BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜 作:二毛目大庄
闇夜に浮かぶ巨大な影と男。
それと対立するかのように、1人の男が間合いをとり、1人の男が地べたに座り込んでいる。
間合いを取っている男・
「何してんだ、立ちやがれ!」
仁峰はすでに臨戦態勢をとり、斬魄刀の
「全く、無様だねぇ。 そんな事でこれからここを護れんのかい」
「てめぇ、俺の後輩を馬鹿にしやがって」
「君も君だよ。 伊座屋仁峰と言ったか。 君の指導力不足だ。 いや、君の隊の気風か?」
指導力だけでなく、隊の事まで持ち出され、仁峰はその表情に怒りを滲ませた。
斬魄刀を握る手に力が入る。
「おい、俺たちが七番隊と知っての侮辱か? 詫びるなら今の内だぜ」
「七番隊… ほう、あの裏切り者の」
「裏切り…?」
「まぁ良い。 いずれにしても君は気を抜き過ぎだ」
陣羽織の男は虚の前に立っていたが、後ろに回り込んだ。
「目の前の"こいつ"は、明らかに君の敵だ。 違うかね?」
「…っ!」
「敵ならすぐ斬れ。 俺からの最後の助言だよ。 …行け」
男は冷徹にそう言い放つと、虚はそれが合図かのように、仁峰の何倍もの巨躯を武器に突進して行った。
ーまぁ、その助言は2度と役に立つまいよ。
虚の咆哮と斬撃の音を背中に受けながら男は、霊子で作った足場を昇りつつ、地獄蝶を空に放った。
七番隊隊首室『
裏挺隊から一報を聞いた男は、そこを飛び出した。
背部を"七"に染め抜かれた隊長羽織を着用し、肩まである髪を風にたなびかせ、四番隊隊舎へと向かった。
「仁峰!」
男は四番隊隊舎を兼ねた護廷十三隊救護詰所の扉を開けるなり、自分の部下の名前を叫んだ。
七番隊隊長・
四番隊士の案内で、五十雨は仁峰の病室の扉を開けた。
そこには、未だ意識を取り戻さないまま横たわる、己の部下の姿があった。
五十雨はひとしきり仁峰の身体を眺めると、武市五十雨到着の報告を受け駆け付けた四番隊隊長・
「すまねぇ。 今の俺の腕じゃあここまでが限界だ。 あとは本人の内部霊圧次第だな」
「いえ。 しかし麒麟寺隊長、これは」
「あぁ、
事前に
「また元柳斎から聞くとは思うが、斎賀の野郎については、今の段階では行方不明って事だ。 全力で捜索に当たってる」
「…かたじけない」
五十雨は天示郎の話を聞いて、思わず拳に力が入った。
自分の隊の隊員が、他隊のお世話になった事。
自分が隊員を救えなかった事。
必ず自分が決着を付ける。
斎賀栄八を取り戻す。
その気概に満ちていた。
「して、虚はいずこに」
「あぁ、その事なんだがよ。 おめぇのところの伊座屋と斎賀が虚と交戦してた場所は十番隊の管轄内だったみたいで、十番隊が駆け付けた時には居なかったっつう話だ。 要は取り逃がしたってこった」
「そうか…」
まずは虚の捜索。
十番隊が全力で捜索しているとの事だが、一般隊士では埒が明かない。
霊圧感知は自分の方が優れている。
さらに、万が一虚に遭遇した場合、一般隊士では歯が立たないだろう。
元柳斎に隊長職を任ぜられる以前より、元柳斎や天示郎、兵主部一兵衛や四楓院などはすでに見知った顔であったが、八剣聖の1人として名を馳せていた以上、それら見知った顔よりも、剣術の腕は劣らぬし、ましてや虚など歯牙にもかからぬ、という自信が有った。
職務は副隊長に任せて自分が出張ろう。
五十雨はその腹づもりだった。
そこまで考えていた時、2名の男が仁峰の病室に入ってきた。
五十雨が振り返るとそこには、山本元柳斎重國総隊長と沖牙源志郎一番隊第三席が立っていた。
「…元柳斎殿」
「五十雨。 おぬしには今回の件、手を引いてもらう」
「なっ…!」
山本が淡々と伝える、突然過ぎる冷徹な言い渡しに、五十雨は動揺を隠し切れなかった。
「今回の件、どうやら八剣聖が絡んでおるようなのじゃ」
「八剣聖が?」
「その辺りはまだ調査中じゃ。 しかし、疑いが濃厚な以上、儂と同じく八剣聖に名を連ねておるおぬしには、任せられん」
「他の八剣聖はともかく、私は何も!」
「五十雨!」
尚も食い下がろうとする五十雨に、山本は一喝した。
病室に暫しの沈黙が流れる。
「…この件が解決するまで謹慎とする。 見張りも一番隊より2名付けさせて貰う。 良いな」
抗う余地の無い総隊長命令に、五十雨は一言、「分かり申した」と言う他は無かった。