Deathberry and Deathgame Re:turns   作:目の熊

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滑り込みセーフ! な番外編五話目です。

リーナ視点です。


No.5 Life is short, fall in love girl.

<Lina>

 

 

 今日から日記を付けることにした。

 

 自分の行動把握こそが自己成長の第一歩だと物の本で読んだ。一護の隣に居られるだけの価値ある自分になるため、まずは日常の記録が重要と判断。改善点と反省点を洗い出していくことにする。同時に一護の行動も可能な限り記すことで、彼の嗜好を整理し掌握していきたいと思う。

 

 彼に必要とされる私になれるよう、そして、もっと一護のことを理解できるよう、頑張らなきゃ。

 

 

 ◆

 

 

【◎ページ目】

 

 今日は学校で通常通りの授業。SAO時代の友人はクラス内にほとんどいないけど、それなりに上手くやっている。子供のころは体の弱さと表情の乏しさが周囲に合わなくて孤立していたけれど、流石にこの年齢になるとそれくらいで差別されることはなくなった。居心地満点とは言えなくても、それなりに上手くやっている。

 

 一護の方は絶賛受験勉強中。偏差値を上げ合格率を最大限に高めるための予備校通いとバイトを並行させているらしい。身体を壊さないか心配で電話で具合を訊いてみる。

 

 当然のように「問題ねえよ」と返された。声のトーン的にも嘘は吐いてないようで一先ず安心。けど顔を直接見たい。ここ最近、あまり会えていない気がする。SAOでは毎日一緒に居たけれど、現実に帰ってきてからはそうもいかなくなっている。

 

 我がまま言って彼を困らせるわけにもいかないし、まず今できることから始めないと。

 

 

 ◆

 

 

【×ページ目】

 

 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。

 

 ということで、一護たちが住む空座町に一人で訪れ、町内を散策してみた。

 

 まずは事前の情報から一護の家を突き止めた。普通の一戸建てで、一階部分が医院になっているようだ。もし自分がここに住んだら……とか妄想して、一人で赤くなって恥ずかしかった。

 

 続いて空座第一高校。一護が過ごしたという、特に変わった様子もない普通の高校。女の子の制服がライトグレーなのがちょっと珍しい程度。これを着て一護と高校生活ができていたら……と思いながら校門から校舎を見上げていたら、OGと間違えられたので撤退。

 

 駄菓子屋を通り過ぎて住宅地に入ったところで、一護のバイト先の事務所を発見。クロサキ医院と違ってネットに情報はなかったけど、広告とかを辿れば住所くらいは私一人でも特定はできた。

 

 通り過ぎようとした時、一護と眼鏡をかけた小柄な女子高生が出てきたのを目撃。電柱の陰から様子をうかがう。二人で並んで駅の方へと歩いていく姿に負の感情が湧いて来るけれど、別段仲が良さそうではなく、むしろ余所余所しい雰囲気だったので多少は警戒レベルが下がる。

 

 追跡途中、一護がパッと後ろを振り返ったので咄嗟に脇道に身を隠した。流石に鋭い。これ以上はバレるかもと思い、尾行は中止した。

 

 

 ◆

 

 

【△ページ目】

 

 化学のテストで満点を取る。同時に理系科目総合でクラス一位。一護に電話で報告したら、すごく褒めてくれた。嬉しくてにまにまする。

 

 けど国語の方が相変わらずダメのまま。医師を目指す彼の伴侶は莫迦女であってはならないと自分を奮起させ、苦手克服のために基礎からやり直す。できることなら彼と同じ大学に入りたいのだけれど、もし医科大を受験してしまうとそうもいかなくなる。

 

 個人的には薬学部に進みたいと思っているので、医学部と薬学部併設の大学を調べてみた。意外と数があり、希望が叶う可能性は低くないことを知った。

 

 アインクラッドと同じくらいとは言えないけれど、一護と毎日一緒にお昼ご飯を食べれるようになれたらいいな。

 

 

 ◆

 

 

【□ページ目】

 

 最近の日記の内容が自分の中でどうもしっくりこない。

 

