ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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146です。案外時間かかった。模試?知らねぇな。
今回、話進んでないです。ていうか急展開です。色々と批判ございますでしょうが、スイマセン、今後の展開上こうしないとどうしようもないというか…

あと、お知らせがあります。
この度、MasterTreeさんの「ラブライブ!サンシャイン‼︎×仮面ライダードライブサーガ 仮面ライダーソニック」とのコラボが決定いたしました!
いつになるかは未定ですが、本編とガッツリ絡んだエピソードになる予定です。
正直、めっちゃ嬉しいですね。なんか、ここまで来れた感が。

新たにお気に入り登録してくださった
RRさん、tyexさん、ゼッパンさん、るどらさん、dyrgaさん
ありがとうございます!



第30話 怠惰なるF/士門永斗の消失

ーアラシsideー

 

 

「1!2!3!4!5!6!7!8!」

 

 

8月3日。夏休み早くも3日目。炎天直下の屋上で、μ’sは今日も練習に励む。

 

「はい。では、5分だけ休憩します」

 

「え~!せめて10分…」

「5分だけ休憩します」

 

 

海未の掛け声で、休憩時間に入る。穂乃果の抵抗むなしく、休憩は5分の様だ。

それぞれタオルで汗吹いたり、水飲んだりしている。

 

一方、俺は……

 

 

 

「あの…海未先輩…アラシ先輩、どうかされたんですか……?」

 

「花陽。あれは俗に言う“修羅場”と言う奴です」

 

 

俺の脳内が阿鼻叫喚を上げていた。

夏休み中の目標。夏休み中にライブを3回。言ったものの、俺がライブ演出、企画担当だということ忘れてたチクショウ!

 

すぐにでもライブをしたいところではある。真姫は曲を完成させてくれている。海未が歌詞を作るにも、ライブのコンセプトが決まらない限りはどうしようもない。

俺のアイデア次第でライブの命運が変わる。慎重に…それでいて迅速に決めねぇと…

 

 

「あ゛ー!!ダメだ!思いつかねぇ!」

 

 

俺は叫び、勢いよく立ち上がった。

 

 

「ちょっと気分転換に散歩行ってくる。後の仕事は永斗に…

あれ?永斗どこ行った?」

 

「永斗くんなら気分がよくないって言って帰ったよー」

 

あの野郎。

いつもなら即行で帰って叱るとこだが、2日前のあの事件から様子がおかしい。何かをずっと考えているような。

 

それは永斗だけでなく、その時のメンバーもそうだ。

海未や希はいつもと変わらないように振舞ってるが、時おり思いつめたような表情を見せることがある。凛に関しては、動揺が直に出ており、今日の練習も何度も失敗していた。

 

 

「…何事も無けりゃいいが……」

 

 

少し気になるが、何と言うこともないだろう。今はμ’sの活動だ。

ラブライブまでそう時間は残されてない。

 

 

「そういえば、瞬樹もいねぇな。どうした?

絵里、なんか聞いてるか?」

 

「一番くじとかを引きに行くって言ってたけど…」

 

 

あの野郎、殺す。

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

ー永斗sideー

 

 

 

真っ白な空間に、佇む僕。そして、宙に規則正しく並ぶ無数の本棚。

久しぶりな気がする。地球の本棚です。

 

僕は両腕を広げ、目を閉じて意識を集中させる。

 

 

「キーワードは……“士門永斗”」

 

 

一瞬躊躇したが、意を決してキーワードを入れた。

 

8月1日のあの事件の時、ホルモン・ドーパントは僕にこう言った。

 

 

 

『来るな…来るな!化け物が!!』

 

 

 

僕には過去の記憶がない。“化け物”と呼ばれる所以は一切知らないし、基本的に自分の事はほとんど知らない。

 

この地球の本棚の能力だって、気付けば持っていた。

強いて手がかりとするならば、天金からオリジンメモリについて聞かされた時に脳裏を過ったあのノイズのかかったビジョン。

 

僕は何者なのか。これは気になりはしたが、何故か踏み出すことはできなかった。

だが、ここまで来たら知る必要がある。手元に手段があるならなおさら。

 

 

「ビンゴ…まぁ、個人名だからね」

 

