ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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新年、明けましておめでとうございます。
今年も何卒、146をよろしくお願いいたします。

新年一発目は年内に完結し損ねたコラボ編、最終決戦。コラボ相手のマスツリさんとあれやこれや足して盛ってした結果、前代未聞の文字数45000字でございます。

ここまで引っ張った善子と瞬樹。エルバの向かう先。ダブルの限定フォームも…?
3話分くらいのテンションを詰め込んでいるので、ゆっくりとお読みください。

ソニックサイドはこちらから!↓
https://syosetu.org/novel/91797/

今回も「ここすき」をよろしくお願いします!


コラボ編 第9話 この世界を救うのは誰か

生命とは一つの劇だ。憂鬱とはそれに対する批評だ。

憂鬱は人を生かさず、殺しもしない。ただ蝕んでいく。死ぬことすらも億劫にさせ、気付けば平坦な舞台の上で立つだけの人形に成り果てた。そこでは何も起きない。彼の人生は流れるように過ぎる無味のドラマだった。

 

舞台に素敵な配役が揃えば、きっと面白くなる。

衛星さえも乗っ取り国家を転覆させた女スパイ。スラム街の生まれから国を亡ぼす軍を率いるに至った男。齢10歳にして巨大遊園地の設計図を書き上げた創作意欲の化身。血で海を赤く染めたという伝説が残る海賊の末裔。大地の声を聴くことができるという特異な感覚を持つ青年。偶像で人を操る才能を世界征服に届くまで尖らせた実の弟。

 

そして、別の世界に来て更に興味を唆られた。人類を淘汰しようとする人工機械生命体「ロイミュード」に、それを撲滅したという日本の警察。その事件の中心にいた仮面ライダードライブ、泊進ノ介の存在。その力は地中深くでスリープしてしまったというが、後継者ともいえる人物がいた。

 

仮面ライダーソニック、天城隼斗だ。その近くに居たのは、自分と同じく憂鬱を燻らせていた少女が作った「Aqours」というアイドルグループ。廃校を覆すため、激しい逆境の中で戦い続けるその一部始終を観察した。なんとドラマティックなのだろう、これだけの人間を巻き込めばきっとこの憂鬱だって晴れるはずだ。

 

本当は結末なんてどうだっていい。ただ笑えればそれでよかった。腹を抱え、床を叩き、手に汗を握って、寸分先の青い景色を想像して、この腐った人生に一度でいいから笑ってみたかっただけなのだ。それなのに───

 

 

苛立たせることを吐き連ねる仮面ライダーダブル。理解できない松浦果南の言動。怒りの刃を突き出す天城隼斗に、どうやってかやって来た組織の刺客、ファースト。何故だ、何も面白くない。どうして憂鬱が加速する一方なのだ。

 

 

「……笑えないなぁ。全く笑えない…!!」

 

 

ディストピア・ドーパントに殴りかかる仮面ライダーダブル。いきなりブレイブ状態で刀を振り抜いた仮面ライダーソニック、とそれに合わせて斬りこむスラッシュ・ドーパント。

 

その全てを苛立ちをぶつけるような動作で易々と捌き、殺さないようにダブルの右腕に剣を動かした。しかし、それよりも速くソニックの殴打がディストピアの斬撃の軌道を逸らす。結果、空間を無に還す斬撃はダブルのマフラーの端だけを斬り取った。

 

そして、空いた体にダブルの蹴りが入った。スラッシュの追撃も続く。

だが、その連携もしっかりと「受けられた」。ほとんどダメージになっていないと見ていいだろう。

 

 

「っクソ! あと一歩だってのにあの野郎!!」

 

『3人がかりでコレかぁ…しんどいなぁ。ていうか隼斗さんキレてない?』

 

「この間も全員攻撃がまるで効いてなかったしな。この分だと素の防御力もあるだろうが、単純にコイツの技術がふざけてやがるのか」

 

「この程度を技術と言うなら論外だ。凡夫と悪は去れ。俺を笑わせる気が無い者は、朽ちて消えろ」

 

 

一挙一動の精度が高いディストピアの攻撃。速さに物を言わせたソニックや、後出しで適応を常とするダブルとはタイプが異なる。しかし、スラッシュは別だった。

 

 

「空間を削り取る剣。触れたものを殺す、対話拒否の刃。武士としては全く趣を感じさせない剣だな、憂鬱」

 

「“憤怒”のファースト、あのゼロが秘蔵とした天才剣士だとは聞いていたが…悪である以上興味がないのはこっちだ。それに君の太刀筋は泥臭く、血反吐の匂いがする」

 

「たわけ者が。正義だ、悪だ、好き嫌いだなどと戦いに余計な感情は不要。突き進むは己が覚悟。従うは己の怒り。悪だろうが正義だろうが、俺は全てを喰らって前に進む!」

 

 

生粋の剣士であるスラッシュは、同じく剣士であるディストピアの動きに順応していた。才能に身を任せ、研鑽の跡がない太刀筋ならば、『剣士の記憶』は既に踏み越えている。

 

 

「アンタにばっかカッコつけさせねえよ! そいつをぶっ倒すのは、俺だ!」

 

《カナリ!Brave!!》

 

 

その研ぎ澄まされた神業の領域に、ソニックは超高速で強引に割って入った。スピード依存の戦法上等。ならばもっと加速するだけ。オーバーブレイクに到達する分水嶺ギリギリの速度で、ディストピアの守りを切り刻んでいく。

 

 

『……やめてよ? あそこ入ったら死ぬからね』

 

「分かってんだよ、んなこと。にしてもあの野郎…完全に頭に血が昇ってやがるな。冷静になれってんだ馬鹿が」

 

『え、持ちネタがキレ芸のアラシが言う?』

 

「なんだ喧嘩売ってんのか?」

 

 

ダブルだけが空拳しか攻撃手段を持たず、斬撃入り乱れる戦闘領域に踏み入れない。だから少しだけ冷静に戦いを観察する瞬間があった。そこでアラシの脳裏に閃光する、僅かな違和感。

 

 

「っ…? そうか! ファースト、隼斗! 左肩から腹、あとは特に心臓付近だ!」

 

 

戦いの最中に差し込まれた情報。2人にとってその解説は必要無く、ディストピアの動きからその意味は読み取れた。アラシが指定したのは「綻び」の場所だ。

 

その綻びから縫い目を広げるように、ディストピアの防御を崩していく。気が遠くなるような張り詰めた剣戟の末、遂に入った。確実に手応えのある一撃が。

 

 

「気付くか…オリジンメモリに選ばれる程度の才覚はあるようだ」

 

「動きをよく見りゃバレバレだ。テメェは……」

「“傷”だ! アラシが教えてくれたのは、俺が前の戦い、後は今回で特に深く入ったダメージの場所だった!」

「…あぁ、そうだ。エルバ、テメェはそこを庇って動いてた。つまり……」

「お前のWeak point(弱点)は回復力の無さだ!!」

「おい隼斗。俺のセリフだ。戦闘以外でも見せ場取ってんじゃねぇぞチビコラ」

 

 

何はともあれ、完全無欠に見えたディストピアに亀裂が発覚したのは大きい。しかし、だから何だと言わんばかりの攻撃が再開し、再び苦戦を押し付けられる。このままでは太刀打ち程度で終わってしまう。

 

 

『で、その弱点をどうするかだよ。折角3人いるんだし、上手いこと連携しよ』

 

「そうだ、俺がエルバをぶっ飛ばす! そもそも俺がダメージ与えたんだしな。ソニックがこん中じゃ最速最強だから、俺に合わせてくれ!」

 

「「……」」

 

「なんだよその間は」

 

「…強いのは認めるけど、指図されたと思うと腹が立つ。作戦はこっちで建てる」

 

「俺の方が強い。仮面ライダーソニックに出来たのなら、俺の剣も奴に届く。俺がとっておきの技で仕留めるから貴様らがサポートしろ」

 

「いいや、いくらアンタらでも譲れねえな! 姉ちゃんを傷付けられた借りは絶対に返す! ていうか実際問題、俺が一番速いだろ。俺がメイン張るのがBest、大正義だ!」

 

「速さとか剣でマウント取ってんじゃねぇよ。それともなんだ、2人揃ってまた俺らに貸しを作る気か? 知らんうちに仲良くなってたと思ったが、変な趣味まで気が合ってよかったな」

 

「上等だ仮面ライダー。全員でかかって来い、まとめて斬り伏せてやる」

 

『駄目だ。この人たち全然話聞いてくれない』

 

 

肝心なところで息が合わず、戦闘がギクシャクと不和を起こしてしまう。我が強い戦士が集まるとこういう事も起きるんだなぁと、永斗は一人冷静に思った。最も、冷静にしている間にもディストピアの攻撃がかすったりと、大変なことになっているのだが。

 

 

「あぁもう大体が敵のファーストがいるんだ! 仲良くなんて無理だろが!」

 

「同感だ。状況がどうあろうが関係ない。どんな敵が相手でも、思うままに刀を振っていればそのうち大抵斬れる。勝手にやらせてもらおう」

 

「だったらRaceだ! 誰が最初にエルバぶっ倒すか! 俺のソニックが最速だって見せてやるよ!」

 

『ねぇ論点違うよね。言ってる場合じゃないよね全体的に』

 

「笑えない談笑も十分だろう。そろそろ退屈も限界だ、終わりにしよう」

 

 

エルバの剣に黒い光が伝い、一振りで無数の斬撃へと分裂。凶悪極まるカマイタチが、3次元的に不規則に戦士たちを襲う。やっとの思いで凌ぎ切ったかと思うと、今度はディストピアの剣が大地に突き刺さる音が聞こえた。

 

 

「隼斗、逸れろ!!」

「ッ!?」

 

 

アラシの本能的な指示が出たのは、音が聞こえる寸前。ソニックはカマイタチの回避のために飛行しており、その時にはディストピアがその真下に移動していた。そして大地から突き上げる斬撃が間欠泉の如く天に昇り、その余波は雲をも斬り裂いた。

 

ソニックはそれを間一髪で回避。コンマ数秒遅れていたら真っ二つだった。

だが、ソニックはそんな紙一重に対し一切怯むことなく、激情に駆られるままディストピアへと急降下。

 

 

「治りが遅えなら、また深いのをくれてやる!!」

 

 

リジェネレイトブラッシャーと天下零剣『煌風』を両翼のように携え、当たれば必殺の絶望郷の剣にも臆さず、急降下の速度のまますれ違いざまに6連斬。うち5撃は見切られたが、残った一撃がディストピアの脚を斬り付ける。

 

 

「っ…浅い。溜息が出るな。それで俺を倒せるつもりか?」

 

「そりゃこっちのセリフだボケが」

 

 

地面を蹴り、跳躍したダブルが傷を負ったディストピアの脚を蹴り、崩す。更にすかさず、蹴りの勢いを殺さず風で加速し、その胴体に風の砲弾が如き回し蹴りを喰らわせた。思わぬ追撃に隙を許したディストピアに、手応えのあるダメージが焼き付いた。

 

 

「仮面ライダーダブル…!」

 

「眼中に無い雑魚だと思って油断したか? 殺してもねぇ癖に見下ろしてんじゃねぇぞ」

『悪いね憂鬱さん。ウチの相棒、重度の負けず嫌いなんだわ』

 

 

ソニックの神速二刀流とダブルのレベル2領域の肉弾戦。これらを剣一本で対応していたところに、控えていたスラッシュが斬りこんでいく。エンジンが温まって来たというところか、ここに来てようやく3対1という数の有利が目に見え始めて来た。

 

 

『やっと見えて来たよエルバ、君の戦い方。あと能力。ステータスは超チート級だけど、戦法自体は至ってシンプル。弱さ故に戦略を練ったりとか、自分のスタイルを見つけるとかがないからね。あと傷の治りに、君のその剣。空間を斬る技には必ずチャージがある』

 

「テメェのふざけた体力と気力で誤魔化してるだけで、本来はそう何発も使える技じゃねぇってことだ。道理で能力が強すぎると思ったぜ」

 

「MP消費の必殺技ってとこか…なるほどな! 流石はダブルのBrainだぜ永斗少年!」

 

「再生が遅いという理屈なら体力も同じであるはずだ。そうなれば切り拓く道はただ一つ!」

 

「テメェがぶっ倒れるまで殴って削りきる!!」

「逃げもチャージもさせない音速でぶった斬る!!」

 

 

永斗としては「エルバの体力切れを待って、まずは剣を無力化しよう」という趣旨の発言だったのだが、アラシと隼斗が導き出した結論はその真反対。意味は違えど答えは同じ、「とにかく攻撃あるのみ」!

 

有言実行をまず体現したのはソニック。ディストピアの隙の無い一振りをギリギリで見切ると、逃げの選択肢を捨てて懐に入り込み、一気に加速。剣のチャージが完了する前に超近接でディストピアと超高速で斬り結ぶ。

 

 

「うおおおおおおおおッ!!!」

 

 

青い気迫がディストピアを圧し、その余裕を削り取っていく。一瞬でも手を緩めれば技が発動し、体を両断される。相手の攻撃を受け損なっても同じ。一歩間違えれば、運が無ければ死ぬ、そんな斬り合いを極限集中状態で駆け抜けるソニック。

 

しかし、先に限界が訪れたのはその集中ではなく、体。突如右腕から力が抜け、ディストピアの斬撃を受けきれず、煌風がソニックの手を離れてしまった。

 

ダイノエイジとスラッシュの交戦を経ていたソニックは、分け与えられたスラッシュメモリのエネルギーでなんとか動けている状態。それがいつどこで綻んでもおかしくはない。おかしくはないが、その不運を恨まずにはいられない。

 

 

「畜生っ…! なんでここで…!」

「まだだ、前を向け! 仮面ライダーソニック!」

 

 

侍たるもの戦友の覚悟を無駄にはしない。戦意のバトン、宙を舞った煌風をスラッシュが受け取り、呼吸の余裕もろともディストピアの体を斬撃で撫ぜる。それもソニックが前に付けた傷と、寸分狂わず重なるように。

 

そして、空いてしまったソニックの片手に、スラッシュは新たな刀を生成。それを瞬時に掴み取ったソニックは、力を込め直した両腕で連続斬り。今度はその全てがディストピアに傷を刻んだ。

 

 

「いい刀だ」

 

「だろ? 天下一…それをも超える零! それと皆の煌きから名前を貰った、俺の自慢の愛刀だ!」

 

「道理だな。侍たるもの、目指すべきは強さの異次元。即ち絶対的な“0”だ」

 

「お前らだけで仲良くしてんじゃねぇよ。喋ってんなら一番乗りは貰うぜ」

 

 

ソニックとスラッシュの攻撃から立ち直ろうとしていたディストピアを、遠方から伸びる鉄の触手が掴んだ。機を伺っていたダブル ルナメタルの伸縮自在メタルシャフトが、ディストピアを釣り上げたのだ。

 

 

《ヒートメタル!!》

 

 

そのまま木に叩きつけ、メモリチェンジしてダブルはディストピアに特攻。その判断をディストピアは煩わしそうに否定する。

 

 

「ここまでの戦闘で削れていれば、そう思ったのか? やはり君が一番笑えないことに変わりはないな。俺を苛立たせるだけの存在は一片の価値すらない。消えろ…!」

 

 

わざわざ引き剥がしてしまったせいで、ディストピアに時間を与えてしまった。その間に当然チャージを完了させ、再び空間を斬り裂く攻撃がダブルに振り下ろされる。

 

 

「かかりやがったな」

《ブレッシング! マキシマムドライブ!!》

 

「何…!?」

 

 