 私の中で大半を占める一護に関する記述の端々が、記憶とずれているように思える。現実と比較して記述の方が正しそうなので私の記憶違いってことになるのだろうが……いや、今はそんなことどうでもいい。

 

 そう、親との協議の末、ついに一護の家の近くに引っ越しできることになったのだから。

 

 両親への説得材料として、某大学の薬学部への合格率が都内で一番高い予備校が空座町駅前にあることを用いたのだが、正直言って私に予備校へのこだわりなどない。

 私にとっては一護の傍に居られることが最重要事項。引っ越しという手段のためなら目的など選んでいられない。目的のためなら手段を選ぶなっていうのが君主論の基本らしいけれど、そんなのは捨て置く。

 

 度重なる空座町散策の結果、一護の自宅からすぐ近くに小奇麗な新築アパートがあることが分かっている。一護が都内の大学を受ける以上、おそらく自宅通学になるだろうし、その彼との時間を増やすためにはこの場所が最適。父様にお願いして買い上げてもらい、住みやすいように短期改築を始めた。

 

 並行して、次の週末に行くアイススケートの準備もしている。初心者のため、うまく滑れるだなんて思えないし、そもそもうまく滑ろうだなんて思ってない。一護と、二人きりで、初めての場所へ行く。これが大事。

 できることなら手を繋いでみたかったりするけれど、そこまで高望みなんてしない。一護に満足してもらって、私はそれを少しだけ分けてもらえれば充分だから。

 

 ……うん、とても楽しみ。 

 

 

 ◆

 

 

【☆ページ目】

 

 一護とアイススケートに行ってきた。

 

 気を抜くと今でも頬が熱を帯び、口元が緩みそうになる。今日あったことを忘れるなんて絶対にないけれど、それでも詳細に記録に残しておきたいから、長いけれど全部書いておくことにする。

 

 三時過ぎにスケート場に到着して、スケートブーツをレンタル。まずは氷の上に立つところから始める。元々バランス感覚は人並み以上にいいと思っていた私でも、予想以上に難しかった。ブレードが細いためにその上に均等に体重をかけていないと転びそうになってしまう。

 

 「焦んなくていいから」と一護は言ってくれたけれど、彼を待たせる訳にもいかない。どうにか自力で立てるようになり、軽く滑り始め……一瞬で転んでしまった。氷に直でついた手が冷たさで痛むのを我慢しつつ身体を起こした私だったけど、次の瞬間、身体が宙に浮いた気がした。

 

 一護が後ろに回って、私の身体を抱きかかえて起こしてくれていた。互いに厚着していても伝わってくる彼の身体の逞しさ・温かさで一気に真っ赤になっていると、一護はそのまま前に回り、慌てて無表情を取り繕う私の手を引いてゆっくりと滑り始める。

 そうしてしばらく滑り、手を離して私が転びそうになったら両手を掴んで阻止する、というようにして、彼は私の拙いスケートをずっと支えてくれた。手なんて何かの拍子に一回くらい握ってくれればそれで満足だったのに、幸せすぎて、滑っている間中、全身が熱っぽくて仕方なかった。

 

 何度か私が前につんのめって倒れそうになった時なんか、両肩をがっちり掴まれて、あと十センチ身体を前に倒したら私の身体が一護の腕の中に納まってしまいそうになった。「あんま上半身を突っ込ませんな」という彼の忠告さえも、私も耳には心地よかった。

 

 夕方ごろ、私が軽食を買いに行っている間に一護が待合用の席で熟睡してしまう、なんて滅多に見ない一幕もあった。

 

 いくら約束だからとはいえ、ハードな受験勉強で疲れている彼を引っ張り出してしまい、挙句初心者の自分の面倒を見させる形になってしまったことを流石に申し訳なく思った。

 せめて一護の身体にかかる負荷を減らそうと、寝ている間は至極鈍感な一護の身体をそーっと横たえ、自分の膝の上に頭を乗せてみた。オレンジ色の派手な髪の毛がつんつんしてて、少しくすぐったくて、それ以上に普段とは大違いな無警戒の一護が可愛くて、心の奥の方からじんわり幸福がこみ上げてくる。

 

