ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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ポケモンスナップを買った146です。神ゲーなので皆買いましょう。
今回もコラボ編!憂鬱の陰謀を阻止するため、本格的に調査開始です。そのせいでラブライブ要素希薄というクロスオーバー作品最悪の事変(いつもの)が起きてますが、いずれ挽回するので…!

今回の主役は仮面ライダースレイヤーこと狩夜憐かな?本邦初公開のアレが……

今回も「ここすき」よろしくお願いします!


コラボ編 第4話 いかにして陰謀を暴くのか

 

異世界から来た仮面ライダー、天城隼斗と狩夜憐。これら一連の騒動の元凶が組織の元幹部『憂鬱』と判明し、二つの世界を巡る戦いの火蓋が切って落とされた。

 

そして我らの世界の仮面ライダーの一人、士門永斗はというと…

 

 

「おいコラ!テメェいつまで寝てんだこのボケが!」

 

「うるさい…いーじゃん僕いなくても。せっかく2人増えたんだし、浮いた人数はちゃんと有効活用しないと……」

 

「手がいくらあっても足りないって分かってんだろ!おら動け!朝飯食え!」

 

 

めちゃくちゃ寝坊していた。

見慣れたいつもの光景だが、待機していた隼斗は意外そうに驚く。というのも、これまで隼斗は参謀としての優秀な永斗しか見ていなかったからだろう。

 

 

「今んとこ出てんのが塔三本。憂鬱の一派の足取りは全く掴めねぇ」

 

「前はあのスーザって奴が勝手してたっぽいから会えたが、あれ以降徹底した作戦を取ってるみたいだな…」

 

「確かにタワーはアホだったケド、あのフーディエっていう姉さんはマジメそうだったしナ」

 

「奴らが行動を終わらす前に動くには、お前の本棚が必要なんだ。キビキビ働け永斗」

 

「へいへい…」

 

「前から気になってたんだけど、その本棚ってなんだ?」

 

「あー言ってなかったっけ」

「お前が説明面倒くさがるからだろ」

 

 

アラシは永斗の「地球の本棚」について説明した。地球上の全てを閲覧できるデータベース、そのスケールに隼斗たちは「マジか…」と開いた口が塞がらない様子。無理もない話だが。

 

 

その後、永斗の検索を駆使して憂鬱一派の足取りを追跡を開始。瞬樹は行方不明だが隼斗、憐の追加により捜査効率が格段に上がったため、いつもより数段早く情報は集まった。

 

そうして集まった情報は以下の通り。

 

1.タワーは塔を作る時に、その座標近くに居る必要がある。

2.昨日から今日にかけて突然消失した瓦礫やゴミ山、廃車などが多数あった。

3.ロイミュード106はダブルと交戦後複数人に目撃されたが、ある時点から一切の足取りを消した。

 

そして4.憂鬱がかつて使っていたという施設を発見した。

 

 

「消えた材料の量から見積もって雑に計算すると……塔3本分ってとこかな」

 

「今日の朝の1本と、さらに2本…これで合計5本か。キリがいいな」

 

「とにかくタワーは塔を作りに現れる!てことは、塔が出る場所さえ分かればぶっ倒せるってことだ!」

 

「隼斗さんもアラシに劣らず脳筋だねー」

 

「追跡、撲滅!いずれもMach!それが分かったなら、さっさとアイツを見つけてぶっ潰す!そうだろ?」

 

「あとやっぱ気になるって言えバ、その憂鬱のアジト……」

 

 

憐の言葉を遮り、隼斗の携帯の着信が鳴り響いた。

「なんだ電話か」と息をつく一同だが、すぐに気付く。別世界から来た彼に、一体誰が電話を掛けるのだろう…と。

 

 

「『霧香博士』!!!?」

 

「マジ!?博士カラ!?」

 

 

その発信元を見た隼斗が、それを聞いた憐が連鎖爆発のように声を上げた。

 

 

「博士?」

 

「誰だそいつ?」

 

「俺達の顧問でうちの学校の教師。んでもって仮面ライダーとしての協力者の…とにかく今はそんなのどうでもいいんだ!早く出ないと……もしもし!!!?」

 

 

『ん?おい、真っ暗だぞ!しかも何も見えない…』

 

「真っ暗?」

 

 

どうやらテレビ電話だったようで、慌てて隼斗は画面を覗く。

ウェーブのかかった長髪を靡かせYシャツの上に茶色のベストを着て白衣を羽織った女性。隼斗たちの表情を見るに、彼女が『博士』で間違いないようだ。

 

 

『ああ見えた見えた!やっと繋がったか!こちらキリカラボ!2人…も無事か!?』

 

「博士!ああ、こっちは2人ともなんとか無事だ!ってかどうやってケータイ繋げたんだよ!?」

 

『フン!愚…だな隼斗!私は君たちのためにい…でいろんな発明をしてきた女だぜ?一…も有れば別の世界と回線を繋…る装置など…おい曜くん!角度が悪い!戻…てくれ!そうそうそっち方向…オッケー固定!戻ってきてくれ!』

 

 

電波が悪いらしく、声が途切れ途切れになる。とはいえ、世界をまたいだ通信なんて永斗ですら想像もつかないテクノロジーだ。

 

 

「誰だコイツ」

 

「こいつとか言うな!この人はなぁ…」

 

『いい質問だ目つきの悪い少年A!ならば答えよう!私の名は一時 霧香(ひととき きりか)。そこにいる天城隼斗と狩夜憐の所属するスクールアイドル部顧問にして浦の星女学院の化学担当教師!しかしてその正体は………一言で言うならばそう!天才科学者だ!!』

 

 

霧香博士が高テンションで答える。が、アラシが返すのは懐疑の視線。

 

 

『おっと滑った?そこはほら、もっとさー盛り上がってくれたまえよ〜人が自己紹介してるんだからさぁ〜』

 

「博士、それは後にしてくれ。あ、こいつらは切風アラシと士門永斗少年。こっちの世界で協力してもらってる高校生探偵コンビで、この世界の仮面ライダー達だ!」

 

『高校生探偵だぁ?馬鹿も休み休み言いたまえよ。そんなコ○ンじゃないんだから…………ちょっと待て!仮面ライダー!?仮面ライダーって言ったか!』

 

「ああ、んでもってこの異世界迷子の預かり人だ。アンタがコイツらの保護者か?」

 

『ああ、切風少年…と言ったね。彼らが無事ということは君たちが助けてくれたんだな。まずは例を言うよ。彼らの無事を知れただけでも、私たちはみんな安心してる』

 

「博士!姉ちゃんはいるか!?一応俺は無事だって伝えて…」

 

『隼斗!隼斗いるの!?』

 

 

画面の中の博士が吹っ飛んだ。代わりに画面に現れた人物に、隼斗が見たこと無いくらい柔らかい表情を見せる。

 

彼女はAqoursの松浦果南。隼斗が「姉ちゃん」と呼び慕う少女だ。

 

 

「もしもし姉ちゃん?とりあえず俺無事だから…」

 

『馬鹿!また心配かけて…今度こそ隼斗が…』

 

「前にも言ったでしょ?姉ちゃんがいてくれる限り俺は不死身だって!」

 

『隼斗……』

 

 

「すいませーんイチャつくの後にしてもらっていいですかね隼斗さん?」

 

 

他人の幸せ(特に男)が気に食わない、リア充爆発推進委員会の永斗。吹っ飛ばされた霧香博士も復帰し、ようやく話が進められそうだ。

 

 

「その人が果南さん?あ、確かに美人…それと博士?僕は士門永斗。先の他己紹介の通り探偵やってる仮面ライダーの片割れでーす」

 

『ああ、よろしくな士門くん。でだ隼斗、憐。2人がそちらの世界に飛ばされた件だが…こちらでも少し調べた結果ある事が分かった』

 

「何が分かったんだ!?」

 

『あの謎のドーパント男…私の過去の黒歴史を悪用して今回の事件を起こしやがったんだ』

 

「黒歴史?」

「ドーユーことよ博士?」

 

