ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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何度目のお久しぶりか、146です。ソシャゲ課金の味を覚えました。
コラボ編5話、ようやくサテライト(ついでにタワー)とバトルです!かなりボリューム増えたので、半分くらいソニックサイドに任せてあります。

https://syosetu.org/novel/91797/
↑ソニックの方もよろしくです。

ひっさびさにファーストが動くし、個人的に気に入ってる苦労人部下も冒頭から出ます。
今回も「ここすき」よろしくお願いします!


コラボ編 第5話 青い風はいつ一つになったのか

「岸戸いるか?」

 

「まぁ今はプライベートだし岸戸でいいっスよ。お疲れ様っス坊ちゃん…ってなんスかそれ。鳥?ジブン、獣医じゃないっスよ?」

 

 

憂鬱を倒すため東京へと戻って来たファーストは、道中で拾った鳥を土産感覚で持ってハイドの診療所に顔を出した。最も、鳥と言っても明らかに鉄製であることは見れば分かるが。

 

 

「どれどれ…なんスかこれ。門外漢のジブンでもワケわからないテクノロジーって事だけは……あ、もしかして彼ら関係っスかね」

 

「何か知ってるのか?」

 

「例の異世界人っスよ。そうなると直したげた方がいい感じに転ぶかもっスね。でもこれ医療じゃなくて修理…」

 

「ハイドさん!なんなんですかヘルの変身者のあの子!持ってるわけないでしょ星空凛と小泉花陽の写真なんて!大体なんで面倒見るのはアンタの……ゲェっ…!」

 

「あ、ビジョン」

 

 

様子を見に来たらそのまま仕事を押し付けられた憤怒の常識人、ビジョン。異議申し立てをしてやろうと鼻息を荒くするが、そこに一緒だったファーストを見るや、心底嫌そうな顔を見せた。

 

 

「なんでファーストいるんですか…!?地獄!?ここは地獄か!」

 

「山門は倒したっスよ何言ってんスか」

 

「俺にとっちゃあんたらも山門も大概なんだよ!」

 

「そうだビジョン。お前、機械系統得意だろ」

 

「そうっスね。はい、お願いっス。上司命令」

 

「ほんと…マジ……こういうとこ!!」

 

 

平気で人の仕事を増やすのも、このコンビの相手をしたくない理由の一つだ。頑張れビジョン、社畜の道は険しいぞ。

 

 

 

______________

 

 

並行世界とこの世界を繋げ、大罪幹部『憂鬱』ことエルバを降臨させようと画策するフーディエ。二つの世界の仮面ライダー達の活躍によりその作戦は阻止され、陰謀の芽を断たんとダブルとソニックが今ここに並び立った。

 

 

「それで私を止められたつもりか、愚か者が!貴様たちをここで消し、我々は必ず陣を完成させる!」

 

「させるわけねぇだろボケが!」

 

「そのために俺たちが来たんだからな!行くぜ!」

 

 

倒すべき敵は2人。サテライト・ドーパントとタワー・ドーパント。

特にサテライトの強さは驚異的で、特筆すべきはその速度。ラピッドの音速蹴りを一挙一動に纏ったような、並の速度特化ドーパントを一笑に付すレベルの速さだ。

 

 

『流石は幹部クラス。戦闘力はカオスやプレデターやパニッシャーと同等かそれ以上だね』

 

「ライトニングでトントン。先にスタミナ切れて負けるのはこっちだ。でも…今に限っちゃ対策講じるまでもねぇよな!」

 

 

速度で圧倒しようと攻めに来るサテライトだが、蒼い風がその攻撃を弾く。

 

 

「何…!?」

 

「おいおいそれがfull-throttleか?こっちはまだエンジンも温まってないぜ?」

 

 

ソニックはサテライトの速さに余裕で追いつき、渡り合う。あの朱月に一撃を入れたという戦闘力なら、幹部側近程度に過度な後れを取るはずが無い。

 

燃え上がる屈辱と対抗心。サテライトの照準がソニックに定められた。

 

そうなれば、ダブルの相手は必然的に決まる。

 

 

「オラァぶっ壊れろ!」

 

「なぁっ!?いきなり殴りかかるとはやはり野蛮…低能種族が!」

 

『ヒーローの台詞ではないよね。僕もそう思う』

 

 

なんだかボケっとしていたタワーに、今がチャンスと殴りかかった。

すぐさま塔で作ったハンマーで応戦。素手喧嘩に持ち込みたいダブルだが、ハンマーで距離を維持されて鬱陶しい。

 

 

「ならコイツだ」

 

《メタル!》

《サイクロンメタル!!》

 

 

長物には長物で対抗。ハンマーをメタルシャフトで受け止め弾き返し、強風を伴うシャフトの舞いがタワーに乱打を喰らわせる。

 

だが、腐っても鯛、こんなのでも憂鬱直属の戦士ということだろう。すぐさま地面からせり出した塔で防御。サイクロンメタルは一撃が軽いのが弱点なのは把握されているようだ。

 

 

「ワタシの創作を邪魔立てした行為、実に罪深い!そちらが力で来るなら上等です!全力こめて叩き潰してあげましょう!」

 

『スピード対決&パワー対決。いい展開だね』

「だったらこっちもフルパワーだ」

 

《ヒートメタル!!》

 

 

サイクロンをヒートに変え、タワーの防御を一撃粉砕。

タワーと常に接近しているため相手も小細工を使えない。ハンマーとシャフトがぶつかり合う、力任せの喧嘩だ、

 

攻撃の手を休めず、ダブルはソニックの方をチラリと確認する。高速で移動しながら『ゼンリンシューターBS』で派手に銃撃戦をしているようだ。互いの手数が余りに多すぎて、どちらも捌くので精一杯な拮抗した状況に見える。

 

 

「…?今アイツ……そういう事か!」

 

 

ソニックの挙動の中で何かを見たダブルは、タワーの相手をしながらソニックと距離を近づけていく。二つの白熱した戦いが隣り合った瞬間、

 

 

「チェンジだ」

「OK!」

 

 

互いが敵に背を向け、新たな敵に向き合う。

サテライトの相手は一瞬にしてダブルに切り替わり、サテライトの速さを重視した軽い攻撃はメタルの防壁が拒絶する。

 

スピードタイプの相手が一瞬にして防御タイプに。そうなれば動き方の変更を余儀なくされ、ミスでも隙でもない必然の「緩」が生まれる。

 

そこに切り込むダブルの一撃。最大まで熱されたシャフトがサテライトを地面に抑えつけた。

 

 

『苦い物食べた後だと甘い物がより甘く感じるみたいな?とにかく人は急激な環境変化に弱い。タイマン得意のプロ様だと猶更切り替えの瞬間が顕著だ』

 

「くっ…小細工を…!」

 

「俺たちは小細工で戦う探偵なんだよ。まだまだ行くぞ、弾幕だ音速チビ。俺たちがお前の速さに適応してやる」

 

《ルナトリガー!!》

 

「そーかよ!俺のmessageは伝わったみたいだな!」

 

《Signal koukan!超・カクサーン!!》

 

 

ダブルがルナトリガーにチェンジし、ソニックはシグナルバイク『シグナルカクサーンⅡ』の力でシグナルコウカン。フォームチェンジした両者は共に、銃口を空に向けて無数の光弾を解き放った。

 

 

「なっ…なかなかに美しい光景…!ジェラシーだ…ベホォっ!?痛ぁっ!」

 

 

見とれていたタワーにはもれなく多数の銃弾が降り注ぐ。問題外は置いておいて、サテライトは攻撃を喰らうまいと銃撃モーションの時点で浮遊し、その速度を回避に注ぎ込む。

 

瞬時に弾幕の薄い部分を見つけて切り拓き、ダメージを最小限に抑える行動を取る。光弾の波の出口が見え、反撃に意識を向けたその刹那。

 

 

《超・トマーレ!!》

 

「なんだ…これは…!?貴様の仕業か異世界の仮面ライダー!」

 

