ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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146です。ちょっとだけお久です。

エグゼイドが早期終了だとか…あと5話程度とのことです。残念すぎる…
ですが、次のライダーも決定しました!
そうです、ビルドです!デザインがどことなくダブルっぽくて、好みにドンピシャでした!
いや~カッコいい。これは劇場版で一足早く雄姿を拝まなければ…

ゲーム研究会中編です。どうぞ!


第26話 Gは楽しく/召喚法《サモントラップ》

 

 

世界の辺境に広がる荒野。

 

そこには植物も動物も、その地の主以外の生命が存在しない。

いや、全て滅ぼされたと言った方が妥当だろう。

 

その荒野に佇む、一体の巨竜。

朱い鉱物で覆われた、巨大な体。獲物を蹂躙する牙。

王と言うにふさわしい風格だ。

 

 

その王を討ち取らんとする、4人の戦士。

それぞれが洗練された装備を身にまとっている。

 

 

「ガァァァァァァッ!!」

 

 

朱い巨竜が咆哮する。狩り開始の合図だ。

 

王の名は”鉱竜王 グラファイト”。この世界の最上位種である”竜王”の一体。

しかも、その中でもグラファイトは無類の強さを誇り、さらにここにいるのは、鉱竜王の上位亜種であり、雷を操る”闇黒種”の更に上位の、炎を操る”紅蓮種”。

 

その姿を滅多に表すことは無く、比肩する者のいない程の強さにより、討伐難度は最高クラスの標的だ。

 

 

 

まず、右腕に剣、左腕に電磁砲のようなものを装備した戦士が先陣を切って巨竜へ駆け出す。

素早い動きで巨竜の懐に潜り込み、剣で前足を切りつける。

 

だが、流石は王。その程度では体制一つ崩さない。

 

だが、そんなことは織り込み済みと言わんばかりに、接近していたアーチャーが巨竜に矢を放つ。

矢は当たる直前に破裂。それによって、巨竜の肌に矢から飛散した液体が付着する。

 

この液体は”毒竜王 クラーレ”の血液から精製した毒。一瞬で生物を死に至らしめる猛毒でもあり、触れた物質に反応し、万物を溶かす溶解毒でもある。

 

紅蓮種の体を覆う鉱石は”朱金剛”と呼ばれるもので、世界最高の硬度を誇る。

それに対抗できるとするならば、同じ竜王の毒のみ。

その読みは当たり、わずかにその装甲が溶け、薄くなっている。

 

その瞬間、スタンバイしていた槍戦士。そして、最初に突撃した戦士が電子砲で、薄くなった部分を同時攻撃。

 

その攻撃は見事にヒット。だが…

 

 

「グラガァァァァァ!!」

 

 

咆哮と同時に、炎を纏った尾の一撃で全員が吹っ飛ばされる。

先程の攻撃は、装甲にわずかなひびを生じさせた程度。

ダメージはおろか、装甲を破ることさえ、はるか遠くの夢に等しい。

 

格が違う。その現実を突きつけられた瞬間…

 

 

何処からか飛んできたビーム砲が、巨竜を打ち抜いた。

 

 

「グギャァァァァ!!」

 

 

絶叫、悶絶する巨竜。

グラファイトには、脚の付け根に装甲の薄い部分が存在する。

だが、そこを攻撃するのはほぼ不可能。接近すれば瞬く間に攻撃され、射撃で狙えるような的ではない。

 

その攻撃を撃ったのは、最初から待機していたガンナー。

ガンナーはかなり離れたところにおり、そこからグラファイトの弱点を狙い撃つことは、数百メートル先にいるウサギの眉間を撃ち抜くようなもの。

 

更に使用している銃は、”雷竜王 ミカヅチ”の装備。

威力は絶大な代わりに命中率は著しく低いという、諸刃の剣として知られている。

 

それにも関わらず、ガンナーは攻撃を撃ち続け、次々に命中させていく。

 

他の戦士が呆気にとられて見ていく中、急激に巨竜が憔悴し始める。

 

次の一撃で仕留める……!

