ラブダブル!〜女神と運命のガイアメモリ〜   作:壱肆陸

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ダークネス・ドーパント
「暗闇の記憶」を内包したガイアメモリを、清掃員の小森茂道が右肘に挿入することで生まれるドーパント。ナイフ等の暗器を主に使用し、そこからエネルギー状の斬撃を飛ばすことができる。また、暗闇ならば自身の”存在”自体を消すことができ、闇の中ならほぼ無敵。能力だけなら一般メモリのなかでは極めて強力な性能を持つ。


一言コーナー


永斗 「こいつは結構苦戦したよね」

アラシ「小森さん…」

永斗 「存在消せるとか、チートだよチート」

アラシ「小森さん…」

永斗 (あ~もう、面倒くさい…)




もう毎回遅くなってますね。ハイ。今回は文字数がヤバいことになってるってこともありますが…

まぁ、話は変わりますが



劇中挿入歌復活キターーーーー!!



ゴーストでは挿入歌なかったけど、エグゼイドの12話で挿入歌「Let’s try together」が流れました!いや、すごくいい!

エグゼイドはかなり期待できそうです!あとは貴利矢が復活すれば…←しつこい





第13話 Iは夢見る/熱き思いは何処へ行く

「ごめん…凛のせいで……」

 

 

 

 

「凛ちゃんのせいじゃないよ」

 

 

 

 

「でも……」

 

 

 

 

「気にしないで。これが僕の仕事だから」

 

 

 

 

「士門くん…」

 

 

 

 

「あのさ、いい話の雰囲気の中悪いんだけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケガしてるの俺なんですけどォォォォォォォ!!」

 

 

 

 

 

病室のベッドの上で、包帯を巻かれたアラシが叫ぶ。

 

 

 

「あ、アラシまだいたんだ。もう帰っていいよ」

 

 

「誰のせいで帰れないと思ってんだ!お前はいいよな!何しても怪我すんのは俺なんだから!!」

 

 

 

前回のエレメント戦、永斗は体を張って凛を守ったが、

その場合永斗も瞬間的なダメージを受けるが、身体的なダメージが残るのはアラシだけなのだ。

 

 

「アラシ怒りすぎ。わざわざゲーム時間を割いて来てあげたんだから」

 

「割いてねぇだろ。今、思いっきりゲームやってんだろ」

 

 

永斗はアラシと話しながらゲームを。それも最新作”タドルクエスト”をやっている。

 

 

「え~だって今いいとこだし。アランブラがもう少しで倒せるから」

 

「あ、そこ凜はどうしても勝てないんだけど」

 

「凛ちゃんはゲーム初心者でしょ?だったら”トマール”対策が必要。

あと”マモール”使われたら初期の攻撃力じゃ勝ち目無いから、毒系呪文があったほうがいいかもね」

 

「ゲーム談義に花咲かせてんじゃねぇよ!家でやれや!!」

 

 

だが、アラシがここまで怒っているのには理由がある。

 

 

「別に捨て身する必要なかっただろうが!

リボルギャリーだけ動かしたり、マキシマムで相殺させたり色々あったろ!?」

 

 

「ゴメン、考えるのがめんどかった」

 

 

「お前なぁ…!」

 

 

 

思わず手が出そうになるが、骨折した左腕では殴れないことに気づき

諦めて包帯をつけたままベッドから降り、病室の扉を開けた。

 

 

「どこいくの?」

 

 

「アイスココア飲んでくる。今日の夕方には帰るから、お前はさっさと帰って調査を進めとけ」

 

 

怪我をしてからまだ2日程度で退院というのもおかしいが、ダークネスの一件で普通なら手術が必要な大けがを病院にもいかず一週間足らずで治したように、アラシの自然治癒力は常人のソレとは比較にならない。折れた腕も安静にしておけば3日もあれば治るだろう。

 

 

 

「そ、お大事に~」

 

 

「テメェ、マジで覚えとけよ」

 

 

 

 

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「アイツ、腕が治ったら真っ先にぶん殴ってやる…」

 

 

 

折れた腕をさすりながら自販機へ向かうアラシ。

そんな中、正面側にいる少女と目が合う。

 

あの赤髪につり目。アラシははっきりと見覚えがあった。

 

 

 

「お、真姫」

 

 

「ゔぇえ!?」

 

 

 

その少女はμ’sの作曲を手掛け、アラシ達がずっとスカウトを続けている西木野真姫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんでここにいるのよ」

 

 

「なんでって…折れたんだよ、腕が。あと多少の全身打撲

お前こそなんでいるんだよ。怪我か?」

 

 

 

カップ自販機でアイスココアを購入し、ドリップが終わるのを待ちながら話すアラシ。

 

 

「前に家が病院やってるって言ったでしょ?

ここが私の家の病院。看板に西木野総合病院って書いてあるの見てないの?」

 

 

「そうだったな。それで医学部いかないといけないから、アイドルは無理。だったか?」

 

 

「そうよ。だから私は諦めて他の人に…」

 

 

「でもさ、それは”できない理由”だろ。”やりたくない理由”じゃない」

 

 

 

アラシはドリップを終えたココアを自販機から取り出し、口に含むと

「もう少し甘くてもいいかな」と言ってさらにコーヒー用のシュガーを加える。

 

 

 

「お前、前はアイドルは薄っぺらいとか言ってたけど、最近は言わなくなったよな。

アイツ等のライブを見て考えが変わったんじゃないか?」

 

 

「それは…」

 

 

「前にも言ったけど、俺はお前の決めたことに口を出すつもりはない。

今のお前に”やりたくない理由”があって、それで嫌だって言うんなら文句はねぇよ。

でも、やりたいんだったら正直になってもいいと思うぞ。俺も最近気づいたことなんだがな…」

 

 

 

アラシはこれでもかと言うほど砂糖を加えたココアを、一気に飲み干した。

 

 

 

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永斗と凛は言われた通り帰ることにし、2人とも家が近いため徒歩で帰宅していた。

 

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

 

2人とも無言。

 

久しく男子との関りが無かった女子高生と、そもそも人と関わらなかったニートのコンビだ。

話題もゲームのことしかないし、まあ無理もない。

 

 

「え…っと士門くん」

 

 

先に口を開いたのは凛だった。

 

 

 

「何?」

 

 

「アイドルの…μ’sのマネージャーさんなんだよね?」

 

 

「ま、そうだね」

 

 

 

女子とのかかわりが照れくさいのか、単純に面倒くさいのか、永斗の返事はそっけない。

 

