Deathberry and Deathgame Re:turns   作:目の熊

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お読みいただきありがとうございます。

三十三話です。
キリト視点で書きました。

宜しくお願い致します。


Episode 33. Vest Glory

<Kirito>

 

「……なあ、キリト君。彼は本当にここに来るのだろうか」

 

 俺の隣に立つシルフ族領主・サクヤさんがやや疑念混じりの声を上げた。

 

 切れ長の目を細め、腕組みをしてしきりに空を眺める姿は、まるで意中の人の到着を待ちわびる大和撫子のようで、実に様になっている。

 これでシチュエーションがショップの立ち並ぶ大通りだったら満点だったのだが、生憎とそんなロマンチックな状況ではない。

 

「大丈夫さ。奴は必ずここに来る。アリシャさんと手を組んで策を練ったんだ。成就しないはずがない」

「呼び出す場所がこのようなところであっても……か?」

「ああ。見世物になることを好むような奴じゃないのは確かだけど、それ以上に自分の醜態を知られることの方が嫌だろうからな」

「……まあ、私より付き合いが長い君が言うのならそうなのだろう。しかし彼も災難だな。圧倒的に不利なシチュエーションに半強制的に呼び出されるのだから」

「人目を気にせずヘマをやらかす方が悪いんだよ。借りを返すためなら利用できるものは全て使う。戦闘力の強靱さだけが『強さ』じゃない、ってね」

 

 そう言って苦笑するサクヤさんに、ニッと笑みを返してから、俺は周囲を見渡した。

 

 俺たちが今立っているのは半径二十メートルはあろうかという巨大な真円状のグラウンド。それをぐるりと取り囲むように最大キャパシティ二万人の客席が設けられ、もうじき登録締め切り兼開幕式ということもあり、けっこうな数のプレイヤーが集まってきていた。

 

 ここはALO内最大のコロシアム型決闘場。統一デュエル・トーナメントの開催会場だ。

 

 統一、というのは「種族・レベル・武装」の一切が関係ないということを意味している。プロレス風に言い換えれば無差別級、ということになろうか。

 ルール制限も緩く、地上戦・空中戦両方アリで魔法も秘伝魔法以外全て使用可能。制限時間である十分以内にどちらかのHPが全損、または降参の宣言がなされた場合、そこで試合は決着。時間を過ぎても両者健在の場合は全快HPを百として計算した「損耗割合」が低い方が勝者となる。

 

 今年でトーナメントは四度目。

 過去三度のトーナメントの優勝の座は全て別々のプレイヤーが獲得しており、初代は現サラマンダー領主であるモーティマー氏。二代目はその弟にして領軍の将、ユージーン。三代目は僭越ながら俺が頂いた。

 ちなみにサクヤさんは三代目の準優勝者である。決勝戦では彼女の瞬間的先読みに相当の苦戦を強いられたが、俺の編み出したばかりの新システム外スキルでどうにか勝利を収めた。今でも成功率は《スキルコネクト》の半分以下のため、もう一度やれと言われてもおいそれとは再現できないが。

 

 ……で、そんな場所に俺たちが立っている理由だが、表向きには「開幕式における開幕宣言のため」ということになっている。

 二回目、三回目の開幕式の際には前トーナメントの優勝者が自主的に開幕宣言(という名のパフォーマンス)を行っていた。その流れを継ぐよう前大会優勝者から半分強制された俺は、援軍として準優勝者であったサクヤさんにお越しいただき、こうしてコロシアムの中央で開幕時間を待っている、という感じだ。

 

 だが、本当の目的はそこじゃない。

 

 サボタージュしても文句を言われる筋合いのないこのパフォーマンスを買って出た理由。それは――、

 

 

 一護とこのトーナメント内で戦うため。

 

 ただ一つである。

 

 

 奴がVRに対し、あまり良い感情を持っていないことは承知している。

 しかし受験に励む中でも自身のアバターを残し続けているということは、また仮想世界に来るかもしれないと一護が自分で感じていることの何よりの証拠。そう考え、俺は一護をALOに、そして今日この日この場所に呼び出す計画を立てた。

 

 一応、事前に「釣り餌」は用意しておいた。

 以前、ホワイトデーのお返しを二人で買いにいったときにパッと撮影した、一護のちょっとザンネンな姿。この写真をメールに添付し、コロシアムの場所と時間だけを書いて送りつける。