 

 

 

プツン

 

 

 

その世界は暗転した。

 

 

 

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切風探偵事務所。

 

ガンナーを操作していたプレイヤー、士門永斗は肩を落として天を仰ぐ。

彼がプレイしていたゲームは”ドラゴナイトハンターZ”。最近出たばかりのゲームだが、前作の”ドラゴナイトハンター”の高ランクプレイヤーだった永斗は、即座に購入(無断)し、”∞”の名ですぐにトップランカーに上り詰めた。

 

グラファイト。それも紅蓮種なんて、前作から存在するにも関わらず、今まで遭遇したことのないほどのレア。今回逃がしたら次いつ出会えるかわかんない奴だったのに……

 

 

画面に映るのは、無情にも”接続が切断されました”の文字。

 

 

「またか……」

 

 

先日の戦い。自分と同じくトッププレイヤーの”ランス”との闘いを思い出し、永斗は不機嫌そうに呟くのだった。

 

 

 

_____________________________

 

 

 

 

「1!2!3!4!5!6!」

 

 

 

同刻、音ノ木坂学院屋上。

ゲーム研究会から部紹介の時間を無事に奪取し、オープンキャンパスのライブに向けて練習に励むμ’s。

 

歌う曲、歌詞、振り付けも決まり、衣装もことりによって出来上がりつつある。

後はひたすら練習を続けるのみ。9人になって初めてのライブで、何より廃校の命運がかかっている。最高のものを作らなければ意味がない。

 

練習が1セット終わり、アラシは一年組の中でもとりわけ永斗と親しい凛に聞く。

 

「永斗どうした?」

 

「明日から本気出すって言ってました!」

 

そう。永斗が来てない。

別に珍しいことではないのだ。元々極度な面倒くさがり屋だし、学校だって隙あらばサボろうとするやつだ。前科も何回かある。

だが、永斗は近頃機嫌が悪い。理由は前回のゲーム研究会の楯銛赤里との一戦だろう。

ゲーム、アニメ、マンガに命を懸ける永斗は、それらを邪魔されることを極端に嫌う。

 

割と親しい人物には気を使うタイプなので、例えばアラシや凛が邪魔をしたところで、そこまで怒ることは無い。だが、停電みたいな自然現象で。しかもゲームを邪魔されたとなると、その怒り具合は半端じゃない。

 

今回の件も相当頭に来てるだろう。何かやらかさなければいいが…

 

 

「アンタら、探偵部だよな!?」

 

 

その時、屋上の扉が勢いよく開き、ツリ目で肩くらいまでの髪の少女が現れる。

一同はその人物に、ごく最近に見覚えがあった。

 

 

「お前、熊谷…咲…?」

「虎谷咲だ!!」

 

 

その少女は、先日の戦いで穂乃果と人生ゲームで対戦したプレイヤー。

2年生の虎谷咲だった。

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

「永斗!探偵部に依頼だ…って、なんじゃこりゃぁ!!」

 

依頼が来たということで、本当は部室で活動したいところだが、永斗もおらず、何より狭いということで、事務所に移動することにした。

 

そこで、アラシがメンバーと虎谷を連れて事務所に戻ると、甲冑だとか軍服だとか、とにかく戦闘態勢を現すような服を着た状態の永斗が待ち構えていた。

 

「合計3回の狩り失敗…タドクエでの突然のバグ…インターネットがいつまでたっても繋がらない…!これが偶然なわけがない…!必ず犯人を見つけ出し、一匹残らず駆逐してy」

「オイオイ、落ち着け!依頼だ依頼!!」

 

暴れだそうとする永斗をアラシは難なく沈静化(物理)。

激高状態でも永斗は永斗。貧弱すぎるほどに貧弱なのは変わりない。

 

とりあえず永斗にマンガでも与えてソファに寝転がせておく。

 

 

「それにしても、本当に探偵やってんだな」

 

