紘汰side
俺と昴は、ラインハルトと少し話をして別れた。
昴は、これから偽サテラという女の子を探すらしくて、今、俺達は情報収集の為に顔に傷の入った店主が経営している果物屋に来ている。そして、昴がここの店主と知り合いらしいから話をしている。
「なぁ、オッチャン」
「なんだ、一文無し」
このオッチャンなかなかストレートだな…
「一文無しは事実だから否定はしねぇんだけどさ……オッチャン、このへんでスリ騒ぎとかなかった?」
「何も買わずに質問とかいい度胸してんな、お前」
「いや、わりぃ…」
「まぁ、そんな騒ぎなんざ珍しくもなんともねぇよ」
「「マジで!?」」
おっと、ついつい声に出てしまった。沢芽市は、ヘルヘイムの森による‘’理由のない悪意‘’によって色んな事件があったけど、この街は人間などによる‘’明確な悪意‘’によって色んな事件が起きてるんだな…こっちはこっちで難しい問題だな。
「それに、さっきの騒ぎは珍しく、通りで魔法が2、3発ぶっ放された。見ろ」
店主の指さした方に視線を向けると、露店の脇の路地に通じる壁に穴が穿たれていた。
「おお、スゲーな」
「氷柱が矢みたいに飛んで突き刺さった後だ。すぐに消えちまったがな」
その氷柱がもしも人に当たったりしたら、その人はもう…ダメだろう。
「紘汰。今からフェルトに会うことに目標を変える。盗品蔵に行こう」
「あぁ、わかった」
そして、俺達は店主に次来た時はちゃんと買い物をすると約束して、フェルトに会うために盗品蔵に走っていった。
紘汰sideout
* * *
昴side
「フェルトの奴のねぐらか。それなら、そこの通りを2本奥へ行ったところだ」
「ありがとよ。助かったぜ、兄弟」
「気にすんなよ、兄弟。───その、なんだ、強く生きろよ?」
こうしてフェルトのねぐらの情報は手にいれた。後は、フェルトに会って交渉するだけだ。そして、紘汰と教えてもらった道を歩いていくと、水溜りがあったから跳んで回避をした。そしたら、向こうから現れた人影とぶつかりそうになった。慌てて身をかわし、通りの壁に背中からぶつかる。紘汰は、その様子を見て笑っている。後でイタズラしよう、そうしよう。
「あら、ごめんなさい。大丈夫かしら?」
「大丈夫大丈夫。こう見えても丈夫なのが取り柄──っ!?」
見栄を張ろうと顔を上げ、相手を確認した昴の語尾がすっぽ抜け、顔が硬直する。そんな昴を見て、黒髪の女性は小さく笑う。
「楽しい子ね。本当に大丈夫?」
絶対に再開したくなかった。2度も俺の腸ぶちまけやがった相手───エルザが立っている。
「───そんなに恐がらなくても、何もしないのだけれど」
「こわ……恐がるとか、してねぇよ?何を根拠にそんなこと……」
「臭い……」
虚勢を張る素晴を無視し、エルザはその双眸を細める。
臭い?と首をひねる昴に、彼女はその形の良い鼻を小さく鳴らす。
「怖がってる時、その人からは恐がってる臭いがするものよ。あなたは今、恐がっている。……それから、私に対して怒ってもいるわね。」
楽しげにこちらの内心を暴露して、上目で見てくるエルザ。昴は無言の愛想笑いで応じながら、早鐘のような鼓動を殺そうと呼吸を深くする。
すると、エルザの目線は昴から紘汰へと向けられた。
「あら、あなたは何だか───私と少し同じ臭いがするわね。」
「…………」
その瞬間、紘汰の顔があからさまに硬直した。俺はその言葉の意味をまだ理解していなかった。よく考えれば分かるはずだったのに…
「まぁいいわあなた達とはまた会えそうな気がするわね。特に青色の服を着ているあなたとはまた会って話したいものね」
「そうだな、俺もだよ」
そう軽く会話をしてエルザは路地の闇に溶けていった。それを見届けた昴は疲労感を感じながら壁にもたれ掛かった。
「まさかここで会うとはな…」
「あの人がエルザか。何だか魔性?って感じだな」
そうだな。と返答し、フェルトのねぐらへと足を進めた。
その5分後、小汚いボロ屋に行き着いた。
「情報だとここだと思うんだが……ほんとにここに住んでんのか?」
何だかあんな小さい子がここで暮らしていると考えると不憫に感じる。あそこまで金に執着するのも仕方が無いと、許せる気がしてきた。
「こんな所で小さい体をちっちゃくして生きてるんだ。そりゃあ性根が曲がってもしょーがないな。可哀想に」
「そうだな、フェルトって子を見たことはないけど、それでもこれは可哀想だな」
「言い過ぎだろ、胸糞わりーな。人の寝床見て、どんだけなんだよ、兄ちゃん達」
と言われ、振り向くとジト目で昴と紘汰を睨みつける金髪の小柄な少女───フェルトがいた。
若干ながらフェルトの格好が薄く汚れて見えるのは、今回の逃走劇が熾烈を極めたからだろう。
「なんかすげぇ気の毒そーな顔されて腹立つけど、アタシになんか用か?兄ちゃん達、格好からしてここの住人じゃ無さそーだけど」
「お。俺達を同類扱いしないとは、見る目あるんだな」
「ここの連中でももうちょい身綺麗にしてるっつーの。特に目つきの悪い兄ちゃんは正直、うちの連中より小汚ぇよ。アタシ以上にな」
相変わらず、口の減らない小娘だと思っていると、
「でも、そこのすげぇ優しそうな兄ちゃんは何だか何とも言えねぇ感じがする。着てる服の背中の絵はカッケーけどな」
「お!分かるかフェルトちゃん!これチョーカッコイイよな!」
服を褒められたのが余程嬉しかったのか、フェルトの頭をぐしゃぐしゃに撫で回しだした。
「だー!止めろよ兄ちゃん!それにちゃん付けするな!」
と、暴れ出すが紘汰は全く気にせず、そのへんの石に座り、フェルトをその前に座らせ頭をまた撫で始める。
なんだか仲のいい兄妹みたいだな。微笑ましいぜ。
「ところで兄ちゃん達の要件は何なんだ?」
もう諦めて話を進めだした。でも、ちょっと顔が赤いなぁ〜このフェルト、チョー可愛いな!
「あぁ、俺達の要件は1つ。───お前が盗んだ徽章を、こちらで買い取りたい」
そろそろ紘汰くんを変身させたいですねぇ…まぁ次も頑張りますぜ〜
次は3話ですね!
ではまた!