BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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『魂魄の番人』

魂魄(こんぱく)は、現世と尸魂界で常に一定の量に保たれており、現世で死者が出た場合、死神はそれを魂葬して尸魂界に送る。

尸魂界からは現世に別の魂魄が送り込まれ、生物として誕生する。

そうして魂魄は死神の手により循環し、調整されてきた。

 

もしこの均衡が崩れたなら。

 

現世の魂魄が"何らかの理由"で大量に消失したとすると、尸魂界側に世界が傾き、現世は崩壊。

生と死が混同する、混沌とした世界となる。

そうならぬよう、死神は常に魂魄の量を見定め、魂魄の運用を日々行っているのである。

死神は『調整者』の異名を持つ、魂魄運用の歯車だ。

 

では誰がこの歯車を廻しているのか。

現世と尸魂界の魂魄の量を完全に把握し、調整し、死神を歯車として使い、世界の崩壊を防ぐ為に尸魂界では1つの指標が用いられている。

『魂魄の番人』の名を冠したその指標の名はー

 

 

 

「たわけた事を抜かすのう、陸鷹よ」

「俺の霊圧知覚が反応しない限り、頼みの綱はあんたしかいないんだよ」

 

『魂魄の番人』を訪ねてきた志波(しば)陸鷹(りくおう)は、先日現世で起きた事件のあらましと、自ら現世に赴き調査した結果、加えて護廷十三隊随一と評される自身の霊圧知覚が全く反応しない事を告げた。

陸鷹が伝えた話には全くの無関心だった『魂魄の番人』は、陸鷹の霊圧知覚が反応しなかったと聞くや、陸鷹に半歩近づいた。

 

「うぬの霊圧知覚が反応しない、じゃと…?」

「あぁ。 虚一体の霊圧と、件の死神の霊圧は現場に残ってはいたんだが、そこから先の行方は分からなかった」

「ふむ…」

「霊圧の行方が不明な以上、あとは現世と尸魂界に魂魄の動きが有ったかどうかで追うしか無いと思うんだ」

「それがたわけた事だと言うんじゃ。 1日に一体幾つの魂魄が往来している思っている」

 

『魂魄の番人』は陸鷹に背を向けた。

陸鷹は引き下がる訳に行かず、『魂魄の番人』の性格を分かった上で、あえて挑発的な言葉を投げかけた。

 

「分かったよ。 さすがのあんたでも行方が分からないんじゃどうしようもない。 案外万能って訳でも無いんだな。 あんたの『修多羅(しゅたら)等級』も」

「…なに?」

 

自身名を冠した『修多羅等級』を揶揄された『魂魄の番人』・修多羅千手丸は、再び陸鷹に向き直ると、背中に()いた義手を威圧的に(うごめ)かせた。

 

「あんたの『修多羅等級』は、存在する全ての魂魄を把握し、現世と尸魂界の均衡を保っている訳だろ?」

「抜かせ。 本来『修多羅等級』とは、両界の"魂魄総量境界侵度(こんぱくそうりょうきょうかいしんど)"に対する警戒強度指標であって、魂魄の行方を追う為のものではない」

「でもそれはあんたの能力に依るものだろう? 虚の魂魄と死神の魂魄が尸魂界に来てるかどうかぐらい分からないと、仕組みとして成り立たないんじゃないの?」

「貴様…」

 

千手丸は眉間に皺を寄せ、不快感をあらわにする。

しかし、一歩も引こうとしない陸鷹に根負けしたのか、溜め息を1つ吐くと「その場で待て」と言い残し、奥の座敷に消えていった。

 

しばらくすると戻ってきた千手丸は、1枚の紙を手に持っていた。

 

「これは…」

「死神の魂魄と正体不明の魂魄が3日前、尸魂界に入ってきている」

「正体不明?」

「虚の魂魄と言いたいところだが、断定は出来ぬ。 ただ、"正"でも"負"でもない故に正体不明とした」

「死神と正体不明の魂魄… ほぼそれで間違いなさそうだね」

 

陸鷹は千手丸から紙を受け取ると、頭を下げた。

唐突な行動に、千手丸は少し面食らった。

 

「感謝する、千手丸。 あんたが居なかったらここまで分からなかった」

「…構わぬ。 しかし他隊の隊士の為に何故ここまでする。 隊首たる うぬがここまで動くこともなかろう」

「何故なんだろうな…。 恐らく、七番隊の隊風に理想を見出してるからかもしれない」

 

陸鷹は千手丸の問いにそう答えると、今も部下を想いながらも自室謹慎になっている七番隊隊長・武市(たけち)に想いを馳せた。


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