BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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おんしに任せた

山本十字斎重國は、卯ノ花烈との間合いを保ちながら両拳を構えた。

その構えは独特で、両脚を広げ腰を深く落とし、左手を身体より後ろに引いて右手を相手に突き出すというものだった。

構える前と構えた後では、霊圧の質そのものが変わったような感触さえ覚える程の迫力の山本。

重く、濃い霊圧が山本を中心に周りに広がる。

まるで水銀が辺りに満ちたような、周囲一帯の者はそんな感覚を覚えた。

 

「元流拳術、ですか」

 

その山本に対し全く怯んだ様子すら見せず、烈は冷淡に言った。

 

「私相手に剣を抜かなかったのは褒めて差し上げましょう。 剣では貴方は分が悪いですからね」

「抜かせ」

 

そう言うと同時に山本は一足跳びで間合いを詰めた。

着地と同時に左足で地面を踏みしめ右拳を突き出した。

 

「速い! ですが…」

 

烈は左側に身を倒しながら紙一重で避けると、右膝を山本の脇腹に突き上げた。

山本の身体がくの字に曲がる。

 

「追いつけぬ私ではない」

「くっ…」

 

自身の速さと烈の膝蹴りの速さが相まって、山本は負傷を免れなかった。

口の端から血が溢れる。

 

「肋骨が何本かいきましたね」

「肋骨ぐらい何本でもくれてやるわ」

 

山本は口の血を拭うと再び構えた。

 

「まだやるつもりですか?」

「言ったじゃろう。 決着をつける、と」

「どうやら骨の髄まで思い知らさないといけないみたいですね。 私が最強の死神だと!」

 

今度は烈が間合いを詰め、その勢いのまま左肘を山本の顔目掛けて放った。

 

「くっ!」

 

山本の頬を肘が掠める。

 

「貴方の腕はそんなものでは無いでしょう?」

 

烈は挑発的な言葉を投げかけるも、山本は次々に繰り出される烈の攻撃を避けるのが精一杯で、言葉を返す余裕が無かった。

 

「解せませんね…」

 

烈は落胆の色を隠さず言った。

再び両者は距離をおいた。

 

「解せんか」

「えぇ。 地上に出されて、腕の鈍った貴方を相手して何になるのでしょう?」

「戦いはまだまだこれからじゃ!」

 

山本は烈に飛び掛った。

 

 

「十字斎の動きも相当速いが、それを上回る卯ノ花、恐るべし」

 

少し距離を置いた所で両者の戦いを見届けていた朽木彩之丞は呟いた。

 

「あの十字斎が翻弄されておる。 奴め、白打の才も有ると言うのか」

「しかし、烈の言う通りなぜ十字斎は烈を地上に?」

「分からん」

「儂は仲間に引き入れる為だと思っていたが」

「かなり劣勢だな。 このまま幕引きなのか?」

「いや、十字斎はまだやれるよ」

 

五大貴族が思い思いに話す中、その1人・志波陸鷹があっけらかんとした口調で答える。

 

「奴と一戦交えたから解る。 奴は、十字斎はやっぱり"剣"なんだ」

 

 

山本はやや息が上がり額に汗しているのに対し、烈は汗一つかいていなかった。

両者は再び距離をとっていた。

山本が静かに問いかける。

 

「なぁ烈よ」

「はい」

「儂と約束してはくれんか?」

「約束?」

「もし儂がこの戦いに勝てば、お主に護廷隊の隊長になってもらう」

「な…! この私に貴方と共に戦えと?」

「もし儂が負けたなら… この流刃若火をやろう」

 

山本はそう言うと、自身の斬魄刀である流刃若火を突き出した。

 

「数ある焱熱系斬魄刀の中で最強最古の刀、流刃若火…。 確かに魅力的ですね」

「どうした? やはり『大炎熱人』に約束事は難しいか?」

 

山本の発した挑発的な言葉に、烈は乗るように答えた。

 

「面白い。 勝負は何でつけるのですか?」

「刀を賭ける勝負じゃ、刀でつけよう。 鉄裁」

 

山本は遠巻きに戦いを見ていた握菱鉄裁を呼んだ。

鉄裁は瞬歩で近づいた。

 

「話は聞いておったのう。 あれを」

「し、しかし…」

「儂を信じろ。 200年前の儂とは違う」

「承知しました」

 

鉄裁は十五字の手印を組み「解!」と言った。

次の瞬間、烈の身体から弓なりの刀が出現した。

それは、烈の斬魄刀『肉雫唼』だった。

 

「奴の身体から…!」

「斬魄刀が体内に!?」

「…200年もの間、体内で封印していたということか」

「裏縛道・六の道『劔崩し』。 斬魄刀と所有者の魂は切っても切れぬもの…。 斬魄刀を長期封印するなら、所有者の体内を置いて他に無し」

 

周囲の者が驚く中、鉄裁は冷静に説明した。

『劔崩し』の鬼道を解かれ、解放された『肉雫唼』を烈は手に取った。

烈は柄に手を掛け、そのままゆっくりと引き抜いた。

ただそれだけの行動が持つ意味。

それは、この場に居る者全てが解っていた。

 

悪鬼に金棒。

烈に剣。

禍々しい程の霊圧が烈を中心に広がった。

 

「剣で決着とは…。 後悔しても知りませんよ?」

 

烈は、山本の得意とする構え『正眼の構え』で山本に相対した。

 

 

「…これだ」

 

真名呼和尚・兵主部一兵衛と共に皆とは少し離れた位置から戦いの様子を見ていた二枚屋王悦は、そう洩らすように呟いた。

 

「僕が感じていた強大な斬魄刀の霊圧はこれだ」

「いくら十字斎と言えども一筋縄では行かんだろうなぁ」

「気を付けろ十字斎… その霊圧の高まりは200年前の比じゃないぞ」

 

誰もが感じている不安、それは王悦も同じだった。

対照的に一兵衛は楽天的だった。

 

「十字斎!」

 

一兵衛は叫んだ。

 

「尸魂界はおんしに任せた!」

 

山本は答えなかった。

しかし、山本が笑みを浮かべたように烈には見えた。


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