 己のハデな外見に対する奇異の視線など意に介さないくせに、意外と自分のキャラがブレることを嫌がるヤツのことだ。必ず血相変えてすっ飛んでくる。そこに脅し……もとい交渉を持ちかけ、写真の削除と引き換えにトーナメントへの参加登録を条件づけるつもりだ。ちなみにすでにリーナ経由でアルゴにまで広まっている写真なので、最低でもあと二回は使えそうだ。人脈謀略ってスバラシイな。

 

 ……だが、それにはまず、「メールを送った時点で一護がALO内にいる」という状況に持っていく必要があった。

 

 現実世界で謀略関連で頭が切れる知人……例えば詩乃みたいな、そういう人が傍にいた場合「キリトの弱みをアルゴから聞きだし脅しを相殺する」という策を思いつかれかねない。現状でヤツが知りえる一番イタい俺の弱みであるGGOでのイザコザは、既にアスナにとっちめられた後だ。失うのものなんて、あるもんか。

 そうならないよう、まず俺は一護の相棒・リーナに話しを持ちかけた。

 受験が終わったら一護と二人でALOデートに……と目論んでいた彼女と利害が一致した俺は、リーナに「エギルの店に一護の装備が預けっぱなしになっている」という情報を渡し、代わりに「二月十六日にALO内に一護と一緒にログインし、その居場所を逐次報告すること」をお願いした。こうすれば、開幕式にギリギリ間に合うよう、メール送信のタイミングを計りやすくなる。

 

 ついでにもう一人、一護のトーナメント参加を確固たるものにするために取引をした人がいるのだが、その人物は……、

 

「――オーイ! キリトくーん! サクヤちゃーん!」

「お、来た来た」

「遅いぞルー。予定時間を半時間もオーバーしているじゃないか」

 

 そう。ケットシー領主のアリシャ・ルーさんだ。

 

 この人はすでに昨日の段階で一護と接触し、一護が世界樹に激突したムービーをネタにして、決闘の様子を撮影したムービーの商用利用を認めさせた……という情報を、俺はアルゴから仕入れている。

 一護の分のトーナメント参加枠を確保しておきたかった俺は、アリシャさんにその枠のキープをお願いし、代わりに彼女の「ちょっとしたビジネス的希望」を叶えることになった。この人が今日ここにいるのは、その希望を成就させるためである。

 

 コロシアムの上空から飛来したアリシャさんを迎えた俺は、仕込みが完了したのかどうかを確認する。

 

「予定より三十分押しなのはまあいいとして、だ。準備の方は無事終わったのか?」

「ウン。エフェクトに凝りまくってたらけっこー時間がかかっちゃった。ケド、その分出来は申し分ナシ! ウチの文官のコたちが頑張ったからネ!」

「それは重畳。さてユイ、そろそろじゃないか?」

「はい、パパ。リーナさんの報告とパパのメール送信時刻から逆算して、到着予定時刻まであと二六○秒です」

 

 俺の頭に乗っかった小妖精ユイが可愛らしい敬礼と共に伝えてくれる。それに頷きを返し、俺は二人の領主に向きなおる。

 

「……さて、と。それじゃあ始めるとしますかね」

「ワタシは裏方っていうか機材担当だから、演説はお二人にお任せヨン」

「これだけの人数を相手に声を上げるのは、領主の座に長く就いていても初めての経験だな。キリト君は緊張して……いるわけもないか。なにせ、あの修羅場でホラを吹いた男だものな」

「ああ。今回はミスっても領地占領、なんてことにはならないしな。楽にいこうぜ」

「簡単に言ってくれるな、君は」

 

 早速拡声魔法の詠唱に入るアリシャさんと、肩をすくめるサクヤさん。

 

 二人と一度ずつ視線を合わせた後、俺は一度深呼吸。一年前、蝶の谷で一発かました時をイメージし、仮想の腹筋に思いっきり力を入れて、

 

「――おっけー! 準備完了ダヨ!」

「よし、そんじゃあ――全員! 静粛に!!」

 

 俺の出した大声に、場内のざわめきが一気に引く。

 

 アリシャさんの拡声魔法で声量をブーストされた俺の声がコロシアム内に反響し、それが落ち着くのを待ってから、俺は一世一代の大演説とばかりに声を張って言葉を続けた。

 

