p.s この話を書き始めたのは7月の始めです。なので「今さら何言ってんだこいつ?」的な指摘はやめてください。
始まりの日
「・・・・・・退屈だ。ああ本当に退屈だ。夏休みという素晴らしい長期休暇だというのに、何故学校なんぞに行かねばならんのだ」
高校生3学年。(一応)進学という進路を選択してしまった俺、
高校の友達には携帯じゃないから学校でも使える、と羨ましそうに見られたが、携帯電話と違って
「・・・やっぱり遅いな。早く区間準急でもいいから、電車来ねぇかな。途中で降りてコンビニに行きたいんだが」
あそこなら無料Wi-Fiが置いてある。おにぎりと水でも買って、次の電車が来るのを待つ間Wi-Fiを使いたい。できる限りなら今すぐにでも。俺が今すぐにでも
「第五章でマシュが血を吐いて倒れるとこからスタートだからなぁ。オープニングだけ見たら病室育ちなのは分かってたけど、デミ・サーヴァント化したマシュがそう簡単に倒れそうにないけど……まぁ、作者があの
電車来るまでの間、最新章の展開に想像を膨らませる。けれど忘れてはいけない。確かに第六章でのキャラクターも魅力的だが、その後には水着を着たキャラクター達が登場するということを!!
「やっぱり前作のことを考えたら
ちなみに俺は無課金勢だ。正月に一回課金ガチャを回したが、それ以降は一回も課金していない。ええしていませんとも。
「・・・にしても、あの
ipod touchの待ち受けにしている女性のサーヴァント。ネットや友達から言わせればイラストと声だけが良いと言われているキャラクター。だが、俺個人としてはそうとも思えなかった。言ってしまえば一目惚れだ。【Fate/EXTRA】で玉藻の前やネロを見たレベルでの一目惚れ。だから、主力の5人を育ててからは、彼女のレベル、強化素材、スキルを中心に育てた。周りから異常だと言われたが、そんなことはどうでもいい。
「ーーーと、やっと電車が来たか。ったく遅いっての」
ゆっくりとホームにやってきた電車。通用口が開き、その中に入ってすぐ近くの座席に座る。前向きに座るタイプなので、隣の座席に荷物を置いて、バッグから学校の図書室で借りたライトノベルを取り出す。だが、何の因果か、手元が狂ってしまい本を落としてしまう。そのことに少し嘆息しつつも、本を取ろうと手を伸ばす。すると、誰かがその本を拾った。
「あ、すいません。ありがとうございます」
拾った本を無言で手渡ししてくる人に、礼を言って本を受け取る。落としたせいで汚れてしまった本の背を軽く叩くと、本を渡した人が電車を降りた。
「――――君は、運命を信じるか?」
「え?」
男性が去り際にたった一言。けれど心に残る一言を残して電車を降りるのと同時に、扉がゆっくりと閉まる。何事も無かったかのように電車は走り出し、駅のホームを走り去っていく。
「……何だったんだーーーーん?」
さっきの男性の言葉に疑問を持っていると、何か光る物が目に映った。何かと思って拾い上げてみると、虹色の綺麗な光を放つ袋が落ちている。さっきの男性が落としていったのだろうか。
「何にしても、不用心で不思議な人だったな………次の駅で駅長さんに預けておくか」
袋の口を握り、今度こそ席に着く。イヤホンから流れる音楽を聴きながら、学校の図書館で借りた新作を読破する。1ページを1ページを読み込み、頭の中でキャラクターがどのように話しているのか。行動しているのかを想像する。
「―――マジか。ここでこいつがやって来るのか」
読んでいる小説のまさかの展開に驚きを隠せず、俺は言葉を漏らした。かつて主人公達が壊滅させた組織の頭が、新たに仲間を2、3万人ほど連れてやってくるという、考えもしなかった展開に内心で驚愕するも、作者の話の展開の上手さに感動する。自作のブログで書いたという小説だが、ここまでやって趣味の領域なら、それはもうそういう分野の天才ではないだろうか。
「一度でもいいから、俺もこういう話を書いてみてぇなぁ…………」
これでも、仮にも文芸部という小説に関する部活に所属しているのだ。やはり、こういった有名な作品を手掛けている作家や、脚本家に憧れるという思いはある。でも、受験生である今の自分が、それをできるとは到底思えない。そうこうしていると、電車の周りが一気に暗くなった。トンネルにでも入ったのだろうか。そう思ったが、俺の乗っている電車、もとい線路にはトンネルは無い。そのことに気付くのと、トンネルを通過したのは同時だった。
「―――――なんだ、こりゃ………………!?」