 

目の前には一冊の本が残った。

だが、その本は鎖でグルグル巻きにされ、表紙には錠がついている。

 

これは、地球の本棚では稀にある現象。ゲーム研究会騒動の際、青葉ちゃんの過去を検索できなかったのも、このため。

本棚の本には、その記憶が強い意志や外部からの力によって閉ざされている場合、錠がかかって中を見ることができないときがある。だが、その記憶に関する何かしらの“パスワード”を入力することで、閲覧が可能になる。いまでは青葉ちゃんの本も読めるようになっている。

 

 

僕は改めて“士門永斗”の本を見る。

錠はかかっている。しかし、錠の形状が普通と違い、かなり厳重に守ってあるような感じだ。

しかし、何故かボロボロ。厳重に守ってあると言えど、それが関係ないほど傷ついている。これなら僕の力でも錠を壊せそうな……そう思い、本に手を伸ばした。

 

 

「ッ…!今のは…!…?」

 

 

本に触れた瞬間、僕の頭にビジョンが浮かんだ。

今までの漠然としたものとは明らかに違う。明確で、具体的で、存在を確かに感じるもの。こちらに牙を向け、笑う、白い獣。

 

恐怖で腰が抜け、バランスを崩し、地球の本棚は解除された。

現実世界に戻った僕は、冷や汗が止まらない。

 

アレを開けたらどうなるんだ?

 

僕の事は知れるかもしれない。だが、それで終わるのか?

 

 

「…面倒くさい」

 

 

止めておこう。別に知る必要はないんだ。いままでそれで生きてきた。

僕は今のこの生活を変えたくない。無理をして、危険に身を投じる必要はない。

 

それでいいんだ…それで……

 

 

僕が無断で練習を抜けて数時間。

いつもならとっくにアラシが来るんだけど、来ない。どういう風の吹き回しだろうか。

気分が優れないってこと信じてくれたんだろうか。

 

 

「あ、でもそろそろ練習終わるか。じゃあ…」

 

 

 

ピンポーン

 

 

やっぱ来た。練習終わった後は穂むらか事務所が多い。

3人で探偵してた場所は、いつのまにやら友達の憩いの場か…なんだか感慨深い。

 

 

「しょうがない。僕も行くか…」

 

 

僕は白い本を散らかった床に置き、寝ぐせがついた頭をかいて、

猫背のまま、部屋の扉を開けた。

 

 

 

 

________________________

 

 

 

「オイ、途中で無断帰宅とはいい度胸だな…?」

「あれ…?体調が悪いってこと信じてくれたんじゃないの?」

 

 

ただいまアラシに頭を掴まれ、絶賛説教中。

身長差で上から見下ろしてくるから怖い。

 

「最近様子がおかしいから少し心配はしたが、お前がプライベートで言うことはほとんど信用してない。どうせ帰ってアニメだのマンガだの見てたんだろ?」

 

「いや、今回はマジだから。ホントに気分がアレだったから」

 

「アレってどれだ?説明してもらおうか。20文字以内で」

 

「ちょっと。アラシが平常運転の鬼畜なんだけど。誰か助けてくれませんか」

 

皆に助けを求めるけど、皆それぞれ会話してたりしてる。真姫ちゃんは完全にコッチに興味ないね。本読んでるもんね。ことり先輩はただただこっちに笑顔を向けてくる。逆に怖い。

 

なんてことをしてると、またしても扉が開く。

中に入ってきたのは、瞬樹の相棒らしい烈くん。何か持っている。

 

 

「お土産持ってきました。全員分のドーナツ買ってきたのと、

コンビニに落ちてた竜騎士の死骸です」

 

持ってたのはドーナツの入った箱。あと、意気消沈した瞬樹だった。

なんだろう、もらって嬉しいプレゼントと最高に要らないプレゼントを同時にもらって、なんだか複雑な気分。

 

 

「グッジョブ、2重の意味で。

海未、このサボり魔2号を拘束するの手伝え。目が覚め次第事情を吐いてもらおう」

 

「はい」

 

海未ちゃんとアラシは黙々と瞬樹を縄で縛っていく。何この断罪コンビ。

アラシは拘束した瞬樹を部屋の端に放置し、烈くんが持ってきたドーナツに直行。

 

