Deathberry and Deathgame Re:turns   作:目の熊

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第七話です。

よろしくお願い致します。


Episode 7. Double Black, straight up

「――というわけで諸君、我ら世界樹攻略部隊に頼もしい援軍、一護君が加わることになった! 種族的にアレかもしれないけど、仲良くするように!!」

「いや、話の勧め方が雑すぎンだろお前。色々ハショり過ぎだ。見ろよコイツらのツラ、納得どころか理解すらできてねえって感じの顔してんぞ」

「ダメだなあ。そこを以心伝心でサッと理解してこその仲間じゃないか」

「それにも限度っつーモンがあんだろ! てか少しは悪びれろよテメエ!!」

 

 世界樹内部への入り口があるアルン中央の広場。

 

 情報交換を終えて戻った直後、待たせていた二人に対し、キリトは開口一番テキトー極まりねえ感じで俺を紹介した。揃って「どういうワケ?」って感じで固まってるキリト妹とチビシーフを見ていると、なんか毎回説明不足のまま放り込まれる俺と重なってちっとばかし同情の念が湧いてくる。

 

 このまま黙ってても仕方ねえから、俺からもう一度言うしかねえか。

 

「一護だ。世界樹最上部(この上)にキリトと似た用が出来たんで、攻略に参加することにした。無限飛行の報酬には別に興味ねーから、上に行っても先着は獲らねえよ」

「って感じだ。剣の腕は信用していいぞ。俺が保障する……っていうか多分、単純な真っ向勝負じゃ、この中で最強なんじゃないかな」

「さ、最強!? お兄……キリト君よりも?」

「おう。正式なデュエルはやったことないけど、多分勝てない。ここに戻ってくる道中で聞いたんだけど、今行われてるデュエルトーナメントに参加して、ユージーンとサクヤの二人に続けて勝ってるみたいだしな。ネットにも出てた」

「サクヤさんに勝った!? う、嘘でしょ!?」

 

 チビシーフが叫び、慌ててコンソールを開いて何かを調べ始めた。

 

「えーっと、イベントクエのトーナメント結果は確かこの辺に……ぅわ! ホントに勝ってるよこの人!! しかもサクヤさん相手に無傷!? ありえねー!!」

「ま、ゲームの知識には乏しいみたいだから、何でもアリで策略上等なルールでやったら、分かんないかもしれないけどさ。でも、正面切っての単独戦闘でこいつより強いプレイヤーを俺は知らない。援軍としては十分すぎる戦力だ」

「それはなんていうか……頼もしいね、すっごく」

「もっとも、種族はリーファたちと相性最悪のサラマンダーだけどな」

「今はその辺を気にしてる場合じゃないでしょ。サラマンダーってだけで十把一絡げに嫌う程、あたしは子供じゃないつもり。それに、種族なんてこの際関係ない。世界樹攻略のための一プレイヤーとして歓迎するわ。

 一護さん、だっけ。あたしはリーファ。サクヤを無傷で倒したその剣の腕、この目でぜひ見たいわ。よろしくね」

「あ、えっと、僕はレコンっていいます。よろしく」

 

 アバター名を名乗った二人から差し出された手を取り、それぞれと握手を交わした。

 考えてみりゃ、俺にとってはこの世界に来て初めての共闘作戦だ。魔法とか飛行能力があるからSAOよりも死神としての戦闘に近いモンになるんだろうが、たとえ初対面だろうと一緒に剣を構える仲間がいるってのは状況関係なしに心強い。

 

「いいか皆。守護騎士(ガーディアン)は俺と一護が引き受ける。リーファとレコンは回復支援に徹してくれ。後方からの支援だけなら、襲われる心配はないはずだ」

 

 ここに来るまでの間に、キリトとユイから世界樹の中の様子は聞いていた。一体一体はザコいくせに、数だけは無茶苦茶に多い白い騎士型モンスターが四方から襲いかかってくる。一瞬でも動きを止めたらハチの巣にされることは確実で、SAOで鍛えたスキル熟練度を引き継ぐ俺とキリトが一点突破するしか道はない。厳しい顔で奴がそう言っていたのを思い出す。

 

