ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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アサルト イメージCV岡本信彦
憤怒に所属するNo2エージェント。本名は富士宮 太陽(ふじみやたいよう)。
好戦的で高慢な性格。荒々しい口調で、実力は相当だが、協調性は皆無。3年前の事件でファング・ドーパントに家族と仲間を殺されており、それ以来、復讐のためだけに生きてきた。目的のためなら仲間にも躊躇なく手をかける。戦闘スタイルは、生前の父に教わっていた拳法を武器とし、攻撃を受け流す、無駄と隙の無い動きが特徴。使用メモリはシルバーメモリのカオスメモリ。温度を操る能力を持つ。μ’sの永斗奪還作戦の際、ファングに敗北したが……
本名の名前の由来は、仮面ライダーウィザードのフェニックスから。フェニックスは「不死身」であるため、そこから「富士宮」。フェニックスは太陽に飛ばされたことから、「太陽」。

特技:拳法、ギター、戦闘
好きなもの:格闘ゲーム、アイスクリーム(抹茶味)、キムチ
嫌いなもの:生魚、弱い自分

146です。若干スランプです。書きたいこと山ほどあるのに。
今回からキャラ紹介にイメージCVを付けることにしました。知識が浅いので、偏りが凄いと思いますが…

ビルドが面白れぇなぁ…グリスがカッコいい。何あれ、反則じゃない?
さて、ラビットラビットで氷室ーグこと絶縁おじさんのローグを倒せるのか?

新しくお気に入り登録してくださった、
いっちー3586さん メカ好きさん フェアリルーチェさん 黒い阿修羅さん さささささん ズミさん 灯油@まゆPさん ユウタさん

お気に入り登録ありがとうございます!
これでお気に入り登録者数100人を突破しました!本当にありがとうございます!!

今回はほとんど話が進んでない気がします。どうぞ。


第34話 Eという少年/走れ探偵

 

 

永斗奪還作戦開始、そして、失敗から一日おいた次の日。

まだ人通りが少なく、夏だというのに少し凍える程の早朝。朝日に照らされた神田明神に、階段を駆け上がるテンポのいい足音と、軽快な呼吸音が聞こえる。

 

少し息を乱しながらゴールした一番乗りは、ジャージを着た穂乃果だった。

 

 

「やっぱりいないかぁ…」

 

 

ゾーンの能力で全員が転送され、時間に差こそあったが、全員が無事に家にたどり着くことができた。

しかし、それでも帰ることができた時間には、もう既に朝日が出ていた。無断で夜遅くまで外出していたことになるため、メンバーのほとんどが大目玉を食らったらしい。

特に海未の家は厳しめな家であるため、それはもう凄かったとか…

 

それは穂乃果も例外ではなく、昨日一日は外出禁止になってしまっていた。

そして今日を迎えたのだが…どうも動かずにはいられず、思わずここに来てしまった。

 

あんな激闘を繰り広げたのは昨日や今日の話だ。穂乃果も今思い出すと、とんでもないことをやっていたと実感する。それだけじゃない。あの戦いの末、結局永斗を失ってしまった。

 

 

誰の心にも、深い傷を残しているだろう。

昨日の練習があったのかは知らないが、普通に考えて、誰も来るはずが…

 

 

「穂乃果…?」

 

 

階段から声が聞こえ、咄嗟に穂乃果は振り返る。

そこにいたのは、同じく練習着の海未だった。

 

 

「海未ちゃん!?」

 

「穂乃果に先を越されるとは…少々心外です」

 

 

海未に駆け寄る穂乃果。だが、海未の方は穂乃果がいることを、特に不思議だとは思っていなかったようだった。

 

 

「…もしかして、昨日も練習あったの?私、外出禁止になってて、連絡も…」

 

「私も同じですよ。帰ったら、お母様にそれはもう叱られました。動かずにはいられなかったんですよね?それは、私たちも同じです」

 

「私たち?」

 

 

その言葉で、穂乃果はすぐに感づいた。

それもそうか。今まで、何度も危険な目にあい、何度も仮面ライダーに守られてきた。

今更、これくらいで物怖じするはずがなかった。止まっていられないのは、皆が一緒だ。

 

 

「海未ちゃん…早いよぉ…」

 

「だ…ダレカタスケテ…」

 

「かよちん!?かよちん、大丈夫!?」

 

 

海未の後に続き、ことり、凛、あと、虫の息の状態の花陽が。

 