『Aqoursの面々には話したが…改めて君たちに話そう。そこの探偵くん達も聞いてくれたまえ』

 

 

隼斗初対面時と同じく警戒によるバイアスがかかり過ぎているアラシは、どうにも彼女を疑ってしまうようだ。話を聞けば聞くほど目線が鋭くなっている。

 

 

「黒歴史ってのはどういうことだ。まさかお前が…」

「一応聞いとこうよアラシ。まだ敵だと決めつけるにはいくらなんでも早すぎるよ」

 

『私は君たちの前にこうして現れる前…とある研究をしていたんだ。それが、並行世界の存在論』

 

「並行世界の?」

 

『多次元存在干渉論…私はかつてそれを研究する1人のしがない科学者だった。だがある日研究をしてる途中で思ったんだ。私はこの研究を続けていいのか、とね』

 

「何でだよ?並行世界なんて割と浪漫のある話だと思うけど…」

 

 

永斗も隼斗の意見に同意のようだが、博士の考えも分かる。それはアラシも同じだった。

 

 

「悪用されることを恐れたんだろ。現にお前らが今の騒ぎの渦中に巻き込まれてるじゃねぇか」

「奇遇だね。僕も同じこと考えてたよ。アラシと意見が合うなんてめっずらし」

「黙ってろ。で、どうしたんだよ?」

 

『私は一度自分の研究を論文として纏めた。が…それを世に出すことなく消し去ることに決めた。世に出してしまって、もしも悪用されるぐらいなら…研究が無駄になるのはキツイものがあったけどね。それで救われるものがあるなら…そう思ってのことだった』

 

「だがその論文を誰かが見つけてしまったと…」

 

『ああ。全く誰がこんな事を…』

 

「それについてならこっちで調べがついてる。永斗少年!」

 

「はいはい…えーと霧香博士。あなた達の教え子2人をこっちの世界に飛ばしたの奴なんですけど…奴の名前はエルバ。僕らが戦ってるガイアメモリをばら撒いてる組織の元幹部で…異世界に追放されたはずの奴です」

 

『エルバ…それがアイツの名前か』

 

「はい、なんか知らないけど本来他の幹部の力で飛ばされた時点で死んでるはずなんですけどアイツ生きてたらしくて…」

 

『今回の事件を起こした、と…一体なんの為に…』

 

「正直それは今のところ不明。僕らでも調査中です」

「それで博士、もう一つ言っておく事があるんだが…」

 

『なんだい?』

 

「俺達とは別に、どうやらロイミュードも一体こっちに来てたらしい。ナンバーは106。アラシと永斗少年が一度戦ったらしいけど逃げられて…こっちに関しても今調査中だ」

 

『もう一体ロイミュードが!?そして今回の異世界へのゲート…なるほどな………』

 

「なるほどってどういう事だよ?」

 

『いいかい?今回隼斗達が飛ばされた件だが…これは私が考えていた別世界への転移を可能とする理論と似たようなものだ』

 

 

アラシの問いかけに霧香博士がホワイトボードとペンで解説を始める。永斗は既に分かっているようでアラシにドヤ顔を送るが、アイアンクローで捻じ伏せられた。

 

 

『まず初めにその指定した世界の座標を算出し…その世界にマーカー…言うなれば目印となるものを送り込む。このマーカーが、今回の場合はロイミュード106だったんだろう。あとは別世界に繋げるゲートを作り出せる装置を作り、それを使って転移…といった感じだ』

 

「なるほど単純。その装置となるものが、隼斗さんの言ってたデータに無いロイミュードだったってことだね。それで博士さん、こっちも色々と聞きたいことあるんだけど」

 

『何かな?』

 

「世界転移の理論を全部。どーにもエルバがこっちの世界戻るために色々やってるみたいで、その辺を推理するのに理論を知らなきゃ無理ゲーなんですよ」

 

『ふむ…この通信がいつまで持つか分からない。教えるとなるとかなりの突貫作業になるが、君のような少年に理解できるとはとても……』

 

「あ、その辺は心配なく。僕は天才なので」

 

『ほう…!そこまで言うなら見せてもらおう。付いてきたまえ士門少年!まず世界間のゲートというのは血管の弁のようになっており───』

 

 

そこから先は情報の洪水というより岩雪崩だった。怒涛の密度の専門用語、概念、口上での数式にその他諸々…最初から聞く気が無かったアラシと憐はともかく、最初だけ頑張っていた隼斗は完全に頭がショートしていた。

 

そんな暴言とは異なった言葉の暴力にも、永斗は眠そうな眼をしながら頷いて相槌を返していた。

 

 

「───ってことだよね博士」

 

『まさか本当に理解して見せるとは…正解だ士門少年。43点をあげよう!』

 

「やっと終わったか…にしても数字が中途半端過ぎんだろ」

 

『あとの57点は無事にこっちに隼斗達が戻って来てく…たらあ…られ…ん……が…』

 

 

しばらく流暢だった通信にも限界が訪れ、画面と音声が乱れ始めた。

 

 

「博士?おい博士!」

 

『す……ん!時…切れらしい!ともかく切風くん!士門くん!2人を……頼………』

 

 

隼斗の呼びかけに通信機器は応えず、霧香博士の言葉は完全に途絶え、画面は完全に砂嵐に。今後の通信もあまり期待できそうにない。

 

 

「クソ…やっぱ世界間の通信には無理があんのか…!?でも何はともあれ、姉ちゃん達が無事でよかった……」

 

「すごいね彼女。僕は天才だけど新しいこと考えるのは苦手だから、あぁいう理論は思いつかないし現代科学で世界間通信なんか作れない」

 

「俺っちから見りゃエイくんも大概だけどナ…」

 

「同じ開発職の博士って言っても、師匠とは大分違ったな」

 

「あー山神博士ね。僕会ったことないけど。

とにかくあっちの状況は分かったし、超大事な情報も入った。今の通信はかなり大きいよ」

 

 

永斗の脳内に攻略までの道筋が浮かび始めた。

天才でありゲーマーである永斗が次に取る一手は、更なる情報の獲得。

 

 

「アラシ」

 

「分かってる。次は憂鬱の元アジトだな」

 

「随分と神妙ダナ。アジトっていってももう使われてないんダロ?そんなとこわざわざ行く必要あんのカ?」

 

「いやそれがそうでもないんだよ憐くん。あのフーディエとかいう人、ハチャメチャに忠誠心と主君愛がヤバい。主君のエルバが昔使ってた部屋なんて、絶対そのままにしてある。重要な情報も置いてあるに決まってる」

 

「なるほどな…てことは当然、余所者には入って欲しくないってことだ。そうなると相当強い見張りがいるはず…だろ永斗少年」

 

 

永斗は頷く。過去の記憶に触れ、憂鬱の構成員等の情報は得た。その中から見張りに最適な人物といえば、誰でも一人の人物を選ぶだろう。

 

 

「憂鬱の戦闘員、グリウス・コベルシア。エルバの配下の中じゃ戦闘力は三本の指に入る危険な男だ。使うメモリは『スコミムス』」

 

「スコミムス?なんだそりゃ」

 

「聞いたことあるゼ、確か水場に住む恐竜!」

 

「俺も聞いたことあるかも。恐竜キ○グだったか?」

「やっぱ恐竜って少年の夢だよナ!」

 

「スコミムス・ドーパントは『ワニもどき』の名の通り、アジトの傍の湖に標的を引きずり込んで一方的な虐殺を展開する。アジトの建物はグルっと湖に囲まれてるから、正攻法では侵入不可能だね」

 

「そんなの空飛べばいいじゃねえか…ってそうだ鳥いないじゃん!あっ!でも俺たちの持ってるこのメテオデッドヒートなら…」

 

「当然、空の門番もいるよ。フーディエのメモリ…サテライトの自動迎撃衛星だ。飛行物体は全て衛星がシャットアウトする。もし飛んで行こうものならレーザー一斉照射で湖に叩き墜とされるね」

 

 

