昴side
何なんだ…盗品蔵にエルザがそのうちやってくるであろう事はなんとなく予想はしていた。けど、まさか怪物が3体出てきて、紘汰が何ていうか仮面ライダーみたいなのになるなんて…。しかも、見た感じオレンジの鎧武者?だな。それを見てさすがのエルザも固まってるな。
「はあぁぁあ!!」
紘汰はスライスしたオレンジのような見た目の刀を使って、3体の怪物に1撃、2撃、3撃…と相手の攻撃を見切りながらダメージを与えていく。
「これでとどめだ!!」
早く終わらせたいのかそう言うと、ベルトの小さい刀のようなものを1回下ろす。
『ソイヤ!オレンジスカッシュ!!』
そんな機械音が聞こえてきた。すると、オレンジのような刀が光り始め、紘汰は怪物1体1体に1太刀浴びせる。攻撃を受けた怪物達は爆発し跡形もなくなってしまった。
「ふぅ…さて、次はあんたか?きれーなおねーさん?」
「……あははははは!!面白い!面白いわあなた!あ〜ぁ…あなたのお腹割りたくなってきたわ」
…こいつはヤバい、完全に狂ってる…今、目の前で2人が戦っているけどエルザが押している…。このままじゃまた失敗ルートだ…どうしたら、どうすればクリアルートにたどり着けるんだ…
「ここからは僕の仕事だから交代してもらえないかい?───紘汰」
腰に剣を携える赤髪の青年───ラインハルトがこれでもかと言うほどのタイミングで現れた。
「ラインハルト…分かった後は頼んだぜ!」
そう言うと紘汰は変身を解除して俺たちの元へやって来た。
「昴、大丈夫か?」
「あ、あぁ…大丈夫だ」
偽サテラの方を見ると、パックはもう消えたようで何が起きたか分からないような顔をしていた。話しかけようとすると、ラインハルトとエルザが戦いはじめた。
「──しっ」
エルザがラインハルトの首を目掛けてククリナイフを奮ったが、ラインハルトは防御、回避をする素振りを全く見せずそこに立っていた。あわや、その首が飛ぶイメージが頭をよぎった。だが、
「女性相手にあまり乱暴はしたくないんですが……」
心なしか声のトーンを落として、ラインハルトは紳士的に前置き。
「───失礼」
踏み込みだけで床が破裂し、衝撃波が発生するほどの蹴りがエルザを吹き飛ばしていた。その余波が昴、紘汰達にまで襲いかかった。
「ラインハルトすげぇ強いな!な、昴!」
「あ、あぁ…そうだな」
それだけを言い、戦いに目を向けた。
「噂通り……いえ、噂以上の存在なのね、あなたは」
「ご期待にそえるかどうか」
「その腰の剣は使わないのかしら。伝説の切れ味、味わってみたいのだけれど」
エルザはラインハルトの剣を指差し、本気の彼との対面を望んだが、その希望に首を振る。
「この剣は抜くべきとき以外は抜けないようになっている。鞘から刀身が出ていないということは、その時ではないということです。」
「安く見られてしまったものだわ」
「僕個人としては困らせれる判断ですよ。ですから──」
すぐそこに落ちていた古びた両手剣を足で跳ねあげて、確かめるように軽く振った。
「こちらでお相手させてもらいます。ご不満ですか?」
「──いいえ、ああ、素敵。素敵だわ。楽しませてちょうだい、ね!」
そして、再び戦いが始まった。その間、ロム爺を偽サテラが治療をし終わるとラインハルトに声を掛けた。
「ラインハルト!なんかよくわかんねぇけど、やっちまえ!」
ちらりと視線だけで振り返り昴と視線を合わせるとかすかに顎を引いて応える。
「───何を見せてくれるの?」
「アストレア家の剣撃を───」
直後、空間が歪むような感覚が盗品蔵の中を支配した。
「は?」
視界に入る大気が歪み、心なしか部屋の明るさが1段階失われたように感じ、偽サテラとパックの氷結魔法の連続で低下していた気温がさらに下がる。原因は十中八九、ラインハルトだろう。
部屋の中央でラインハルトが両手剣を低い姿勢で構える。いや、構え自体はずっと取っていたはずだ。そのはずなんだが、‘’初めて剣を構えた‘’と呼ぶのにふさわしいと肌で感じ取った。
「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」
「──『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」
