BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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危険が迫りつつあると予感した山本十字斎重國は、尸魂界に新たな組織を作ろうと考え、真名子和尚・兵主部一兵衛に相談していた。

隊の形をとる新たな組織には、複数の隊長を任命するという。

山本と和尚は、尸魂界全土に散らばる猛者達を一つに纏めるべく歩き出した。


その男、迅雷につき

尸魂界広しと言えども、その一角だけは異様であった。

 

「地獄はコチラ」と堂々と書かれた看板。

立ち込める湯気。

腐った卵のような匂い。

 

その一角だけは異様過ぎる程、硫黄であった。

 

「ここは…」

「ここは、儂がどうしても仲間に入れたい奴の住処だ」

「『泉湯鬼』か…!」

 

そう真名呼和尚が言い終わる前に、目の前の暖簾を分け、大柄な男が出てきた。

髪の毛をカチカチに固め、死覇装を腰上で切り、腹巻をした出で立ちの男だった。

 

「強大な霊圧が表に2つあると思えば、あんたたちか。見た所、うちの湯に用が有るとは思えねぇが?」

 

泉湯鬼と呼ばれた男はそう言うと口元を吊り上げ、ニヤッと笑った。

 

「あぁ、今日はあんたには別用だ」

「…湯以外にもてなすモノは無いぜ」

「儂は新たに組織を作ろうと思う。率直に言うと、あんたにはそこの隊長の一人になってもらいたい」

 

山本は自身が抱いてる危機感、新たな組織作りの必要性、泉湯鬼の力が必要な事を丁寧に説明した。

全部聞き終えると、泉湯鬼は少し考え込み、フンッと鼻を鳴らした。

 

「バカを言っちゃいけねぇ。俺が隊長だと?俺は雷、どの組織にも縛られねぇ」

 

泉湯鬼はそう言うと、振り返り、暖簾をくぐろうとした。

 

「ならば」

 

山本は声を張った。

 

「ならば鬼事で勝負、というのはどうだ?」

「おにごと…?」

 

泉湯鬼は山本の言葉を復唱し、理解に努めた。

理解したと同時に、どうしようもなく笑いが込み上げた。

鬼事をしよう。そう言って勝負を挑まれたのは、もう何百年前が最後だろうか。

 

「ははっ、十字斎。あんたは俺の二つ名を知らねぇのか?いいか、俺の二つ名はー」

「『雷迅の天示郎』だろう?」

「なっ…」

 

そう、この男は知っていたのだ。

俺が雷迅と呼ばれているのを。

知っていて勝負を挑んできている。

天示郎には、どうしてもそれが許せなかった。

先程までの笑みは、消えた。

 

「十字斎」

 

真名呼和尚がそっと話掛ける。

 

「こやつの速さは本物だ。いま統学院で教えている歩法・瞬歩はこやつの歩法を真似たものだ。本物は瞬歩の…5倍は速い」

「5倍、か」

 

山本はさして驚くふうでもなく、静かに呟いた。

と、同時に真名呼和尚の目の前から姿を消した。

 

「消え…」

 

真名呼和尚が言葉を言い終える前に、今度は天示郎の横に山本は現れた。

 

「勝負開始、か」

 

そう言うと、今度は天示郎が消えた。

真名呼和尚は目では最早追い付けず、霊圧で2人の鬼事の勝負を感じる他無かった。

 

「十字斎のやつ、まさかこれ程とは…」

 

辺りには地面を蹴る音だけが無数に鳴っている。

尋常な速さでは無かった。

ある種規則的なリズムの均衡を、突如山本が破った。

 

「雷迅の天示郎、敗れたり!」

 

そう言った瞬間、山本は天示郎の肩を掴んだ。

 

ように見えた。

 

「一体どこ見てやがんだ」

 

天示郎はそう言うと、いつの間にか山本の背後に回り、山本の肩を掴んでいた。

山本が掴んだと思ったのは天示郎の残像だった。

 

「十字斎!」

 

真名呼和尚は思わず叫んだ。

 

「山本十字斎、敗れたり」

 

天示郎はニヤリと笑みを浮かべた。

やはり雷迅に敵う者など居ない。

それが例え名高き十字斎と言えども。

 

「言っただろう」

 

山本は動揺の色を微塵も見せず、そう言った。

 

「なに?」

「雷迅の天示郎、敗れたり…と」

 

山本はそう言うと、左腕を高々と挙げた。

その手には、天示郎の腹巻が握られていた。

 

「なっ…!」

「しかし雷迅の二つ名は伊達ではないな…儂が鬼事で肩を掴まれるとは」

「はっ、勝った奴が言うセリフかよ」

「今回は引き分け、だな」

 

山本はそう言うと、天示郎に腹巻と竜胆を手渡した。


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