ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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爆速執筆男146です。今回はマジで頑張りました。
今回はついにH編ラストです。極端な二つのエンドに迷いまくりましたが、悩んだ末にこっちの終わり方を取りました。

あと、最後は若干注意です。これまでの読んでくれてる人なら大丈夫だと思いますが…

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第59話 Hの審判/断罪の天竜騎士

仮面ライダーダブル ファングジョーカーとアベンジャー・ドーパント、リベンジャー・ドーパント。周りの空間全てを抉り取るようなその戦いは更に激化していく。

 

 

「愚かな…何故抗おうとするのか。これは神が定めし運命だというのに!」

 

「理解しかねるなァ…状況も理解できないレベルじゃ、神さんの声も聞こえねェか」

 

 

アベンジャーの豪快な攻撃と、リベンジャーの細かく鋭い連撃。この単純な緩急が厄介極まりない。「反応」という観点からファングジョーカーを選択して正解だった。

 

 

「確かに…ゲームだと負け認めて降参…ってのも礼儀の一つだね。でもこれはリアルなんだ。山門の頭にいきなり隕石が落ちるかもしれない。君たちだって、突然飛んできたキツツキに刺されて爆発するかもしれない。現実で負け筋を潰し切るなんてできないんだから、諦めるのはどう足掻いてもプレミなんだよ」

 

『ゲームの話は知らねぇが、そういう事だ。例え地獄が消えなくたって、俺たちはここでテメェらを叩き潰す!』

 

《アームファング!》

 

 

アベンジャーが振り下ろした剣をギリギリで受け流し、追撃に来るリベンジャーの爪もアームファングで弾き返す。少しずつだが動きの線が見え始めた。

 

しかし、ダブルの順応に焦る様子も見せず、ただうんざりとした様子でリベンジャーは毒づく。

 

 

「はぁ…お前らもそうか。あの騎士のライダーもそうだったぜ、力の差を見せつけても立ち上がって来やがった。諦めが悪ぃのはこれだから嫌いだ」

 

「だが彼の者は屈した。どれだけ表を飾ろうと神にはその弱さが見えていた。力も心も及ばず…弱者として山門の言葉に与したのだ」

 

 

アベンジャーは神の名を以て、瞬樹を「弱者」と称した。

確かに瞬樹は彼らに負け、山門に屈したかもしれない。

 

 

『瞬樹が弱い…?何言ってんだ』

 

 

だがダブルは、奴らの勝手な評価を笑い飛ばした。

 

 

『聞いたか永斗、神ってのは随分と目と頭が悪いらしいぜ』

 

「そうだねー、無宗教で良かったよ。そんなアホ神なんて願い下げだ」

 

「あぁ…?とうとう頭がイカれちまったか?あの男は我らに全く敵わなかった。はっきり言って雑魚だ。何が違うってんだァ?」

 

『違うな。弱いのはお前らだ。お前らは何も分かっちゃいねぇ。この世界で最強なのは人外の化け物でも、悪知恵働く天才でもねぇんだよ』

 

「僕たちは見てきた。リスク躊躇諦め謙遜、そんなの知らないとばかりに一つを追うような馬鹿な人達を。瞬樹はそんな底抜けの馬鹿の一人だ。そういう馬鹿が…いつだって最強なんだ」

 

 

その時、ファングメモリとジョーカーメモリが微かに何かを感じ取った。

まるで共鳴しているような心地の良い高鳴り。思考の奥に見える、ドラゴンの姿。

 

それがドラゴンメモリの復活を示しているのは分かった。そして、それは同時に瞬樹の復活も意味する。

 

 

「噂をすれば…ってやつ?さて…これで僕らはあの馬鹿に世界の全てを賭けることになったワケだけど……」

 

『随分と分がいい賭けじゃねぇか。見てやがれ、お前らが嘲った馬鹿が…世界を救う瞬間をよ』

 

 

________

 

 

 

「我こそは仮面ライダーエデン!騎士の名の下に、貴様を裁く!」

 

 

志を取り戻し、立ち上がったエデンはエンジェルに槍先を向けて宣言した。そんな彼に、花陽たちも声援を送る。

 

 

「瞬樹くん!」

 

「俺が天使を守る竜騎士!白銀の槍が悪を貫く!」

 

「瞬樹…くん?」

 

「竜はここに蘇った!貴様に未来は無い!」

 

「お…おーい…」

 

「絶対無敵、唯一無二、唯我独尊の我こそが!楽園を守護する竜騎士シュバ…」

「しつこい!」

「くどいです!」

「さっさと頑張るにゃ!」

「えぇっ!?」

 

 

長々と名乗りを上げていたら真姫、海未、凛の順にクレームを返され、ノリノリだった瞬樹がショックを受ける。

 

と、その隙にエンジェルが『救済の剣』をエデンに突き出す。慌てて躱したが、危うく間抜けなやり取りで敗北するところだった。

 

 

「危ぶな!貴様、卑怯だぞ!ちゃんと正面から狙え!」

 

「失敬、僕はコメディを嗜まなくてね。作法というものを知らないのですよ」

 

「フッ…そんな余裕を言っていられるのも今のうちだ。我が聖なる騎士力を解放すれば貴様など一瞬で…うぉっ!?だから話してる時に…ひぃっ!攻撃するな!」

 

 

エデンに隙が見えれば容赦なく攻撃するエンジェル。それを避けるのがギリギリだから本当に見ていてヒヤヒヤする。救世主のような立ち位置だったのに、この男に全く安心感が無いのは何故だろう。

 

だが、それはいつもの瞬樹だ。安心感は無いかもしれないが、不安感も無い。彼は負けないという絶対的な信頼が、心の底から湧いて来る。

 

 

「頑張れ!瞬樹くん!」

 

 

花陽の声援に応えるように、エデンの槍がエンジェルの右肩を穿つ。しかし、本来は胴体を狙ったはずの一撃。寸前で躱された。

 

 

「僕の救済から自力で外れたのは素晴らしい。その上、君の戦いは才能に満ち溢れている。直に全力の僕を打ち負かすやもしれない…だが」

 

 

エンジェルが翼を広げ、飛翔。天空から光の矢を雨のように放ち、エデンを防戦へと追い詰める。

 

 

「二つだ。君が僕に届かない理由は二つある。

一つは、君には翼が無い。その短い槍では天使の世界には届かない。

もう一つ…これは心苦しい事だが、あまり僕を追い詰めると、そこらにいる信者が何をするか分からない。もしかしたら僕の敗北に絶望し、皆命を絶ってしまうかもしれないね」

 

「っ…!外道天使め…!」

 

 

エデンはフェニックスメモリに手を伸ばす。これを使えば飛行能力を得られ、エンジェルと五分の戦いに持ち込める。

 

しかし、制限時間内に仕留められるか怪しい。つい最近使ったばかりのグリフォンやユニコーンは使えないし、これを無駄にすれば後はハイドラのみ。

 

