ちなみに入学式は全カット。
入学式も滞りなく終わり、家に戻る。
平均よりも少し広めの家に住むのは、達也と深雪、そしてエネ。
帰ってきた達也は、エネのいる端末をディスプレイと接続した。
『いやーほんとこのディスプレイは広々としてますよね!端末だと自由に動けないんですよね!』
「明日からお前留守番な」
『ああごめんなさい謝りますからなんでもしますから許してくださいご主人!』
ディスプレイに現れたのは、青い癖毛に青いヘッドフォン、青い服と、全体的に青めの少女。両足の先はノイズのように欠け、頬には金具(本人曰く「鉄です」)が貼られている。この少女がエネ。数年前の夏、達也の元に現れた「電脳少女」である。ちなみにAAカップらしい。
『ご飯まで暇ですけど、何してればいいですかね?』
「コーヒーを淹れてくれると嬉しい。あと、ファイルの中にある魔法式の検査をしてくれ。ファイル名は『ProblemⅡ』だ」
『了解しました!』
この家の家電は全て、独立したネットワークで繋がっている。エネは電波回線を通してあらゆる場所に行けるので、この家は実質的に、エネが掌握していることになる。
人が触れていないのに、ホーム・オートメーション・ロボットが動き出す。エネが中から操作しているのだ。機械だからといって見下すことはできない。達也がパソコンの一つに入れてある、シミュレーションソフトの中で、エネはネットから見つけてきた技術を練習している。暇つぶしに。
豆を挽く音が響き、お湯が沸く。
「コーヒーです。妹さんの分も淹れておきました!」
運んできたのは、エネによく似た少女。否、カラーリング以外瓜二つだ。そして、人間ではない。達也たちの実家からプレゼントされた、アンドロイドだ。この家の回線に繋がっていて、エネは時々、この体に入って動いている。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「いえいえ。では、シミュレーションソフトでデバッグしてきますね」
隣の部屋にエネが消え、二人はコーヒーを飲む。反復練習のおかげか、とても美味しい。
飲み干した深雪が、カップを手に立ち上がる。
「では、お夕食のしたくをしますね」
達也は空のカップを深雪に預け、エネがいるであろうパソコンに向かう。こうして、彼ら家族の、いつも通りの夜が更けていった。
「……見たこともないファイルが追加されているんだが?」
『テヘペロです!』
「デリートするか」
『わああごめんなさいごめんなさい出来心だったんです!』
……いつも通りの夜である。