BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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消えた血判

『元流』総本山、『元字塾』柳の間に3人の姿があった。

元流開祖にして総師範、護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國と、同流師範・大六野(だいろくの)治朗衛門(じろうえもん)、同流師範代で大六野の参謀的役割の真衣野(まさきの)泰三(たいぞう)の3人である。

 

「さて、説明して貰おうかのう」

 

柳の間上座に胡座(あぐら)をかいて座る山本に対し、師範と師範代は、まるで叱られている(こども)のように正座をし、その身体を強張らせている。

真衣野は先程道場内で起きた、八剣聖・葛貫(つづらぬき)勢五郎(せいごろう)強襲の顛末(てんまつ)を些細に説明した。

 

「葛貫が、のう」

「先生、教えて下さい。 葛貫勢五郎とは一体どのような人物なんです」

「葛貫は真衣野の言う通り、八剣聖の副総代じゃ。 八剣聖の序列はその強さで決まっている。 知っておるのう?」

「と言うことはつまり…」

「そう。 奴は怪物揃いの八剣聖で2番目に強い男、と言う事じゃ」

「2番目…」

「20年前の虚侵攻戦。 あの戦では流魂街の民は勿論、瀞霊廷の住民や死神にも数多くの死傷者が出た大きな戦じゃった。 それだけに、討伐で活躍した者は数少ない英雄と崇められた」

 

山本はその当時を振り返り、ぽつぽつと語り始めた。

 

「その数少ない英雄の1人があの男、人呼んで"葛斬(つづらぎ)りの勢五郎"じゃ」

「まさかあの男が、太刀筋"葛斬り"の由来だったとは」

「あれほどの剣の達人は、古今並ぶ者が居るかどうか。 八剣聖前総代の東元坂(とうげんざか)征郎太(せいろうた)殿ぐらいじゃろう」

 

真衣野は、そんな男の強襲に遭って尚、この命がある事に今更ながら安堵した。

と同時に、疑問に思った。

 

「何故この命が未だあるのか、か?」

 

山本に心中を見透かされた真衣野は驚いた。

 

「先生、奴の狙いは一体何でしょう?」

「俺だ…」

「大六野…」

 

強襲の現場である道場から柳の間に聴取の場を移してからも、ただの一言も話さなかった大六野は、ようやくそこで口を開いた。

真衣野が千度勧める医務室行きに、「大丈夫だ」と頑なに拒み続けるものの、大六野のその額には脂汗が滲んでいた。

 

「ふむ。 確かに奴らはこの儂に怨みを持っている。 今や『元流』の顔たるお主を倒せば、儂の顔は潰れ、『元流』の看板にも泥が付く。 そう考えたのじゃろう」

「では初めから大六野を狙って…」

「大方そんな所じゃろう。 大六野、お主は身体を休めて来たるべき時に備えておけ。 今のその身体ではとても奴らには敵うまい」

 

大六野は、葛貫の剣撃を受けた身体の部分に手を当て歯噛みした。

その様子を見て山本は、決してお世辞などではなく、率直に大六野の実力を評した。

 

「お主の実力は誰もが知る所じゃ。 護廷十三隊一番隊の席官の座に就かず、剣術一筋に打ち込み、塾生から師範の座に上り詰めた お主の実力をな」

「…ありがとうございます、先生」

「儂も八剣聖を辞されたとは言え、『元流』の総師範。 どれ、今日はゆっくりと後進の育成に励むかのう」

 

大六野と真衣野は、山本が放った『八剣聖を辞された』との言葉に、目を見開き反応した。

 

「先生が八剣聖を…?」

「何じゃお主ら、知らんかったのか」

「初耳です」

「儂と七番隊隊長の武市(たけち)五十雨(いさめ)は、護廷十三隊の隊長職に就いた事を理由に八剣聖を解任されてのう。 まぁ元々どうでも良い肩書きじゃ、特に申し立てもせず放っておる」

 

山本は「さてと」と声に出すと、ゆるりと立ち上がった。

 

「儂は塾生達に稽古を付けてくる。 真衣野は大六野を医務室に連れて行くように。 大六野、くれぐれも分かっておるな。 その身体ではどうしようもないぞ」

「…承知しております」

 

 

その日の夜更け、静かに眠りにつく山本の寝屋(ねや)に向かって、騒々しく廊下を走る気配が近付いて来た。

その気配を察知し、山本は寝間(ねま)から身体を起こし寝屋の障子戸を開けた。

 

「何事じゃ」

 

そこには、自ら命を申し付けておいた塾生が片膝をつき(かしこ)まっていた。

その姿を見た途端、山本は悟った。

 

「も、申し上げます。 大六野師範の姿が見当たりません」

「あやつめ…」

「加えて、師範の斬魄刀と門人札(もんとふだ)も無くなっております」

「門人札まで持ち出すとは…。 師範の座を捨ててまで葛貫の所に行きおったか」

「申し付けを守れず、申し訳ございません」

「よい。 奴程の者が本気で抜け出すとなると、1人や2人では防げん。 ここまで本気だと見抜けなかった儂の失策じゃ…。 出るぞ」

 

山本はその日のうちに護廷十三隊全隊へ、大六野治朗衛門の捜索命令を出した。


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