つまりスコミムスとの戦闘は不可避。水中戦なら組織最高峰の強敵を倒さずして、その先の情報は得られないということだ。

 

永斗も次の手を決めかねている。あまり時間に猶予はないのだから、人員は割けない。しかしあれほどの強敵となると……

 

 

「お前が行け、音速チビ」

 

「音速チビ…俺のことか!?だからお前いい加減に……」

 

 

沸点に達しかけた隼斗だったが、少し妙だと気付いた。というより、よくよく考えれば驚くべきことで、永斗や憐も目を丸くしている。

 

今アラシは「隼斗に頼み事をした」。

言い方はどうあれ、隼斗ならスコミムス・ドーパントという強敵を倒せると判断し、信頼したのだ。

 

 

「ったく…言い方ってあるだろうよ。上等だDetective(探偵)、お前の信頼ってやつに応えてやるよ!」

 

「おぉ、チビから音速チビ。不良探偵から探偵。お互い昇格だアツいね」

 

「両方とも素直じゃないカンジだケド」

 

「お前らと俺は塔出現地点の予想だ。余計な事言ってねぇで働け」

 

 

___________

 

 

ちなみに我らの世界の仮面ライダーの一人、津島瞬樹はというと…

 

 

「雑念退散ッッッ!!騎士道全開いぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 

妹の未来が気になって一睡もできなかった瞬樹。雑念排除の旅と称し、大声を出しながら街中を猛スピードで駆け回っていた。

 

その後、近隣住民の通報で警察から怒られた。

 

___________

 

 

 

「よし。今のとこ塔は3本、場所を地図に書き込むと…」

 

 

壁に貼られた地図にアラシが印を付けていく。

塔を建てることに意味があるとするのなら、その場所も無関係ではないはず。法則性を見つければおのずと次も読めてくるはずだ。

 

 

「塔の場所を結ぶト…おぉっ!これは二等辺三角形ダナ!」

 

「塔で図形を描くっていう観点は合ってると思うんだけど、やっぱり3本じゃ特定まではいかないかな。4本目まで分かればいけそうなんだけど…」

 

「待てよ。そもそも塔には材料がいるんだ、そんな大量の瓦礫やらを運ぶんだから目立ちもするだろ。そこを叩けばいい話じゃねぇか」

 

「それもそーだよナ。タワーが近くにいなきゃ塔は作れないカラ、同時に塔を建てられることもナイ。4本目を見てからでも十分間に合うんじゃないカ?」

 

「まぁ、確かにそれならラクチンだけどさ…」

 

 

それならば塔3本分もの動きを見過ごしていることになる。そもそもどうやって材料を運んだのだろう。永斗の知る限り、憂鬱の構成員は少数精鋭で戦力層は厚くない。あれだけの質量の運搬を可能にするメモリの使い手なんていなかったはずだ。

 

 

「…それもそうだね。今は外を調べようか」

 

 

 

__________

 

 

 

「……!……!」

 

 

警察に怒られてからは静かに走り回る瞬樹。今考えているのは花陽と善子のことで、捜査に参加する意思は頭の片隅にもなさそうだ。

 

ちなみに何故走り回っているかというと、隼斗たちのことや善子の未来のことを烈に伝えたところ……

 

 

『未来?異世界?可哀そうに、洗脳がまだ残ってるんですね』

 

 

と真顔で言われた後、匂うゴミを捨てるように家から閉め出されたからだ。黒音烈という人物は、瞬樹を虐げるのに躊躇も暇もない。

 

帰る場所がないので仕方なく走り回った結果、相当遠くまで来たようだ。この竜騎士、無駄に元気だけは有り余っている。

 

 

「…!?」

 

 

そこでやっと瞬樹の足が止まった。人通りが少なく、それでいて十分な面積のある土地を前に誰かが1人立っているのを見つけた。

 

彫の深い顔をした金髪外国人男性。表情を見た一瞬で気取った感じが伝わって来る。もっと具体的に例えるなら、通りすがりの人に舌打ちされそうな顔をしていた。

 

彼が持つのは何かの設計図だろうか。気になった瞬樹は興味本位で近付き、紙を覗き込んだ。

 

 

「これは…!?」

 

「な…なんだ!?何故ここに人が!?」

 

 

そこに描かれていたのは「塔」のデザイン。

何を隠そうこの男こそ、タワー・ドーパントの変身者であるデュオン・ヴァン・スーザなのだ。

 

しかし、捜査の詳細が完全に頭から抜け落ちた瞬樹はそれに気づくわけもなく。

 

 

「カッコいい…なんだこの荘厳で斬新なデザインは!我が竜魔眼も感動に打ち震えている…!これは革命だ!貴様が描いたのか!?」

 

「お…おぉ!素晴らしいっ!アナタはこの美しさを理解できるのですか!今回のオーダーは鉄塔だが、そこに!あえて!鉄塔の存在しない古代文化のデザインを取り入れたのです!さらに内装には更なる工夫が……」

 

「これは…!貴様は希代の天才だ!特にこの竜のデザインは……」

 

 

カッコよけりゃなんでもいい中二バカ。もとい瞬樹。芸術なんて分からないが、ゲームやアニメに出てそうなデザインの塔をテンションでべた褒め。

 

最近誰も褒めてくれなくて凹んでた美術バカ。もといスーザ。一応フーディエから瞬樹のことも聞いているのだが、嬉しさの余り全く気付いていない。

 

 

しばらく語り合った後、二人は固い握手を交わす。

バカ二人が奇跡的に嚙み合った瞬間だった。

 

 

「素晴らしい塔だ。いつかこれを形にするのか?」

 

「いつかとは随分と遠い話ですね同士よ。ワタシの創造心は絶え間なく溢れているのです。世界はワタシの創造を絶えず現実にする義務があるっ!完成した暁には必ず同士を……」

 

 

「貴様…よほど舌を引っこ抜かれたいようだな、スーザ!いや…もはや貴様には脳すらも不要か!」

 

 

熱く言葉を交わしていた二人に放たれたレーザー光線。二人の間の地面を焼き焦がしたその光線は、浮かび上るサテライト・ドーパントが放ったものだった。

 

 

「フーディエ!これだから理解の無い野蛮人は…!」

 

「人を野蛮と言えた立場か無能!確かに伝えたはずだ、貴様が呑気に会話していたその男は仮面ライダーの一人だぞ!」

 

「なっ…!?そんな……何故!」

「貴様…はっ!そういえばアラシが塔がどうとか…もしかして貴様ドーパントか!」

 

 

今になってようやく互いの立場を知った瞬樹とスーザ。二人とも馬鹿とはいえ戦士、それが分かれば戦わない選択肢は無い。

 

 

《タワー!》

《ドラゴン!》

 

「変身!」

 

 

スーザは肘にメモリを挿入し、瞬樹はドライバーにメモリを装填。互いに変身した二人は、躊躇いながらもハンマーと槍をぶつけ合わせる。

 

 

「何故…何故です同士!アナタはワタシの芸術を理解できるこちら側の人間!そんなアナタが仮面ライダーであるべきではない!」

 

「それはこちらのセリフだ!貴様のような素晴らしいデザイナーがどうして…!」

 

「世界が理解しないからだ!低能な劣等人種どもは、創造という才能を隅へと追いやる!ワタシにはそれが耐えられない…だからエルバ様を信じたのです!あの方の才能なら必ず、世界から凡夫を駆逐してくれる!」

 

「余計な事を喋るなと言っている!スーザ!貴様の役目を迅速に果たすのだ!」

 

 

エデンとタワーの戦いの間に割り込むサテライト。その驚異的な速度を前に防御も妨害も許されず、一瞬でタワーと引き剥がされてしまった。

 

タワーが向かうのは、さっきまで存在しなかったはずの鉄くず山の麓。

 

 

「待て!よくわからないが…竜騎士の勘だ!止める!」

 

「許すと思うか?貴様如きが、我が主君の道を塞ぐなど言語道断!」

 

「我が主君だと?主への愛で俺と競おうなど、それこそ結構!…じゃないコッケイだ!」

 

