ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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146です。学校始まってテンション下がってます。
実はまた一つコラボできるかも…って感じなんですよね。それも大分な大物さんと。

まぁ、まだ一つも実現してないんですけどね!!


今回はサイレンス編、ラストでございます。
結構気合入れて書いたつもりです!これが俺の限界だ!(吐血)


第48話 チェンジ・Y・ワールド /Your song.

8月29日。明朝。

Summer Girls Festival、通称サガフェス当日。

 

矢澤にこは目を覚ました。

辺りを見回すと見慣れた内装。体には力が入らず、頭も痛い。

 

にこは思い出した。昨日、あの後そのまま家に戻り、部屋にこもって、そのまま泣き疲れて寝てしまったのだ。

 

風呂にも入らず、練習着のまま。腹は減っているが、食欲は湧かない。

そして…

 

 

喉の震えは感じるのに、やはり聞こえない。

声が出ない。悪い夢ならば、どれほど嬉しかっただろうか。

 

 

部屋いっぱいに飾られた、古今東西のスクールアイドルのポスター。

もう決して届くことのない、夢の亡骸。

 

時間も、傷も、痛みも、全てを夢への足場にしてきた。それだけが、生きる理由だった。

それなのに、夢を叶える一歩手前で、積み上げてきた全てが無音で崩れ去った。

 

後にも先にも足場は無い。もう何も____

 

 

朝日が昇り、彼女は顔にできた不自然な影に気付いた。

窓に貼られた紙が、光を遮っている。紙__いや、封筒に入った手紙だった。

 

にこは外に貼られた手紙を剥がし、封を開けた。

 

 

 

『謹啓、矢澤にこ様』

 

 

 

その書き出しから始まった手紙の送り主は、読んでいるとすぐに分かった。

サイレンス・ドーパント、にこの声を消した張本人。しかし、不思議と怒りも湧いてこない。ベットリとした諦めの感情が、他の感情を食い潰してしまったようだった。

 

だが、その後の文言を見て、その感情が動いた。

 

 

『__以下の条件を用意して下さるならば、貴方の声をお返しすることを約束しましょう』

 

 

にこは慌てて全文を再び読む。

どれだけ胡散臭かろうが、それはにこに差した微かな光だった。

 

父から貰ったあの夢は命と同じ。それを返してくれるなら、例え悪魔とだって取引したって構わない。どんな物だってくれてやる。その覚悟はあった。

 

 

 

全文を読み終わって、にこは出ない声で絶句し、呆然と立ち尽くした。

 

 

『交換条件は、仮面ライダーWのドライバーとメモリ』

 

 

それは文字通りの「悪魔の契約」。それでも……

 

 

 

__やってやる。

 

 

 

笑顔の消えた険しい表情で、にこは部屋の扉を開けた。

 

 

 

 

___________

 

 

 

人気のない広場。そこで魔術師を自称するサイレンスの男が、メモリを手で遊ばせ、口笛を吹いて歩き回っている。

 

自分の計画の完成度に、思わずにやけてしまう。

 

完璧に成功すれば、仮面ライダーのドライバーにオリジンメモリ、適合者の矢澤にこまでも手に入る。これを更に利用すれば、組織の“強欲”や“色欲”あたりと上手い取引ができるかもしれない。

 

 

「ハハハ…ハッハッハッハ!」

 

 

笑いが止まらない。

 

監視役の黒音烈からはお咎めを喰らったが、問題は無い。

仮にこの取引に仮面ライダーが乱入してこようが、対策は完璧だ。エデンを先に潰し、最も危惧していた2対1の阻止にも成功した。

 

ファングジョーカーという新形態も、外部との協力ありきではあるが、対抗可能。

 

第一、矢澤にこの声を人質に取っている以上、彼らは手出し出来ない。

 

懸念点は矢澤にこの行動であるが、こちらも問題は無い。

夢を失い、自暴自棄になった人間ほど操りやすい物は無い。イベントという明確なタイムリミットも手伝い、裏切り程度のラインなら容易く超えてくるだろう。

 

 

計画は完璧。

後はカモがネギを背負ってやってくるのを、鍋を抱えて待つだけだ。

 

 

 

_________

 

 

にこは身を隠しながら、切風探偵事務所の前までやって来た。

音がしない。中に人がいる気配もない。

 

ドアノブに手を掛ける。鍵は開いている。

 

少し扉を開けて、中を覗いた。

いつもアラシが座っているデスクには、誰もいない。扉近くの机には置手紙があり、「永斗、朝メシは無いから起きたら適当に食っとけ」と書いてある。アラシは出かけており、永斗はまだ寝ているようだ。

 

 

この上ないチャンスだった。

皮肉にもサイレンスの能力で、にこは音を立てずに部屋内を動ける。部屋を捜索すること数分。

 

 

あった。アラシのデスクの引き出しの中。

ダブルドライバーとメモリ一式だ。

 

 

声を戻し、ライブ会場に行くには時間が無い。にこは急いでドライバーを取ろうとする。

寸前、にこの手が止まった。

 

 

__私は、とんでもない事をしようとしているんじゃないか。

 

 

そんな思考が過った。

控えめに言っても、これはアラシ達への裏切りだ。仮面ライダーに変身できなくなれば、どれだけの苦難が待っているのかは容易に想像できる。

 