ことりから預かったブレッシングメモリをスロットに叩き入れ、僅か数秒だけ光のベールがダブルを包む。そのベールに触れた途端にディストピアの空間切除能力は霧散し、ただの斬撃をダブルの左側の鋼鉄装甲が受け止めた。

 

 

『僕らも初めて使うメモリだ。知らないでしょ? そんで…』

 

 

そして、止まった剣の側部に熱されたメタルシャフトを叩きつける。剣は側面からの攻撃には弱く、ましてや空間切断用途で硬度を考慮する必要のない剣なら猶の事。賭けに勝ったダブルの一撃は、絶望郷の剣を砕き折った。

 

一撃必殺の能力がようやく無力化され、閉じた状況に風穴が空いた。ダブルはその勝機へ闘気と体力の全てを注ぎ込み、熱波と打撃の乱舞へとディストピアを誘う。

 

 

《メタル! マキシマムドライブ!!》

 

「雑魚にいいようにされて冷めてんだろ憂鬱。お熱いの一発喰らっとけや!!」

「『メタルブランディング!!』」

 

 

熱を帯びた決死と執念の一撃が、ディストピアの姿を爆炎の中に消し飛ばした。

 

 

_____________

 

 

 

「ハァッ!」

「ルァァ!!」

 

 

時を同じくして繰り広げられるもう一つの戦い。仮面ライダースレイヤーと仮面ライダーエデンは、異常進化態『ディファレントロイミュード』を討伐すべく凌ぎを削っていた。

 

エデンの槍とスレイヤーの爪、互いが互いの得意分野を200%活かす連携攻撃。研ぎ澄ましたセンスでディファレントに攻め寄っていく。

 

 

『……!!』

 

 

斬撃と刺突で装甲は削られる一方。防勢=劣勢と捉えたディファレントは、右腕に備わったガトリングの銃口を二人に向けた。立ち止まって防御を構えたスレイヤーに対し、エデンは速度を緩めず攻撃を断行する。

 

 

「無茶だゼシュバルツ!?」

 

「無茶なものか! この程度!!」

 

 

放たれた死の豪雨。行く手には弾丸の壁が迫る。

しかし、エデンはそのセンスだけを頼りに、槍を振り回す曲芸で銃弾の全てを弾き落としてみせた。

 

 

「“不良”の“加護”を“受け取っ(キメ)た”極道竜騎士卍シュバルツ卍は止まらないッ!! 故に鉄砲玉! 行け、黒騎士!!」

 

「お…おおっ! 肩借りるゼシュバルツ!」

 

 

銃弾を叩き落とすエデンに防御を任せ、スレイヤーはその肩を足場にして飛び上がり、ディファレントの背後に着地した。そこから淀みなく放たれる、虚を刈り取る爪の一撃。更に二連撃。

 

そこで襲撃者を感知したディファレントの照準がスレイヤーへと向いた。しかし、それはエデンに対して無防備になることを意味しており、完全に攻撃の姿勢となったエデンが槍をディファレントに叩きつける。

 

加えて、退いたディファレントに鋭い追撃を刻むスレイヤー。双方向の連携が見事に決まった。

 

 

『………!』

 

 

しかし、ディファレントは損傷した機能を即時に再起動させ、立ち上がる。いくら小手先で翻弄しようと、この異常なタフネスを削りきることができない。早い話、決め手に欠けている。

 

 

「やっぱ手強いナ…」

 

「ああ、この機械兵…一筋縄ではいかないな」

 

 

ディファレントは瞬間瞬間で最適な解を弾き出す。紙一重の攻防でディファレントを圧している彼らに対しては、戦場の情報量を増やすのが最適と判断。

 

空間操作の能力が起動し、新たに3体の下級ロイミュードが投入された。ナンバーは038、039、040。

 

 

「新手だと!?」

 

「マジかよこんな時ニ!」

 

 

瞬間、展開される重加速。その影響を受けたのは、コア・ドライビアを搭載しないエデン。

 

 

「しまった!?」

 

 

ディファレントの指揮で、バット型ロイミュード040が翼を広げて飛び掛かる。光弾の狙いは当然、動きの鈍ったエデンだ。

 

 

「っ! させるカっての!!」

 

 

スレイヤーは攻撃からエデンを守ると、ドライバーに刺さっていた「シグナルカクサーンⅡ」をエデンに渡した。これにより重加速を克服したエデンは、4対2の劣勢に一度距離を置く。

 

 

「っ! すまない黒騎士!」

 

「礼はいらネェ。それよりもここで増えるって…」

 

「やや面倒になってしまった…よし、黒騎士! 何か策はあるか?」

 

「とーゼン! 来い、デッドヒート!!」

 

 

スレイヤーは掛け声で飛来したデッドヒートメテオをドライバーに装填し、強化変身。

 

 

《Burst!Overd Power!!》

 

《SignalBike/Shift Car!Rider!Dead Heat!!Meteor!!》

 

 

スワンプ戦、タワー戦と八面六臂の活躍を見せた、紅と黒の竜戦士メテオデッドヒート。紛れもなくスレイヤーの切り札だ。

 

 

「おおお! あの時の煉獄の竜!!」

 

「こっからはガチの上のガチで行く! シュヴァルツ! そっちもなんかネーのか!? 切り札とかそーいうの!」

 

「フッ…無論、ある!!」

 

「マジか!」

 

 

スレイヤーに強化形態があるように、エデンにも強化形態は存在する。ヘル・ドーパントを浄化し、エンジェル・ドーパントを撃破した聖騎士の姿、エデンヘブンズの事なのだが……

 

 

 

「が、今は何故か使えないんだ…」

 

「エ、エ、なんで!?」

 

「我が天使に認められ、忠誠を誓ったあの時以来、使おうとしても何故か変身ができん……禁じられし力、その道理は神のみぞ知る…か」

 

 

一度タワー戦に参戦する際、満を持して変身を試みたのだが、ヘブンメモリの盾は開いてくれなかった。マキシマムオーバーのように使用後の充電時間があるのかと思っていたが、一向に変身できるようになる気配が無い。

 

 

「なんでこんな時ニ……!」

 

「ほんとごめん……」

 

「マァ、使えないもんはしゃーねぇ…俺っちがやる!バックアップ任せタ!!」

 

「承知!!」

 

 

熱気を放ち、爆発するように踏み込んだスレイヤーが、下級ロイミュードを突っ切ってディファレントの胴体にブローを叩き込んだ。が、全力で放ったその一発も致命傷にはならない。

 

データの無い一撃目だからこそ全力を出したのだが、それで決まらないと話は変わってくる。二発目以降、ディファレントは速度と威力に対応し始め、思うようにダメージを与えられない。

 

しかも妨害に来る下級ロイミュードも、想定より遥かに厄介だ。

 

 

「クソ! 雑魚かと思ったら進化ロイミュードくらいパワーがありやがル!」

 

「そこを退け兵隊共! 我らの道を開けろ!」

 

《グリフォン!》

《グリフォン! マキシマムオーバー!!》

 

 

グリフォンメモリを使用し、速度を強化させたエデンがスレイヤーのサポートに入る。エデンヘブンズでなくともロードドライバーを使った強化なら、ディファレントに太刀打ちもできると、そう考えはした瞬樹だったが、

 

寸前で使用を拒んでしまった。己の心の弱さに負け、花陽の思いを裏切ったこと。灰垣珊瑚を一度殺したことが、未だ心に根を張り続けているのだ。何より己の強さを捧げた象徴である花陽が、ここにはいない。

 

 

(これが理由か…俺は怖いのか。また過ちを犯してしまうかもしれないことが。花陽がいないだけで俺は……!)

 

 

払拭しきれない弱さを抱えながら、下級ロイミュードを相手取る。しかしやはり火力不足だ。強化されたロイミュードを越えてディファレントに到達するには、今のエデンではどうやってもパワーが足りない。

 

 

『……!』

 

「やべェ!! またアレだ、伏せロ! シュバルツ!」

 

 

前に4人の仮面ライダーを纏めて吹き飛ばした、エネルギー反転のカウンター攻撃。あの時と同じ挙動を見たスレイヤーはすぐに身構える。しかし、今度はエネルギーは右腕に収束し、砲撃のようなインパクトがスレイヤーの体を貫通した。

 

 

「黒騎士!!」

 

「くッ…! アイツ、俺っちの攻撃を吸収して、右腕一本に収まる分だけ解放しやがっタ……あの感じじゃ、ここまでの戦いのエネルギーがまだまだチャージされてるっぽいナ…!」

 

 

防御、吸収に反転。それがディファレントのメインウェポンと見て差し支えないだろう。攻略方法は瞬間許容量を超過する攻撃に絞られるが、そうなってくるとやはり火力不足が響く。

 

 

「足手まといは俺か…騎士の名折れだ…!」

 

 

______________

 

 

鷲頭山で最終決戦が白熱する一方で、キリカラボも別の理由で熱がこもっていた。鬼気迫る様相で画面を睨み、目にも止まらぬ速度で何かを打ち込む霧香博士。

 

 

「っうおおおおおお!! これで…どうだっ!!!」

 

 

最後にエンターキーを叩き、画面に「ALL CLEAR」が表示された。熱くなった脳の熱気を全て出すように息を吐きだすと、霧香博士は調整を済ませたアイテム達を掴む。

 

 

「いよっっっっし!! 流石は天才科学者! 士門くんが抜けてどうなることかと思ったが、よくやったぞ一時霧香!! さぁ最終調整が完了した! あとはコイツを……」

 

 

そこで霧香博士の動きが一瞬止まった。永斗との会話を思い出したからだ。

 

 

『博士。ウチの中二病が、あの善子ちゃんの兄って話はしましたよね?』

 

『ん? あぁ、津島瞬樹くんだったか。だがこちらの世界の善子くんは一人っ子と聞いている。恐らく並行世界における細かな差異の一つだろう』

 

『まぁそれはアイツも分かってると思うんです。でもアイツ、話じゃドーパントとの戦いに巻き込まないため勝手に家を出て行ったらしくて、本人も気にしてるみたいなんですよ』

 

『ほう…』

 

『多分瞬樹はわざと合流しないんだと思います。違うって分かってても、会えないから。向ける顔が無いと思ってる。本当に面倒くさい……どんな形でも、家族と向き合えるなら向き合った方がいい、そう思いませんか』

 

 

物心ついた時から家族がいなかった永斗は、そう語った。クールそうに見えて案外仲間思いだったというのを知り、霧香博士も驚いたものだ。

 

 

「…仕方ない。先生らしく、たまにはお節介を焼くとしようかな」

 

「先生!? どうしたんですか急に大声出して…?」

 

「おぉ梨子くん! 丁度良かった、帰って来た果南くんの調子は?」

 

「呼吸も落ち着いて、今は横になってます。千歌ちゃんも疲れてそうだけど、怪我とかはなさそうです」

 

「ふむ、ガイアメモリの後遺症が無いのは幸運だったな。それでは善子くんを呼んでくれないか?」

 

「ククッ…この堕天使ヨハネ、召喚に応じて降臨…!」

「盗み聞きしてたのね」

 

 

ソワソワを持て余していたAqoursメンバーは、霧香博士のもとに集まってくる。それならば話が早いと、霧香博士は持っていたアイテムを善子の手に押し付けた。

 

 

「たった今、仮面ライダーたちを超パワーアップする秘策のアイテムが完成したところだ! がしかし、私としたことが急ぎの余り自律走行機能を付け忘れてしまってね…」

 

 

無論、嘘だ。「んな訳ないだろう馬鹿め」と脳内では大声でツッコんでいる。

 

 

「というわけで。すまないがAqours諸君、彼らに届けに行ってくれないか?」

 

「じゃあ私が隼斗に届ける!」

「私も行く!」

 

「果南くんと千歌くんは留守番だ! 絶対安静とヘトヘト娘はステイ! で、こっちが隼斗と士門くんに切風くん。こっちは憐に、つし…いや、竜騎士シュバルツ用だ」

 

「じゃあシュバルツさんにはわたくし達が…」

「いいやストップだ黒澤姉妹。憐とシュバルツには、善子くん。君が届けに行きたまえ」

 

「…え? なんで私が名指しなのよ!?」

 

「それは……その…闇の運命だよ」

 

 

上手い事言い訳を思いつかず、よく分からない単語を出す霧香博士。しかし、善子もとい堕天使ヨハネはそれに共鳴する。

 

 

「闇の運命…ですって…?」

 

「その通り。✝漆黒の魔天黙示録✝がそう導いている! さぁ行けAqours諸君! 君たちの手で仮面ライダーを救うんだ!!」

 

「✝漆黒の魔天黙示録✝が…!? ククッ、そうと決まればこの堕天使ヨハネ…預言に従い、いざ堕天っ! ギラン!」

 

 

_________________

 

 

「憐っ!」

 

「その声…ヨッちゃん!? しかも梨子サンも! 危ねェって、早く逃げロ!」

 

「そんな事言ったって、黙示録が……!」

 

 

ライドXガンナー(仮)に乗って駆け付けたのは、霧香博士が言いつけた通り善子。そしてその付き添いとして同行した梨子だった。急いで持ってきたアイテムを渡そうとするが、その時、ディファレントの左腕から衝撃が解放された。それをモロに喰らったのはエデンで、そのダメージはエデンを変身解除させてしまった。

 

 

「シュバルツ!!」

 

「…シュバルツ? この人が、竜騎士…?」

 

「ッ…すまん黒騎士! 心配無用! 俺はまだ戦え───」

 

 

血気を巡らせ、前のめりに立ち上がった瞬樹は彼女と目が合い、息を止めた。

 

 

「な…なに…? はっ! そういうことね…この堕天使ヨハネの魅了魔術で、また罪なき下位存在を虜に…! ……なんか言いなさいよ!」

 

 

知らない姿だった。でも、知っていた。瞬樹は彼女を知っている。記憶にある幼い姿とは違うが、確かめる必要も無い。ただ溢れ出す感情のまま、戦場で瞬樹は跪き、涙を溢した。

 

 

「泣いたぁっ!?」

「初対面の人に何したの!?」

「何もしてないわよ!! 分かんない、ちょっと無理! リリー、パス!」

 

「いや…ごめん…! 君は何もしていない…悪いのは、俺なんだ…! ただ、すこし…嬉しくて……!」

 

「シュバルツ…お前……

いよーし、決まりダ! シュバルツ、こっから先はしばらく俺っちが引き受けル! その間、好きなだけヨっちゃんと喋って来イ!!」

 

「……ありがとう、憐…」

 

 

止まった標的を狙うロイミュード達を、スレイヤーが一騎当千の大立ち回りで引き受ける。瞬樹はそんな憐に感謝しながら息を吐き、涙を拭い、梨子の後ろに隠れてしまった善子に向き直った。

 

どう接すればいいのだろう。この世界の彼女、妹の善子は赤の他人だ。あちらは瞬樹の事を知らない。思うままに一方的な感情をぶつけるでは対話にならないし、戸惑っていては上手く言葉を紡げない。

 

ならば選択肢は一つ、ステージを変えよう。生きる世界が違っても、善子と共に立てる場所で話をしよう。

 

 

「……汝、名はなんという」

 

「え…?」

 

「我が名は竜騎士シュバルツ! 天界より天使を守護するために降り立った、断罪の竜騎士! 俺には見える、汝の姿は下界を生きる仮初のもの…今一度問おう、汝の真名はなんだ!」

 

 

顔を隠すように手を当て、包帯を巻いた右腕を善子に向けた。

誘う先は常人のセンスから外れた超時空、中二病の領域。善子なら当然、その時空に共鳴する。

 

 

「ククッ…どこの愚か者かと思いましたが、見る目があるようですね。そう! 我が名は堕天使ヨハネ! あなた、竜騎士と言いましたね。天界より降り立ったのなら、その位階を示しなさい」

