BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜 作:二毛目大庄
1人の男が長い回廊を大股で歩いていた。
回廊の床は木で出来ており、木目がくっきりと浮き出て、時々ある節がいい味を出している。
手の行き届いた庭園を左手に見ながら進むと、やがて目的の離れに着いた。
見張りの隊士に声を掛け中に入ると、男は「変わりありゃせんかの」と、離れの中に座っている男に話し掛けた。
「兵主部殿…!」
「元気そうだのう、五十雨」
十三番隊隊長・兵主部一兵衛は、山本元柳斎重國の命により謹慎となっている、七番隊隊長・武市五十雨を心配し、報告も兼ねて七番隊隊首室である"畢生堂"までやって来たのだった。
「ここは何度来ても広くて迷うわい」
「あなたの"雨乾堂"への道のりも、相当な距離ですが」
五十雨はそう言って表情を緩めると、一兵衛に座布団を勧めてから、立ち上がってお茶の準備を始めた。
「おんしが謹慎になってもう3日か」
「元柳斎殿自らの部下を見張りにつけるとは、中々の念の入れよう」
「とはいえ、おんしが本気になれば、今すぐにでもここを出れるだろう」
一兵衛は離れの入り口の方に一瞬目をやり、淹れた煎茶を持ってきた五十雨を見ると、頬を僅かに歪ませた。
「そんな事は致しません。 出来ればすぐにでも行きたいところです」
「おんしの隊の隊士だがな、現世に痕跡は有ったものの、その足取りは全くの不明との事だ」
「やはり現世派遣の隊士ではー」
「いや」
現世派遣の隊士だと力不足と言い掛けた五十雨の言葉を、一兵衛は遮った。
「今回は陸鷹も一緒じゃった」
「な!? 志波隊長が…?」
「彼の地は十番隊の管轄。 十番隊頭の陸鷹も責任を感じ、お主の力になりたい。 そう感じていたのかもしれんなぁ」
「そうですか…」
五十雨は感謝と申し訳なさで、それ以上言葉を続ける事が出来なかった。
自分の心中を見抜き、他隊の隊長が現世に赴く。
それは本来なら煩雑な手続きが必要で有り、通常では有り得ない事であった。
「陸鷹の霊圧探知は十三隊屈指。 その陸鷹をもってしてでも足取りを掴めないとなると、おんしの隊士と虚はどこに消えたんだろうなあ」
「考えられる事は2つ」
「虚による隊士の殺害、またはー」
「虚が私の隊士を攫った、ですね」
一兵衛は五十雨の考えが陸鷹と同じ事を確認すると「それはそうと」と話題を変えた。
「おんしと元柳斎、八剣聖の除名が決まったそうだ」
「やはり…」
「中央四十六室は、護廷十三隊と八剣聖、目的も志も役割も違うものと判断し、護廷十三隊の隊長との兼任は許さない、との事らしい」
一兵衛はお茶を一口啜ると、言葉を続けた。
「元柳斎はともかく、長きに渡り八剣聖に選任され続け、20年前の虚討伐戦でも八剣聖と共に活躍したおんしまで外すとはのう」
「もとより、称号などに興味はありませぬ」
「おんしらしいわ」
一兵衛はそう言うと、湯呑みに残っていたお茶を一気に飲み干し、立ち上がった。
「護廷十三隊は未だ寄せ集めの集団。 特に隊長・副隊長を心から信頼しとる隊士など稀じゃ。 それに比べ、おんしの隊はおんしの流派と道場の者たちで構成されておる。 その絆は今後、大きな利となって現れてくるだろう」
「大きな利、ですか」
「仲間を大事にのう」
一兵衛はそう言って畢生堂を後にした。