「キリト、先手は俺が取る。最初の一撃で広範囲斬撃ぶっ放せば、騎士の群れを焼き斬って風穴が開くはずだ。オメーはそこに突っ込め」

「へえ、そんな技があるのか……オーケー、分かった。んじゃこうしよう。

 最初のポップ量が少ないうちは温存して各個撃破。中間地点を越えた辺りで敵の数が一気に増えてくるから、ある程度密集したところに一護の広範囲斬撃を撃ち込んで突破口を開く。俺はその大技の隙をカバーしつつ飛び込んで突破口を維持。そんで一護が後から追いついて、勢いそのままに突き抜ける。いいか?」

 

 キリトの言葉に、ここにいる四人のプレイヤー+一体の小妖精が頷きを返す。数ではこっちが圧倒的に不利。ちんたらしてたら確実に袋叩きにされちまう。だから戦闘は短期決戦、一旦突っ込んだら最高速で一点突破、一気にブチ抜くしかねえ。

 

「――よし、行こう!!」

 

 広場に木霊すキリトの檄。俺は大太刀を抜き放ち、世界樹の幹に設けられた巨大な石の扉へと手を掛けた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 樹の中はやたらと広大なドームみたいになっていた。遥か彼方には光が漏れだす天蓋が見え、十文字の溝が刻まれてるのが辛うじて分かる。多分、あそこまで到達できればアレが開き、世界樹の最上部に入れるんだろう。

 

 俺たちは各々の武器を抜いた状態で、ゆっくりとドームの真円状の床の中心部まで歩を進めた。まだ騎士共の姿はない。

 

 キリトが言うには、ある程度の高さまで上昇していくと周囲の壁から騎士が出現し、出現数は距離に比例して増加する。ってことはつまり、そこに俺たちがたどり着くまで向こうは出てこねえし攻撃もしてこない。

 

 ……だったら、

 

「先行くぜキリト。足引っ張りやがったら、浮気のことアスナにバラすからな!!」

「だから浮気じゃないっての!!」

 

 先手必勝! 敵が出揃う前に、一気に天辺まで突っ込んでやる!!

 

 《音速舞踏》で急加速した俺は、キリトを置き去りにして頂上目掛けて猛ブースト。周りの一切を捨て置いて全力突撃した。

 

 敵は予想よりすぐに現れた。壁の隙間から文字通り湧き出るようにして、全身真っ白の騎士型モンスターが何体も出てくる。最初はパッと見、数は十かそこらだったのに、次の瞬間には二倍、三倍と、膨れ上がっていく。

 

 確かに多い。けど、ンなもん関係ねえ!

 

「ジャマだあああぁぁァッ!!」

 

 片手持ちの大太刀に、突進の勢いを乗せて全力刺突。目の前に飛んできた三体をまとめて串刺しにした。白銀の鎧を物ともせず貫通した太刀の切れ味にちょっとだけ驚く。ネコミミが言ったように、コイツは確かに(つえ)え。

 

 背後に騎士が回り込んできたのを感じて、柄を両手持ちに。刺さった騎士の腹に足かけて刀身を引っこ抜きつつ、二の太刀で背後の一体、さらに逆袈裟で二体の胴を裂いた。

 

 今の一攻防で六体を倒した。けど、次々に湧いてくるのが分かってる以上、絶対動きは止めねえ。

 斬り下ろした太刀を跳ねあげ、身体を一杯に捻って真横に振り抜く。迫っていた四体が一息に消し飛び、辛うじて逃れた一体は、

 

「フッ!!」

 

 ウルキオラばりの高速貫手で首を刎ねた。

 

 首なし死体になった騎士が紫色のエンドフレイムに焼かれて消えるのを見届ける。勢いっつーかノリでかましたんだが、意外といけるモンだな。手近に残った三体を続けざまに斬り捨てつつ、独りごちる。

 

「一護!! 来るぞ!!」

 

 四、五メートル横で大剣を振り回していたキリトが叫ぶ。促された先には、いつの間に湧いて出たのか、無数の騎士が上空にひしめいていやがった。その数はもう十とか二十とかじゃ利かねえ。三桁にまで届く数量だ。

 

 アレは相当キツい。けど、まだ想定内だ。

 

 あんだけいりゃあ、ちょっと狙いが外れようが関係ねえ。全力で、まとめてブッ飛ばしてやる!!