 

「我は大天使ミカエル配下、天頂四大騎士ウルフェリオンの末弟。しかし下界に蔓延る悪から天使を守護するため言いつけを破った身…お師匠の名を借りることは出来ない…」

 

「なるほど、ウルフェリオンの末弟ですか。私が天界にいた頃、彼とは何度も言葉を交わし、時には剣を交わした間柄なのです…懐かしき天界の記憶、そうあれは魔界と天界の存亡を揺るがす最終呪詛プロジェクト『ルシファー』を構築した時のこと…」

 

「なっ…! あの数多の使い魔を同時生成し、世界一つを呑み込むという混沌極まるアジェンダを…!?」

 

 

早々に梨子が世界からおいて行かれた。憐も話を聞くのを諦め、戦いに集中する始末。兄妹関係が成す奇跡的な設定の噛み合いが世界を広げ、会話は更に深層の次元へ。普段こういう経験ができないからか、善子は心底楽しそうだ。瞬樹も妹との触れあいが喜ばしくて仕方なく、優しい笑みが零れる。

 

 

「…堕天使ヨハネよ。名のある天使と見込んで、一つ話を聞いて欲しい」

 

「いいでしょう、竜騎士シュバルツ、我が同士。迷える子羊を導くのもまた…地上に降りし堕天使の使命!」

 

「恩に着る…俺には、相棒と主君がいる。相棒は人ならざる残酷さを持ってはいるが、俺の行く末を示してくれる、全てを任せることが出来る奴だ」

 

「人ならざる……魔物?」

 

「そして我が主君は、俺が命を捧げると心に決めた最愛の天使だ。彼女は俺の全てを肯定してくれた。彼女と出会えたから騎士としての俺がいる。だが……ここは異界の地、俺の強さを支えてくれる相棒も主君もいない。ここにいるのは、残った弱き俺だ…」

 

 

瞬樹はそこで敢えて話を止めた。彼女に道を問うことはできない。だが、堕天使ヨハネは迷える竜騎士に道を示した。

 

 

「堕天使ヨハネが宣言します。生命である限り、光と闇が、強さと弱さがあるのは当然。だから……悩むことはありません、その弱さもあなたなのです! 嫌っていた自分が、人に愛されると知るように。完全に別なんて、そんなことは有り得ないのです!」

 

「弱さも、俺…!?」

 

「弱き者ならこの堕天使ヨハネが直々に契約を…そう思ったけれど、あなたにその必要はないようです。あなたなら飛べる! この矛盾の空を!」

「…たまにはいい事言うじゃない、善子ちゃん」

「ヨハネよ!」

 

 

カッコつけた所に梨子に水を差され、ブーブーと文句を言っている善子。だがその言葉は、瞬樹の心の溝にピタリとはまった。止まっていた血流が動き出したような高揚感、全能感。これは、エンジェルの前に飛び出した時と同じだ。

 

返しきれない恩だ、礼を言わなければいけない。しかし、瞬樹の喉から出て来たのは全く別の感情。割り切れず、抑えることのできなかった、罪の感情だった。

 

 

「最後にもう一つだけ…聞いてくれ」

 

「…な、なに? さっきので終わりだと思ってたんだけど…」

 

「俺は戦いに身を投じるため、家族を置いてきた。危険から守るためとはいえ一方的に、言葉も交わさず」

 

「家族…?」

 

「やっと気付いたんだ。俺のせいで、家族がどれだけ迷惑を…! その顔に泥を塗る過ちも犯した! 本当に…ごめん…!! 俺がお前の未来を歪めたっ…! 俺は、お前に…なんて謝れば……」

 

 

最後に溢れ出したのは、瞬樹の懺悔だった。エンジェルの戦いを経ても拭いきることができなかった、家族への罪悪感。後悔。誰かに向けられたその感情に対し、善子は「善子」として、答えた。

 

 

「……何言ってるの、大事な家族なんでしょ? だったら迷惑だなんて思ってない」

 

「っ……!」

 

「この私が保証してあげる! ちゃんと帰って、家族と向き合いなさい。許しが無いと帰れないなら、私が許すわ。全然関係ないけど無いよりはいいでしょ?」

 

 

大きな勘違いをしていたと瞬樹は理解した。

守ってやることが必要でも、善子は強い人間だ。瞬樹がいようがいまいが、どんな道を進もうがそれは変わらなかった。瞬樹の妹は、堕天使として誰かの心を救い、堕天使として今を美しく羽ばたく。堕天使という生き方は正しいと、己自身で証明したのだ。

 

 

「すごいな…やっぱり俺の誇りだ。強く、綺麗に、立派な天使になったんだな…善子」

 

「ヨハネ!…って、なんで私の真名を……」

 

「あれ…? 別の世界から来て、この見た目…もしかしてこの人って、善子ちゃんの───」

 

 

梨子が核心に触れようとした時、スレイヤーが防ぎ漏らしたディファレントのミサイル弾が、瞬樹たちに迫る。近づく破壊に梨子と善子は身を屈め、怯えるが、瞬樹は生身での槍の一振りで、そのミサイル弾を爆風ごと叩き割ってみせた。

 

 

 

「堕天使ヨハネ、その従者。そして黒騎士! 時間を取らせた。騎士道に則り、心より全身全霊の感謝を!」

 

「完全復活…ダナ! シュバルツ!」

 

「あぁ! もはや俺を縛る楔は、何一つ存在しない! 最大級の礼としてお見せしよう、堕天使ヨハネ! そして傷一つ付けぬよう守り抜くと約束する! この竜騎士の戦いを刮目せよ!」

 

《ドラゴン!》

 

「変身!」

 

 

善子の目の前で槍を掲げ、瞬樹は仮面ライダーエデン───竜騎士の姿へと変身。世界を救う道に立ちふさがる4体のロイミュードに向け、善子とエデンは並んでその指を向けた。

 

 

「この堕天使ヨハネの名の下に宣誓します。この歪な世界に邂逅した勇士達よ、今こそ力を結集させ堕天同盟の名を響かせる時です。名を連ねるは堕天使ヨハネ、そして!」

 

「信仰の白銀竜と契約せし、天使を守護する天界の槍! 竜騎士シュバルツ!」

 

「……え、私? えっと…堕天使ヨハネの闇の盟友、リトルデーモン・リリー!」

 

「マジか梨子サン。これ俺っちも言うヤツ?」

「いつもと違う奴でね」

「ヨッちゃん無茶ぶりィ…っと…、地の果てから闇を駆け、悪を噛み砕く漆黒の獣騎士! 地獄の狩人スレイヤー!」

 

「「我ら堕天同盟が、汝を闇へと葬る!!」」

 

 

理想通りに決まった開戦のセリフに、ハイタッチして喜びたい気持ちを抑え、エデンと善子は顔を見合わせ互いに笑いかけた。

 

 

「まずはリリー! 地獄の狩人に天啓の神器を!」

 

「そうだったわね…これ、先生から預かった新しいシグナルバイクよ! 使って憐くん!」

 

「お、マジ!? この期に及んで新装備って、あの人も粋なコト……このシグナルバイク!?」

 

 

襲い掛かるロイミュードを善子と梨子から退けさせるスレイヤーに、まずは梨子が預かっていた新規シグナルバイクを手渡した。それはあちらの世界で見た、エデンの専用マシン「マシンライバーン」に酷使した形状に、ドラゴンメモリのクレストが描かれたシグナルバイク。

 

 

「大魔導士キリカ曰く、異世界の術師と共に創造した奇跡の魔道具…」

「永斗さんと一緒に作った、あっちの世界の仮面ライダーの力を使えるシグナルバイク…って先生が!」

 

「こりゃシュバルツの力が使えるってことカ! リョーカイ! そうと決まりゃ、有難く使わせてもらうゼ!」

 

《SignalBike!》

《Signal koukan!》

《Legend!》

 

 

シグナルレジェンドエデンをドライバーに装填し、スレイヤーの胴体に紫色の鎧が重ね掛けされた。一角獣の意匠を含んだその装甲は、ユニコーンメモリの「モノケロスギア」だ。

 

 

「ん? なっ、それ俺の鎧!!」

 

「うわ、スッゲェゴツい…でもなんか力が漲ってクル…?」

 

 

身軽さが失われ、最初は不自由そうにしていたスレイヤー。しかし、攻撃してくる下級ロイミュードに応戦するうちにパワーが体全体に伝播していくのを感じた。

 

そして、攻撃を振り払うつもりのクローの一撃で、衝撃の余りロイミュードが遥か後方に。

 

 

「スゲェ…! 軽く殴っただけでこの吹っ飛ばしカヨ!! これがマキシマムオーバー!!」

 

「フッ…当然だ。俺の鎧だからな! 俺の!」

 

「さぁドンドン行くゼ! 頼むぜユニコーン!」

 

「ヨハネ、俺にも! 俺にも無いのかあぁいうの!? 勝手に使って黒騎士だけズルいぞ!」

 

「ククッ…もちろんあるわ! さぁ、堕天使の恵みを使いなさい!」

「先生の、ね」

 

「感謝する! よし、これで俺も黒騎士の力を…ってアレ!? これ黒騎士じゃないぞ誰だこれ!?」

 

 

エデン用にも新たなガイアメモリが用意されていたのだが、アルファベットの代わりに描かれていたのは予想に反して全く知らない戦士。それを横から覗き込み、スレイヤーはそれが誰なのかを説明した。

 

 

「おぉッ! これはチェイサー先輩ダナ!」

 

「チェイサー?」

 

「かつてはロイミュードの番人にして死神だったんダガ…今じゃロイミュードから人間を守った大英雄! 俺っちが尊敬する大先輩ダ!」

 

「伝説の死神…いいだろう。この竜騎士に力を貸せ、仮面ライダーチェイサー!」

 

《チェイサー!》

《チェイサー!マキシマムオーバー!!》

 

 

チェイサーレジェンドメモリをオーバースロットに装填することで、伝説の戦士のマキシマムオーバーが発動。エデンの背中に閉じた翼のようなバックパックが出現したかと思うと、右腕に移動してメタルクローへと変形し、装備された。

 

ロイミュードの死神、「魔進チェイサー」がバイラルコアの力で操ったという「武装チェイサー」の能力だ。

 

 

「さぁ征くぞ、死神竜騎士が貴様を凌駕する!」

「俺っち達の裁きをうけナ!」

 

 

超パワーと超防御を兼ね備えるスレイヤーとエデンのクローが、迫る敵を片っ端から斬り付け、削り、止まることなく薙ぎ倒す。桁外れの突破能力であっという間にディファレントの下へ辿り着き、至近距離からスレイヤーの全力攻撃が炸裂した。

 

 

『……!?』

 

「効いた…って感じの反応ダナ!」

 

 

余波だけで木々を激しく揺らすスレイヤーの一撃。明らかに見せた反応が異なっていたが、それでも許容範囲内だったようでディファレントはすぐさまカウンターの構えを見せる。

 

またしても手痛いエネルギー反射を喰らいそうになった寸前、エデンの武装チェイサーが弓の形状へと変形。射出された矢はディファレントの腕の関節を的確に射貫き、その動きを止めた。

 

 

「攻め続けろ黒騎士! 周りは俺に任せておけ!」

 

「オッケー任せたゼ、シュバルツ!」

 

 

カウンターを先送りにし生まれた猶予に、スレイヤーは次々と超火力を爆発させていく。その頃、倒されていたロイミュードが再起しスレイヤーの妨害に入ろうとするが、エデンがそれを許さない。

 

再び武装チェイサーが変形。今度は折りたたまれ、鞭のパーツが出現する。

 

 

「蜘蛛に蝙蝠、そして蛇! 全員纏めて俺が相手だ機械兵!」

 

 

翼を広げる040、力と速度で殴りかかる038、サポートに徹して捕縛糸を吐く039。ディファレントの意思で統率された動きだが、エデンはその全てを伸縮自在の金属鞭で制してみせた。飛ぶ040をはたき落とし、糸を斬り裂き、038を退ける。巧みな鞭の操術で、近くのスレイヤーの戦いには一切干渉させることなく。

 

一方でスレイヤーも連撃を叩き込み続けていたが、ディファレントが強引にカウンターを捻じ込んできた。というのも、エネルギー吸収を解除し反撃に徹し、ガトリングを乱射するという機械ならではの高リスクな方法を取ってきたのだ。しかし、

 

 

「効かネェんだよ、そっちの攻撃はナァ!」

 

 

攻撃を喰らった瞬間、フェニックスメモリの「イモータルフェザー」が展開。受けたダメージを即座に再生・回復させ、メテオデッドヒートの炎とフェニックスの炎を両腕に宿して一気に放出!

 

 

「ヴォルケイノ・ツヴァイ・ブラスター!!」

 

「トリプルチューン!!」

 

 

竜の炎と不死鳥の炎、そこに加わる三位一体の死神の力。渾然一体となった超常的な火力がエネルギー吸収を解除したディファレントに爆裂し、かつてないダメージを叩き込むことに成功した。だが、これでもまだ撃破には至らない。

 

 

「ならばもう一発!」

 

《チェイサー!マキシマムドライブ!》

 

「来たれ異界の追跡者! 紫の爆音が生命の業を死へと───」

《マッテローヨ!》

「…なんて!?」

 

 

エデンドライバーにメモリを装填し、揚々と必殺技を放とうとしていたエデン。しかし、まさかのドライバーから怒られるという事態に。

 

 

「あぁ…シュバルツ? それシンゴウアックスつって、そーゆー仕様なんだワ。信号待ちってコト。悪いけどもうチョイ待ってテ」

 

「待つのか? 今? まぁ確かに信号待ちは大事なルール、騎士道!」

「堕天使の翼を以てすれば、横断歩道なんてひとっ飛び!」

「それ言ってる場合じゃないと思うんだけど…」

 

《イッテイーヨ!》

 

「あ、行っていいってサ」

「よし来た喰ら……!」

 

 

エデンは青信号と同時に寄りかかっていた槍を引き抜き、勢いのまま突き出した。

 

瞬間、弾ける爆風。紫の波動が山肌を、木々を貫き、水平線目掛けて爆走していった。その通り道にいた3体の下級ロイミュードは全員爆散し、コアごと消失している。率直に言って非常識な強烈な一撃が放たれたのだった。

 

ついでにエデンも反動でぶっ飛んだ。

 

 

「こ…これは神話級の一撃ね…流石にちょっと引く…」

「ふ…フッ…こ、これが竜騎士の本気…!…!?」

「なんつーアホみてぇなパワー…流石は先輩の武器…ってかやり過ぎダロ博士」

 

 

そういえば霧香博士がこんな事を言っていたのを、梨子は思い出した。「士門くんとの悪ノリでチェイサーメモリだけ出力と燃費の調整馬鹿みたいな設定にしちゃったけど、なんか竜騎士は無敵って言ってたし多分大丈夫だよな!」と。

 

 

 

_________________

 

 

策は打破され、剣は折れ、味わった経験の少ない逆境にいるのは分かる。それなのに、この憂鬱は全く晴れる気配がない。組織を敵に回し、朱月やあのゼロに命を狙われた時もそうだった。

 

何故ただ不愉快でしかないのか。その答えを待たず、仮面ライダーソニックとスラッシュ・ドーパントは迫りくる。

 

 

「行け、隼斗!」

 

「All right!合わせろファースト!」

 

「たわけ!貴様が合わせろ!!」

 

《ヒッサツ!ぁふるすろっとる!!》

 

《ヒッサツ!Full throttle Over!Brave!カクサーン!!》

 

「隼斗流剣技 二刀流!」

 

「我流剣七ノ技、二刀流!」

 

 