 何となく彼の頭を撫でてみようとしたところで、一護の目が覚めた。女の子のひざまくらで眠っていたことが相当恥ずかしかったらしく、跳ね起きて詫びる彼に「こっちこそ、負担かけてごめんなさい」と謝って、買ってきた軽食を二人で食べてスケートを再開。私がだいぶ滑れるようになった頃、花火が上がり始め、それを二人で並んで見てから夜道を帰った。

 

 こういう時間がもっとたくさん作れたらいいな、と心の底から思った。

 

 

 ◆

 

 

【★ページ目】

 

 年末。

 

 私は本家分家の集まりへ、一護はセンター試験に向けてのラストスパートへそれぞれシフトした。私の方は各家の状況を聞きながらご飯を食べるだけのはずだったのだけど、途中で分家一位の家の長男と強引に引き合わせられそうになった。

 

 仕掛けたのが分家側だったため、対処は突っぱねる一択。気色わるい笑みを浮かべて寄ってくる痩身男の身体を躱し、両親の元へ退避。父様がそれを察知して鬼の眼光で一睨みすると、その男はすごすごと去って行った。貴方なんかに許せるほど、私の心身は安くないの。そう思い、以後可能な限り同じ空間にいるのを避けるようにした。

 

 別に身体にフィットするタイプの衣服を着ていたわけでも、露出過多だったわけでもない。なのに、あんなにあからさまな「そういう」目で見られたことが嫌で嫌で仕方なくて、思わずその場で一護に電話しようと思う程だった。

 

 けど、そこはグッと我慢。私は一護を支えられる人を目指しているのであって、彼に支えてもらっていてはダメだ。むしろあの男を何かで利用してやるくらいの気概がないと意味がない。そう自分に言い聞かせ、メールで「勉強頑張ってね。良いお年を」とだけ送るのに留めておく。

 

 

 ◆

 

 

【●ページ目】

 

 新年になっても、一護には会える機会はほとんど無い。

 

 一護は相変わらずスパート中で朝から晩まで予備校。私は引き続き一族の新年会。どっちも仕方のないことではあるけれど……それでもやっぱり、さびしい。

 

 せめて声だけでも聞きたくて、お正月のお昼頃に「明けましておめでとう」の電話をしてみた。幸い向こうも手が空いてたみたいで、お互いの調子なんかを確かめたりした。授業が始まる時間になってしまい、結局は十分も話せなかったように思う。でも声が聞けただけでもよかった。話が出来た、それだけでも心が満たされた気がした。

 

 ふと思い立ち、今の私が一護の試験に関してなにか出来ることはないかと考えてみる。

 

 勉強自体は一護の方が年上だから、私が教えるなんて芸当は不可。

 凄腕教師を手配するくらいは簡単だけど、それは私の力じゃない。

 食事に関しても実家暮らしの彼は現時点で事足りているわけだし。

 

 ……あ、そうだ。

 

 ハーブティーの勉強をしよう。

 

 一護との相性を考えて調合すれば、集中力や疲労回復、眠気払いの効果をもたらすことが出来るはず。そう考え、その手の商いに携わっているらしい分家三位の叔母に相談してみた。事情を話し、承諾してくれた叔母からハーブの基礎や体質の見分け方を初歩の初歩から教わる。

 

 相手がどんな生活をしている人なのか、それをちゃんと知っていないと逆効果になりかねませんのでご注意を、と言われたけれど、それくらい当たり前だ。知り合って三年超。ずっと一緒に生きてきた人のことなのだから。

 

 

 ◆

 

 

【#ページ目】

 

 目前に迫ったセンター試験が終わった次の日から、一護の家にハーブティーを持って行くことにした。

 

 今は自宅のキッチンでハーブティー作成の練習中。長時間勉強を続けていることから、一番役に立ちそうな疲労回復効果を重視した調合を目指している。実際に飲んでもらわないと効果の程はわからない。よって、今はそれ以前の問題、お茶の淹れ方そのものをちゃんと練習しておく必要があった。

 