 

 

「メンバーまだ募集してるよね?」

 

 

「してるけど…凛ちゃんしたいの?」

 

 

「いやいや!凛じゃなくて友達が。ずっとアイドルに憧れてるんだけど、中々勇気が出ないっぽくて…そっちからスカウトとかしてくれたり…?」

 

 

「いいけど…凛ちゃんはどうなの?」

 

 

 

思わぬ質問に、凛はあっけにとられた表情を浮かべる。

 

 

 

「絶対無理だよ!髪短いし、女の子っぽくないし、スカートとか似合わないし…

凛がアイドルなんて……」

 

 

 

「なるほどね…自信がないんだ」

 

 

 

「アハハ……そうだよね…」

 

 

 

「別に凹むことじゃないよ。人間だれしも最初は空っぽなんだから。

"自分"っていう器をどう飾って、何を入れるかはその人の自由だと思う」

 

 

そう言うと、永斗の表情が少し変わる。

 

 

 

「あんま人に言ってないんだけど、記憶喪失なんだよね。僕」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 

 

 

 

衝撃に告白に、凛は言葉を失う。

 

 

「それってどういう…」

 

 

「そのままの意味だよ。僕にはアラシと出会う前の記憶がない。

だから、僕の器に物が入ったのは割と最近。どういう訳か、こんな感じになっちゃったけど…」

 

 

 

記憶喪失。テレビでは聞き馴染みのある言葉だが、実際には聞いたことがなかった。

自分が誰かもわからないまま、何も知らない世界で生きる。そんな人生、想像すらできない。

 

 

 

「でも僕はこれでいいと思ってる。ニートになったのも、引きこもりオタクになったのも、アラシの相棒になったのも、仮面ライダーになったのも。全部、僕が望んだことだ。

ま、僕が言いたいのは、後のことあーだこーだ考えるなんて面倒なことせずに、やってみるのが一番楽だと思うよ。

"なりたい自分"が正解かはわからないけど、"変わりたい自分"はきっといつだって正しいんだから」

 

 

長セリフで疲れたのか、永斗は小さくあくびをする。

 

 

 

 

 

「僕は向いてると思うけどな…アイドル」

 

 

「凛が…?どうして?」

 

 

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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病院内、アラシと真姫。

 

 

 

 

 

「そういえば、何でそんなに私にこだわるの?もっといい人なんて、いくらでもいるでしょ?」

 

 

 

「お前が向いてると思うからだよ。まず歌うまいだろ、曲作れるだろ、あと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「かわいいから」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「へ……?」」

 

 

 

 

 

同時刻、別の場所でまったく同じことを言うアラシと永斗。

 

 

 

同じく真姫と凛もその言葉に呆然としていたが、

状況を飲み込むと、顔を真っ赤にしてその場から逃げ去ってしまった。

 

 

 

 

 

当然、その気は微塵もなかったアラシと永斗は、

表情にハテナマークを浮かばせながら、それぞれ病室と事務所に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ただいま~」

 

 

 

アラシは宣言通り、夕方に事務所へと帰宅。永斗はソファに寝そべっていた。

 

 

 

「オイコラ起きろ」

 

 

「あ、帰ってきたんだ。お疲れさんです」

 

 

 

永斗は顔をクッションに沈めたまま、顔を上げようとしない。

 

 

「なんかあったか?」

 

 

「いや、今考えると死ぬほど恥ずかしいこと言ったな~って…」

 

 

「はぁ?」

 

 

「アラシには一生わかんないよ」

 

 

「あっそ」

 

 

 

 

アラシが洗面所に向かうと、そこで衝撃の光景を目にする。

 

 

 

 

そこにあったのは、洗濯機に詰め込まれたまま放置された数日分の衣服。

 

 

 

 

 

 

「永斗ぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

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翌日

 

 

 

 

 

作業用のツナギを永斗が洗っておらず、アラシは臭い作業用のツナギでバイトに行くことになった。

 

アルパカに唾をかけられたまま数日放置。汗やその他諸々の匂いも相まって、その匂いは凄まじいものへと進化していた。もうそれは臭いなんてもんじゃない。近くにとまった鳥が気絶するレベル。

 

 

それが原因で、また学校新聞が盛り上がることになるのだが…その話は置いといて。

 

 

 

アイドルに憧れる少女、小泉花陽の話。

 

 

 

 

 

 

 

花陽は今、大きなお屋敷の前に来ていた。

 

授業が終わり、皆が帰宅するか部活に行き始める時間。

何があったのか、今日は凛が話しかけてこなかったのでそのまま帰ろうとしたが、そこで花陽は思いがけない人物、真姫がμ'sのポスターの前に立っているのを見かけた。

 

真姫が何をしているか気になりつつも、プライベートの問題なのであまり見ないようにしていたのだが、真姫が去った後に生徒手帳が落ちていたので届けに来たのだ。

 

 

 

 

「す…すごいな…」

 

 

 

ここまで大きいとは思っていなかったが、そのまま帰るわけにもいかない。

花陽は勇気を出して玄関のチャイムを鳴らした。

 

 

 

 

「…誰だ」

 

 

 

玄関から出てきたのは、長身の男性。

赤髪だったり、どことなく真姫に似ているが父親には見えない。

あと、目つきが悪い。

 

 

 

「あ…あの…真姫さんと同じクラスの…

小泉花陽…です……」

 

 

 

「同じクラス…友達か?」

 

 

 

「え…えっと…まぁ、そんな感じ…です…」

 

 

 

男性はそれを聞くと、態度を急変させた。

 

 

 

 

「マジで!よかった~あいつ前から友達とか家に呼ばないからさ~

クラスで孤立してないか心配だったんだよ。あ、全然彼氏とかはいらないけどな!」

 

 

「は…はぁ…」

 

 

 

さっきまでの表情はどこへやら。

急に笑顔になって饒舌に喋り出す青年に、戸惑いを隠せない花陽。

 

 

 

「あいつ頭いいだろ。あと超カワイイ!俺の唯一の自慢なんだよ。

あ、俺西木野(にしきの)一輝(かずき)。真姫の2つ上の兄だ。ヨロシク!