そして、裏切った身の上で、どの面を下げてステージに立てというのか。

少なくとも、他のメンバーに顔向けなんてできない。

 

今ならまだ引き返せる。

 

夢をあきらめれば。

 

 

冗談じゃない。

 

 

 

かつては、夢のために仲間を置き去りにした。なぜ今更そんなものに固執する必要がある。

 

そもそも、こんな事になったのはアラシのせいだ。

あの時、アラシと仲違いしなければ。アラシが憎まれ口ばかり叩かなければ。

 

アラシがいなければ、こんな目には合わなかった。

 

もう知ったことか。アラシが変身できなくなろうが、どんな目に合おうが、ドーパントや組織のことだってどうでもいい。このステージに立てれば、後はもうどうだっていい。

 

 

全部アラシが悪いんだ。いつも悪口ばかり言って、すぐに手を出すし、あんなこと言って結局守れてないし、仲間なんて言って私のこと考えてくれないし私のこと見てくれないしそもそも大嫌いだし。

 

 

__アラシになんて、出会わなければ良かった。

 

 

 

ぐちゃぐちゃな思考回路を放り出し、にこはダブルドライバーとメモリを鞄の中に仕舞った。

 

最初からこうするべきだったんだ。仲間なんて夢の足枷でしかない。

これでいい。これでまた…一人だ。

 

 

時間が無い。焦るように立ち上がり、事務所から出ようとする。

その時、にこの足がアラシのデスクにぶつかり、不安定だった本立てが崩れてしまった。

 

音を立てて、床に本と資料が散乱する。

 

聞こえはしないが、激しく心臓が波打っているのが分かる。

奥の部屋で寝ている永斗は…どうやら起きていないようだ。にこは胸をなで下ろした。

 

直している暇はない。そのまま放置し、その場を後にしようとする。

しかし、本の中に紛れている、紙の束がにこの目に留まった。

 

しわくちゃで黒ずんだ紙で、字は間違いなくアラシのもの。破れた個所はテープで張り付けてある。何度も書いては消したのが目に見えるようだった。

 

時間は無い。だが、にこの意識はそこから離れなかった。

 

 

『にこ 誕生日 歌詞』

 

 

アラシの乱暴な字で、そうハッキリと書いてあった。

にこの頭の中は、真っ白になった。

 

その下に書かれた7月22日の上には×が書いてある。その更に下には「もっと早く言えアホ!」と小さく書かれていた。

 

 

鞄がにこの手から滑り落ち、にこは力なく座り込んでその紙を読んだ。

 

それは歌詞だった。アラシがにこの誕生日に送るはずだった、彼女のソロ曲の歌詞。真姫の作った曲の楽譜の下に詩が書きこまれている。

 

床に散らばった本の中には、「猿でも出来る作詞」や「子供のための音楽」といった本がある。わざわざ海未や真姫に貸してもらい、勉強したのだろう。それも、ライブ準備やスケジュール調整、ドーパントとの戦いもあった中で。

 

 

サイレンスも声の事も全部忘れ、にこはその詩を読んでいた。

 

 

『キメ顔きびしく追及』

『完璧なウインクみせる』

 

 

アラシなりに彼女を観察し、考えたフレーズが並ぶ。

ところどころ悪口に線を引かれ、永斗の字で書き直されている所もあるが、その中に嘘は書いていないのは分かった。

 

何か所か小馬鹿にしたようなフレーズもあり、にこは思わずムッとする。

しかし、その紙には隅から隅まで、彼から見たにこの事だけが書いてあった。

 

そして最後。ここだけは直しも消した跡も見えない。

ハッキリと一筆で、こう書かれていた。

 

 

『痛さも本気 悪いか本気さ』

『それが にこの女子道』

 

 

それは、アラシがにこをずっと見ていたという証拠。

彼の、信頼の詞。

 

 

空白もまだ多い、渡されるのは先になりそうだ。

紙をめくると、日付とどこを進めたのか、それと思いついたフレーズが細かく書いてあった。完成目標が少しずつ後になっているところまで律義に記録してあった。

 

ほぼ毎日書いているのが分かる。最近で昨日。

 

つまりアラシは、にこがこの歌を歌えるようになると信じている。

その事実が、にこの胸を締め付けた。

 

 

涙がこぼれ、にこの口が「バカ」と動く。

 

 

__なんで、信じられなかったんだろう。

 

 

永斗の断片的な言葉で絶望して、逃げ出して、話を聞こうともせずに塞ぎこんで。

あれだけ自分を守ってくれた背中を、間近で見てたはずなのに。

 

彼が自分にウソをついたことなんてないって、知っていたはずなのに。

 

誰も信じられなくなって、ずっと信じていた自分さえも信じられなくなって。

勝手に勘違いして、あんなことを言って、引き離して。

 

もう少しで、取り返しのつかない場所に行ってしまうところだった。

 

 

にこは両手で自分の顔を叩く。いつまで寝ぼけているつもりだ、と。

今ここで、にこを信じていないのは自分自身だけだ。

 

そんなの、宇宙ナンバーワンアイドルの名折れだ。

信じる心でも、アラシに負けるつもりは無い。

 

