BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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いずれ来たる未曾有の危機から尸魂界を護る為、きちんとした指揮系統のもとに団結した組織が必要と判断した山本元柳斎重國。
尸魂界に名を轟かせている数々の傑物を仲間にしてきた山本だったが、どうしても仲間に引き入れたい人物が2人いた。

その1人であり、尸魂界五大貴族の一角でもある死神、その名を『滅水丸』。
山本と『真名呼和尚』・兵主部一兵衛は、その者が修行しているという滝を訪れた。


『滅水丸』

始めは緩やかだった山道も、その傾斜は今ではかなり角度をつけていた。

右手に清流を見ながら、山本元柳斎重國と兵主部一兵衛の2人は、黙々と山道を登っている。

滝の音も遠くに聞こえてきた。

 

「そろそろか」

「どうした和尚。 息が上がってきたか?」

「それはおんしの方だろう」

「しかし、この川の水が尸魂界に潤いを与えているのだな」

 

他愛もない会話をしつつ歩みを進めていると、滝の音も近くなり、ひらけた場所に出た。

 

「ここはいつ来ても、見事な瀑布(ばくふ)じゃのう」

 

その『見事な瀑布』は、高さ10間はあろう落ち口から、見る者を圧倒するような水量を滝壺(たきつぼ)に吐き出し続ける、言わば直瀑(ちょくばく)であった。

一目で深いと分かる滝壺を(よう)する(ふち)に溜まった水は、緩やかな流れとなり、清流となって尸魂界へと流れていた。

 

一兵衛があげた気の抜けたような声とは対象に、山本はその表情を強張らせ、その目はある男を捉えていた。

その男は、滝の水飛沫(みずしぶき)をものともせず、斬魄刀を膝の上に置き、座禅を組んで滝と相対していた。

 

死神なら誰でも知っていた。

この姿勢の持つ意味を。

刃禅(じんぜん)』。

それは、己の斬魄刀と対話する際にとる姿勢であり、また、己の精神を極限までに研ぎ澄ます方法でもあった。

 

「お久しゅうございます」

 

山本は男の背中にそう声を掛けると、男は振り向きもせず「来たか」とだけ言い、すっと立ち上がった。

男は体格もよく、髪を後頭部で雑に結い、ようやく振り向いたその顔には、左上から右下にかけて刀傷が有った。

 

「元気そうだな、山本」

「『滅水丸(めっすいまる)』様こそ」

「その名で呼ぶなと言うに」

「尸魂界五大貴族のお名前は、一介の死神がそう易々と呼べるものでは有りません」

「はっ、心にもない事を」

 

山本が『滅水丸』と呼んだこの男こそ、山本がどうしても護廷隊の隊長の1人にと熱望していた人物であった。

その説得に、一兵衛と共にこの滝まではるばるやって来たのだった。

 

「名前も呼べぬほど敬遠している者を、部下にしようと言うのか?」

「部下などと…」

「話は夜影(よるかげ)や朽木から五華室(ごかしつ)で聞いた」

「では…」

「いや」

 

『滅水丸』は納刀したままの斬魄刀を手に山本に近づいた。

斬魄刀も死覇装(しはくしょう)も滝の飛沫(しぶき)で、水が(したた)るほど濡れていた。

 

「私はどうしても(ぬし)の下に付けんのだ」

「下に付けと申しているのではありませぬ」

「では聞こう。 もし主の言う護廷隊とやらが出来たとしよう。 その場合、誰がそれを(まと)めるのだ?」

「それは、隊長同士の話合いで…」

「笑わせるな!」

 

『滅水丸』は語気を強めると同時に、霊圧をその言葉に乗せた。

山本と一兵衛の身体を、川原の小石と水飛沫と共に霊圧の波が通り過ぎる。

 

「くっ…!」

「話合い、だと? ただでさえ血の気の多い奴らだ。 意見の食い違いで斬り合いを始めかねんと思わんのか?」

「それは…」

 

それは山本も従来より懸念していた事であった。

尸魂界全土からより集めた猛者達(もさたち)は、育ちも違えば、思想・理念・それぞれの正義も全く違う。

そこに各々の自尊心(じそんしん)が加わると、話合いなどでは決着はつかない。

そうなると、絶対的な代表、『総隊長(そうたいちょう)』とも言える立場の者が必要だと考えていた。

 

「抜け、山本」

 

山本はあまりにも唐突な言葉に面食らった。

しかし、『滅水丸』が続けて放った言葉に、山本はさらに驚かされた。

 

()(のこ)れ『滅水丸』!」

 

それは、斬魄刀『滅水丸』の解号だった。


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