 

「わ…本当にみんなあつまってるやん…」

 

「ハラショー…私達だけだと思ったのに、流石ね」

 

「ホンットにバカなんじゃないの!あんなことがあってすぐに練習するなんて!」

 

「そういう、貴女が一番早かったじゃない」

 

 

さらに、希、絵里、あと真姫に噛みついているにこと、それをスルーする真姫。

 

 

「みんな…」

 

 

速すぎるμ’sの再集結に、穂乃果は感動すら覚える。

あの作戦時もそうだった。やっぱり、9人揃うとこの上なく心強い。

たった9人なのに、なんだってできる気がしてくる。

 

だが、穂乃果はすぐに違和感を感じた。

誰よりも早く来て、遅れた自分たちを“遅い”と叱りさえしそうな彼が。μ’sのもう一人のメンバーが来ていない。

 

 

「アラシ君は…来てないの?」

 

 

その一言で、他の全員も黙り込む。

9人全員が、既にアラシは来ているものだと思っていた。

しかし、今回の騒動で一番傷ついたのはアラシのはずだ。たった一人の相棒を、目の前で失ってしまったのだから。

 

 

「答えよう、その疑問!」

 

 

その落ち込んだ空気に、空気の読めない声が割って入る。すると、木の陰から、物凄いスピードでダッシュしてくる人物が。

 

 

「この、竜騎士シュバルツがな!!」

 

 

いつも通り腕に包帯を巻き、エデンドライバーを誇らしげにぶら下げ、カッコつけた口調とボロボロの体で決めたポーズが鬱陶しい、平常運転の瞬樹だ。

 

突然のバカの登場に、ポカンとする9人。

そして、すぐに全員が瞬樹から目をそらした。

 

 

「…?どうしたというのだ、竜騎士の華麗なる登場に、驚いて声も出んか?」

 

 

別に、9人に悪気があったわけではないのだ。

瞬樹は作戦開始直後から、最上階の番人と、増援のエージェント達を一人で請け負ってくれていた。その上、強敵のキルこと、リッパーも。唯一の戦力であり、作戦の要であった瞬樹。彼がいなければ、この作戦は数分と持たずに頓挫していただろう。

 

ただ、自分の命を守り、永斗を救うことに必死だった他のメンバー。

しかも、アサルトの乱入、立ちはだかるエージェント、絵里や海未の覚醒、にこの思わぬ才能、仮面ライダーWの復活、永斗の正体、ファングの登場、そして、スラッシュとの激闘など、波乱万丈な展開が続いたのだ。

 

その上、瞬樹は終始最上階で戦っていて、転送時にも一人だけその場にいなかった。

 

もう一度言う。悪気があったわけではないのだ。しかし…

 

 

アラシを含めた10人が、たった今、この瞬間まで…

瞬樹のことを、完全に忘れていた。

 

 

忘れてたなんて絶対に言えない。

μ’sの皆も、しばらく瞬樹と過ごし、性格がわかってきた。いつもは中二全開の痛い奴だが、すぐに素が出る。忘れてたなんて言ったら、絶対に泣く。

 

 

「…?まぁ、いいだろう!俺も昨日は、あの刃物使いとの戦いの傷を癒すため、安静にしていた。そして今日、真っ先に探偵事務所に向かったのだが…」

 

 

瞬樹か取り出し、掲げた一枚の紙。

目をそらしていた9人の目線も、思わず集まる。

 

 

「これが扉に貼ってあった」

 

 

そこに書いてあったのは、“休業日”の張り紙。

今まで、2人とも学校に行っていた時も、事務所が休みになることは無かった。

 

そして、その紙を裏返すと、こんなメッセージが。

 

 

“探し物に行ってくる。お前らは自分たちのやることをしろ!”