 

散々否定してきたが、今は言える。アラシとは似た者同士。

嫌われてるわけがなかった。だって、にこは____

 

 

 

__________

 

 

アラシが事務所の扉を開ける。

誰かが入った痕跡がある。誰か、というのはもう分かっているが。

 

 

「オイ、永斗。起きてるか?」

 

「起きてる」

 

 

奥の部屋から永斗が出てきた。寝起き…という感じではない。

 

 

「言われた通り、ちゃんと“寝てた”よ」

 

「そりゃよかった」

 

 

サイレンスのこれまでの手口や言動を元にした、永斗のプロファイリングによれば、サイレンスはにこを利用して取引をするはずだった。

 

仮面ライダーと繋がっている、貴重な相手。取引するのはドライバーとオリジンメモリ一択。ここまでは予測していた。

 

だからドライバーに発信機を付け、サイレンスの場所の特定を図った。そこでにこも保護するつもりだった。

 

そのはずだったのだが…

 

 

「なるほど…そっちパターンね」

 

 

状況を確認し、永斗はダルそうに呟いた。

ドライバーは引き出しに入ったまま。ここまでは予想の範疇だった。しかし、アラシは頭を抱えた。

 

 

「あの馬鹿……!」

 

 

引き出しからは、リズムメモリだけが取っていかれていた。

 

 

 

___________

 

 

広場に立つ魔術師の恰好をした、仮面の男。

時刻は正午少し前。その場所に、矢澤にこが現れた。

 

仮面の下で醜く笑う男。

 

 

「やぁ、来たね。矢澤にこちゃん。約束の物、ちゃんと持ってきてくれたかな?」

 

 

にこは物を取り出す素振りを見せない。交換は同時に、ということだろうか。

思っていたよりも冷静だ。何より男が気にしていたのは、

 

絶望した瞳の奥に宿った、その敵意__

 

 

《リズム!》

 

 

「ッ!」

 

 

隠し持っていたリズムメモリを起動させ、にこは男に向けて音の弾丸を発射した。

固有振動数に共鳴し、一撃で敵を葬る必殺攻撃。これならサイレンスを制圧できる。

 

そのはずだった。

 

 

「……惜しかったねぇ。ソレも警戒しておいて良かったよ」

 

 

男は何事も無かったように立っている。

手袋をした手元には、ドーパントの能力で作り出した、相手を無音化させる針が。

 

にこの攻撃と同時に針を放つ。それによって攻撃と中和したのだ。

音の攻撃は、“静寂”の前には無力。

 

 

「交渉決裂…って解釈でいいね?残念だよ、適合者一人とメモリ一本で我慢しなければならないなんて」

 

《サイレンス!》

 

 

男はメモリを挿入し、サイレンス・ドーパントに変化。

ナイフを構え、にこに歩み寄る。

 

にこは恐怖はするが、後悔はしていない。

結局無駄に終わってしまったけど、大切な仲間たちも、大切な夢も、どちらも裏切らない道を選べたのだから。

 

最後に、自分を信じることが出来たのだから___

 

 

 

「終わった気になってんじゃねぇよ」

 

 

打撲音、そして誰かが倒れた音。

目を開けると、そこには見慣れた大きな背中。

 

切風アラシ。倒れたサイレンスの前に、彼が立っていた。

 

 

謝らなければいけない。そう思った。

あんな事を言ってしまった。裏切ってしまう所だった。何度も迷惑をかけた。

謝りたいのに、声が……

 

 

「手間掛けさせやがって、このクソバカ!」

 

 

思わぬ罵倒が飛んできて、目を丸くしてしまう。

アラシは怒りの口調でさらに続ける。

 

 

「お前が素直にドライバー持って行ってくれれば、発信機で一発だったんだ!それを何で自分で戦うなんて考えんだよ、それにしても永斗に報告とか色々あんだろうが、そんくらい考えろアホ!バットショットがお前を見つけなかったらどうするつもりだったんだマヌケ!大体な、茂枝の依頼を完遂させるにはお前が協力すんのが手っ取り早かったんだ、それを話も聞かずに部屋で一人うじうじと…」

 

 

何故か普通に叱られている。

アラシの小言は続く。なんか身に覚えのない話も多いし、関係ない話まで持ち出してきた。

 

謝りたい気持ちが、段々苛立ちに変わってきた。声を出して文句言いたいが、声が出ないのがもどかしい。

 

そんなことをしているうちに、サイレンスが起き上がっている。

にこはそれを指さしてアラシに伝えようとする。が、アラシはにこの方を向いたまま…

 

 

「ちょっとテメェは黙ってろ、三流手品師」

 

 

バットショット、スタッグフォン、フロッグポッド、スパイダーショック、デンデンセンサー、ファングメモリ。メモリガジェットオールスターズがサイレンスを足止めする。

 

 

「いいか、お前はどうせ鳥頭だから覚えてねぇだろうが」

 

 

文句言いたげにジタバタするにこを抑え、アラシは続ける。

 

 

「お前はオリジンメモリの適合者、メモリ能力への耐性を持ってる。

つまり、お前とメモリの共鳴次第で、そのサイレンスのクソッタレ能力を打ち払えるってわけだ。

 