「あ、私エンゼルフレンチがいい!」

「凛は~チョコリングがいいにゃ!」

「私は…アップルパイが欲しい…です…」

「ウチはオールドファッションかな~えりちは?」

「そんなこと言われても…じゃあ、私はプレーンで」

「私は余ったのを頂きますが…ことりはどうします?」

「うーん…期間限定とかないかな?」

「私はいらない」

「何してんのよ…!ストロベリーカスタードフレンチは私のものよ!」

「テメェこそその手放しやがれ…!ガキはチュロスでも食ってろ!」

 

ドーナツ争奪戦でちょっとしたカオスに。

僕は横でチョコファッションを頼んでいますが。まぁ、聞いてません。

 

 

最終的にドーナツが行き渡り、しばらく和やかな時間が流れる。

そんな中、エンゼルフレンチを食べながらほのちゃんが言った。

 

 

「そういえば、烈くん食べないの?」

 

 

そんな何気ない質問。これに一同反応する。

最初は絵里ちゃん。

 

 

「ちょっと待って。烈って男の子なの?私はてっきり女の子かと…」

 

「ウチもそう思っとったけど」

 

「え?でも、名前が男の子だし、男の子かなーって…」

 

「凛も男の子だとおもうにゃ!いつもエグいこと言うし!」

 

凛ちゃんも大概だと思う。

今度はことり先輩が。

 

「でも、声も見た目もすっごくかわいいよ♪持って帰っちゃいたいくらい」

 

「なぜか冗談に聞こえないのが怖いんだが。

俺は別に気にしてなかったな。永斗はどうだ?」

 

「僕は男の娘だと思ってた」

 

「字が違うぞ、オイ」

 

 

みたいな感じでガヤガヤと討論が続く。

埒が明かないので、本人に聞くことにした。

 

 

「で、結局のところ男なのか?女なのか?」

 

アラシに直接話しかけられ、ようやくこっちを見る烈くん。

さっきまでの会話は聞いてなかったらしい。自分が話題なのに。

 

しばらく黙っていたけど、ちょっとすると無言のまま口を開いた。

 

 

 

「秘密です」

 

 

 

その後、一同驚きの声を上げた。

構わず烈くんは続ける。

 

 

「性別はそちらの解釈でいいですよ。瞬樹にも言ってないですし。

呼ぶときはちゃん付けでもくん付けでも呼び捨てでも構いませんよ」

 

瞬樹は一緒に住んでるんだよね?今は気を失ったままだから聞けないけど。

ちょっとはそこを気にしようよ。同棲相手が美少女か男の娘かでは全く別……いや、どっちもアリか。

 

つまり、性別:烈でいいってこと?

 

 

「じゃあなんて呼ぼっか?くんでもちゃんでもしっくりこないし…」

 

悩んだ末、ほのちゃんが出した結論は…

 

 

「クロちゃんで!」

「嫌です」

 

流石に烈くんも速攻拒否。苗字の黒音から取ったんだろうけど、これはね…

 

「さっき何でもいいって言ったじゃん!」

「流石に嫌です。そんな地声が高い芸人みたいな名前」

 

「それならクロで!ちゃん付けなかったらいいでしょ?」

 

今度は猫っぽくなったなぁ。

 

「…ま、いいです。さっきよりはマシですし」

 

「いいんだ……」

 

 

こんな感じで、烈くんの呼び名は“クロ”に決定した。

ていうか、なんかアレだね。平和だね。

前みたいなアラシ、くーさんと一緒のダラダラ生活もよかったけど、こんな日常も悪くない。

 

…だからこそ、それを僕が壊すわけにはいかない。

 

 

「それじゃ、クロ!よろしくね!」

 

「はぁ…よろしくお願いします」

 

 

ほのちゃんが差し出した手を流されるままにとる烈くん、じゃなかったクロ。

ほのちゃんが呼び捨てって珍しいよね。あ、でも例のヒフミトリオは呼び捨てか。あだ名だと大丈夫なのかな?