真姫に会いに来たんだろ?さぁ入って入って!」

 

 

 

「え…いや、私は忘れ物を…」

 

 

 

「いいからいいから!」

 

 

 

一輝に半ば強引に家に引きずり込まれた花陽は、真姫の部屋に案内された。

 

とにかく大きい。ソファもあって、テレビもあって、難しそうな本もたくさん置いてある。

棚には、今まで真姫がとった賞のトロフィーやメダルが置いてある。

 

 

 

 

「これが真姫が小3の時にとったやつで、こっちが中学のピアノコンクールのやつ」

 

 

自慢げに賞の説明をする一輝と、ただただ驚いている花陽。

 

 

 

「すごいんですね…」

 

 

 

「だろ!じゃ、今度はアルバム持ってきてやるから、一緒に幼き日の真姫を…」

 

「何やってるの、一輝」

 

 

 

部屋の入り口には、いつの間にか真姫が立っていた。それも、かなり怒っている様子で。

 

 

「あ、真姫。おかえり」

 

 

「おかえりじゃないわよ!人の部屋で勝手に何やってんの!」

 

 

「いいだろ?兄妹なんだし。あと、昔みたいに”お兄ちゃん”って呼んでも…」

 

 

「呼ばない!!!」

 

 

 

真姫は力ずくで一輝を追い出し、勢いよくドアを閉め、鍵をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「見苦しいもの見せたわね。で、何の用?」

 

 

外から入れないように、ドアの前にソファを移動させる真姫に多少の恐怖を覚えながらも

花陽は落ちていた生徒手帳を取り出した。

 

 

 

「これ…落ちてたから…西木野さんの…だよね…?」

 

 

差し出された手帳を確認すると、それは確かに真姫のものだった。

 

 

 

「そうだけど…なんで貴方が?」

 

「ごめんなさい…」

 

「なんで謝るのよ」

 

 

 

「あの…μ’sのポスター見てた…よね?」

 

 

図星だったらしく、わかりやすくそっぽを向く真姫。

 

 

「私が?人違いじゃないの?」

 

 

「でも、手帳もそこに落ちてたし…

西木野さん、アイドルに興味あるの…?」

 

 

 

もはや言い逃れはできなくなり、真姫の顔がさらに赤くなる。

 

まぁ、ポスターを見ていたのは事実だ。それもかなり興味津々で。

ちゃっかりチラシもカバンに入れて持って帰っている。

 

その理由はいろいろあるが、主にアラシの”かわいい”発言であるところ、やはり乙女である。

 

当然、本人に自覚はない。

 

 

 

「そ、それより。貴方はどうなのよ。アイドルやりたいんじゃないの?」

 

「わ、私!?なんで…?」

 

 

真姫はとっさに花陽に話を振るが、唐突すぎて花陽は理由がわからない。

 

でも、真姫は話をそらすために適当なことを言ったわけではない。

これは少し前から感じていたことだった。

 

 

「μ’sのライブの時、夢中で見てたじゃない」

 

「西木野さんもいたんだ」

 

「え…あ…私はたまたま通りかかっただけだけど」

 

 

たまたま通りかかっただけというわけはないのだが、とりあえず置いといて。

 

 

 

「やりたいならやればいいじゃない。そしたら、少しは応援…してあげるから」

 

 

「…ありがとう」

 

 

 

その時浮かんだ花陽の笑顔は、曇りのない、心からの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花陽はその後少し話してから、まもなく帰宅。

 

真姫は一人で過去の栄光を眺め、思いにふけっていた。

 

 

 

「やりたいならやればいい……か…」

 

 

 

さっき自分が口にした言葉をつぶやく。これはアラシにも言われたことだ。

 

 

 

「どっかの誰かにも聞かせてやりたいな、その言葉」

 

 

 

後ろから兄、一輝の声が聞こえる。

 

振り返るがそこに一輝の姿はなかった。ドアの外側から話しているようだ。

 

 

 

「言いたいことがあるなら、入ればいいじゃない」

 

 

「入ったら怒るだろ?それに、俺がお前に意見する資格はない」

 

 

 

ドアの外側で一輝は、リストバンドで隠した右手首を眺める。

 

 

 

「だったらどっか行きなさいよ…」

 

 

「そうだな…でも、これだけは言わせてくれ。

 

 

 

お前の人生はお前のものだ。誰が生もうが、誰が育てようが、

真姫の行く末を決められるのは、真姫しかいないんだ。

いつ終わるかわかんない人生、悔いがないほうがいいだろ?だったら行きたい方向に行けばいい」

 

 

 

その言葉が真姫を包み込む。

 

いつもは大嫌いな兄の言葉が、心に響いているのが自分でもわかった。

 

 

 

 

「一輝のくせに…」

 

 

「兄だからな。一応。

だからお前はわがまま言ってもいいんだよ。いつまでもお前は、俺のかわいい妹なんだからさ」

 

 

 

 

そうつぶやいたのが聞こえると、一輝の声は聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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一方そのころ花陽は。

 

 

 

帰宅途中、にわかに空の赤が薄くなり始める中、歩きながらつぶやく。

 

 

 

「いろいろあるんだな…みんな…」

 

 

真姫からいろいろ聞いた。

家が病院やってることや、それを継がなきゃいけないから音楽を続けられないことも。

 

 

悩んでいるのは自分だけじゃない。

みんながそういう時期なのだ。当然といえば当然だろう。

 

 

 

「あれ…?お兄さんがいるんだったら、西木野さんが継がなくてもいいんじゃ…」

 

 

 

すると、どこからか甘い香りが漂ってくる。

 

 

そこにあったのは、ちょっと老舗風な和菓子屋だった。

 

 

母へのお土産でも買って帰ろうと、店の扉を開けると……

 

 

 

 

 

「あ、いらっしゃいませ~!」

 

 

 

 

割烹着を着た、高坂穂乃果の姿があった。

 

 

 

「先輩…」

 

 

「おじゃましま~す」

 

 

 

と、そのあとに士門永斗も入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 

「お…おじゃまします…」

 

「おじゃましま~す」

 

 

「私、店番あるから上でちょっと待ってて。

永斗君、場所案内してあげて」

 

 

「了解」

 

 

 

穂乃果は店番に戻り、花陽は永斗と一緒に階段を昇って行った。

 

 

 

 

「えっと…あなたは…」

 

「覚えてない?ま、ライブに夢中だったし、無理もないか。

僕は士門永斗。μ’sの協力者ってことになるね…」

 

 

「協力者…μ’sの…」

 

 

そういえば、ライブの最後のほうに、男の人が2人くらい入ってきた気がする。

あんまり覚えてないが。

 

 

 

「凛ちゃんは覚えてたんだけどね。あんな感じで案外記憶力はいいのかな?」

 

「凛ちゃんの知り合いなんですか?」

 

「知り合いっていうか…」

 

 

命守ってます。なんて絶対に言えない。

 

その時、永斗は凛が言っていたことを思い出した。

 

 

(そういえば、アイドルに憧れてる友達がいるって言ってたけど、この子かな?