勝負だ。俺がアイツぶっ飛ばして声戻すのが早いか、お前が自力で克服すんのが早いか」

 

 

アラシは時間を確認し、にこの小さな手からリズムメモリを取り上げた。

 

 

「今ならまだライブに間に合う。もうちょい先で瞬樹がバイクでスタンバってるから、そいつに乗って早く行け。穂乃果たちも待ってる。

あとお前臭ぇな、風呂入ってねぇだろ。そんで顔面が酷ぇ」

 

 

にこは顔を真っ赤にして膨らませ、恥ずかしさと怒りが入り混じった表情で、アラシの首を掴む。

当然すぐに頭を掴まれて制圧されるわけだが。

 

 

「ちゃんと風呂入って、なんか腹に入れとけ。あとは…」

 

 

アラシはにこの頭から手を放し、体を逆に向かせ、背中を強く押した。

 

『言葉にしなきゃ伝わんないよ』

アラシは永斗の言葉を思い出した。

 

だから彼は、彼なりの激励の言葉と共に。

 

 

 

「その似合わねぇ泣きっ面、もう見せんじゃねぇぞ」

 

 

 

背中を押されたにこが、思わず立ち止まってしまう。

だが、にこは振り向かない。すぐに駆け出して行った。

 

夜通し泣いたせいでぐちゃぐちゃで、

 

それでも心から嬉しくて、

 

知らない感情が腹の底から湧き上がってきて、

 

 

きっと今、彼に見せられないような顔してる。

 

 

 

「行かせるわけ…ないじゃないか!」

 

 

ガジェットを振り切り、サイレンスが空気を読まずににこに飛び掛かる。

その瞬間、サイレンスは近づいてくる轟音と黒い鋼の巨体に弾き飛ばされた。

 

巨大ビークル、リボルギャリーは、サイレンスの妨害だけでなく、にこの逃げ先を隠す役割も果たす。

サイレンスからにこを逃がす事には成功した。

 

 

「さて…こっからが勝負だ」

 

《ジョーカー!》

 

 

ドライバーを装着。サイクロンメモリが転送され、ジョーカーメモリを装填。

 

 

「変身!」

 

《サイクロンジョーカー!!》

 

 

アラシは巻き起こる風の中で、仮面ライダーWへと変身。

マフラーをたなびかせ、起き上がるサイレンスに構えを取った。

 

だが、サイレンスはまだ余裕を見せびらかすような態度を続ける。

 

 

「僕を倒して声を取り戻す?どうやら忘れているみたいだね。

僕の能力の解除は意思次第。僕を倒せば、声は永遠に戻らないって言ったはずだが?」

 

「テメェこそ、そのゴミクソ読解力晒してんな。幼稚園あひる組辺りからやり直して来たらどうだ?

そのチンケな手品のタネ、全部見破ったって言ってんだよ!」

 

 

サイレンスに蹴りを入れるダブル。サイレンスは手甲で攻撃を防ぎ、手甲から爪を展開した。

 

 

「手品?何を言っているのかさっぱりだよ」

 

『タネ明かしは僕のターンだね。

最初に気になったのは、声の消えたにこちゃんから、足音が聞こえなかった時だ。検索を続けると、“サイレンスは対象が原因で起こる音を消す”とあった。だから靴から出る足音も消えたんだと解釈出来た』

 

 

サイレンスはリーチのある爪で攻撃を続ける。ダブルは数発喰らいながらも、反撃を試みる。しかし、思った以上に素早く、上手くかわされてしまう。

 

 

『でもおかしいんだよ。前回、君と戦ったとき、君の体からは“打撲音”がした。直前まで足音を消していたはずなのに、だ。わざわざ蹴られる時だけ能力を解除したってことになる』

 

 

ダブルの速度が上がり、サイレンスの攻撃が当たらなくなる。

それどころか、逆にダブルの攻撃が鋭さを見せ始めた。蹴りが体に入ると、永斗の言う通り“打撲音”が。

 

 

『もう一つ。僕らは2人で1人、会話でコミュニケーションを取っている事は知っているはず。

じゃあなんで、僕らを無音にしない?君がやったような隠密攻撃を警戒したから?そんなの、僕らを見失ったら能力を解除すればいい話だ。

 

それをしなかった理由はただ一つ。出来なかったんだ』

 

「要するにこうだ。お前のハイドープ能力は真っ赤な嘘、お前は自分の能力を解除できない!」

 

『足音を消したリ、銃声をオンオフしていた仕組みは簡単だ。

君はドーパントにしては珍しく、武装をしている。手甲に銃、ワイヤーに…あと他にも色々、そんで靴も履いてるね。メモリをいじれば、怪人態変異と同時に装備することも可能だ。

つまり君は自分の体ではなく、“音を消したい箇所”にだけ能力を使っていた。違う?』

 

 

靴にだけ能力を使えば、“足音だけ”を消すことが出来る。同様に服に使えば、衣擦れの音だけを。

無音化した銃に、無音化してない銃弾を一つだけ入れれば、一発だけ音の鳴る銃の完成だ。

これが音を消したり出したりしていたトリック。

 

 

「……その通り。一本はくれてやるよ。

でも、“僕を倒せば音は戻らない”。これは真実だ!」

「いいや、それも嘘だ!」

 