また、信者たちを無視するわけにもいかない。自害させる前にエンジェルを撃破、死ぬ前にフェニックスの炎で治療…どれも不確定だ。取り返しのつかない状況で手が出せる案ではない。

 

 

「威勢も終わったようだ。その素晴らしい素質、出来れば抱えておきたいんだが…僕の剣で救済の道に引き戻せるかな?」

 

「…やってみるといい!」

 

 

エンジェルは急降下し、その剣でエデンの頭部を狙う。

エデンは槍で防ごうとしたが、直感的に頭を下げて回避。接近したエンジェルに突き上げる蹴りを入れ、槍を思いきり叩き付けた。

 

エデンの判断は正しかった。あの剣に実体は無く、物質による防御は透過されるのみ。

 

エデンの攻撃を翼でガードしていたエンジェルは、更に光剣による猛攻を加える。その一発とて喰らうわけにはいかない。だが攻撃がそれだけなはずも無く、挟まれる雷や羽の矢が、エデンの体力を確実に削り取っていく。

 

 

「くっ…!?」

 

「驚いている。まさかここまで耐え抜くとは…この剣が効かなかった場合が残念でならないよ。君は是非とも欲しい」

 

「ふん…もう二度と貴様の軍門になど下るか!俺はもう折れない!例えこの槍が折れ、腕が折れ…あと他にも色々と折れまくろうとも!俺は貴様に歯向かい続ける!それが俺の騎士道だ!!」

 

「……そうか。残念な事を聞いた」

 

 

エンジェルは救済の剣を消し、体勢を変えた。どこか余裕を見せびらかすようだった姿勢から、エデンの心臓を一点に見つめるような姿勢に。

 

 

「気が変わったよ。やはりその心は危険だ。君の騎士道とやらにも敬意を示し…神が下りる前に、君には死んでもらう」

 

 

エンジェルは錫杖を構え、剣のようにエデンを斬り付ける。実体がある分さっきより厄介ではないが、動きの機敏さが段違いだ。

 

 

「少し語弊があった。死んでもらうとは言ったが、死ぬわけじゃない。ただそのメモリとドライバー、あとは腕と脚、目も奪っておこう。そうすれば二度と戦えないだろう?」

 

「フッ…見くびるな。俺は天界の竜騎士!体だけになろうと…えっと…神通力的な何かで戦える!そんな感じの敵キャラを見たことがある!」

 

「ははははっ!滑稽だがそれもまた素晴らしい!」

 

 

エンジェルとエデンの攻防は互角。いや、あちらは飛行も出来るし人質もある。山門自身の実力もかなりのもので、戦闘能力は憤怒の上位にも匹敵する。率直に圧倒的不利の大ピンチだ。

 

 

奴の言葉は怖い。だが、怯えるわけにはいかない。

奴は強い。だが、負けるわけにはいかない。

 

己の後ろにいる、守るべき存在を忘れるな。

地獄を受け入れるのはまだ早いと、彼女たちに示せ。

 

立ち上がれ。槍を振るえ。戦え。

どれだけ打ちのめされようと、地獄の底で輝く『希望』であり続けろ。

 

 

「それが竜騎士の…俺の生き様だ!!」

 

 

見守る彼女たちも願う。どうか彼に僅かな奇跡を。

 

その中で、花陽は願った。

エンジェルの能力『救済の後光』の依り代である、ヘルメモリ。せめてあれを壊せれば。本体である珊瑚を見つけ出し、ヘルの力を吹き飛ばせるだけの力があれば。

 

そうすれば微かな灯である希望も、燦々と光り輝くだろう。それはきっと眩しく、偽りの光を掻き消してくれる。

 

 

願わくばどうか、『希望』に地獄を祓う光を。

 

 

「どうか瞬樹くんに…天に届く翼を―――」

 

 

 

そんな花陽の願いに、それは呼応した。

地獄の一角で眩い光の柱が上がる。その場所は様変わりしているが、花陽の家があった場所だ。

 

柱の根元にあるのは一つの装置。

六角形の箱のようなそれは、夏合宿で花陽が拾い、持ち帰ったものだ。

 

その黒い物体は呼吸をするように、己自身に色を宿す。

光は緑色を帯び始め、瞬時に消失した。そして

 

 

花陽の手の中に、それは現れた。

 

 

「これ……もしかして…!」

 

 

外装に包まれているが、花陽はそれの正体を漠然と理解した。見ると、戦い続けるエデンの体が、装置と同じ色に薄く輝いている。

 

 

「瞬樹くん!これを―――」

 

 

花陽は迷わず、エデンにそれを放り投げた。

しかし、エンジェルはそれを予期していたかのように、最大出力の光の矢を花陽が投げた装置に放つ。

 

 

「させるかあぁぁぁぁ!」

 

 

それが何かは分からない。でも、花陽の思いを無駄にはさせない。エデンは躊躇なく飛び込み、装置を受け止めた。

 

その瞬間、エデンの姿が消え、光の矢が虚空で炸裂。

うずくまったエデンが現れたのは花陽たちの前だった。

 

 

「花陽…これは…いや、いい。分かる。ありがとう…!」

 

 

握りしめたその装置は、黒から銀に変化していた。中央には長方形の小さな窪みがあり、それを囲って緑や黄色の紋様が刻まれている。まるで騎士が使う盾のようだ。

 

これは花陽が託してくれた力だ。その思いを全身で感じる。

なんて光栄なのだろう。真の天使に認められ、命を尽くして戦う事を許された。これが騎士の本懐でなくて何だと言うのか。

 

 

「山門…お前は、天使なんかじゃない。俺が知り、愛し、今この瞬間仕える天使は…慈愛の心で満ち溢れ、ご飯が大好きな、優しくて可愛い女の子だ!

 

我こそは天使を守護する楽園の竜騎士!その誇りをとくと見よ!」

 

 

心の声が叫ぶままに、エデンはオーバースロットを取り外し、腹部にロードドライバーを装着する。

 

嫌な記憶がよぎる。これを使い、灰垣珊瑚を殺した記憶。ダブルと戦った記憶。でも大丈夫だ、もう瞬樹は自分を見失わない。

 

エデンはロードドライバーに、花陽から受け取った装置を叩き込む。案の定、それはピッタリとドライバーに装填された。やはりこの装置は『メモリ』だ。

 

 

「我と契約せし白銀の竜、そして天界を統べる覇者よ!