「おっとLady、そこは通行止めだぜ!」

 

 

戦いの中で一発、ソニックがシグナルトマーレⅡで空に撃ち込んでいた『置き弾』へ誘導する弾幕。それにより一時停止の標識がサテライトを空中で磔にした。

 

 

「ちょこまかした動きも止まった!Chanceだ!これでも喰らえ…!」

 

《ヒートジョーカー!!》

 

「ぶっ飛べぇっ!!」

「おいちょ待て……!」

 

 

追撃に行こうとしたソニックだが、反対側からヒートジョーカーで火力を底上げしたダブルが迫り、サテライトに叩きつけた炎の拳でついでにソニックまで吹っ飛ばされた。

 

ここまでいい感じにコンビネーションが決まっていたのに、最後で台無しだ。

 

 

「おいコラ馬鹿探偵!お前何やって…いやわざとだろ!絶対わざとだ!お前初対面のアレまだ根に持ってんだろ!?」

 

「持ってねぇ。避けなかったお前が悪ぃ」

 

「空中で避けれるか!smallな(器の小さい)ヤツめ……」

 

 

しかし、戦闘力とセンス、スピードで群を抜いているソニックに、2人で1人の形式上コンビネーションと適応には一日の長があるダブル。このコンビはハマれば破壊的に強いことが証明された。勝利の確信が、もはや目前にまで迫っている。

 

 

 

そんな戦いを退屈そうに見ていた男は、欠伸をしながら戦場に手を重ねる。

 

 

「ちょいちょいちょっと!まさかこれで終わりとか言わないよねフーディエちゃん。せっかく憂鬱帰って来るってアガってたのにさぁ」

 

 

子供の駄々のように不平を喚きながらも、明確な殺意を垂れ流すのは朱月。絶大な力を持つ彼の苛立ち一つで、戦局なんていくらでも変わる。そんな彼が、立ち往生しているタワーを指さした。

 

 

「頼んでやるからさ、オレを失望させんなよ?」

 

 

 

タワーの姿を黒いワームホールが包んだ。

戦場から消えたタワーが次に現れたのは……最悪の場所だった。

 

 

「本当に寝ちゃったよエイくん…にしても暇ダナ。俺っちが念押しの保険扱いってのはやっぱ納得いかないっていうカ……」

 

 

気絶した永斗の体とぼやく憐が待機していたのは、スワンプが待ち構えていた最初の第五の塔出現予測地点。なんとなく呟いただけだったのに、現れた光景に憐は目を見開く。

 

 

「ここは…何が起こったというのだ!」

 

「アイツ、タワー!?ってことはヤバイ!」

 

 

朱月の力で第五の塔の予測地点まで転位されたタワー。彼もすぐに今の状況を理解し、これが千載一遇の好機だと気付いた。

 

今もこの地には塔の材料が大量に埋まっている。つまり、この一手で憂鬱の計画は完遂されてしまう。

 

 

「…よく分からないが幸運!ワタシの作品、完成の時!出でよ第五の塔!」

 

「クッソ……待テ!!」

 

 

憐の行動は一歩遅く、成長する大樹のように塔が大地から天高く伸びていく。

 

悪魔の気まぐれで事態は優性から圧倒的劣勢の大ピンチに。

空から見ると五芒星。秋葉原を中心とした塔の魔法陣が完成した。

 

 

 

____________

 

 

 

「What's!?何が起こったんだ!?あのエセ芸術家はどこに…」

 

『分かんない。でも…行き先は明らかだね』

 

「クソが冗談じゃねぇ…最悪だ…!」

 

 

タワーの姿が消えたと思えば、第五の塔予測地点に塔が現れた。

それはつまり、あれだけ阻止ししようとした魔法陣の完成が果たされてしまったことを意味する。

 

 

「…よくやったスーザ。そして我が僥倖に、感謝を。

今ここに、エルバ様降臨の儀式を開始する!!」

 

 

高らかに言い放ったサテライトは、ダブルとソニックが呆然としていた隙に一瞬で天高く飛び上がった。それを追尾するサテライトの小型ビットに加え、別の複数の場所からもサテライトの端末衛星が集まって来る。

 

 

『アレは……憂鬱のアジトとかを見張ってた衛星か。つまりサテライトは別の場所に半身を置いてたも同然ってことね』

 

「マジかよ…てか、それを今になって集めるってことは…!」

 

 

ソニックにもダブルにも、サテライトの意図は伝わっていた。

それは憂鬱の計画の最終目標、つまり『どうやってエルバをこの世界に呼ぶか』にある。その真相は少し前、意外にも憐が導き出した。

 

 

「こうグルっと丸を書いテ、そこに星。これで異世界と来れば…なんか聞いたコト………あぁっ!思い出しタ!これ有名な都市伝説だぜハーさん!」

 

 

そう言って憐は、小さな紙に丸と六芒星、更に赤い文字で「飽きた」と書く。

 

 

「…飽きた?なんだ永斗みたいなこと言いやがって」

 

「違うぜアラシサン!前にヨっちゃんあたりから聞いた気がすんだケド、こーやって紙に書いて寝ると、起きたら異世界の自分と入れ替わる…っていう都市伝説があるらしいんダ!」

 

「ほへー、それ多分そっちの時代で広まった都市伝説だね。僕の本棚には無かった。異世界にいるエルバが、なんらかの方法で部下に伝えたとかかな?」

 

「でも憐、それ形が違うぞ?六芒星と五芒星じゃ全然……」

 

 

しかしこれは大きすぎるヒント。すぐさま永斗が検索に入り、その意味を手に入れて帰ってきた。

 

 

「その都市伝説を実行するにせよ、それは『入れ替わり』のための方法だよね。それじゃ駄目だからこそのアレンジなんだ」

 

「記号で何か変わるってのか?」

 

「六芒星の効力は『宇宙のパワーを集める』とされてる。でも今はグリモア・ドーパントと電力っていうエネルギー源があるからいらないんだ。対して五芒星の意味は『循環』、いかにもシステムにあつらえ向きじゃない?しかも逆五芒星になると…『穴』を意味するようになる」

 

「『穴』…俺たちを吸い込んだのも穴だ!つまり敵は六芒星を五芒星にして、都市伝説の魔術を作り替えた…!?そんなことできんのかよ!」

 

「魔術理論はよく知らないけど、グリモアならそういうシステムを構築できる可能性は高いね」

 

「それじゃ、この赤文字の『飽きた』ってのハ…?」

 

「それも頭柔軟にして解釈すると…」

 

 

街を包む巨大な魔法陣に文字を書くのは無理がある。

そもそも文字である必要は?『飽きた』とはつまり逃避願望。今の世界に対する絶望、言い換えれば『憂鬱』。

 

赤い文字で『飽きた』。それらの要素を解釈し再構築すると、『赤』で逃避の『憂鬱』を描く。巨大魔法陣に描くのにうってつけの『憂鬱』の『赤』と言えば───

 

 

 

 

「『血』だ。アイツは今ここで、魔法陣範囲内の一般人を大量虐殺する気だ!」

 

『だよね…で、あの衛星ってわけ…!』

 

 

エネルギーを充電していた小型衛星たちが全て合体し、一つのレーザー砲を構築した。はるか離れたこの地上からでも分かるレーザー砲の眩しい輝き、迸るエナジーが、最悪の未来を想起させる。

 

 

「永斗!ライトニングトリガーだ!あれなら射程も時間も間に合う!」

 

『無理!レーザー砲の周囲に別の衛星、あれは避雷針だ!中途半端な飛び道具じゃ吸われる!止めるなら直接行って叩かないと…!』

 

「クッソ……鳥がいれば…ブレイヴソニックさえ使えれば余裕で間に合うのに…!」

 

 

この距離まで飛ばれればメテオデッドヒートじゃ間に合わないし、サテライト本人を搔い潜れるだけの突破力も無い。このまま黙って見ていれば充填が完了した瞬間に、この世界の人々は大勢死ぬ。

 