誘ってとも言われてた気がするけど…いいや、面倒くさい)

 

 

二階に到着したが、永斗の足が止まる。

 

 

 

「ほのちゃんの部屋、どこだっけ?」

 

「えぇ!?」

 

 

永斗は毎回、全部の部屋を開けて確認していたため、どこがどこだか覚えてない。

 

超絶頭脳を誇る永斗だが、興味のないことは3秒で忘れる脳の構造をしている。

 

 

扉は合計3つ。とりあえず、一番近い扉を開けてみた。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「このくらいになれれば…!」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

2人はその光景を一瞬目に映すと、すぐさま扉を閉めた。

 

 

 

((とんでもないものをみてしまった))

 

 

 

そこにいたのは、穂乃果の妹、雪穂。

 

 

その雪穂が鏡の前で、キュウリパックをして、タオル一枚のみの姿で、胸を手で寄せて大きく見せようとしていたのだ。

 

 

永斗は何度かあったことがあるが、

しっかりしている普段の姿からは想像もできない光景だった。

 

 

 

(どうすんのアレ。絶対見ちゃダメな奴だよ。100%パンドラの箱だよ。

ていうか何気初登場だよ、ゆきちゃん。いくら機会が無いからってこの登場はないでしょ。作者はゆきちゃんに恨みでもあんの?)

 

 

とりあえず、見てないふりをしてもう一つ奥の扉を開けた。

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

「みんな〜ありがと〜!」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

ヤバい。これはヤバい。

 

さっきいたのは海未。ノリノリで鼻歌歌いながら鏡の前でポージングしていた。

 

これはパンドラとかそういうレベルじゃない。バレようもんなら消される。

 

永斗の中で最も怖いものは、1位怒ったアラシ 2位怒った海未 |越えられない壁| 3位セーブデータが飛ぶ

なのである。上位2つは場合によっちゃあ命に関わる。

 

 

 

「僕たちは何も見なかった」

 

 

「へ?」

 

 

永斗は真顔で花陽の方を向き、さらに語りかける。

 

 

「僕たちはここには来なかった」

 

 

「は…はい…」

 

 

「今日のことは忘れよう。というわけで、今すぐここからランナウェ…」

 

 

 

「「見ました…?」」

 

 

 

「oh……」

 

 

 

時すでに遅し。そこには、もう雪穂と海未が立っていた。

 

 

この瞬間。永斗は本気で死を覚悟したという。

 

 

 

 

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「お邪魔しまーす」

 

 

 

それから数分後、ことりが穂乃果の部屋にやって来た。

 

 

そこには海未と穂乃果、申し訳なさそうな花陽、あと顔に赤い手のひらの痕を二つ付けた永斗がいた。

 

 

 

「パソコン持ってきたよ〜」

 

 

「ありがとうことりちゃん!肝心な時に壊れちゃうんだよ〜」

 

 

「あ、僕の件は無視の方向ね。あれ?アラシは?」

 

 

「アラシ君は、あまりに臭かったから外で待ってもらってるよ♪」

 

 

「笑顔でムゴイことしますね。ことり先輩…」

 

 

 

 

そんな中、ことりは花陽がいることに気づく。

 

 

 

「花陽ちゃん!もしかして、本当にアイドルに?」

 

 

「たまたま店によったから、せっかくだと思って。

あ、永斗君。例の動画お願い!」

 

 

 

永斗は黙ってパソコンを立ち上げ、某有名動画サイトでとある動画を開いた。

 

それは、ファーストライブの動画。μ'sの始まりのステージだった。

 

 

 

「凄い再生回数ですね…」

 

「どうりで最近ランクの上がりがいいわけだ」

 

「でも、結局誰が…?」

 

 

 

この動画は投稿者不明なのだ。ただ、ここまで細かく撮っているところから、あそこにいた人物に間違いはない。

 

 

「永斗君じゃないよね?」

 

 

「違うよ、ほのちゃん。僕だったらもっと上手く編集できる」

 

 

「じゃあアラシ君?」

 

 

「アラシ、機械オンチだし。ガシェットの使い方教えるのに、どれだけ苦労したと思ってんの」

 

 

「あ、そうなんだ…」

 

 

 

なんてことを話しながら、動画を見ている一同だが、

さっきから全く喋らず動画に集中している奴が、1人いる。花陽だ。

 

 

その目つきは真剣そのもの。声をかけるが、全く聞こえている様子はない。

 

 

その様子を見た女子三人組は、何かを決めたように、顔を見合わせる。

 

 

 

「小泉さん!」

 

 

「は、はい!?」

 

 

「スクールアイドル、本気でやってみない?」

 

 

「え…でも…私、向いてないですし……」

 

 

 

その言葉に真っ先に反応したのは、海未だ。

 

 

 

「私だって、人前に出るのが苦手です。とても向いているとは思えません」

 

 

さらに、ことり、穂乃果が続ける。

 

 

「私は運動苦手だし、歌を忘れちゃうこともよくあるんだ」

 

 

「私はすごいおっちょこちょいだよ!ね、永斗君?」

 

 

「え、僕も言うの?えっと、僕は…顔に覇気が無いとか?」

 

 

 

もっということあるだろ、と3人は思ったが、心の中にしまっておいた。

 

 

「今ここにいない人は、めっちゃ口が悪いよ」

 

 

 

外からくしゃみの音が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。

 

 

 

「プロだったら、私たちはすぐに失格です。

でも、スクールアイドルだったら、やりたいという気持ちを持って、目標を持って挑戦できます」

 

「それが、スクールアイドルなんじゃないかな?」

 

「ゆっくり考えて、答えを聞かせて。私たち、待ってるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、3人の少女たちは悩んでいた。

 

 

『やりたいならやればいいじゃない』

 

『私たち、待ってるから』

 

 

『"変わりたい自分"はきっといつだって正しいんだから』

 

『僕は向いてると思うけどな…アイドル』

 

 

『やりたいなら正直になってもいいと思うぞ』

 

『お前はわがまま言ってもいいんだよ』

 

 

 

それぞれが、もらった言葉を思い出す。

 

 

いくら考えても、答えは出ない。

 

 

いや、答えは目の前にあるのだろう。

 

 

あと一歩、何かがあれば手が届きそうな気がする。

 

 

 

 

そして、悩んでいるのは彼女たちだけではない。

 

 

 

 

 

