Deathberry and Deathgame Re:turns 作:目の熊
キリト……の妹、直葉(リーファ)視点です。
※未成年は飲酒ダメゼッタイ!
<Leafa>
「――スグはエギルと会ったことあったっけ?」
「うん。向こうで二回くらい一緒に狩りしたよ。おっきい人だよねー」
「言っとくけど、本物もあのマンマだからな。心の準備しとけよ」
御徒町の街並みの少し奥まったところにある『ダイシー・カフェ』。
その扉の前にたどり着いたあたしの前で、お兄ちゃんはにやりと脅かすような笑みを浮かべた。横にいるアスナさんも「私も初めてここに来たときはびっくりしたよー」と言ってくすくす笑う。あの巨体と厳つい顔つきが現実でもそのまんま……想像してみるとちょっとおっかない。
ビクつくあたしを余所に、アスナさんが、それを言ったらさ、と言葉を続ける。
「そこにいるオレンジ髪の人にも、現実で見たときはけっこう驚いたよね」
「ああ。しかもアレ、染めてるんじゃなくて地毛らしいぞ」
「えぇっ!? あたしてっきり染めてるのかとばっかり……」
「私も直葉ちゃんと同じように思ってたんだけど。どうも本当に地毛みたい。黒染めすれば、もうちょっと女の子受けが良くなると思うんだけどなぁ」
「いやでも、今の一護が女受けしだしたら、えげつない修羅場が巻き起こりそうな気がするけどな……」
そう言ってあたしたちが見つめる先には、
「今度は暑ぃってお前……さっきまで寒ぃ寒ぃ言ってたじゃねーか。ドッチかにしてくれ」
つい今し方衝撃の事実が発覚した一護さんと、
「夕日を浴びてたら暖まってきた。春先なのに汗かくのイヤだから、早くブランケット仕舞って、一護」
そのパートナー(彼女ではないらしい?)の
何でもリーナさんはSAO事件からの帰還後のリハビリが未だ完全に終わっていないため、車いす付きで外出することになったらしい。最新技術が駆使された電動式とはいえ一人で出来ないことも多々あり、そのため待ち合わせ場所の御徒町駅前からここに着くまでの間、一護さんはずっと愚痴混じりにリーナさんの介助……と言うか、ワガママを聞き続けていた。
リーナさんの膝にかかっていたブランケットを乱雑に取り上げ、意外と律儀に畳んで仕舞う一護さんは、さも億劫そうにため息を吐いた。
「ほれ、これでいいだろ。ったく、手間かけさせやがって……」
「イヤそうにしてる割には手を抜かないあたり、流石一護。使用人の才能がある」
「うっせーな。オメーの親父さんにあンだけ頼まれりゃ、やらねーワケにいくかよ」
「……正直、私的には申し訳ないと思ってる。けど、仕方ないこと。私の外出を許す条件が『一護が私の諸々のお世話をすること』だったんだから。文句は父様にお願い」
「『呉々も娘を傷物にせぬよう細心の注意を払って呉れ給え』とか言いつつガチの表情で詰め寄られちまったら、文句なんざ言えるかっつーの……」
「……私も言えない。プライベートであそこまで真剣な父様は初めて見た。とにかく、今日だけはお願い。この前一護が言ってたベルギー産チョコレート使用の高級ケーキ、今度ご馳走してあげるから」
「いーよ、別に。気ィ使わねーでも」
「今なら特別サービス。オプションで口移しも可」
「そういう冗談は止せ! 食いモンで遊ぶな!」
「ツッコミどころ、そこなの……」
仲むつまじく言い合う二人。どう見てもデキ上がってるカップルなんだけど、お兄ちゃん曰く「リーナの片思いってだけで、まだくっついてないんだよ。アレでも」とのこと。齢十五のあたしが二十代の二人を前に思うのもヘンだけど、恋や人間関係というものは、とても難しい代物なんだろう。