「間もなく! 第四回、アルヴヘイム・オンライン統一デュエル・トーナメントの開幕式の時間となる! それに先立ち、俺たちから皆に伝えたいことがある!!」

 

 沸き起こる歓声と拍手。口笛を吹きならすヤツ、手に持っている酒瓶を振り回すヤツ。それらに手をあげて応えた後、さらに続けて声を上げる。

 

「今年の大会はサラマンダー領軍の長・ユージーン将軍が参加を辞退したということもあり! 優勝者争いはここにいるシルフ領主サクヤ! 僭越ながらこの俺キリト! そして最早伝説となりつつある無敗の剣士《絶剣》の三つ巴であると目されている! 無論! 俺たちはその期待通りの、いやそれ以上の決闘をみせることをここに確約しよう!!」

 

 再びの歓声。今度は笑い声も半分混じっており、「それ自分で言うのかよー!」とか「初戦負けフラグだぞー!」という野次も聞こえてくる。正直、他にも強い奴は山ほどいるのだからそう大言壮語できるほど余裕はない。こういうのは言った者勝ちだ。

 

 ……だが、

 

「――しかし!! ここALOにはその目算を狂わせる存在がいる!! 俺たち三人の首級を上げ、四代目となり得る者が一人いることを! 俺はこの場で皆に伝えたい!!」

 

 そう、その予想を裏切る存在が、これから現れるのだ。

 

 どよめく会場内を一度見私た後、俺は領主二人に目くばせをする。アリシャさんは首肯し手元のアイテムを操作。大型の六面型映像投影展開アイテム『ヘキサゴナル・スフィア』が起動し、俺たちの頭上高くに巨大なホログラムスクリーンが展開する。

 

 それを見届けたサクヤさんが、凛とした良く通る声で、静かに俺の話を継いだ。

 

「……諸君は覚えているだろうか。一年前、このALOで出回ったある一つのニュースを。真相を探ろうとしたにも関わらず、当の本人がALO内で見つからないがために半ば都市伝説となっていった、ある小規模なトーナメントでの出来事を」

 

 サクヤさんの話に合わせ、スクリーンに一枚のスクリーンショットが表示される。内容は『ALO正式サービス開始一万時間突破記念トーナメント・プラチナクラス・レベルⅤリザルト』と題され、四人のプレイヤーの勝敗と順位、残存HPが表示されている。

 

 その頂点に君臨する、一人の男のキャラクターネーム。

 

 ユージーンの旦那を倒し、サクヤさんに完勝してみせた。

 

 その男の名は……、

 

「――『一護』。

 

 たった一日しかALOに現れず、公式のデュエルではこの二戦、それから世界樹攻略決戦への参加のみが確認されている幻のプレイヤーだ。かの呪われた鉄の城からの生還者ではないかと予想されるこの男の名を、諸君は覚えているだろうか」

 

 サクヤさんの問いかけに、場内のプレイヤーたちからは曖昧ながらも肯定するような反応が返ってくる。

 

 一日の中で奴の存在を目撃したのは、サラマンダー・ケットシー・シルフの各軍の精鋭たちだけ。

 写真一枚すら出回っていない、ただ『一護』という名と領主・将軍級を立て続けに連勝したという素っ気ない記録しか残っていない男の存在は、実在を疑われながらもこうしてみんなの記憶の片隅には残っていたようだ。

 

 ここまでは予想通り。

 

 ここからが演説の本番だ。

 

「……私たちは今日、この場において彼の実在を証明しようと思う。

 彼は、『一護』君は間違いなく実在し、そしてこのトーナメントに出場を表明する。それを示す映像をこれから皆に観てもらいたい。一年前、彼が私たちを打ち負かした……その瞬間の映像記録を」

 

 「え、うそっ……!?」「マジかよ……!」と、一気にどよめく場内を尻目に、サクヤさんはアリシャさんにアイコンタクトを取る。

 

 それに頷いた彼女が手元のウィンドウを操作すると、スクリーンが白く発光し、動画が音声付きで再生され始める。日付は去年の一月下旬。映し出されるのは小高い丘の上。開けて障害物がないその場所で、二人の男が激突していた。

 

『この――図に乗るな、小僧がぁッ!!』

 

 真紅の鎧を纏った巨漢の重戦士、ユージーン将軍が吼えると、あの半球状の炎の壁が展開され、接近していた相手を弾き飛ばす。HPはすでにレッドゾーンに達しており、戦意こそ失われていないが満身創痍といった様子だ。

