあれですね。………ついに、彼女があんな目にあってしまう回です。けれど、正史とは違う世界線にしたかったので、オリジナル要素を入れてみました。是非、批評お願いします!

それと、今は鬼ヶ島がやってますね。私は頼光さんや玉藻がいるので回すつもりはないんですが、鈴鹿御前様が欲しいので回してきます! 今度こそ、今度こそ我が家に侍セイバーを………!!


引き継がれる意志

「終わった………のか?」

 

 つい数分前まで目の前で行われていた超常的な戦い。その戦いの傷跡になった地面を見て、俺は呆然と呟いた。この世界を滅ぼす原因となっていた聖杯を守護していた剣士、アルトリア・オルタは既に消え去り、場を支配していた圧倒的な存在感もまた消えた。それが実感できた時、俺は安堵のあまり溜め息を漏らした。

 

「……ちっ、あんの野郎。最後に気になること言ってから消えやがって。まあいい。これでこの聖杯戦争も終わったんだ。とっとと帰るとしますかね」

 

 軽く舌打ちをしながら、構えていた杖を下ろすクー・フーリン。強制退去が既に始まっているのか、体が時間が経つに連れて薄くなっていく。

 

「ーーーーっ、ううっ。これは、一体どういうことだ………?」

「なんだ、今頃起きやがったのかテメェ。最後の最後で足手まといになりやがって。いつもの準備の良さはどうした?」

「………なんだ、何やら騒がしいと思ったら、犬が喚いていたのか。眠れないのは道理だな」

「けっ、ここまで来てまだその態度かよ。マジで焼き入れてやろうか? アァ゛?」

 

 消滅するギリギリの所で、魔力の使いすぎと自身の限界を超えた投影をしたフィードバックで気絶していたエミヤも目を覚ます。ただ、目覚めて早々に始っている口喧嘩を見て、俺は苦笑した。

 

「けっ、まあいい。今回は最後まで全力で戦えたしな。少しは大目に見てやるよ」

「そうか。そうしてもらえると助かる。流石に、今の状態で君と戦って勝てるなどと、思い上がってはいないのでね」

 

 クー・フーリンが手を差し出し、それをエミヤが握って立ち上がる。ただ、満身創痍であることに変わりないのか、息を荒くしながらその場で膝に手を付いた。肩を貸そうと駆け寄るも、不要だと首を横に振って拒否された。

 

「さてと。そんじゃ、色々と気になるところが残ってるが、後はお前らに任せるわ。次に俺を呼ぶことがあったら、ランサーで呼んでくれや」

 

 最後まで格好良く笑いながら、クー・フーリンは消滅した。いなくなってから分かることだが、本当に強くてカッコいい人だった。ランサーの時の彼も知ってるが、キャスターはキャスターでも良い。改めてそう思った。

 クー・フーリンが退去したのを見届けた後、今度はエミヤを見送ろうと彼を見る。全身がボロボロで、今にも倒れそうなくらいに息を荒くしているが、少しは余裕が戻ったのか表情に笑みが浮かんでいた。

 

「……私から言うことは特にない。今回はイレギュラーな事態で、君とは仮契約だったからな。別段、君に思い入れをしたつもりはない」

「ぷっ、ほんと、最後まで堅苦しいこと言うね。エミヤ君は」

「悪いが、そういう性分なんだ。仕方が無いことだと割り切ってくれ」

 

 これから消えると言うのに、最後までそんな堅苦しいことを言うエミヤに、ブーディカさんが苦笑した。笑わなくてもだろうと言いたげに表情を変えるエミヤだが、咳払いをして俺に向き直った。

 

「研砥。おそらく、君は今回以上の事件に巻き込まれるだろう。だが、そんな時こそ、己の最も強い意志に従って行動しろ。私から言えるのは、それだけだ」

 

 言葉は重苦しく、けれど表情は優しげなそれに変えてエミヤは言った。痛みが引いたのか、それともそうしたかったのかは分からないが、くるりと背を向けて歩き始める。

 

「縁があれば、また君の力になると約束しよう。その時はよろしく頼むぞ。マスター?」

 

 

 そう言ってエミヤは歩き出した。最後の最後まで不敵に、けれど、この場にいる皆を守ろうとした弓兵もまた、その身を黄金の粒子となって消滅させた。そのことが少し悲しくて、切なくて視界が滲むが、深呼吸して切り替える。

 