 

 両手剣を構えて突撃の体勢に入る騎士共。俺はその前に飛び込みつつ、刀を大きくテイクバックした。強化された今の状態でドコまでいけるか、いっちょ試してやる!!

 

「シロアリみてーにウジャウジャ湧きやがって……まとめて消し飛ばしてやる!」

 

 意識を籠めて能力発動。曲刀のとき以上に巨大な炎が刃を伝い、柄を覆い、腕にまで纏わりつく。身体の周囲に火柱が巻き起こり、視界が炎熱で揺らいで見える。

 

 いける。この規模なら、必ず一網打尽にできる。

 

 確信と共に全身の力と手首に伝え、柄を握る力に変える。

 

 そして、

 

「――燃えろ! 《剡月》!!」

 

 親父の斬魄刀の解号と共に、前方目掛けて振り抜いた。

 

 斬撃はそのまま燃焼し、さっきの試合よりも巨大な火焔の弧を形成。振り抜いた速度のまま飛翔し、騎士集団中央部に衝突した。爆音、衝撃が続いて響き、炎の端々から千切れた騎士の破片が飛び散った。

 

「ぅぉぉぉおおおおおおッ!!」

 

 そこに臆することなくキリトが飛び込む。炎が消え、深く抉れた騎士の隊列に突進し、身の丈に合ってない大剣を担いで振り下ろした。開いた亀裂を埋めに来た騎士の面防をカチ割り、さらに強振して二、いや三体を蹴散らす。その勢いのまま身体を捻り込み、力任せ全開で刺突。二体の胴を貫通させて勢いそのままに突っ込んでいった。

 

「やっぱ腕は鈍ってねえらしいな、キリト……なら、こっちも!!」

 

 大技の反動で崩れた体勢を立て直し、重突進の構えを取る。すでにキリトが通った後に騎士が入り込み、背後から仕掛けようと剣を構えてやがる。そんな見え見えの裏取り、ボーッと見てるわけねえだろーがボケ。

 

 刺突の形で太刀を構え、重突進で後を追う。キリトの背後に迫っていた一体の胴をぶち抜き、こっちに振り向いたもう一体には、勢いを乗せたバックハンドブロー。拳が側頭部にめり込み、騎士はふっ飛んで別の集団と衝突した。

 

「――《剡月》!!」

 

 キリトと合流し、もう一度《剡月》を発動。キリトに連続突進を仕掛けていた騎士集団を隊列ごと焼き斬った。数撃食らったらしく、キリトのHPはレッドゾーンギリギリまで落ちている。が、下方から伸びてきた緑光がキリトに纏わりついたかと思うと、瞬時に傷が癒え、HPが八割以上回復した。下の二人が放った回復魔法だ。

 

 復活したキリトと一瞬目を合わせ、揃って剣を構え突撃する。《剡月》の弾数制限は一度に四発。すでにもう半分は撃った。再充填(リロード)には十分もかかっちまう以上、乱発・ムダ撃ちなんて絶対に出来ねえ。単純な剣捌きで、全部斬るしか……!

 

 けど、

 

「クソ! 流石に多すぎんだろコイツら!!」

 

 相手の数が異常に多い。っつーか、斬った瞬間湧いてきやがる。俺たちの殲滅スピードよりも、相手の再出現が速い。こっちが一回の攻防で十体斬っても、端から二十体湧いて穴を埋めに来る。その繰り返しだ。キリがねえ。今まで無傷だった俺にも騎士の斬撃が届くようになり、HPが減っていく。防具の質がいいからかキリトよりはマシだが、そう長くはもたねえぞ。

 

 終わりが見えねえ二対数百の斬り合いに歯噛みした、その瞬間。

 

「……うああああああ!!」

 

 叫び声と共にレコンが急接近。気弱な見た目からは想像もつかない体捌きで騎士を躱し、俺たちの前に躍り出た。意外と根性ある……じゃねえよ! 支援担当のテメーがなんでそんなトコにいやがる!!