 

そこに、僕の腕のスパイダーショックに連絡が入る。

常時ガジェットにはパトロールをさせており、ドーパントが出現すると連絡が来る仕組みだ。

 

 

「ハァ…これもまた僕らの日常か。

アラシ、ドーパントが出た。場所は神保町」

 

「分かった。俺が行くから後の奴は待機してろ」

 

 

アラシはハードボイルダーのキーを持ち、外に出る。

 

外からエンジンがかかる音が聞こえ、アラシは神保町に向け、バイクを走らせた。

 

 

 

_______________________________

 

 

 

 

数分後、アラシはバイクを止め、神保町に降り立った。

 

騒動の場所はすぐに分かった。そこには既に人はおらず、怪物が暴れているだけ。

その怪物は、前回の一件で永斗達が出くわしたドーパント、ホルモン・ドーパントだった。

 

 

「なんだアイツ。メモリの力に暴走してるってわけでもなさそうだが…」

 

何にしても、暴れられるのは迷惑だ。

アラシはダブルドライバーを装着し、永斗と意識を繋がらせる。

 

 

(ついた?今回はどんなドーパント?)

 

「お前が前に会ったっていう、ホルモンとかいうドーパントだ。

事件の後、バットショットの写真を確認したから間違いない」

 

(ホルモンか…)

 

「どうかしたか?」

 

(いや、何でもない。どのみちメモリブレイクが必要だったドーパント。さっさと片付けよう)

 

 

永斗はそう言うと、サイクロンメモリを転送させて来る。

ここまですんなり転送してくるのは珍しい。

 

アラシは少し疑問に思いながらも、それを押し込み、ジョーカーメモリを取り出した。

 

 

《ジョーカー!》

 

 

「変身!」

 

《サイクロンジョーカー!!》

 

 

アラシは腕でWの左半分を描くようにポーズを決め、ジョーカーメモリを装填。

さらに、両手でドライバーを展開。アラシの体が風に包まれ、仮面ライダーダブルへと変身した。

 

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ!!』」

 

 

ホルモンはこちらにまだ気づいてない。

その隙に、ダブルは暴れるホルモンの背後に蹴りを叩き込んだ。

 

 

「がぁっ!痛ぇ!!」

 

「散々暴れといて何言ってんだ!」

 

 

ダブルは構わず攻撃を続ける。

だが、ホルモンも黙ってはいない。右腕の注射器に特殊ホルモンを生成し、ダブルめがけて突き出した。

ダブルはこの能力を知っている。クジラを数滴で殺す猛毒。一回でも食らえば致命傷だ。

 

繰り出された攻撃をかわし、ホルモンの体のバランスが崩れたところで更にダブルのパンチが炸裂。

サイクロンによる風の力もあり、ホルモンは数メートル吹っ飛ばされた。

 

 

「何が目的だ。お前は裏で汚い商売してたんじゃないのか?

何で今更こんなことを…」

 

「うるせぇ!俺だってしたくてしてるわけじゃねぇんだ!

俺はお前を…仮面ライダーをおb」

 

 

ホルモンが何か言おうとしたその時、上空から何かが落下してくる。

落下する物体…いや、人物は、ホルモンの頭部を足場にして着地した。

 

その人物は赤黒い髪で、一部を青に染めた青年。

生身の人間と言えど、すさまじい落下速度で落ちてきたキックをモロに食らったホルモンは

後頭部を抑え、地面にうずくまっている。

 

 

「仮面ライダーをおびき寄せるための餌…だよなぁ?

おとりご苦労様。お前にゃ荷が重いから俺がかわってやるぜ」

 

 

指を鳴らしながら近づいてくる青年。

さっきの落下、あそこまでのスピードということは相当高いところから落ちたはず。

それでも青年は全く痛そうな素振りすらしていない。

 

 

「お前だろ?ファーストと引き分け、ラピッドを倒したっていう仮面ライダーは」

 

「…!お前、組織の人間か!」

 

「あ?俺は組織の犬じゃねぇ。

俺は“憤怒”のエージェント部隊のNo2アサルト!お前は“ヤツ”の前の肩慣らしだ。楽しませてくれるよなぁ!」

 

 

 

《カオス!》

 

 

アサルトと名乗る青年は歪な形をした銀のメモリを取り出す。

そこに描かれるのは、炎と氷で形作られたCの文字。

 