「ーーーこっちこそ、その時はよろしく頼む。いつか、また会えるよな。エミヤ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬木に生存していたサーヴァント達との別れを告げたあと、俺はブーディカさんと一緒にオルタが残していった膨大な魔力を内包した物体を回収して、それをオルガマリーさんに渡す。渡された物を鑑定するオルガマリーさんだが、それを見た直後、目を見開いて驚きを露わにする。

 

「こ、これ聖杯よ!? そこらにある偽物じゃない、本当に願いを叶える願望機! それに、あのセイバーが言ってた言葉……。グランドオーダー。なんでサーヴァントがそんな言葉を…………?」

 

 癖なのか分からないが、爪を噛みながら思考の波に飛び込んだオルガマリーさん。こうなっては誰の話も聞かないだろう諦め、狭間達との会話を交わす。

 

「よっ。何とか、二人とも生き残ったな」

「ああ。これも全部研砥のおかげだよ。俺、ほとんど何もしてなかったし」

「嘘つけ。マシュに頑張れってエール送ってただろ? あれだけでも十分すごいって。俺のはあれだ、偶然だよ。偶然」

 

 互いに苦笑し合ってハイタッチをする。その後、特に何も考えずにその場に寝転がる。長い戦いが終わって、ようやく訪れた休息の時間だ。少しばかり気を抜いても大丈夫だろうと思ってそのまま伸びをする。疲れが溜まってたのか、それをした直後、眠気が襲って来る。

 

「………まあいいわ。特異点の原因である聖杯は回収できたんだし、とりあえずは良しとしましょう。狭間! マシュ! 黒鋼!」

 

 考えが纏まったのか分からないが、彼女のいきなりの号令に驚きながらも、とりあえず俺たち三人は一列に並ぶ。綺麗な顔を台無しにする細い目つきで俺たちを睨んで来るが、俺には全く覚えがない。というか、俺はカルデアに所属してないので無関係なんだが。その辺りは理解してくれているのだろうか。

 

「その……。今回はお疲れ様でした。あなた達と、協力してくれたサーヴァント達の力がなければ、この事件は解決することができなかったでしょう。『人理継続保証機関 フィニス・カルデア』所長、オルガマリー・アニムスフィアが、あなた達の功績を称えます。お疲れ様でした」

 

 心底嫌そうな顔だけれど、最後まで言い切ったオルガマリーさんはそのまま顔を背けてしまった。一瞬何のことか理解できなかったが、狭間の腕輪から声が流れた。

 

《な、何だって!? 所長が正当に人を評価した!? どういうことなんだい!? 明日には槍でも降り注ぐのかな!?》

「………ロマニ。あなたには一度、キチンと話し合った方がいいみたいね……!! いいわ、貴方がそういう気なら、帰ったら特別に講義をしてあげるわ!」

《げぇ!? そ、それはないですよ所長! これでも結構頑張ってるんですからね僕!!》

 

 目の前で行われる他愛のない会話を聞かされ、どうやら何も変わったことが起こっているわけでもないということを俺は理解した。安堵のため息を漏らすと同時に、俺はふと気づいてしまった。

 セイバー・オルタを倒し、聖杯を回収して帰還しようとその時。彼女に身に降り注ぐ災いのことを。俺がそれを思い出すのと、それが現れたのは同時だった。

 

 

 

 

 

「はっ。まさか、君たちのような人間がここまで生き残るとはな。下等な君たちでも、やればできるということか」

 

 

 

 

 

 空洞内に響く新たな声。低い男性の声はこちらを賞賛している様に聞こえるが、隠しきれない侮蔑の声が混じっている。声がした方、大空洞の中央にある大釜。大聖杯へ至る崖の上に緑を基調とした上品なコートを着た男性が立っていた。

 この世界ではまだ会ったことが無かったが、俺は彼が誰なのかは知っている。レイシフトを行うためのパーツの一つを完成された天才であり、これから先の戦いで敵となる男。

 

「レフ!? 生きてたのねレフ!!」

《レフ教授だって!? マシュ、そこにレフ教授が本当にいるのかい!?》

「は、はい。でも、何でしょうか。何となくですが、今の彼は近づいてはいけない気がしてなりません……!!」

 

 レフの登場に歓喜するオルガマリーさんを除いて、俺を含む四人はレフを警戒する。ブーディカさんでさえ、鞘に仕舞った剣を抜刀する。

 

「レフ! 良かった、本当に良かった!! 生きてたのね!!」

「ああ。生きていたともオルガ。私も驚いたよ。まさか君まで生きてたなんてね。まったく、本当にどうしてーーー」

 