「あ?どーした猫谷。探偵に興味でもあんのか?」

 

「ねーよ。あと虎谷だ。

ただ、学校行ってる間はどーすんのか気になっただけだよ」

 

「俺らがいない間は、ポストだったり録音だったりいろいろ試してる最中だ。

つっても、ほとんど依頼なんて来ないけどな。

おっと、そんで犬谷。依頼ってのは何だ?」

 

「虎谷だ!何回間違えんだよ!!」

 

 

文句を言いながらも、虎谷は椅子に座って要件を語りだす。

 

 

「アタシの親父、実業家なんだけどさ。会社の機密情報漏らしちゃってな。

しかも、アタシもそうなように親父も喧嘩っ早い性格でさ。本当にいつ首が飛ぶか分かんないんだよ。でも、アタシの親父はそんなこと絶対にしないし、そんなミスもしない。

その性格が災いして、仲が悪い奴は山ほどいる。だから…」

 

 

切実に語る虎谷。その言葉を最後まで聞くことなく、アラシは。

いや、探偵部(永斗以外)が立ち上がった!

 

 

「親父さんを陥れた奴を探ってほしい。だな?

任せな、兎谷。報酬は後払いだ。その依頼、音ノ木坂探偵部が承った!」

 

「オイ、わざとだろ!わざと間違えてんだろ!」

 

 

 

 

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ーアラシsideー

 

 

 

いつまでもやる気にならない永斗を放っておいて、俺たちは探偵の基本活動、聞き込みに。なんだか、大分久しぶりな気がするな。

 

今までと違う利点は、何といっても人数。俺と永斗だけの時とは違い、役割で分担できるのが大きい。しかし、μ’sの9人と俺、永斗、瞬樹、あと烈も含めると合計13人。分けるにしても多い。

というわけで、今回は俺、ことり、にこを聞き込みに。瞬樹、海未、絵里にはその他の情報を。穂乃果、凛には事務所に残って永斗の監視及び手に入った情報の整理を任せている。入ったばかりの希、ダンスに心配がある真姫、花陽は練習をさせることにした。

 

今回は久々の依頼。自然と気合が入る。

聞き込み開始から数時間。集合時間となり、聞き込み組が一端集まった。

 

 

「おし、それじゃ途中報告だ。まず、ことりから頼む」

 

「うん♪咲ちゃんのお父さんの話なんだけど…」

 

 

ことりが得た情報はこんな感じ。

 

まず狐谷…じゃなかった、虎谷の父親が働いている企業の関係者に話を聞いたところ、聞いた通り彼は短気な性格で、腕こそ確かだったが、取引先からはいい印象を持たれないことが多かったらしい。それでも私情ではなく合理性を重視する人物だったので、表面では喧嘩っ早くても、悪い人ではないという。

 

ことりは前にいざこざがあった取引先や同僚について調べてくれたが、多すぎて犯人特定には繋がらない。第一、根拠が足りない。

 

 

「…なるほど。にこはどうなんだ?こないだのチラシ配りみたく、腹立つ笑顔を振りまいて終わりじゃねぇだろうな?」

 

「分かってないわね~。にこにースマイルを見た人は、その一日を幸せに過ごせるって有名なんだから!にこっ♡」

 

「なんか…ツチノコみたい」

 

「一日ムナクソ悪くなるの間違いだろ」

 

「情報教えないわよ!?」

 

 

生意気なこと言ってきたので、アイアンクローで口を割らせるとこんな情報が。

 

今回の事件以外にも、最近は電脳犯罪が多発しているらしい。

企業が保有する個人情報の盗難、不特定多数の人物の銀行口座から金が奪われる、とある施設の監視カメラが一斉ハッキング、局所的な停電と空き巣。他にもいくつかの事件があったらしい。

 

ほとんどの事件で犯人は既に捕まっているらしいが、どれも凄腕のハッカーであろうと難しい規模の犯罪。しかも捕まった犯人は口をそろえてこう言うらしい。”ネットの悪魔にそそのかされた”と。