 

 そう叫びそうになったが、その直前にアイツが何か唱えていることに気付いた。魔法に詳しくねえから効果は分かんねえ。けど、その長さと凄みからは、サクヤやユージーンが使ってきた魔法よりもずっと強大であることが伝わってきた。

 

 無数の魔法陣がレコンの身体を包み、臙脂色に輝く球体を創り上げた直後。

 

「――プロット・レギン、ガーパ・ニーザフォール!!」

 

 詠唱が完成し、俺の《剡月》と同等、いやそれ以上の大爆炎が巻き起こった。周囲の騎士を巻き込んで、焼き尽くしていく。その熱量は俺たちのところにまで届き、ジリジリと肌を焼かれる感覚に襲われる。

 

 レコンの奴、こんな大技持ってやがったのかよ。未だに殺到する騎士を退けながら、俺は収まりつつある火焔の出処へと接近する。ナイスの一言でも投げてやろうとしたんだが、しかしそこにレコンはいない。あるのは小さなリメインライトだけ。

 

 ……まさか、今の魔法。

 

「自爆、しやがったのかよ。アイツ……!」

 

 この戦いは正直言って、俺とキリトのワガママで始まった。妹のリーファには兄を助けたい気持ちがあっただろうが、その友人だっつーレコンには、積極的に戦いに参加する意味はなかったはずだ。なのに、アイツは今こうして俺たちの前に立って、見事に騎士をぶっ飛ばして散ってった。

 

 何がアイツをそうさせたのか分からねえ。けど、アイツが命張って作り出したこのチャンス、絶対に逃してたまるか!!

 

 《音速舞踏》で爆発跡へと突撃する。相当以上にデカかったらしい魔法の威力で、騎士の密集陣形に穴が開いていた。それは天蓋の近くまで貫通していて、頂上へと迫る道を作っていた。

 

「一護! あそこを通り抜けるぞ!! こうなったら迎撃よりも回避優先、強引にでも押し通ってやる!!」

「言われなくも、そのつもりだっつの!!」

 

 後に続くキリトの叫びに応えつつ、俺は加速を強めた。多少の負傷は覚悟の上。太刀振って速度を落とすより、少しでも飛んで距離を稼ぐ。あとせいぜい三十メートルかそこらなんだ。無理やり通っちまえばコッチのモンだろ。

 

 だが、そんな俺の希望を叩き潰すようにして、その穴の後ろからおびただしい数の騎士たちが出現した。一瞬で狭まっていく穴に舌打ちし、突進の備えて太刀を構える。けれど騎士たちは予想に反して向かって来ず、代わりに耳障りな声で詠唱を始めた。翳した手の向けられた先にいるのは、俺だ。

 

 まさか、あの距離から一斉に攻撃魔法をかます気か。そう判断し、離脱しようとしたが、もう遅かった。無数の光の矢が撃ちだされ、石田の矢の如き弾数で俺に襲い掛かってくる。

 

「ち……くしょおおおおぉぉぉォォッ!!」

 

 絶叫と共に《剡月》を発動し、弾幕目掛けて撃ち放った。燃え盛る火焔の三日月と光矢の大群が衝突し、相殺されて爆風が巻き起こった。技後の不安定な体勢で堪えきることができず、俺はそのまま吹き飛ばされ、落下していく。その向こうにいるキリトに騎士が群がり、奴の体表を傷つけていく。

 

 それを見ながら歯を砕けんばかりに食いしばり、俺は必死にブレーキを掛けた。塞がりかけた穴を睨み、もう一度そこまで行ってやると、全身で落下に抗い続ける。

 

 もうちょい、もうちょいなんだ。

 

 あとたった数十メートルじゃねえか。個々は雑魚で動きも単調。ただ数が多いってだけだろーが。気張れよ俺、こんなトコで死んでんじゃねえぞ。

 

 助けるって決めたんだろ。仲間を、囚われた奴らを。

 

 あの日、誓っただろ。山ほどの人を護るんだって、大事な仲間をこの手で助けるんだって。

 

 なのに、なのにこんなカッコわりぃ形で、終わっちまっていいのかよ。

 

 いいわけねえだろ!