ダブルの渾身の一撃で空間切断能力が無に帰した。その好機を逃さず、二人の二刀流が風を巻き込んで容赦なく斬り込む。

 

 

「蝉時雨!!」

 

 

不規則、高速、圧倒的手数と殺傷能力の螺旋斬撃。それらの斬撃は余さずディストピアに刻まれる。そして、時雨の如き刹那の剣技の後には、また色の異なった二刀高速斬撃が幕を開ける。

 

 

「究極奥義!絶禍凌嵐!!」

 

 

ソニックの煌風とリジェネレイトブラッシャー、それらで紡がれる止むことの無い斬撃暴風。愚直かつ暴力的な、超強力なただの連続斬り。

 

 

「速く!速く!もっと速く!!」

 

 

大事な人を傷付けられ、故郷を踏みにじられ、ソニックの怒りが尽きることはない。故に、攻撃の手が緩むこともない。

 

 

「オルァァァっ!!!!」

 

 

全ての体力を込めた最後の一太刀が決まった。

決して癒えない、かつてない痛みがディストピアの全身に焼き付いた。

 

 

「やったか!?」

『やめてよアラシここでフラグはマジで無いから』

 

「いや、ソニックの一撃は確かに入った。だが油断するな!」

 

「『ッ!』」

 

 

ファーストの警告は一瞬も跨がずに現実となってしまった。

ディストピアは立ち上がった。確実に死に近づいている体を、どんな道理を使ってか動かして。

 

 

「マジかよ……ッ!」

 

『いやぁ…これで倒れないのはどうかしてるでしょマジで』

 

「何故だ…実力も計画も、こちらが先を行っていたはず…! 俺の目論見に狂いなんてあるはずがない…なのに何故……!!」

 

「まだわかんねぇかよ、確かにテメェの計画は厄介だったし、ここまで来るのに苦労はしたさ。でもな…テメェは甘く見過ぎてたんだよ、俺たちのことを」

 

「そうだ、『憂鬱』。こいつらはどんな逆境に立たされてなお折れることが無かった、俺の認めた強き戦士たち。天才ともあろうものが、まさかその予想を見誤ったか?」

 

 

突き付けられる刃が不愉快で仕方ない。それよりもただ、分からない。この数分で何が起こったのか、何が自分を苦しめているのか。近づく敗北と挫折を、生まれながらの天才は知り得ない。

 

 

「黙れ…!俺はまだ立っている……俺はまだ…まだ……!」

 

 

頭に熱が籠って物事を考えられない。ただ溢れる力だけが、ディストピアから立ち昇る。その状況に戦慄する戦士たちだったが、そこへやって来たのは予想外の援軍。

 

 

「お待ちなさい!」

 

「just a moment!!」

 

 

瞬樹のマシンライバーンで空から駆け付け、頭上から降り立った場違いな二人。

 

 

「お待たせしました!隼斗さん!」

 

「でもGood timingだったようね!」

 

 

Aqoursの黒澤ダイヤと小原鞠莉。殺伐とした戦況に差し込まれた展開に、一同困惑を隠せなかった。

 

 

「ダイヤさん!?」

 

『え、鞠莉さんまで……なんで?』

 

「お前が黒澤ダイヤか。なんで瞬樹のバイクに乗って来たかとかはこの際突っ込まねぇが…危ねぇぞ退いてろ!」

 

「フフーン! ハヤト! エイト! それにアラシ! センセイからのpresentよ!!」

 

 

馳せ参じた理由はただ一つ。彼女たちもまた、ライダーの力を宿したアイテムを届けに来てくれたのだ。ダブルには白と赤の2本のガイアメモリが、ソニックにはハードボイルダーを模したシグナルバイクが渡された。

 

 

「これって……!?」

 

「なんだコレ? 英語じゃねぇな…仮面ライダーか?」

 

『そういうことね。よかった、博士間に合わせてくれたんだ』

 

 

永斗と霧香博士が共同で作ったメモリであるため、永斗はその仮面ライダーを知っている。赤い方に描かれるのは『仮面ライダードライブ』、白い方は『仮面ライダーマッハ』、彼らもまたこの世界でかつてロイミュードと戦っていた戦士たちだ。

 

 

「ドライブ先輩! マッハ先輩!? どうして…」

 

『やぁ、無事届いたようだな!』

 

 

ソニックの通信機から聞こえる霧香博士の声。明らかに疲弊した様子であり、永斗が片手で「任せてすんません」と平謝り。

 

 

「博士! コレって……」

 

『シグナルレジェンドダブル、そしてドライブレジェンドメモリ、マッハレジェンドメモリだ! ダブル、ドライブ、マッハのそれぞれの力を再現できるようになるアイテムだ! コイツでエルバをぶっ倒したまえ!!』

 

 

簡潔な通信だったが、充分に伝わった。今一つ届かなかったエルバの底に、このアイテムなら届き得るということだ。

 

 

「ってかなんで俺だけこれ一個なんだよ! むしろドライブ先輩達の力とか俺の方が使いたいんだが!?」

 

「ぐだぐだ文句言ってんじゃねぇ、オラ行くぞ!」

 

『さぁお待ちかねだね。先輩ライダーの力…使わせてもらうよ』

 

《ドライブ!》

《ドライブ!マキシマムドライブ!!》

 

 

ドライブメモリをマキシマムスロットにセットすると、ダブルの目の前に一本の剣が出現した。クリアな刃に、最も目を惹くのは柄についたハンドル。車を操縦するあのハンドルである。

 

 

「なんだコレ…永斗の趣味か?」

 

『能力は博士に任せっきりだったから…ドライブの武器だと思うけど、ハンドルソード?』

 

「ハンドル剣だ」

 

「まんまじゃねぇか」

『もう少しいいネーミング無かったの?』

 

「文句なら泊先輩に言え。言わせないけどな! とにかく使ってみろ!」

 

「使ってみろって…あぁクソ! んなトンチキな剣どう使えば…」

 

 

シャフトを背中に戻し、立ち止まっていたディストピアに「ハンドル剣」で斬りかかった。メタルシャフトと同じ要領で使ってみるが、想像よりかなり軽く、動かしやすい。あのディストピアに対しスムーズに四撃も入った。

 

 

「へぇ…名前の割には意外と使いやすいじゃねぇかコレ」

 

「フフン…それだけじゃねぇぜ! ハンドル切ってみろ!」

 

「ハンドルを?」

『アラシ貸して。こうでしょ』

 

《Turn!》

 

「これでどうすんだ?」

 

「こうすんだ。ほら行ってこい!」

 

「うおおっ!?」

 

 

ソニックがダブルの背中を押すと、強風に吹かれたかのように急加速。剣に引っ張られるように体が勝手に動き、滑らかな連続斬りが繰り出された。予測し辛い攻撃だったようで、何発かは防がれたが後半は防御を振り切ってダメージを与えることができた。

 

 

「…ッ、ふざけた攻撃を……」

 

「な、なんだ今の……」

 

「コレもハンドル剣の能力だ! それに…ドライブの力が使えるってんなら多分アレも…っと!」

 

 

ソニックがダブルのマキシマムスロットを再度叩くと、今度は銃が出てきた。予想に違わずまた風変りな形状で、今度は車のドアのようになっていた。

 

 

「なんだ? 銃……まさかコレ…」

『ドア銃だね』

 

「正解だ永斗少年!」

 

「マジでネーミングセンスどうかしてんぞお前の先輩!」

 

「それは言わねえ約束だ、んじゃまそろそろ俺も行くかぁ!」

 

《SignalBike!》

《Signal koukan!》

《Legend!!》

 

 

ソニックはシグナルブレイヴをシグナルレジェンドダブルに入れ替え、能力が発動。元々機動力に優れるソニックだが、緑色の風を纏ってそれが更に向上したのを感じた。

 

 

「よーし…行くぜ!」

 

 

手首をダブルのようにスナップさせ、攻撃を斬撃から肉弾戦へと切り替えた。サイクロンの力で動きが流動的になり、ジョーカーの力で一気に穿つ。二乗になった風の力で、ディストピアの動きを凌駕しダメージを与えた。

 

 

『ま、銃ならコレだよね!』

 

《ルナトリガー!!》

 

 

ルナトリガーにチェンジしたダブルは、トリガーマグナムとドア銃の二丁拳銃でソニックの戦いをサポートする。

 

 

「コイツも名前の割にいい火力してんじゃねぇか。名前がアレだが」

 

「お前ばっかズルいぞ!それよこせ!」

 

「あっおい! ったく…使いてぇならそう言えっての」

『憧れの先輩だっけ?それなら尚更だよね〜。って、ん?』

 

 

ソニックがハンドル剣を奪取し、攻撃を再び斬撃に。呆れるアラシとなだめる永斗だったが、突然ドア銃の連射が止まってしまった。弾切れのようだが、リロード方法が分からない。そんな時、ソニックがダブルに指示を出す。

 

 

「ドアを開けて閉めろ!」

 

「あ? 開けて閉める?…こうか。喰らえ!」

 

 

《半・ドア………》

 

 

「……は?」

 

 

言われた通りにしたのに銃弾は発射されなかった。ドア銃をよく見ると、ドアが少し開いたままになっている。

 

 

「ばーか…ドアはちゃんと閉めろって」

 

 

どうやら半ドアではリロードされない仕組みになっているらしい。

 

 

「なんだよそれ!?」

 

『そうだよアラシ、開けたらちゃんと閉めないと…』

 

「いやそうじゃねぇだろ! なんだその無駄に細けぇ仕様は!?」

 

「ドア銃を作った沢神りんな博士の拘りなんだとさ」

 

「なんだよそのこだわり……どいつもこいつも一周回って馬鹿なんだろ、天才ってやつは」

 

《Charge!》

 

「そうそう…よーし、俺も!」

 

 

煌風を納刀したソニックは、ダブルの力でトリガーマグナムを出現させ、風の弾丸を乱射してディストピアに反撃の隙を与えない。油断はできない強敵だ、このまま押し切るしかない。

 

そしてリジェネレイトブラッシャーを投げ捨て、ハンドル剣とメタルシャフトを構え、ハンドル剣のハンドルを切ってクラクションを鳴らし、完全な攻撃態勢に。

 

 

《Turn!ドリフト・カイテーン!!》

 

「行くぜ!」

 

 

超高速回転斬りと棍棒の連打の合わせ技。威力の壮絶さは言うまでもない。

 

 

『アラシ、こっちも使ってみようよ』

 

「あぁ、この白い方だな!」

 

《マッハ!》

《マッハ!マキシマムドライブ!!》

 

 

仮面ライダーマッハの力が発動し、ダブルの体が白いオーラと蒸気に包まれる。それを見てソニックは仮面ライダーマッハ、詩島剛の戦いを思い出し、再びダブルへと指示を出す。

 

 

「アラシ! サイクロンジョーカーに戻せ!」

 

「あ?…おう。でもなんでだ?」

 

「マッハ先輩の力を活かすならその姿が多分1番だ。ほらコレ!」

 

 

サイクロンジョーカーに切り替えたダブルに、ソニックはゼンリンシューターを手渡す。改めて見るとこれもそこそこに変わった見た目だ。前輪がそのまま付いているのだから。

 

 

「さぁ着いてこい!」

 

『着いてこいって…あーでもなんか速そうな感じするね』

 

「おいファースト、さっきからボサっと見てんじゃねぇよ。テメェも合わせろ!」

 

「異世界の仮面ライダーの力。珍しかったから見入っていただけだ。指図をするな!」

 

 

鼓動と共鳴し、鳴り響くエンジン音。白い稲妻を帯びた連撃を叩き込み、ゼンリンシューターを連射。知らないはずの仮面ライダーマッハの戦い方を見事になぞり、音速目掛けて加速していく。

 

 

『すっご…ライトニングより速いよこれ』

「この速さなら置いて行かれねぇな!」

 

「よーし…俺も!」

 

《Turn!Turn!U・Turn!!》

 

 

カーブとターン、スピードアップを繰り返しキレを増していくソニックの斬撃。それに合わせシグナルカクサーンの力を発動させたダブルが、ディストピアの頭上に弾丸の豪雨を降らせた。

 

 

「泊進ノ介…詩島剛…!ここにいない仮面ライダーの力まで…一時霧香……!」

 

 

いずれもエルバが見込んだ者たちと同じ、歴史に名を残すに足る非凡な存在。エルバ自身が望んだ存在であるはずの彼らに、苛立ってしかたがない。

 

そんなディストピアを連撃で退け、急ブレーキをかけ並び立つソニックとダブル。ソニックはシグナルレジェンドダブルをハンドル剣に、ダブルはドライブメモリをマキシマムスロットに装填。

 

 

《ヒッサーツ!Full throttle!!》

《ドライブ!マキシマムドライブ!!》

 

「ハァァァァッ!!」

 

「レベル…2!」

 

 

蒼、緑、黒の風、そして紫の炎。混ざり合う4色がディストピアに炸裂。そして、何処からともなく現れた深紅のスーパーマシン『トライドロン』が、必殺の合図となる。

 

 

「我流剣 二ノ技…二刀流・怒髪天(どはつてん)!」

 

 

ディストピアの空拳と真っ向から「打ち合う」のは、怒りを乗せたスラッシュの二刀。「斬る」よりも「壊す」ことを重視したその技は、およそ剣では出せないレベルの衝撃値を叩きだす。

 

スラッシュの技でディストピアの体が大きく弾かれ、飛ばされた先はトライドロンが旋回する中心。

 

 

「『ダブル・スピードロップ!!』」

「よーし…俺も!!」

 

 

動くトライドロンを足場にし、その領域で反射を繰り返して何度も蹴りを叩き込む。そこに憧れにブレーキをかけられなかったソニックも乱入。二倍となったキックの嵐が次々とディストピアに叩きつけられていく。

 

 

「「『ハァァァァッッ!!!』」」

 

 

最後の一撃がディストピアを貫き、地面を削ってダブルとソニックは着地。「ナイスドライブ」と、声に出さずとも拳を合わせて通じ合った。

 

 

ディストピアのドライバーが火花を散らす。痛みが心の臓まで届きそうだ。息が止まる。苦しい。心拍数が薄れ、消えて行く。耐え難い苦しみの中で、エルバは思考する。

 

 

憂鬱を晴らしたかっただけだった。それなのに、何も変わらない。未来が一向に見えてこない。憂鬱の病は、どこまでもエルバを蝕んでいく。このまま苦しんで終わるのか、不快な奴らが笑っているのを見て諦めるのか。

 

面白くない。笑えない。もう何もしたくなくて、何も考えたくない。

鬱だ。憂鬱だ。どうせ憂鬱でしかないなら、考えるのもやめてしまおう。

 

 

「───どうでもいいな」

 

「っ…おいざけんなボケが。倒せた流れだったろうが!」

「流石にJokeが過ぎるぜ、まだ起きるってのかよ!」

 

「天城隼斗…切風アラシ…士門……いや、もういいか。俺にとっては結局、全部が無価値だった。それだけの話だったんだ」

 

 

死体と同じ気配で、ディストピアは立ち上がった。そこにはもう葛藤はなかった。あるのはただひたすらに質の悪い、天才の思考放棄。

 

ディストピアが虚空に手をかざす。すると、黒い稲妻が収束。それだけでその場にいる全員が絶望するには十分過ぎた。その手に生み出されたのは、絶望郷の剣よりも数回りも強大な武器『絶望郷の戦斧』だったのだから。

 

 

「雲があると、見栄えが悪いか」

 

 

ディストピアが巨大な斧を天に振るう。

解放されたエネルギーが天空で爆ぜ、その一撃は()()()()()。爆発が起こるよりも遥かに静かに、鷲頭山上空の雲を全て消滅させたのだ。それは最早、神の所業。

 

 

「どういうことだよ…どこにそんな力が!」

 

「馬鹿を言うな。ずっと考えて試していただけだ、俺が笑うための手段を。だが無理だと悟っただけの事。俺がただ世界を壊すのに、策も力も必要無い」

 

 

___________________

 

 

 

チャージ時間中に修復し、エデンの必殺を凌いだディファレントだったが、戦闘開始時よりも明らかに消耗しているのが分かった。そこに勝機を見出し、エデンとスレイヤーは更に攻撃を加えようとした、その時だった。

 

 

『………!!』

 

 

「なんだ…!?」

「これッテ…あの時と同じ、異世界へのワームホール!?」

 

 

ディファレントの手から放たれた波動が、雲の消えた空に黒い渦を作り出した。それは隼斗たちをダブルの世界に送り込んだ、異世界に通じる孔そのもの。

 

 

__________________

 

 

「テメェ…まさか元の世界に逃げる気か!? 上等だよ、どこまでだって追いかけてやる」

 

「帰る? 違うな、俺が向かう場所なんてどこにもない。だから壊すんだ。今度は世界の移動なんて生温いことは言わない、二つの世界を衝突させる」

 

「衝突!? そんなことになりゃ…どうなっちまうんだよ!」

 

『分かんないけど…上手いこと融合できても死人は千や万じゃ済まないだろうし、下手すればぶつかったとこから綺麗さっぱり対消滅…! 普通にぶつかっても災害どころじゃないでしょ…!』

 

「絶望し、生きる理由を、戦う理由を忘れたか? 精々味わえ、それが俺の憂鬱だ」

 

 

ディストピアが斧を大地に突き刺した。瞬間、破壊のエネルギーが駆け、足場がひび割れ崩壊を始める。そしてディストピアは、絶望郷の開国宣言を憂鬱そうに発した。

 

 

「開闢せよ、『憂鬱世界』───」

 

 

重加速とは異なる黒い霧。山の全てを、内浦の街をも飲み込み、絶望で人の心を固定し、時間を止める。誰も前進しない。誰も生きようとしない。黒き支配者のエゴを強制され、滅びを待つだけの憂鬱の絶望郷が、そこに完成した。

 

 

(またこれかクソ…! 動けねぇ!)