 

にこはこの情報を、ニュースや騒動好きなおばさんの井戸端会議に参加して手に入れたらしい。見た目は子供、頭脳はおばさんってなんだそりゃ。

 

 

「この情報が今回の事件と関係があるのか…気になるところではあるな。

犯人の供述が正しければ、これらの事件の主犯は、その”ネットの悪魔”ということになるか…」

 

「てことは、今回の事件も”ネットの悪魔”が犯人なのかな?」

 

「いや、そうとも限らないわよ。これだけ目立ったら真似する輩も出てくるだろうし。模倣犯って言うんだっけ?あと、普通に情報漏洩って可能性もあるわけでしょ?」

 

そんなことを言うにこに、俺とことりは顔を見合わせる。

そして、俺が一言。

 

 

「にこが頭よさげなこと言ってる…」

 

「それどういう意味よ!」

 

 

何にしても、これはドーパント犯罪である可能性が高い。

俺も聞き込みはしてみたが、この2人ほど重要な情報は手に入らなかった。

コミュニケーションという分野において、アイドルであるこいつらの方が上なのかもしれない。

 

 

「電脳犯罪か…」

 

俺は2人に聞こえないように呟き、ため息をつく。

一言で言うと苦手なんだ。この手の事件は。

 

とにかく、今度は被害者の共通点でも探ってみるか…

 

 

 

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ー永斗sideー

 

 

 

「キーワードは”バグ”、”ハッカー”、”ゲーム”」

 

 

…ダメだ。絞れない。

 

アラシ達が調査に出てから数時間。僕は地球の本棚を展開し、謎の通信障害及び、バグについて調べている。

 

しかし、何度検索しても本が減らない。

 

 

「参ったな…情報が足りない」

 

 

いつもはこんな時、昼寝して休憩するところだが、そうも言ってられない。

このままでは僕のゲーム生活に支障をきたす。僕は”∞”として名が知られている。標的にされるのは不思議ではない。

 

でも違和感はある。これらの現象、通信障害やバグを意図的に起こすなんて、普通に考えて不可能。意図的であるなら、おそらくはメモリ。

しかし、その割にはやってることがショボい。中学生が思いつくいやがらせレベルだ。いや、ゲーマーからしたら断罪もんだけど。

 

 

『永斗くーん!聞こえてるー?』

 

 

地球の本棚の外、外の世界から声が聞こえる。ほのちゃんだ。

 

 

『アラシくんから電話だよー!』

『出ないと晩飯抜きって言ってるにゃ!』

 

今度は凛ちゃんの声も聞こえる。

 

「悪いね。いつもならそこで引き下がるけど、今回は違う。

ゲーマーとしての誇りにかかってるんだ。そんな事している暇はない。

って言っといて」

 

2人の困ったようなボソボソ声が聞こえる。

これでしばらくは邪魔されない。さてと、もう一回検索……

 

 

『ゴラァッ!仕事しろやこのカスニートが』

 

 

うん。なんとなく予想はできたけど、今度はアラシの声で怒号が飛んできた。

地球の本棚にいても五感は健在。頬と耳に何かが当たる感覚から、凛ちゃんかほのちゃんが僕の顔に携帯電話を当てているのがわかる。

 

 

「…なるほどそう来たか。でも今回ばかりは…」

 

『調査でいろいろと分かった。お前のそれも、この事件と関連があるかもしれない』

 

「kwsk」

 

僕はアラシの言葉を聞くことにした。

もはや僕の得意技、見事なまでのTENOHIRAGAESI!