凄まじい剣気が室内を押し包み、向かい合う2人の戦意が大気を震わせる。
2人が剣を振るうと、極光が盗品蔵を引き裂き、空間ごと真っ二つに切り裂いた。ずれた空間が元に戻ろうと収束をはじめ、大気が歪曲するほどの余波が部屋の中を暴風となって荒れ狂う。
この原因もまた『剣聖』ラインハルトのせいだというのはすぐに分かった。
「おいおい、化け物じみてんぞラインハルト…」
「はは…それはさすがに僕も傷付くよ、スバル」
苦笑いしながら破壊の原因、ラインハルトは振り向いて言った。赤い頭髪は乱れ、さすがの涼しい顔にも汗が浮んでいる。そして彼の手の中の両手剣は───、
「無理をさせてしまったね。ゆっくり、おやすみ」
粗末な作りの両手剣はラインハルトの1撃に耐えられず、崩壊してしていった。同じくそこら辺一帯の建物を軒並み崩壊させ、今にも建物が崩れそうになっている。
エルザの立っているはずの場所は、当然斬撃の範囲内であり、黒衣の長身の姿はどこにもない。
「でもこれで……」
緊張でかちこちに固まった体を伸ばし、昴は大きく息を吐いた。そしてどうにも実感を得ていなかった事実を確かめるように、隣の存在を思う。
昴の隣にいる銀髪の少女───偽サテラは少し浅い呼吸を繰返しながらも、昴の目線に気付くと紫紺の瞳をこちらに合わせた。
「無事に終わったの?」
「ああ、ホントの意味でどうにな」
弱々しい問いかけに答えて、昴は立ち上がろうとする少女を支える。立ち上がった少女は己の銀髪を梳き、まだ頼りない足で昴の庇護を離れた。
「大丈夫か?」
「えぇ…何とか大丈夫よ。ありがとう」
「こちらこそ」
そんな会話を軽くして、
「そういや、紘汰、ラインハルト。まだ2人に礼を言ってなかった。2人ともマジで助かった。ありがとう」
「おう!気にすんな、友達助けるためだから」
「そうだね、友達助けるためだから。でもお礼は僕達だけじゃなくて彼女にも言った方がいいよ」
ラインハルトはその彼女の方に視線を向ける。
「フェルト…」
「な、なんだよ…べ、別に兄ちゃん達の為なんかじゃねぇからな!」
「そうか…でもありがとな」
そして、紘汰も
「フェルトありがとな!おかげで助かったぜ」
「…っ!う、うるせー!兄ちゃん達の為じゃねぇって言ってるだろ!」
「それでもだ。ありがとな──フェルト」
そう言いながら紘汰はフェルトの頭を撫でる。
「なんだよ!やめろよコウタ…!///」
おぉ…デレフェルト、かーいーかーいー。そんなことを思いつつ、再び偽サテラの方に視線を向ける。やっと助けることが出来た、と。今までの疲れで床に座ろうと腰を下ろす───
「───コウタ!スバル!」
ふいにこちらを振り向いたラインハルトの叫びに、まだ完全に終わっていなかったことを悟る。
「───ッ!!」
廃材が跳ね上げられ、その下から黒い影が出現する。その影は黒髪を踊らせて、血を滴らせながらも力強く足を踏み出し、加速を得る。ひっしゃげたククリナイフを強く握りしめ、無言で疾走するのは流血するエルザだ。
「てめぇ───ッ!」
あんなに苛烈な斬撃を掻い潜り、命を拾った殺人者の目には漆黒が宿っている。今までで1番の殺気を放っていた。接触までのわずかな数秒、その間に昴の思考はめまぐるしく回転する。
一瞬の邂逅。ラインハルトは間に合わない。紘汰は───もうすでに動き出していた。
紘汰は、誰よりもいち早く動き出し、床に落ちていたロム爺の棍棒を拾い偽サテラの前に立った。
「紘汰!狙いは腹だ!!」
「おう!」
俺の言葉を聞いて反射的に棍棒を腹の上に持って来てガード───衝撃。
見た感じでは斬撃というより、打撃に近い攻撃だったように思えた。紘汰は衝撃を受け、吹き飛び回転していた。しかし、そのまま床に着地をする。
「ナイスだ、昴!」
紘汰がサムズアップをしてきたから、俺もつられて同じことをした。
「この子達はまた邪魔を───」
吹き飛んだ紘汰を見ながら、エルザが悔しげに舌を鳴らす。
「そこまでだ、エルザ!」
ラインハルトが駆け寄るとエルザは手の中の酷く歪んだククリナイフを牽制の意味で投げつけた。
「いずれ、この場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい、腸を可愛がっておいて」