 

 サラマンダーの十八番、重突進をかける将軍と対峙した相手である青年サラマンダーは、シミターブレードを上段に構え、迎え打たんとする。モノトーンで統一された軽装備に、派手な橙の髪色がよく映える。

 

 そして、青年が羽根を目一杯に広げ、重心を落とした次の瞬間、

 

『――遅えッ!!』

 

 一喝と共に青年の姿が掻き消え、直後に将軍の背後に出現。同時に将軍の首が刎ね飛び消えていった。

 

 場内のギャラリーからは驚愕の声が上がるも、まだ弱い。驚く反面、まだ疑いを含んでいるような、そんな雰囲気だ。

 

 

 だが映像は終わらず、燃え尽きる将軍の身体を一瞬写した後、パッと次の映像に切り替わる。

 そこに映っているのは着流しを纏った美貌の女性。抜き身の太刀を手に持ちつつ、左手を前に翳し、

 

『――刃の吭に、呑まれて消えろ!!』

 

 幾千もの桜の花びらのような刃の群れを射出し、青年を斬殺しようとする姿だった。

 

 撃ち出された術の手数からして逃れられるはずがない。万事休す。けれどその矛先を向けられても尚、青年は揺らがない。手にした曲刀をゆっくりと振りかぶり、そして――凄まじい金属音と共に、向かってきた刃全てを叩き落として見せた。

 

 呆然とする彼女の前から青年の姿が消える。次の瞬間、ザリッという音が彼女の背後から、次いで、

 

『奇跡は一度、だったよな――』

 

 低い男の声が響く。その音源に彼女が振り向ききるより早く、背後に出現した青年は曲刀を突き出し、

 

『――じゃあ二度目はなんだ』

 

 相手の心臓を貫いた。

 

 ここで映像は終わり、同時にスクリーンは消失する。アイテムを片付けるアリシャさんに会釈をし、サクヤさんはギャラリーを見渡した。二度の超人的戦闘を見せつけられたせいか、明確なリアクションはなくただどよめくだけの観衆を見ていると、耳元でユイが囁いた。

 

「……パパ。南西の方角から高速で飛来するプレイヤーの反応を感知しました。あと六十八秒でコロシアム上空に到達します」

「よし……サクヤさん、打ち合わせ通りに、南西方面に頼む」

「任せろ」

 

 俺の言葉に頷いたサクヤさんは、大きく息を吸い込むと、鋭い声で演説を締めくくりにかかる。

 

「諸君! この映像の真偽について、判断は任せる。必要ならば、提供元であるケットシー領に問い合わせるといいだろう。

 私が今ここで言いたいことはただ二つ。あのトーナメントの結果は紛れもない事実でありそれを成した剣士は間違いなく実在すること! そして、その彼が確実にここに現れるということだ! かの《絶剣》と同じように、流星の如く唐突さでこの世界に降り立ち、超人的な剣技で以ってこの闘技場を湧かせてくれる存在がもうじきここに来る! その彼の、一護君の到着と参加表明を以ってして、この大会の開幕宣言としようではないか!!」

 

 サクヤの宣言により、会場の雰囲気が再び熱を取り戻す。再度の歓声と「ここに来んのかよ!」「戦うところとか見れたりするかしら」「ムービー撮れ!」という声が聞こえてくる。

 

 残り時間は三十六秒。さあ、大演説は此れにて大詰め。〆の段。

 

 サクヤさんは右手を上空に翳し、歓声が鳴り響く中で一番大きな声を張り上げた。

 

「さあ!! 彼を歓迎する祝砲を上げようじゃないか!! 我らを打倒せんとする、死神の如き男の襲来を祝う、真紅の祝砲を――『君臨者よ(Gramr)!!』」

 

 古ノルド語で詠唱を開始したサクヤさんの周囲に真っ赤な光が立ち込める。その発光の源は空に向けられた掌にあり、まるで夜空の恒星のように煌々と輝いている。

 

血肉の仮面(gríma slátr eða blóð)万象(allr lund)羽搏き(flúga)ヒトの名を冠す者よ(þiggja nafn menskr )!