 

『シルバーメモリ…一般では流通してない、実力者のみに与えられるメモリ…』

 

「なるほどな。No2は伊達じゃねぇってことか!」

 

 

アサルトは右目の下に現れた生体コネクタに、メモリを挿入。

激しい衝撃波が発生し、今度は凄まじい熱気と冷気が襲い掛かる。

 

 

目の前に現れたのは、炎を纏ったトカゲと、氷を纏った狼が対照的に合わさったような異形。

鱗のついた右腕からは炎が噴き出し、毛皮に覆われた左腕からは冷気が出ている。

 

 

 

「さて…殺し合い開始と行こうか!」

 

 

 

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その頃、切風探偵事務所。

 

 

「ん…?なんだここは?

って!何故俺が縛られている!」

 

 

ようやく気を失っていた瞬樹が目を覚ました。

だが、他のメンバーは気にせず次のライブについて話し合っている。

 

 

「オイ俺を無視するな!烈!説明しろ!」

「しろ?」

「してください!」

 

一瞬向けられた殺意に容易く屈服する自称竜騎士。

他のメンバーも瞬樹が目を覚ましたことに気づいたようだ。

 

 

「ボクがコンビニで瞬樹を見つけたので、とりあえず気絶させて連行しました」

「説明になってない!」

 

「縛ったのは私とアラシです。アラシが帰ってきたらきっちり話を聞かせてもらいますからね?」

「この敬語コンビ怖いんだが!」

 

 

涙目になっている瞬樹に、花陽が苦笑いで助け船を出す。

 

 

「でも、そこまでするのには理由があったんだよね?どうしても外せない用とか…」

 

「花陽…我が天使…!

そうだ!竜騎士たる俺が、サボりたいという邪な心を持つはずがないだろう!

花陽を見習い、慈愛の心を持って出直すがいい愚か者どもが!」

「殺しますよ?」

「調子乗りましたスイマセン!」

 

 

一連の会話で一同は烈と瞬樹の上下関係について察した。

ここまで権力格差があると、あわれみの心さえ抱いてしまう。

 

 

「でも瞬樹、一番くじを引きに行くって言ってなかった?

アラシにも伝えておいたけど…」

 

「その通り!今回の一番くじはA賞がランサーの…」

 

 

その瞬間、瞬樹は自分が詰んだことを理解した。

周囲の目が冷たい。オタク文化に理解がある花陽とにこはそこまでではないが、擁護できないという感じだった。

 

 

「ちなみに当たったのは?」

 

「10回引いて全てE賞D賞!エデンのEとドラゴンのD!」

 

テンション高めに言ってみたが、既に状況が終わっている。

軽く絶望する瞬樹に烈が。

 

 

「今月厳しいって言いましたよね?

その行動は、一週間夕飯抜きでいいという解釈でいいですか?」

 

「ちょっと待って!流石に死ぬから!竜騎士も空腹には勝てないから!」

 

「フェニックスメモリで空腹も回復できますよね」

 

「フェニックス一回使ったら3日使えないんだけど!」

 

 

瞬樹がわーわー抗議していると、今度は烈の携帯に何かの着信が入る。

それを見た烈は少し残念そうな表情で。

 

 

「ドーパントが出ました。切風さんとは違う奴です」

 

「ナイスタイミン!じゃなかった…

我が名は竜騎士シュバルツ!神の命により悪を裁く!行くぞ愛機ライバーン!!」

 

 

ノリノリでエデン専用マシン、マシンライバーンに乗り込む瞬樹。

 

 

「割とそこなので走ってください」

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

神保町。カオス・ドーパントと対峙するダブル。

ホルモンはどこかに逃げてしまっている。

 

 

「はぁっ!」

 

 

先に仕掛けたのはダブル。

ジョーカーで強化された左足で間合いをつめ、風を纏わせた拳で殴り掛かる。

 

その攻撃はカオスにヒット。カオスの態勢が少しだけ崩れる。

 

 

「悪くない攻撃だ。久しぶりに燃えさせてくれんじゃねぇか!」

 

 

カオスの炎の部分が大きく燃え上がり、その炎が掌に収束。

強烈な炎の掌法がダブルに炸裂した。

 