 

 こんな……こんなところで!!

 

「終わって、たまるかああアアアアァッ!!」

 

 

 

「――当然だ。終わらせやしないさ、絶対に」

 

 

 

 凛とした声。

 

 この騒乱の中でも良く通る、刃のように鋭い旋律。

 

 それが俺の耳に届いた瞬間、俺の目の前の騎士に神速の一閃が叩き込まれ、そのまま吹き飛ばされていった。

 

 目を見張る俺の前に、深緑の着流しの裾が現れる。背中に垂らされた黒い長髪。腰の長鞘。手に握られた、反りの緩い細身の大太刀。

 

「――やあ。また会ったね、一護君」

「サクヤ!? テメエなんでここに!?」

 

 颯爽と現れたシルフ領主・サクヤに、俺は礼を言う前に問いただしていた。

 

 サクヤは俺の形相を見ても涼やかな微笑を崩さず、手にした朱塗りの扇子でパタパタと俺を扇いだ。

 

「ほら、かっかするな。落ち着き給えよ一護君。私も君がいて少々びっくりしているし、驚く気持ちもよくわかる。が、それでも今はとにかく落ち着け。じゃないと勝てる戦も勝てなくなるぞ?」

「誰のせいで――はぁ。いや、何でもねえ。とにかく助かった。さんきゅ」

「ふふっ、礼には及ばないさ。君のおかげで、私たち(・・)は此処まで来れたのだからな」

「私、たち――?」

「ああ、そうだ。ほら、援軍が来たぞ」

 

 訊き返した俺に答えたサクヤの言葉。それを飲み込む前に、俺の耳に再び新しい声が届いた。

 

 揃いの鎧に身を固めた、緑の羽根の騎士たち。五十人に迫る大軍隊は俺たちを追い越し、迅速に隊列を作りあげた。

 

 さらにその下方から、下っ腹に響くような低い咆哮。プレイヤーの数倍の図体を持ったソイツらは、ケットシーが騎乗した龍の群れだった。十体がほぼ一列に並び、羽根を羽ばたかせて上昇してくる。その先頭にいたのは、

 

「――ネコミミ女!? テメエまで来てたのかよ!!」

「うェー、こんな時までその呼び方? ヒドイなー、ヤンキー君」

 

 マントを羽織ったアリシャはそう言って、不服そうに頬を膨らませた。フォローするようにサクヤが間に入る。

 

「まあまあ、戦闘中で気が立っているんだ。気にするなルー。リーファに挨拶は済ませたか?」

「うん。ありがとう皆、だってサ」

「そうか」

 

 そう言ってサクヤは微笑み、そのまま俺に向き直った。

 

「実は、キリト君から資金提供を受けて、私たち二種族は合同で世界樹攻略の準備を進めていたんだよ。そしてついさっき、君がトレードしてくれた鉱石によって、私たちの部隊の装備が完全に整った。君たち二人のおかげで、私たちはここまでこれた、だから、その借りを返すために加勢する。当然の事さ」

「マ、借りを返しに来たのは、私たちだけじゃないけどネー」

 

 どういう意味だ。俺がそう問う前に、三度轟く新たな音。低く野太い雄叫びが鼓膜を叩き、現れたのは緋色の鎧を纏った長槍持ちの重騎士部隊だった。その羽根は俺と同じ臙脂色に輝き、中でも一番大柄な男が集団を引っ張っている。

 

「……ユージーン!! それにサラマンダーの重騎士部隊かよ!? アンタ、コイツらと仲が悪いんじゃねえのか!?」

「ふん、好きで加勢しに来たわけではない。領主の指令だ」

 

 俺の言葉に不機嫌そうな態度で応えたユージーンは、例の魔剣を携えた姿で昇ってくると、竜に乗ってホバリングしているアリシャを睨みつけた。

 

「猫族共に借りを作ったままなど、サラマンダーの誇りが許さない。疾く返して来いとの命だ。だから来たまでのこと。それに……」

 

 言葉をきったユージーンは、いきなり俺の胸倉をつかみ、グイッと引き寄せ、

 