 教わった内容を参考にして、ハーブの割合やお湯の温度、蒸らしの時間なんかを細かく変えて、味や香りを確かめていく。今までずっと一護と一緒のご飯を食べてきた以上、彼の味の好みは分かっているつもり。飲みやすいとは言いにくいハーブティーを、彼が抵抗なく飲んでくれるような優しい味を目指して、調合を調味を続けていく。

 

 ……一護の顔を見なくなってから、今日で十八日が過ぎた。

 

 多分リハビリが終わって以来最長だと思う。駄々をこねてはいけないと分かっていても、それでもやっぱり寂しい。会いたくて仕方ない。声を聞くだけじゃ満足できない。彼の傍に、隣に居て、一緒にご飯を食べたりお喋りしたりしたい。

 

 けど、それ以上に、好きな人の役に立てていない現状を、すぐにでも何とかしたかった。

 

 あの日、現実世界に戻ってきてからリハビリが終わるまで、一護は定期的に私のお見舞いに来てくれていた。私が欲しがりそうなものを察して手土産で持ってきてくれたし、口調だっていつもより柔らかくて、心配してくれてるんだなあって、すごく感じられて嬉しかった。

 彼と二人で車いすで出かけたりしたのだって、自分の全部を一護が支えてくれている気がして、ダメと分かっていても「もっと」と願わずにいられなかった。

 

 これからはその分をお返ししていかなきゃいけない。

 

 そう自分に言い聞かせ、衝動を押し殺しながら、私は調合を続けていた。

 

 

 ◆

 

 

【$ページ目】

 

 センター試験が終わった次の日。

 

 私は朝早くに起きだし、手早くハーブティーを作成。ポットに入れたそれを持って真っ直ぐ一護の家を目指した。いきなり朝から押しかけてしまう形にはなるけれど、今日は一護は予備校が休みだと言う。朝食が終わったくらい、八時を目安に訪問すれば、迷惑にはならないはず。ご家族用の差し入れも完備したし、万全の状態だ。

 

 一人で勝手に通い続けていた道をすいすい進み、いよいよ一護の家が見えたところで……立ち止まった。

 

 玄関口では、一護と井上織姫が楽しそうに話をしていた。

 

 井上織姫の手には差し入れらしい包みがあり、それを一護は笑顔で受け取る。それに照れたように笑みを返しながら、井上織姫は彼と話を続ける。

 

 顔を伏せ、踵を返し、私はそのまま家に直帰した。

 

 後のことはよく覚えていない。

 

 

 ◆

 

 

【%ページ目】 

 

 先日作ったハーブティーを、もう一度一護の家へ持っていく。

 

 衝動的に捨ててしまおうかと思ったけれど、それよりずっと良い使い道が頭に浮かび、即座に実行に移した。

 

 ハーブの組み合わせで「これだけはやってはいけない」と言われていた、禁じ手。効能を引き上げる代わりに依存性が劇的に高まると言われているらしい。必要なハーブを手に入れるのには苦労したけれど、必死で探して何とか手に入れることができた。

 

 これを飲んでもらえれば、一護は私のハーブから離れられなくなる。

 

 意志の強さも何も関係ない、その意志の発生源たる脳から私の思う色に染めてしまえばいいのだ。

 

 今まで何故この最良の手に気づかなかったのかと心底悔やんでいる。

 

 一護は周りの人たちが傷付くことを望まない。

 

 みんなを護る。それであってこその一護なのだから、それは当然。

 

 だから、邪魔な対象は排除するのではなく、他の女が割って入れなくなるくらい、彼を私に依存させてしまえばいい。そうすれば私はもっと一護のために頑張れるしもっともっと一護と一緒に居られるしもっともっともっと一護が好きになれる。なんて良いこと。

 

 ハーブだけじゃない。お薬の勉強も始めたから、合法的に一護の脳を私色に染める方法もきっと見つかる。最初はハーブみたいな軽いものから、それが浸透したら粉のお薬、丸薬とどんどん変えて行く。それと並行して、私がどれだけ一護に尽くせるかを分かってもらうんだ。そうしたら、あんな邪魔な女が取りつく隙なんてなくなる。そうしたら、私はもっと一護のために色々なことをしてあげられる。

 

 一護。

 

 一護一護一護。

 

 あなたが大好きだよ。

 

 こんなに尽くしてあげられるくらい、あなたが大好きです。

 

 全部をかけて一護の心を護れるくらい、大好きなんです。

 

 だから、一護もきっと私を好きになってくれるよね? こんなに好きな私だよ? 護りたいよね? 護ってくれるよね? 