 

 

「アラシ君らしいね…」

 

「でも、水臭いじゃない!なんで私たちに言わずに一人で行くのよ!」

 

 

そのメッセージに、一人腹を立てるにこ。

だが、真姫はその言葉の意味をもう一度考え、答えた。

 

 

「違うんじゃない?アラシ先輩がこんなことを書いたってことは、私たちがいない方が好都合だったか、一人じゃないといけない理由があったかだと思うけど」

 

「確かに…遠くに行くならバイクだし、何人もは乗れないわね」

 

 

そう答えるのは絵里だ。

そして、ずっと考え込んでいた穂乃果が、おもむろに口を開いた。

 

 

「それか…私たちにできることをしろ…ってことかも」

 

 

その言葉で、真っ先に反応したのは真姫だった。

しばらく考えると、決意を固めたような顔で、突然駆け出した。

 

 

「ちょ…どこに行くの!?」

 

 

絵里の声が聞こえてないように、真姫は全力疾走でどこかへ走っていく。

絵里は諦めたように、その後を追って走り出し、希もその後に続く。

 

 

「仕方ありませんね…全員で追いかけますよ。遅れた人はペナルティです」

 

「えー!この展開で練習しなくてもー!」

 

「さっきの穂乃果は何処に行ったのですか!?いいから、早くしないと置いて行かれますよ!」

 

「鬼~!」

 

 

文句言いながら海未についていく穂乃果。ことりは苦笑いしながら、にこは「やれやれ」とでも言いたげな顔でついていく。

 

残された花陽、瞬樹も走り出そうとするが…

 

 

「待って」

 

 

そんな2人を、凛が呼び止める。

さっきまでは明るく振舞っていた凛だったが、やっぱり無理をしていたのだろうか。その表情は、どこか思いつめている。

 

 

「みんな、怖くないの?あの時の永斗くんは、永斗くんじゃなかった…もう少しで凛たち、死んじゃうかもしれなかったんだよ!?」

 

 

凛は、一人だけ直接永斗を救けに行き、そこで格が違う敵、No3のハイドに出くわした。その上、μ’sの中では最も永斗と親しかった凛だ。大切な友達が突然豹変したら、心の中の整理がつかないのは当然。

あんな怪物を間近で見て、恐怖を覚えるのも当然だ。

 

花陽は凛のことを昔から知っている。だから、凛のことも人よりわかっているつもりだ。

凛が永斗に好意を抱いていることも、気付いていた。だが、凛はこう見えて昔から、人一倍怖がりだ。

 

きっと、色んな感情が頭の中をかき乱していて、自分でもどうすればいいかわからないのだろう。

 

花陽はそんな凛を諭す様に、言葉をかける。

 

 

「私も怖いよ。でも…私たちが頑張れば、永斗くんが戻ってくれるかもしれない。

凛ちゃんも、永斗くんに戻ってほしいでしょ?だったら…一緒に頑張ろう。怖くても…みんながついてるから…」

 

 

花陽に続き、瞬樹も言葉を続ける。

 

 

「そうだ。直接は見てないが、あれだけの戦いで、お前たちは誰一人として怪我もしてない。つまり、永斗はまだ消えたわけじゃない。俺は友のためなら、どんな覚悟も決める。お前はどうなんだ?」

 

 

2人の言葉に、凛は黙って頷く。

 

 

「じゃあ、早くいかないと…置いていかれちゃう」

 

 

少し笑いながら走り出す花陽に、瞬樹と凛が続く。

だが、凛の顔は曇ったままだ。

 

 

 

 

「やっぱり…凛、ダメだなぁ……」

 

 

 

 

その呟きは2人の耳に入らないまま、

3人は、ひたすらに前列の背中を追い続けた。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

ーアラシsideー

 

 

 

「この辺…のはずなんだけどな…」

 

 

俺はコンビニで買ったアップルパイを頬張りながらつぶやく。

昨日の早朝に出発し、地図に書いてある場所に向かってから、既に24時間以上経っている。

確かに距離はある。示された場所は、宮城の仙台。でも、休憩なしなら4時間弱で行ける距離。何が惑って丸一日費やしたかというと、この地図の汚さだ。

 

図が雑、字が雑、道が雑、交通費も書いてない。とどのつまり、こんなの地図じゃない。

空助の奴、これで到着できるとでも思っていたのだろうか。日本地図広げて旅した方が、まだ望みがあるくらいだ。

 

そして、極めつけのこの一言。「仙人に会え」。地図に書いてあったが、何を意味しているのかさっぱりだ。

 

何度か心が折れかけた。あぁ…仙台来てるんだし牛タン食いたい。でも金もない。見通し甘かったなクソ。

 

何にせよ、やっとのことでたどり着いた…と思う。色々と検証したが、ここで間違いない。

だが、場所が場所だ。ここは結構な山奥。さっき、獲物をくわえて逃げる狐を見た。

こんなところに人がいるとは思えない。そして…

 