さらに冷気を纏った左足を地面に叩きつける。

すると、瞬く間に氷が生成され、数秒後には足元から現れた氷の巨槍がダブルに襲い掛かった。

 

蹴りで粉砕するが、飛び散る破片でカオスの姿が隠れてしまう。

その一瞬の隙にカオスが冷気と熱気を纏わせて接近。力強さが過ぎる踏み込みは地面にひびを入れる。

 

 

「くっ…!」

 

 

咄嗟に防御に入るダブル。カオスは左拳に強烈な冷気を帯びさせ一撃。

さらに間髪入れず、熱気を帯びた右腕による攻撃。

瞬間的に冷やされた空気が急激に加熱されたことにより、ダブルに繰り出された拳の周辺の空気が急激に膨張し、凄まじい衝撃波が発生。ダブルを吹き飛ばした。

 

 

ダブルは風によって吹き飛ばされるのを防ぐ。

だが、衝撃は体の内部まで届いた。ダメージは大きい。

 

 

 

「強ぇ…!」

『流石はNo2…エレメントの下位互換では決してないってことか』

 

 

その声。ダブルの右側、永斗の声を聞いたカオスの様子が変わった。

 

 

「オイお前、その声…聞き覚えがあんだよなぁ…」

 

『え…?』

 

「いや、でもあり得ねぇか。あんな大罪人が平気な顔してる生きてるはずがねぇ。生きていいはずがねぇ。

それもこれも、テメェぶっ飛ばせばわかる話だよなぁ!!」

 

 

カオスの殺意がより鋭く、大きいものに変わる。

ダブルは考えた。奴のスタイルとスピードから、遠距離戦に持ち込むのはリスクが大きい。

ライトニングを使ったとして、10秒で決められなければ勝てない。そうなるとサイクロンジョーカーがベストだ。

 

 

「させるかよ!」

 

 

攻撃するカオスをダブルは正面から迎え撃つ。

拳を避けたり防いだり、だが、いくら防いでも隙が見えない。動きが完璧すぎる。

 

ダブルもジョーカーによって、肉弾戦は得意であるはず。

しかし、繰り出した攻撃は流れるような動きで受け流されてしまう。

 

 

『打撃を受け流す動き…拳法使いだね』

 

「ビンゴだ!テメェが奴なら、覚えてるよなぁ!」

 

 

カオスの攻撃が激化する。もはやダブルに反撃の隙も与えない。

さらに、カオスは熱気を強く放出し、辺りはさながらサウナのような温度。時間が経つだけでダブルは消耗してしまう。

 

熱気と冷気。この2つがあればどんな状況も作り出してしまう。

まさに“混沌”の能力。

 

 

「マズい…意識が…」

 

 

熱気で限界が来はじめている。足元がふらつく。視界が狭まっていく。

 

 

「終いだ」

 

 

カオスは拳に力を込め、炎の拳でダブルを貫いた。

ダブルは力が抜けたように倒れ、風と共に装甲が消滅。変身解除してしまった。

 

地面に倒れるアラシ。だが、カオスは…

 

 

「違ぇか…だろうな。

本当は殺すつもりだったんだがな。もうテメェの興味も失せた」

 

 

変身を解除し、アサルトはアラシに背を向ける。

 

 

「奴が…“怠惰”が現れるのはもう少し先か…

誰にも殺させねぇよ。アイツは俺がぶっ殺す!」

 

 

 

アサルトが去り、辺りを覆っていた熱気も消えていく。

戻ってきた意識の中、アラシは強烈な悔しさと共に、別の違和感を感じていた。

 

 

 

 

 

「永斗………?」

 

 

 

 

 

________________________

 

 

事務所から少し離れたところ。

烈に言われたように、瞬樹は走って現場に急行。そこは、誰もいない路地裏。

少しの違和感を感じながらも、辺りを見回す。

 

ドーパントはいないが、一つ気付いた。

 

 

「烈…?どこだ?」

 

 

後ろに走ってついてきた烈がいない。運動神経はかなりバケモノなので、遅れるなんてことはあり得ないはずだが…

 

辺りを探すが、どこにもいない。

その時…

 

