BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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思騰氾濫

夜、斬魄刀を腰に挿す身長差のある男が2人、帰宅の途についていた。

1人は小柄な男で、その顔立ちには幼さが残っていた。

もう1人は大柄で筋肉質、短く刈り込んだ頭髪が特徴的な男だった。

 

興征(こうせい)の野郎、父親の跡継ぎで総代になったくせに偉そうにしやがって」

生熊(いくま)殿、総代にそのような物言いは…」

「良いんだよ。 それを言われてもしょうがねぇんだ、あいつは」

 

大柄な男に生熊と呼ばれた小柄な男・生熊(いくま)(しん)は、納得のいかない様子を露わにしながら、その歩みを進めていた。

 

「200年前の事、ですか」

「そうともよ。 あいつは200年前の卯ノ花(うのはな)(れつ)との戦いに参加してねぇ。 あの血みどろの戦いを生き抜いた俺達を差し置いて総代だなんて、笑わせるぜ」

 

血みどろ、と聞いて大柄な男・賽河原(さいがわら)康秀(やすひで)は200年前の戦いに想いを馳せた。

 

征郎太(せいろうた)殿が命を落とされた、激しい戦でしたな」

「実際感謝してるぜ、-丿字斎(えいじさい)、いや今は元柳斎(げんりゅうさい)かー にはな」

「あの時山本殿と握菱(つかびし)殿が来てくれなければ、今頃我らも…」

「まぁ、それも俺達の武運ってこった」

 

生熊はあっけらかんとそう言い放つと、「しかし」と話題を戻した。

 

「新たな八剣聖を入れると言っていたが」

「山本殿と武市(たけち)殿が除名になり今や6人。 確かに、新加入の者に初舞台を踏ませるには()()()()()()()()()()でしょうな」

「確かに、な」

 

話しながら歩いていると、自分の屋敷に到着したのか賽河原が足を止めた。

生熊もそれに合わせ足を止める。

 

「興征が言っていた、玉輝(たまき)と副総代に出したという別命… 嫌に引っ掛かる」

「別命の為会合に参加しなかったとの事ですが、会合より重要な事とは一体…」

 

生熊は、すでに日の落ち切った空を見上げた。

 

「俺達の知らない所で、何かが動いているのかもな」

 

 

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「そろそろ来る頃だと思っとったわい」

 

夜更けにも関わらず死覇装をしっかりと着込んだ屋敷の(あるじ)は、笑みを浮かべて真夜中の訪問客に対応した。

一見(いっけん)すると青年風の訪問者は主の言葉には反応せず、持っていた木札を主の足元に放り投げた。

からん、と音を立て転がった木札は古く、表面に書かれた『大六野(だいろくの)治朗衛門(じろうえもん)』の文字はもはや消えかかっている程だった。

 

門人札(もんとふだ)か… 門人札は道場主との"血判(けっぱん)"。 道場から持ち出すその意味は分かっておろうな?」

「貴様に言われずとも分かっている」

「ほっほ、威勢が良いのう。 若いと言うわ羨ましいわい」

 

屋敷の主・葛貫(つづらぬき)勢五郎(せいごろう)は、足元の門人札を拾い上げると懐にしまった。

 

「葛貫、貴様何故()()()()()()()()()

「言えば聞いたか?」

 

葛貫の問いに答える事はせず、大六野は己の腰に挿さる斬魄刀を鞘ごと抜くと右手に持ち替えた。

 

「…ここではまずいのう。 場所を変える、付いて参れ」

 

葛貫に導かれるまま、大六野は闇に姿を消していった。

 

 

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「至急隊長に御報告しろ!」

「隊長は席を外しております…!」

「馬鹿野郎、何の為の隠密機動(おんみつきどう)だ、裏挺(りてい)隊を使え!」

 

四番隊隊舎・護廷十三隊救護詰所は突如として騒然とした雰囲気に包まれた。

それは、1人の男の目覚めによるものだった。

 

如何(いかが)致した」

斧ノ木(おののき)副隊長!」

 

先程から指示を飛ばしている男に斧ノ木と呼ばれた、四番隊副隊長・斧ノ木(おののき)総二郎(そうじろう)は、急に慌ただしくなった隊舎の様子を見に来ていた。

 

「奴が、奴が意識を取り戻しました!」

「なに…?」

「現世で虚に襲われた、七番隊第四席・伊座屋(いざや)仁峰(じんほう)が意識を…!」

 

その言葉を聞き、斧ノ木は急ぎ病床へ駆け付けた。

意識を取り戻したものの、未だ混濁激しい仁峰は、口を金魚のようにぱくぱくとさせている。

 

「隊長には?」

「只今連絡を取っております」

「総隊長には」

「いえ、それが…」

「何をしておる、早ようー」

 

斧ノ木が総隊長のもとに伝令を走らせようとしたその時、仁峰の口から声が漏れ出した。

 

「待て、何か言おうとしておる」

「…ば…おり」

「ゆっくりで良い、お主らを襲った奴を確実に頼む」

陣羽織(じんばおり)の男が… 俺達を襲った…」

「なっ…!」

 

斧ノ木は男の特徴を聞き、驚いた。

陣羽織の男に心当たりが有った。

尸魂界広しと言えども死覇装の上に陣羽織を羽織る男は、斧ノ木が知る限り1人しか居なかった。

その推測は、護廷十三隊が持っていた"疑惑"を"確信"へと変え、ともすると戦へと発展しかねない危うさを孕んでいた。

 

「…伝令は良い、儂が総隊長に報告する」

 

斧ノ木は一番隊隊舎へと走った。




ついに意識を取り戻した七番隊隊士・伊座屋仁峰。
仁峰ともう1人の七番隊隊士・斎賀栄八を襲った人物が仁峰の口から語られ、その正体が陣羽織を羽織った八剣聖・玉輝衛童だと判明する。

そして"20年前の再現"を目論む八剣聖は、八剣聖総代・東元坂興征が、副総代・葛貫勢五郎と玉輝衛童に出した別命により、大きく揺れる。

護廷十三隊・八剣聖・『元流』元字塾、そして尸魂界全土を巻き込む大戦が今まさに始まろうとしていた。

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