目の前には、ボロボロの洋館が。ウチの事務所も大概だが、これはレベルが違う。窓ガラスが割れている…というより、窓ガラスが無い。屋根もかなり剥がれてるし、壁にはめっちゃ植物が根を張っている。人が住める家じゃないだろ、こんなの…

 

というわけで、今ここに入るのをしばらく躊躇っている。

心の中で、ここじゃないようにと全力で願っている。こんなところに住んでいるとしたら、間違いなく普通の奴じゃない。下手すりゃ人間じゃない。トロールかなんかかもしれない。

 

しかし、他にそれらしい場所は見当たらない。

 

 

「……仕方ないか。こんなとこで止まってても、どうにもなんねぇし」

 

 

意を決して、扉の取っ手に手をかける。

なんか変なにおいするのは気にならないが、取っ手に手をかけた瞬間、取っ手が取れたことが更に不安を募らせる。

 

仕方ないので、扉を蹴破って突入。警察ですか俺は。

 

 

ネチョッ

 

 

何か粘着性のある固体の物質を踏み潰してしまったような音。聞きたくなかったそんな音は。

一歩踏み出した瞬間に、俺の足は何かに捕らわれた。

ていうか、本当に動けない。結構力を入れているが、足裏が床から離れる気がしない。動物の糞か何かかと思ったが、これは……

 

 

「この匂いは…接着剤…?

つーか、このままじゃヤバい。おーい!誰かいないのか!?」

 

 

俺の声が屋敷に響くだけで、反応なし。

誰もいない?いや、そんなはずはない。これは明かな罠。誰かがここに出入りしている証拠だ。

そして、中に入ってより強く感じる、人の気配。

 

 

「俺はアンタに会いに来た!アンタが“仙人”か!?」

 

 

……反応なし。やっぱり気のせいk

 

 

「今、なんて言った!?」

 

「ウワァァァァァァッ!!」

 

 

諦めかけたその瞬間、俺の頭上の天井がパカッと開き、そこから少女の顔が!

ビックリした!柄にもなく叫んじまったし。

 

 

「ちょっとちょっと。驚いてないで答えて。

その呼び名を知ってるってことは、もしかしてキミ、空助の知り合い?」

 

「え、あぁ。空助は俺の」

 

「いや、待って。キミの正体を当てるから。

うんうん。分かるよ。キミは…空き巣さん、だね!」

 

「違ぇよ!誰が空き巣に入るか、こんなボロ屋敷!」

 

「あちゃー違ったかー!空助みたいにいかないや」

 

 

何だこの女…上の階から顔だけさかさまに出したまま喧しい。

でも、空助のことを知っていた。コイツが“仙人”か?とてもそんな風には見えないが…

 

 

「いいから、入ってきなよ。空助の知り合いなら歓迎するからさ!」

 

「いや、でもこの足元の接着剤が…」

 

「“泥棒さんホイホイ”のこと?それ、最近発明したんだけど、なんと上に圧力がかかってから固まり始めて、1秒もたたないうちに完全に接着できるんだ!ただ、靴を脱がれたら逃げられるのが欠点で…」

 

 

有無を言わさない勢いで靴から足を引っこ抜き、接着剤から脱出する。

あーもう!馬鹿か俺は!相当疲れてんな、こりゃ……いや、これから余計疲れそうだ…

 

 

 

中に入り、ギシギシ鳴る床を歩き、二階にたどり着く。床が抜けて脱出に時間がかかったが。

当然のようにドアが外れている部屋に入ると、さっきの女がいた。

 

 

「ようこそ。わたしは山神(やがみ)未来(みく)。一応、技術者…かな?空助からは“ミミック”って呼ばれてた」

 

「“仙人”じゃないのか?ってか、さっきの天井は…」

 

「仙人はあだ名っていうより、二つ名って感じかな?空助、そういうの好きでしょ?あ、天井はわたしの改造なんだ。外に動物さん見つけたとき、パパっと出れるから」

 

 

空助の性格も分かってる。知り合いってのは本当みたいだ。

にしても、知り合いってのもどの程度のものなのか…見た感じは完全に子供。いや、そうはいっても俺と同じくらいに見える。髪はちょっと長めで、黄色がかっている。服装は何故かタンクトップ。俺でも分かるくらいのトンデモファッションだ。

 

 

「空助とは一体、どういう関係で…」

「待って待って。キミ、わたしより年下でしょ?