 

 

巨大な生物に圧し潰されているように、身動きが全く取れない。それはソニックやファーストも同じ。恐らくここら一帯にいる全ての生命が同じ状況に陥っている。

 

できるのは上を見上げ、空の孔を睨み続けることだけ。うっすらと見え始める「あちらの世界」が、滅亡へのカウントダウン開始を意味していた。

 

 

「最初からこうするべきだったんだ。こんな結末、あぁ全く……笑えないな」

 

(クソが…! 動け! せめて声くらい出せや俺! 永斗! 隼斗! 早く立ち上がれ! 早く!!)

 

 

まるで体が石になったように声も出せなくなり、やがて思考や感覚さえも停滞を始めた。このままでは世界が止まり、止まったまま静かに終わりを迎えるだろう。立ち上がらねば、一刻も早く。

 

立ち上がったとして、どうする?

 

 

(……そうだ。立ち上がったからなんだってんだ。あんだけやってエルバの野郎はまだ余裕だ。世界がぶつかるのだってどう止めりゃいい? 俺がここで起き上がったところで、何も───)

 

 

アラシの、永斗の、隼斗の全てが憂鬱に沈む。

意識が隅々まで暗闇に塗り潰されそうになった、その時。光を放ったのはその過去。帰るべき場所に置いてきた、彼女たちだった。

 

 

(馬鹿か…俺は! ここで死ねねぇ、世界を終わらせてたまるか! アイツらが待ってんだよ…! 文化祭あんだろうが。廃校覆すんだろうが!! 夢を叶えさせてやるんだ、俺達が!)

 

 

永斗もまた、アラシと同じように追い縋る暗闇から脱した。アラシとは違い、永斗は少しだけ冷静に戦局を俯瞰する。

 

 

(さて、気合で踏みとどまってもどうするか…声も出ないし、まだ首の皮一枚だ。なんか勝ち目とか見つけないと…このままじゃ結局同じ……!)

 

(クッソあの野郎、自分も死ぬってのに悠々と突っ立ってやがる…! 俺達にはトドメ刺さなくてもいいってか? あぁ!? こんな時にイライラさせ……! 待てよ…!)

 

 

佇んだまま動かないディストピア。そこに永斗とアラシは光明を見出した。もし動かないんじゃなくて、動けないのだとしたら? その理由はダメージの受けすぎか? そもそも、ゴールドメモリであるディストピアの再生力が異様に低い理由は?

 

エルバは能力発動前にわざわざ絶望を見せつけた。そして、先の戦闘で憐が一度重圧を振り払った。その時「怒り」という感情に満たされたからと考えると、答えは見える。

 

 

(見えたね、エルバの『憂鬱世界』の全容)

 

(永斗…! やっと声が繋がりやがった!)

 

(アラシも気付いたでしょ。だから繋がった。そう、あの能力の正体は…範囲内の人間全てに、精神状態に応じた概念的重圧をかける能力。そんで多分、いや絶対。それは自分にもかかってる)

 

 

普段は出力を抑えているのだろうが、恐らく『憂鬱世界』は解除不可の能力。エルバは憂鬱に苦しみ続けている。だから常に概念的圧力でエルバの体は停滞し、「傷の治りが遅く」、「老化もしない」。出力が最大の今、エルバは一歩も動くことは出来ないのだ。

 

今、アラシ達が動けないのも同じ理由だ。絶望し、何をしても仕方がないと思ってしまったから。即ち憂鬱になったから。

 

 

(簡単な話じゃねぇか畜生…! 要は根性で前向けってことだ!)

 

(あの時の憐くんみたいに、絶望してる暇ないほど昂るんだ。ブチ切れればいい。アラシ得意技でしょ?)

 

(るせぇよボケ。悪いが今回は怒りじゃねぇ、希望だ! お前も起きてんだろ隼斗! アイツは動けねぇ、今こそ動き出せ! この止まった世界で俺達だけが走るんだ! お前となら…世界を救える!)

 

 

 

「「うおおおおおおおおおっ!!!!」」

 

 

 

戦士の咆哮が、憂鬱に染まった世界を揺らした。

憂鬱に堕ちない、それ即ち生きることと同義。圧倒的な絶望を凌駕し、未来を諦めなかった世界を越えた絆。同じ結論に至った仮面ライダーダブル、仮面ライダーソニックが、エルバの憂鬱を掻き消したのだ。

 

 

「…は……!? 馬鹿な……! この憂鬱世界の中で、何故動ける…!?」

 

「テメェとは違うんだよ根暗野郎が! 背負う責任、戦う覚悟ってやつがな!」

 

『まぁ僕は死ねないからねー。全部諦めてずっと後悔する方が、死ぬより面倒くさい。だから諦めない』

 

「俺達を舐めんなって言っただろエルバ! 俺達はヒーローだ! ヒーローは…憂鬱なんかじゃ終わらねえんだよ!!」

 

 

彼らの目覚めで、止まっていた時間が動き出す。

動き始めたのは彼らだけではない。仮面ライダーならば当然、こんな憂鬱に躓いたりはしない。

 

 

《Volcanic!キュウニ!Dead Heat!Meteor!!》

 

「…っシャア!! しっかり覚えてるゼ、あの時の感覚! 体中熱くなるくらいの怒り! こんなもんで俺っちのデッドヒートは止められネェ!!」

 

 

前にただ一人、憂鬱世界を克服していたスレイヤーは、その時の感覚を頼りに重圧を振り切った。世界の孔を広げるディストピアに一撃を加えようとした、その時。並び立つもう一人の覚醒者。

 

 

「フッ…竜騎士、再び復活!」

 

「シュバルツ! マジかお前、このプレッシャーをぶっつけで乗り切ったのカヨ!」

 

「プレッシャー…? 何のことだ。俺はただ、さっきの死神の一撃の代償で動けなかっただけだが…」

 

「…ハハッ! お前やっぱ半端ねぇナ!」

 

 

善子と再会し、胸に残っていた未練が全て取り払われた瞬樹には、そもそも憂鬱に落ちる要素などなかった。悩んでいない時の馬鹿は、世界滅亡が眼前にあるくらいでは挫けたりしないのだ。

 

 

「さぁ引っ越しの準備はできたかクソ野郎。悪ぃが元の世界にも帰らせねぇぞ。テメェの引っ越し先は地獄だ、憂鬱になんて一人で堕ちてろ!」

 

 

動きが鈍るディストピアに反し、ダブルは有り得ないほど身軽に全霊の回し蹴りを叩き入れる。

 

 

「お前の敗因はsimpleだ! お前は俺達の逆鱗に触れた! 覚えておけ! 俺達は…スクールアイドルを守る、仮面ライダーだ!」

 

 

鈍化した意識ではもはや目で追えない速度。ソニックの連打がディストピアの装甲を貫き、それらは全てエルバの命に至る痛みへと昇華した。

 

 

「つまんねぇ人生の終わりが見えたか。そいつがテメェのやってきたことのツケだ。そういや、テメェにはまだ言ってなかったよな」

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

「何故…だ。俺の苦しみを、重さを…絶望を…! 全て知ったはずだ! 何故お前達は笑っている。何故お前達の世界は晴れた…! 何故、俺、だけ…が…………」

 

 

『憂鬱世界』の効力で、ディストピアの体は重くなる一方。この戦場で最も憂鬱なのは、彼なのだから。いずれ感覚が閉じる。意識が閉じる。彼の世界が…終わる。

 

 

生命とは一つの劇だ。憂鬱とはそれに対する批評だ。

 

違う。憂鬱=退屈、なんかじゃない。

憂鬱は無じゃない。マイナスなのだ。それはあらゆる負の感情の終着点。何より、己への嫌悪感がその道標。

 

 

『エルバ様、私は貴方の所有物…なんなりと捨て石に』

『反抗? 馬鹿言わんで欲しいぜ、誰があんたに勝てるってんだ?』

『ワタシの美学を理解するのはアナタだけでいい! アナタだけのために創造しましょう!』

『海の支配が俺の祖先の悲願。エルバ様がその時代にいたら、誰もそう願わなかっただろうよ』

『おれには大地の声が聞こえる。その全ては、エルバ様への賛美だと理解した』

 

『あぁ…素晴らしいよ兄上。僕は満たされてしまった、頂点になんて届き得ないと。僕は貴方の下には行かないよ。この軽薄な命が尽きるまで、この矮小な力で衆愚を貪り生きると決めた』

 

 

期待していたのに、誰もが変わってしまうんだ。自分の才能のせいで、優れた才能が錆びてしまう。笑えなくなってしまう。誰もを絶望させ、憂鬱にするんだ。

 

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

そう、誰かのせいなんかじゃない。人生がつまらないのは全て自分のせいだ。

 

でも彼らは違った。

俺を目の前にしても憂鬱に堕ちなかった。笑っていた。俺は羨ましかったんだ。笑っている人たちに駆け寄り、仲間に入れて欲しかった。

 

 

欲しいものがあったんだ。でもあれは俺には相応しくない。

欲しいものはあったんだ。でも手に入らなかったから諦めた。

欲しいものはあったのに。手に入らないから怒った。駄々をこねた。

 

あぁつまらない! 何もうまくいかない! 世界なんて無くなればいい!

 

 

「………愚かだな、まるで子供じゃないか」

 

 

憂鬱の底を目前にして、ディストピアは力強く足を踏み出した。崩れかけた大地を踏み固めるように。そして……

 

 

「は…はははははっ!! あっはっはははははは!!」

 

 

笑った。腹を抱え、膝が崩れそうになるほど笑っていた。

世界の孔が閉じていく。世界の終わりが、遥か時空の彼方に遠のいて行く。

 

 

「…認めよう、天城隼斗。切風アラシ。士門永斗。そして…松浦果南。俺は君たちを侮っていた。俺より下の、取るに足らない存在と。だが訂正する、それは誤りだ」

 

「急に何言ってやがんだテメェ…」

 

「まぁ聞いてくれ。劣っていたのは俺だ。全ては君たちの言う通りだった! 俺は認めたくなくて、駄々をこねていたに過ぎない。滑稽だろう、笑うといい」

 

『隼斗さん、この人急にキモくなったんだけど…その…』

「分かってるよ永斗少年。さっきよりもずっと、強さの圧が半端ねぇ……!」

 

 

笑みを撒き散らすディストピアに、誰一人油断なんてしていない。目の前にいるのは先ほどよりも遥かに成長した、巨大な何かだ。

 

 

「世界を滅ぼすのは中止だ。災害にだろうと立ち向かおう、この世界の全てのライダー、悪に挑もう。空を飛び、海を駆け、大地を制する日まで退屈する暇なんて無い。俺に出来ないことなんて山ほどある」

 

「……させねえよ。お前にはもう、何も!」

 

「それでいいさ仮面ライダーソニック。そうだ、そういえば一つ自覚したことがある。俺は松浦果南に恋をしていたようだ」

 

「………はぁ!!??」

 

「これだけ生きて初めての経験だよ。だが、彼女は君を好いているようだ。それでは全く笑えない。だからこれが、俺の最初の挑戦だ」

 

 

絶望郷の戦斧を引き抜き、巨大な斧を仮面ライダーたちに向ける。向けられた刃先は随分と軽そうで、それが意味するものはかつてなく重い。

 

 

「仮面ライダーソニック、恋敵の君を超え、松浦果南を手に入れる。仮面ライダーダブル、俺を否定する君を倒し、俺という存在を俺自身が肯定する。さぁ…ここからが本当の勝負だ。笑い合おう、仮面ライダー!」

 

「ざっけんなクソが! 誰が誰に恋したって!? お前みたいな悪党に姉ちゃんを渡すわけねえだろうが!! もう我慢ならねぇ…俺がぶっ殺す!!!」

 

「急に開き直ってんじゃねぇよボケ! そのまま落ち込んだまま死んどきゃよかったんだカスが!!! 何回でも否定してやんよ憂鬱ゲリクソ野郎!!」

 

『お二人さん。ヒーローの台詞じゃないよそれ』

 

 

怒りでボルテージが上がったものの、警戒は過去最大値だ。今のディストピアは危険すぎる。しかし、そんな最大の警戒も不足と嘲笑するように、ディストピアは一瞬でソニックとダブルの懐に入り込んでいた。

 

 

「嘘だろ、速───」

「体が軽い。思い出す、生まれた頃のようだ」

 

 

今のエルバは『憂鬱世界』による重圧を一切感じなくなっていた。血液は全身を激しく循環し、吸った空気が指先にまで巡る。体が羽のように軽い。

 

ディストピアは身の丈ほどもある斧を軽々振り回し、そこには当然空間切除の能力付き。そんな冗談みたいな攻撃をなんとか切り抜けたダブルとソニックだったが、息つく暇も無く『次』の予感がビリビリと肌を揺らす。

 

高く腕を振り上げ、斧が縦一閃に叩き下ろされた。

黒い閃光が世界を左右に分断する。その一撃は地中深くにまで到達し、山を割り、ここから見える海をも烈断した。

 

 

『地形変えたんだけどあの人…!!』

 

「正真正銘、これが俺の全力だ。君たちに対する全霊の敬意を示し、久々に『技』を使うとしよう」

 

 

それを聞き、ソニックとダブルは一瞬で回避を選択した。ディストピアが技と呼ぶものとまともに打ち合って、生きていられる気が到底しない。しかし、そんな予想も軽々と超えるのが、エルバという究極の才能。

 

 

「───黒天の彼方(ネロ・ユニヴェルソ)!」

 