そう思った時、隼斗の選択に迷いは無かった。

 

 

「瞬樹くんに連絡だ!世界転移を制御するグリモアを今すぐ壊せば、作戦は続行不可能!そうなればサテライトも止まってくれるかもしれない!」

 

 

フーディエが使っていたのは、瞬間移動を制御するノートパソコンのグリモア・ドーパント。世界転移ほどの大魔法をコントロールするにはノートパソコンのスペックでは足りない、というのが永斗の推理。

 

つまりグリモアはもう一つある。仮にグリモアⅡとし、そのベースは恐らくスーパーコンピューター。国内にあるスーパーコンピューターの数など限られており、その場所を特定するのは容易だった。

 

そこで瞬樹をそのグリモアⅡの場所に配置した。最悪の事態に陥った際、グリモアⅡを破壊してエルバ帰還を阻止するために。

 

 

しかし、それはあくまで最終手段。

何故ならここでグリモアⅡを破壊すれば、隼斗と憐は元の世界に戻る手段を失ってしまう。

 

 

『隼斗さん…でも帰る方法は無くなるよ?本当にいいの?』

 

「ここでこの世界見捨てて帰って…そんなんで姉ちゃんたちに顔向けできるわけねえ!もうこれしかないんだ早くしろ!μ'sを守るんだろ!!」

 

 

例えそうしたところで、サテライトが止まってくれる保証は無い。それでも隼斗にはそうすることしかできないのだ。

 

自分の世界を諦める気は無い。でもこの世界を見捨てる気も無い。

それが天城隼斗の生き方。誰よりもヒーローで、きっと誰よりも苦しい生き方。

 

 

「駄目だ」

 

 

だが、そんな隼斗の答えを、アラシは拒絶した。

 

 

「…何言ってんだバカ野郎!!ここはお前らの世界だろ!人が大勢死ぬんだぞ!そんなことになれば…μ'sの未来は絶対に終わる!!お前はそれを守るんじゃなかったのかよ!!」

 

「俺たちは探偵だ!依頼は絶対、依頼人のために最善を尽くすそれが俺たちだ!お前らを元の世界に速攻で帰す、探偵の誇りに懸けてそれだけは違えねぇ!!」

 

「そんなこと言ってる場合かよ!」

 

「お前と一緒だ。μ'sは守る!お前らも帰す!その両方を通すしか生きる道はねぇんだよ!」

 

 

切風空介が教えてくれた探偵の生き方。それだけは譲れない。

発射寸前のレーザー砲から一瞬たりとも眼は離さない。この最悪を打開する手段が、絶対にあるはずだ。

 

隼斗が未来を見据えていたとするなら、アラシは今だけを見ていた。

未来の自分なんて信じるに値しない。未来の現実なんて知ったことじゃない。がむしゃらに今この瞬間だけを、どんな手を使ってでも生き繋いでいく。アラシは、そんな生き方しか知らないのだ。

 

 

どちらの考えも間違いでも正解でもない。観測する側面で正誤は変わる。

それに、どちらの生き方を通したところで、天上に鎮座する裁きの光には届き得ない。

 

 

「叫べ有象無象の虫けら共よ。貴様らの憂鬱を喰らい、我が主は舞い戻る!!」

 

 

地に足を付けた『生きるための生き方』では届かない───

 

 

 

____________

 

 

 

「レベル2。天下五剣 三日月宗近。

我流剣 八ノ技・奥義………!」

 

 

別の場所でサテライトを見上げる剣士は、斬るべき敵を見据えて剣に触れる。

『三日月宗近』は天下五剣の中で最も美しいと言われる業物。その美麗な刃が紡ぎ出すのは、一糸の狂いも許さない正確無比の一太刀。

 

三日月を喰らった鬼は、天を駆ける。

 

 

牙鬼(きばおに)(あまつ)!」

 

 

抜刀。

 

鞘を滑り、解放された刃の切っ先が描く軌跡。天まで伸びる直線。

斬撃を固形化させ飛ばす『牙鬼』の範囲を超超超拡張し、まるで銃弾のように斬撃がレーザー砲に飛んで行く。

 

避雷針に反応しない斬撃が、レーザー砲に届いた。

しかし、この距離まで固形化させた斬撃が届いただけで奇跡。威力は度外視の悪あがきに過ぎない。

 

 

「我流剣 十一ノ技……」

 

 

だからここから先は即興(アドリブ)

更に高く行くため、彼は新たな技を今ここで生み出した。

 

彼の生き方はヒーロー然とした献身的なものではない。己の命だろうと何だろうと犠牲にし、天高く昇るために強くなろうとする生き方。

 

その破滅的な彼の怒りと、才覚と、運命は、天をも突き抜ける刃となる。

 

 

裂界(さっかい)!」

 

 

レーザー砲に触れて勢いを失った斬撃に、再び命を吹き込む。

遠く離れた刃を操る遠隔斬撃。その新たな技が、発射秒読みだったレーザー砲を一刀両断した。

 

 

「……斬れたか」

 

 

スラッシュはレベル2を解除し、青い鉄の鳥を空に放った。

ゾーンメモリで損傷個所を把握し、ビジョンの指示のもと、ナーブメモリの精密な作業で完全に修理されたものだ。

 

ビジョンによると内部に何か個別のユニットが収納されているらしい。詳しくは分からないらしいが恐らく、ダブルのファングメモリと似たような強化アイテムと推測される。

 

 

「見せてみろ異世界の仮面ライダー。俺に無い強さを」

 

 

 

_______________

 

 

 

「レーザーが…壊れやがった…!?」

 

『なにが…ラッキーだけど…えっ…!?』

 

 

突然レーザー砲が破壊され、必死に頭を働かせていたダブルの思考に急ブレーキがかかる。しかも壊れ方が『斬れた』だから本当に何が起こったのか分からない。

 

宿敵であるダブルよりも先に、その正体に感づいたのはソニックだった。

憂鬱のアジトに行った際、見張りを全て倒していた何者か。痕を見ただけで分かる極めて練度の高い斬撃は、隼斗の中に強烈な印象を残していた。

 

先の一瞬で感じたのは全く同じイメージ。

隼斗の中で等式が結びつくと同時に、自然と体が震え、昂った声が漏れ出る。

 

 

「すげえ……!!」

 

 

感動するソニックを引き戻すように、頭部に割と強い衝撃が走る。

勢いをつけてぶつかってきた鉄の塊。この痛みには馴染みがあった。

 

 

「痛ぁっ!?…ってこの感じ……鳥!?」

 

『ー!ー!』

 

「お前今まで何処行ってたんだ!?いや…無事でよかった!お前がいれば百人力だ!」

 

 

鳥型疑似ロイミュードRF-01改め『ブレイヴ・ファルコン』。ブレイヴ・ファルコンもまた、この世界にやって来ていたソニックの仲間の一人だ。

 

 

「ペットと感動の再会やってる暇ねぇぞ馬鹿」

 

『いやでも凄いよアラシ。自律AI搭載の鳥型アンドロイド、霧香博士が作ったんでしょ。あの人やっぱ凄い』

 

「だろ!?でも驚くには早いぜ永斗少年!コイツはただのペットじゃねえ。正真正銘の『相棒』だ!さぁ見せてやろうぜ、俺達の本気!」

 

 

ブレイヴ・ファルコンは機体から一台のシグナルバイク『シグナルブレイヴ』を射出し、ソニックの右手に止まる。

 

ドライバーのスロットを上げ、シグナルブレイヴを装填。

 

 

《Evolution!》

 

「I'm Ready !超・Hensin!!」

 

 

掛け声に合わせ、ブレイヴ・ファルコンが分解される。

その瞬間、アラシも感じ取った。仮面ライダーソニックが進化する、その予感を。

 

ソニックの姿が変わり、高く跳躍。光り輝く風を帯びて、変形したブレイヴ・ファルコンの各部パーツが鎧としてソニックに装着される。

 

 

《Brave!TAKE OFF‼︎》

 

「あれがアイツの全力か…!」

 

『僕らはまだ到達できてない領域…アツいね』

 

 

ダブルがその姿を捉えられたのはほんの一瞬だけ。ソニックは瞬く間に速度を飛躍させ、天空に留まったままのサテライトのもとに飛んで行ってしまった。

 

 

「馬鹿な!私の衛星を誰が……!?いいや、そんな事はどうでもいい!我が主を世界が拒絶するというのならば!!こんな世界、私の手で真っ新に整地してくれる!」

 

「させるかよ!もうお前には何もさせねえ!」

 

 

激情に駆られるサテライトの前に、ソニックは現れた。

有り得ない。目を離したたったのは数秒。その僅かな一瞬で、彼はこのサテライトの不可侵領域である上空にまで到達したのだ。

 

 

「仮面ライダー…ソニック…っ!!」

 

「ようやく名前を覚えてくれたか!でも違うな。進化した俺の名前を、その胸によーく刻み込め!!」

 

 

サファイアのように輝く、神鳥のようなその姿。

大空を舞うその翼の名は『勇気』、『勇猛』あるいは『絢爛』。

 

 

このライダー、『ブレイヴ』!