勇猛と高貴の光を我が魂に宿し、その聖なる力を解き放て!!」

 

 

メモリ上部のスイッチを叩き、スロットを押し込む。が、それと同時に激しい力が逆流する。

 

それもそのはず、このメモリはオリジンメモリ。ロードドライバーはギジメモリでの使用を想定している上に、一つの精神と体に二つのオリジンメモリを使うなんて前代未聞だ。

 

 

それでもやる以外に道は無い。

真っ直ぐに伸びる騎士道という一本道に、思いに応える以外の道は無い。

 

 

「変身!!」

 

 

痛みも苦しみも越え、花陽が託したメモリが展開された。

盾は中心から広がるように割れ、左右三枚ずつの翼のように。剣を模したスロットに収まっている、その黄緑のメモリに刻まれた文字は……

 

真っ白な翼と十字架で描かれた、『H』

 

 

《ヘブン!マキシマムオーバーロード!!》

《Mode:MESSIAH》

 

 

その力はヘブン、地獄と対を成す『天国の記憶』。

 

エデンから放たれた光が天を貫き、地獄に風穴を開けた。そこから指す太陽の光が、新たな竜騎士の誕生を祝福する。

 

ヘルム、胴体、腕、脚、至る所に宿した翼の意匠。鎧は銀から輝く白になり、胴体の竜の顔が噛みついた緑のラインが『H』を鎧に刻む。

 

エデンドライバーはランス型からスピア型に。

神々しきその姿は、例えるなら御伽噺の聖騎士。

 

 

「今ここに再誕!生まれ変わった我が名は、ヘブンエデン……いや、語呂が悪いな…エデンへブン…ヘデンエブン?」

 

「凄いけど…瞬樹くん…どうしたの?」

 

「すまない花陽、どうも名前がしっくり来ないというか…」

 

「えぇ…わ、わかった!それなら私が…」

 

 

花陽がエデンに耳打ちすると、エデンと花陽は互いに指をさし、笑って頷いた。

 

 

「我が主より承ったその名を聞け!

我こそ断罪の竜騎士改め、断罪の天竜騎士!

 

仮面ライダーエデンヘブンズ!」

 

 

天に届くはずも無いと嘆いた騎士見習いは、ようやく愛する天使を守るための翼を得た。その力と忠誠の名前こそが、仮面ライダーエデンヘブンズ。

 

 

「は…はははははっ!!!そうか!やはり来たか!それが僕への試練というのなら、そうだ…やはりそれもいい、充実を貪るのも飽きていた所だ!」

 

 

エンジェルは辺り一帯を吹き飛ばす程の雷を杖に蓄え、一気にエデンに放つ。だが、ヘブンメモリの力を宿した槍は、それを容易く相殺してみせた。

 

攻撃を撥ね退けたエデンは両手で槍を掴み、背中に三対の翼を展開。羽ばたいて宙に飛びあがると、体を巡る光の力をその槍先に集中させる。

 

 

天門開錠(ヘブンズドア)!」

 

 

地獄に空いた穴の下で、エデンは更なる光を放った。彼を中心に光は円状に広がっていき、地獄にいるあらゆる者に触れては通過していく。

 

光の波は届いては去っていく一瞬の風のように地獄を吹き抜ける。そしてその光は遂に、ある闇に呑まれた『心』を感知した。

 

 

「見えた!」

 

 

ヘブンの能力は、変身より前に片鱗を見せていた。

花陽の家からここまでの一瞬の移動、メモリを受け止めたエデンもそうだったように、ヘブンメモリは「瞬間移動」を可能にする。

 

その能力でエデンの前に呼び出したのは、地獄を彷徨っていた一体のヘル・ドーパント。

 

 

「見つけたぞ…灰垣珊瑚。今度こそ俺が、貴様を救う」

 

 

『H』は花陽と適合したメモリ。その能力は彼女の思いから生み出されたもの。その力の本質はエンジェルのそれとは格が違う『救済の力』だ。

 

その救済の力を以て、エデンは珊瑚の心を見つけ出した。

何をすべきかも、花陽の意思を宿したヘブンメモリが教えてくれる。ドラゴンメモリが入ったエデンドライバーをロードドライバーにかざし、天高くでその槍を掲げた。

 

 

《ガイアコネクト》

《ヘブン!》《ドラゴン!》

《マキシマムオーバードライブ!!》

 

「遥か天空。神話より生み出されし竜は咆哮する。開け星々の扉よ、我は断罪の使者。我が主の願いに応え、この地に大いなる希望を呼び覚ます者。この一撃で世界を拓け!来たれ天国の聖槍!!」

 

 

ドラゴンでのマキシマムオーバーがドラゴンメモリの限界突破なのに対し、オリジンメモリであるヘブンのオーバードライブはいわば常時ツインマキシマム状態。

 

そこから更に二本のメモリの力を絞り出す必殺攻撃は、ツインマキシマムを超えた「実質2.5本のマキシマムドライブ」。ヘルを撃破するには十分な威力を持つ。

 

 

楽園を統べる天竜皇の裁剣(ロード・エデン・カラドボルグ)!!」

 

 

ヘルの体を超高密度エネルギーが包み込む。

このまま倒すのは可能だ。しかし、ヘブンメモリがその先にある「灰垣珊瑚の死」を告げている。

 

だからエデンは、その雷雲に等しいエネルギー球の中へと飛び込んだ。

 

 

 

________

 

 

 

 

「…ここは…成功したようだな」

 

 

雷獣事件の際、永斗は絵里の精神と対話した。ファング事件の時は全員で永斗の精神に乗り込んだ。そのどちらも「地球の本棚」があってこそ。

 

しかし、ヘブンメモリのもう一つの特殊能力は「同調」。

この二つ目の能力を使う事で本体のヘルを探し出すことができたし、今こうして前の事例と同様に、ヘルメモリの中へとアクセスできているのだ。

 

 

「お前…本当にうっとうしい」

 

 

耳が千切れそうな悲鳴と軋む空間。苦痛を具現化したような場所の中心に、珊瑚はいた。

 

 

「殺せばいい。じゃないと私は世界を殺すよ。こんな世界、もうどうなったっていい。みんな死ねばいいんだ」

 

「花陽と凛もか…?」

 

「黙れ…お前なんかが、あの二人の名前を呼ぶな!!」

 

 

珊瑚の拒絶で、空間を支配する悲鳴がより一層強くなる。

しかし、いくら拒絶されても退くわけにはいかない。少なくとも珊瑚に生きる気が無ければ、ヘルの撃破と同時に死ぬだけだ。

 

 

「花陽は貴様を待っている!まだ友達でいたいと、そう願っている。だから生きて帰るんだ!」

 

「…そんなわけない。私なんかが、求められるはずない」

 

「嘘じゃない!」

「分かってるよそんなこと!凛ちゃんの声も聞こえてた!私がどれだけ醜くても、二人は私を拒まない…拒絶してくれればよかったんだ、そうすれば私は縋らずにすんだ…凛ちゃんも花陽ちゃんも、苦しめずにすんだのに……」

 

 

瞬樹はその言葉で理解した。彼女の「殺してくれ」の意味を。

 

ずっと前から、彼女は知っていた。自分は汚い場所で育ち、体は醜い感情でいっぱいで、歪んだ愛を抱えた化け物だと。そんな化け物を、花陽と凛は最後まで愛してしまった。

 

だから瞬樹に頼んでいる。一度は自分を殺した彼に。

 