「おーい、そこのお二人さーん。そろそろ入るぞ」
そう声をかけつつ、お兄ちゃんが木戸に手をかけ一気に押し開けた。
カラン、というベルの音。それに続いて聞こえてきたのは、大勢の人の歓声と拍手だった。見ると、そこそこの広さがあるお店の中にはけっこうな数の人がいて、大音量のBGMが流れて盛り上がっている最中だった。
思わず面食らってあたしたちが固まっていると、私たちの後ろから店内をのぞき込んだ一護さんが、ジト目でお兄ちゃんを見やった。
「……おいキリト、さてはテメー時間を間違えやがったな」
「い、いや! そんなことはない、ハズなんだが……」
「へっへ、主役は最後に遅れて登場するものですからね。あんた達にはちょっと遅い時間を伝えといたのよん」
そう言って現れたのは、つい最近ALOで知り合った鍛冶職人のリズベットだった。にっしっしといたずら成功とでも言いたげな笑みを浮かべつつ、あたしたちを招き入れる。
「あれ、リーナってば車いすだったの? 事前に言ってくれれば動きやすいようにレイアウトとか工夫しといたのに」
「お気遣いありがとう、リズ。でも大丈夫、今日の私には有能なエスコート役がついてるから」
「あー、そう言えばそうだったわ。んじゃ、あたしが心配するだけ野暮って感じね。一護、あんた頑張んなさよ」
「オメーに言われる筋合いはねーよ。とりあえず、どっかテキトーなテーブルの前にコイツをつけさせてくれ」
「あ、それは私がやっておくわ。一護はキリトくんと一緒に、ね、リズ?」
「おっけーアスナ。それじゃ、一護とキリトはこっちこっち!」
アスナさんに促され、お兄ちゃんと一護さんは店の奥の即席ステージへと引っ張り込まれる。あたしはアスナさんに続いて手近なテーブルに着くと、BGMがフェードアウトし、照明が絞られる。そして、壇上の二人にスポットライトが当たったかと思うと、再びリズベットの声。
「えー、それでは皆さん、ちょっと長いけどご唱和ください。せーのぉ!」
「一護・キリト、SAO&ALOクリア、おめでとー!!」
全員が唱和し、同時に盛大な拍手が鳴り響く。クラッカーが鳴らされ、フラッシュが何度も炊かれる。呆然とするお兄ちゃんと、フラッシュを避けるように目の前に手をかざして顔をしかめる一護さん。
そんな二人への祝福で、夕暮れのオフ会はスタートしたのだった。
◆
お兄ちゃんから聞いていた話だと、最初は一護さんのSAOクリアを祝う「ちょっとした」パーティーという話だった。
けれど、場の流れを見る限りではどうもお兄ちゃんが一護さんと共にALOの世界樹を制覇し、しかもそれによってSAO未帰還者三百人が解放されたことも朧気ながら知れ渡っているらしく「じゃあ二人まとめて祝ってしまえ!」的なノリでこの大人数が集められたみたいだった。当事者抜きでここまで人数が膨れ上がったのは、中々凄いことだと思う。
その当事者二人は、乾杯を済ませた後、今さっきまでもみくちゃにされていた。
お兄ちゃんにはクラインさんやそのギルドメンバーの人たち、リズベットにシリカというような、あたしもよく知ってる面子がよってたかって祝福していた。アスナさんは苦笑しながら少し遠巻きにそれを見ていて、思わず脳裏に浮かんだ「正妻の余裕」というシツレイな言葉をグッと押し殺した。
一護さんの方に集まってた人たちには、見覚えがなかった。ディアベルと呼ばれている優等生然とした二十歳くらいの男の人とその仲間らしい人たち、私と同じくらいの年頃の大人しそうな黒髪の女の子やその同級生と思われる男子四人組が、一護さんを取り巻いていた。