 一度言葉切ったレフが、閉じていた目を開き嘲笑を浮かべる。鋭く尖った歯と殺意がこちらに向けて放たれ、男の声が大空洞内に響き渡る。

 

「どうして決められた、与えられた運命に抗うのだ。本来ならば、レイシフトなど起こる前にこの案件は終わっていたといのに! いや、一番気がかりなのは君だよオルガ!!」

「え………? ちょ、ちょっと。それ、どういう意味なの………?」

「言葉通りの意味さ! 君がこの場にいることがイレギュラーなのさ! 何故なら!! 君の足元に爆弾を用意したんだからなァ!」

 

 とても楽しそうに高笑いをするレフ。その言葉を聞いたオルガマリーさんの表情が凍り、意味がわからないと言わんばかりに無表情になる。その表情が愉快だったのか、より一層笑みを深くしてレフは彼女を嘲笑った。

 

「疑問を感じなかったのかい? マスター適性もレイシフトの適性を持たない君が何故ここにいるのか。簡単な話だよ。あの爆発で君の体は木っ端微塵に弾け飛んだ。けれど『シバ』が優秀すぎたのようだ。死んでいく君の精神からアバターを作り出し、君をこの冬木という名の特異点に招待した。良かったじゃないか? 君が喉から手が出るほど欲していた適性を、最期に獲得できたのだからなァ!」

「う、嘘よ………嘘。そんなの嘘よ!! 私が死んだ!? そ、そんなこと信じられるわけないでしょう!?」

 

 告げられた真実を否定したくて、オルガマリーさんは手に持った聖杯を投げ捨ててまでヒステリックに叫ぶ。それを目の当たりにした俺は、拳を強く握りしめていた。悔しかった。今までは第三者の視点で見て来たけれど、当事者となって浮かんだ感情は一つ。ただただ悔しかった。展開を知っているのにそれを妨害できない無力さに嫌気がさした。

 

「ーーーさて。一通り笑ったあとだ。そろそろ仕事を果たさせてもらうとしよう」

 

 レフが聖杯に指を向けると、杯は意志を持っているかのように彼の手に収まった。直後、大空洞の中央の空間が捻れ始める。捻じれは徐々に強くなり、ぽっかりと穴が空いた先には別の光景が広がっていた。真っ赤な地球を覆うように動き回る観測器具。おそらく、カルデアの空間に繋がったのだ。

 

「こことカルデアの空間の一部を繋げた。オルガ、優秀な君ならこのカルデアスがどういう状況を意味しているのか、よ~く理解できるだろう?」

 

 下卑た笑みでオルガマリーさんを嘲笑うレフ。深紅に染まった球体、ここより未来の人理を観測する疑似地球環境モデル・『カルデアス』を見たオルガマリーさんはその場で崩れ落ちた。 

 

「な、何よこれ。わ、私のカルデアスが真っ赤に……!? こ、これじゃあ人類はもうーーー」

「そうだ。既に貴様ら人類は滅んでいる。無駄だったんだよオルガ。君がしてきたことも。努力も。研鑽も。何かもがね。何よりーーー君の存在自体がな」

 

 悪魔だ。ここにいて、オルガマリーさんを貶めているこの男を表すのなら、悪魔という言葉が相応しい。いや、どこぞの道化師よりエグい言の刃で刺しているから、それを超えているのかもしれない。突きつけられた現実を受け入れてしまったのか、顔を俯かせる。直後、彼女の体が浮かび上がり、真紅に染まってカルデアスに向かって引き寄せられる。

 

「せめてもの慈悲だ。最期の相手は君の宝物にしてあげよう。カルデアスは次元が異なる領域に存在する高密度の情報体だ。人間風情が触れれば分子レベルで解体されるだろう。ーーーー生きながらにして、無限の地獄を味わうがいい」

 

 冷酷に、残酷にそう告げられてもオルガマリーさんは何も反応しない。人形のようにただ引っ張られ続ける。泣き喚くこともせず、助かろうと足掻くわけでもなく。ただただ、自分に与えられた運命に従おうとしている。そんなことを目の前で見せつけられて、黙っていられるほど、俺は非人間ではないーーーー!