 

「動画サイトで…あの二人を見たんだ。しばらく会わないうちに綺麗になってて、あの引っ込み思案の凛ちゃんと花陽ちゃんが、笑ってアイドルやってた。隣で踊る子たちも綺麗で、私なんかとは比べ物にならなくて…それで山門さんからマネージャーの男の子たちが仮面ライダーって聞いて……急に怖くなった。

 

みんな凄い。そこに入っていく私だけ何も無い。嫌だ…私には凛ちゃんと花陽ちゃんしかいないのに!ずっと一番でいたかった!私だけを見ていて欲しかった!ふたりの優しさだけで…生きていたくなんてなかった…!」

 

 

「そう、だから僕は君にヘルメモリを与えた」

 

「貴様…!何故ここに!」

 

「扉を開け放しにしていたのは君だろう?」

 

 

珊瑚とエデンだけの世界に、侵入者が割って入った。

ヘブンメモリの能力はその出力と引き換えに、周囲をも巻き込んでしまう。あの瞬間、エンジェルも咄嗟に範囲内に飛び込んでいたようだ。

 

 

「僕は君に、その寵愛を勝ち取る力を与えた。そして君は何をしたか…忘れてはいまい」

 

「そう…私は…」

 

「君は彼女たちの陰口を吐いていたアイドルを襲い、μ'sの他のメンバーやマネージャーを殺そうとし、最後には世界を地獄に作り替えた。君がとった手段は殺意に満ちていた!」

 

「黙れ!それを仕組んだのは貴様だろう!」

 

「選んだのは彼女だ。僕はその選択を尊重したまで。

さぁ珊瑚、君のせいでいったい何人が死んだだろうね。君の中から出てきた地獄は、今も世界中で悲鳴を生み続けているよ」

 

「そうだ…私はここで死ぬべき…」

 

「違う。君は永遠にここで苦しみ続けるんだ。もう後戻りなんてできない。今死んで彼女たちに悲しまれ、悔やまれる資格なんて君にあるか?」

 

「……あるわけない。私にそんな最期が…許されるわけが…」

 

「君は永遠に恨まれ続けるんだ。全人類に、そしていずれは彼女たちに!それこそが君に相応しい罰というものだ」

 

 

泥のような霧が、足元から這い上がって来る。それは珊瑚の全身を包み込み、底へ底へと引きずり込もうとしているようだった。

 

エンジェルは珊瑚の心を折ろうとしている。生きたいなんて考えを僅かにも抱かせないよう、徹底的に。そうなればエデンは攻撃を中止せざるを得ず、無間地獄は継続される。

 

彼はどこまでも狡猾。これだけの奇跡を以てしても、彼の邪心を砕くに至らないというのか。いや……

 

 

「ふざけるな…!」

 

 

山門の策がどうとか、地獄の開放がどうとか、そんな事はもう瞬樹の頭には無かった。その竜騎士は馬鹿なので、今彼が抱いているのは激しい怒りのみ。

 

 

「貴様如きが…珊瑚の命を決めつけるな!!」

 

「…え……?」

 

 

その一瞬、珊瑚は思わず前を向いた。

理解ができなかった。彼が、自分のために怒っているという事実が。

 

 

「如き…?僕は天使にして教主。そして彼女の保護者でもある。君に言われる筋合いは無いと思うのだけどね」

 

「知らん!黙って聞いていれば何が永遠に苦しみ続けろだ、そんなものを望むのは天使でも保護者でも何でもない!

 

確かに珊瑚は罪を犯した。きっと多くは珊瑚を許さない。それが例え…腐った天使の策略だとしても」

 

「分かっているじゃないか。この審判は、いわば民衆の総意なんだ」

 

「だとしても…珊瑚はもう十分苦しんだ!己の醜さと向き合い、地獄の苦しみを受け入れ続けた。それも全て罪の報いだと。罰はそれで十分だ…誰が許さなくとも、俺は珊瑚の罪を許す!」

 

「咎人同士が傷の舐めあいかな?君は地獄を創った張本人で、仲間を裏切った最低の男じゃないか」

 

「貴様の方が酷い事たくさんしてるだろ!貴様には言われたくない!」

 

 

ごもっともだ。というか、頭に血が上って罪悪感とか考える余裕も無いというのが正しいか。

 

 

「聞け、珊瑚。貴様と俺は同じなんだ。近くに誇れる誰かがいて、その誰かと比べると自分が余りに乏しくて…それが耐えられなかった。俺はそこで騎士と出会い、道の先に友が居た。ただそれだけの違いだ。だが、俺が進んだ騎士道の先には…珊瑚、貴様もいたんだ」

 

「私…が…?」

 

「道行き出会った化け物も、倒した後は仲間にする。それが騎士道だ!さぁ生きたいと望め!俺が貴様を騎士道に導いてやる!」

 

「冗談はよすんだ。珊瑚、君に彼女たちと並ぶ資格は無い。生きて帰ればまた罪を犯す。君はそういう人間だ、君は現世を生きられない、僕がそう導いた!」

 

「珊瑚はそんな人間じゃない!珊瑚は我が主、花陽の友人にして…たった今から俺の盟友だ!我らが友を侮辱することは、この俺が断じて許さん!!」

 

 

エデンは光る槍で珊瑚を蝕む闇を切り裂き、強引にその手を掴む。

 

この男も、こんな化け物を受け入れた。

なんて残酷な信頼だ。この男は人の話を聞いていなかったのか。それにどれだけ悩んでいたと思っている。そもそもお前なんて嫌いだ。知った口で友達面するな。

 

 

あぁ、もう全部馬鹿らしい。

それだけ理屈を捏ねても、この男は無慈悲に手を掴む。

 

こんな人間がいるから、また縋ってしまうんだ。

 

 

「うっとうしい……」

 

 

うんざりとした表情。それでも、随分と晴れた顔で、珊瑚はエデンの手を握った。

 

 

人は誰しも弱く、醜い。そして罪を犯す。だが、どんな人間にも救いを求める権利はある。

 

手を伸ばせば応えよう。伸ばされなくたって応えてやる。

それは同情やエゴなんかじゃない。生きなければならないんだ。誰かがそれを求める限り、それに報いる事が罪の代償だ。

 

 

罪を犯さずに生きられる人間なんて居ない。

罪から悲劇を生まないために、憎しみを生まないために戦うのが―――

 

 

『断罪の竜騎士』

 

 

エデンの槍が、空間を貫く。

闇はひび割れ光に変わり、その全てが現世へと解き放たれた。

 

 

 

_______

 

 

 

ヘルを包んでいたエネルギーの光球は収束し、爆発と共に眩い光が地獄の隙間をこじ開ける。広がっていく光の環が血の色の空を洗い流し、炎も氷山も岩山も、地獄もそこに蔓延る怪物も、その一切合切を幻想の中へと還した。

 

 

「きれいだね…」

 

 