「俺を負かした男が二人揃って死んでいく……そんな光景をこの俺が黙って見ているはずがないだろう。貴様らを倒すのはこの俺だ。こんな害虫共に食い殺されて死ぬなど、絶対に許さぬ」

「……へ、上等じゃねーか。次やったときは無傷でブッ倒してやるよ」

 

 胸倉を掴んでいる手を払いのけ、そう言い返すと、ユージーンはニヤリと笑い、俺から離れた。

 

 それを見ていたサクヤが扇子を振りかざし、高らかに叫ぶ。

 

「さあ、行こうか諸君! ALO最強の百余の軍勢、全力を以って推して参る!! シルフ隊! エクストラアタック用意!!」

竜騎士(ドラグーン)隊! ブレス攻撃用――意!!」

「サラマンダー隊! ボルケーノランス用意ッ!!」

 

 三種族の部隊に号令が下り、各自が一斉に攻撃体勢に入る。キリトも大援軍に気づいているみたいで、超広範囲攻撃を予測して中央から距離を取って飛行している。

 

 白い騎士たちもこっちを捕捉し、大群になって押しようとしている。だが、その刃がこっちに届くよりも早く、

 

「ファイヤブレス、撃て――ッ!!」

「エクストラアタック、放てッ!!」

「ボルケーノランス、叩き込め!!」

 

 こっちの攻撃が一斉に火を噴いた。

 

 竜の口からは紅蓮の劫火が、シルフ部隊の剣先からは緑の雷光が、サラマンダー部隊の槍からは真紅の火線が、ほぼ同時に放たれた。その一撃一撃が次々に騎士の集団に突き刺さり、全方位で大量の騎士を撃墜していく。

 

 これまでにない大損害を受けて、騎士共は完全にこっちを殲滅対象として認識したらしい。新しく出現した騎士の群れが隙間を埋めつつ、隊伍を組んで突撃体制に入った。

 

 それを見た三軍の長は顔を見合わせると、各々の武器を掲げ、

 

「「「全員、突撃せよ!!」」」

 

 大音量で号令一破。全軍を突撃させ、一つのミサイルのようになって守護騎士軍へと突進していった。

 

「一護さんっ!!」

 

 俺を呼ぶ声に振り返ると、後方に控えていたリーファが長剣を片手に上昇してきていた。目尻に微かに涙が光ってるが、表情は希望に満ちている。救援に感動して泣きでもしたのか。

 

「サクヤたちの援護で、騎士の数が一気に減った! 突破のチャンスは今しかない、キリト君と合流して一気に駆け抜けよう!!」

「あぁ、そのつもりだ!!」

 

 リーファと並び、一気に加速。あちこちで激突する三種族連合と守護騎士の間をかいくぐる。シルフ部隊が傷つけばケットシーの飛龍がブレスで援護し、飛龍に騎士が群がればサラマンダーが突撃して追い払い、サラマンダーが囲まれればシルフの雷光が焼き払う。

 ゲームの設定的には敵対関係にあるはずの三つの種族が互いを支えるその光景は、かつてユーハバッハに最後の決戦を挑んだ時、死神、破面、滅却師が手を貸し合ったことを思い出す。自分が何処の誰かなんて関係ねえ、ただ一つの敵を倒すために団結した大軍勢の姿が、そこにあった。

 

 混戦地帯を突破して最前線に躍り出ると、キリトは単身で騎士共と戦っていた。すぐにリーファが前に出て、キリトに劣らない剣捌きで騎士を翻弄。飛翔し兄の元へと辿り着いた。

 

 俺も後に続こうとしたが、それより早く騎士が殺到。互いにぶつかり合うのも構わずに俺の行く手を塞いだ。

 

「クソッ! こんなモン《剡月》で全部ブッ飛ばして――」

「――右に避けろ! 一護君!!」

 

 太刀を振りかぶった直後、俺の背後から澄んだ声が響いた。すぐに右へとすっとんだ俺の横を、無数の風の刃が通り抜け、騎士たちを蹴散らしていった。

 

「言ったはずだぞ、加勢しにきたと。私たちを蔑ろにされては困る」

「そーそっ! 一緒に行こうヨ、仲間なんだしサッ!!」

「ぅおッ!?」

 