 

切風探偵事務所にて

 

 

 

 

 

机の上にたくさんの写真が広げられ、それらを見る永斗。

それらはエレメントが起こしたと思しき被害の写真だった。

 

 

そこにアラシが、出来立ての野菜炒めを置いた。

 

 

 

「夕食だ。右手で作ったから、味は保証しねぇぞ」

 

 

利き手が使えないにも関わらずこの完成度は、流石と言わざるを得ない。

 

だが、永斗は反応がない。

 

いつもなら「え〜また野菜?」とでもいいそうなものだが。

よっぽど思いつめた状況にあるのがわかる。

 

 

 

あまり声をかけるべきでないのは分かるが、決戦前にどうしても聞いておきたいことがあった。

 

 

 

「永斗」

 

「何?」

 

 

永斗は写真を見たまま返事をする。

 

 

「病院でずっと考えてた。あの時、お前が体を張った理由」

 

 

「だから、考えてなかっただけだって…」

 

 

「お前ほどのやつが、あの程度の判断ができないなんておかしいと思ってた。

でもわかったよ。お前はあの時、頭より体が先に動いたんだよな?」

 

 

「……」

 

 

永斗の手が止まり、黙り込む。

 

 

 

「お前はいままで戦うのを"義務"として捉えることが多かったよな。

俺はそれを否定はしない。でも、それが変わり始めてるんじゃないのか?

友達っていう、守りたい存在ができたから…」

 

 

 

「今回の敵は組織の幹部だ。負けは許されない。

僕は勝つための選択をするだけ。それが、ダブルの頭脳である僕の役目だ」

 

 

 

「わかってる。でも、お前が守りたいっていうなら、俺もトコトン付き合ってやるよ」

 

 

 

「……面倒臭いなぁ…」

 

 

 

 

 

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翌日。

 

 

 

今日も授業を終え、放課後。

 

 

 

花陽は校庭の木の下に座り込み、ため息をついていた。

 

昨日は散々考えたが、結局どうすればいいかはわからなかった。

 

 

ただ、これだけはわかった。自分はアイドルをしたい。これだけははっきりと。

 

 

だが、踏み出せるかどうかは別問題。

 

先輩たちに気持ちを伝えれば済む話だ。しかし、その勇気がいつまで経っても出ない。

 

 

やっぱり変われないままなのか……

 

 

 

「何してるの?こんなところで」

 

 

「西木野さん…」

 

 

 

そんな時、目の前に現れたのは、昨日話をしてくれた真姫だった。

 

 

 

 

「で、どうするか決めた?」

 

 

「うん…やっぱり私、アイドルやりたいんだと思う…

でも、やっぱり勇気が出なくて…」

 

 

 

花陽は、そう自信なさげに答える。

 

 

 

「そう。でも、焦ることないわよ。別に期限があるわけでもないし」

 

 

 

 

「か~よちん!あれ、西木野さん?」

 

 

 

すると、そこに凛も駆け足で現れた。

 

 

 

「ま、いいや。とにかく、今日こそ先輩たちのところに行って、アイドルになりますって言わなきゃ!」

 

 

そう言って、花陽の手をとる凛。

そこに真姫が反論する。

 

 

「そんなせかさない方がいいわ。もう少し自信をつけてからでも…」

 

「なんで西木野さんが、凛とかよちんの話に入ってくるの!」

 

 

 

その一言で、真姫が少しムキになる。

 

 

「別に!歌うならそっちのほうがいいって言っただけ」

 

「かよちんは迷ってばっかりだから、パッて決めてあげた方がいいの!」

 

「そう?昨日話した感じじゃ、そうは思えなかったけど」

 

 

 

2人の視線がぶつかり合う中、当事者である花陽は戸惑っていた。

一触即発な雰囲気に、ただ怯えているという感じだ。

 

 

 

「行こ!先輩たち帰っちゃうよ!」

 

 

強引に花陽の腕を引っ張り、連れて行こうとする凛。

 

もう片方の腕を、真姫がつかんでそれを引き留める。

 

 

 

「待って!どうしてもっていうなら私が連れて行くわ!

音楽に関しては私のほうがアドバイスできるし、μ’sの曲は私が作ったんだから!」

 

 

「え!?そうなの?」

 

 

ついつい隠していたことを(隠せていたわけでもなかったが)自白してしまい、

急いで花陽の腕を引っ張って、屋上に連れて行こうとする。

 

 

それに伴い、凛も花陽の腕を引っ張って連れて行こうとする。

 

 

謎の争いが白熱し、花陽は完全に犬に引っ張られるそり状態に。

 

 

 

 

 

 

「誰か助けてーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

_________________________________

 

 

 

 

 

 

 

それから案外時間がかかり、数十分後。

 

 

 

 

「かよちんはずっとずっと前から、アイドルやってみたいと思ってたんです!」

 

 

「そんなことはどうでもよくて、この子は結構歌唱力あるんです!」

 

 

 

 

穂乃果、海未、ことり、アラシの前で、凛と真姫による花陽プレゼン大会が行われていた。

 

その本人はというと、なんかグッタリしている。

 

 

 

「どうでもいいってどういうこと!」

 

 

「言葉通りの意味よ」

 

 

 

「あ…私はまだ…なんていうか…」

 

 

やっと花陽は口を開くが、やはり言うことはできない。

そんな様子を見て、2人は。

 

 

 

「もう!いつまで迷ってるの!?絶対やったほうがいいの!」

 

 

「それには賛成!やってみたい気持ちがあるなら、やってみたほうがいいわ」

 

 

 

「でも…」

 

 

 

「大丈夫!貴方ならできるわ!私が自信もってそう言えるんだから!」

 

「凛は知ってるよ。かよちんがずっとずっと、アイドルに憧れてたってこと」

 

 

「凛ちゃん…西木野さん…」

 

 

 

夢が、憧れが、目の前まで来ている。あと少し、あと一歩でいい、踏み出せれば…

 

 

そんな花陽に、凛と真姫は笑顔で声をかける。

 

 

 

「頑張って!凛がずっとついていてあげるから!」

 

 

「私も少しは応援してあげるって言ったでしょ?」

 

 

 

 

そして2人は、花陽の背中を押した。

 

 

踏み出した先、振り返れば応援してくれる友達。

 

 

 

 

一歩踏み出した。さぁ、今こそ夢に…手を伸ばす時!

