BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜 作:二毛目大庄
「なに?『滅水丸』を隊長の一人にしたい、じゃと?」
死覇装の仕立ての為に、とある屋敷を訪れていた山本元柳斎重國は、採寸を終え一安心したのか、その屋敷の客間で寛いでいた。
無事、一物を切り落されずに死覇装の採寸を終えた山本に、屋敷の主人はそう聞き返した。
「そうじゃ」
「綱彌代には声を掛けたのか?」
「あの方はあの方で、五大貴族筆頭としての役割が有るじゃろう」
「しかし何故また『滅水丸』なのだ。 奴は扱いづらいぞ?」
「『滅水丸』様の持つ底知れぬ霊圧、それは尸魂界の為には無くてはならないものじゃ。 それにのう…」
山本は、仕事を終えたばかりの主人が淹れたお茶を一口飲むと言葉を続けた。
「尸魂界に害を為す考え方の持ち主こそ、尸魂界の為に1つに纏まらねばならぬし、纏めねばならぬ」
「成る程のう。 元柳斎は剣術だけと思っていたが、尸魂界の事も考えておるんじゃのう」
「お主は違うのか? 千手丸」
千手丸と呼ばれた屋敷の主人・修多羅千手丸は、山本を茶化したつもりが、思わぬ形で水を向けられた。
「儂が護廷隊に入れたい最後の1人は、お主じゃ」
「妾は護廷の2字を背負う程の者では無い。 だが…」
「だが?」
「何でも無い、忘れてくれ」
千手丸は言いかけた言葉を飲み込み、誤魔化しつつそう言って立ち上がると、先程とは打って変わって鋭い目つきになり山本に言った。
「元柳斎、『滅水丸』を説得するなら気を付けろ。 恐らく戦う事になるだろうが、奴の斬魄刀はうぬの『流刃若火』と相性が悪い」
「相性が悪い?」
「そう、奴の能力はー」
「いや、よい」
山本は、千手丸の言葉を途中で遮った。
「お主の進言、確かに受け取った」
「元柳斎…」
「儂だけ情報を持っているというのも、平等じゃあるまいて」
そう言いながら山本は仕立て上がったばかりの死覇装に袖を通し、斬魄刀を腰に差すと、出立の準備を始めた。
千手丸は、山本を見送る代わりに言葉を掛けた。
「元柳斎、これだけは言っておく。 お主の『流刃若火』は焱熱系。 奴の斬魄刀は」
使役系ー。
山本は『滅水丸』と対峙しながら、千手丸の話を思い出していた。
刀の形状に変化はなく、使役系と一口にいっても、何か周りに集まっている訳でもない。
一体何を…。
「一体何を使役しているのか。 そう考えているな?」
「…!」
「聞き及んでいる事とは思うが、私の『滅水丸』は使役系の斬魄刀。 そして使役するものは…」
『滅水丸』は一足飛びで山本との間合いを詰めると、大きく斬魄刀を振りかぶった。
「水だ!」
山本は振り下ろされたその斬撃を躱し、後ろに大きく飛ぶと、間合いを取った。
相手の能力がまだ解らない以上、無闇に反撃するのは得策ではない。
少なくとも1対1での剣の利はこちらにある。 そう判断した。
「剣の利はこっちにある。 そう思うか?」
「何もかもお見通しですな」
「ふん、私も見くびられたもんだ」
「見くびっていれば攻撃しとります」
「ふん、まぁ良い。 そんなお前に教えてやろう、私の斬魄刀の能力を」
「なんですと…?」
山本は耳を疑った。
斬魄刀の能力を明かすこと、それはつまり手の内を晒すということ。
血を操作して相手を攻撃する能力と明かして血を入れ替えられ、音で相手を攻撃すると明かして自ら鼓膜を破るなど、能力を明かして対策される可能性も十分あった。
「能力を明かしてなお、私と貴様の間には、埋め難き霊圧差がある」
その不利益を顧みず明かすと言うことは、『滅水丸』の絶対的な自信があった。
「私の斬魄刀『滅水丸』は水を滅す刀。 ひとたび解放すれば、尸魂界に存在する全ての水は消え失せる。 ただの1ヶ所を除いては…」
「尸魂界の全ての水が?そんな事が…」
「気付かないか? 水で濡れていた私の死覇装と髪が乾ききっている事に。 そして、川の水が枯渇している事に」
この戦いを側で見守っていた兵主部一兵衛は、尋常ではない霊圧の高まりを『滅水丸』から感じ取っていた。
「元柳斎、逃げろ! おんしでは敵わん!」
「もう遅いわ。 山本、尸魂界全土から消えた水は、どこに集まると思う?」
山本は『滅水丸』の問いに答えられずにいた。
まるで、水中にいるかのような息苦しさを感じさせる霊圧の重さ。
『滅水丸』の背後にある滝の音だけが響いていた。
山本は気付いた。
川の水が枯渇しているのに、滝の音は響き続けている。
『滅水丸』は滝に相対し、刃禅を組み、対話していた。
つまりー
「ようやく気付いたようだな。 解放によって消え失せた尸魂界全土の水はこの滝に集まる。 そして、私はそれを使役する事が出来る」
『滅水丸』はそう言うと、正眼の構えをとった。
それと同時に、『滅水丸』の霊圧の高まりは、最高点に達した。
「さらばだ山本。 真打『滅水丸・鳴滝不動』」