 

 

「ッ…!」

 

 

 

ナイフが突き刺さるような殺意。瞬樹の目が一瞬で戦闘モードに切り替わる。

殺意の発信源は…背後。

 

振り返った場所にいたのは、さっきまでは確実にいなかったドーパント。

 

赤く黒い、血のような色の服を着こんだような姿。腰にはナイフが備えられ、全身が凶器にも見える。

スマートな人型だが、人ではないと感じさせるような風貌。

 

何より、その肩には生体コネクタが刻まれている。

26本のオリジンメモリの内、どれかと適合したオリジンメモリのドーパントだ。

 

 

そして、そのドーパントは黒い携帯電話をつまんで、こちらに見せてくる。

それは、紛れもない烈のものだった。

 

 

「貴様…!それは烈の…!」

 

「邪魔だったから退場してもらった。それだけだ」

 

 

ドーパントは烈の携帯を放り投げ、落下した携帯電話の画面が割れる。

 

 

「貴様…何者だ!」

 

「今の所属は“憤怒”の下での諜報活動。No6リッパー。

“K”のメモリ、“キル”と適合した組織の元暗殺部隊所属」

 

 

ドーパント__キルはナイフを抜き、エデンに再び殺意を向ける。

 

 

「仮面ライダーエデン。抹殺する」

 

「返り討ちにしてくれる!我が友に手を出した罪を悔いるがいい!」

 

 

《ドラゴン!》

 

 

ドラゴンメモリを取り出し、起動させ、エデンドライバーに装填。

エデンドライバーを顔の前に構え、トリガーを引く。

 

 

「変身!」

 

 

《ドラゴン!!》

 

 

白銀の装甲を纏い、断罪の竜騎士が顕現する。

その名も、仮面ライダーエデン!

 

 

「騎士の名の下に、貴様を裁く!」

 

「やってみろ」

 

 

ナイフを構え、襲い掛かるキル。エデンは槍で一撃目は防ぐ。

だが、すぐさま二撃目、三撃目がやって来る。

 

目視では反応できないスピード。ほとんど直感で捌いていくが、あまりにも手数が多すぎる。

 

ナイフは絶対的威力とリーチがない代わりに、連続での攻撃が可能。

槍はその真逆。明らかに相性は悪かった。

 

 

「これならどうだ!」

 

 

《グリフォン!》

 

《グリフォン!マキシマムオーバー!!》

 

 

オーバースロットにグリフォンメモリを装填し、ウィガルエッジが装着される。

エデンは空中を足場にし、一端キルから遠ざかった。

 

ナイフはリーチが無い。投げ攻撃ならある程度対応が可能だ。

 

エデンは空中を蹴ってキルを翻弄する動きをする。

通常はあり得ない動き。よって、ほとんどの場合この手法は有効打になる。

 

 

しかし、キルは予測不能なエデンの攻撃を最小限の動きでかわしていく。

 

キルは攻撃をかわした後、一瞬背中を向けたエデンにナイフを投げつける。

ナイフはエデンの背中に突き刺さり、エデンの動きが止まる。

 

 

「がぁっ!」

 

 

キルは更に多数のナイフを出現させ、エデンに放つ。

圧倒的数の斬撃を浴びたことで、大きなダメージを受け、ウィガルエッジが消滅してしまう。

 

 

「強い…竜騎士の連撃をこうも簡単に…」

 

「ルーズレスを破っただけはある。だが、僕を肩書通りの強さと思わない方がいい」

 

 

言葉の通り、目の前にいるコイツはNo5のルーズレスより明らかに強い。

 

 

「こうなれば我が竜の力を…」

「使わせると思うか」

 

 

エデンがドライバーからメモリを抜こうとした瞬間。

 

周囲の景色が暗転する。一瞬、ほんの一瞬だけ、風景から光が消えた。

 

 

「な……」

 

 

次の瞬間、光が戻る。

だが、エデンの周りには4人のキル。それぞれナイフより少し大きい短剣を持っている。

 

 

 

オペラ座の怪人(ファントム・ダンス)

 

 

 

瞬きするほどわずかな瞬間。まさに刹那。

4人のキルは一斉に姿を消し、気付けばエデンの後ろに一人だけのキルが。

 

