BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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20年前、俺伊座屋(いざや)仁峰(じんほう)はまだ統学院生だった。

 

統学院では、魂魄は2種類あり、それが"(せい)"と"()"。

いわゆる善なる魂と悪なる魂。

正負は生前の行いによって決められ、"正"は守護霊や浮遊霊など、人間にとって害が無い霊。

一方"負"は、地縛霊や怨霊など、いわゆる霊障を引き起こす、人間にとって害が有る霊の事を指す。

俺たち死神は、"正"を導き"負"を浄化し、魂を輪廻させる調整者。

そうして、およそ100万年もの間歴史を紡いできた。

 

20年前の、あの事件までは。

 

白い不気味な仮面を被り、胸に(あな)の空いた巨大な異形の化け物。

"正"とも"負"とも違う禍々しいまでの霊圧。

尸魂界に大軍で押し寄せた"それ"は、尸魂界で涌いたのか、現世を含む外部から来たのか分からなかったが、"正"でもなく"負"でもない歪な魂魄を前に、100万年積み重ねてきた経験は、その意味を成さなかった。

 

その当時尸魂界には護廷十三隊も無く、尸魂界として一丸となって化け物達に対抗する手段が無かった為、八剣聖の面々や四楓院家の隠密機動、各流派の開祖や師範など、腕に覚えの有った者達が個別に対応するしかなかった。

今でこそ隊長を務めているが、護廷十三隊八番隊・京楽(きょうらく)源之佐(げんのすけ)隊長と浮竹(うきたけ)禅郎(ぜんろう)副隊長の2人は当時は一介の死神で、この戦が初陣だったという。

 

無論、俺たちの学び舎にも化け物は侵入してきた。

統学院入学と同時に貸与され、霊力を持った怨霊や悪霊を魂葬する際に抵抗に遭った場合使用すると教えられた斬魄刀『浅打(あさうち)』を皆腰に下げてはいたものの、突然の事態に教諭すら抜刀出来ず、統学院は混乱の一途を辿った。

しかし、死神統学院創始者の山本重國現総隊長が現場で直接指揮を執り、最前線で戦った為、奇跡的に死者は出なかった。

 

尸魂界全体に大きな傷を残したこの事件は、死神の常識を覆し、山本総隊長が護廷十三隊を創設するきっかけの1つにもなった事件だった。

 

実際にこの化け物と戦った者達は口々に「その図体と強さとは裏腹に、肝心な中心(こころ)が無い」「まるで(うろ)。中身が何もなく、戦っても虚しい」などと言い、その事から、この化け物を"正"と"負"とは別に"(ほろう)"と呼ぶ事に決まった。

 

後の解析で虚は、"負"の魂魄が中心(こころ)を失って堕ちた姿であり、その為胸に孔が空いている事が判明した。

この時全滅させた虚が全種だったのか、その後20年間虚の姿を見た者は1人もおらず、新参の死神などは教科書でしか見た事の無い代物となっていた。

 

しかし今日この日。

 

長らく武蔵国播羅(はら)の担当死神だった俺は、隊の四席昇級と同時にここを離れる事が決まっていた。

代わりに同隊六席の1人斎賀(さいが)栄八(えいはち)を召喚、俺の後釜として播羅の担当死神となった為、引き継ぎをしている時にそいつは現れた。

後ろで結った髪を腰まで伸ばし、頬に刀傷の有る陣羽織の死神。

それに付き従うように背後に立つ異形の化け物"虚"。

栄八は腰を抜かし、俺は目の前の現実が受け入れられず、思わず笑みが(こぼ)れる。

 

ーとんでもねぇ霊圧だな。

 

こんな時どうしたら良いか。

引継ぎの時、栄八に虚の対処法を教えかけた事があった。

こんな時はー

 

「刀を抜け! 栄八!」

 

俺は叫んでいた。


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