 

斧の大振り。その衝撃波に乗せられたのは密度の高い『憂鬱世界』と、速度の遅い空間切断。そして最たる脅威は、銀河の星を想起するほど数多の「形ある斬撃」。

 

形ある斬撃の方は剣や打撃で弾けるが、だから何だと言いたくなる馬鹿げた数と複雑な軌道。これを速度の異なる空間切断の回避に合わせて捌かなければならない。そのうえ一瞬でも絶望を感じれば『憂鬱世界』で動きを奪われ、粉微塵だ。

 

 

「やるしかねぇ!! 突破するぞ!!」

「All right! 上等だぁッ!!」

『あーもう! なんなのこのクソゲーは!!』

 

 

信じられないほど煩雑で技巧が極まった攻撃。これをあの一振りで繰り出すだなんて、世迷言や冗談のレベルを超えている。それでもなんとかダブルとソニックは凌ぎ続けた。だが、まだ黒い宇宙は中間地点に過ぎない。

 

受けきれない。神経がそう感じ取り、思考してしまう寸前。

割って入った何かが黒い宇宙をかき分け、その先の出口に見える景色へと導いた。ダブルとソニックはディストピアの技を突破したのだ。

 

 

「なんだ今の…!」

 

「いや、一瞬見えた。今のはファースト!……どこ行ったんだ?」

 

 

ソニックが見た通り、彼らの窮地を救ったのは息をひそめていたスラッシュだ。しかし、そこから剣士の姿は既に消え去ってしまっていた。

 

 

「───ここまでだな……」

 

 

戦場から離脱したスラッシュ───いや、変身前の『ファースト』が手首のコネクタを抑えて歯を食いしばる。先程の攻防で全身を随分と削られた。捌ききることが出来ず、ほぼ身代わりの形になってしまったのだ。

 

というのも、体が重い。ファーストの心に根付く『ソレ』のせいで、ファーストは『憂鬱世界』を完全に克服することができなかったのだ。このまま戦っても足手まといにしかならない。

 

 

「不覚もいいところだ…! やむを得ないな…俺の『剣』を貸してやる。だから必ず憂鬱を斬れ、切風アラシ!」

 

 

ファーストが去った後、そこには激しい斬撃の跡と共にガイアメモリが横たわっていた。それは黒く輝くオリジンメモリ。描かれたのは、流麗な斬撃が竹を斬る“S”。

 

 

『これ、スラッシュメモリ!? マジで…!?』

 

「good.粋な計らいしてくれやがるぜ…!」

 

「いつからそんな仲になったんだ? まぁ使えって言うなら上等だ。借りパクしても文句言うんじゃねぇぞ!」

 

《スラッシュ!》

 

 

ダブルはジョーカーメモリを引き抜き、オリジンメモリの“S”、スラッシュメモリを装填。再びドライバーを展開し、その溢れる力を全身に開放する。

 

 

「『変身!』」

 

《サイクロンスラッシュ!!》

 

 

ギターが奏でる風の音、それに続き響き渡る三味線。表現するは武の魂。

ダブルの左半身がより漆黒へと変わり、マフラーの代わりに二色の腰マントが風を受け止める。左手に握るのは、借り受けた剣士の力『スラッシュブレイカー』。

 

蓄積された膨大な剣士の記憶が、ダブルの頭に流れ込む。剣の振り方、技、その戦いの歴史の全ての最後に、誉れ高きその名前が浮かび上がった。

 

その名は「疾風の剣士」。仮面ライダーダブル サイクロンスラッシュ!

 

 

「“S”のメモリを継承したか…!」

 

『いいね、スペシャルな感じ。いつも以上に…下手すりゃファング以上の力を感じる』

 

「隼斗!俺はまだ見た事ねぇけど、お前まだ限界突破の全力があるんだろ? それまだ使えるか!」

 

「オーバーブレイクのことか? 10秒くらいなら……いや…」

 

 

ソニックは連戦に次ぐ連戦で体力の限界だ。こんな状態で限界突破のオーバーブレイクを使えば命にかかわる。しかし、そんな事を気にして勝てる相手じゃないのは百も承知。

 

隼斗は心の中で果南に謝った。今は、覚悟を決める時だ。

 

 

「20秒だ! 20秒なら全速力で駆け抜けられる!」

 

『了解。思ったよりもずっと長いけど、博士には黙っとくよ』

「命運賭けるには十分過ぎる時間だ。この20秒で…終わりにするぞ!」

 

「いいだろう。さぁ、最後の勝負だ!」

 

 

 

________________

 

 

「凄い地響き…さっき海も割れたし、あの空の穴も消えた…何が起こってるの…?」

 

「愚問ねリリー。きっと近づいているということよ、この聖戦の終幕が! さぁ堕天使ヨハネの名において命じます! 我が堕天同盟よ、今こそ地上を救いへと導くのです!」

 

「合点承知! ハーさんも激しくやり合ってるみたいだシ、俺っちたちもいっちょ行こうゼ! ド派手にナァ!!」

 

「あぁ! 心が無い貴様にも刻み付けてやる、憂鬱の傀儡! 来たる断罪の恐れを、そして我らが天使の偉大さを!」

 

 

戦いが終局へと踏み込んだのを、荒れる風が伝えてくれる。

エデンは盾の形のガイアメモリを起動させ、その切り札を切った。天使の加護という名の優しさが心に満ちている今、天国の門は開く。

 

 

《ヘブン!》

 

「待たせた黒騎士! これが俺の、ガチの上のガチ! 刮目せよ、我が名は天竜騎士シュバルツだ!」

 

 

ロードドライバーを装着し、叩き入れたヘブンメモリが翼を展開する。

 

 

《ヘブン!マキシマムオーバーロード!!》

《Mode:MESSIAH》

 

 

救世主の称号を掲げ、銀が剥がれ落ちて騎士は白く輝く。翠の光を翼のように溢れさせる。神々しさを強さとして纏いて、聖騎士は名乗りを上げた。

 

 

「仮面ライダーエデンヘブンズ! 異界の地にて、いざ! 再誕!」

 

『……!!』

 

 

脅威を電子頭脳で感じ取ったか、名乗りに間髪入れず攻撃を仕掛けるディファレント。ターボで爆発的加速からの接近。未放出だったエネルギーを両腕に充填し、ガトリングの乱射と共に解き放った。

 

 

「シュバルツ!」

 

 

普通に喰らえば肉片すらも残らない狂気的な火力。しかし、一筋の光がスレイヤーを始め全員の視界を駆けたかと思うと、エデンの姿はディファレントの背後に。

 

その気配に反射するディファレントだが、一歩遅い。スピア状に変形したエデンドライバーに光を纏わせて振るうと、光速の衝撃波がディファレントを天空に吹き飛ばした。

 

 

「瞬間移動にパワー…アレがシュバルツのガチ…スッゲェ!」

 

「当然でしょ憐。この堕天使ヨハネが認めた竜騎士よ!」

 

 

だが、ディファレントは弾き飛ばされた先、空中でその勢いを留めた。反重力を全身から発して滞空、飛行しているのだ。

 

 

「アイツ飛べたのカヨ…」

 

「望む所だ。我ら2人の竜騎士、双方共に羽ばたく翼を持っている。その大空が貴様の墓標だ! ロイミュード!」

 

「ヨッシャ! そこで見てな、ヨっちゃんに梨子サン! シュバルツと一緒に、いっちょ世界救って来っカラ!」

 

《Volcanic!キュウニ!Dead Heat!Meteor!!》

 

 

スレイヤーはドライバーのイグナイターを連打し、再び竜の炎を纏い、その熱と闘志をバーストさせた。紅蓮の翼と光の翼が広がり、戦いは空へと場所を変える。

 

 

『……破壊!』

 

「急に喋りやがっテ! ビックリすんだろーガ!」

 

 

反重力と重加速が重なった、不可視のバリアがディファレントを覆う。しかし、スレイヤーの炎は勢いを更に爆発させ、その守りを強引に突破。熱されたクローでその胴体を斬り裂く。

 

斬り裂いたところから温度が上昇し、発火。電子回路を焼き尽くす。スレイヤーはそれに重ねるように、次々と竜の爪痕を刻み付けていく。そんな防御度外視のインファイトを甘んじて受ける理由はなく、ディファレントは圧縮した反重力を放ち、スレイヤーを地上近くまで退かせた。

 

 

「任せタ、シュバルツ!」

 

『……!?』

 

「こっちだ!」

 

 

超重加速の防壁をテレポートで潜り抜け、光の一閃がディファレントを刺し貫いた。反撃の四方八方から放たれる反射エネルギー弾を、エデンは光速で避けて、避けて、避け続ける。空を駆ける閃光を、ディファレントは追う事ができない。

 

 

天刃飛翔(ヘブンズソード)!」

 

 

エデンの周囲に出現する光の刃が3本。それらはエデンの意思に応じて自在に飛び回る。増えた攻撃手段に意識を割いたディファレントは、その接近に対して少しだけ油断を見せてしまった。

 

 

「ただいま…ッテナ!」

 

「それを使え黒騎士!」

 

「ありがたく頂戴するゼ!」

 

 

その僅かな油断を、獣は切り拓いて致命傷にする。

再び舞い戻ったスレイヤーがエデンの刃を受け取り、斬りかかった。即座に学習したディファレントは鋭い爪を装備して対応。優れた知能で2対1の斬り合いを分析し、渡り合う。

 

だが、光の刃を持つスレイヤーはエデンの能力の加護下。ディファレントのエネルギー斬撃がヒットする寸前にスレイヤーを瞬間移動させ、それに驚異的な直感で対応したスレイヤーが転移先で即座に超高火力の攻撃を放った。

 

 

『……スレイヤー…! エデン…!』

 

 

黒い炎で焼け焦げるディファレント。腕を振り回して繰り出した超密度追尾式のエネルギー斬撃も、独立移動のエデンの2本の刃に阻まれ、エデンの接近を許してしまった。

 

そしてスレイヤーが投げ放った光の刃が一度ディファレントを斬り、反転し、他の2本と同様にエデンの槍に結合。強化された槍の光が、空に、海に、大地に降り注ぎ、神の一閃がディファレントの装備を一撃で打ち砕いた。

 

 

「…チクショウ、やっぱ足りねぇよナァ…」

 

 

この攻勢にもスレイヤーは嘆きを呟いた。何故なら、肝心のディファレントに入っているダメージは充分とは言い難いから。これだけ攻撃してもかなりの割合の衝撃を吸収されている。

 

そもそも、前に戦った時はダブル、ソニック、スレイヤー、エデンの必殺技を全て吸収され、即座に反射されたのだ。甘く見積もったとして、あれ以上の攻撃を2人で繰り出さなければいけないということ。

 

装備を破壊されたディファレントが、大きな構えを見せている。さっきの攻防でスパートをかけ過ぎたか、反応が遅れてしまった。ここまでのエネルギーを反射する気だ。

 

 

「噂をすれば光が射す…か…!」

 

「影ナ! その姿、防御はそんなダロ!? 俺っちの後ろ隠れてロ!」

 

 

一方向に砲撃の如く放出されたエネルギーを、スレイヤーが全身全霊で受け止める。エデンヘブンズとは違い、隕石から作られたメテオデッドヒートは防御にも秀でている。しかし、それも限度があるというもので、その砲撃をなんとか突破はできたものの、かなり体力を削られてしまった。

 

 

「クッソ、急に頭悪い攻撃しやがっテ…いや待てヨ…!?」

 

 

ディファレントの体の光が、先程よりも弱まっている。

憐の思考に光明が差した。あの吸収を打ち破る方法はこれしかない。

 

 

「シュバルツ! アイツ、さっきからちょくちょくエネルギーを“排出”してル! 溜めたエネルギーは出さなきゃ消えなくて、体に溜めておけるエネルギーにも限界があるんダ!」

 

「トイレみたいなものか!」

 

「うんじゃあそれでいーワ! 認識が汚ぇケド!」

 

「フッ…つまり、どういうことだ!」

 

「アイツがパンクするまで、放出させずにぶん殴り続けル! とどのつまり根性の体力勝負ダ!」

 

 

そうと決まれば余計な問答は不要。ここから先は隙さえも与えず、レッドゾーンで全力を放ち続ける危険領域(デッドヒートエリア)。2人の仮面ライダーが、各々の全開を解き放った。

 

 

《ヒッサツ!Volca Full throttle!Dead Heat!!》

《Meteor!!》

 

《ガイアコネクト》

《ヘブン!》《ドラゴン!》

《マキシマムオーバードライブ!!》

 

 

「ブレイクダウン・シャウト!!」

 

 

それは惑星に迫る隕石そのもの。スレイヤーは激しい加速で空気を裂き、その摩擦と溢れるエネルギーが暴走せんばかりの激しい熱炎を生む。

 

荒ぶる力を猛る感情で調律し、炎を拳に圧縮させ、スレイヤーは空中で鎮座するディファレントを前置き無しの最大出力で殴り落とした。回避不能の災害に見舞われ、墜落したディファレント。

 

墜落の地響き。地面は波状にひび割れ、大地の割れ目から爆炎が噴き出す。火山の噴火に等しい破滅的な二次災害が、ディファレントを継続的に削り続ける。

 

 

先の一撃で様変わりはしたが、一度移り変わった戦場は再び善子たちが待つ鷲頭山へ。スレイヤーの一撃でかなり許容量を喰われたディファレントは、その背後に死を認識していた。それが本来存在しないはずのロイミュードとしての感情や悪意を呼び覚ました。

 

どうしてこんなにも窮地に追い込まれているのか。何がきっかけでエデンとスレイヤーが強くなったのか。その答えはあの瞬間、彼女が来てからに違いない。

 

 

『津島善子…!!』

 

 

エデンとスレイヤーを応援していた善子の生体反応をすぐ近くで確認し、溜まったエネルギーの放出先、則ち悪意の矛先を善子に向けた。

 

 

「貴様、誰に向けて牙を剥いている!」

 

 

善子が悲鳴を上げる前に、その間に光が招来。瞬間移動したエデンはエネルギーの放出を許すまいと、まず善子に向けられた腕を斬り落とし、槍を放り投げて顔面に回し蹴り。更に、ブレた視界では捉えきれない速度の殴撃がもう一度頭部を襲った。

 

 

「あと、名を呼ぶときは気を付けろ。貴様如きが二度と間違えるな…『ヨハネ』だっ!!」

 

 

詠唱は省略。最短最速で、ディファレントに莫大なエネルギーを押し付ける。

 

 

楽園を統べる天竜皇の裁剣(ロード・エデン・カラドボルグ)!!」

 

 

集約した光が槍と一体化し、練り上げられた光剣をディファレントに炸裂させる。ツインマキシマムを超える出力を誇る、大地を割るほどの一撃さえも、ディファレントに触れた部分から吸収されている。

 

エデンは体の隅々から絞り出すように、出力を上げ続ける。が、無情な現実がそこにはあり、攻撃を全て吸収しきったディファレントが佇んでいた。このエネルギーを反転されれば、辺り一帯は消し飛ばされてしまうだろう。

 

 

 

「「まだだ!!!」」

 

 

 

スレイヤーとエデンは吠える。そう、終わってなんかいない。体が動く限り、この激情が叫ぶ限り、騎士道が折れない限り、彼らが倒れることは有り得ない。

 

 

《Volcanic!キュウニ!Dead Heat!Meteor!!》

 

 

スレイヤーが再びイグナイターを連打し、限界を超えた熱量が空間を喰い尽くした。まるで爆発がそのまま人の形になったようなスレイヤーは、木々を、大地を焼き尽くしながらディファレントにガントレットを叩きつけた。

 

エデンも立ち上がる手段は持っている。ヘブンメモリを閉じ、盾の中心に出現したコネクターに、このメモリを挿した。

 

 

《チェイサー!》

《チェイサー!マキシマムオーバーリロード!!》

 

 

チェイサーメモリを呼び水とし、エデンヘブンズがもう一度翼を広げる。闇と光。死神の力を帯びたエデンの姿を見て、善子の口から言葉が零れ落ちた。

 

 

「堕天竜騎士…シュバルツ!」

 

 

右翼は白。左翼は黒。それが堕天したエデンヘブンズ。黒と白の羽が舞い落ち、炎が走る大地を蹴って、エデンとスレイヤーはディストピアに駆け出した。

 

 

「悪を滅ぼセ、激憤の業火!! 悪鬼羅刹、魑魅魍魎、地獄の狩人は全てを燃やシ、狩り尽くス!! 絶望の暗闇を切り拓ケ!!」

 

「絶望を超え、二頭の竜が遍く世界に光をもたらす。我は断罪の使者。愛する堕天使の願いに応え、異界の大地を救世する者!!」

 

 

厚い雲を裂いて、世界に光が射し込めた。そんな希望が、勇猛が、ここには満ちていた。心が躍る。胸が高鳴る。止まらない輝きを、善子も唱えた。

 

 

「光と闇は一つに! 堕天の絆が結ぶ、奇跡の剣は世界を導いた! 全てのリトルデーモンよ、愛する地上の人々よ! その目に焼き付けよこれが…仮面騎士が紡ぐ希望の光!」

 

 

あらゆる世界の全ての輝きがそこに集約したような、眩く熱い輝き。感情と気力の全身全霊を乗せたエデンドライバーと、スレイクローを、絆で染まった純然たる力を───突き出す!