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、小泉花陽といいます!一年生で、背も小さくて、声も小さくて、人見知りで…得意なものも何もないです……でも、アイドルへの思いは誰にも負けないつもりです!だから…μ’sのメンバーにしてください!!」

 

 

 

 

言った。溜めていた思いを。夢への憧れを。

 

 

 

 

顔を上げると、手を差し出す穂乃果の姿が。

 

 

 

 

 

「よろしく、花陽ちゃん」

 

 

 

 

花陽は涙を目に浮かばせ、穂乃果の手を取った。

 

 

同じく涙を流す、後ろの2人にアラシが声をかける。

 

 

 

 

 

「お前らはどうすんだ?」

 

 

 

 

「「え…?」」

 

 

 

 

 

 

2人は顔を見合わせるが、もう答えは決まっていた。

 

 

友達が、勇気をもって踏み出したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

変わるなら____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やりたいなら____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____今しかない!

 

 

 

 

 

 

 

「星空凛っていいます!運動は得意だけど、ダンスはしたことないです!

あと、髪も短くて、女の子っぽくなくて…ずっと自信がありませんでした…でも、そんな自分を変えたいです!」

 

 

 

 

「西木野真姫です。歌が好きで、ピアノが好きで、でも諦めるしかないと思ってました…

それでも、できるっていうなら…やりたいことを諦めたくないです!だから……」

 

 

 

 

 

 

 

「「私たちもμ’sに入れてください!」」

 

 

 

 

 

 

花陽から勇気をもらい、2人も思いを叫んだ。

 

 

答えは当然…

 

 

 

 

「あぁ、よろしくな」

 

 

 

 

凛と真姫が、しっかりとアラシの手を取った、

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいや、感動的だったよ。友情…中々素晴らしいじゃないか」

 

 

 

 

 

ゆっくりとした拍手と共に、男の声が聞こえる。

 

 

 

その声が聞こえた瞬間、アラシの目つきが変わった。

 

 

その目はさながら、獲物を見据える…獣。

 

 

 

 

 

「天金……!」

 

 

 

 

どこからか、白衣の男がμ’sの前に現れた。

 

 

 

 

「見つけたよ、星空凛君。それに他の適合者まで…」

 

 

 

 

《エレメント!》

 

 

 

 

首元にメモリを挿し、その姿をエレメント・ドーパントに変える天金。

 

 

 

 

「全員まとめて、実験道具として頂こう」

 

 

 

 

「感心しねぇなぁ、変態野郎。人の憧れを…邪魔してんじゃねぇよ!」

 

 

 

アラシもメモリを取り出し、ダブルドライバーを装着。

 

 

 

《ジョーカー!》

 

 

 

 

_________________________________

 

 

 

 

同刻、リボルギャリー内。

 

 

 

数えきれないほどの、文字が書かれた紙が散乱する中、

永斗の腰にドライバーが装着される。

 

 

 

「来たか…」

 

 

 

永斗は機会を少し操作すると、小さく伸びをしてメモリを取り出した。

 

 

 

 

《サイクロン!》

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身!」

 

 

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

 

 

 

《サイクロンジョーカー!!》

 

 

 

 

 

アラシは全員の前で、仮面ライダーダブルへと変身。

 

 

知らなかった花陽と真姫は、驚きを隠せない。

 

 

 

 

「貴方が仮面ライダー!?あの時の?」

 

 

「変身しちゃったのぉ!?」

 

 

 

 

そんな2人はさておき、上空から飛来した空中戦用ビークル”ハードタービュラー”が、

エレメントの体を直撃。エレメントはそのまま校舎から落下する。

 

 

 

「さぁ、決戦と行こうか!」

 

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

 

今日の朝

 

 

 

 

 

永斗はアラシにある写真を見せる。

 

 

それは銅像に、直径1センチほどの小さな穴が開いている写真だった。

 

 

 

「これは?いたずらかなんかか?」

 

 

「僕もそう思ったんだけどね。でも、ドリルとかにしては奇麗すぎる。

 

これは水によってあけられた穴だ。それも、多分エレメントが」

 

 

 

水で穴をあけるということに疑問はなかった。水は高出力で噴出すれば、石をも切れると聞いたことがある。

 

 

 

「他の写真を見ても、エレメントの被害は最近になって、確実に収縮している。

それがどういうことかわかるよね?」

 

 

 

写真を見れば、前は建物壊したりだとかしていたのが、

回を増すごとに木数本、車一つ、ごみ箱といった感じに範囲は小さくなっていっている。

 

弱くなっているとは考えにくい。つまり…

 

 

 

「エネルギーを操る”練習”をしているってことか」

 

「正解」

 

 

そういえば、前回戦った時は、攻撃が無駄に大雑把だった気がする。

それが、今は水でレーザーを打てるほどに制御を可能にしている…

 

 

「次は科学者の頭脳をフルに使った戦いを仕掛けてくる。

アラシも万全じゃないし、正直勝つ見込みは少ない」

 

 

 

それは紛れもない事実だった。おそらく、エレメントの脅威は前回の比ではない。

 

勝てるのか?という不安さえよぎる。

 

 

 

「でも、一つだけ方法がある。

一度しか言わない。これが僕の”勝つための”選択だ」

 

 

 

 

 

_________________________________________

 

 

 

 

 

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ!!』」

 

 

 

 

学校から少し離れた荒れ地に着地した、ダブルとエレメントが激闘を繰り広げる。

 

 

 

ダブルはヒートトリガーにチェンジしており、

炎の銃弾を可能な限り連射していく。

 

 

 

だが、エレメントは局所的に風を発生させ、銃弾の軌道を巧みに変えて防御。

 

 

さらに炎の球を形成し、ダブルへと投げつけた。

 

 

「くっ……」

 

 

 

炎の球めがけて引き金を引くダブル。

 

しかし、火球は空中で分裂。複数の火球となり、ダブルに襲い掛かった。

 

 

爆発の衝撃で吹っ飛び、背中を地面で汚すダブル。

 

 

 

『どうしたもんかね…』

 

 

 

 

まずはメモリを変える必要がある。

 

 

トリガーはさっきみたいに軌道を変えられる。オーシャンも同様だ。

 

ジョーカーも最善とは言えない。アラシの利き手が使えない以上、素手で戦うのは避けたい。

となると…

 

 

 

 

 

『メタルで行くよ』

 

「あぁ」

 

 

 

 

《ヒートメタル!!》

 

 

 

 

 

トリガーをメタルと入れ替え、ヒートメタルにチェンジ。

 

 

メタルなら防御もしつつ、中距離を保って武器で戦うことができる。

 

これも効果的とは言えないが、他よりかは大分マシである。

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

 