 

ダブルの拳が、サイレンスの後付け装甲を粉砕する。

爪の攻撃も、完全に受け止められた。

 

 

「任意で能力解除が嘘なら、そいつは実際確かめたってことになるよな。

どうやって確かめたってんだ?メモリブレイクしなきゃ知りようもない、その能力を!」

 

「ッ…!実験さ。その後、暴食に新しいメモリを貰った!」

 

『残念。ハイドープのことは書かれてなくても、地球の本棚には“メモリがどれだけ使用されたか”は書いてあるんだよね。

サイレンスは弱いメモリだからねー。結論から言うと、それを使ったのは一人だけ、そんで一本だけだ』

 

「馬鹿な…!」

 

 

馬鹿げている言い分だ。無論、これは永斗のブラフ。地球の本棚にそこまで記載されていない。

しかし、これは“悪魔の証明”。サイレンスには、永斗が地球の本棚でその情報を知ったことを、否定することはできない。

 

そしてサイレンスがこれに反論しないという事は、サイレンスの言葉が嘘である事の証明だった。

 

 

「これでテメェを殴れない理由が無くなったな。さぁ…」

「『お前の罪を数えろ!!』」

 

 

サイレンスを守っていた虚偽の鎧が、2人の紡いだ真実と計略の剣によって切り捨てられた。

しかし、残された丸腰のサイレンスは、おかしな様子で笑い出した。

 

 

「ハ…ハハハ…ハッハッハッ!」

 

 

負けを悟ったような笑いではない。狂ったようで、まだ勝機を伺う眼差しがダブルを差す。

 

 

「魔術師は…奥の手を取っておくものだよ」

 

 

サイレンスの手から無造作に投げられたのは、一つの手榴弾。

ダブルは思わず爆発を警戒する。

 

しかし、破裂したのは強烈な光だけ。

 

 

「……!閃光弾か!」

 

 

視界が戻った瞬間、サイレンスがバイクに乗って逃げるのがギリギリ見えた。

 

 

『バイクチェイスか。まぁ仮面ライダーだし、たまにはね』

「追いかけっこなら上等だ、逃がすかよ!」

 

 

ダブルもハードボイルダーに跨り、昼間の喧騒の中を駆け抜け、エンジン全開でサイレンスを追った。

 

 

 

________

 

 

 

矢澤にこは走った。

 

全ての準備を万全に終え、ライブの控室に向かう。

イベントは既に始まっている。μ’sの出番は正午、スケジュールは全くズレることなく進んでいる。

 

ただ、声だけはまだ戻らない。

 

 

控室に息を切らして入ると、そこには仲間たちが待っていた。

 

負けそうになった彼女を責める者は誰もいなかった。

ことりが衣装を手渡した。声が出ない中、打ち合わせも十分に行った。

 

皆が信じているのだ。にこの声は、ライブまでに戻ると。

 

気付けばμ’sの出番は次にまで近づいていた。

ずっと夢見たサガフェスのステージが、数分後にまで迫っている。

 

髪を結び、いつものツインテールに。鏡を見て、その笑顔を確かめる。

 

 

__大丈夫、いつも通り。最高の笑顔だ。

 

 

 

前のライブが終わった。

 

手が震える。体の中で心臓が暴れるようだ。

それでも聞こえない心拍音が、声が戻っていないと残酷に告げている。

 

掛け声も、一人だけ声を出すことはできなかった。

一同に不安の顔が無かったと言えば、嘘になるだろう。

 

それでも、信じなければいけない。

アラシは彼女を信じたのだから。

 

 

ステージに足を踏み入れる。スポットライトが9人を照らす。

少しは慣れたはずの場所は、まるで別世界のよう。

 

観客の視線が、一気に彼女たちに、特に先頭のにこに集まる。

息が詰まる。夢と期待の重圧が一気にのしかかる。

 

怖くないわけがない。マイクを握る手からは汗が止まらない。

 

震える喉からは声は出ない。

 

 

それでも…

 

 

 

にこはステージ前に足を進める。震える体を必死に抑え、それでも笑顔だけは自慢げに。

 

何が彼女をそうさせるのだろう。

アラシがいるからだろうか。きっと彼女は、呆れてこう答えるだろう。

 

 

__違う、アレはライバル。

 

 

 

これは彼との勝負。そう思うと、恐怖も緊張も消えていった。

だって負けるわけがないから。彼には胸を張ってそう言えるから。

 

 

『なんで?』

 

 

そんな無邪気な、幼い声が聞こえた気がした。

 

そんなの決まってる。

何の根拠も必要ない。気持ち悪いくらい、痛くて寒いくらいに満ち溢れた自信が、

 

いつものように、満面の笑顔で言うんだ。

 

 

 

__だって私はいつだって……

 

 

 

 

 

 

 

 

__最高に可愛いスーパーアイドル、にこにーだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にっこにっこにーっ!!」

 

 

 

マイク越しのその“声”が、会場中に広がっていく。

その瞬間、歓声が沸いた。夢に描いた光景が、目の前に広がっていた。

 

泣いてはいけない。約束したじゃないか。

勝負はまだ、終わってない!