そして、遅れてくるように無数の斬撃がエデンを襲う。

 

 

 

「速…すぎる…!」

 

 

エデンは膝をつくが、気力でなんとか変身は維持している。

視線は真っすぐキルに向かっているが、すでに立ち向かう力はない。

 

 

「……そろそろか」

 

「なんの話だ…!」

 

「目的は果たしたということだ。早く仲間の元に戻るといい。

全員揃っているかは、保証できないが…な」

 

 

 

それだけ言い残し、キルは一瞬にして姿を消した。

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

アラシと瞬樹、それぞれの敗北を悔やみながら、事務所に戻ってきた。

烈は道中で刺されて倒れていたところを、瞬樹が病院に連れて行った。

命に別状はないらしいが、意識が戻らない。キルの能力だろうか。

 

そして、事務所にて。

 

待っていたのはμ’sの9人。だが……

 

 

 

 

そこに永斗の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

アラシが感じた違和感。それは、ダブルドライバーを装着したままにもかかわらず、

永斗の意志が繋がらなかったこと。

 

 

話によると、穂乃果たちの意識が突如として薄れ始め、

気が付いた時には既に気絶した永斗が消えていたという。

 

時間にして一分に満たない。

 

辺り一帯を捜索するも、手がかりすらつかめなかった。

 

 

七幹部“怠惰”奪還作戦は、標的を把握されることも、作戦の存在も把握されることもなく、

一分に満たない時間で完遂された。

 

 

 

「クソが……!」

 

 

 

アラシの自責の声が事務所に響く。

敵に敗北した上に、相棒まで失った。これ以上の失態があってたまるか。

 

永斗が誘拐された理由は分からない。

だが…

 

 

 

「助けよう」

 

 

 

同じく自責の念に押しつぶされていた9人。

声を上げたのは穂乃果だった。

 

 

「私たちのせいで永斗君がいなくなった。だったら、助けるしかないよ!」

 

 

言葉の真意はすぐわかった。

永斗が攫われた場所、恐らくは敵のアジトに乗り込み、永斗を奪還するということだ。

 

 

 

「確かに、ここにいる全員が適合者だ。多分俺も。

適合者が死ねば、次の適合者をメモリが選ぶまでオリジンメモリは無力になる。

組織はお前らを殺すことはしないはずだ。

 

それでも危険は大きすぎるほどに大きい。その覚悟があんのか?」

 

 

穂乃果の一言に勇気づけられたのだろうか。

9人の目に迷いはない。友を助けるため、ここで命を張らなくてどうする。

 

人数は多い方がいい。だが、以前のアラシならここで止めていたはずだ。

だが誓った。“μ’sは俺たちが守り抜く”と。

ここにいる全員、志は同じ。ならば、その覚悟に水を差すのは野暮と言うものだ。

 

 

 

「分かった。俺も“守るため”の最善を取る。

もう相棒も、誰も失わない。お前らに大事な奴は失わせない」

 

 

 

敵のアジト、恐らくエージェント部隊の上位メンバーが多くいる。

加えてアラシは変身ができない。状況は絶望的と言える。

 

 

それでも、やるしかない。

 

 

作戦開始は明日じゃ遅い。

 

今だ。勝機があるとすれば、完全な奇襲しかない。

敵の場所、建物の構造、敵戦力に能力。何もわからない無謀すぎる作戦だ。

 

 

 

「行くぞ。音ノ木坂探偵部、最初の潜入にして大任務。

目標は俺たちの頭脳。永斗の奪還だ!」

 

 

 

 

わずか11人の少年少女と、“憤怒”の決戦が始まろうとしている____

 

 

 

 

 

 

絶望まで…あと6時間。

 

 

 

 

 

 

 




今回は春流さん考案の「カオス・ドーパント」、しょーくんだよ!さん考案の「キル・ドーパント」を使わせていただきました!
ホルモンまだ生きてますよ。割と重要な役回りなんで。
次回は、敵の本拠地に潜入。次回でやっと書きたかったものが書けますよ…
次回も例によってオリジナルなので、少々お待ちいただけると嬉しいです。

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案ありましたらお願いします!

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