 

 

「勇気と奇跡がもたらす翼!望む未来を拓く為、オレの正義を貫き通す!仮面ライダー…ブレイヴソニック!!」

 

 

仮面ライダーソニックの最終形態『仮面ライダーブレイヴソニック』が、この世界に音速の旋風を巻き起こす。

 

 

_______________

 

 

 

地上に残されたダブルは、ソニックを遠目で見守るしかできない。ハードタービュラーを使えばあの場所まで行けそうではあるが、その場合速さについて行けず戦いに参加できないのだ。

 

 

『こりゃもう僕らの出番無いね。帰る?』

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ。つーかワープしたタワーの奴を忘れてんじゃねぇよ。さっさとそっちを追いに行くぞ」

 

『そっちには憐くんいるじゃん。だからもうお役御免で……』

 

 

完全に面倒くさいモードに入った永斗を引っ張るように、ダブルは第五の塔の方へ向き直る。すると、そこには信じがたい光景が広がっていた。

 

確かにさっきまでサテライトの砲撃に集中していたとはいえ、よくもまぁ気付かなかったものだ。いやむしろ気付かねぇとヤバいだろと、アラシは自分に心内ツッコミをかます。

 

 

「……助け必要ねぇか?」

 

『急ごっか。あれは流石に』

 

 

第五の塔付近でも激しい戦いが繰り広げられていた。

なんでこの距離で分かるか?それは…

 

 

タワーが超巨大化して怪獣大戦争に突入していたからだ。

 

 

「おいふっざけんなよ!なんだアレ!デカすぎんだろ!デカけりゃいいってもんじゃねぇぞあのアホ建築家!」

 

『まさに怪獣サイズだね…多分塔周りの山の土を吸収したのかな』

 

 

サイズはざっと50メートル前後。人型でアレに立ち向かうのは気が遠くなるが、やるしかない。

 

そこでダブルは、塔の陰で変身を解除した。

 

 

 

______________

 

 

 

「あーもうデカすぎ!どうしろってんダヨ!」

 

 

タワーとの戦闘になったスレイヤーだったが、タワーが周囲の土を取り込んでゴーレムのように巨大化してしまったからさぁ大変。スレイクローで足元を削るが、全く効いている気がしない。

 

 

「はははははは!矮小な野蛮人め!所詮貴様らはその程度の器なのだ!踏み潰してやる……おい貴様!塔の後ろに隠れるな!理解の無い虫がワタシの塔に触れるなあああああ!!」

 

「デカくなってもバカは変わらないのカ…」

 

 

しかしその巨体で地団太を踏むのはやめていただきたい。

スレイヤーに手を出せずにいる巨大タワー。その状況に斬り込みを入れたのは、タワーの首を裂いた牙の斬撃だった。

 

 

「選手交代。アラシに代わって真打登場」

 

『誰が前座だコラ』

 

 

こちらも現時点最強形態、ダブルファングジョーカーに変身。

しかし、先の一撃は切り傷をつけただけで切断には至っていない。

 

 

『デカいし硬ぇのかよ。ふざけてんな』

 

「アラシサン!?サテライトの方はどうなった…って早いナ!?」

 

「これ僕の方の身体で変身してるから。こういう時に瞬間移動っぽいことできるから便利だよ、2人で1人。サテライトの方は…もう大丈夫そうだし隼斗さんに任せた」

 

「ハーさんに…あぁ、それなら大丈夫ダナ!それならハーさんより速くコイツぶっ倒そうゼ!」

 

「当たり前だ!」

 

 

スレイヤーもタワーの足から身体へと昇っていき、胴体に鋭い一撃を刻み込んだ。黒爪と白牙のバイオレンスコンビネーションは、巨体相手だろうと構わず威力を発揮した。

 

たまらずタワーはダブルとスレイヤーをはたき落とし、とにかく一回離れようと街の方へ足を進める。

 

 

「あんなデカいのが街に出たらヤバいっテ!家とか車とかぶっ壊され…」

 

「…ないだろうね。ほら、足元にめっちゃ気を付けて進んでるし。あの巨体であの動き面白いね」

 

『あ…家も車もアイツにとっちゃ誰かの作品。アイツの言う劣等種族は踏み潰しても、作品は壊せないってことか。ワケわかんねぇ倫理観だな』

 

 

だが、その思想も今だけは好都合。これである程度街の被害を気にせず戦える。

 

ダブルはハードタービュラーに乗り、スレイヤーはメテオデッドヒートにフォームチェンジして再び接近。叩き落とそうとするタワーの腕を掻い潜り、ダブルはアームファングで、スレイヤーは紅のスレイクローで右腕を集中攻撃。

 

一部分ではあるが、ようやく腕を破壊することに成功した。

 

 

「貴様ら…ワタシの芸術的なこのボディに傷を!許さん!握り潰すッ!」

 

「んな大事なら倉庫にでもしまっときナ!」

 

「黙れぇ!貴様のゴミのような感性になど用は無い!!」

 

 

あからさまな怒りがスレイヤーに向けられ、大地をも砕きそうな鉄槌が振り下ろされる。避ければ地上に大被害。スレイヤーはこれを受け止めなければいけない。

 

 

「憐くん!」

 

「ぐ…ッ……平気だぜエイくん!こんなもん弾き返しテ……っ!」

 

 

ふざけた言動だが、この巨大タワーのパワーは圧倒的。いくらパワーアップしたといえど、スレイヤー1人では受け止め続けるのも難しい。

 

腕が破裂しそうな痛みがスレイヤーを襲う。メテオデッドヒートのジェット推進力が限界を迎えそうになったその時、温かい熱と共にタワーの腕が軽くなり、痛みも引いた。

 

 

「この竜騎士シュバルツが加勢する!まだ戦えるな!黒騎士!」

 

「シュバルツ…!おう、当然ダ!!」

 

 

フェニックスのマキシマムオーバーを発動して駆け付けた、仮面ライダーエデン。エデンはスレイヤーと共にタワーの攻撃を受け止め、押し返し、共鳴する炎で一気に跳ね返した。

 

 

「瞬樹!?グリモアⅡのとこで待機って言ったのに……」

 

「愚問だな永斗よ!この戦い、もはや完全ハッピーエンド以外の終わりは有り得ない!そもそも保険など、ここで此奴を倒せば必要ないはずだ!そして俺は負けん!」

 

「アナタは……昼間の少年!何故です!芸術を理解するアナタが、何故ワタシたちの邪魔を!」

 

「スーザと言ったな!確かに貴様の塔は素晴らしい!カッコいい!だが!誰かを傷付け不幸にするためのものは芸術なんかじゃない!貴様ほどの天才なら…誰もを感動させる真の芸術に辿り着けるはずだ!」

 

「なっ……!戯言だ…!破壊する側の人間は理解しようとすらしない!真に優れた感性が翼を広げるために、低能な凡夫には消えてもらうしかないのです!」

 