 

 

__あぁ、今なら聞こえる。

  

 

私を待つ、みんなの声が!

 

 

 

 

 

___夏色えがおで1,2,Jump!___

 

 

 

 

 

 

________

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

何度も見失ったが、ダブルはサイレンスをある倉庫にまで追い詰めた。

いや、ここまで誘い込まれたと言うべきだろう。逃げきれる可能性を早々に捨て、何かしらの策のためにダブルをここまで誘導した。切羽詰まったにしては、驚くほどに冷静だ。

 

 

「さぁ、とりあえず逃げ場はねぇぞ」

 

「逃げる?ハッ!もうその必要も無いのさ!

間もなくここに援軍がやって来る!僕を支援する者の中で、最強の3人だ!」

 

「策ってのがその程度なら、問題はねぇな」

 

 

ダブルはそう言って、二本のメモリを取り出した。

永斗はそのメモリを見て、少し驚く。

 

サイレンスの対策をかいくぐるには、まだ見せていないメモリの組み合わせが有効。

アラシが選択したのは…

 

 

「テメェは超速攻でブッ飛ばす」

 

 

ピンクのメモリとターコイズのメモリ。

リズムとライトニングだった。

 

 

「ハッハッハ!どうやら物覚えがよくないらしいね探偵くん!

どちらも僕の前には無力だったじゃあないか!」

 

 

倉庫は工事現場と同じく、物が多い。ワイヤーを引っ掛ける場所もある。ライトニングをやり過ごせる環境は整っている。

そして、サイレンスの能力で音は無力化されてしまう。

 

それでも永斗は感じ取った。アラシの中にある確かな勝機を。

そして、さらにその中で激しく燃え盛る、「負けず嫌いの炎」を。

 

 

《ライトニング!》

《リズム!》

 

 

メモリを入れ替え、ドライバーを再び展開。

中心から割れるように色が変わり、右側がターコイズ、左側がピンクに。

 

 

《ライトニングリズム!!》

 

 

全身に走る稲妻の意匠に、スプリングやブースター。左腕には専用武器「リズムフィスト」。

それは、これまで見せたどの形態とも異なる、全く新しい姿。

 

 

仮面ライダーダブル ライトニングリズム!

 

 

 

「覚悟しやがれ。今の俺は、ちょっとばかし機嫌が悪ぃんだ」

 

「失笑ものだな!」

 

 

嘘を信じさせるには、真実の中に混ぜるのがコツ。サイレンスがハイドープに覚醒しているのは真実である。

 

その能力は“感覚操作自在”。ある感覚を鈍らせることで、その分だけ別の感覚を鋭敏化させる能力。

今のサイレンスは、味覚、嗅覚、触覚を殺し、動体視力を強化している。ライトニングを避け続けられたのも、これが理由だった。

 

サイレンスは超視力でダブルの一歩目を見切る。ここから先は一直線しか進まない。

こうなれば、どれだけ速くても避けるのは容易__

 

 

「ッ!……ガあッ…!」

 

 

 

奴の動きの軌道上からは避けたはずだ。しかし、ダブルの拳は想定したよりも手前で止まり、大きく避けたはずのサイレンスの体には電撃と衝撃が走った。

 

 

(どうなっている…!ライトニングの能力に、放電は無かったはずだ!)

 

 

サイレンスはワイヤーで上空に退避。

それを目視で確認したダブルは、両拳を突き合わせ、上空のサイレンスに拳を突き出した。

 

サイレンスは咄嗟に針を放った。音による遠距離攻撃と推理したからだ。

しかし、今度は爆発するような電流だけが、サイレンスの体を駆け巡った。

 

 

「何が…起こっている…!?」

 

『分かんない?』

「お前の大好きな手品だよ、ミスター口だけ野郎」

 

 

空中で動きが止まったサイレンス、当然これを見逃すわけがない。

強化脚力で飛び上がったダブルは、空中で体を捻り、叩き落すような蹴りを決める。

 

サイレンスは無防備に落下する。

 

 

「それじゃあ、タネ明かしだ」

 

 

悠然と着地したダブルは左腕に力を込め、リズムフィストを地面に叩きつけた。

それと同時に地中に爆音が響き、同心円状に地面が割れる。

 

それだけじゃない。割れた地面の隙間からは、音と共に雷が解放された。

 

回避不能の広範囲攻撃、地を這う稲妻。

そして、サイレンスはその仕組みの遅すぎる理解を果たした。

 

 

「馬鹿げている……“音に電撃を重ねた”だと!?」

 

 

ライトニングの能力は“帯電”のみ。トリガーなら銃撃、ジョーカーなら体に電撃を帯びさせるに留まる。超高速移動も筋肉に帯電させるという応用だ。

 

一方、リズムメモリやオーシャンメモリは、他のボディメモリには無い“属性”を持っている。これはオリジンメモリにボディとソウルの区別が無いことに起因している訳だが。

 

これにより、ライトニングとリズムを掛け合わせることで、“音の攻撃”に“雷の属性”を添加が可能。

上下左右、放射状に広がっていく音に電撃を重ねる。例え音が消されても、一度外に出た電撃だけは消されず、空中で解き放たれる。

 

 

アラシの発想は至ってシンプル。

槍で避けられるのなら、逃げ場なんて与えない槍の壁(ファランクス)に!