わたしは23歳で、キミは16歳。7つもお姉さんなの!当然、け・い・ご☆でしょ?」

 

 

腹立つ……!ん?待てよ

 

 

「なんで俺の年を知ってるんだ?」

 

「うん。分かるよ。名前は切風アラシ、空助に拾われたんだってね。色々とフクザツな状況みたいだけど。敬語も本当なら尊敬に値する人物にしか使わないけど、まぁそんなの関係ないよね?」

 

 

コイツ…さっきまでは、確実に俺のことを知らなかった。

ここに来るまで時間がかかった。もしかして、コイツも地球の本棚を…

 

 

「あ、本棚には入れないよ。憧れるよね~!地球に選ばれたVIPみたいなもんじゃん!

それで、質問は?」

 

 

…サラッと心を読みやがって。

 

 

「空助とはどういう関係だったん……ですか?」

 

「よろしい。空助はね~昔わたしを助けてくれたヒーローなんだ。だから、空助のこと大好きなの!結婚したいくらい!」

 

 

こいつマジか。

 

 

「はぁ…アイツ独身でしたけど、求婚でもしたんですか?」

 

「したよ。幾度となく」

 

「したんかい」

 

 

空助とかなり歳の差離れてんだろ。いつの話かは知らんが、俺が拾われる前ってことは、10年以上前、ってことか。つまりコイツはまだ子供…発想と頭のネジがぶっ飛んでんな。

 

 

「でも、頑なに断られてね。しばらく3人で探偵してたこともあるんだけど…

って、本題はそうじゃないでしょ?キミは相棒を助ける手掛かりを探しに来たんじゃないの?」

 

「ッ…!一体何者なんですか。どうしてそこまで知って…」

 

「さぁなんでだろーねぇ?それより、“設計図”持ってきたんでしょ?早く貸して」

 

 

仕方なく俺は設計図を渡す。空助の知り合いってことで、変人だとは思ってたが、予想以上だった。その上、気味が悪い。頭の中でも読めるっていうのか?

 

未来は設計図を受け取り、パラパラとめくっていく。

その設計図を読み進めていくたび、表情が明るくなり、ページをめくる速度が増すのがわかる。

一通り読み終えると、設計図をパタンと閉じ、深呼吸をした。

 

 

「ズルいよ空助…これで血が騒がなかったら技術者失格だ」

 

 

表情のワクワクさが見て取れる。どうやら理解したうえで、相当の興味を持ったようだ。

なんか鼻息も荒い。そんなに興奮することか?

 

 

「ロストドライバー…だね。これを作ればいいの?」

 

「出来るんですか?」

 

「まぁね。動物さんとイチャイチャする時間をしばらく無しにすると……大体、5日くらいで出来るかな?」

 

 

ここに来るまでで1日費やしたため、ファングの力が蘇るまで、残り6日。

確かに、5日で完成するなら間に合いはする。でも……

 

 

「すいません。そこを…」

 

「もっと早く作って欲しい。だよね?

分かるよ。本当は一秒でも早くキミの相棒を助けたい。いや、話がしたいんでしょ?じゃあ3日だ。お姉さん、集中力には自信あるんだよ?」

 

 

また心を読まれた。本当になんなんだこの人は。

でも、その通りだ。俺もじっとしていられないのは確か。知りたいんだ。アイツの真実を…今すぐにでも。

 

 

「……じゃ、その代わり。キミにも仕事してもらおうかな?」

 

 

そう言って、未来は床に転がっていたペンを拾い上げ、同じく床に落ちてた紙に何かを書き始めた。

すぐに書き終え、俺に渡す。そこには住所が書いてある。

 

 

「そこにある“石”や“ガラクタ”いくつか欲しいんだ。ちょっと緑色に光ってるからすぐに分かるよ。

それは“地球の意思”に干渉できる特別なモノで、それが無いと地球の意思を宿したオリジンメモリの力を引き出せないってわけ」

 

「そんな物が…で、場所は…」

 

 

神奈川県。

 

 

「まるっきり反対方向じゃねぇか!」

 

「つべこべ言わないの!さっさと行った行った!」

 

「いや、でも…」

 

「お金ないならホラ!ここ降りたらガソリンスタンドあるし、そこでバイクの給油しなよ。ご飯はガソリンスタンドの近くにコンビニあるから。靴は玄関に大きめのやつがあるからそれ使って。詳しい道は人に聞けばわかるし、キミの体力ならまだまだ平気でしょ?」

 

 

未来はそう言っておれに何枚かの万札を押し付け、俺の背中を押し、部屋から追い出す。

言おうと思ったこと、全部その前に解決された…ありがたいけど、なんか腹が立つ!