花陽は思わずそう呟く。青い空と白い雲。久しく見ていない気さえする光景が、世界は美しいと告げている。

 

その美しい空から降り立った戦士は、かつて地獄と呼ばれた一人の少女と、砕けたヘルメモリを抱えていた。

 

 

_______

 

 

 

「無間地獄が消えていく…」

『瞬樹のやつ、やりやがった…!』

 

 

踏みしめていた岩肌がアスファルトになったのを確認し、ダブルはその勝利を確信した。さっきのヘブンメモリの誕生もジョーカーとファングのメモリから伝わってきたが、まさかヘルをも倒すとは。やはり馬鹿は最強、この一言に尽きる。

 

そして、終わったのは無間地獄だけではない。

ヘルメモリが破壊されたという事は、エンジェルの洗脳能力も綺麗さっぱり消えたという事だ。

 

 

「信じられるか、カゲリよ。地獄が晴れていく。世界は終わらなかった」

 

「あぁヒデリ。頭も醒めた気ぃするわ。最悪の気分だ」

 

 

洗脳されていたのは民衆だけじゃなく、彼らも同じ。「悪食」の管理者である彼らは、利用価値のある駒として山門に操られていたに過ぎない。

 

 

「…耐え難き恥辱だ。己が使命も忘た挙句、あのような弱者に救われた形になるとは…嘆かわしいっ!」

 

「あー…今から山門に復讐も間に合わねぇな。無様だ、あぁ…最悪に無様だ」

 

「で、どうする気?戦う気はありませんで逃げる?」

『言っとくが逃がさねぇぞ。山門をぶっ倒して終わりの楽な戦いじゃねぇからな』

 

「心配すんな仮面ライダーダブル。それは…我らも同じだ」

「全ては暴食のために。我らが使命は神に傅き殉ずること!」

 

 

リベンジャーの剣がアベンジャーを、アベンジャーの爪がリベンジャーを刺し貫いた。ドーパント態から流れ落ちる鮮血。しかし、その先にあるのが二つの骸とはどうしても思えない。

 

 

「我は報復者」

「我は復讐者」

 

「「我らは共に、恨みを遂行する亡者である」」

 

 

永斗は一つの可能性が思い当たった。

リベンジャーとアベンジャー、そのメモリは地球の本棚の記録では「一冊の本」だった。それはつまり、二つの力はほぼ同一であることを示している。

 

リベンジャーとアベンジャーの姿が互いに混ざり合い、一つなった。鎖と有刺鉄線に巻き付かれた装甲に、剣のように太く鋭い爪の刃と両腕の盾。額の三本角が分かりやすく融合の証となっている。

 

 

《パニッシャー!》

 

「我らは守護者にして粛清者。神に楯突く愚者を呪い、恨み、断罪する者」

 

「なるほど、パニッシャー・ドーパントね」

『そいつがテメェの正体か!上等だ、かかって……』

 

 

パニッシャーはリベンジャーの時と同等の速度で肉薄。ファングの反応速度でギリギリ防御を構えたが、繰り出される攻撃はアベンジャーの威力。凄まじい破壊力が全身を駆け抜ける。

 

 

「調子が難しいか…?一人になるのは久しぶりだからな…」

 

 

一見重戦車のような見た目をしているが、蓋を開ければ速度は戦闘機だ。一撃を受けて分かったのは、能力はリベンジャーとアベンジャーのいいとこどりのバケモノという事だけ。

 

 

『んの野郎…!』

 

《ショルダーファング!》

 

 

ショルダーファングを持ち、止まっていたパニッシャーに向けて投擲。ショルダーファングは縦横無尽にパニッシャーを斬り続け、ダブルが接近した所で手の中に戻り、短剣として再びパニッシャーを襲う。

 

が、その速度に易々と反応するパニッシャー。しかも体に赤と青の炎が宿っている。報復と復讐の身体強化が同時に作用し、パワーとスピード共にダブルを凌駕した。

 

 

「あーチート。マジでチート!」

 

 

ジョーカーの力をレベル2まで解放してやっと、なんとかその猛攻についていけている状態。少しでも刃の置き所が狂えば腕が吹っ飛ばされそうな威力をいなし続け、あの馬鹿げた速度で逃げられないように攻撃の手は緩めない。死ぬほど過酷な戦いが続く。

 

何発かの被弾は永斗の不変の再生で誤魔化せているが、そろそろ体力と精神の方が限界だ。

 

 

「そろそろ終わりだ…その身に粛清を受け入れろ」

 

『うるせぇ…いや、随分と寡黙になりやがって。余裕ぶってんじゃねぇぞ!』

 

 

反応が遅れ始めた右側を引っ張るように、左側のジョーカーサイドがパニッシャーの盾に拳を打ち付けた。傷は入っていないが、瞬発的な火事場の馬鹿力が、一瞬その体勢を退かせる。

 

 

「我らは憤怒の奴らとは違う。貴様らを確実に、ここで殺す」

 

『だから殺しに来い…ってか?そんなに死にてぇか』

 

「…どうだろうな」

 

 

ダブルとパニッシャーの姿が消え、その中心で互いの刃が衝撃を撒き散らしてぶつかり合う。風圧が街路樹を薙ぎ倒し、勢いに負けたダブルは地面を削りながらの後退を強いられた。

 

 

「え、何言ってんのアラシ」

 

『なんか殴り合ってて感じたんだよ。ヤツのペースは合体前に比べて異常に速い。死に急いでるって感じの投げやりな戦いだ』

 

「ほへー、じゃあ付け入る隙はあるってことね」

 

『そうでなくても、アレはまだ俺たちが届く範疇だ』

 

 

パニッシャーの戦いに、ファングや七幹部のドーパントのような底知れない何かは感じない。かなり深いが、底は見えている。

 

肩が引き千切れるほど腕を伸ばせば、あの強さには届き得る。そう確信した。

 

 

『死にてぇなら乗ってやる。こっちも後先度外視の一発勝負でな』

 

「げぇ…大体予想ついたよ。オッケーわかった。そう言う事なら面倒くさいけど付き合おう」

 

『行くぜ粛清者。テメェらの屍を踏み越える!』

 

 

ダブルはファングメモリを三回弾き、マキシマムドライブを起動。

更に、引き抜いたジョーカーメモリをマキシマムスロットへと装填。ダブルの一発勝負、それは現時点最大威力の大技。ファングジョーカーのツインマキシマムだ。

 

 

《ファング!マキシマムドライブ!!》

《ジョーカー!マキシマムドライブ!!》

 

 

「『ウオアァァァァァァァッッ!!!!』」

 

 

街に響く咆哮。アームファング、ショルダーファング、マキシマムセイバーがファングとジョーカーの両側にそれぞれ全装備される。その姿は猛々しくも恐ろしい、刃を纏った獣だ。

 

 

「……!」

 

 

パニッシャーは戦慄する。体感したことの無い研ぎ澄まされた強さが、心臓をなぞる氷の棘を想起させる。それ即ち、死の感覚。

 