『うるせぇんだよボケェ!!』

「へぶらぁッ!!?」

 

 

互いに信念を熱弁していた場面で、ダブルの左側がタワーの顔面に強烈キック。物理的に黙らせたが、流石の脳筋に一同唖然。

 

 

「うわー、このタイミングで蹴る?普通」

「空気読もうぜアラシサン」

「鬼か貴様…」

 

『知らねぇんだよテメェの主張なんか!んな駄弁りたけりゃ通学路で横断幕持って一人でメガホンに呼びかけて通行人に白い目で見られてろ!』

 

 

知らないうちに展開されていた瞬樹とスーザの友情など、興味はない。アラシは自分に関係ない展開に心底イライラしていたようで、喋りを再開させまいとアームファングで顔面近くを斬り続けるダブル。

 

まぁもうこうなっては話し合うムードでは無く、スレイヤーとエデンも攻撃を再開。3人揃えばなんとやらで、強化されたコンビネーションがタワーの各部を次々に砕いていく。

 

しかし、

 

 

「どうなっている!壊しても効いてないぞ!」

 

「壊しても空洞なとことかあるし、あくまで巨体も人工物ってことでしょ。ガンダムのモビルスーツみたいな?」

 

「てことは、どっかに本体がいるってことダナ!そうなりゃ普通に考えて胸のとこダ!」

 

「なっ…!?何故わかったのです!」

 

「はいバカ」

 

 

当てずっぽうにわざわざ答え合わせまでしてくれたおかげで、戦いのゴールがハッキリと見えた。胸の部分にいる本体を正確に撃ち抜けば、巨大タワーを倒せる。

 

しかし、言うは易し行うは難し。当然だが胸部分の装甲は他より遥かに硬く、タワーもそう易々と胸を狙わせてはくれない。

 

 

「エイくん!アラシサン!」

 

『っ…!危ねぇ!』

 

「いやギリアウトだね。今のでハードタービュラーがイカれた」

 

 

攻めに転じたせいで僅かに回避が疎かになり、タワーの攻撃がかすってしまった。それによりハードタービュラーはもう飛行できない状態に。

 

一旦タワーの首元に着地するが、ここから胸部は狙えない。

 

 

「このままじゃ僕ら戦力外だね」

 

『うるせぇ分かって……あれは…!』

 

 

ダブルの視界に入ったのは、超速で激闘を続けるソニックとサテライト。巨大敵を相手していて気付かなかったが、随分な距離を動いていたらしい。

 

見る限り、戦いの状況は拮抗状態…いや、あと一押しあればソニックが決められそうだ。

 

 

『…!永斗、俺に考えがある!』

 

「アラシがそれいう時って、大体無茶苦茶やる時なんだけど…」

 

 

アラシが構えたメモリで、永斗もその意図を完全に読み取った。

 

 

「瞬樹!憐くん!一気に決める。後先度外視でガードをぶち破って!」

 

「承知!」

「オーケー!」

 

 

永斗の指示でスレイヤーはスロットを上げてイグナイターを押し、必殺待機状態に。エデンはオーバースロットからフェニックスメモリを引き抜くと、今度はハイドラメモリを突き刺した。

 

 

《ヒッサツ!Volca Full throttle!Dead Heat!!》

《Meteor!!》

 

《ハイドラ!マキシマムオーバー!!》

 

 

エデンはハイドラメモリの装備『ヴェノムブレイカー』を鎧として纏い、すぐさま槍をバックルにかざしてこちらも必殺状態に。

 

 

《ガイアコネクト》

《ハイドラ!マキシマムドライブ!!》

 

「空を飲み、大地を砕き、血の盟約で目醒めよ蛇竜。怒号と覚悟が汝を呪う。闇夜の眼差しが汝の終わりを告げる。叫べ。平伏せ。壊せ。轟け。今こそ不浄を裁く時。その目に刻め、邪神の英雄譚!」

 

「おぉ…世界が違ってもやっぱ兄妹なんだナ…!流石ヨっちゃんの兄貴!」

 

「帰る前に…その…ちょっとだけ聞かせろ!善子のこと!」

 

「モチロン!いくらでも教えてやるサ、アンタの妹は楽しいヤツってナ!」

 

 

エデンはバックパックから分離した九本のユニットを纏い、エデンドライバーに全エネルギーを集中させて巨大な剣を形成させる。スレイヤーも同じく、全エネルギーをスレイクローに注ぎ込み、タワーに激突。

 

 

神蛇の滅毒牙(サクリファイス・ティルフィング)!!」

 

「ヴォルケイノ・ヘルズクロー!!」

 

 

エデンの紫光剣がタワーの右腕を粉砕し、スレイヤーの炎爪が赤黒い閃光と共にタワーの左腕を焼き切り刻んだ。

 

双方が共に死力を尽くし切って作り出した最大の好機。

最後の1人であるダブルは、それと同時にタワーの首元から飛び降り、ジョーカーメモリを引き抜いた。

 

 

今の永斗はファングメモリと完全に同化している。つまり適合率は∞と言ってもいい。そんな永斗に適応してきたアラシもまた、メモリの制御は以前よりも遥かに熟練している。

 

何より、隼斗という存在の熱に影響を受けたか、

あるいは風に乗ったとも言えるだろう。とにかく今のアラシと永斗は絶好調、冴え渡っていた。

 

だから直感した。今なら出来る。

 

 

超攻撃力×超火力

 

 

 

「『変身!』」

 

《ファングトリガー!!》

 

 

ファングジョーカーの左側が蒼く染まる。

それは不可能領域に存在する変身。仮面ライダーダブル ファングトリガー!

 

 

《アームファング!》

 

『もう一回!』

 

《アームファング!》

《ファング!マキシマムドライブ!!》

 

 

落下しながらファングメモリの角を弾き、もう一度弾く。するとトリガー側の左腕から蒼い牙が二本出現し、牙の弧を作り出した。

 

そして今度は3回弾く。そうすることでファングメモリから放出された矢のようなエネルギーを掴み、右腕の弧に構え、強く引いた。

 

 

牙の記憶と銃撃手の記憶の掛け合わせが導いたのは、『弓矢』。

オーシャンメモリも弓を使うが、あちらのチャージ+放出とは根本的に異なる。

 

ファングトリガーの変身維持時間はほんの一瞬。

この蒼き一本の矢は、その一瞬で全てを貫く。

 

 

「『ファングスクリュードル!!』」

 

 

手を放すと同時に凄まじい暴威が解放され、激しい稲妻そして斬撃を伴う竜巻となって、まるで生きているように矢は暴れ狂う。そんな天を統べる大災害はタワーの胴体を貫くだけでは収まらず、さらに高度を上げていく。

 

天に昇る白亜の竜。うねりながら、暴れながら、ファングスクリュードルはサテライトの戦闘軌道に重なり、

 

 

サテライトの翼を噛み砕いた。

 

 

ダブルは落下するだけ。でも後はソニックが終わらせてくれる。

信頼なんかじゃない。この短い時間で知ってしまっただけだ。

 

かけがえのない大切な誰かがいて、そいつらの未来を、日常を守るために戦う。彼女たちに誇れる生き方で、最後の最後まで戦い抜く。

 

同じだ、アラシも隼斗も。だから───

 

 

『───決めろ、()()!』

 

「……あぁ、任せろ()()()!」

 

 

確かに意志を受け取ったソニックが『天下零剣 煌風』と『リジェネレイトブラッシャー』を強く握る。

 

 

《ヒッサツ!ぁふるすろっとる!!》

《ヒッサツ!Full throttle Over!Brave!カクサーン!!》

 

「見せてやる!これが俺の新必殺技!隼斗流剣技、二刀流ッ!!」

 

 

そこからの一瞬で、勝負はついた。

決着の瞬間は、この場の誰の眼にも捉えられなかった。ただ、吹き抜いた神風が敵を討ちとったのは揺るぎない事実。

 

 

「────飛夜叉(とびやしゃ)