 

 

 俺は考えもなしに走り出した。引き寄せられているオルガマリーさんの腰を思いっきり捕まえて、足に力を入れてその場で踏ん張る。すると、ほんの少しだけだが、引き寄せられる勢いが弱くなる。それを見たと同時に、俺は後ろに三人に話しかける。

 

「おいお前ら!! 早くこっちに来て手伝え! オルガマリーさんを死なせたいのか!!」

 

 俺の怒号に驚きながらも、三人とも俺が何をしているのかを察してくれた。ブーディカさんを先頭にして俺の腰を掴み、この場にいる四人総出で彼女を生かそうと努力する。すると、俺の耳に力のない声が聞こえた。

 

「どう、して。もう死んでる私にそんなことするのよ。無駄。時間も努力も無駄なのよ。もうすぐ消えるんだから、最期くらい静かに」

「そんなことさせるかよ! もう嫌なんだよ! 目の前で勝手に諦めて人が死んでいくのを見ていくのは! 俺の勝手な自己満足だ! 黙って助けられてろ!!」

 

 ここに来て怒った俺を見て驚いたのだろう。オルガマリーが目を見開いて両端から涙を零した。女性を泣かせてしまったと後悔しそうになったが、何も悪いことはしてないので謝らなくていいと思い直す。

 

「あんたの努力が無駄!? ンこと知るか! けどなぁ! あんたがこっちで必死に何とかしようと努力してたのは知ってるんだ! 努力して頑張ったあんたが! こんな勝手に死んでいいはずがないだろうが!」

「そうです! 所長はカルデアに必要な人なんです! こんなところで死なないでください!!」

 

 俺とマシュが互いに叫びながら引っ張る力を強める。だが、現実はそう簡単に人を救えない。四人で必死になって釣り合っていたはずの引っ張り合いだが、徐々にこちらが引き寄せられ始めたのだ。ふと上を見れば、怒りと尖った歯を剥き出しにしながら、レフが怒りを露わにしていた。

 

「そうだ。忘れかけていたよ黒鋼研砥! オルガもそうだったが、君が一番のイレギュラーだ!! カルデアに所属せずレイシフトを行ってこの場に現れ、あまつさえサーヴァント召喚しこの特異点を解決に導いた!! 不穏分子は消すに限る。その場で、オルガ共々消え去るがいい!!」

 

 レフの持つ聖杯が禍々しい色の光を放つ。直後、オルガマリーを引き寄せる力が更に強くなり、助けようとしているこっちも引き摺り込まれそうになる。それでも、誰一人として文句を言わず、その場で彼女を助けようと力を緩めない。たとえ諸共に死に至ろうとも、オルガマリーを救おうと必死に足掻き続けている。

 

「……黒鋼。一つだけ、この場を切り抜ける方法があるわ」

「本当か!? それはいった」

 

 耳打ちされた彼女の言葉を聞こうと首を寄せた直後、顎にとてつもない衝撃が響く。顎を揺らされたせいで頭が混乱し、腰に回していた腕が解ける。足にも力が入らなくなり、俺たち四人はその場でドミノ倒しのように崩れ落ちた。

 

「な、にを………」

「ここまでで十分よ。ありがとうね、助からない私なんかを救おうとしてくれたこと。素直に嬉しかったわ」

 

 首を回して顔をこちらに見せるオルガマリー。その顔は悲しみに満ちていたが、何かを決意した表情だった。空気を有る限り吸って、彼女はそれを怒声として吐き出す。

 

「すぅ………ロマニ・アーキマン!!」

《は、はい!! 何でしょうか!?》

「『人理継続保証機関 フィニス・カルデア』が所長、オルガマリー・アニムスフィアが命じます! 最後の所長命令(・・・・・・・)よ。今を持って、カルデアにおける最高責任者に貴方を任命します! カルデアにある全てを使って、2017年から先の未来を取り戻しなさい!!」

 

 最後までそう言いながら、オルガマリーさんの体がカルデアスに吸い込まれて行く。けれど、その表情も声には恐怖を感じさせなかった。カルデアスに触れる直前、自分が死ぬその間際に気丈に上を向いた。

 

「レフ! いつか、いつか必ず後悔させてあげるわ!! カルデアを裏切ったこと、絶対にね!!」

「下等な人間風情がーーーー消えろ!!」

 

 自分の想い通りにならなかったのかイラついたのか、レフが声を荒げて怒る。それと同時に、オルガマリーの体がカルデアスに触れた。想像を絶する痛みがあっただろう。けれど、彼女は最後まで泣き叫びもせず、そのままカルデアスに吸い込まれていった。

 

 

 この時、オルガマリー・アニムスフィアは消滅した。けれど、正史とは違い、彼女のその意思は後に残された者たちに引き継がれた。それはきっと、彼女にとって幸せなことなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

次回で冬木編も終わりです。長かった。一年かかって序章が終わるなんて。第1部が終わるまで何年掛かることやら……。まぁ、これからも頑張っていきますので、感想や誤字脱字などの指摘をお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。