中でも眼鏡をかけた女子大生っぽい人は彼にお熱だったらしく、
「貴方の噂はよく聞いていました。うちの教会の子供達の憧れで、その上支援ギルド経由でたくさんの寄付までしてくれて……ニュースペーパーで報じられる一護さんのヒーローみたいな活躍には、私も年甲斐もなく魅了されました! SAOをクリアしてくださって、本当にありがとうございました!!」
とまくし立て、一護さんの手をぎゅっと握りしめた時には囃し立てるような口笛さえ鳴っていた。離れたところに陣取るリーナさんの呪い殺せそうな視線と、黒髪の女の子の泣きそうな表情に板挟みにされ、一護さんは終始ひきつった顔をしていたが。
「……づぁー。すっげえ疲れた」
集団から解放され、ついでにリーナさんを宥め終えた一護さんは、疲労感満載の声と共にカウンターに突っ伏した。すでにカウンターに陣取っていたお兄ちゃんはグラスを片手に苦笑いを浮かべ、その横でウィスキーをちびちびと飲むクラインさんは「いやはや、モテる男はつらいねえ」とニヤニヤ笑い。
その様子を眺めながら、本当に仮想世界と全く変わらない黒々とした巨漢のマスター、エギルさんは疲弊しているモテ男さんの様子を鼻で笑うと、意地悪そうな笑みをたたえて、
「Hey, Ichigo. Would you like a drink?」
と、完璧なネイティブ発音で問いかけた。何て言ったのか、少し離れたところにいるあたしにはうまく聞き取れなかったが、一護さんはむくっと起きあがると、いつものしかめっ面を崩さないまま、
「……Double black, straight up.」
と、これまた流ちょうな発音で応えて見せた。勿論、言っている意味は分からない。
エギルさんは口笛を吹いて感心したような表情になると、後ろの棚から酒瓶を取り出してドリンクを作り始めた。
「一護、おめえも随分英会話が達者になったじゃねえか。しかもジョニー・ウォーカーのブラックラベルの上位酒たぁ、若ぇのにシブい趣味してんな。おまけにストレートかよ」
「なにぃ!? イチの字てめぇジョニーのダブ黒オーダーしやがったのか!? 二十歳過ぎのおめーにゃ、ンな気取ったスコッチ・ウィスキーは十年はえーよ! ビール飲めビール!!」
「うるせえな。いいじゃねーか別に。この前ウチのヒゲ親父と飲んでて、けっこー飲みやすかったんだよ、アレ」
「未成年の俺の目の前で酒談義を始めないでくれよ」
「あ? ンじゃキリの字、オメーも一杯いっとくか? アレだ、カシスオレンジでも出しゃいいだろ!」
「まあ、アルコール分1%以下に調整すりゃ問題ねえしな。キリト、作ってやっから待ってろ」
「いやいいよ俺は! ていうかクライン、それアルハラってやつじゃないのか!?」
「うるせえ! リア充に拒否権はねんだよコノ野郎!!」
「ほれ一護、ダブルブラックのストレートだ」
「さんきゅ……ッあ゛ー、ウマい。喉が灼ける」
わいわい盛り上がる男四人。そこへ、ビジネスマン然とした男性が近づき、一番奥のカウンター席に座るお兄ちゃんの隣に腰掛けた。
「やあ、キリトさん。久しぶりだね」
「シンカーさん。そう言えば、ユリエールさんと入籍したそうですね。遅くなりましたが――おめでとう」
「いやあ、まだまだ現実に慣れるのに精一杯って感じなんですけどね。ところで、そちらでウィスキーを飲んでる臙脂色の髪の青年……」
「ああ、そう言えばアインクラッドでの面識はないんでしたっけ。そう、さっき壇上で吊し上げられてた死神代行こと、一護です。一護、こちらはあの軍の最高責任者、シンカーさんだ」