 

 

「あ˝ぁぁ!もう!分かりましたよ!!」

 

 

俺は半ばヤケになって部屋から飛び出す。

ちなみに、頭に血が上って玄関の接着剤のことを忘れ、俺の靴下が犠牲になったことは、言うまでもない。

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

アラシが神奈川に出発してから、数時間後。

とある小さな廃病院の診察室。白衣を着た男 ハイドはパソコンに目を通しながら、携帯で通話している。

いつもとは違い、眼帯はつけていない。傍から見れば、ただの医者にしか見えない風貌だ。

 

 

「ハイ…坊ちゃんはまだ無理そうっス。あと、ルーズレスが……ハイ、今は西木野総合病院に。ドランクとジャミングは問題ないっス。ソリッドとリキッドも、メモリブレイクは免れたみたいで。そうっスね。作戦決行は…」

 

 

その時、ハイドは監視カメラの映像に、複数の人影が写ったのを確認。その正体を知り、気だるそうにため息をつき、ポリポリと肩をかく。

 

 

「後でかけなおします。思わぬ来客が」

 

 

通話を切り、ハイドは伸びをする。

そして、白衣のポケットに入っているナーブメモリに触れた。

まぁ、遅かれ早かれ、場所がバレるとは思っていた。特に驚くことではない。

 

 

「何の用っスか?診察ってわけじゃなさそうっスけど」

 

 

診察室の引き戸が開けられ、入ってきたのは9人の少女と、1人の少年。μ’sの10人だ。先頭には真姫が立っており、瞬樹はエデンドライバーに手をかけ、完全に臨戦態勢だ。

 

 

「ショートカットの子、長髪の子、巨乳の子はこないだぶりっスね。

こっちはいつぶりだったっスかね?真姫ちゃん」

 

「お久しぶりです。花陽の描いた似顔絵ですぐに分かりました。どういうつもりですか?……岸戸先生…」

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「思わぬ来客…か」

 

 

ハイドに通話を切られた相手。ゼロは、吸っていた煙草を投げ捨て、携帯電話をしまう。

思わぬ来客。ハイドの身の上等から予想はついている。

 

 

「諦めの悪さも継いでいるか。本当に苛立たせてくれる」

 

 

ゼロは捨てた煙草と路地裏のコンクリートの地面を強く踏みつける。それと同時に、こちらに近づいてくる気配と、その正体に気づいた。

思わぬ来客は、あちらだけではなかったようだ。

 

 

「見つけたぜ…ゼロ!!」

 

「連絡がつかなかったと思ったが、その分だと大丈夫そうだな。何の用だ?アサルト」

 

 

ファングに敗れたNo2エージェント アサルト。

メモリを使っていないというのに、その怒りの熱はビリビリと伝わってくる。更に、凄まじい復讐心と殺気、苛立ち、そして焦りにより、その熱は一層暑さを増しているようだ。

 

 

「何の用だァ?そんなの決まってんだろ。

近いうちに行われる、怠惰の討伐作戦。俺が引き受ける」

 

「駄目だ。弱体化しているとはいえ、“F”は序列5位のオリジンメモリ。一斉に叩く他に、倒す術はない。お前は復讐心と怒りに囚われている。そんな奴がいたところで、連携の輪を乱すだけだ」

 

 

その言葉を聞いたアサルトは、一瞬だけ不可解な表情を浮かべる。

そして、その表情は、狂気に満ちた笑顔に豹変。過呼吸のようにも思えろ不気味な笑い声が、路地裏に響く。

 

 

「怒りに囚われるな?俺達は“憤怒”だぞ!怒りに囚われて何が悪い!怒りのままにムカつく奴をぶっ飛ばし、怒りのままに憎い相手は叩き潰す!それが俺達だろうが!!それに、連携だとかそんなもんはいらねぇ。弱い奴は何人いても邪魔なだけだ!」

 

「俺はお前の実力を買い、No2にした。だが、それは間違いだったようだな」

 

「んだと……!」

 

 

アサルトは怒りを露わにする。

俺が弱いだと…ふざけるな!俺は強い!強くなければ…生きてきた意味がない!!