 

 

《ヘブン!》《ドラゴン!》

《リロード・チェイサー》

《マキシマムオーバードライブ!!》

 

《ヒッサツ!Volca Full throttle!Dead Heat!!》

《Meteor!!》

 

 

「「「騎聖と鬼神の竜皇剣(インフェルノ・エデン・レーヴァテイン)黙示録(アポカリプス)!!」」」

 

 

迫る熱光を受け止める。吸い込み続ける。だが、限界は背中に張り付く。その芽生えたばかりの悪意の器が、粉々に砕ける感覚と共に、ディファレントの意識はシャットダウンした。

 

衝撃に貫かれて暴走する光はヘブンの力で遥か上空に送られ、蓄えられた全てのエネルギーを吐き出して大爆発。

 

第二の太陽が昇ったように。一つの絶望の消失を憂鬱な世界に教えたのだ。

 

残る絶望はただ一つ。

2人の戦士は空を見上げて倒れ、主人公たちに願いを託した。

 

 

_________________

 

 

残された最後の戦いは、緊張を極めていた。

相対する1人と1人と2人で1人。うち1人は個人というには余りに強大で、2人で1人はその大きさを前に新たな力を研ぎ澄まし、もう1人は───

 

 

「Clear mind! 永遠に輝く俺の翼が 新たな未来の扉を開く!! オーバーブレイクモード! 解放ッ!!」

 

 

果南に対するエルバの告白で怒りを沸騰させていたソニックは、深い呼吸と共に感情を抑え、意識を波一つ立たない水面へと至らせた。

 

ブレイブソニックの装甲が展開し、美麗な粒子を竜巻が取り込んで、溢れる力の輝きが乱反射する。竜巻は斬り裂かれ、新境地の扉は開かれた。

 

 

《O V E R - B R E A K!!》

 

 

仮面ライダーブレイブソニック、オーバーブレイクモード。コアドライビアが半永久的に生み出すエネルギーを隼斗の肉体に循環させ、爆発的な身体強化を成す最後の切り札。

 

それは同時に諸刃の剣。発動と同時に膝が崩れそうになる。限界が近づいているのは明白だが、隼斗は足を踏みしめた。誓った20秒、勝利のためにこれだけは死守する。

 

 

「来たか…輝くソニック…!」

 

「…さっさと終わらせる!!」

 

 

世界を賭けた20秒が始まった。

 

一歩。からの急加速、音を置き去りに。

空間切断を使わせないよう、連打に次ぐ連打。20秒先のことは一切考えない、全力の二刀乱舞。

 

 

《マッハ!》

《マッハ!マキシマムドライブ!!》

 

 

ダブルもマッハメモリを使い、超加速。異次元の領域に足を踏み入れた。

 

 

「俺たちを忘れんなよ!」

 

「面白い!来るがいい、仮面ライダー!」

 

 

スラッシュメモリの力で満ちた専用装備「スラッシュブレイカー」。膨大な力だがファングのような凶暴性は見えない。まるで、遥か高みからダブルを試しているような意思を感じた。

 

 

「上等だ“S”、使いこなしてやるよ…!」

 

 

ソニックが煌風で斬り込んだ。空間切断発動より前にディストピアの斧をブラッシャーで弾き、緩急を含めた斬撃の激流でダメージを与えていく。いくら覚醒しようと、ここまでの戦闘で痛手を与えて来たのは事実。ディストピアも限界は近いはずだ。

 

ソニックの呼吸を見計らい、ディストピアが斧を振り上げる。それをカバーしてダブルがディストピアの攻撃を斬撃で妨害。スラッシュメモリの能力か、2人の太刀筋が目視できるようだった。不思議と心が落ち着く。戦場が透き通るように感じる。

 

 

残り15秒。

 

 

神経が悲鳴を上げるより速く、ソニックが更に急加速して跳び膝蹴りを叩き入れる。ノックバックするディストピアに、そのまま2連続で殴りつけ、畳み掛ける5連撃。

 

しかし、合計8発のうち半分は防がれている。あり得ない反射速度、まるで隙が無いとはこのこと。

 

隙が無いなんて文句を言えるほど偉くはない。不平不満、憤りは力づくで押し付ける。ソニックの影からダブルが剣を振るい、恐ろしいほど正確に傷と斬撃を重ねてみせた。

 

 

「やるな……だが、()()()()()()()()()()()()?」

 

 

一気にトドメ、そう考えていたダブルとソニックの足場が途端に崩れた。激しい戦いに大地が耐え切れず、割れ始めているのだ。

 

「大地の声」、スレイヤーと交戦したスワンプ・ドーパントがそんな事を言っていたのをアラシは思い当たった。この男は見よう見まねで部下の特異な才能を模倣し、この激しい攻防の対応をしながら崩れかけたポイントに誘導までしてのけたのだ。

 

ディストピアの「技」が来る。あんなものをもう一度喰らえば終わりだ。それでも止めるな、体を。最善でなくとも次の一秒の生存権を掴み取れ。

 

 

「走るぞ永斗!」

 

 

ソニックは風に乗って飛行し瞬時に距離を詰める。一方ダブルは浮いてから動くでは間に合わない。だから剣士の記憶に身を任せ、風で動きを補助しつつ『駆けた』。崩れる大地を滑り、まるで水面の近くを滑空する燕のように。

 

 

残り10秒。

 

 

折り返しを超え、また一つ次元を超えた。風が吹いたと思えば地面が割れ、木々が道端の石のように弾き飛ばされ、目視できない色彩豊かな残像と遅れて聞こえる金属音が、熾烈な戦いを混沌の世界に表現している。

 

ディストピアの一撃、ソニックとダブルの剣が拮抗。戦場が一秒止まった。大きな衝突音と共に、置き去りにしていた世界が追いつき破壊が伝播する。

 

停滞は死。すぐさま次の手を繰り出すソニックとダブルだが、注視していたディストピアの周囲の世界が歪み、その姿が眩んだ。その歪みの発生源は、ディストピアのマント。

 

武器に適応される能力をマントに使って、周囲の空間を歪めて光の屈折方向を歪めたのだ。その結果、ほんの一瞬だけ2人はディストピアを見失ってしまった。

 

 

「名も無い技だ、何せ初めてやったからな。挑戦というものはいいな…世界が瞬きで塗り替わる、形容し難い快感だ!」

 

『っ!隼斗さん!!』

 

 

その一瞬のうちにディストピアは斧に力を充填させていた。ディストピアはソニックの前に現れ、空間切断を真正面に解き放つ。

 

 

「問題ねぇ!」

 

 

だが速度が遅い。ディストピアの動きのキレは明らかに劣化している。

ソニックは身体を捻って回避。敵の体力の限界という好機に踏み込み、強く煌風を振り下ろした。

 

 

残り5秒。

 

 

「っ!」

 

「隼斗!合わせろ!」

 

「おう!!」

 

《スラッシュ!マキシマムドライブ!!》

《ヒッサツ!ぁふるすろっとる!!》

 

 

スラッシュメモリをスラッシュブレイカーに装填。リジェネレイトブラッシャーを捨てシグナルソニックを煌風に装填。互いに構えを完了させ、いざ放つは必殺の技。

 

 

「隼斗流剣技、拾ノ芸!」

 

「『これで決まりだ!!』」

 

 

目の前にいるこのエルバという存在は、本当に底が見えない。20秒どころか一晩斬り合ったとしても勝てる気が全くしない。それがどうした。それでも勝つんだ。

 

この一瞬で、遥か高い絶望郷の壁を乗り越える!

 

 

 

「一刀流!天之波覇斬(アメノハバギリ)!!」

 

「『スラッシュストリーム!!』」

 

 

吼える青龍の如く突進するソニック。そして、ダブルが繰り出す翠の烈風、数多の斬撃。それらは正義を纏って、黒く深い、空間を呑み込む戦斧とぶつかり合う。

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 

限界だった。

 

カウントを待たずして、ソニックの体が苦痛に沈んだ。仮面の内側にへばり付く血液。心臓が反旗を翻したように動きを止め、体が急速に死へと向かって行くのが分かった。

 

 

「隼斗!?」

 

「っまだ……まだぁ……!!」

 

「諦めたまえ、これ以上無理をすれば君は間違いなく………」

 

「ぶざ げん゙な゙………ッ!これ以上…お前に好きにさせてたまるかぁぁぁッ!!!」

 

「そうか。………君ほど勇敢な戦士は初めてだ。俺がこうして心惹かれたのも……倒すのは非常に心苦しいが……」

 

 

全方向からのダブルの必殺攻撃も空間ごと抉り取って無慈悲に無力化。そして、ディストピアは勢いを失ったソニック共々、ダブルを上空へと弾き飛ばした。

 

 

収束する黒い波動。逃げ場のない空という牢獄。

『詰み』だ。

 

 

「ここまでだ。…さらばだ、我が宿敵たち! 仮面ライダーソニック、仮面ライダーダブル!!」

 

 

もし、万全なら。

隼斗が全快だったとしたのなら、音速で空を駆けてダブルを救って攻撃を回避し、次の攻撃に賭けることができただろう。

 

『もし』は戦いの中では無意味な妄想だ。だから───

 

 

 

「させるかァァァァ!!!!」

 

 

 

最後に残った力で、加速した先は攻撃の矛先。

 

 

 

「…………………なんと」

 

「………っ!?」

『…そんな……!?』

 

 

 

 

残り0秒。

 

 

 

 

「………だよ………なぁ……………」

 

 

 

漆黒の斬撃がソニックを直撃した。

 

意識と体が落ちていく。地面に叩きつけられた痛みを二の次に、ダブルは顔を上げてソニックの姿を追う。だが、それは手が届かない遠くに。意識が抜け出たような隼斗の肉体は、やがて海面に消え去ってしまった。

 

 

「隼斗ォォォォッ!!?」

『…まさか隼斗さん、僕らを庇って…!?』

 

 

「まさかここまでするとはね…驚いたよ、天城隼斗。最期まで仲間のためにその身を捧げて散るとは……素晴らしい。敵ながら賞賛に値する」

 

 

「……何勝手に終わらせてんだテメェ…」

 

「…何?」

 

 

20秒は過ぎた。隼斗は落ちて消えて行った。

そんなものは所詮ただの現実だ。何一つ諦める理由になんて成り得ない。

 

 

「アイツが…まだ死ぬわけねぇだろうが馬鹿が! あの何処までもお人好しで! 仲間思いで! 馬鹿みてぇに真っ直ぐで! 誰よりも正義のヒーローしてるアイツが! たかが空間ぶった斬る攻撃喰らった程度で!!」

 

『いやアラシ、いくらなんでも今回は……いや、そうだね。隼斗さんなら死ぬはずない! あんなこれ以上ないくらいのヒーローが、こんな所で終わるはずがない!』

 

 

アラシも永斗も分かっているのは一つ。隼斗と自分たちは違う。清算できない罪や業を抱えた自分たちとは違い、隼斗は無償の愛を、怒りを、誰かに捧げることができる人間だ。

 

純正のヒーロー。そんな彼は、世界に必要な存在なのだ。

 

 

「昼寝するにはまだ早えぞ隼斗! お前が本当に死んでるってんなら俺が天国だろうが地獄だろうが引き摺ってでも連れ戻しに行ってやる! だから……まだ勝手に諦めてんじゃねぇぞ!!!」

 

 

2人で1人、それだけで戦うには大きすぎる敵。ここで退く選択肢なんて無い以上、こんな分析は無意味と放り出せ。希望は繋ぐ。信じて、戦い抜く。

 

覚悟を決めろ。どんな奇跡に縋ってでも戦う覚悟を。死なない覚悟を。

 

 

「『来い!!!』」

 

 

迫る黒い重圧を前に、アラシは考える。そういえばあの時の答え、隼斗に聞いていなかった。

 

 

『感情論抜きで考えた時、アイツらにとって俺達は何のために存在してると思う?』

 

 

アラシは自分の存在がμ'sに必要だとは思ってない。きっと自分たちがいなくたって廃校を阻止して何かに成る。そう確信できるほどの力がある。だとしたら、何のために仮面ライダーは存在するのか。

 

思うに、「釣り合い」なのだ。

彼女たちの世界に不似合いな邪悪、暴力、理不尽。そんな不純物に侵される彼女たちの人生を元の道に修正する。それが仮面ライダーの役目。

 

今目の前にいるコイツは、知り得る中で最も巨大な「不純物」。こんな存在がいてはスクールアイドルの物語は歪んでしまう。それだけは、絶対に許してはいけないのだ。

 

 

「俺はアイツらのために…俺のために…! 俺の生き様は曲げねぇ! だからここでぶっ潰す! この世界の明日に…お前はいさせちゃいけねぇんだ!!」

 

「これが“J”に選ばれた者の心か。何故にそれほどまでに強い!?」

 

「依頼を受けたからな! 一度誓った約束は違えねぇ、それが探偵だクソ野郎!!」

 

 

空間を砕く横一撃を全身を捻って躱し、低く着地して次の一撃も回避。すれ違いざまの一瞬でようやく一発を刻み込んだが、連続する死との直面で精神が削り取られていく。

 

 

「まだやれるかよ、永斗…!」

『正直もうマジで限界だけどね…僕らが諦めたらその瞬間コンテ不可能ゲームオーバー。ハードコアもいいとこだけどやらなきゃね…!』

 

「…まだ憂鬱に堕ちないか。それでこそだ。だが、天城隼斗ももういない、序列4位“S”のオリジンメモリの力があるとはいえ、君達たった2人で何ができる?」

 

「…たった2人だぁ? 何言ってんだテメェ」

 

「…何?」

 

「あいにく俺らは2人じゃねぇ。あっちの世界に残してきたアイツら、瞬樹、Aqours、憐、霧香博士、それに………隼斗も!」

 

『そ、スポ根は好きじゃないんだけどね。僕らはみんなの想い全部を背負って今ここに立ってる。今の君が相手してるのはたった2人なんかじゃない!』

 

