BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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真実と事実

護廷十三隊隊首会より1刻前—。

 

八剣聖総代、東元坂(とうげんざか)興征(こうせい)が道場主を務める『翅鳥(しちょう)流剣術道場』。

その一角である板張りの間、"護田鳥(うすべ)"に6人の男が集まっていた。

 

尸魂界随一の剣豪で構成される八剣聖。 それらを一手に纏める男、翅鳥流師範であり八剣聖総代・東元坂興征。

八剣聖副総代で、"千里轟(せんりごう)"と噂される『元流道場』に容易く侵入し、そこの師範である大六野(だいろくの)治郎衛門(じろうえもん)を急襲、重症を負わせた老練の士・葛貫(つづらぬき)勢五郎(せいごろう)

生熊流開祖、歳こそ若く見た目も幼いが、その天才的な剣武から付いたあだ名が"違天(いてん)の真"・生熊(いくま)(しん)

出自こそ貴族だが、その実力を認められ、前総代である東元坂(とうげんざか)征郎太(せいろうた)の時代から八剣聖に名を連ねる大剣豪・龍堂寺(りゅうどうじ)業良(なりよし)

総代の興征から厚い信頼を寄せられ、大型虚と共に現世で伊座屋(いざや)仁峰(じんほう)斎賀(さいが)栄八(えいはち)を襲った頭の切れる兇漢・玉輝(たまき)|衛童(えいどう)

骰震(とうしん)流開祖にして、元流客員師範。 八剣聖では末席だが、その実力は隊長就任前の京楽(きょうらく)源之佐(げんのすけ)八番隊隊長を剣気だけで萎縮させる程の腕前。 八剣聖の一番槍・賽河原(さいがわら)康秀(やすひで)

 

正しく1人1人が尸魂界随一の腕前を誇る剣豪。

"剣聖"の称号を欲しいままにしている6人が一堂に会していた。

総代である興征は、例によって一段高い上段に座り、あとの5人は板張りの床に円座を敷き、そこに胡座をかいて座っていた。

八剣聖総代の道場だけあって、数多くの門人が稽古に打ち込んでいるような威勢の良い声が聞こえてくる。

 

「さて、先日に引き続き一統に集まって貰ったのは他でもない。 いよいよ準備は整った」

「ほっほ、いよいよですな」

「ふん。 準備に時間を取り過ぎじゃないかね?」

「いよいよ、か」

「という事は、例のあれも…」

「準備とは一体…」

 

興征が言った宣言とも取れる発言に、他の八剣聖は様々な反応を見せた。

小柄な男・生熊は、多少の苛立ちを見せながら、興征に無遠慮に質問した。

 

「準備とは、例の副総代殿と玉輝殿に命じたという別命か?」

「いかにも」

「その2つの別命を我々が知らない事を問題だとは思わんのか?」

 

生熊の語気が段々と荒くなる。

 

「それを今から説明しようと言うのだ。 まずは玉輝に頼もう」

「では私から… 私が総代から承った別命は1つ。 現世に赴き、"()"に堕ちかけている"(せい)"を大量に尸魂界に攫い、こちらで戦闘可能にする事」

「戦闘可能…? まさか玉輝、貴様…」

「人間の魂魄である"整"を無理やり"虚"にした」

 

生熊は座っていた円座から素早く片膝立ちの状態になると、自身の右側に置いてあった斬魄刀を左手に持った。

 

「辞めたまえ生熊君。 斬魄刀を右手で持つ事、右側に置く事の意味。 そしてそれを左手に持ち替える事の意味を君が知らぬはずは有るまい」

「ああ、知っているともよ。 俺はお前さん方を今しがた敵と見なした」

「ほう。 敵とは物騒な… 何故(しゃく)に障ったのだ」

「それが分からぬ程耄碌(もうろく)したか、興征」

「所詮掃いて捨てる程度の魂魄、最後に一花咲かせてやろうじゃないか」

 

その言葉を聞き終えるが早いか、生熊は興征に斬りかかった。

"護田鳥"に鋭く甲高い金属音が鳴り響く。

 

「ここで抜刀するか… 生熊殿…!」

「龍堂寺…!」

 

斬撃は、興征に届く前に阻まれた。

生熊の斬撃を止めたのは、生熊より下座に座っていた龍堂寺だった。

龍堂寺は完全に斬魄刀を抜刀せず、鞘から少し引き抜き、生熊の斬撃を受け止めた。

それは、生熊の斬撃を見切ってこそ出来る妙技だった。

興征は生熊の鬼気迫る斬撃に眉1つ動かさず、先程の言葉を続ける。

 

「生熊君、まぁ落ち着きたまえ。 私は君が癪に障った部分が分からぬ訳ではない。 ただ、何故今さら癪に障ったのだと問うただけだ」

「今さら、だと?」

「そこの龍堂寺君はその点理解が深い。 だからこうして守ってくれた訳だが」

「…貴様ら、俺らに話してない事が有るみたいだな」

「まだ分からぬか… 生熊君、君は虚が()()()()()()とでも思っているのかね?」

「なっ…」

 

生熊はその言葉を聞くなり、力無く刀を引き、斬魄刀を鞘に納めた。

龍堂寺はそれを確認すると、自身も納刀し、もとの席へと戻った。

 

「20年前、尸魂界を虚が襲い、それを俺を含む八剣聖が討伐した事により、我ら八剣聖の名声は上がり、尸魂界にとって必要不可欠な存在となった…」

「そうだ。 そして我らは以来尸魂界の護衛を担ってきた」

「しかし、その虚侵攻戦自体は、仕組まれたものだった」

「そう。 それは生熊君も知っての通りだ」

「俺は、自然発生した虚を使っていたと思っていたが、まさかそれが今回と同じ様に無理やり虚にさせられた魂魄だったとは…」

「これが、我ら八剣聖が共有する20年前の真実だ。 言ったろう、今回は2()0()()()()()()()、と」

 

人間の魂魄を無理やり虚にし、それを八剣聖自ら尸魂界に解き放ち、それを討伐する形で名声を得る。

それがかつて八剣聖が犯した罪であり、八剣聖同士を結び付ける『絆』となっていた。

興征から20年前の真実を聞かされ、それに加担した形になっている事実とを確認すると、生熊はへたり込むように円座に座った。

生熊にはすでに、先程の怒りと勢いは無かった。

興征は場が落ち着いた事を確認すると、話を続けた。

 

興征が一通り説明を終えると、末席に座る大柄で短髪の男・賽河原が手を挙げた。

 

「賽河原殿、質問ですかな?」

「先程のご説明で虚と八剣聖を4団に分けると言われたが、八剣聖が6人しか居ない現状、どのように分けなさるおつもりか」

「それがもう1つの別命、副総代殿に頼んである。 では副総代殿」

 

興征が八剣聖副総代・葛貫に説明を促すと、葛貫は両手をゆっくりと上げ、その手を2回打った。

すると、"護田鳥"の入り口にあたる木戸が開いた。

 

「この男は…!」

「この男こそ、本作戦で重要な役割を果たす男よ」

 

興征は不敵な笑みを浮かべた。


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