BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜 作:二毛目大庄
剣の力・技術だけでなく「万能な隊」を目指す山本が目指す次なる目的地は、あまりにも巨大な屋敷だった。
「さて…」
十字斎は湯のみに残っていた煎茶を飲み干すと、頃合いを見計らったように呟いた。
屋敷の主、雷迅・麒麟寺天示郎が声を掛ける。
「十字斎、行くのか」
「あぁ。次の隊長を探さねばならん」
「もう決まっているのか?」
「儂の中では…な。ただ、本人の承諾を得ねば、無理矢理任命した所で反発を招くのは目に見えている。特に、八剣聖の連中はプライドが高いからな」
「! やはり隊長には八剣聖が…?」
驚く天示郎に、山本は言葉を続ける。
「全員では無いが、何人か当たろうと思う」
「おめぇを含め八剣聖の霊圧はズバ抜けてるからな」
「奴らの力は、この先必ず尸魂界に、この組織に必要になる」
「だが気を付けろよ…一筋縄では行かねぇ奴らばかりだぞ」
「あぁ。邪魔したな」
「また湯に浸かりに来い」
天示郎はニヤリとしてそう言った。
その言葉を背に、山本と和尚は天示郎の屋敷を発った。
「十字斎」
次の目的地に向かう途中で、真名呼和尚は一つの疑問をぶつけた。
「先程天示郎との話の中で、隊長に任命するのは八剣聖全員ではないと言ってたが…?」
「今度の組織には『力』だけではない、万能な隊にしたい。天示郎もその一人だ」
「剣の力だけでは無く、様々な分野の達人が集まった隊…か」
「あぁ。その中で儂が特に仲間に入れたいのが…ここに居る」
「な…、この屋敷は…!」
「尸魂界を護る隊に、この方の力は必要不可欠だろう」
2人は、尸魂界広しと言えども指折りの大きさの屋敷の前に立った。
山本が門を叩く。
「頼もう」
大きな声で声を掛けるも返答がない。
こういった屋敷の場合、主は出ずまず下郎が応対に出るはずだが、その下郎の気配もない。
山本はもう一度「頼もう」と声を掛けた。
「なんじゃ2人して」
返答は予想していた方向から聞こえず、門の屋根瓦から聞こえてきた。
山本と和尚は、同時にパッと上を見た。
そこには猫がいた。気品溢れる、真っ黒な猫だった。
「久しゅうございます、夜影様」
「しばらく見ぬ間に傷が増えとるの、ノ字坊」
「お恥ずかしい限りで…夜影様、その名で呼ぶのはお止め下さい」
「では今は十字坊か?」
夜影と呼ばれた猫は、そう言ってひとしきり笑った後、顔に笑みの様なものを浮かべながら続けた。
「儂にとってはいつまで経ってもノ字坊じゃ。いくらお主が八剣聖と呼ばれ、新たな組織の頭目になろうとものう」
「!」
「なんじゃ、儂が知らんとでも思うたか? 青い、青いのぉノ字坊」
「…それならば話は早い。是非ー」
「ならん」
「!?」
夜影はぴしゃりと言い放った。
「ならん。ならんぞ、隊長なんぞには。雷迅の奴は言いくるめられたらしいが、儂はならんぞ」
「では、おにー」
「やらん」
「!!?」
「やらん。やらんぞ、おにごとなど。雷迅に勝った奴に儂が勝てる訳がない」
夜影は、少し情けない事を自信満々に言った。
「だと思い、提案した次第です…」
「情けない奴じゃのう…」
「では何でなら勝負して頂けますか」
「お主もしつこいのう」
そう言ってしばらく考えた後、夜影は意地悪そうな声で提案した。
「では…白打じゃ」
「なんと…!」
2人の会話を勿論聞いていた和尚は、夜影の提案に対して驚きを隠せなかった。
「十字斎、この勝負は無謀だ。奴は、夜影は尸魂界白打最強の四楓院家歴代当主のなかでも3本の指に入る白打の使い手だ」
「あぁ…勿論知っている。夜影様は儂の白打の師匠だ。だがやるしかないだろう」
山本はそう言うと、死覇装の袖着物を脱ぎ捨てた。
「四楓院夜影、勝負…!」