 魔法を放ったらしいサクヤの横からアリシャが現れ、俺の襟首を掴んで自分の騎乗する飛龍の背に引っ張り込んだ。固い鱗の上に尻もちをついた俺の目の前に、ユージーンが飛んでくる。

 

「これだけの数だ、そう長くは持たぬ。背後は押し止めてやるから、さっさと行って終わらせて来い」

 

 そう言うと、ユージーンは手元に待機させていた魔法陣を展開。俺に向かって解放した。と同時に、俺の全身を炎が包み込み、視界の端のHPゲージの上にいくつものアイコンが追加された。

 

「貴様の炎の燃焼範囲、威力、展開速度を限界まで高めた。これで一気に叩き斬れ」

「……おう、助かる」

「礼など要らん。気色悪い」

「うるせーよ」

 

 互いにぶっきらぼうに言葉を交わすと、ユージーンはそのまま下降していった。さらに続くようにしてリーファも下りて来る。手にしていたはずの長剣はなく、見れば上空にいるキリトの左手に収まっていた。二刀を携え、倍速で剣を振り回す黒衣の剣士を一瞬見つめ、視線を元に戻した。

 

「キリト君に剣は預けたよ。あとは一護さんが合流すれば大丈夫」

「分かった。ルー、一護君を飛龍に乗せて可能な限り上まで飛んでくれ。私が魔法で援護する」

「りょーかい!」

「一護君、これが最後のアタックだ。気を引き締めて行け」

「ああ、分かってる。ありがとな、リーファ、サクヤ……アリシャ(・・・・)

 

 初めて名前で呼ぶと、アリシャは面食らったような、驚きの表情を浮かべる。だがすぐに立ち直り、褐色の頬に朱の差した満面の笑みを浮かべて頷いた。

 

「最速で行っくヨー! 【超加速(ウルトラ・アクセラレイティオ)】!!」

 

 一種の魔法だったのか。装備された鎧が金色に輝き咆哮を上げた飛龍は、俺、サクヤ、アリシャを乗せた状態で急上昇する。キリトに辿り着く十メートル手前で騎士の集団が立ちはだかったが、

 

「退け、雑兵共――【鏡咬千刃花】!!」

 

 サクヤが放った魔法が直撃。千本桜に似た花びら型の刃の群れに斬殺され、騎士の集団が壊滅する。視界が開け、ついにキリトに追いついた。

 

「今だ! 行け!!」

 

 そう言って背中を押すサクヤ。それに無言で応えた俺は《音速舞踏》で残りの距離を詰め、同時に《剡月》の発動体勢に入る。二刀を重ね、猛突進をかけるキリトと騎士の勢いは拮抗している。だから、この一撃で、終わらせてやる!!

 

 噴き出す炎の勢いは今までで一番強く、俺自身の体まで焼き尽すような規模で荒れ狂う。霊圧の上昇を思わせる力の奔流。皆の剣で導かれ、魔法で支えられた極限の斬撃。

 

 だから、この一撃の銘は――、

 

 

「《剡月》――(いや)! 《剡魔・月牙天衝》!!」

 

 

 叫び、渾身の力で振り抜いた。

 

 切っ先に一瞬炎が集約され、次の瞬間には拡散、超高密度の炎の斬撃となって燃え滾る。

 

 

「「――届けえええええええええええッッ!!」」

 

 

 俺とキリト。

 

 火焔の斬撃と二刀の突撃。

 

 絶叫と攻撃がシンクロした瞬間、ついに騎士の群れを抜けた。

 

 目の前に飛び込んできたのは、遥か彼方に見えていたはずの世界樹の天蓋。

 

 ようやく辿り着いたそこに向かい、俺とキリトは躊躇うことなく飛翔していった。

 

 

 

 




感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

世界樹攻略戦でした。

剡魔(えんま)・月牙天衝》と二刀流の剣舞により騎士の大群を突破した一護とキリト。

そんな二人が次話で出会うのは、みんな大嫌い、ALOで最も下衆なあの男でございます。

投稿は九月二十日の午前十時を予定しております。

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