 

 

ソニックが停止し煌風を鞘に納めた瞬間、幾重もの斬撃がサテライトの鋼鉄の体を斬り刻んだ。

 

 

「エルバ……様………!!」

 

 

ダブルは確かに見届けた。タワーに空いた大きな風穴から、ソニックが勝利した瞬間を。この出会いが無ければ成し得なかった勝利を噛み締める。

 

その夜、二つの爆発がこの世界から『憂鬱』を消し飛ばした。

 

 

_______________

 

 

 

「なんか言う事あるんじゃないのアラシ?」

 

「いつぞやの恨みだ」

 

「正論の反撃やめてもらっていいですか?」

 

 

ファングトリガーを維持できず、ダブルは空中で変身を解除。

その結果、永斗の体が無様に墜落した。もちろん永斗なので無事ではあるが。

 

 

「永斗少年!アラシ!」

 

「おー隼斗さん、お疲れ」

 

「おいハーさん、なんダヨあの技!」

「あぁカッコよかった!二刀流でズバズバズバって!侍だ!」

 

「だろ?Coolだろ!?飛夜叉って言ってな……アレの完成には苦労したぜ…っと、それよりアラシ!」

 

 

戦いを終えた隼斗が向いたのはアラシの方。

手を出す隼斗に、戸惑いながらもアラシがハイタッチ。なんだか珍しい光景だ。

 

 

「やるじゃねぇか」

 

「そっちこそな。大した探偵だぜ」

 

 

短い会話だったが、それだけでも互いに認め合った証。

しかし友情を確かめ合っている猶予もそれほど無い。永斗がここで話を断ち切る。

 

 

「で、隼斗さん。サテライトの変身者は?こっちのタワーの方はご覧の通りだけど」

 

 

砕けたタワーメモリとスーザはすぐに見つかり、今はこうして気絶させた上で拘束している。しかし、隼斗がフーディエを捕まえているようには見えない。

 

 

「それがだな永斗少年…いないんだ。空からも地上からも探したが全く見つからなかった」

 

「物探しはチビの専売特許だろ。しっかりしろ」

「なんだコラやんのか?」

 

「アンタら仲良くなったんじゃなかったのカヨ…」

 

 

フーディエが見つからないとはいえ、あの攻撃を受けてメモリブレイクを免れているとは思えない。問題はないだろうと誰もが思っていたが、その考えは刹那で払拭された。

 

タワーが敗れ、崩壊し始めていたはずの塔が輝き始めたのだ。

5本の塔から光が伸び、五芒星の紋章が空中に描き出される。

 

 

「なっ…どうなってんだ!サテライトもタワーも倒したはずだろ!」

 

「落ち着け隼斗。システム起動条件にサテライトもタワーも関係ねぇ、条件は……赤文字で『飽きた』、つまり『憂鬱』の……!」

 

 

_____________

 

 

 

「申し訳ございません…エルバ様……!」

 

 

フーディエの手から砕けたサテライトメモリが零れ落ちる。

計画完遂まであと一歩だったというのに、あの謎のアクシデントで全てが台無しになった。異世界の仮面ライダーに惨敗した。

 

ソニックとスレイヤーを送ったのはエルバその人だ。つまり、異世界の仮面ライダーという障壁を乗り越えろというエルバの試練、もしくは期待。

 

 

(私はその期待にお応えできなかった…エルバ様の退屈を晴らすのに、私では余りに力不足ということか……)

 

 

つまらない人間などエルバは歯牙にもかけない。

試練を超えられなかったフーディエがエルバの隣にいる未来は、永遠に有り得ない。

 

 

「きっと私は貴方の記憶にも残らない…ならば………!」

 

 

仕舞っていたナイフ、これは『この瞬間』のためのもの。この敗北を計算に入れていた時点で、もしかしたら自分はとっくに凡人止まりだったのかもしれない。

 

フーディエはエルバと並び立てない自身の凡才を恨んだ。

恨み、その刃を胸に突き立て、押し込んだ。

 

 

死神の足音が鼓膜を叩き鳴らす。意識が無に消えていく。

 

命を賭して我が主の意に従う。なんという美徳だろう。

だが、主の未来に自分は居ない。居なくても何も変わらない。この結果も全て、エルバの才によるものだと嘯き、彼はまた退屈に沈んでいくのだ。

 

苦しみに釣り合わない結末だ。自己犠牲の忠誠なんて、思っていたよりも良いものなんかじゃなかった。

 

 

「あぁ……報われない…何故……」

 

 

過去未来現在、四方八方が真っ暗に塞がれながら消えゆく。

何も愛せない後悔の末路。『憂鬱』。

 

 

『憂鬱』の『赤』が、地に落ちた。

 

 

 

______________

 

 

 

フーディエの自害により、グリモアⅡの世界転移システムが起動してしまった。このまま扉が開くのを待っていてはエルバがこちらに戻って来てしまう。

 

この状況を収めるため、永斗の提案で一行はグリモアⅡのもとにまでやって来た。

 

そこはスーパーコンピューターが作動するサーバールーム。グリモアメモリの影響で蔦の巻き付いた魔法の書庫のようになったスパコンの間を通り抜け、制御パネルを発見した。

 

 

「んで、どーすんのエイくん?」

 

「これでこちらから開くゲートの位置を変える。そうすれば、2つの世界を繋ぐゲートは少なくともトンネルでは無くなり…少なくともエルバがこのまま来る…なんで事態は最低限防げる筈だよ」

 

「なるほど、流石永斗少年」

 

 

あちら側のゲートはこちらから観測して秋葉原に存在する。それがこちら側のゲートとピッタリ一致して初めて世界を繋ぐトンネルになるのだ。ズラしてしまえば一方通行のままだ。

 

永斗はプログラムを書き換えようとグリモアⅡの操作を始めた。魔法理論は全く知らないから、その場で解読しながら猛スピードで再構築。プログラムの骨格は霧香博士の理論であるため、そこから解読が進められる。やはり聞いておいて正解だった。

 

 

「だが、そのゲートの位置ってのは何処にするんだ?」

 

「うーんそうだね……あの魔法陣から最も遠くて…かつ効果範囲圏内で最適な場所となると……………」

 

 

魔法陣に落された血液量は人間一人分。最大でもゲートの大きさは精々半径数メートルで、開通時間は三分ほど。魔法陣の中心から離れるほど大きさも時間も縮まる。

 

可能な限り距離を離し、ゲートを有効にし、なおかつ立ち入り可能で人を巻き込まない場所といえば───

 

 

 

_____________

 

 

 

「ここだと」

 

「うん」

 

「都合過ぎるだろ流石に」

 

「いやもうビックリよ。ほんとミラクル」

 

 

隼斗とアラシが拍子抜けした声を出すのも無理はない。

弾き出された場所とは、お馴染み音ノ木坂の屋上だったのだから。

 

もう間もなくゲートが開く。隼斗と憐がそこを通って帰れば、晴れて依頼達成だ。2人は少し名残惜しそうな様子だが、それは永斗も同じだった。

 

しかしアラシは少し様子が違った。それを見て湧き上がる嫌な予感を拭うように、永斗は隼斗たちに確認を促す。

 

 

「2人とも、忘れ物ない?多分一回帰ったらもう戻ってくることはできないからね」

 

「ってか2度と来るな。こんなこと一度で充分だ」

 

「ねぇよ。そもそもバイクやらドライバーやら以外はこっち来る時持ってなかったからな」

 

「俺っちも同じく。特に忘れモノ…は……」

 

 

憐も軽く応答を返そうとするが、言い終わる寸前にしゃっくりみたいな「あっ」という声が漏れ、

 

 

「あああああっ!!」

 

 

からのどデカい叫び。どうやら弩級の忘れ物があったようだ。

 

 

「うっせ!どうしたんだよ憐!?」

 

「ハーさん!俺っち、いや俺っち『達』重要な忘れ物してル!!」

 

「おいしっかりしろよ。お前らの私物なんかいらねぇからな」

 