 

サテライトの腕に装備されたレーザー砲が、ビームサーベルの形状に変形。そこから繰り出されたのは片腕で紡がれた高貴なる剣術だった。

 

恐らくこれが彼女の十八番。エデンの槍術も負けじと白熱するが、フェンシングに似た速度重視の剣術はあっという間にエデンの動きを制する。

 

しかも、これだけの猛攻を仕掛けながらサテライトの姿勢は全く揺るがない。衛星の姿勢制御機能により環境を意に介さない彼女の攻撃は、敵に恒常的な防御姿勢を強制する。

 

 

「やれ、スーザ!第四の柱を突き立てろ!」

 

「言われずとも!世界よ見るがいい、ワタシの作品を!」

 

「させるかあああっ!!」

 

 

タワーが鉄の山に触れ、能力を発動させようとしたその時。気合でサテライトの攻撃を振り切り、エデンがそれを止めるべく鉄の山に駆け出した。

 

しかし、力み過ぎたのか余分に勢いを帯びてしまい……

 

 

__________

 

 

 

外で憂鬱一派を探していたアラシ達。そこに飛来したのは瞬樹に持たせていたスタッグフォンだった。それが何を意味するのか、永斗とアラシには分かっていた。

 

 

「…瞬樹が憂鬱の奴らを見つけたらしい」

 

「スゲーなシュバルツ」

 

「世の中はマジメな奴が馬鹿を見るって決まってんだ。仕方ねぇ、急いで助けに向かうか……」

 

 

走り出そうとした矢先。もはや慣れてきた轟音と共に、遠くで鉄塔が大樹の如く生えてそびえ立った。更に目を凝らすと、鉄塔の天辺から黒ひげ危機一髪のように放り出された何かは……紛れもなくエデンだった。

 

 

「「瞬樹ぃぃぃぃぃ!?」」

 

 

竜騎士、天に還る。

憐の目にはうっすらと、いい笑顔でサムズアップする瞬樹の姿が空に見えたという。

 

 

 

 

冗談はさておき、墜落した瞬樹は無事発見された。

 

 

「大丈夫カ、シュバルツ」

 

「すまない黒騎士…危うく天界に送られるところだった…竜騎士をも裁くバベルの塔……フッ…」

 

「こういうとこ見ると確かにヨっちゃんそっくりダナ」

 

「まぁアホの尊い犠牲のおかげで4本目の塔も出た。これで次の話に進めるな」

 

 

「死んでないぞ!」とアラシに抗議する瞬樹をことごとく無視し、地図に4つ目の印を入れた。その配置を見れば誰でも5本目の場所は予測できる。

 

 

「やっぱり星形。それも一番メジャーな五芒星だね。まだ確定じゃないにせよ、ここに狙いを付けてよさそうだ」

 

「あんまり期待してねぇが瞬樹、他になんか気付いたことは?」

 

「タワーの変身者は天才だ!あの塔はとてもカッコいい!」

 

「期待しただけ無駄だった」

 

「待て待て!まだだ!まだあるぞ!えっと…そうだ、鉄の山がいきなり出て来てそれが塔になったぞ!一緒に現れた機械のドーパントは超強かった!敵のボスはエルバという名前らしい!」

 

「シュバルツ…それ分かってることばっかダゾ…」

 

 

涙目になる瞬樹をよそに、アラシは早速ハードボイルダ―に跨って出発の素振りを見せる。目的地は分かり切っている。

 

 

「五番目の塔の場所に行くんダナ!俺っちも行くゼ!」

 

「じゃ僕は事務所帰ってお昼寝タイムってことで…」

 

「もしかしてだけど、エイくんって結構自堕落?」

 

「結構どころか自堕落の擬人化だ。帰るならついでに瞬樹を見張ってろ。瞬樹、お前次勝手にどっか行ったら事務所のお前用七味唐辛子を全部砂糖にすっからな」

 

「悪魔ァ!?」

 

 

ここだけの話、烈に追い出され過ぎて探偵事務所に瞬樹の私物が増えてきたのだ。そして、辛党の瞬樹にとってアラシの所業は悪鬼羅刹の行いと同義であった。

 

 

 

____________

 

 

 

アラシと隼斗たちが事件解決のため奔走している頃、μ’sもまたステージ作りの仕上げのために精を出していた。

 

 

「思ったより随分と早く終わりそうね」

 

「はい。これも隼斗のおかげです!今日も手伝ってくれると有難かったのですが…」

 

「流石に二日も手伝ってもらうわけにはいかないわよ。それでも、静岡に帰る前にお礼をしなきゃいけないわね。いつ帰るのか聞いてる?穂乃果」

 

 

絵里の問いかけに、穂乃果は上の空気味に首を横に振る。

興味本位もあり、穂乃果は自分の家に隼斗たちを泊めて話を聞いた。穂乃果はその中で出てきた名前が気になって仕方がない。

 

 

「ねぇ花陽ちゃん」

 

「穂乃果ちゃん…?どうしたの?」

 

「アイドル詳しい花陽ちゃんなら知ってるかなぁ…って思って。Aqoursって…知ってる?静岡のスクールアイドルらしいんだけど」

 

 

隼斗と憐の仲間だというスクールアイドル『Aqours』。穂乃果は他のスクールアイドルをそれなりに調べていたつもりだが、聞いたことのない名前だった。

 

それだけなら興味程度で終わっただろう。だが、Aqoursのことを話す時の隼斗たちの態度が妙によそよそしく、それがどうにも気になってしまったのだ。

 

 

「聞いたことない…かな。一応私も全国のスクールアイドルを知ってるつもりなんだけど…!それ、どんなグループ!?」

 

「花陽ちゃん目が怖い……えっとね、海沿いの街の学校らしいよ。あとは……写真だと確かμ’sと同じ9人組で、絵里ちゃんみたいな人や、にこちゃんくらい小っちゃい子もいたかも!」

 

「私みたいな…ってどういうこと?」

「誰が小っちゃいって!?」

 

「なんだろう…外国の人っぽい…って感じかな?」

 

「ふむ…9人組のスクールアイドルは珍しいんだ。しかもハーフかクオーターのメンバーがいるなんて絶対そんなにいないはず。だから知ってるはずなんだけど…」

 

「私も知らないわよ、そんなスクールアイドル。適当なこと言ってるんじゃないの?言っとくけど私も花陽も、よっぽど新人じゃなければ暗記してるわよ」

 

「そんなの覚えてるなら勉強してください」

 

 

花陽もにこも全く知らないスクールアイドル。けれど、あの写真の彼女たちは確かにスクールアイドルだった。そう断言できるだけの『何か』はあった。

 

 

「そういえばあの子、誰かに似てたような……?」

 

 

 

___________

 

 

 

「ここが第五の塔、出現予測地点だ。待ち伏せでもするつもりだったが…」

 

「あぁ、どーやらアタリみたいダナ」

 

 

アラシと憐をその地で待ち受けていたのは、地面にうつ伏せで寝っ転がった上半身裸の男だった。ツッコミどころ満載の風貌はさておき、見張りがいるという事はここが出現地点であると言っているようなもの。

 

 

「なぁ、何してんダ?アンタ」

 

「シッ!静かにしてくれるか、おれは今…大地の声を聴いているんだ」

 

「また変な奴が出やがった……おい裸族、テメェの気色悪い趣味に付き合ってる暇はねぇんだ。関係ねぇならどっか行け。もしテメェが憂鬱の一味なら……」

 

 

その警告が締められる前に、ゆらりと立ち上がった男は腹部にメモリを突き刺した。紫色のドーパントメモリ。刻まれた文字は沼と引きずり込まれる人間で描かれたS。

 

 

《スワンプ!》

 

 

『泥沼の記憶』、スワンプメモリ。植物の根で辛うじて形を保った泥人形のような姿が、地面に溶けていくように消えた。

 

暴食ことキメラ・ドーパントも使用していた能力である『地面潜水』。その能力によって一切の妨害を受けず、スワンプはアラシの傍に浮上する。

 