廃材を足場にし、跳躍してどこかへ消えていった。さすがにラインハルトも追うことはしないようだ。
エルザがいなくなったのを確認すると、ラインハルトが銀髪の少女に話しかける。
「ご無事ですか──」
「私のことはどうでもいいでしょう!?それより……」
偽サテラはふらつく足を叱咤して壁際にいる紘汰のもとへ駆けた。
「ちょっと大丈夫!?無茶しすぎよっ」
「大丈夫だよ、運動神経には自信あるし昴が相手の狙う位置を教えてくれたしね」
「そう…良かった…」
昴も紘汰のもとに行き、心配そうに見つめる。見た感じ本当に大丈夫そうだった。
「今度はもう、完璧に終わったんだよなぁ…」
そうだ!と何かを思い出したかのように偽サテラの方を向き、視線を合わせる。急に黙り込んだ昴に少女は何か言いたげな顔をする。
しかし、少女が口を開くより先に、昴は左手を腰に当て、右手を天に向けて伸ばし、驚く周りの視線を完全に意識から外して高らかに声を上げる。
「俺の名前は菜月 昴!そして」
そう言いながら紘汰の方を向く。
「え?俺?あ、えーと俺は葛葉 紘汰。よろしくね」
「俺たち2人に言いたいこと聞きたいことたくさんあると思うけどそれは後回しにして聞こう!」
「な、なによ…」
「俺達は、君を凶刃から守り抜いた命の恩人!ここまでオーケー!?」
「お、おーけー」
よく分からないまま応える銀髪の少女。
「命の恩人、俺達。そしてヒロインは君。それなら相応の礼があってもいいんじゃないか?ないかな!?」
「わかってるわよ…。わたしにできることなら、っていう条件付きだけど」
「なぁらぁ、俺の願いはオンリーワン、ただ1個だ」
指を1本だけ立てて突きつけそう言った。
「俺の願いは───」
「うん」
歯を光らせ、指を鳴らして、キメ顔で
「───君の名前を教えてほしい」
呆気に取られたような顔で、少女の紫紺の瞳が見開かれた。しばしの沈黙が流れる。昴の眼差しは揺れず、ただ真っ直ぐに目の前に立つ銀色の少女のことだけを見つめている。そして、
「ふふっ」
口元に手を当てて、白い頬を紅潮させ、銀髪を揺らしながら少女が笑った。それはただ純粋に、楽しいから笑った。それだけの微笑み。
「───エミリア」
「え……」
笑い声に続いて伝えられた単語に、昴は小さな吐息だけを漏らす。彼女はそんな昴の反応に姿勢を正し、唇に指を当てながら悪戯っぽく笑い、
「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル」
「私を助けてくれて」と彼女は手を差し出した。
その差し出された白い手を見下ろし、おずおずとその手に触れる。指は細く、小さい掌。そして華奢でとても温かい、血の通う女の子の手であった。
──助けてくれてありがとう。
そう言いたいのは彼女だけではない、昴の方だった。昴の方が先に彼女から恩を受けていた。だからこれは、その恩が3回命を落として返せただけのこと。
あれだけ傷ついて、嘆いて、痛いを思いをして、得た報酬は彼女の名前と笑顔1つ。ああ、なんと───。
「まったく、わりに合わねぇ」
そう言いながら昴もまた笑い、固くエミリアの手を握り返したのだった。
そして次は───
「コウタには何かできることはあるかしら」
と、紘汰に話しかける。
「ん?俺か…俺は…」
長考タイムに入った。約3分ぐらいの長さだった。
「そうだな…そろそろ俺、ヤバい状態になるかもだから助けてほしいな。ははは…」
一同が何を言っているのかよく分からなかったがすぐに理解することになる。
───紘汰の腹から血が吹き出してきたのだ。
「やっぱりか…まぁ…あとはよろしく頼む…」
そう言ってバタリとその場に倒れた。
「え…ちょ、コウタ!?」
エミリアが、ラインハルトが、フェルトが紘汰のそばに近寄り顔を覗いている。でも、俺は顔を見に行けなかった。それが何でなのかは自分でも分からなかった。
〜1巻END〜
やっと書き終わった…しかも多分今まででいちばん長い5000文字近く。頑張った、うん。1巻分は終わったので次は、ついに、あのメイド姉妹とドリルロリ、変人(笑)のところだぁぁぁぁ!!テンションあがってきたぜ!!
次も頑張ります!