 

 だから――今からいくね。

 

 

 私だけの一護にして、一護だけの私になるために。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「………………」

 

 無言。

 

 なんというか……言葉が出ない。色んな意味で。

 

「どーよリっちゃん! オレっちの冴えわたる文才ハ!!」

 

 絶句したままの私に、アルゴは自身満々の様子。見せてもらっていたタブレットに表示されたテキストから目を離し、一回深呼吸して、

 

「……ばかアルゴ。私、こんなに犯罪者っぽくない。特に最後の方、私と性格変わってるし」

「それはホラ、愛故に歪んだ心ってヤツサ。愛した男が振り向かない、どころか別の女と笑い合ってル。だったらいっそ、私だけの彼に……ッテナ!」

「……はぁ」

 

 彼女の自室に招かれ、雑談ついでに彼女が「リっちゃんから今まで聞いた話を基にして短編小説書いてみたゼ」と言いだしたのを見せてもらい、私は心底疲弊していた。

 途中まではだいたいあってたのに、最後の方で急速に歪んでいくのが分かった。っていうかこれ、完全にバッドエンドまっしぐらなんだけど。一護を薬漬けにして傍に張り付くとか狂気の沙汰でしかないんだけど。

 

「あのねアルゴ、確かに私は一護のこと大好きだし、正直に言って独占もしたいけど、あくまで一護の気持ちが最優先なの。これじゃ一護の役に立つどころか、一護が私のいいように動くように歪めようとしちゃってる」

「でもリっちゃん、性格的にそーゆーコトしかねネーゼ? 傍から見てる限りナ。どうなんだヨ、ぶっちゃけあのハーブティー、なんか余計なモン入れたりしてんじゃネーノ?」

「そ、それ、は……その…………」

 

 思わず言い淀む私に、鬼の首を獲ったと言わんばかりの勢いで古馴染みの友人が畳み掛ける。

 

「ホレ見ロ! ヤッパなんか仕込んだんじゃネーカヨ! サア吐け、なに入れたんダ!? さもねーとこの小説が真実で確定すんゾ!!」

「ち、違う! 別に危ないもの入れたんじゃなくて……その、一護が私のことをもっと頼ってくれますようにって、願掛けした、だけ……」

「オオゥ……予想以上に乙女チック」

「く、薬とか依存より百倍常識的でしょ」

 

 自覚できるくらい顔を赤くした私は、テーブルの上のポテトチップスをやけ食いしてジュースで流し込む。それをニヤニヤしながら眺めたアルゴは、両手を頭の後ろで組んで、

 

「マ、リっちゃんが健全に恋愛してンなら、友人としちゃそれに越したことはネーナ。間違っても監禁だの足切断だのやらかしてくれんナヨ? ソーユー記事は書いてねーンダ」

「頼まれてもしないから。ジュースおかわり」

「ヘイヘイ」

 

 アー楽しかったナ、と笑う彼女からオレンジジュースを注いでもらいつつ、私は一護のことを考える。

 

 確かに一護は相変わらず振り向いてはくれない。

 

 ちょっとずつ、脈ありかなって反応は増えて来てるけど、それでも恋愛感情にはまだまだ発展しそうにない。それに、私のほうだってまだ一護の心を支えきるには力不足だ。もっと勉強を重ねて、彼の役に立てるようにならないと。

 

 その一歩になるかもしれないバレンタインを明日に控えた私は、そうして自分の決意を新たにするのだった。

 

 

 

「……ところでアルゴ。この原稿、私に売るとしたらいくらで売ってくれる?」

 

「…………エ?」

 

 

 

 

 




日記の中身のどこまでが事実でどこからが演出なのかは、皆様のご想像にお任せします。

尚、タイトルの和訳は「命短し、恋せよ乙女」です。
恋する乙女の日記で御座いました。


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