アラシが攻撃を回避しようとすると、足元の自由が消えていることに気付いた。スワンプの能力で付近が泥沼に変化しているのだ。

 

 

「おれの邪魔をした罰だ。土の中で反省するんだな」

 

「クソ、避けられねぇ…!?」

 

 

足元が固定されたせいで吹っ飛んで衝撃を逃がせないし、受け身も取れない。こんな状態でドーパントの攻撃を喰らえば間違いなく全身が砕ける。

 

痛みを覚悟した瞬間、黒い援軍がスワンプの攻撃を未然に防いだ。それは小さなバイク型ユニット、シグナルスレイヤー。その持ち主である憐も、沈みゆくバイクを足場にして足元の自由を死守し、スワンプに追撃の蹴りを叩き込む。

 

 

「危ないトコだったな、アラシサン!」

 

「…あぁ、悪い。助かった」

 

「ココは俺っちに任せてよ。ハーさんにばっかカッコつけさせるわけにはいかねーからナ!」

 

 

憐は隼斗と同じマッハドライバーMk-Ⅱを腰に巻き付け、空を旋回するシグナルスレイヤーを掴むとドライバーにセット。

 

 

《SignalBike!Rider!》

 

「変身ッ!!」

 

《Rider!Slayer!!》

 

 

纏う装甲は黒。瞬樹は彼を黒騎士と呼んでいたが、その姿は敢えて言葉にするなら「機獣戦士」が相応しいだろう。戦場を疾走する狼が、底なし沼の中心で咆哮する。

 

 

「おまえ、何者だ?」

 

「聞きたキャその耳カッポじり、その目を開いてよーく聞ケ!!

この世の悪党!魑魅魍魎!全テを狩り尽くす漆黒の戦士!仮面ライダースレイヤー!!」

 

 

漲る闘気を名乗りに重ね、腕の『スレイクロー』を向けてスワンプに殺気を浴びせる。

 

 

「仮面ライダーだと…!?黒一色は聞いてないぞフーディエ」

 

「アンタが何考えてんだかはわかんねーケド…こっちもこっちで訳ありナンダ。邪魔をすんなら……ぶっ倒ス!!」

 

 

飛び掛かるスレイヤー。だが、スワンプはまたしても姿を地中に隠す。

 

 

「消えた…!?何処ニ…」

 

「さっきのを忘れたのか!下から来るぞ!」

 

 

アラシの助言でスレイヤーは地面に浮かぶ波紋を見つける。これがスワンプ出現のサインと直感し、その不意からの一撃をなんとか防いで見せた。

 

 

「ワリ、助かった!」

 

「これで貸し借り無しだ。アイツは地面に潜って攻撃してくる、足元に気をつけて戦え!」

 

「気をつけて戦えっつーケドさ!アラシサンもなんとかしてくれヨ!」

 

「無理に決まってんだろ!この状態じゃまともに動けねえしドライバーも出せねえよ!」

 

 

既にアラシは腰まで沈んでしまっており、身動きが取れない。

 

普通の泥沼なら抜けるのは訳無いが、この沼は重力に加え沼内部から引っ張るような力で沈む力が尋常じゃない。一度足を奪われれば最後の初見殺しだ。

 

 

「シャーねぇ!俺っちだけでなんとかするしかねーカァ!!」

 

《ズーット!Slayer!!》

 

 

スレイヤーはドライバー上部の『ブーストイグナイター』を連打しシフトアップ。姿勢を低くし、全身に迸るエネルギーの行き先を見定める。

 

 

「行っくゼェェェッ!!」

 

 

スワンプは自身の周囲に泥沼を展開し、スレイヤーを待ち構える。しかし、スレイヤーは漆黒の電光を纏って泥沼地帯に飛び込んだ。

 

一度捕まえれば勝ち、そう思っていたスワンプ。それは謙遜も傲りも無い事実だが、獲物を追う黒獣は予測を遥かに上回ってみせた。

 

 

「なにっ!?」

 

「アイツ…やるじゃねぇか」

 

 

泥沼を強く踏みしめ、脚が沈む前に次の一歩を叩きつけて猛スピードで爆進。

 

衝撃を受けた瞬間、粒子を多分に含んだ液体は一瞬硬化して足場になる。『ダイラタンシー現象』と呼ばれる物理現象だが、スレイヤーはその最適解を本能で探り当てたのだ。

 

 

「一瞬でも力か速さを緩めれば沈むだけだ。狂っているのかコイツ…!」

 

 

スワンプの意識を刺した悪寒。それに従ってスワンプはまたしても地中に沈み込んだ。スレイヤーを沈めるのは諦め、ヒット&アウェイに舵を切ったようだ。

 

 

「また消えやがった…気をつけろ!」

 

「わーってるヨ!ここハ……」

 

 

見た目と戦いだけじゃない。スレイヤーの感覚もまた、獣と呼ぶに足る鋭さを持っている。その聴覚は背後で泡立つ大地の音を捉えた。

 

 

「みっけた!」

 

「っ!しまっ…」

 

 

浮上した瞬間を捕捉されたスワンプ。そこからの潜土はスレイヤーを相手に無謀というもの。

 

 

「微塵切りダゼ!」

 

 

右手のクローが鮮烈な軌跡を描き、隙だらけのスワンプの体を一瞬で切り刻んだ。刻まれたスワンプが水分を含んだ音を立てて地に落ちる。

 

 

「アレ?微塵切りどころか輪切りレベルで倒しちっタ…まーいいヤこれでジ・エンド…」

 

 

永斗が見ていたら拍子抜けはフラグと言っていただろう。その展開予想は大体正しく、憂鬱の刺客はそう一筋縄で倒せる程度の強敵ではない。

 

バラバラになったスワンプの体は一度泥に戻ると、すぐに人の形を取り戻してしまった。完全な再生を果たしたのだ。

 

 

「まじかヨ!?」

 

「こいつ再生能力まで持ってんのか!」

 

「当然だ。今のおれはこの大地と一体化しているも同然!簡単に倒せると思うな!」

 

 

スワンプの攻撃が近接から泥団子発射に切り替わった。

その威力は大したことないし、爆発するでもない。クローで叩き落とすスレイヤーだったが、すぐに異変に気付いた。

 

泥団子は被弾した箇所に付着し、岩のように硬化してしまっていた。それによりスレイヤーの両手、則ち最大の武器であるスレイクローが封じられてしまう。

 

 

「腕ガ!?」

 

「どうだ。たかが泥と侮るな!土は遥か昔から人類が様々なものを造り出す為に使われてきた、正に大地の恵みそのもの!おまえ如きがおれを倒せると思うな!」

 

 

そこからはスワンプの接近戦が再開。その動きに渡り合うことは造作も無いが、クローが無ければ攻撃力に欠ける。防御はできても反撃は不可能だ。

 

 

「流石に不味いナ……!」

 

「クッソ!変身さえできりゃあんなヤツ…!」

 

 

アラシが苦し紛れに発した『変身』の一言。それがスレイヤーに閃きを与えた。スレイヤーはこの状況を覆すワイルドカードの名を叫ぶ。

 

 

「来イ!メテオデッドヒート!!」

 

 

呼びかけに応じて馳せ参じたのは、竜の如き深紅のシフトカー。撒き散らされた炎はスワンプを牽制し、『シフトデッドヒートver.メテオカスタム』がスレイヤーの手の中に収まった。

 

 

「ぶっつけ本番だケド…やるしかねぇ!!」

 

 

シグナルスレイヤーとシフトデッドヒートを入れ替える。リアウイング部分を押し、ドラゴンの咆哮と共にヘッドライトが点灯。

 

 

《Burst!Overd Power!!》

 

 

泥沼の湿気を吹き飛ばす熱気が、周囲の空間を制する。

スレイヤーはスロットをドライバーに叩き込み、その変身を完遂させる。

 

 

《SignalBike/Shift Car!》

 

《Rider!Dead Heat!Meteor!!》

 

 

「オオオオオッ!!」

 