 

 

「さぁこれで、マジックショーもお開きだ!」

 

 

地中からの電撃で動きを封じられたサイレンス、彼に攻撃を防ぐ術は無い。

 

電撃を帯びたフィストで、サイレンスに連撃を繰り出す。

リズムを刻むようにテンポよく、音楽に乗るように爽快に、ダンスを踊るように痛快に。

 

コンボを重ねるほどに威力は増す。

そして、戦士の輪舞(ロンド)はクライマックスを迎える。

 

 

《リズム!マキシマムドライブ!!》

 

 

リズムフィストにリズムメモリを装填。

フィストに収束する音のエネルギーが溢れ出し、豪快な音楽を奏でる。

 

 

 

 

しかし、これだけでは終わらない。

 

 

 

 

 

《ライトニング!マキシマムドライブ!!》

 

 

更にライトニングメモリを、ベルト横のマキシマムスロットに装填。

音の上に膨大な雷の波動が被さり、超必殺の爆音の拳から、一撃絶殺の破壊兵器(ジャガーノート)へと昇華を果たす。

 

 

「ま…待て…!取引しよう、もう彼女たちには手を出さない。僕が得た報酬の半分は君たちに譲ろう。僕だけしか知らない顧客や組織の情報だってくれてやる、だから……!」

 

「安心しな、俺はテメェみたいに騙したりはしねぇ。正真正銘一撃で

 

 

地獄の果てまで吹っ飛びやがれ」

 

 

 

“R”のオリジンメモリ。

地球から分離した26の意思の一つにして、“自尊”の意思。

 

それは、誰よりも強く自分を信じ、高みを目指す心。

 

 

ダブルはコンボを繋いだまま、サイレンスを空中に蹴り上げる。

 

全てのエネルギーを左腕へ、電撃により身体能力を瞬発的に超強化。空間を震わせながら光り輝く拳を後ろに引き、力強くその右足を

 

 

踏み込んだ。

 

 

 

「『ツインマキシマム』」

 

 

 

光×音。自然界最速の掛け合わせは、あらゆる存在の意識を振り切る。

 

 

一刹那先、

 

 

ダブルの目の前から敵は消え失せ、突き出した左腕の先には倉庫の壁に大きく空いた風穴。

電撃で焼き払われたような穴の先も、コンテナや樹木が焼き抉れており、一本の道を作っていた。

 

その遥か先に見える、何かが叩きつけられたような崖。

 

 

遅れてきた轟音が鳴り響き、抉れた樹木は倒れ、思い出したかのように崖に円状のヒビが入った。

 

 

 

「『リズムボルテックス』」

 

 

 

大爆発が起こり、その爆風がダブルにまで届く。

その断末魔は、爆音と崖の崩れる音にかき消され、誰にも届くことは無かった。

 

 

 

 

___________

 

 

 

高台から倉庫を見下ろしていた3人。

一人はマスクと黒いローブを身に着けた烈。

 

残りの二人は似たような恰好をした青年で、修道服に身を包んでいる。

片方は髪で右目を隠し、左手に暴食のマークを刻む。もう一人はその逆だ。

 

サイレンスが撃破されたのを確認すると、右目を隠した男が天を仰いで嘆く。

 

 

「あぁ!あんなにも弱き者を一方的に加虐するなど…神の意思に背く行為!

これを許さでおくべきか…否、天は彼の者に罰を与えよとのお告げだ!」

 

 

すると、今度は左目を隠した男が。

 

 

「本ットなんだよなぁ、アイツのメモリは色々便利なんだから。

あぁ…腹立ってムカついてしゃあねぇ!って神さんも言ってる気ィするわ」

 

 

烈は遠くで崩れた崖を見つめ、ダブルの進化を実感する。

脅威を見据えるにしては、やはり熱を持たない瞳を他所に向かせ、烈はその場を後にした。

 

 

「サイレンスは彼女…暴食の本命じゃありません。行きましょう」

 

 

残された2人の男は、どうにもダブルに意識を向けている。

しかしその目もまた、脅威を見据える目というよりは、ただ恨みの対象を見るような怪訝な目であった。

 

 

「チッ……なんだ、やらねぇんだ」

「然し。近いうちに借りは返すことになるでしょう」

 

 

二人の男は修道服を翻し、片手で作った歪な祈りを捧げる。

 

 

 

「「神の名の下に」」

 

「報復を!」

「復讐を!」

 

 

 

__________

 

 

8/29 活動報告書

 

 

「12時1分3秒!私の勝ちよ!!