「忘れ物?んなもんねぇだろ。ドライバー、武器装備、バイク…は瞬樹くんがあのバイクで吊り上げてくれるって言ってたか。鳥もいるし、それ以外には何も……」

 

 

思い返しても答えが見当たらない隼斗。そこに憐が笑顔で答え合わせをする。

 

 

「μ'sの!サイン!!俺っち達の世界ジャとっくに解散して会えないケド、この世界じゃ現役ダロ!?持って帰ったらゼッテーみんな喜ぶッテ!」

 

「俺達もな」

 

「イェア!!」

 

 

その答えはμ'sのサイン。

憐のグッジョブに隼斗もテンションを上げて喜ぶが、アラシにはその価値がイマイチ分からず呆れ気味だ。

 

 

「なんだよ、手伝いしてた時に貰ったんじゃねぇのかよ」

 

「思いの外忙しくてとても頼める状況じゃなかったんだよ察しろ鈍チン探偵」

 

「誰が鈍いって!?」

 

「俺らがμ'sの誰かの家泊まるってなった時にロクに反応しなかったアレの何処が鈍いってんだ!」

 

「んだと!大体あの程度の攻撃も避けられないお前の方が鈍いんじゃねぇのか!?」

 

「アレはお前がワザとやったんだろ!分かってんだよこっちは!!」

 

「なんで最後まで喧嘩してんのこの2人は…」

 

「まぁ心の底デは通じ合ってルみてーだし…いいんじゃナイ?どの道この戦いが終わったらお別れなんダ」

 

「…だね。じゃあやらせとこうか、面倒くさいし」

「オウ」

 

 

ギャーギャーワーワーの喧嘩の後ろで、隼斗たちのバイクを吊り上げ終えた瞬樹が屋上に着地。しかし、それと同時にガチャという音も聞こえた。

 

 

「あ、でも憐くん。μ'sのサインがどうとか言ってたけど、ぶっちゃけもう時間無いよ。いくらなんでも今からは無理」

 

「嘘ダロ!?マジで?もう無理!?そんなああぁぁぁ……千載一遇のチャンスだったノニ…あー、今からμ'sがここに来てくれればナ……」

 

「呼んだ?」

 

 

気分が泥沼に沈んた憐が振り返ると、穂乃果がいた。

穂乃果どころかμ'sが全員集合。

 

 

「うおおおおおおっ!?スゲー!!神サマ仏サマ!サンキュー!」

「Miracle!奇跡だ!奇跡が起こった!」

 

「ほのちゃんたち…なんでここに?」

「そうだ、なんで来やがった。寝てろ」

 

「瞬樹君のバイクが学校のところで浮かんでたから、ここにいるんだろうなーって。ちょっと聞きたい事あったから来ちゃった!」

 

「そもそも巨大なドーパントが暴れていたのだから気にもなります。どうして永斗もアラシも連絡に応じないのですか!」

 

「海未ちゃん…いやー全部終わってから説明しようと…」

 

「シュバルツ…!お前マジでナイス!」

 

「…ん?ま、まぁ礼には及ばんぞ黒騎士!」

 

「そう!瞬樹君!瞬樹君に聞きたいの!」

 

 

穂乃果は全く訳が分かっていない瞬樹に詰め寄る。

隼斗と憐はというと、

 

 

「真姫さんサインお願いしマス!この色紙のこの辺に…」

 

「サ…サイン…?なんで私がそんな…え、ちょっとどうすればいいのよ!」

 

「じゃあ希さん!俺にもサインを!」

 

「おーウチからとはお目が高いね!」

「はぁ!?普通私からに決まってんでしょ!ちょっと貸しなさい希!ど真ん中におっきく書かないで!にこにースペースが無くなるじゃない!」

 

「ニコさんspaceはまだまだありますから、どうか落ち着いて……」

 

 

急いでμ'sにサインを貰っていた。滞っているようで時間がかかりそうだが。

その間に穂乃果が瞬樹に問いただすのは、意外な内容だった。

 

 

「瞬樹君って…妹いるよね!?」

 

「…!?まぁいるが、な、なぜそれを……!」

 

「おい待て穂乃果。何の話をするつもりだ」

 

「隼斗君と憐君がうちに泊まって、色々お話聞いたんだ。静岡のスクールアイドル、Aqoursのこと。でも花陽ちゃんもにこちゃんもそんなアイドル知らないって。それでその中に子の一人が、瞬樹君に似てた気がして……」

 

 

それを聞き隼斗もフリーズする。あのくらいなら大丈夫だろうと思っていたが、これはひょっとするかもしれない。

 

 

「それでクロに聞いたんだ。そしたら瞬樹君に妹はいるけど、その子はまだ小学生だって。写真も見せてもらったけどやっぱり同じ人だった。だから……

 

ズバリ、隼斗君たちは未来から来た!だよね!?」

 

 

ひょっとした。異世界まで行かずとも、素性が言い当てられた。

知られて困ることでは無いが驚いた。まさかたったあれだけのヒントでそこまで辿り着くとは。

 

 

「…あぁ、隼斗と憐は未来から来た仮面ライダーだ」

 

「おいアラシ!仮面ライダーのことまでは…!」

 

「もういいだろ。別にコイツらに隠してもしょうがないことだ」

 

「やっぱり!じゃあAqoursは未来のスクールアイドルなんだ…!でも酷いよアラシ君!なんでそんな凄いこと言ってくれなかったの!知ってたら未来のアイドルのこととかもっと聞けたのにー!」

 

「別に隠してたわけじゃねぇ、次のライブに集中して欲しかっただけだ」

 

「あと…すんません穂乃果さん、Aqoursのこと話したいのは山々なんですけど、俺らもう帰らなきゃいけなくて……あっちで倒さなきゃいけないヤツいるんです。あ、最後にサインだけ」

 

 

不満そうな穂乃果からサインを貰い、忘れ物は無くなった。

そして、顔の高さくらいの場所に両手を広げたくらいの大きさの穴が開いた。ソニックの世界に通じるゲートだ。

 

 

「さて、お別れだね」

 

「あぁ…こっちの世界に来てビックリしたけど、今となっちゃ来てよかったって思うよ」

 

「まさか過去の世界でμ'sに会えるなんてナ!ホントにラッキー!」

 

「ちょっと待ちなさい!その口ぶり、まるで未来でμ'sが有名みたいじゃない!未来でどうなってるの!?私はもちろんトップアイドルよね!!?」

 

「うるせぇ空気読め馬鹿にこ」

 

「そうよ。未来のことを聞くのは反則だと思うけど?」

「絵里は頭が固いのよ!」

 

 

にこもそう言いながら、分かってはいるようだった。

未来の事なんて知るべきではない。それが唯一の答えとして、心に突き刺さってしまうから。それが未来を捻じ曲げてしまうかもしれない。

 

だから隼斗たちも多くは語ろうとしない。多くは語らず、その感謝を真っ直ぐに伝える。

 

 

「μ'sの皆さん、今回は本当にありがとうございました!あんま多くは言えないですけど…最後にこれだけ言わせてください。

 

あなた達の作る物語は…いつか誰かにとっての輝きになる、そんな素晴らしさを秘めてるんです!俺が、俺たちが保証します!だからこれからも……頑張ってください!!」

 

「俺っちも、仲間たちの誰もが夢中になっちまうスーパーアイドル…それがアンタ達なんだゼ!もう会えないかもだケド…この2日間を俺っちは忘れナイ!!」

 

 

彼らの言葉を聞けば、μ'sが未来でどんな存在になっているかは想像できる。

別世界だとしてもμ'sの未来は明るい。それが分かっただけで十分だ。

 

別れのムードでゲートに向かう隼斗と憐。

それを見送ろうとする状況に、穂乃果だけが不思議そうに首をかしげ、その疑問をそのまま言葉にした。

 

 

「二人ともなんで見てるの?」

 

「…あぁそうだな穂乃果。見てたって仕方ねぇな」

 

「…?穂乃果さんとアラシ、何言って…」

 