 

召喚された火竜のアーマーを纏い、黒と赤のオーラをこの世界に焼き付ける。

 

溶岩を思わせる装甲。換装により復活したスレイクローの先端は赤く染まり、三本角と琥珀の複眼、最後に大きな翼は獣からの転生の証明だ。

 

 

「なに……!?」

 

「進化……したのか…!?」

 

「悪鬼羅刹ヲ焼き尽くシ地獄をも焦がす龍の炎!全ての悪よ 俺っちの前に恐れ平伏セ!!仮面ライダースレイヤー メテオデッドヒートフォーム!!」

 

 

今の彼は『竜』。内浦に飛来した隕石を素材に、デッドヒートを改良して暴走の危険性を出力に転化することに成功した霧香博士の最高傑作。それがメテオデッドヒート。

 

ちなみに、以前隼斗が使用した際はソニックだけで全て片付いたため、憐は変身せず終いだった。なので憐は只今かなりテンションがウキウキだったりする。

 

 

「幾ら姿が変わった所で!」

 

 

スワンプがまたしても地面に潜伏。

 

しかし、その攻撃はもう飽きたと言わんばかりにスレイヤーは翼型の飛行用装備『ドラゴフレアウイング』に炎を纏わせる。

 

 

「喰らえ!!」

 

 

スレイヤーの眼前に浮上したスワンプ。しかし、その攻撃は虚空を突くのみ。何故ならスレイヤーは翼を広げ、飛翔したからだ。

 

 

「何っ!?」

 

「アイツ飛べんのかよ!」

 

「っハハー!空飛べんのはハーさんの専売特許じゃねぇんダゼ!!」

 

 

空中なら底なし沼に怯える必要もない。空中から急降下し、炎を帯びたクローが強襲。スワンプの体がもう一度切り裂かれる。

 

 

「忘れたのか。幾ら切られようとおれの体は……」

 

「それはどうカナ?」

 

「なに…?」

 

 

泥とは、水と砂が混ざった固体と液体の中間の振る舞いをする物体である。スワンプの体が再生するのも、その水分が砂の体組織を繋ぎ合わせるから。

 

ならばそこに熱を加えれば?

答えは単純。泥はただの砂になり、零れ落ちて二度と元に戻らない。

 

 

「アンタ、焼き物って知ってるカ?ホラ、お皿とか…壺トカ。アレも元をたどりゃタダの泥ダ。けど色々手を加えて熱を入れりゃたちまち硬くナル。んでもって割れモノ故に壊れやすい。その理論を使ったダケさ!!」

 

「なるほどな、アイツ中々考えは良いじゃねえか…あの音速チビの仲間なだけはあるか」

 

 

泥沼は飛行。再生は炎。スワンプの能力全てに回答が突きつけられ、後は力の限りスワンプを叩き潰すのみ。

 

クロ―の斬撃にも、空中から繰り出される蹴りにも、炎が付与されることで確実にスワンプの寿命を縮めていていく。

 

 

「くっ…馬鹿な!このおれがこんな奴に…!!」

 

 

またスワンプが地面に潜ろうとする。ただし、今度は泥の触手でスレイヤーの脚を掴んで。

 

 

「ヤッベ」

 

「底なしの地面に沈めてくれる!」

 

「エェッ!?おいおいおいちょっとマテマテマテ!!

 

 

 

 

 

 

 

…………………なんてナ」

 

 

息を深く吸い込み、スレイヤーの口部装甲が展開。

やはりコレを抜きに炎のドラゴンを語れない。

 

 

「なっ……!」

 

「ブレス・オブ・バーン!!!」

 

 

放たれた火竜の咆哮が至近距離でスワンプを焼き焦がす。炎を纏った攻撃とは訳が違う圧倒的高熱で、スワンプの体は砂を通り越して『焼き物』に。

 

 

「ぐおおおおおおおっ!!!?」

 

 

こうなればもはやスワンプに未来は無い。

陶器は『硬くて割れやすい』のだから。

 

 

「ウーン……土偶とか埴輪の方ガまだマシなデザインしてんナ…俺っち正直趣味じゃネェや。つー訳デ……」

 

《ヒッサツ!Volca Full throttle!Dead Heat!!》

 

《Meteor!!》

 

 

「これで最後ダ!」

 

 

脆くなった触手から逃れ、ドライバーを操作して必殺シークエンスを起動。右腕のクローがガントレットのように変形し展開。激しく炎を噴く拳を握り固める。

 

 

「くっ……!まだだ…おれは……!」

 

「ヨッちゃんじゃねーケド言わせてもらうゼ……

地獄の炎に焼かれて散りナ!!」

 

 

赤黒い炎の光景と熱が網膜に焼き付く感覚。そこから伝わって来るのは熱き心と荒ぶる狂気。その全てが火力として、スワンプの身体に浴びせられる。

 

 

「ヴォルカニック・ヘル・バースト!!」

 

 

拳から放出された桁外れに激しい炎は、竜の形を成してスワンプを飲み込んだ。その温度は大気圏を突き進む隕石の表面温度、数千度に到達。泥人形がそんな炎に耐えられる道理は無く、焼けた全身が砕け爆散した。

 

今度こそメモリが砕け、勝負は決した。

憂鬱の刺客を単独で撃破して見せたスレイヤー。朱月と渡り合ったソニックといい、彼らの異様な強さは敵にとって大きな誤算だったに違いない。

 

 

「よーし…いっちょアガリ!」

 

「まだアガリじゃねぇ!こっちを助けろ!」

 

「『助けてください』ダロ?ヤレヤレ……」

 

 

メモリブレイクで沼は消滅したが、それはそれでアラシの下半身は地面に埋まってしまったままだった。永斗が見たら「ディグダだ」と爆笑するに決まっている。そう考えるとなんだか腹が立ってきた。

 

スレイヤーのガントレットで地面にヒビが入り、なんとか地中から脱出に成功。

 

 

「で、コイツどーすんの?」

 

「あ?…とりあえずメモリは砕いたし、放置でいいだろ」

 

「ラジャー♪」

 

《オツカーレ!》

 

 

スワンプになっていた男を目に届く場所に放置し、スレイヤーも変身を解除。とにかく、これでこの場所での面倒事は終わったと見てよさそうだ。

 

 

「後はここで待ち伏せシテ、残りの敵を待てばいいんダロ?楽勝じゃネ?」

 

「……いや、気になる。順調すぎるんだよ。確かに見張りは決して雑魚じゃなかったし、お前らがいなけりゃもっと手間取ってた。それにしても……だ」

 

 

何より塔の配置が素直過ぎる。見張りがいたにせよ、場所がこうも予測しやすいと妨害のリスクは避けられない。フーディエの性格を考えた時、そんな手を取るかと言われると疑問が残る。

 

アラシはおもむろにスタッグフォンを取り、永斗に通話をかけた。

 

 

『もしもし?どしたの、そっち着いた?見張りいた?』

 

「見張りはもう片付いた。それより検索だ!奴らは必ずまだ何かを温存してやがる。今ここで憂鬱の策を一切合切洗い出す!」

 

『検索って言ったって…めぼしい新情報はそこまで無いし……』

 

 

永斗が検索を渋っていると、示し合わせたように憐の携帯に連絡が入った。その相手は確認せずとも隼斗以外に有り得ない。憂鬱の元アジトに行った隼斗が情報を手に入れたのだろう。

 

 

「ハーさん!そっちはどうナノ?まぁ連絡してきたってことハ…勝ったんだナ!さっすがハーさん!よっ!最強ヒーロー!!………エイくんに?予想外?どうしたんだよハーさん?」

 

 

何やら思っていた内容とは違ったようで、憐の声も曇る。一通り話を聞いた憐は、よく分からなそうにその内容をアラシに伝えた。

 

 

「なんかハーさん曰く、奴らを追う第三者?がいるらしいケド…あと今からアジト入るっテ」

 

『電話越しにすごく面倒くさそうな事が聞こえた』

 

