BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜 作:二毛目大庄
それは、一瞬だった。
飛び掛ってきた卯ノ花烈を山本十字斎重國は、巨炎を宿した一刀のもとに斬り伏せた。
烈はその場に跪くと、自らを焦がす炎を見つめた。
「これが…卍解…」
「そうじゃ。 斬魄刀の持つ万とも言える能力と力を、自らの霊圧と融和させ最大限に引き出し、解放する。 故に、卍解」
「斬魄刀と融和、ですか」
「斬魄刀を、己の力を誇示する道具としか見ていないお主には、まだ難しいかのう」
烈は自身の斬魄刀『肉雫唼』に目をやった。
その表情は、どこか哀しげに見えた。
「馬鹿な…」
烈は炎に包まれながら肉雫唼をそのまま地面に刺し、杖代わりにして立ち上がろうとした。
「止めておけ」
「私はこの世の全ての流派を極めた者… 貴方などに負けるはずが…」
話の途中で吐血する程、烈の身体は傷を負っていた。
その烈に、山本は諭すように語りかけた。
勝敗は明らかだった。
「この世の全ての流派を極め、お主が自ら付けた名『八千流』。確かにお主はその名に相応しく強かった。 しかし儂は『元流』じゃ。 本元が複写物に負ける訳無かろう」
山本はそう言い、流刃若火を納刀した。
と同時に大粒の雨が降り出した。
その雨は、山本の霊力の残滓とも言える烈の身を焦がし続けていた炎を消火した。
「私は…」
烈は顔を上げ、山本の顔をしばらく見つめた後に何か言おうとしたが、叶うことなく力尽き、その場に倒れ込んだ。
「決着じゃ」
その言葉を合図にしたかのように、山本の元に駆け付ける者、その激闘を讃える者、烈を救護所に運ぶ者、静かに帰り行く者、それぞれに分かれ、尸魂界の未来を懸けた勝負の行方を見守り終えた。
「丿字斎殿!」
「長次郎か」
雀部長次郎はいち早く山本の元に駆け付けた。
山本は長次郎の顔を見るなり、その場に崩れ倒れそうになったが、それを長次郎が支えた。
「無茶をするからです」
「こうでもせねば勝てなかった…。 いや、今回は本当の意味での勝ちではないのかもしれん」
「…そうですね。 しかし『柳の如し」を真髄とする元流剣術、しかと見届けました」
山本は、長次郎が肯定した事に対し少なからず驚いた。
「なんじゃお主、知っておったのか」
「勿論です。 私は丿字斎殿の右腕、ですから」
長次郎が笑みを浮かべそう言うと、山本は嬉しそうに叱った。
「これ長次郎、その名で呼ぶなと言うたじゃろう。 またうちの者共に怒られるぞ」
「しかし…」
「『私ごときが丿字斎殿の名を変えてはならぬ』か?」
「はい」
「ならばこうしよう。 今日から儂は『元柳斎』と名乗る。 丿字斎でも十字斎でもない、儂自身が初めて自分に付ける名じゃ。 お主は今日からそう呼べ」
山本は指で空に字を書き、長次郎にそう言った。
この時この瞬間から、山本は『山本元柳斎重國』と名を改めた。