BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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柳をなぞらえて

1人の男が、道場で木刀を振るっていた。

時に激しく、時に淑やかに。

まるでそこに本当に"敵"が居るかのように錯覚する程の、非常に高い域に達した演武だった。

 

ー 違う。 あの人の太刀筋はもっと速い。

 

上段の構えから一気に木刀を振り下ろし、床板すれすれの所で止めると、一歩踏み込み左斜め上に振り上げた。

 

「見事な葛斬り(つづらぎり)だな、大六野」

 

大六野と呼ばれた、演武をしていた男・大六野(だいろくの)治朗衛門(じろうえもん)は、少し驚いて振り返った。

道場には人の気配が一切無かったからだ。

 

「真衣野、いつからそこに」

「ふっ、ずっとだ」

 

一瞬茶化すように笑みを浮かべた真衣野(まさきの)泰三(たいぞう)は、もたれ掛かっていた壁から身体を離すと、大六野に近付いた。

 

「塾生筆頭から『元流』師範にまで上り詰めたのに、やけに熱心じゃないか。 …やはりまだ八剣聖になり損ねた事を気にしてるのか?」

「馬鹿を言え。 ただ… 覚えているか、真衣野」

 

大六野は、額の汗を拭うと道場の引き戸を開け放った。

新鮮な外気が道場へと流れ込む。

 

「200年前、卯ノ花烈…いや、卯ノ花十一番隊隊長を真央地下監獄に封印する際、八剣聖は壊滅の危機にまで追いやられた。 事実、前総代であられた東元坂征郎太殿は、あの戦いで命を落とした」

「通称・空木事変、だな」

「そして20年前。 中央四十六室から元流に"八剣聖の穴を埋めよ"との命が下された」

「元流から1人選ぶ事になった」

「あぁ。 その時総師範が選んだのは他でもない、何百年も八剣聖入りを頑なに拒み続けた、御自身だったのだ」

「確かにあの時点でお前は、一介の塾生筆頭でありながら、その実力は八剣聖に引けを取っていなかった」

「…あの時八剣聖に選ばれなかった理由は、今も模索している」

 

真衣野は道場を出てすぐの縁側に腰を掛けた。

 

「その時世における、最強の剣客8人。 総師範はその称号が欲しくなったのかも知れんな」

「馬鹿を言え。 『八剣聖』の称号など無くとも『剣聖』の名に相応しいのは、今も昔もあの人だ」

「それもそうだ」

 

大六野と真衣野の会話が一段落すると、真衣野は瀞霊廷内で聞いた噂を口にした。

 

「それはそうと大六野。 八剣聖の周辺には気を付けろ」

「周辺?」

「あぁ。 護廷十三隊には都合13の隊が有って、それぞれに隊員が所属している。 八剣聖には8人それぞれに流派が有り、そこにはその剣に太刀筋に惚れ込んだ人間が居るってことだ」

「それは分かる。 我等も総師範の振るう剣に惚れて『元字塾』に入門したのだからな。 しかし、気を付けろとはどういう事だ?」

 

真衣野は縁側から立ち上がると、中に入れ、と大六野に首で合図してから道場に入り、引き戸を閉めた。

 

「どうやら護廷十三隊が出来た事が、八剣聖側は快く思っていないらしい」

「なに? 八剣聖は前総代の征郎太殿のもと、瀞霊廷の守護を担ってきていたはず。 そこは護廷十三隊と志を同じくするはずであろう」

「ともかく、八剣聖とその周辺には気を付けろ」

 

「儂らがどうした?」

 

「なっ!?」

 

大六野と真衣野が声のした方向を見るとそこには、白髪に無精髭、左目には刀の鍔らしき物で眼帯をした初老の男が立っていた。

 

「…今日は客が多い」

 

大六野はそう言いながら男に向き直り、木刀を金剛の構えにとった。

 

「ほう、縦八相か。 太刀筋が読みにく構えじゃのう」

「貴殿に尋ねる。 一体何が目的で正体は何だ、申せ」

「ほっほ、そう剣気を当てるでない。 儂は道場破りでも果たし合いをしに来たのでもない。 大六野厳蔵治朗衛門、そなたに用事が有って来たのじゃ」

「俺に…?」

 

今や元流師範を務める大六野に近寄ってくる輩は多い。

実力試しや果たし合いから道場破りまで、師範に就任してからというもの、大六野への他流派からの客は、途絶えた事が無かった。

大六野は木刀を握り直した。

 

「用事が有る者は玄関から訪ねてくるもの… 用事は斬ってから聞こう」


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