 

「『ツインマキシマム!!』」

 

 

ダブルが地を蹴り、弾け飛んだアスファルトが落下するより先にパニッシャーに一撃。パニッシャーもそれに反応して瞬時に応戦するも、繰り広げられるのは先ほどまでとは違う互角の戦いだ。

 

耐久が上がっているはずのパニッシャーの鎧に、深い傷が入った。短くない戦いの末、ダブルの暴威はパニッシャーの身体能力に並び、最後に右足の刃とパニッシャーの爪が鍔迫り合う。

 

結果はパニッシャーの爪が砕け、その動揺に叩き込んだ五連撃がパニッシャーをノーガードの瞬間にまで追い込んだ。

 

 

『これで決まりだ!』

 

 

ファングストライザーと同じように回転して接近するダブルは、ジョーカーの力で左右二つに分かれ、異なる方向からパニッシャーのトドメを狙う。

 

ファングストライザーが「鎌」だとすれば、この技は半身そのものを一本の刃として見立て、双方向の斬撃で敵を刈り取る。それはまさに、噛み千切る「牙」の一撃。

 

 

「『ファングディザスター!!』」

 

 

白と黒の牙がパニッシャーの鎧を噛み砕き、敵を仕留めた。

一つに戻った獣…否、戦士の前で粛清者は爆散。

 

メモリが地に落ちて砕け、炎の中心で一人の男が天を仰ぐ。

 

 

「世界は終わらなかった。我らはきっと、あのまま終わりを望んでいた」

 

 

彼らは報復者と復讐者。ずっと恨みを晴らし、殺し続けて生き抜いた。だがその力を利用されて使命から外れ、恨みを向ける敵も直に消える。目が覚めて残ったのは、浅はかな敵意のみ。

 

暴食に忠誠などあるはずも無い。だが歯向かうつもりも無い。

「あれ」を見たあの瞬間から、彼らは虚しい抜け殻に成り果てていた。

 

 

「我らは、神を見た。

そして…神などいなければ良かったと、嘆いた。

 

この敗北こそが…我らの報復にして、復讐だ……!」

 

 

呪いの言葉を残し、その身体に融合の代償が訪れる。

 

 

「神の…名の…下に……」

 

 

最期の祈りを上げることも叶わず、その一つの肉体は光に当てられ崩れ去った。その言葉の真意を飲み込めないまま、アラシは消えた彼らにこう吐き捨てる。

 

 

『だからテメェらは…弱いって言ったんだ』

 

 

______

 

 

 

無間地獄が消滅し、山門の策略は全て崩壊した。

エンジェルの「救済の後光」の依り代も破壊され、洗脳も消滅。ドーパントとして暴れていた一般人も、徐々に自我を取り戻しつつある。

 

 

「ふはは…はははははっ!!あっはははははっ!!

津島瞬樹だけでなく、珊瑚まで僕を拒絶してみせるとは…素晴らしい…!これもまた…神の、試練!!」

 

 

尚も笑うエンジェルだが、様子がおかしい。

 

顔を覆っていた大理石の仮面が砕け、衆目に晒されるその素顔。

信仰心が瞬時に掻き消えるほどの醜悪さ。彼の内面をそのまま表したような、天使とは程遠い悪魔の顔だ。

 

 

「それが貴様の素顔か」

 

「僕の楽園は砕けた…もう誰も僕を天使と認めない…か。僕が支配し、誰もが僕を信じる楽園…悪くないと思ったんだけどね」

 

「幼稚な野望だったな。貴様は一瞬たりとて天使なんかじゃなかった。貴様は神の使いを気取り、人々の心を弄ぶ史上最悪の……人間だ!」

 

 

風を巻き起こし、逃げようとするエンジェル。しかも民衆の近くを陣取っているため、人質を取っている構図だ。この期に及んでも卑劣極まりない。

 

だから、エデンは即座にエンジェルに接近した。

誰かを盾にするよりも速く、エデンが展開した光はエンジェルを飲み込み……

 

 

 

「…決着はここか。なるほど、相応しい」

 

 

次の一瞬には、ヘブンの能力で二人の転移が完了。

その場所は人が粒にも見えないような天空。この場所なら何の妨害も入らない。正真正銘、翼を持つ二人だけの一騎打ちだ。

 

 

「貴様を倒し、全てを終わらせる!」

 

「何も終わりはしないさ!僕が死んだところで、人間は変わらず愚かであり続ける!その愚かさこそが、何度でも地獄を生むんだ!」

 

「気取るなと言ったはずだ!人が人を勝手に語るな!!」

 

 

エンジェルは黒い翼を、エデンは白い翼を広げ、空を舞台に聖戦の最終局面を繰り広げる。しかし、異変が起きたのはエデンの方だ。

 

ヘルを倒す際に全力の一撃を放った。マキシマムオーバーの特性上、時間制限というデメリットも存在する。早い話がエネルギー切れを起こしたのだ。

 

 

「身の丈に合わない力を使うからだよ。そうさ、僕も君も人間だ。あぁもう白状しよう、僕は教えだとか楽園だとかどうだっていい!僕は僕の力で得られるものを貪るだけだ!人類は僕に敗北したんだ、君如きに僕は越えられない!」

 

「一度は…そうだったかもしれない。貴様という悪に、俺を含め多くの者が負けた。だが立ち上がれる!弱いからこそ、何かに頼る以外に生きられないからこそ!何度だって縋りついて立ち上がればいい!心に抱いた一本の槍が折れない限り、俺たち人間が負けることは無い!!」

 

 

ベルトに刺さったヘブンメモリの翼が閉じられ、再び盾の形態に戻った。それは時間切れの合図だが、同時に「再起動」の合図でもある。

 

 

《フェニックス!》

 

 

温存していたフェニックスメモリをここで起動。閉じた状態のヘブンメモリの正面にある窪みに、フェニックスメモリメモリを挿した。

 

これは『H』のメモリに後から加えられたユニットの機能。一度空になったメモリに別のメモリのエネルギーを移し替えることで、エデンヘブンズは蘇る。

 

 

《フェニックス!マキシマムオーバーリロード!!》

 

 

“H”のオリジンメモリ。

地球から分離した26の意思の一つにして、“希望”の意思。

 

希望ある限り、天竜騎士は倒れない。

その優しき力を以て、エデンはタイムリミットを克服した。

 

 

「竜騎士に限界は無い…終わりだ、山門!!」

 

「素晴らしいッ!!!来るがいい津島瞬樹!!」

 

 

エンジェルの天秤から黒い雷が放たれ、逃げ道を塞ぐように凄まじい竜巻がエデンを囲った。

 

だが今のエデンに逃げ道など必要ない。一瞬でエンジェルの眼前に転移し槍を突き出すが、それを読んでいたエンジェルは光の棘でエデンを迎え撃ち、予め発射していた黒い羽根を呼び戻してエデンの背後をも狙う。