 

 

『おし。じゃあいくぞ。

キーワードは、”ガイアメモリ”、”インターネット”、”仲星コーポレーション”』

 

地球の本棚を一度リセット。言われたキーワードを入れていく。

 

「そのなんとかコーポレーションって?」

 

『そいつはだな…えっと…何谷だっけ?』

「狸谷でよくない?」

『そいつの父親が働いてるって会社だ。参考までに入れとけ。

後は…』

 

 

 

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ーアラシsideー

 

 

困ったな…調査で手に入った手に入った情報は粗方教えたつもりだが、

まだ本棚の本は絞れないらしい。

 

 

「アラシ君、これって……」

 

 

そんな中、事件の関連性が疑われる人物を確認していたことりが、何かに気づいたように声を上げた。

 

 

「どうした?」

 

「ここの名前なんだけど…ホラ…」

 

そこに書いてある名前に俺は目を疑う。珍しい苗字だ。間違いない。

偶然か?いや、直感的に感じる。これは偶然じゃない。

 

 

「キーワード追加だ。キーワードは”ネットの悪魔”。そして…

”楯銛赤里”」

 

 

 

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ー永斗sideー

 

 

「へぇ…こりゃまたどうして?」

 

『正確には名前があったのは楯銛の父親。大手企業の社長で、過去に仲星コーポレーションから協力を断られている。その時の担当が虎谷の父。社長って言うんだから、いざこざも多いだろう。俺でも知ってる超有名な企業だ、そこの社長がリスクの高い方法をとるとは考えにくい』

 

「自分の娘に犯行を行わせたという可能性もあると…

ちょっと突飛すぎじゃないかなー?」

 

『ほぼ直感だ。試しに入れてみてくれ』

 

 

そんなことより、アラシが”虎谷”を正しく言えたことにツッコみたいところだが、シリアスパートなので黙っておく。

 

僕がキーワードを入れると、本棚は見る見るうちに減っていき、最後には一冊。メモリの名前が書かれた本だけが残った。アラシの勘って、未来予知に近い希ガス。

 

 

「なるほどね…メモリは

 

”サイバー”」

 

 

 

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「そろそろかしら…探偵がメモリの正体に気づいたのは」

 

 

 

μ’sのいない屋上。アタッシュケースを持って呟く、フードの少女。

七幹部”暴食”。

 

 

「今回の彼、つまらない人間だけど、素材だけは一級品。

”仕上がる”のが楽しみね。そのためにも…」

「仮面ライダーには黙ってもらわなきゃ…だね?」

 

後ろから聞こえた声は、七幹部”傲慢”、朱月王我。

対峙した2人の大罪を冠する者は、それぞれの思惑の中、静かにほほ笑んだ。

 

 

 

 

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「永斗!見つかったか!?」

 

 

事務所の扉を突き飛ばし、焦った様子でアラシが駆け込んでくる。

後ろにことり、にこと続き、事務所には凛、穂乃果、あとはパソコンをつついている永斗。

 

 

「もうちょっと。回線が込んでてさ」

 

地球の本棚に”楯銛赤里”を入れてヒットしたということは、これらの事件と関連があるということ。複数の事件の情報で一つのメモリが浮かび上がったということも、これらの主犯が同一人物だと物語っている。

 

楯銛は前回の対決以来、学校には来ていないらしい。

だが、彼女とコンタクトをとること自体は容易。トップゲーマーが家にいるということは、ネットの世界にいるということ。”ランス”として名を馳せている彼女は、存在が確認されれば、ネット上で話題となるはずだ。

 

事実、とあるオンラインゲーム上で”ランス”の存在が話題となっている。

今は永斗がログインしようと試みている最中だ。

 

 

「お。入った」

 

 

ログインに成功し、全員が画面をのぞき込む。

永斗のアバターは共有のコミュニティースペースに移動。

そこにいた。その中央に、ユーザー名”ランス”が。

 

 

[遅かったな”∞”]

 

 

アバターから吹き出しで、そんな言葉が出て来る。

 

 

[君がここに来てくれるように、ボクなりに妨害してみたけど

ちょっとやり方が足りなかったようだね。連絡先もわからず、こんな非合理的な手法をとってしまった]

 

[そんなことより、僕から2つ質問がしたい。

ここに来る前、君のプレイを見せてもらった。君、チート使ってるね?]