シャフトでエレメントに殴りかかるが、

風でスピードアップしたエレメントはその攻撃を難なくかわす。

 

 

 

攻撃の後の一瞬。エレメントは数方向から水のレーザーを発射した。

 

すさまじい勢いで迫る、水の脅威。だが…

 

 

 

 

 

 

『まぁ、想定内だね』

 

 

 

 

それを予想していたダブルは、攻撃をすべてシャフトで弾いた。

 

 

 

 

「へぇ」

 

 

 

エレメントはさらに、ダブルの足元から火柱を噴出させる。

 

 

 

これも予期していたのか、ダブルは落ち着いて回避。

 

そして、火柱の向こう側にいるエレメントめがけ、シャフトをやり投げのように投げた。

 

 

 

自身の火柱が邪魔で、投げの動作が見えなかったエレメントは、

一瞬、火を突き破り迫るシャフトの対処が遅れる。

 

 

 

鉄の重さもあり、風では防ぎきれない。土壁でそれを防御した。

 

 

だが、ダブルはそのままダッシュし、土壁に刺さったシャフトを踏み台にしてジャンプ。

 

 

高く飛び上がり、エレメントに急降下キックをお見舞いした。

 

 

 

 

「やるじゃないか。予想をはるかに上回っている」

 

 

 

敵の能力を把握、完璧に分析し、思考まで考慮して敵の手を読む。

それがダブルの頭脳である永斗の力だ。

 

 

 

 

「僕は君を評価しているんだよ。読みも的確、その戦術も称賛に価する」

 

 

『そりゃどーも』

 

 

「だから君がほしい。でも、それが少し揺らいでいるんだ」

 

 

 

 

 

エレメントはそう言って、自身の周りに4属性のエネルギー弾を作り出した。

 

まさに、前回リボルギャリーに襲い掛かったあの攻撃だ。

 

 

だが、今回はそれを更に一つに圧縮。巨大なエネルギーは、野球ボールほどの大きさに変化した。

 

 

 

 

「四元素を複合した爆発球。物に触れると蓄積されたエネルギーが解放される。

ただし、これを作るには相応のエネルギーを要し、しばらく僕は動けない。

避けられれば僕は隙だらけだ。ただ…」

 

 

 

 

エレメントは自分の横方向を指さす。

 

その先には、穂乃果たちがいる音ノ木坂学院の校舎。

 

 

 

 

「これをあそこに放つ」

 

 

 

「ッ…てめぇ…」

 

 

 

「受ければ、一時は守れても敗北は免れず、結局守れない。

避ければ、多少の犠牲を払っても、勝機が見える。どっちが正しいか、君はわかるよね?」

 

 

 

『……』

 

 

 

 

「勝つか、守るか、選ぶがいい」

 

 

 

 

 

エレメントが手に力を籠めると、球が校舎へと飛んでいく。

 

 

だが、ダブルに迷いはない。

 

 

ダブルは球の前に立ちはだかり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

爆炎に包まれるダブルを見ながら、エレメントがつぶやく。

 

 

 

 

「がっかりだよ、永斗君。君は情に侵されてしまった。

そんな君はもういらないな。相棒と仲良く、天国で探偵業でもするといいさ」

 

 

 

 

炎はさらに広がり、ダブルの影は完全に消えた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ヒート!マキシマムドライブ!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆炎が、吸い込まれるように一点へと集まっていく。

 

 

 

 

そして、現れたのは消えたはずのダブルの姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

~BGM FreeYourHeat アラシ&永斗Ver~ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ…?」

 

 

 

 

あの爆発で変身解除すらしていない。

 

その状況には、最高科学者である天金も驚かざるを得なかった。

 

 

 

 

すると、永斗の声がその疑問に答えるように、語りだす。

 

 

 

 

『ヒートのマキシマム。それは発動と同時に周囲のエネルギーを取り込み、それを炎に変えて相手に放出する技だ。爆発と同時にマキシマムを使い、ダメージになるエネルギーを全部取り込んだ』

 

 

 

 

「正気か?あれほどのエネルギーを取り込むなんて、体がもつはずがない」

 

 

 

 

その通りだ。現にダブルは今にも倒れそうな状況。

体からは湯気が立ち上り、熱を制御しきれていないのが見て取れる。

 

 

だが、アラシはそんなこと覚悟の上だ。

 

 

 

 

「俺も無事で済むと思ってねぇよ。でも、相棒が守りたいって言ってんだ。

そいつについていくためなら…腕や足の1本や2本くらい、くれてやる!!」

 

 

 

 

 

『君を倒して、μ’sも守る。それが、僕たちの”勝利”だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ヒートバックドラフト!!』」

 

 

 

 

 

 

凄まじい炎が、ダブルの体を覆いつくし、地面を焦がしながらエレメントに突っ込んでいく。

 

 

その姿は、さながら隕石のよう。

 

 

 

 

 

 

「僕が動けないなら…僕自身を強化すればいい」

 

 

 

 

突進してくるダブルを前に、エレメントは土を体に纏い、巨大な鎧を生成する。

 

 

 

 

構わずにダブルはエレメントに激突。

 

 

 

だが、その一撃は無情にも完全に受け止められてしまう。

 

 

 

 

 

 

「終わりだよ」

 

 

 

 

あれほどのエネルギーを以てしても、エレメントを倒すに及ばない。

 

 

もう、出来ることは何も……

 

 

 

 

 

 

 

「永斗ぉ!!俺のことは気にすんな!

俺は絶対に死なねぇ!だから…お前の思う”最善”を、思いっきりぶち込め!!」

 

 

 

 

 

それを聞いて、永斗も覚悟が決まった。

 

 

 

 

 

 

『全く…これだから、うちの相棒は面倒なんだ……!』

 

 

 

 

 

 

ダブルはドライバーに刺さっている、メタルメモリを引き抜く。

 

 

 

 

そして、ベルト横のスロットにヒートが刺さったまま、メタルをメタルシャフトに装填!

 

 

 

 

 

 

 

《メタル!マキシマムドライブ!!》

 

 

 

 

 

ダブルを覆っていた炎が、シャフトに集まっていく。

 

 

 

 

その燃え上がるシャフトで、エレメントの鎧を突き上げる!

