BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜 作:二毛目大庄
「…ここは」
「おう、目が覚めたか」
「儂は、眠っておったのか」
「あぁ。 二日間、な。 烈との戦いの後気を失って、長次郎がここへ連れてきた」
「二日もか… やはり奴との戦いは体力を使う」
山本元柳斎重國はそう言って布団から身体を起こすと、そばにあった土瓶から水を湯呑みに入れ、それを一気に飲み干した。
「しかしよく勝てたな、あの化け物に」
山本を治療していた麒麟寺天示郎は、決しておだてるつもりもなく率直にそう言った。
「烈にはまだ封印がされておったからな」
「鉄裁が掛けていた分か」
「あぁ。 もし烈が全力だったなら…」
『真の勝利とは言えない』と言いたげな山本を、天示郎は諭すように言った。
「あれだけの観衆の前で、あれだけの死闘を繰り広げた。 そして倒した。 それで十分じゃねぇか?」
「…まぁ、気付く奴は気付いとったようじゃがの」
「なに?」
「長次郎は封印の事に気付いとったようじゃ」
「はっ、奴は別格だろうよ」
天示郎はそう言って自分も湯呑みの水を飲むと一呼吸置いて話し始めた。
「なぁ、そろそろじゃねえか元柳斎よ。 お前の目的は、烈を倒す事じゃねぇだろう?」
「あぁ。 だが…」
「まだ足りねぇか」
「"目"が足りぬ」
その言葉を聞いて天示郎は立ち上がった。
「じゃあ入れに行こうじゃねえか。 お前が描く竜に睛を、な」
「しかし、あの方の説得は困難を極めるぞ」
「構わねぇ。 滅水丸だか何だか知らねぇが、説得がダメなら力ずくでやるまでよ」
山本は嬉しかった。
天示郎が、自分の理想とする組織を作ろうとする事に積極的に動いてくれるのが。
やはり皆、気持ちは一緒なのだ。
この世界を、尸魂界を護りたい。
その為に烏合の衆たる我らが纏まらねばならない。
山本は口元を緩めると同時に立ち上がった。
その時。
山本と天示郎が居る部屋に、黒頭巾を被った黒装束の男達が3人 "出現" した。
「…てめぇらどこから出てきやがった」
「麒麟寺天示郎、貴方に用は無い。 山本重國殿。貴方に中央四十六室より、斬魄刀無許可帯刀及び真央地下大監獄無断侵入、及び罪人脱獄幇助の罪で強制捕縛令状が出されております」
「四十六室の奴らめ、何を今更…」
「御同行願えますか?」
男達の1人が丁寧な口調で淡々と述べた。
疑問形で聞いてはいるが、その口調とは裏腹に強い重圧があった。
ーマズい。 いまここで元柳斎がしょっ引かれると、護廷隊の話が立ち消えになっちまう。
天示郎は男達3人を倒す手順を瞬時に考えると、実行に移した。
しかし、その初動を山本に止められた。
「元柳斎…!」
「天示郎。 お主の気持ち、有り難く受け取っておく。 中央四十六室を敵に回すその覚悟、並大抵の事ではない。 しかし、こやつらの言っておる事は何一つ間違っとりゃせん」
山本は男達に一歩進み出た。
「お主らが述べた罪状、間違いはない」
「元柳斎!」
「儂を中央四十六室へ連れて行け」
「お前が居なかったらどうするんだ、護廷隊は!」
「大丈夫じゃ。 歯車はもう回っとる」
男達は殺気石で出来た漆黒の棒を山本の前で交差させると、そのまま山本を拘束し、中央四十六室へと連行した。