「第三者も気になるが…今は丁度いい。その通話ちょっと俺と代われ」

 

 

憐から携帯を受け取ったアラシは、右手で永斗と、左手で隼斗と通話するという面白い状況に。

 

 

『なんだよ探偵。言われた通り来てやったぞ。ま、見張りに関しちゃ誰かに倒されてたが…』

 

「それはまた後から聞いてやる。今の急ぎは憂鬱の情報だ。何か一つ…どデカい見落としがある気がする。その正体がそこにあるはずなんだ」

 

『なんだよそれ…根拠は?』

『どうせ勘だから聞くだけ無駄だよ』

 

「うるせぇ勘だよ悪いかさっさとしろ」

 

 

言われるまでもなく隼斗はアジトへ向かっていたらしく、しばらくすると通話越しに色々と探している音が聞こえだした。そこから更に待つこと十分弱、隼斗は早くも何かを見つけたようだ。

 

 

『永斗少年、エルバは研究者だったのか?』

 

『憂鬱は基本、エルバが好きな事やってそれに部下がついて行く感じだったから、何やってたかは部外者には分からないんだ。でも…エルバなら出来ただろうね、常軌を逸した研究くらいは』

 

『確かに霧香博士の研究を利用したくらいだもんな。それなら間違いねえ、俺は今エルバが使ってた研究室にいる』

 

「よし、そのまま捜索を続けろ。その間にこっちも真実に近づきに行ってやる」

 

 

____________

 

 

 

「やらなきゃいけなさそうね。それなら…検索を始めようか」

 

 

少し疲れた様子で白い本を手に取り、目を瞑って意識を空気と馴染ませるように力を抜く。目を開けるとそこは、本棚で埋め尽くされた真っ白な空間。

 

 

「で、何が気になるのアラシ?」

 

『奴らの奥の手だ。まずは作戦の全容から考えねぇと話にならねぇ。そもそもどうやって異世界を繋げるかもわかってねぇんだ』

 

「オーケー、検索項目は『方法』。キーワードは『並行世界』『扉』『塔』『五芒星』」

 

 

瞬樹に持たせた携帯から聞こえる声の指示に従い、永斗はキーワードを入力。その度に本棚の数は減っていくが、今一つ絞り込みには至らない。

 

 

「キーワード追加。『ガイアメモリ』…」

 

 

少し考え、永斗はそのワードを追加する。

隼斗たちをこちらに送ったロイミュードの能力で世界転移をするのは有り得ない。何故なら、それは霧香博士の理論に反しているから。

 

世界間のゲートは一方通行。あちらからこちらに来れても、その逆はできない。逆をしたければ別の方法で新たなゲートを開けなければいけない。

 

そしてその一方通行のゲートが両側の世界から開けられた時、世界間のトンネルは開通される。そのためには両側のゲートの位置を合わせなければいけない。

 

 

「もう一つ、『秋葉原』」

 

 

隼斗たちが落ちて来たのは秋葉原。つまりこちらから観測は出来ないが、あちらからこちらのゲートは秋葉原に存在する。

 

 

「五本の塔が描く星の中心には丁度秋葉原がある。みんな聞いてたから分かると思うけど、霧香博士の理論通りなら塔の配置は星形で間違いないよ」

 

『分かるわけねぇだろアホか。だがそれなら猶の事ここが五本目の場所で間違いないことになる。俺の考えすぎか…?』

 

 

______________

 

 

 

「考えろ…!絶対に何か見落としてる。未知の中の不自然が、これまでの何処かに…!」

 

『…おい!おい!聞いてるか探偵!?見つけたぞ!エルバの研究に一つ、俺でも分かるとんでもないヤツがあった!』

 

「おぉっ!さすがハーさん!」

 

「でかした音速チビ!そいつは一体───」

 

 

隼斗の口からその内容が伝えられる。

それはまさしく常軌を逸した研究だった。これが本当ならエルバはやはりとんでもない天才だ。しかし、アラシはその驚きよりも、組みあがっていく手掛かりに目を見開く。

 

よく考えれば『あの能力』はなんだ。

それに瞬樹も言っていた。既知の情報に紛れた未知。

 

『瓦礫が突然現れた』

 

『それ』があるなら、これにも説明がつく。

 

 

「永斗!項目変更、『メモリ』だ!キーワードは…『瞬間移動』!

そして……『非生物のドーパント化』だ!!」

 

『はぁっ!?非生物って…そりゃ猫や鳥類のドーパント化には成功してたらしいけど、物をドーパントになんて……!』

 

 

それこそが隼斗が突き止めた憂鬱の研究成果。

この技術がありながら使わない手は無い。そしてアラシは一度、それらしき物を目撃していた。

 

フーディエが初めて現れた時。彼女が持っていた『本』のようなもの。あれに何かの声を入れると瞬間移動が起こっていた。あれが非生物のドーパントだったのだ。

 

 

「次に『本』、いや待て…本はいい。確かにドーパント態の見た目は本だった。でも人が変身したら二本の手足になるように、物の場合も変身物の元の形状に引っ張られるとしたら…あのページの無い本は本というよりも……ノートパソコン!『コンピューター』だ!」

 

 

言われた通り、通話の奥の意識空間で永斗はキーワードを入力する。絞り込みまではあと一歩。そこで止まってしまう。

 

 

「クソ…!他に何か…瓦礫運びだけにんな大層なもん使うとは思えねぇ。恐らく世界転移にもコイツが何か関係して……」

 

「本って、アレがドーパントだったのカ…いやー、でも瞬間移動したり世界の扉を作ったりって、まるで魔法みたいダナ」

 

 

退屈そうにしていた憐が不意に呟いた、その一言。

それこそが答えだと、アラシの嗅覚が告げる。

 

 

「それだ!キーワードは『魔法』!」

 

 

____________

 

 

緑色の文字で『magic』と表示され、キーワード入力が完了。

その瞬間、本棚は大移動を開始し、一つの本棚から抜け出た一冊が永斗の前で止まった。

 

 

「検索完了…っと、なるほど。憂鬱も随分と考えたね。奴らは想像以上に質が悪いっていう、アラシの直感が見事にビンゴだったってわけだ」

 

 

手に取った本のタイトルは『grimoire』。

日本語に直すと『魔導書』。あの本の正体はパソコンが変身したグリモア・ドーパントだ。

 

 

「グリモアは魔法を作って使えるようになるメモリ。でも、メモリを使ってもその魔法理論っていう概念を知れるだけで、それを理解&構築は簡単じゃない。普通の人なら必死に頑張っても火の玉出すくらいの魔法が関の山。そんなので世界を繋ぐなんて大魔法を作るなんて、ローマ字覚えたてがシェイクスピアレベルの戯曲を作るのと大差無いよ」

 

『そいつをコンピューターに使うとどうなる?』

 

「そこが肝だね。コンピューターの記憶力と演算能力で魔法理解+構築を劇的に簡易化。しかもそれによってプログラム構築の要領で外部から魔法構築ができるようになってる。それでも十分難しいけど、無理じゃない」

 

 

____________

 

 

 

「そうなりゃ奴らが一気に塔を作れない理由も分かってくるな。多分だが電力と情報処理の問題だ。あれだけの量の瓦礫を移動させるには、それなりの充電時間が必要ってこった」

 

 

タワー・ドーパント、サテライト・ドーパント、そしてグリモア・ドーパント。敵の残り手札が全て見えた。後はこれらの駒を敵がどう使い、こちらを出し抜こうとするかを読むだけ。

 

 

「話は聞いてたか?」

 

『あぁ、俺もすぐそっちに戻る。やっと決戦の時…だろ?』

 

「話が早くて結構だ。これまでの塔出現の間隔を考えると、奴らが動くのは早くても……今夜。それまでに俺たち探偵が奴らの策を探り尽くす」

 

「そこで俺っちとハーさんが加わって一気にぶっ叩ク!待ってロ憂鬱野郎!」

 

 

それぞれの活躍により、事件解決までの道筋は完全に浮かび上がった。

 

