BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜 作:二毛目大庄
山本の誘いを断った夜影は、勝負に勝てば隊長を引き受けるという。
勝負は夜影の専売特許「白打」。
山本の白打の師匠でもある夜影に、山本は勝てるのか。
なんだこの音は。
先程から半刻以上聞こえてくる音・音・音。
何かと何かを激しくぶつけ合うような音。
時には乾いたような、時には鈍いような音。
外を見れば分かるのだろうが、身体が重く、外まで行けない。
まるで何かに押さえ付けられているような、そんな感覚が全身を支配する。
はるか昔に、この辺りまで見回りに来ていた死神に聞いた事がある。
死神の中でも強さの次元が違う者が居て、その者たちがそばに居れば、死神でない者は、呼吸が苦しくなり、足が重くなるのだと。
恐らくこれがそうなのだろう。
恐らくこれが霊圧と呼ばれる物なのだろう。
しかし話が違うではないか。
これは呼吸が苦しい、足が重いなどという次元ではない。
動けない。
一体外には誰が居るのだ。
化け物か。
化け物達が何かしてるのか。
何かをぶつけ合っているのだろうか。
確かめる術はない。
「なんじゃ、もう終いか?」
「まだまだ…!」
山本は肩で息をしながら、地面についた片膝に力を込め再び立ち上がった。
猫の姿から人間の姿に戻った夜影は、白髪頭で口髭の生えた年配男性の姿だった。
「お主では無理じゃ、儂に勝つのは」
夜影はそう言うと、山本が脱ぎ捨てた袖着物を拾い、山本に手渡した。
「まだ…奥の手がございます」
「なんじゃと?」
「夜影様に教わった白打、この数百年で独自のものに進化させました」
「苦し紛れにしては自信満々じゃの」
「出来れば四楓院流で夜影様を越えたかったのですが、残念です」
「笑わせるのう、ならばやってみい」
山本は瞬歩で姿を消すと、夜影の背後に廻った。
突きを胴部に放つが、夜影は山本の姿を見もせず躱す。
夜影はそのまま裏拳を繰り出すが、山本もそれを躱す。
しゃがみ込んだ山本は下段の回し蹴りを放ち、夜影を地面に転がした。
「な…!」
夜影は驚きを隠せず、受け身も取れなかった。
「おぉ、十字斎の奴、段々と夜影に動きがついていっとる」
真名呼和尚は嬉しそうに声を上げた。
思わぬ反撃に、痛手では無いものの少々面食らった夜影は、素早く身体を起こすと山本に語り掛けた。
「思い出すのう、ノ字坊。昔はこうしてよく手合わせし、色々教えてやったもんじゃ」
「夜影様の強さは全く変わりませぬ」
「お主は変わったのう。昔のお主は見込みがあった。しかしお主は刀を手にし、剣術に力を入れるようになって、白打はからっきしになりおった。だから儂にその拳を当てられぬ」
「鳥目です」
「なに?」
「ようやく"夜"に慣れてきました」
山本はそう言うと再び瞬歩で夜影の背後に廻った。
「甘いわ!」
夜影は山本に対し、まともに裏拳を喰らわせた。
しかし全く手応えが無かった。
「これは…」
「隠密歩法"四楓"の参『空蝉』。夜影様に習ったものです」
夜影の裏拳が捉えたのは、山本の袖着物だった。
「っノ字坊…!」
「"元流拳術"伍の段『双骨』!」
山本の両拳は、夜影の身体をくの字に曲げた。
音が、止んだ。