 

 

チート。この中でおそらく最もゲームに疎いアラシでさえ、流石に知っている。

ゲームにおいて改造やツールアシストを用いることで、あり得ない強化を施す行為だ。

 

 

[それもプログラムに直接干渉してる。まず痕跡は残らないし、証拠も残らない]

 

[何を証拠に。でも、それはそれで好都合。

”チート狩り”と呼ばれる貴方がボクとの勝負に乗ってくれるのなら]

 

やっぱり。楯銛の狙いは永斗との勝負だ。ずいぶんと回りくどいが。

そこで、永斗はもう一つの疑問をぶつける。

 

 

[これまでに起こった電脳犯罪。例えば、虎谷咲の父親の情報漏洩も君の仕業?]

 

その一言にランスはしばらく黙っていたが…

 

 

[そうだ。全部は∞と戦うための保険。探偵である君はボクを野放しにできない。

決着をつけよう。ボクは君だけには負けちゃいけない]

 

 

「何よコイツ…!」

 

にこは苦虫をかんだような表情でそう呟く。

ただ、永斗と戦うためだけにここまでの事件を起こした。どう考えても普通じゃない。

 

だが、永斗は落ち着いた様子でキーボードを叩き…

 

 

 

[嘘はいけないよ。ネットにデマを垂れ流すのは、ネチケットに欠ける]

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

「ソロモン王に仕えし悪魔よ。時は来たれり。

今こそ冥府の門を開き、迷える悪意を呼び覚ましたまえ!」

 

「何をしているんでしょう。私たちは…」

 

「ハラショー…」

 

 

地面に魔法陣を描き、大声で叫ぶ瞬樹。

そして、引きつった顔で呟く絵里と海未。

 

 

「いい加減にしてください!地面にこんなもの書いて、片づけどうするんですか!

それに周囲の目が痛いです!恥ずかしい…」

 

「そうよ。私たちも何となく付き合ってたけど、ちゃんと説明して」

 

「いいだろう。先ほどアラシの連絡があり、詳しい情報を聞いた。

何を言ってるかはよく分からなかったが、アラシは”ネットの悪魔”が犯人だと言った。

ならば悪魔を呼び出せばいい。これはそのための儀式だ」

 

 

連絡があった時、瞬樹に携帯電話を渡すのではなかったと、2人は激しく後悔した。

 

 

「さぁ続きだ!次は悪魔に贄を捧げる。召喚の代償だ。

さて…ネットの悪魔には何を捧げれば…とりあえず持ち合わせのデスソースでも…」

 

((悪魔に何の恨みが…))

 

 

懐からなぜか持っているデスソースを取り出す瞬樹。辛党なら常備品らしい。

 

海未は、それならネットで調べた方が幾分かはマシと思い、スマホで”ネットの悪魔”とキーワードを入れ、検索しようとする。

 

その時だった。

 

 

 

「かかったな…俺を嗅ぎまわっているのはお前らか」

 

 

海未のスマホからコードのような触手のようなものが飛び出し、海未に襲い掛かる。

 

だが、触手は海未に届くよりも前に瞬樹のエデンドライバーによって引きちぎられた。

海未は即座にスマホを投げ捨てる。

 

 

「おでましか。どうやらデスソースで正解だったようだな」

 

「それは違うわね。けど、これって…ドーパント…」

 

 

海未が手放したスマホの画面から、デジタル文字の形の光が無数に流出。

その光が収束し、人の形…いや、怪物の姿を形作った。

 

体中に電脳空間を模したように”0”と”1”が描かれており、先端にコネクタを備えた尻尾はLANケーブルのよう。指にもコネクタが備わっており、顔には解析用バイザー。両肩には一対のアンテナが。

 

電子系統のドーパント。そして、”ネットの悪魔”であることは一目瞭然だ。

 

 

「ここは任せます!絵里先輩、私たちはアラシ達に連絡を…」

 

「え、えぇ…」

 

場数が少ないせいか、絵里は少し戸惑っていたが、海未の言葉で冷静に戻り、自分の携帯を取り出す。しかし…

 

 

「携帯が…作動しない…?」

 

ここは明らかに街中。電波が来ないわけもないし、圏外なわけもない。

考えられるとすれば、あのドーパントの能力か…

 

 

「問題ない。お前たちは逃げろ!こんな奴、俺一人で十分だ!」

 

 

 

《ドラゴン!》

 

 

 

__________________________

 

 

 

[君はメモリを使ってない。そうだよね?]