隼斗たち異世界組の力が無ければここまで早くこの段階には至れなかった。もしかすると憂鬱にまんまとしてやられていたかもしれない。

 

依頼人に頼りきりでは探偵が聞いて呆れる。

露払いをしてくれたのが彼らなら、今度はこちらの番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

思考と捜査の時間は過ぎ、その時がやって来た。

帰路を歩く学生たちも居なくなった浅い夜。フーディエとスーザが塔の陣を完成させに現れる。

 

その場所はアラシと憐が見つけた場所では無く、()()()()()()

 

 

「遂にこの時が…これでワタシの作品は真の完成を迎える!」

 

「貴様の作品などどうでもいい!この作戦は全て!この私がエルバ様から承り!この私がエルバ様のために遂行した誉れ高き栄誉!嗚呼、今こそあのお方が戻ってこられる時!」

 

 

 

「散歩のつもりが奇遇だな。たまたま悪巧みする悪党を二人も見つけちまった」

 

「……何…!?」

 

 

塔の反対側から、そこで待っていたアラシが姿を現した。

驚く時間も与えず、アラシは間髪入れずにフーディエに攻撃を仕掛ける。狙うはその手に持った、ノートパソコンのグリモア・ドーパント。

 

 

「馬鹿なっ…!何故この場所が!」

 

「捻くれ者同士気が合うってヤツだ。素直にあの場所で塔を建てる気は無いって思ってな!そこであの場所を詳しく調べた!」

 

 

デンデンセンサーにリズムメモリを装填し、スワンプが守ってたあの場所を超音波の非破壊検査で観察したところ、案の定それは見つかった。

 

 

「スワンプの力で地下深くに沈めた大量の瓦礫があった!だとしたら妙だな。既に材料は転送してあるのに何故すぐに塔を作らない?それは俺たちが五本目を予測するのを想定済みで、逆に出し抜いてやるためだ。

 

お前たちの狙いは『塔のシャッフル』。この第一の塔と瓦礫の埋まった区画をグリモアの力で丸ごと空間転移させて、第五の塔の場所で待ち構える俺たちに待ちぼうけさせようって魂胆だろ!」

 

 

そこまで分かれば問題は奴らがどの塔と入れ替えるかだが、それに関しては地球の本棚の得意分野。『場所』を項目に検索をすれば、精々四択クイズ程度なら正確に正解を割り出せる。

 

 

「もう説明は必要無い、不快だ!分かったところで貴様らには、こうしてグリモアを狙うことしか出来ないのだからな!」

 

 

アラシは男女関係なく顔面を殴れる男。女であるフーディエにも全力で殴りかかっているが、彼女の戦闘能力も凄まじく、グリモアを手放させることすら出来ない。

 

 

「用意をしろスーザ!この邪魔者を塔に行け埋めしてやれ!传送───」

 

 

あの時と同じ合図。空間転移が始まってしまう。

しかし、その呪文が認証される、まさに瀬戸際。

 

アラシの猛撃に意識を割いていたフーディエにそれは不可避。電子的な銃声がバイクのエンジン音の後を追いかけ、輝くエネルギー弾がグリモアを撃ち抜いた。

 

 

「っしゃあ見たか!hit!!」

 

「相変わらず遅ぇな。どこがソニックだ」

 

「見計らってたんだよ。最高にカッコいいタイミング…ってヤツをな!どうせ放っておいても上手くやんだろDetective(探偵)!」

 

「貴様…あちらの世界の…!どこまで邪魔をすれば気が済むのだ!」

 

「Stupid!『どこまでも』だ!俺たちの世界を守るため、お前もお前のご主人様もぶっ飛ばす!」

 

 

颯爽と合流した隼斗が、銃剣武器『リジェネレイトブラッシャー』の銃撃でグリモアを破壊してみせた。これで空間転移はもう出来ない。

 

 

《サテライト!》

 

「許されざる愚行…!エルバ様の帰還を妨げたその大罪!命を以て償え虫けら共がッ!!」

 

 

怒り狂ったフーディエがサテライト・ドーパントへ変身。

それに対する手は一つ。アラシがダブルドライバーを、隼斗がマッハドライバーMk-Ⅱを装着し、それぞれが変身アイテムを握った。

 

 

「最初っから飛ばすぜ、付いて来いよ!」

 

「そっちこそ、ちょこまか動いて足引っ張んじゃねぇぞ!」

 

 

《ジョーカー!》

《SignalBike!》

 

 

「Ready!」

「「変身!!」」

 

 

《サイクロンジョーカー!!》

《Rider!Sonic!!》

 

 

その変身は暴風警報。異なる風が混ざり合い、辺り一帯を刹那の台風が飲み込んだ。そこから出でる違う世界の二人、もしくは三人の『主役』。

 

 

「悪は撃滅!正義は不滅!この世の全てをトップスピードでぶっちぎる!仮面ライダー………ソニック!!」

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

異世界転移の作戦は阻止された。最後に残った仕事は、この騒動の黒幕であるサテライトの撃退だけ。

 

立ちはだかる敵を前に、仮面ライダーダブル、仮面ライダーソニックが遂に並び立った。

 

 

______________

 

 

 

隼斗は憂鬱のアジトに向かったが、そこで待っていたはずの見張りは既に何者かに倒されていた。そこに残っていたのは鋭利な『斬撃』の跡。

 

一体誰が見張りを討ったのか。その答えを示すため、少し時間を遡る。

 

 

それは隼斗がアジトに向けて出発した、その直後。

診療所で珊瑚のリハビリの面倒を見ていたハイドは、片目を隠した医療用眼帯の奥に別の景色を映していた。

 

 

「ふーん…憂鬱の施設見つけるとはやるっスねぇ」

 

 

ハイドのメモリは『神経の記憶』。体から分離した神経を他人に寄生させることで、感覚を共有したり動きを操ったりすることができる。

 

アラシの周りにいる人物は皆オリジンメモリの適合者であるため、能力が十分に使えなかった。しかし、隼斗は違う。隼斗が診療所に来たあの時から、ハイドは神経を隼斗の体内に忍ばせ、その視覚を一方的に共有していたのだ。

 

何か思いついたようで、ハイドは一旦席を外して誰かに電話をかけた。折角の大騒動、最近ご無沙汰だった彼を巻き込みたいようだ。

 

 

「あ、もしもし坊ちゃん?今ちょっと色々大変なんスけど、どーやら『憂鬱』が帰って来ようとしてるみたいで……えぇ、はいそうっス。そんでアジトが栃木の方で、今ちょうど坊ちゃんその辺に───」

 

 

 

 

 

ファングの一件は彼の心に多くの影を残した。

 

ファング・ドーパントは余りに強大で、彼の力では時間稼ぎが限界だった。憤怒No2のアサルトが暴走した際も、本来ならば身内で火消しすべき騒ぎに、彼一人では力不足だった。

 

そしてエンジェルの地獄変。洗脳される危険性から彼に召集はかからず、あれだけの戦いに何も貢献することができなかった。

 

彼は己の力不足を嘆いた。

その目的のためにNo1の座では足りない。頭領をも越える、最強の力が必要だ。

 

 

そして届いた『憂鬱』帰還の伝達。

組織最強格の謀反者、相手にとって不足無し。己の限界を超える好機。

 

 

「憂鬱のエルバ。アイツを斬るのは……俺だ」

 

 

鈍った腕を磨き直すためスコミムス・ドーパントを撃破した彼───ファーストは東京に戻って来た。そこで聳え立つ塔に、研ぎ澄まされた殺意の切っ先を向ける。

 

上を向いていた彼の足元にぶつかる、硬い何か。

それは鋼鉄の翼を持った、青い……

 

 

「鳥…!?」

 

 

 

 




ファースト参戦!スラッシュはMasterTreeさん考案ということもあり、コラボ編ではキーパーソンを務めます。の割には登場遅かったですけど。

次回はVSサテライト&タワー!憂鬱の降臨を阻止できるか!?
https://syosetu.org/novel/91797/
↑ソニックサイドもよろしくお願いします!

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