 

 

「騎士は…ただで復活なんてしない。いつだって新たな力で、人々の希望を照らす!」

 

 

エデンが広げた翼が燃え上がり、迫る黒い羽根を焼き払った。

オーバーリロードはヘブンのエネルギー補填だけでなく、属性付与をも可能にする。マキシマムオーバーほどの出力は出せないが、今のエデンはフェニックスの炎と治癒能力をも操る規格外の戦士だ。

 

 

エンジェルがまた大きく笑い声を上げると、エンジェルの光と羽根が一つの座標に収束。雷を帯びた巨大な光剣が具現化し、左手でその裁きの鉄槌をエデンに放つ。

 

悪意と狂気に満ちた禍々しい刃。エデンは転移での回避をせず、それを正面から迎え撃つ。光り輝く炎を纏った槍と竜騎士は刃を砕きながら前進し、根本にいるエンジェルへと到達した。

 

 

大きく槍を振りかぶったエデンがエンジェルの眼前に迫る。

 

だが、開いたエンジェルの右手には、蓄えていたもう一手があった。風属性を宿した高密度エネルギーの乱気流がエデンの姿を飲み込まんとする。

 

 

「闇を照らすは原初の炎。神が授けし希望の炎は、業火となりて罪を焼き祓う」

 

「…ッ!?」

 

 

詠唱が聞こえたのはエンジェルの背後。エデンは隠された一手を直感したから、その瞬間までヘブンの瞬間移動を温存していたのだ。

 

エンジェルの反応も見事だった。あの大技の後で瞬時に体勢を立て直し、エデンの攻撃に備えようとしていた。

 

だが、竜が吐く不死鳥の炎はそれより速い。エデンの神速の一撃はエンジェルの黒き右翼を燃やし尽くし、偽りの天使は飛翔の力を失った。

 

 

「我は断罪の使者。我が主の願いに応え、天空に大いなる裁きを下す者。不滅の炎は我が誇りに!世界の真理を焼き尽くせ!!」

 

《ヘブン!》《ドラゴン!》

《リロード・フェニックス》

《マキシマムオーバードライブ!!》

 

 

落下していくエンジェルに槍が投じられ、突き刺さった槍は光の陣になってエンジェルを空間に固定する。

 

 

「神には届かず…か………!」

 

 

そんな言葉を吐いたエンジェルに、エデンは狙いを定める。その脚に全ての光と炎、竜の力を宿して放つのは、一振りの聖剣が如き制裁(ライダーキック)

 

 

楽園を統べる天竜皇の裁剣(ロード・エデン・カラドボルグ)―――」

 

 

空からエデンの姿が消えた。

まるで舞い落ちる羽根のように、エデンは音も無く地上に降り立つ。

 

 

煉獄(プロメテウス)

 

 

エデンは技名をそう締めくくる。

必殺技は格好よく詠唱付き。それも瞬樹の騎士道。

 

そして、上空で黒い羽根を撒き散らしてエンジェル・ドーパントが爆発。

 

羽根が降り注ぐその瞬間に、言葉はいらない。騎士の姿こそが勝利の証。

この現世に彼が届けた人類賛歌は、青き空に響いていた。

 

 

______

 

 

9/8 活動報告書

 

 

無間地獄の大気のせいで分かりにくかったが、あの戦いは真夜中から朝方にかけてのものだったらしい。ようやく事態が落ち着いてきたので報告書を書く。今は日付変わるギリギリだ。

 

今回の事件はとてつもなかった。語彙力が残念な表現だが、そう言うしかない。なにせ全世界を巻き込み世界滅亡さえするところだったからな。

 

犠牲者の数は、事件の規模と比較してみれば有り得ないほど少数に収まっていた。しかし、それを幸いとは言えない。実際多くの命が失われているし、死んでないにしても地獄に引きずり込まれたせいで精神崩壊を起こしている奴も少なくない。

 

それに、山門がバラまいたメモリも問題だ。相当な数を破壊したつもりだが、未だ大半は見つかっていない。組織が見つければ回収、俺たちが見つければ破壊のレースになるだろうが、まだメモリを持ったままの一般人もいるはずだ。警戒しなきゃいけねぇ。

 

警戒と言えば、今回の首謀グループ「ノアの天秤」だが…当の山門が発見されていない。サクリファイスに関しても、ラピッド曰く「仕留め損ねた」らしい。死亡が確認されたのは、俺たちが倒したあの二人だけだ。

 

今回は事件の規模が規模だ。一件落着なんて都合のいいはずが無く、多くの傷跡は残った。

 

 

…さて、悪いニュースはもう十分だろう。傷跡は残ったとしても、良かったことだってある。

 

まずあれだけ暴動や破壊が起こりながらも、無間地獄が消滅すれば街は何事も無かったように元に戻っていた。都市機能に支障も無く、復興の必要はまるで無い有り様だという。

 

永斗が言うには無間地獄は仮想空間の類で、実際に物質が変化していたわけでは無かったかららしい。よく分からんが、派手に壊された事務所も無事で安心した。

 

それに伴い、学校もすぐに再開しそうだ。それどころか学園祭も一週間遅れで開催するなんて情報まで入る始末…あの理事長は少し強か過ぎる。まぁ喜ばしいことだが。

 

 

そして忘れちゃいけない。今回のMVP、瞬樹の事だが…

 

 

「俺はジョブチェンジ…いや、ランクアップした!竜騎士から天竜騎士に!世界を救った天!竜騎士!だ!存分に称えろ!」

 

 

増長した。

 

いや相応の活躍はしたんだ、大目に見るべきだろう。でもしつこいんだよコイツ。最初はめっちゃ褒めてお祭り騒ぎだった穂乃果や凛も、昼過ぎにはうんざりして扱いが雑になっていた。株ってのを大事に出来ないのかあの騎士は。

 

 

「そして世界を救った騎士の主こそ、花陽だ!」

 

「ちょっと瞬樹くん…主はやめて…!恥ずかしいよ…」

 

「我が天使、そして我が主よ!俺は生涯をかけて貴女に仕える!」

 

「あっ、聞いてない……」

 

 

なんか花陽も天使だけじゃなく、「主」なんていう称号を貰っていた。不憫に見えるのはなんでだろうか。まぁ近い関係になったと思えば良し…だと思う。

 

何より、瞬樹はいつもの騎士っぷりが戻ってきた。それはもう見事な復活だ。馬鹿加減も見事に復活して、半裸の灰垣を連れて帰って「我が盟友だ!」なんて言ったから卒倒しかけたくらいだ。

 

あぁそうだ、灰垣珊瑚のことを忘れていた。

新たなメモリの力で救い出すことができたらしい。花陽と凛の友達だし、俺としては帰ってきて良かったとは思う。だが永斗の方はどうも彼女が気に食わないらしく、フクザツな顔をしていた。

 