 

疑問に足を止めた隼斗に、アラシが並び立つ。

そこはゲートの真ん前。それが意味することは一つ。永斗は「やっぱり」と頭を抱えた。

 

 

「俺たちもお前らの時代に行く」

 

「「はあぁぁっ!!?」」

 

「だよね!アラシ君見てて絶対そうするって思ってたんだ!やっつけたい人がいるなら、一緒に戦ったほうがいいもん!ね?」

 

「そう言う事だ」

 

「いやいやそう言う事じゃねぇよ!依頼はこれで終わりだろ!?なんでお前らが来なきゃいけないんだよ!帰る方法無いって言ってただろ!」

 

「うん僕もそう思う。やめとこ。ね、アラシ」

 

 

アラシと穂乃果の勢いに負けないぞと、永斗が抵抗を続ける。往生際の悪さにμ'sの皆からは少し幻滅されているが。

 

 

「エルバは俺達の世界の荷物だからな。そいつを放置した結果、勝手に死なれると探偵の名折れだ。帰る方法は…まぁなんとかなるだろ。その時考える」

 

「んな適当な…」

 

「そのなんとかのために働くの僕なんですけど。エルバって滅茶苦茶強いんですけど。なんでわざわざ自分から頭突っ込みに行かなきゃなんないのさ……」

 

「もー!ウダウダうるさいにゃ!永斗くんも男らしく行った行った!」

 

「えぇ……」

 

 

永斗も凛に押され、ゲートの前まで来てしまう。

それでも承諾に困る隼斗と憐。来てくれるのは心強いが、彼らにはμ'sを守るのに専念して欲しい。

 

しかし、お互いに同じだというのは分かっている。

お互いに守りたい人たちがいるのは同じだ。同じだからこそ力になってやりたい。

 

何よりアラシは、彼らが守りたいというそのAqoursというスクールアイドルを、この目で見ておきたかった。

 

 

「貸しっぱなしで逃がさねぇよ。大人しく返させろ」

 

「割に合わねぇって話だ。帰れるかどうかもわからない、それにエルバは強い。お前らがどうなるか……」

 

「そうだな、そういえば報酬もまだ貰ってねぇしな。

……じゃあ塩プリンだ」

 

「は?」

 

「報酬はお前の言ってた塩プリンでいい。美味いんだろ?マズかったら殺す」

 

「はっ…!よく覚えてたなそんなの!なんだよアラシ、お前スイーツ好きなのかよ!」

 

「悪ぃか?」

 

「いいや、スイーツ好きに悪いヤツはいねえ!そうだな…俺もお前と話し足りないって思ってたとこだ。わかったよ!報酬も善処してやる、帰る方法は…まあ博士がいるしなんとかなるだろ!多分!!」

 

「多分なんだ…」

 

「だから来い!一緒に戦うぞアラシ!」

 

 

隼斗が伸ばした手をアラシが握る。

笑い合う2人に、永斗と憐もやれやれといった顔で後ろに続き、手を重ねた。長いようで短かったこの数日、2つの世界の仮面ライダーは『戦友』として巨悪に挑む。

 

 

「待て待て!俺を置いていくな!騎士道的にここで友を見捨てることはできん!」

 

 

ちなみに瞬樹もしれっと付いて行くつもりのようだ。妹の善子のことが気になって仕方ないのだろう。

 

バイクにエンジンをかけ、ゲートに入ろうとした瞬間、聞こえたのは9人の声援。

 

 

「ファイトだよっ!仮面ライダー!」

 

 

最後に聴こえた穂乃果の声を耳に残し、5人は未来の異世界へと飛び込んだ。

 

 

 

____________

 

 

波に乗ったような、空に浮いたような不思議な感覚の空間を通り抜け、着地したのは静かな道路の真ん中。

 

アラシと永斗には馴染みのない田舎の空気。静岡の内浦だ。

 

 

「よーし!I'm home 我が故郷!」

 

「ここが未来の世界か…未来つってもクソ田舎ってこんな感じなんだな」

 

「性格には『別世界』の未来だけどね」

 

「未来世界…別世界の未来の我が故郷……」

 

 

晴れて元の世界に戻れて、こっち世界二人組はなんだかんだ嬉しそうだ。

 

 

「ようこそ、3人とも。ここが我が故郷静岡県内浦の……」

 

「あー、隼斗さん?言いたそうにしてる所悪いけど……なんか静か過ぎない?」

 

「田舎だし当たり前だろ、秋葉原とこっちとじゃ言いたかないが天地の差があるわ。が…否定はできないな。普段はまだ住民の人達の話し声が聞こえてきてもいいはず……」

 

 

「っ!おい、アレを見ろ!人がいるぞ!」

 

 

そんなに人がいるのが珍しいのかと言わんばかりに声を張る瞬樹。故郷自虐もそこまで行くかと思ったが、どうやら違うようだった。

 

 

それなりに人はいた。田舎と言っても街と言える程度には。

ただし、完全に動きが止まっていたのだ。ビデオで一時停止をしたかのように。

 

 

「っ!?どうなってやがる!」

 

「人が止まっテ……それにこの空気…ハーさん!」

 

「まさか、重加速…!?」

 

 

永斗が想起したのはロイミュード106と戦った際の重加速現象だが、あの時とは何か雰囲気が異なる。

 

 

「いや、だとしてもだ!グローバルフリーズ級じゃない限り『完全停止』なんてのはあり得ねえんだ!」

 

「グローバルフリーズ?」

 

「かつてこっちの世界で起こった、世界中で重加速が起こったっていう大事件。ってかそんなこと今はどうでもいいんだ!」

 

「やっぱりな、ロイミュードじゃねぇってんなら…この現象を起こしてる奴なんて1人しかいねぇだろ。

 

そうだろ?『憂鬱』さんよぉ!!」

 

 

さっきから全身に突き刺さる、もしくは圧しかかるような緊張。重く暗い嫌な強さの感覚だが、その根本はゼロや朱月、暴食と対峙した時と同一だ。

 

 

「おや、まさか俺を知るものがまだいたとはね…意外だったよ」

 

 

袖どころか腕に縫い跡、ボディステッチが刻まれた暗い雰囲気とロングコートを羽織る青年。問答は必要無い。彼が『憂鬱』その人、エルバに違いない。

 

 

「エルバ…!マジかよ早速お出ましか!」

 

「あっちの世界で名前を知ったのか。まぁだが、帰って来るとは思っていたよ。あの程度の障壁など超えると分かっていた、だからこうしてここで待っていた」

 

「あの程度、か…敵に同情はしねぇが、あのカンフー女は気の毒だな」

 

「結果、全ては俺の思う通りになった。全てが俺の想像の域を出ない。あぁ…やはり驚きも無い、感動も無い、この世界はモノクロ…本当に笑えない」

 

 

憂うエルバ。その周りに広がるのは、苦しんだ表情のまま動けない人々の姿。これだけで彼の桁外れの異常さがビリビリと戦慄として伝わって来る。

 

 

「俺はポエムが嫌いなんだ、分かりにくくて仕方ねぇ。文句があるなら聞いてやるよ、拳でな」

 

「…はっ、やる気みたいだなアラシ。だったら俺も最初からFull speedだ!今の俺達は、俄然負ける気がしないんでね!!」

 

「そうだな。御託ばかりじゃいつまで経っても笑えない。

そろそろ楽しませてもらおうか、仮面ライダー」

 

 

絶望郷の中心で黒の支配者は愉楽を求める。

絶対的な威圧を振りほどき、退屈の霧を掃い、その力は届くのか。

 

戦場はダブルの世界から、ソニックの世界へ───

 

 

 

 




もうちょっとだけ続くんじゃよ。はい、もう少しだけお付き合いください。
次回からはソニックの世界で戦いが繰り広げられます。流石にエルバを放置というわけにはいかないので…瞬樹も善子と会えるか乞うご期待。

あ、ファーストもまだ出番あるので。なんならキーパーソン続投です。

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