BLEACH外伝 〜千年後、史上最強と称された集団〜   作:二毛目大庄

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天蚕宿る

男が2人、丘の上に座って話していた。

この丘は見晴らしも良く、動物も時々見られ、小鳥のさえずりも聞こえる。

仲が良いのだろう、緊張した様子は全くなく、時折笑顔も見られる。

ふと会話が途切れた時、癖毛で大柄な男が思い出したように言った。

 

「先生の話、聞いたかい?」

「護廷隊の事か?」

 

質問を質問で返したもう一人の男は、髪を腰まで伸ばしていた。

髪がそよ風にたなびく。

 

「あぁ。 お前さんはどうするんだい?」

「俺は断ろうと思う。 最近子供が産まれたばかりなんだ。 それに、俺は君と違って上に立って何かすると言うより、裏方に向いている」

「そうか…」

「その様子だと、君は隊長の話受けるつもりか?」

「そのつもりだ。 長男も統学院を卒業したし、次男も手が掛からなくなったしね。 僕が頑張らないと」

「そうか、次男君、そんなに大きくなったか」

「我が子ながら、落ち着きのない子だよ。 でも霊圧は見込みありだね」

「それは君の子だからな。 将来が楽しみだ」

 

そういって2人は笑い合った。

その時、ふと背後に気配を感じた。

2人同時にその事に気付き、同時に振り向いた。

 

「やぁ」

 

素っ頓狂な声だった。

癖毛の男は驚いた。

仮にも貴族として尸魂界に生まれた自分達が、こんなに近くまで来られてもその気配に気付かなかった。

長髪の男もそれを感じていたのか、驚いた顔をしている。

 

「さ、賽河原殿…!」

 

長髪の男に賽河原と呼ばれたその男は、2人のそばに座った。

 

「さっきの話、聞かせてくれるかい?」

「さっきの話と言いますと…」

「隊長がどうとか」

「えっ、いや、しかし…」

 

2人は困惑した。

護廷隊の話を賽河原が知らぬはずが無かった。

2人に説明を求めたその意図が分からなかった。

 

「いえ、しかし賽河原殿にもお話は行ったはずですが…。なにせ賽河原殿は八剣聖のお一人なのですから」

 

長髪の男がそう言うと、賽河原は形相が変わり、

 

「話が来てないから聞いてんだよ!!」

 

と声を荒げ、おもむろに立ち上がった。

今まで抑えていた霊圧が放たれ、重い霊圧が2人を包んだ。

2人は素早く賽河原と距離を取ると、癖毛の男が腰の斬魄刀に手を掛けた。

 

「賽河原殿、我々は戦うつもりは…」

「浮竹ェ、賽河原殿は御乱心のようだ」

 

浮竹と呼ばれた長髪の男は、賽河原に対し戦う意思が無いことを伝えるも、最早その耳には届いていないようだった。

賽河原が放つ、明確な殺意がそれを物語っていた。

 

「どうする?」

「どうするも何も、戦うしかないんじゃないの? あちらさんはやる気みたいだし」

「我らで八剣聖に勝てるのか…」

 

「相談は終わったか? 貴様ら、八剣聖である私を愚弄した事、後悔させてやる」

 

賽河原は斬魄刀を引き抜くと、その鋒を2人に向けた。

刀身は日の光を反射し、妖しく光っている。

 

「余程声が掛からなかったのが悔しかったらしい」

 

癖毛の男はそう言うと、腰に引っ提げた斬魄刀を抜いた。

浮竹は未だ覚悟を決め兼ねているらしく、斬魄刀に手を掛けているものの、抜刀はしていなかった。

 

「来んのか? 来ぬならこちらから行くぞ」

 

賽河原はそう言った瞬間、癖毛の男に飛びかかりながら斬りつけた。

癖毛の男は、賽河原の刀を辛うじて受けた。

 

「くっ…」

「はっ、よくぞ受けた。 一の太刀を受けられたのは久しぶりだ」

「…重いねぇ」

 

賽河原と癖毛は一旦離れると間合いを取った。

 

「やるな」

「いやいや、八剣聖の名は伊達じゃないねぇ」

「お前、名前は?」

「…京楽源之佐(げんのすけ)」

「源之佐か、覚えておこう。 なんせ俺に解かせたのは2人目だ」

 

そう言うと賽河原は斬魄刀を納刀した。

同時に、みるみる賽河原の霊圧が上がっていく。

 

「京楽、これは…!」

「まさかここで解くとはねぇ…」

 

浮竹と京楽は、普段の生活ではおよそ遭遇し得ない霊圧の塊に、冷や汗を禁じ得なかった。

これ程までの霊圧の波に飲まれたのは、2人にとって初陣だった、先の虚侵攻戦以来だった。

 

「源之佐、今度は受けれるか? 行くぞ!!『破れ…」

 

そう言い斬魄刀を解放しようとした瞬間、何者かに刀を抑えられた。

賽河原が振り向くと、そこには賽河原よりずっと小柄な男が立っていた。

今にも爆発しそうな程高まった強大な霊圧は、一気に小さくなった。

 

「賽河原、帰って来ないと思ったら、こんな所で油売っていたのか。 下見が長いぞ」

 

声こそ柔らかな物腰だが、言葉の奥には隠し切れていない鋭さがあった。

 

「はい、すみません…」

「帰るぞ、 お前如きが本気であの2人相手に戦えると思っているのか」

「いや、しかし奴らはまだ目覚めてなど…」

「阿呆が。 なぜ目覚めた後の事を考えん? だからお前はいつまでも八剣聖の末席なのだ」

 

そう言って小柄な男は賽河原と共に帰ろうとした。

ふと、何かを思い出したように小柄な男は浮竹と京楽に告げた。

 

「そうだ、丿字斎に宜しく伝えておいてくれ。 いつか会いに行く、とな」

 

小柄な男と賽河原が帰った後、浮竹と京楽は半刻程前と同じように座って話をしていた。

 

「賽河原殿はともかく、あの小柄な男も八剣聖なのだろうな」

「そうらしいね。 いや、どうも怪しくなってきたねぇ。 僕が赤子扱いなんだから」

「とにかく、先生に会いに行こう」

 

2人は瀞霊廷に向かって歩き出した。


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