結局は問題を起こすようなら俺たちが対処すればいい、という風に収まり、今はヘルメモリの暴走の後遺症の治療のためハイドの診療所に預けてある。

 

 

「勘弁してほしいんスけど…」

 

 

なんて言っていたが、メモリに関する治療が可能なのはハイドしかいない。今回の騒動は瞬樹が解決したという借りもあったため、渋々だが預かってくれた。

 

何があったのかは知らないが、瞬樹は「珊瑚は騎士道を共に歩む友になった!いわば騎士見習い…リトルナイトだ!」なんて言っている。治療を終えて学校に戻った時、居場所があるようで何よりだ。

 

 

「随分と丸く収まってくれたな……俺はてっきり、日常には戻れないもんだと思ってた」

 

 

戦いが集結したわけでは無い。更なる巨悪が先で待ち構えている。

だが、この日常を諦めなかった花陽がいて、それでアイツらが立ち上がって、瞬樹はそれに応えてみせた。日常という希望を、全員の力で繋いだんだ。

 

天使を騙る悪との戦い。奇跡と悲劇を繰り返した末、天使は楽園に…いや、楽園(エデン)は天使のもとに還ってきた。

 

聖戦は決した。

本当の天使を見失わなかった、馬鹿な騎士の勝利だ。

 

 

 

______

 

 

それは月が出る夜。山道に入ろうとするトンネルでのこと。

 

 

「……仮面ライダーエデン…騎士…津島瞬樹…

素晴らしい…僕は、君の才能に敗北した……!」

 

 

翼をもがれた天使。だが、その命は未だ果てず。

天使の記憶を宿した銀のメモリは、砕けることなく握られていた。

 

サクリファイスの能力は「受けるダメージを自身と同等の存在に移す」。それは自分だけでなく物にも適応可能で、山門はエンジェルメモリにその能力を使わせていた。

 

エンジェルと同等の別のシルバーメモリも用意してあった。その結果あの攻撃によるメモリブレイクはそのメモリが受け、エンジェルメモリは壊れなかった。

 

山門は嗤う。まだ終わってないと。

愚かな人間を利用すれば、また一から立て直せる。その力が、自分には有る。

 

 

 

「人が優れた才能を見た時、取る行動は二つです。

嫉妬を覚えるか、それを賛美するか。貴方は後者をよくするみたいですね」

 

 

山門は瞬時にエンジェル・ドーパントに変身。光の刃を暗闇に放った。

刃を握り潰しながら現れたのは、キルだ。

 

 

「…姿を見ないと思っていた。諦めてくれた…なんてのは、僕の傲慢だったか」

 

「いえ、正しいですよ。ボクには何もできなかった。

だから彼らに託したんです。目覚めたのは『H』の方でしたが…結果としては満足です」

 

 

エンジェルは救済の剣を出現させ、キルに斬りかかった。急ごしらえだが依り代は既に拵えた。この剣が奴を斬れば、エンジェルの勝ちだ。

 

 

「……レベル2」

 

 

キルがそう呟くと、影から溢れ出た黒い液体が人型となり、圧倒的な力でエンジェルを抑えつけた。

 

 

「この力は…!?」

 

「ボクはあの時、警戒していました。貴方は手の内を隠してそうでしたから。でもそれが人を洗脳する剣程度なら…何の問題も無かったみたいです」

 

「そういう事か…あの時の君は、全力なんて出していなかった…!」

 

「貴方は随分と役に立ってくれました。オリジンメモリの一本を目覚めさせ、瞬樹を強くしてくれた。でもエンジェルの力が暴食に渡ると厄介です。思い通りに動かされるのは、死ぬほど不快でしたから」

 

 

エンジェルを抑えつける黒い人型が大きくなる。巨人を構成し、体に絡みついてくるそれは血液のようでもあり、肉のようでもある。だがそれは少なくとも、人から生じたモノだと断言できた。

 

 

「このまま世界を支配するなら、貴方に取り入るのもアリかと考えました。でも貴方には何も無かった。野望も稚拙、衝動と呼ぶには余りに粗末な欲望、貴方は何も欲してなどいなかったんです。地獄を創れるから創ったに過ぎない。同じ暴食でも氷餓が『飢餓』なら、貴方は『飽食』でしょうか」

 

「何も…望めないのさ。僕は『本物』を見た。あの才能に触れ……僕はそれで満たされてしまった。彼の『憂鬱』に…僕は囚われてしまったんだ」

 

「だからもう貴方は用済み。貴方をこの世に残してはおけないんです。それこそ、身体の一片残らず。奇しくも……今宵は満月ですね」

 

 

黒い巨人の顔に空洞が現れ、石のようなものが並んでいるのが見えた。世界を手に入れようとした愚かな天使紛いの結末、それが眼前にまで迫る。

 

 

「あぁ……素晴らし―――」

 

 

巨人の「口」が、「歯」が、山門を咀嚼し飲み込んだ。

 

黒い巨人が影に融け、その姿がキルと重なり薄れていく。

 

 

「『満月の狂人(グレイマン)』…やはり、暴食の気持ちは分かりませんね。こんなものの…どこがいいんでしょう」

 

 

暗殺者は満月から目を逸らすように、トンネルの影を目指す。

変身を解いた烈は、口に残った血を道路に吐き捨てて闇に消えた。

 

 

 

______

 

 

 

山門が最期に口走った、あの名前。

 

 

『憂鬱』

 

 

それはかつて、組織最強の才能を持った者の称号。

暇潰しと言わんばかりに謀反を起こすが、『傲慢』によって世界から追放された…はずだった。

 

 

 

「退屈な時間が続く…あぁ、笑えない。憂鬱で憂鬱で…死んでしまいそうだ」

 

 

異なる世界で、彼は今も憂う。

その巨大な憂鬱は、次元を超えて世界を侵食する。

 

 

「退屈は病だ。だがきっと、こいつが俺を治してくれるだろう。

()()は……この憂鬱を晴らしてくれるかな?」

 

 

 

彼の瞳が見据えるのは、女神を守る二色の戦士。

そして、また別の歌姫たちを守る『蒼き音速の戦士』

 

 

 

世界の壁が、開いた

 

 

 

 




一つ、エデンヘブンズ爆誕。エデン被り、セイバーの竜騎士被りとありましたが、僕の答えはこれです。エデンは僕が作った僕のライダーなので、何も変えずいっそパワーアップさせちゃえ大作戦!まぁパワーアップは前から考えてたんですけども。

二つ、ヒデカゲと山門退場。彼らも十分魅力的な敵ですが、なにせ強敵の後がつっかえているもので…しかし、彼らはしっかりダブルやエデンの超えるべき壁としての役割を全うしてくれました。

三つ、次回からMasterTreeさんの「ラブライブ!サンシャイン!!×仮面ライダードライブサーガ 仮面ライダーソニック」とのコラボ編です!マジで何年越しかの実現!めちゃくちゃ本筋と絡むので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです!

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案ありましたらお願いします!

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