 

 

打ち込まれた一言に、一同が疑問の表情。アラシはそうでもないようだ。

 

 

[最初の矛盾点。こないだの対決の時の通信切断。どう考えてもアレは君の仕業じゃない。

そして2つ目。さっき、虎谷咲の父親の事件の事を話したとき、次の一言まで数秒の間があった。君は頭がいいから咄嗟にこれを利用しようと考えたんだろうけど、効率主義者がそこまでするってのは、それこそ合理性に欠けるんじゃないの?]

 

 

「凄い…」

 

永斗の会話を見て、穂乃果は思わず呟いた。

探偵事務所に初めて来てから既に4か月ほど。2人の探偵ぶりは見てきたつもりだった。

 

だが、こうして改めて見ると、2人の凄さが身に染みて分かる。

 

 

「アラシ君も気づいてたの?」

 

「あ?いや、まぁ…俺はどっちかっつーと勘だけど

つまり犯人は別の人物…また振り出しかよ」

 

勘。それも探偵としては重要な能力。目の前にいる少年は、自分たちが遊んだり勉強している間、探偵として経験を重ねていたと思うと、恐ろしくも、誇らしくも感じた。

 

 

「やっぱ凄いなぁ…2人とも」

 

 

そして、これからは探偵として自分たちも仕事をすると考えると、この2人の存在が、嫌でも気を引き締めさせるのだった。

 

 

[君は対決が中断された後、どういう経緯かドーパントに出会った。そして、僕をおびき出すため手を組んだ。君も”ネットの悪魔”の共犯者の一人だったんだ]

 

[確かに奴はそう名乗った。だが、そんなことは関係ない。

ボクは天才ゲーマー∞と戦えればそれでいい]

 

[奴と組んだ多数は犯罪者として末路を迎えている。奴は文字通りの悪魔。人の欲望につけこみ、破滅させる]

 

[ボクと勝負するのが怖いのか?]

 

[僕に煽りは通用しない]

 

[探偵が犯罪者を見逃すのか?]

 

[僕が許せないのはサイバーメモリを使った犯人だけ。後はぶっちゃけどうでもいい]

 

[勝負を受けるまで妨害を続けるぞ。場合によっては手段は択ばない]

 

[できるの?箱入りの社長令嬢に]

 

[∞を倒すためなら構わない]

 

 

超高速で続けられるこんな会話。お互いが動じてないようだ。

永斗はふとこんな疑問をぶつける。

 

 

[どうしてそこまでこだわるの?]

 

 

その言葉に会話が数秒ストップする。そして、

 

 

[君には関係ない]

 

 

それを見た永斗は数秒考え、ウンザリした表情で声に出して言った。

 

 

「最近ニートキャラ崩壊気味なんだけど…仕方ない」

 

 

永斗の考えにアラシも気づいたらしく、無言で頷く。

そして小さくため息をつき、キーボードでこう打ち込んだ。

 

 

 

[受けよう。その勝負]

 

 

 

_____________________________

 

 

 

一方、エデンVSサイバー・ドーパント。

 

 

 

「クッソ…これでも!」

 

サイバーはディスク型の手裏剣を複数発射。

そこそこの速さがあるが、エデンの動体視力からすればどうということはない。

落ち着いて全弾ドライバーではじき返し、サイバーに接近して腹部に一撃を叩き込んだ。

 