トンネルを超えた先、自分の目に映ったものに驚愕する。そして、これはありえないと否定する。だが、どれだけ目を疑っても、否定しても、目に映る物が変わる様子はない。
「なんで辺り一面焼け野原なんだよ!?なぁそうだっ!?」
トンネルの先に広がる業火。轟轟と燃え盛る炎を見て、電車に乗っている他の乗客にも賛同してもらおうとしたが、乗っている車両には誰もいなかった。まさかと思いながらも、今いる車両から、先頭車両まで一気に走り抜ける。乗っている人は自分以外に存在せず、先頭の運転席には運転手さえいない。にも拘らず、電車は自動で動き続けている。
「これじゃゴーストタウンでかつゴーストトレインじゃねぇか……つーか、この場所って、まさかとは思うが………」
俺の持っている疑念を晴らそうと、手元にある携帯電話を取り出すが、アンテナに表示されるのは現在の時刻と、バッテリーの残量。そして、ここが圏外であるということだけだった。これでは、地図を展開することもできない。どうする、と考えていると、電車がひとりでに減速し始めた。ゆっくりと駅のホームに入り、完全に停止すると扉が開く。
「……………………行くしかないか」
完全に誘われている。何かが原因でこんなところに紛れ込んでしまったようだが、ここがまだ
「流石に暑いな……。駅の外に出た訳でもないのにこの暑さなら、出た瞬間に焼け死ぬな………」
電車の中にいたからまだマシだったが、外に出た瞬間襲って来る熱風にうんざりしながらも、ゆっくりと駅名を確認する。そこに記されていた二文字の漢字を見て、軽く絶望しかけた。
「冬木駅…………マジか。やっぱりここはあの冬木市なのか………?」
冬木市。【Fate/stay night】という、Fateという作品を代表するゲームの舞台となった都市。勿論、現実には元となった都市があるだけで、実際には存在しない架空の町だ。7人の魔術師が、7騎の
しかし、その求めている聖杯は3回目の聖杯戦争の際に汚されてしまい、役に立たない所か災厄を振りかざすものに成り下がってしまっている。それを主人公と、それに仕える英霊が聖杯を破壊するという物語………だったはずだ。もとは18禁ゲームだったけどな。
「にしてもこの炎に包まれた町………これやっぱり【stay night】より【zero】に近いと思うんだがな…」
5回目の聖杯戦争が【stay night】。その前回、4回目の聖杯戦争を題材にしたのが【Fate/zero】だ。4回目の聖杯戦争の最後に、聖杯が街を焼き尽くした光景によく似ている。ほんっとうに、胸糞悪いったらありゃしない。
「というか暑い。暑すぎる………焼ける溶ける灰になって消滅するぅ……」
このまま駅で待っていても仕方がない。ここに来る前に通ったトンネルまで一度歩いたが、何故かトンネルの先が壁で塞がっていて、一駅前に戻れなかった。再びホームまで戻るが、やはり人の気配がない。どうしてもどうやっても進展がない。暑さのせいで体力だけが減っていく。
「あのゴーストタウンを歩き回るか?いや、何の対策もなしに歩き回ればそれこそ自殺行為だ。……どうしたものやら………?」
駅の待合室に腰をかけて、これからの事について考える。このまま何の展開もなしに町にいても犬死にするだけ。ならば、どこかにこの町を出る場所があるはずだ。山越えでも何でもいい。とにかく、このまま町にいるのだけは絶対に良くない。
「そうとなれば善は急げだな。とりあえず、この駅から出て………!?」
自分の足を駅の改札口に向けた時だった。突然足元に何かが突き刺さったのだ。驚きのあまり足を踏み外し、頭から地面に倒れてしまう。その痛みに皺を寄せるが、地面に突き刺さった何かをじっと見る。細長いナイフの様な形をしたそれを見た時、俺は考えることをやめて一心不乱に走り始める。それも、できる限り直線ではなくじくざくに移動する。
(聖杯戦争であんな武器を使ってるのは一人しかいない!!というか
どこぞのカードゲームでのセリフを言う位には冷静さが戻っている俺だが、とにかくひたすら走り続けることはやめない。あのナイフを使う
それも、【Zero】でこの炎の町でアサシンが生きているはずがない。ならば、この炎の町の正体は、一つしかない。
「はぁはぁはぁはぁ――――!!ふざけんな。そんな事があって溜まるか―――――――!!」