 

 焦熱と争乱(efst hiti eða ófriðr) 海隔て逆巻き(taka skilja haf)南へと歩を進めよ(stíga framr til suðri)!』

 

 古ノルド語特有の不思議な旋律。それが織りなす呪文が完成する一歩手前まで来た、その時。俺たちの耳に羽音が聞こえてきた。サラマンダー特有の、低く、力強い羽音。それを聞き奴の来訪を確信した瞬間、

 

『――古代式壱節(aldinn einn) 《赤火砲(Rjóðr eldr vápn)》!!』

 

 術式が完成する。

 

 紅色の火球が打ちあがり、晴天の青空目掛けて飛んでいく。瞬く間に闘技場の最大高さを越え、尚も高く上がる。と、その進路に飛び出してきた黒い人影があった。太陽により逆光になっていてみえないが、太陽光を反射して黒く輝く日本刀のシルエットだけは、やけにはっきりと捉えることが出来た。

 

 ギャラリーたちの一部がその影に気づく。だが魔法を取り消すことなどできない。いかにここが保護コード圏内だからと言っても撃墜は避けられないだろう。誰しもそう考えたはずだ……コロシアム中央にいる、俺たち三人以外は。

 

 さあ、果たして――、

 

 

「――月牙天衝ォォォォォッ!!」

 

 

 来た!

 

 響き渡った叫びと共に黒い炎のような斬撃が火球と衝突。凄まじい爆発を巻き起こした。

 

 先ほどの《赤火砲(Rjóðr eldr vápn)》は例の記憶具現化プログラム削除直前に追加された魔法で、詠唱が長く複雑な反面威力は折り紙つきのはず。事実、バレーボール大だった火球は爆発の瞬間、業火を直径十メートルはあろうかという大火焔をまき散らした。

 

 だが、それと相対した黒い斬撃はそれさえも軽々と食い破り、散らしていく。自らを撃墜せんとした魔法そのものを空中で撃墜する、だなんていう荒唐無稽なパフォーマンスに、会場からは大喝采が上がる。

 

 その喧騒と爆煙を突き破るように、人影が超高速で飛び出してきた。そのまま地面に激突する……直前で急減速し、ドンッという重い音と砂煙を上げて着地した。それを見届け、俺は砂塵を見据えつつ背中に吊っている漆黒の片手用直剣《ユナイティウォークス》を抜き放つ。

 

 呼び出しておいていきなりケンカふっかけるようなマネをしたんだ。受験を経て急激に性格が丸くなったりなどしていない限り、俺が知るアイツなら間違いなく……、

 

「…………ッ!」

 

 戦闘態勢に移行する!

 

 砂煙の中から人影が飛び出てくるのと、俺が迎撃のために地を蹴ったのはほぼ同時

だった。双方の中間点で俺たちは衝突し、ガキィン! という激しい金属音を鳴り響かせた。

 

 ギリギリと悲鳴を上げる互いの獲物越しに、俺は相手の姿をしかと見る。

 逆立ったオレンジの髪。黒いコートに袴足袋草履という傾いた服装。普通にしていれば端正で通るはずの顔立ちは大いにしかめられ、コイツの不機嫌さをこれでもかというくらいに表現していた。

 

 ……ああ、あの時のままだ。

 

 一年前、世界樹の上で起きた須郷との決戦。

 

 その中で最後に見せた黒衣。同色の日本刀を振りおろし、俺と共に狂気の研究に終止符を打った、あの姿だ。

 

 

 ……一年間、ずっと待っていた。

 

 SAO時代、一度も戦う事の無かった相手。

 

 けれどあの事件以降、一度は戦ってみたいと思い続けた、一方的なライバル。

 

 

「――よォ。人をメールで脅しつけた上に魔法ブッパするたァどういう了見だよ……キリト!」

 

 

 ……ああ、すまない。

 

 そしておかえり。仮想の、剣戟の世界へ。

 

 

 

 ――《死神代行》 ()()()()

 

 

 

 

 




感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

赤火砲、というか古代式を実装したのは、遠き日のカーディナルさんの仕業です。
新魔法の詠唱ネタ探しの結果、アレが採用された感じです。

尚、詠唱はサクヤたちには古ノルド語でしか提示されておりません。
また、まかり間違って誰かが日本語訳しようと試みても元の詠唱と同じようにならないよう、少し意訳……というかニュアンスを弄っています。


……ちなみに遊び半分で黒棺(古ノルド語的には"blakkr kista"でしょうか)を翻訳しようと試みましたが、最初の「滲み出す混濁の紋章」の時点で挫折しました。意訳でもこれはムリ。



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