「全ての想い…か。面白い。ならば今ここで、そのことごとくを打ち砕こう!」

 

 

大技が来る。ダブルが走り出す。0.1%の勝機を求め、またも絶望と敗北の乱気流の中に身を投じる。漆黒のエネルギーが斧に満ち、それが放たれようとした時……

 

アラシはその鼓動を感じた。水底から天に昇る、逆転の鼓動を。

 

 

「………アレは!?」

 

 

水を巻き上げ、海から昇るのは巨大な竜巻。

 

 

「何っ!…………まさか!?」

 

 

「そのまさかだ!!」

 

《O V E R - B R E A K!!》

 

 

光の柱が暗雲ごと竜巻を貫く。奇跡の光に照らされ、止まない風を従えたその姿は、紛れもなく沈んだはずの希望。仮面ライダーソニック。

 

 

「天城………隼斗………!?」

 

「はッ…思ったよか元気そうだな……!」

『信じてみるもんだね。隼斗さんコンティニュー入ります…ってか何あの姿……』

 

 

 

ディストピアはもはや敵を侮らない。が、その姿を見失った。速過ぎたのだ。エルバすらも認識できない速度の領域に達したソニックは、易々とその背後を取った。

 

反射、からの反撃。常人のそれを遥かに超えたエルバの挙動も、ソニックは置き去りに。キックが放たれると同時に衝撃が一直線に駆け、ソニックブームを起こしてディストピアは後方に弾き飛ばされた。

 

 

「お……え…………え!?」

 

「隼斗!?」

『隼斗さん!』

 

 

自分でも速度に驚いている様子のソニック。そんな彼に駆け寄ったダブル。普通に驚きと安心を見せる右側に対し、左側が何故か真っ先にソニックの首を絞めた。何故か、と言っても親しい相手に見せるいつものアラシの態度なので、理由は明白だが。

 

 

「テメェふざけんな! 勝手に庇って死にかけてんじゃねぇよ殺すぞ!?」

 

「いやしょうがねぇだろ! 首絞めんなさっきまでガチで死にかけだったんだぞこちとら!?」

 

『あーでもよかった、生きてて……それより隼斗さん、その姿なに?』

 

「え?…………ああ、これか……」

 

 

ブレイヴソニックのオーバーブレイクモードのはずが、先程までとは容姿が異なる。水色に輝いていた全身の装甲が白銀になり、背中の『アクセラーウイング』が、淡く紫色のオーラを纏いマフラーの様に靡いていた。

 

何より隼斗の視点で不思議でならないのは、オーバーブレイクの負担を一切感じないということだ。

 

 

「うーん……わかんね! けどまぁ…さっき以上の力が湧いて来るのは確かだ!」

 

「さっき以上って…大丈夫なのかよそれ?」

 

『ん…ちょっと待って、え……これマジ……?』

「どうしたんだよ永斗?」

『アラシ……ジョーカーメモリ持ってる?』

 

 

永斗が何かを感じ取り、右側で頭を押さえながらアラシに尋ねる。言われた通り確認してみると、その答えは確信へと昇華した。

 

 

「あ? 何言ってんだよ、ちゃんと持って………ねぇ………!? ふざけんなまた失くしたのか!?」

 

『いや、それは違う。あと、僕はサイクロン持ってる。ファングはいないけど…今回のコレは違う』

 

「………おい待て、まさか……!」

 

『……隼斗さん、ジョーカーメモリ……持ってる?』

 

 

何言ってるんだといった態度のソニックだったが、確認すると普通に持っていた。盗むわけも紛れ込むわけも無いので困惑していたが、永斗がその理由を答えた。

 

 

『……確定だね。隼斗さん、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「はぁっ!!?」」

 

 

オリジンメモリとの一体化。永斗が“F”相手にやった事と全く同じだ。そうすると体は地球の記憶と接続され、無限に肉体の情報のロードを繰り返す不変の存在となる。

 

 

『ファングと一体化してるから感じ取れる。それに、そうじゃなきゃアレ喰らって生きてるのおかしいし。それにこれは、まさかスラッシュの……?』

 

「なんだそれ…つか適合者俺だろうが。んな事有り得んのかよ」

 

「え…有り得ないけど」

 

「有り得ないのかよ! どーなってんだ俺の体!?」

 

『マジでわかんない…でも、ちゃんと一つになってる僕に比べたら今の隼斗さんとジョーカーの繋がりはかなり弱い。多分本当に一時的なものだと思うけど……』

 

「マジかよ……」

 

「……ともかく、今のところ特に害は無いんだよな? 永斗少年」

 

『多分ね。限定的とはいえど、僕と同じなら多少のダメージも問題無いはず……でもどうやって……?』

 

「うるせぇな、一体化しちゃったもんは仕方ねぇだろ。奇跡ってことにしとけや」

 

 

余計な事を考えたく無いのか、アラシは強引に解答を出してソニックを見つめる。なんだかんだジョーカーを取られたのが気になるのだろうか。

 

 

「な、なんだよジロジロと」

 

「なんでもねぇ。ただ、テメェも大概頑固な野郎だなって思っただけだよ」

 

「あいにく諦めは悪い方でな。死のうがくたばろうが…負けを認めない限り、大事な人がいる限り、俺は死なねえよ!」

 

「当たり前だ、そうじゃなきゃ困る」

 

 

ダブルの左拳が向けられ、ソニックがそれを掴んだ。最後の戦いが再開する前に、ソニックは一つアラシに問う。

 

 

「…なあアラシ、覚えてるか? あの夜の事」

 

「あ?」

 

「『感情論抜きで考えた時、アイツらにとって俺達は何のために存在してると思う?』…お前が聞いた言葉だ」

 

「あぁ、丁度それ考えてたとこだ。でもアレはただの比喩だって……」

 

「俺、なんとなく答えが分かった気がする」

 

「答えって…なんだよ?」

 

 

「………分かんねえ!!」

 

「…………はぁ??」

 

「仲間達が大好きだから。守りたいから守る、理屈なんかどうでもいい! それが俺の…『天城隼斗(仮面ライダーソニック)』のあり方なんだ! だから…もう考えるのはやめた!!」

 

 

アラシが出した答えとは全く違う方向。ヒーローらしい爽快な結論だ。

それでいい。世界が違うのだから、見ている場所も違うに決まっている。例え道が違っていたとしても、それぞれが各々の世界を守るために戦うのは変わらない。

 

 

「ったくお前は……」

『でも、隼斗さんらしくていいじゃん。僕は嫌いじゃないよ』

 

「だな。そうだ、お前はそのままでいい! 難しい事は考えんな!」

 

「ああ!」

 

 

笑い合う3人の前に、憂鬱もまた笑って立ち上がる。

 

 

「やはり生きていたか仮面ライダーソニック……だがなんだ…俺は知らない……なんなんだ、その姿は……!?」

 

「I don't know!だけどこれだけは分かるぜ、この姿は……今の俺の天辺だ!!」

 

「ッハハ……ハハハハハ!面白い! やはり君は面白い! 天城隼斗!!」

 

「さぁ、終わらせようぜエルバ!最後の一走り…付き合いな!!」

 

「面白い…来い! ダブル! ソニック!」

 

 

仮面ライダーが武器を構える。それと同時にディストピアが黒いエネルギーを圧縮、大型弾として解き放ち、空間を焼き尽くしながら迫り来る。

 

しかし、輝きを増したソニックが煌風を振るうとエネルギー弾は一刀両断。爆発を背景に速度を緩めず超加速で斬り込んだ。

 

 

「これまでしてきた事の報い、受けやがれ!」

 

 

ソニックはまだ自分の速度を制御しきれない。それならそれで上等だと、急ブレーキをかけてターンし、またしても背後を奪って煌風で連続斬り。

 

遅れて参じたダブルはディストピアとの数秒間の一騎打ち。重く広い斧の乱撃を剣で受け止め、上に弾いたところをブレイカーで斬りつけ、更に突き出して火花が散る。

 

 

「ッ………まだ…まだ!」

 

「させるか!」

 

《ブレッシング!マキシマムドライブ!!》

 

 

痛みを負いながらも、ここに来て一瞬でエネルギーの充填を完了させたディストピアが、空間切断を放った。が、直感でそれを予期したダブルはブレッシングメモリをスラッシュブレイカーに使用し、白い刀身で空間切断の能力を対消滅させた。

 

 

『もう1発!』

 

《ドライブ!マキシマムドライブ!!》

 

「『ドライブドリフトスラッシュ!!』」

 

 

剣士の記憶とドライブの記憶。その2つが共鳴し、ダブルが繰り出したのは寸分違わない『泊進ノ介の技』、ハンドル剣での連続斬撃。それに続くのは、神速の仮面ライダーソニック。

 

 

「ファースト…お前の力、借りるぞ! 共鳴しろ、オリジンメモリ“S”!!」

 

 

隼斗の体に残ったスラッシュの力を増幅させ、解放。翼が紫色の光を放ち、背中から放たれた羽が無数の剣や刀と成る。

 

 

《ヒッサツ!ぁふるすろっとる!!》

《ヒッサツ!Full throttle Over!Sonic!W!!》

 

「オマケにコイツも!」

 

《ヒッサツ!Full throttle Over!Brave!!》

 

「我流剣 “継承“」

 

 

カクサーンⅡを装填した煌風。シグナルソニックとレジェンドダブルを装填したブラッシャー。最後にドライバーのフルスロットルを乗算し、ファーストが隼斗に見せた『技』に重ねた。

 

混ざり合った爆発寸前のエネルギーを研ぎ澄まし、生成された無数の刀剣と共に、一斉に斬りかかる!

 

 

「多刀流 裂空(れっくう)!!」

 

 

正義の刃で満ちた、今ここは剣撃の世界。空間を埋め尽くす、空をも裂く連撃が空を食い潰すディストピアの斧と衝突する。

 

 

「この力………まさか、ジョーカーだけでなくスラッシュの力まで!?」

 

「いっ………けぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

全力で振り下ろしたソニックの剣が、ディストピアの斧を粉々に打ち砕いた。しかし、煌風とリジェネレイトブラッシャーも激闘の限界を迎え、同じく砕け散ってしまう。

 

現在、限界を超えて尚も形を保っているのは、この3つの身体のみ。

 

 

「面白い…! 次の一瞬、死んでいるのはお前達か! 俺か! 何も分からない、この美しい世界に生きる、この一瞬! それだけが全てだと、さぁ笑おうか仮面ライダー!!!」

 

 

武器を失い、枯れかけたディストピアの力が膨れ上がるのを感じた。器を突き破って解き放たれるように。『憂鬱世界』の波動、その更に奥底で目を覚ます、計り知れない闇の本流。『罪』の根源。

 

 

■■(■■・■■■)

 

 

何かを呟いた、それが号砲。

 

世界一つを踏み潰すほど巨大。心臓一つを貫くに足るだけの鋭小。人の姿、獣の姿、植物の姿。どれにも感じてどれも違う。ディストピアの像が溢れる闇で囲まれて、どんな姿なのかを認識できない。余りに強大過ぎて、神経が個の存在として捉えることができない。

 

ただ、その姿は悪感情の化身。あらゆる負の感情を目で、鼻で、肌で、耳で、舌で、芯に至るまで感じさせ、前に進む足を止めようとしてくる。五感を悪意で犯す絶望と停滞の権化、それがあの姿だ。

 

 

だが、もう止まらない。

 

 

 

「エルバァァァッ!!」

 

 

ディストピアの一挙手一投足が空間を抉る。世界を壊す。

そこに白銀の神風は吹き抜ける。黒の世界を駆け、果てしない闇に拳を叩きつけた。

 

 

「ぶっっっっっ飛べェェェェェェっ!!」

 

 

ソニックとディストピア、互いの凄まじいインパクトが炸裂。相打ちに見えたが、紙一重で避けきったソニックだけがその一撃を成功させていた。

 

たった一撃を喰らった場所から力が暴発するように、ディストピアの体が揺らぎ、爆発し、その姿は地を離れて空中に放り出された。

 

しかし、空中でディストピアが腕を振るう。真空波が地面を砕き、空の随所の大気が削られて真っ黒に染まる。比喩でも何でもなく世界を壊すだけの力、あれをまともに向けられれば最後だ。

 

それでも希望は絶やさない。さっきの一撃で、ソニックとダブルは感じていたのだ。あの姿は酷く不安定で、恐らく、きっと『とても脆い』。

 

 

 

『アラシ!』

「分かってる!今度こそ決めるぞ、隼斗!!」

 

「ああ! 行くぞ、アラシ! 永斗少年!!」

 

《スラッシュ!マキシマムドライブ!!》

《ヒッサツ!Full throttle Over!Brave!!》

 

 

天に向けて吹く風を感じ、最後の技を発動。

崩れつつある大地を昇り、ダブルのバイク『ハードボイルダー』とソニックの『ライドソニック』が、光を帯びてディストピアへと飛翔した。

 

2機のマシンはその周囲を縦横無尽に駆け回り、暴れるディストピアを球状のエネルギーフィールドの中に封じ込めた。

 

 

「飛っっっべぇぇぇぇ!!」

 

 

ソニックに投げられたダブルは風に乗り、ソニックも超速で追いついて姿を並べる。そして共に放つのは、渾身の一撃。ライダーキック。

 

だが、ディストピアの体は崩れない。

元よりそれで終わるつもりは無い。終わるまで、何度でも。

 

ライドソニックとハードボイルダーを足場に、方向転換を繰り返して幾度となく全力のキックを連発し続ける。旋回と反射で軌道を描く光の尾が、闇を削り続ける。

 

 

しかし、『憂鬱』は腕を広げた。迫る風の戦士たちを屠るに足る余力を、その体に込めて。

 

 

あと一撃で確実に倒せる。だが、それが果てしなく遠い。

ディストピアと仮面ライダー、どちらの攻撃が先に届くか。その二つに一つ、最後の勝負は『速さ』で決着する。

 

 

 

「これで……」

 

 

「「『終わりだ!!!』」」

 

 

再び並ぶ、仮面ライダーダブルと仮面ライダーソニック。

忘れもしない出会いの時。曲がり角でダブルの必殺技の風を吸収し、加速したソニックがダブルと衝突した最悪の出会い。

 

そう。あの時、()()()()()()()()()

 

ダブルのサイクロンサイドと、ソニック。

互いが互いの風を取り込み、加速する。速く。速く。もっと速く。風よ叫べ。

 

 

音速(ソニック)相乗り(ダブル)で突破しろ!!

 

 

 

「「『ダブル・オーバー・エクストリーム!!!』」」

 

 

光の領域の中心で、二つの突風が闇を貫いた。

 

緑と紫、そして白銀と蒼。

四色の風纏い、全力を超えた一撃が砕くのは憂鬱蔓延る絶望郷。

 

闇が崩れていく。どこまでも広い空の境界へと、溶けて消えるように。

 

 

「あぁ………笑えないな。これでもう……終わってしまうだなん…て……」

 

 

世界の広さに思いを馳せる。

最期の最期に、彼は笑わなかった。断末魔も残さず、『憂鬱』という虚無として、その姿は世界に響く爆発の中に消失した。

 

 

 




あとはエピローグでコラボ編完結です。長かったエルバ戦…少し強すぎた気もしますが。色々と設定のあれこれもマスツリさんの邪魔にならない程度に盛り込んでみました。

あとサイクロンスラッシュ。これ元々マスツリさんがスラッシュメモリを変身用に考案されたことの名残で使ってみました。最後は剣じゃなかったですが、仮面ライダーだしキックでしょ!

元の世界に帰るまで、あとひとっ走りお付き合いお願いします。
感想、高評価、アドバイス、オリジナルドーパント案ありましたらお願いします!

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