ここが最も新しい【Fate】シリーズの舞台、【Grand Order】の世界だと断定する。いや断定してしまう。断定できてしまう。自分の考えている事を否定するように、走る足のギアを上げる。ようやく改札口にたどり着く。無人の廃墟となった駅の柵を、鍛えた脚力に物を言わせて飛び越える。その後はローリングで衝撃を和らげ、起き上がって再び走りだす。まだお前を狙っていると言わんばかりに、さっきまで俺がいた場所をなぞるようにナイフが飛来する。走り続けないと刺さるようにわざと緩急を付けながら。
「はぁはぁはぁ!!くっそ、ふざけやが―――――――ッ!!」
自分の置かれている状況に文句を言おうとすると、右腕に何か異物が入ったのを感じ、同時にそこが焼けるような痛みが迸る。それに怯んだ隙に今度は左腕に。続けて右足左足とナイフが突き刺さる。
「ガッ―――――――!!あぁ――――――!!」
声のない叫びが駅内に木霊する。四肢のそれぞれに突き刺さるナイフを引き抜こうとするも、少しでも力んだ瞬間に痛みが奔る。余りの激痛に意識が飛びそうになる。いや、意識が飛べば良かったのだ。そうすれば、これ以上の恐怖を感じる必要は無いのだから。
「ナンダ。モウ終ワリカ?久々ノ狩リダ、モウ少シ楽シミタカッタノダガ」
突然の駅内に響き渡る足音。そして、突然現れる影の様な存在。あの戦いで
「何故コノヨウナ場ニ、貴様ノ様ナ一般人ガ混ジッテイルノハ不可解ダガ………何、殺シテシマエバ何ノ問題モアルマイ」
アサシンが何かを言っている。だが、痛みに苛まれている俺には何も聞こえないし、どうすればいいのかも考えることができない。俺の目が見ているのはただ一点、彼の握っているナイフしか見ていないのだから。
「マア良イ、コノママ、己ノ不運ヲ呪ッテ死ヌガイイ」
アサシンが詰まらなさそうに呟きながらナイフを振るう。ハンバーグを切るためのナイフの様に、料理をするために食材を切るように。何の躊躇いもなくナイフが振るわれる。このまま、ナイフが俺の体を切り裂き、切られた場所によっては即死する。
(俺が……死ぬ?こんな、簡単に?あっさりと………?)
自分へと迫るナイフを見ながら、俺はそんなことを考えていた。こんな、訳の分からない世界に突然やって来て、何のフラグも立てて無いのにも関わらず、このままさっくり死ねと。それはあまりにも残酷すぎやしないだろうか。そこまで考えて、俺はふとあの男性の言葉を思い出した。本を拾ってくれただけの見知らぬ人。
――――――君は、運命を信じるか?
(―――いいや。いいや!!俺は、絶対に信じやしない!!こんな、こんな簡単に人が死ぬ運命なんて間違ってる!!俺はもっと生きたいんだ!!そのためだったら――――――)
――――――――運命だって変えてやるッ!!!!
「ウォッ――――――!?コレハ――――――――!?」
心の内に決意した時、突如として虹色の光が俺の中心に広がった。さっきまで暗い駅が、その輝きによって照らされる。いかに夜目が利いている暗殺者でも、いきなり照らされば目に堪えるのだろう。アサシンが一歩、また一歩と後退する。
「………素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ――――――」
頭の中に流れてくる呪文。普段なら自室でしかしない
「
「コレハ、マサカ!?サセン!!」
アサシンが俺の行おうとしている事を察したのだろう。手に持っていたナイフと、体のどこかに潜ませていたナイフを投擲する。だが、それは俺の体を覆う見えない幕が弾く。
「バ、バカナ!?」
「――――セット。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ―――」
駅内を照らしていた光が形を変え、美しい三本の虹色の輪へと変化する。その輪の中心から光の柱が沸き立ち、人の体を形作っていく。それを脳裏でイメージしながら、目を見開く。
「誓いを此処に!!我は常世総ての善と成る者!!我は常世総ての悪を敷く者!!汝三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ――――――天秤の守り手よ―――!!!」
虹色の輪が収束する。それがきっかけとなって光の柱も消滅を始める。その光の中から現れた者に、俺は一瞬だが心を奪われた。
―――――――深紅に輝く長い髪。
―――――――森や林の様な深緑の色をした瞳。
―――――――そして、両手にそれぞれに握られた剣と盾
「サーヴァント・ライダー。ブーディカだよ。召喚に応じて現れたんだけど………君が、私の
――――――
その答えを知る者はまだいない―――――――――――
という訳で始まりました人生初の【Fate/】作品!明日には酷評の嵐がやってくるな……
ついでに台風もやってくるな!!(大阪在住感)