 

アサルトは獣の様な形相で、戦闘の構えを取る。

腰を低くし、両手で爪を立てるように。そして、右腕を前に突き出し、左腕を曲げた、拳法特有の構え。

 

 

「“憤怒”の称号は、組織内で、戦闘において頂点に立つ者に与えられる。メモリを使わず、自分は何もしないお前に、その称号は不似合いだ。今ここで俺がお前を倒す!

七幹部の“憤怒”は俺だ!!」

 

 

今にも爆発しそうな殺気が、辺りを震わせる。

だが、ゼロは一切の動揺を見せない。怒りの熱とは対照的に、冷たい眼光が、アサルトに突き刺さった。

 

 

「……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分と経たない間。その間に何があったか、目撃した者はいない。

 

 

アサルトは体の随所の骨が砕ける音と共に、無惨に膝から崩れ落ちる。

ゼロは息一つ乱さず、服装すら乱れていない。倒れたアサルトを、鋭い眼差しで見下すのみだ。そこに込められた感情は、怒りか、哀れみか、そこに感情なんてないのかもしれない。

それほどに圧倒的だった。もしメモリを使えば、ファングに匹敵するとも思えるほどに。

 

 

「お前の言う通り、“憤怒”の称号は、組織の最強の戦士に与えられる。たかだか一部隊のNo2が、随分と簡単に倒せると思ったものだな」

 

「…ッソが……!メモリも使わず……この…化け物が…!」

 

 

アサルトの懐から、カオスメモリが落ちる。

ゼロはそれを拾い上げ、自分の懐にしまった。

 

 

「ラピッドとルーズレス、タクトをやったのはお前だな?」

 

 

ゼロの声が変わった。

アサルトの背筋が凍り付く。その恐怖、威圧感が脳裏に焼き付く。まるで“死神”。いや違う。この男は、“死”そのものだ。

 

 

「怒りは人を強くする。だが、怒りでは前に進めない。

あいつらはそれを分かっている。それでも、一度怒りに囚われてしまえば、もうその中で生きるしかない。だから抗うんだ。だから怒りを分かち合う。“憤怒”は俺で、俺達が“憤怒”だ。

 

それも理解できないお前に…“憤怒”の資格は無い」

 

 

 

ゼロはそう言い残し、去っていく。

 

全身の骨が砕け、動けない。だが、死ぬ気配もない。恐らく、死なない程度に戦闘不能になるようされている。

 

完全な敗北だ。

仇であるファングも、ゼロにも、全く歯が立たなかった。

 

俺は誰よりも強い。そう主張し続け、自分を追い詰め、努力し、目の前の敵も、立ちはだかる障害も、全部打倒してきた。すべてを捧げ、捨ててきた。限界も、人生も、仲間も。

 

 

このままでも、他の奴らが弱体化したファングを倒すかもしれない。

組織がその気になれば、ゼロを筆頭とする七幹部の奴らが、ファングを殺すだろう。

 

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

 

今更終われるか。敵わないとしても、この体が引きちぎれようとも……

 

怒りに囚われれば、その中でしか生きられない…か。

もう手遅れだよ。俺はもう、復讐の中でしか生きられない。

 

 

強さが…更なる強さが欲しい。

 

 

全てを殺す力が、恨んだ相手を殺す力が欲しい。

 

怠惰を殺した後は?今度は別のだれかを恨むだけだ。

 

 

例え、この世界のすべてを殺したとしても、俺は恨み続けることを、復讐を止めることは無い。

 

 

次は何を捨てればいい?何を捨てれば、俺は力を手に入れられる?

 

 

 

 

雨が降ってきた。

アサルトの体はまだ動かない。だが、その殺意はもう、既にとどまることを知らない。

 

雨の雫が落ちる音とは別に、足音が聞こえる。

 

スーツケースを持ち、女子の制服、それも音ノ木坂の制服の上にパーカーを着て、顔を隠した人物。七幹部“暴食”。

 

 

パーカーを着た悪魔は、倒れているアサルトの顔の近くに顔を近づけ、耳元で呟いた。

 

 

 

 

「力が欲しくない?」

 

 

 

 

 

 




結構短めになってしまった…今回は3話構成なんで、サクサク書いてしまいたいところだけども…
次は永斗の過去編書きます。本編の方は、石を取りに行ったアラシ、ハイドとμ’s、アサルト力をもらう、の3本でお送りします。(サザエさん風)
(予告は急遽変更になる場合がございます。ご了承ください)

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!

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