 

 

 

 

 

 

「『ツインマキシマム!!』」

 

 

 

 

 

 

「2本同時の必殺攻撃…鎧が……」

 

 

 

 

 

見ると、シャフトが触れたところから、鎧が崩れていっている。

 

 

 

 

ヒートメモリは”熱き記憶”。その能力が行き着く先は、万物を滅却する、”熱”

 

 

 

 

 

それはまさしく、全てを滅ぼす煉獄の一撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『メタルインフェルノ!!』」

 

 

 

 

 

 

鎧が朽ち果て、エレメントの体にシャフトがヒットする。

 

 

その瞬間、全熱エネルギーを開放。

 

 

 

 

 

 

 

「面白い…それが君の、いや…」

 

 

 

 

 

 

 

膨大な熱に耐え切れず、エレメントの体は爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

「やった…か……」

 

 

 

『ちょっとやめてよ…フラグにしか聞こえない』

 

 

 

 

とはいいつつも、永斗も勝利を信じていた。

 

ていうか、信じるしかない。もしまだ戦うんであれば、今度こそ勝ち目ゼロだ。

 

 

 

煙が晴れ、そこには…

 

 

 

 

 

 

 

誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「逃げられた…か…」

 

 

 

急に体から力が抜け、ダブルはその場に倒れこむ。

 

 

 

 

「なぁ、永斗。救急車呼んでくんない?」

 

 

 

『とりあえず、昼寝が終わったらね…』

 

 

 

 

 

 

激戦の跡、2人で1人の戦士が戦いを終え、横たわる。そして…

 

 

 

 

 

粉々になったエレメントメモリが、彼らの勝利を静かに物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…ハァ…ハァ……」

 

 

 

 

 

某所の研究所。黒いワームホールのようなものから、天金が転がりこむ。

 

 

そこには、黒服の男の姿も。

 

 

 

 

「その様子だと、負けたようだな」

 

 

 

天金を見降ろす男の目は鋭く、冷酷だ。

 

 

 

「そうだね…()()の力は想定を大きく上回っていた。

それで、負けた僕を殺しに来たのかい?」

 

 

 

「貴様がいなければ、我々の計画が大幅に遅れる。

まだまだ働いてもらうぞ。その右腕の分までな」

 

 

 

天金の右腕は、白衣ごと跡形もなく消え去っていた。

 

 

ダブルの攻撃を食らったとき、体に放出された熱を、エレメントの炎を操る能力で右腕に集中させていた。

 

だが、熱を抑えきれず、結果的に右腕は消し飛ばされてしまった。

 

 

それでも、内臓を焼かれりするよりかは良い方だ。

あのままだったら、全身が焼き消されていた可能性だってある。

 

 

 

 

「さぁ~て、ここで問題です!ロウ君を救ったのは誰でしょうか?」

 

 

 

すると、どこからか妙にハイテンションな声が聞こえてくる。

 

 

天金達はこの声の主のことを知っていた。

 

 

 

「分かってるよ、君だろ。感謝してるよ、朱月(あかつき)

 

 

 

天金がそう言うと、ドアを開けて金メッシュの入った青年が部屋に入ってきた。

 

 

 

「さっすが~!ロウ君分かってるねぇ」

 

 

「あんなとこから助けられるのは、君のメモリくらいだろ?」

 

 

 

 

天金は立ち上がり、敗れた白衣を脱ぎ、新しいものを羽織る。

 

 

 

 

「さて、計画はこれからが本番だ。既にメモリの販売も拡大しつつある。

君たちの所にも、もっと働いてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

翌日、早朝

 

 

 

 

 

「朝練って、毎日こんなに早起きしなきゃいけないの~?」

 

 

「本当それ。大体、なんで僕が…」

 

 

「2人とも文句言わない。このくらいは当然よ」

 

 

 

朝早くからジャージ姿で神田明神の階段を上る、凛、真姫、永斗。

 

そんな中、真姫が永斗に尋ねる。

 

 

 

「そういえば、アラシさんは?」

 

 

「アラシは今、入院中。だから僕がこんな早起きしてるんでしょ?」

 

 

 

さすがに完治してない状態でツインマキシマムはマズかったらしく、

しばらくの間、入院が必要なようだ。

 

 

3人が階段を上り終えると、そこには準備運動をしている花陽の姿が。

 

 

 

「かよち~ん!」

 

 

 

凛の呼びかけに花陽が振り返ると、なんと…

 

 

 

 

「おはよう!」

 

 

 

メガネがなくなっていた。

 

 

 

「あれ?メガネは?」

 

 

「コンタクトにしてみたの。変…かな…?」

 

 

そう言う花陽は少し恥ずかしそうだが、以前のような自信のなさは減ったような気がする。

 

 

 

「ううん、全然かわいい!すっごく!」

 

 

「貴重なメガネキャラが…」

 

 

「そういうこと言わないの。私はいいと思うけど」

 

 

永斗の頭を真姫が軽くたたく。

 

 

 

「ありがとう、西木野さん」

 

 

「ねぇ、メガネとったついでに…名前で呼んでよ」

 

「いや、何のついd」

 

 

永斗の頭に、さっきより強力な二撃目が炸裂する。

 

 

 

「私も名前で呼ぶから…花陽、凛」

 

 

それを聞いた凛は、嬉しそうに真姫のまわりを飛び跳ねる。

 

 

 

「真姫ちゃん照れてる~かわいいにゃ~!」

 

 

「て…照れてない!」

 

 

 

そうこうしているうちに、2年生の3人もやってきた。

 

 

 

 

「おっはよ~!みんな揃ってるね、それじゃあ…」

 

 

 

全員が整列し、昨日打ち合わせたようにそれぞれが番号を言う。

 

 

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「プラス1」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな様子を写真に収め、どこかの部屋で一人眺める少女。

 

 

 

「アイドル部…」

 

 

 

その少女は素早くキーボードを叩き、こんな文字を入力した。

 

 

 

アイドルを語るなんて10年早い!‼︎

(((┗─y(`A´ ) y-˜ケッ!!

 

 

 

 

 

 

彼女たちの運命の歯車は、まだ動き出したばかり…

 

 

 

 

 

 

 




15000字超えました。書いてて量がやばいっす。
そのうち20000とか超えるんだろうな~

今回はちょっと早めにツインマキシマムの登場。
そして、オリキャラの西木野(兄)の登場です!詳しいキャラ説明はまた後程。

天金を退けた2人だが、まだ新たな事件が…
そして、次回はやっと”あの子”が襲来します。

感想、評価、アドバイス、オリジナルドーパント案ありましたらよろしくお願いします!


特にオリジナルドーパント案待ってます!異能力系が多くて、その辺はまだ出番が先になりそうなので、生物とかのシンプルなやつを送っていただけるとありがたいです!

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