BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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授業

中央四十六室。

 

それは、尸魂界全土より集められた40人の賢者と6人の裁判官によって組織された、尸魂界における最高司法機関にして最高権力機関。

尸魂界で起こる全ての事象・事案はここに強制的に集約され、必要とあらば審査に掛けられる。

死神が犯した罪などもここで裁かれ、決定された判断・判決は、五大貴族当主といえども決して覆る事はない。

 

そんな厳正厳粛な場に1人の男が連行された。

山本元柳斎重國、その人である。

 

「罪人、前へ」

 

低く、重い声が響き渡る。

山本はその声に従い、中央に進み出た。

その両腕は後ろ手にされ、冷たく、硬く重い枷がされていた。

この場には、山本を含めて50人程居るにも関わらず、驚くほど静かだった。

緊張感が辺りを重く支配する。

 

ここに入るのは、あの時以来2回目かー。

 

山本はそう考えながら、顔をなるべく動かさず周囲を見回した。

これから山本を裁く、咳払い一つしない46人の賢者と裁判官の前には、罪人から顔が見えないよう衝立がされており、一つ一つに番号が振られていた。

その一つ、二十八番を冠した衝立から声がした。

 

「ほう、貴様が山本重國か」

 

山本は発言して良いものかしばし逡巡したのち、短く、

 

「いかにも」

 

と返答した。

 

十一番が続けて山本を詰問した。

 

「この際、斬魄刀の無許可帯刀や真央地下監獄への無断侵入などどうでも良い。 しかし、卯ノ花烈…奴を、あの鬼人を解き放ったのはどういう事だ!」

 

十一番は固く握った拳を机に叩きつけ、声を荒げた。

その場に居た全員が山本の言葉を待った。

沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは、四十番の賢者だった。

 

「なぁ山本よ。 お前も知らぬはずは無いだろう。 かつてこの尸魂界を恐怖と混乱の坩堝に叩き落とした、あの者の本性を」

「…本性?」

「卯ノ花烈は強い。 間違いなく強い。 尸魂界開闢以来、奴に比肩するものは片手で数える程度。 その力は今後、尸魂界を取り巻く危機に必要かもしれん。 しかし」

 

四十番はそこで一旦言葉を区切った。

山本はそこで初めて四十番に目を向けた。

 

「しかし?」

「…奴は血を求め過ぎる」

 

山本は視線を戻すと、その重い口を開いた。

 

「今の尸魂界には力が足りませぬ。 これから尸魂界を取り巻く危機、それは今後どんどん強まりましょう。 もし前回のように、力を付けた悪霊…虚が再び侵攻してきた場合、あなた方は自分で身を護れるとお思いか」

 

淡々と事実を述べる山本に、尸魂界全土から集められた賢者達は返す言葉が無かった。

自分達に力が無いのは、他の誰でも無く、賢者達が一番よく分かっていた。

 

「その為に儂は、尸魂界全土を巡り、尸魂界及び瀞霊廷を護る組織を作っておるのです。 その組織に…奴の力が必要だと判断しました」

「お前の力で奴を御しきれるのか?」

 

二十八番の賢者は、嫌味たらしくそう返すのが精一杯だった。

 

「御しきる? それは不可能」

 

そう言い切った山本に、賢者たちは驚き、口汚く山本を罵った。

その中には、山本絶対断罪の声も多く混じっていた。

 

「心配無用!」

 

山本がそう一喝すると、中央四十六室は水を打ったように静まり返った。

 

「今後、卯ノ花烈がその力を内に向ける事はあるまい。 それ程、尸魂界を取り巻く状況は切迫しておる。 奴には、外に対し存分に働いてもらいます」

 

"罪人"であったはずの山本の言葉に、その場にいた者全員が呑まれていた。

山本は最早"罪人"ではなく、尸魂界に差し迫ってる危機に鈍感な"生徒"に対して教えを説く"講師"となっていた。

 

「もうよろしいか」

 

山本に返答する者は誰一人なかった。

山本は背を向けると、出口に向かって歩いて行った。

その背中に40人の賢者と6人の裁判官は、判決は追って連絡する、としか言えず、出て行く姿を見つめる事しか出来なかった。

 

その後、この件で山本に連絡が行く事は無かった。


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