まぁ当然の結果ね、このスーパーアイドルにこにーが、アンタなんかに負けるわけないんだから?」

 

「ふっざけんな!こんなん誤差だ!時計がズレてたんだよ!!」

 

「スパイダーショック、磁気の嵐の中でもコンマ一秒すらズレないんですけどそれは」

 

「永斗は余計な事言ってんじゃねぇ!」

 

 

えーっと、アラシが忙しいので今回の活動報告は僕が担当します。士門永斗です、面倒くさい。

 

今はライブ終わって既に夜。事務所に集まってライブ映像の見返し、そんでドーパント倒したのが早いか、にこちゃんが声を出したのが早いかで揉めてる最中です。

 

結果としてはサイレンスを倒したのが12時1分9秒。声が戻ったのが12時1分3秒で、にこちゃんの勝ち。

アラシはそれがどうも気に入らないみたいだ。

 

 

さて、活動報告といきますか。

 

 

サイレンスを撃破したことで、消えていた音は全て戻った。

先程、依頼人の茂枝ミズノに会いに行ったが、問題なく声は治っていた。涙ながらに感謝する彼女に、次の劇を見に行くことを約束して一件落着。注目女優の演劇、少し楽しみだ。

 

にこちゃんの声は、どうやら本当にオリジンメモリの力で跳ね飛ばしたらしい。とんでもないね。

そんでライブの方も大成功を収めた。ネット上でも反応が良く、間違いなくアイドルランク上昇に繋がるだろう。

 

 

サイレンスは撃破後、崖崩れの中から発見されて無事に逮捕された。

完全にオーバーキルだったが、生きていたようだ。まぁあの攻撃で地面にでも叩きつけようもんなら、間違いなく全身が肉片となって弾け飛んでただろうけど。その辺はアラシの慈悲だろう…いや、慈悲ではないな。

 

 

「それにしても、今回はアラシのキレ具合凄かったねー」

「ホントにゃ!アラシくん、いつもの倍くらい怖い顔してたよ!」

 

「はぁ?別に怒ってねぇし」

 

「いや、本当に怖かったわよ?ねぇ、希」

「鬼さんみたいな顔しとったね!」

 

「絵里…希まで、だから怒ってねぇっつってんだろ。

まぁ確かに、茂枝ミズノの件は気の毒に思ったし、イラつきもしたが」

 

「何?私の声はどうでもよかったわけ!?」

 

 

にこちゃんが突っかかる。

まぁ安定で嘘乙だよね。アラシが珍しい。

 

大体、あの時僕が“不可能”って断言したのはこれが理由だ。

サイレンスを“倒さず捕獲”なんて、自分で思ってる以上にブチ切れてたアラシには無理だったに決まってる。

 

 

「別にお前の声は心配してねぇよ。

だって、お前は勝手に自分でなんとかすんだろ」

 

「えっ…?」

 

 

おーっと、前言撤回。これは嘘じゃないね。本当、アラシってさらっとこんな事言うんだから。

 

 

「な…なによ!にこだって?別にアンタの助けなんていらなかったし!

でも……その…なによ。一応、ありがとう…っていうか、ごめんっていうか……」

 

「あ?声小せぇんだよ。いっつもアホみたいにデケぇ声出す癖に」

 

 

あ、にこちゃんモジモジしてる。可愛い。

アラシは難聴系かよ、空気読めや。あ、にこちゃんキレてる。

 

 

「うるっっさいわね!人が珍しく素直になってやろうってのに!」

 

「はぁ!?」

 

「そうよ!にこにーが見事勝利を収めたんだから、アンタに一つ命令をしてあげるわ!」

 

「ふざけんなお前、なんで……」

 

「いい?アンタは明日も明後日も、卒業して大人になってもずーっと!

 

このハイパー可愛いアイドル矢澤にこを、ずっと近くで褒め称えなさい!!」

 

 

 

……はい?

 

事務所にいる皆が止まった。かよちゃん口空いてるよ。真姫ちゃんコーヒーこぼしてますけど大丈夫ですか?

あ、違うわ。ほのちゃんだけ話聞かずに寝てた。

 

にこちゃん、多分うっかり言っちゃったんだろうな。顔、超真っ赤になってる。

いや、だって。大人になってもずっと近くにって、言っちゃえばそれって……

 

 

「誰が褒め称えるか、バーカ」

 

 

アラシはそう言って、にこちゃんにデコピンをした。

何でアラシはこんなに残念なんだろうか。

 

 

「……!な……アンタ負けたんだから言う事聞きなさいよ!作詞のセンスも無いクセに!」

 

「は、お前、作詞って…アレ見たのか!?」

 

「見たわよ?あんなに私のことが好きなら、ちゃんと言えばいいのに~?

しょーがないから、私が曲名付けてあげるわ!ズバリ、“にこぷり♡女子道”!」

 

「ざっけんな、却下だ却下!お前が付けた題名は全部却下!」

 

「はぁ!?私のソロ曲でしょ!?」

 

 

…ガチで一生このやり取り続けそうだね、この2人。

アラシはデリカシー無いのに、何であんなにモテるんだろうね。そのうちハーレム作るよあの子。

 

まぁ、にこちゃんが若干デレに近寄ってるって感じで。いたたまれない真姫ちゃんとか諸々一旦置いといて、

 

 

矢澤にこ喪失編、まずはこれまで……ってとこかな。

 

 

 

 




何を疑い、何を信じるか。虚実と信頼の3話エピソード、いかがだったでしょうか。
あと、先に言っておきます。恋愛描写はこれが限界です。誰か初恋を僕に下さい。

最後に出た2人は、近いうちに立ちふさがる“暴食”の中ボスです。濃いですね。いつも通り。

そして最後に、予告する!

「次回、地獄より永遠を盗みに参上する」


感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!


……過去編最終話なんて知らへんのや。

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