大それた犯罪をやってのけたところ、能力は強いのだろうが、戦闘ではそうでもないのだろうか。マキシマムオーバーを使わずしても優勢だ。

 

しかし、ドラゴンメモリのマキシマムオーバーを使用してから、そこまで時間がたっていない。つい最近変身可能になったところだ。長期戦は避けたい。

 

 

「これで終わりだ。悪魔もどき!」

 

エデンはドラゴンメモリを一度ドライバーから引き抜き、もう一度装填。

突きの構えをとり、トリガーを引いた。

 

 

《ドラゴン!マキシマムドライブ!!》

 

 

「させるか!」

 

 

その瞬間、サイバーの尻尾が伸び、エデンドライバーに刺さる。

すると、ドライバーに蓄積されたエネルギーは消滅し、マキシマムの起動がキャンセルされてしまった。

 

 

「その槍にウイルスを流し込んだ!しばらくは技を使えまい」

 

「ウイルス?そうか、機械も風邪をひくのか…」

 

 

アホなことを言うエデンに、サイバーは再び攻撃。

しかし、機能を無力化しても槍は槍。攻撃を防がれ、反撃を食らってしまった。

 

とどめを刺されないにせよ、このままでは拘束は必至。

逃げ道は無いかと探すサイバー。その時、サイバーとエデンの間に黒いワームホールが。

 

 

「これはいつぞやの…」

 

 

そう。朱月が異世界の怪人を呼び出す際のワームホール。

すると当然、中からは異世界の怪人が。

 

 

「おやおや?こいつぁまた、面白い状況で呼んでくれちゃって。

あたしも暇じゃないんだよね。猫の手ならぬ、カニのハサミも借りたいってね」

 

 

現れたのはカニの怪人。赤い甲羅で覆われた全身に、左腕には大きなハサミ。体の随所には白い光沢の真珠のような球体が。そして、それを結ぶように赤いラインが走っている。

 

瞬時にその強さを感じ取ったエデンは、間髪入れず槍で連撃を繰り出す。

しかし、攻撃の後カニの怪人は堪えている様子が全くない。

 

 

「無駄無駄。あたしの甲羅とかけて取り調べ中の犯人の口と解く。

その心は、どちらもとっても堅い」

 

「何を…!」

 

カニの怪人は、もっと撃ってこいと言わんばかりに腕を広げる。

エデンは一端距離をとり、勢いをつけて突きを放った。

 

だが、その一撃も完全に防がれる。甲羅に傷がつく様子もない。

 

 

「もう一つなぞかけだ。今度はあたしのハサミとかけて、金魚のフンと解く。

どっちもそりゃあキレがいいってね」

 

 

カニの怪人___キャンサー・ゾディアーツはハサミのついた左腕を構え、大きく振りかぶる。

腕を振ると、ハサミから赤い三日月状のエネルギー波が発射され、ブーメランのように弧を描き……

 

 

「がぁぁぁぁッ!!」

 

 

エデンの胴体を切りつけた。

 

 

 

____________________________

 

 

 

同刻。瞬樹が暮らす借家。

 

そのころ、同居している烈もそこに戻っていた。

 

 

烈は習慣として、備え付けられた郵便受けを確認する。

すると、そこには一つの黒い長方形の箱が入っていた。

 

 

「早かったですね。今回は」

 

 

烈が箱を開けると、そこには丁寧にクッション材の上に乗った、赤紫色のメモリ。

端子は銅。これはユニコーンやグリフォンと同じ、戦闘用ギジメモリ。

 

そこに描かれるは、荒々しく咆哮する、獰猛な九頭の蛇。

 

 

 




今回はFe_Philosopherさん考案の「サイバー・ドーパント」を使わせていただきました!遅れました。スイマセン!

今回はゲストキャラで、僕のお気に入りの敵幹部さんが登場しました。趣味です。

今回はここまで。次回は長くなるか短くなるか、早くなるか遅くなるか全く予想がつきません!

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案などございましたら、よろしくお願いします!



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