BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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飛翔

真打。

それは、卍解という概念が発生するより遥か昔、『真名呼和尚』兵主部一兵衛が初めて発現し、真名を付けた概念である。

『卍解』は、斬魄刀と″対話・同調″した上で″具象化・屈服″させる事で、持ち主と斬魄刀が精神的に融合、斬魄刀が持つ万とも言える能力を解放するのに対し、『真打』はいわゆる″進化した斬魄刀″。

斬魄刀の始解により発揮した能力を"進化"させる。

その為、斬魄刀自体の形状変化はない。

しかし、進化する事により得られる能力は、卍解を超えると言われており、尸魂界で真打を会得している者は、兵主部一兵衛を除いて確認されていない。

 

山本元柳斎重國は、1000年前に自身で設立した死神統学院で現在も使われている、教科書の一節を思い出していた。

真打『滅水丸・鳴滝不動』。

ただでさえ強力な『滅水丸』が、今ではその霊圧が何倍にも膨れ上がっている。

その霊圧の膨らみ方からして『真打』に間違いなかった。

 

ー これは教科書を書き換えねばならんな。

 

山本は冷や汗を一筋垂らしながら、現実逃避とも取れるような事を考えていた。

 

「どうした山本。 和尚に言われた通り、逃げる事ばかり考えているのか? そんな事で護廷隊を纏めれると思っているのか!」

「何をしている!『滅水丸』!」

 

『滅水丸』が山本を叱咤する声が響いたと同時に、その『滅水丸』を叱咤する声が響いた。

山本と『滅水丸』は声のした方向に顔を向けた。

そこには、自身の頭の倍ほども有る髪飾りをし、背中に6本の義手を佩く、小柄な女性と思しき姿があった。

 

「貴様は…『大織守』か。 久しいな」

「尸魂界から水が消えたと思えば、やはりうぬの仕業かえ」

「…何用だ。 和尚に続き、貴様まで私達の戦いを邪魔する気か」

「見くびるでない。 うぬらの戦いは見守るが、元柳斎がうぬを倒せなかった事を考え来たまでよ。 水が無ければ困るからのう」

「ほう。 貴様なら私を止めれると言ってるように聞こえるが?」

「やってみるか? 妾は仕事が早い事が売りでのう」

 

『大織守』修多羅千手丸はその口元に義手を当て、くくっと笑うと、背中に忍ばせてあった、縫い針の形状をした斬魄刀に義手を伸ばした。

『大織守』と『滅水丸』、両者は相対し、緊張はみるみる高まっていく。

それが頂点に達しようとしていたその時。

 

「お止め下され『滅水丸』様」

 

山本の声で、両者の緊張は一気に解放された。

その場に居た全員の視線が、山本に向く。

 

「いま相手をしているのは、儂のはずですぞ」

「『滅水丸・鳴滝不動』の霊圧だけで息苦しくなっていたひよっ子に何が出来る。 私を倒すとでも言うのか?」

「倒す? それは違います」

「何?」

 

『滅水丸』は、山本の思わぬ返答に、思わず眉を顰めた。

対峙し、間合いをとり、相手の出方を伺う。

それは"敵"に対しとる行動であり、"敵"は倒すべきである。

山本はしっかりと『滅水丸』を見据え、はっきりとした口調で言った。

 

「倒すのではなく、乗り越える。 『敵』ではなく『仲間』として。 全ての仲間を乗り越え、儂はそれを総ずる」

「…貴様の答えがそれか」

 

『滅水丸』は山本の眼を見た。

 

尸魂界全土から集められた、自らの腕に自信と誇りのある傑物たち。

それらを纏めるとなると、信頼などという生易しいものでは決して成り立たない。

その者達を、敵ではなく仲間として乗り越え、総ずる事。

それが出来るのは、山本元柳斎重國をおいて他に居ない。

 

ー 山本め、良い眼をしている。

 

『滅水丸』は霊圧を収束させると、斬魄刀を鞘に収めた。

辺りに満ちていた、水中にいるような感覚が消え失せた。

 

「これは…」

「気を付けろ元柳斎。 油断は出来ぬぞ」

「ふん、戦う気が失せたわ」

「ならば『滅水丸』様」

「勘違いするな。 私は私で、天から賜ったものを護る責務がある」

 

『滅水丸』は、山本と話しながら、"間合い"からただの"距離"となった間を詰めた。

 

「私の立場も理解しろ。 代わりに、私が最も信頼し、認めてる者を護廷隊に紹介しよう。 きっと気に入る」

「『滅水丸』様が信頼する者、それは」

「山本もよく知っている人物だ。 おい」

 

『滅水丸』が呼び掛けると、瞬歩で1人の死神がその場に現れた。

髪の毛を結わず肩まで伸ばし、体格よく、死覇装を着崩していた。

 

「皆様お久しゅうございます」

「こやつは…」

「八剣聖の武市 五十雨!」

 

山本は、一兵衛に武市五十雨と呼ばれた男に近付いた。

 

「確かに五十雨なら、腕も確かで信頼も出来る」

「尸魂界を思う心、それは私も同じ。 私で良ければお力になりましょうぞ」

「これは心強い。 しかし…」

 

山本は『滅水丸』を見た。

 

「大丈夫だ、山本。 主はすでに多くの仲間に囲まれている。 私の力など必要としないぐらいな。 それに、こいつも居るしな」

 

『滅水丸』は、そばに居た千手丸の背中を叩いた。

 

「妾は、護廷隊の話は聞いておったが、入るのを渋っておった。 しかし元柳斎、うぬが総隊長をするなら護廷の2字を背負う、そう決めていた」

「千手丸…」

「この間言い掛けた言葉、ようやく言えた」

 

 

山本と五十雨は『滅水丸』に礼と別れを告げ歩き出し、他の者はそれに倣い、滝場を後にした。

『滅水丸』は、滝場に来た時とは一回りも二回りも大きくなっている山本の背中を見送っていた。

 

山本よ。

もはや私の力など必要ない。

護廷隊の総隊長として皆を纏め、尸魂界を護れ。

四楓院夜影より強く、

握菱鉄裁より優れ、

麒麟寺天示郎より迅く、

二枚屋王悦より理解し、

朽木彩之丞より賢く、

武市五十雨より鋭く、

京楽源之佐より軽く、

狛村陣右衛門より狡く、

志波陸鷹より見抜き、

卯ノ花八千流より重く、

修多羅千手丸より早く、

兵主部一兵衛より長け、

そして何より、山本元柳斎重國。

己を超えろ。

これから先、尸魂界の未来はお前たちの肩に掛かっている。

 

『滅水丸』は、山本が見えなくなると同時に、その場に倒れ込んだ。

護廷隊と尸魂界の未来に、思いを馳せながら。




皆さまこんにちは、ニケモクです。

途中サボって、連載期間が無駄に長くなってしまった『護廷十三隊創設篇』も、『飛翔』をもって完結致しました。
連載開始当初から見守ってくださり、感想下さった方も居れば、最近見始めて下さった方もいると思います。
そして終わり方も賛否両論有るかと思いますが、僕が本当に終わりたい終わり方で書き終えれたと思います。

僕が描きたかった、初代護廷十三隊創設の話はこれで終わりですが、この後、創設された護廷十三隊の戦いを複数、僕なりに描いていきたいと思います。その中には、ユーハバッハとの戦いも有ります。
良ければ引き続きご覧下さい。

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