「初めまして、一護さん。君の活躍は第一層に籠もっている私たちの元まで轟いていたよ。改めて、SAOクリアおめでとう」
「どうもっす。軍ってことはあのトゲ頭がいたトコのリーダーか。アイツ、なんか色々やらかしてたみてーだな。同情すんぜ」
「あはは、まあ私のリーダーシップ不足が大きな原因なので、致し方ないところもありますが……」
「ってかシンカーって名前、どっかで聞いたと思ったらMMOトゥデイの管理人じゃねえかよ。俺、たまに見てるぜ、あのサイト」
「いや、お恥ずかしい。まだまだコンテンツも少なくて――」
アインクラッドでの日々の思い出を語り合い、五人の会話が盛り上がっていく。壁際に並べられた樽の一つに座ったあたしは、それを眺めながら少しだけ寂しい気持ちになっていた。
中央のテーブルで会話に花を咲かせる皆。
カウンターで話し込むお兄ちゃんや一護さんたち。
あたしがそこにひょいと顔を出せば、きっと皆暖かく迎えてくれるだろう。ついさっきまでそうだったし、ALO内でしか会ったことのない人たちとこの現実で会話することは、とても楽しかった。
けれど、彼ら彼女らの間には、どうしてもあたしが入り込めない結びつきがあった。あの呪われた鋼鉄の城、あそこで共に戦い、生きてきたことで培われた強い絆。HP全損が現実の死に直結した、本当の異世界となっていたのだろう。
そんなところにいるお兄ちゃんたちと、あたしの距離はあまりにも遠すぎて――。
「――なーに辛気臭えカオしてんだオメーは」
「ひぃ……!」
いきなり一護さんの顔が真正面に現れ、あたしは思わず情けない悲鳴をあげてしまっった。カウンターでお兄ちゃんたちと話していたはずなのに、なんであたしのところになんて。
そう問いかける前に、一護さんはちょっと微妙な表情を浮かべた。
「いや、『ひぃ……!』はねーだろ。幽霊でも見たようなリアクションしやがって……」
「ご、ごめんなさい。ぼーっとしてて、つい。っていうか一護さん、お兄ちゃんたちと話してたんじゃなかったの?」
「アイツら、今後のVRMMOの未来についてとかいうイヤな話題にシフトしやがったからな。バックれてこっちに来たんだ。ほれ、オメーの分だ。飲め」
「ありがと……あ、良かったら横座ってよ。って言っても樽の上だけど」
「立食形式のココじゃ、座れりゃドコでも上等だろ」
差し出されたオレンジジュースをあたしが受け取ると、一護さんは「テキトーに食ってくれ」と言いつつ、お菓子が盛られた大皿をあたしのすぐ横の樽の上に置き、それを挟むようにしてさらに隣の樽へと腰掛けた。持っているグラスには琥珀色の液体が一センチほど入っており、アルコールの香りが漂ってくる。心なしか、顔も少し赤い。
「……もしかして、ちょっと酔っぱらってます?」
「酔ってねえよ」
「お酒持って顔赤くしてたら説得力皆無だって。それに、酔ってる? って訊かれて即座に否定するのって、酔ってる人の典型例なんじゃないの?」
「うるせえな。酔ってねえっつってンだろ」
あ、これはもう酔ってるなあ。と苦笑しながら、あたしは「そーですか」とだけ言って、一護さんが持ってきたおかしを摘み、ジュースで喉奥に流し込む。次々と供給される料理に皆が歓声を上げ、飲めや歌えの大騒ぎ。目の前で繰り広げられるカオスな宴を眺めながら、あたし達はしばらく無言で飲み物に口を付けていた。
どれほど時間が経ったか、手元のお酒を飲み干した一護さんがあたしの方を向いた。
「……わりーな。コレ、完全にアウェーだろ」
「え……?」
一瞬よく意味が分からず困惑したが、すぐに考え直した。
一護さんが言っているのは、SAOにいなかったあたしにとって、この場が馴染みにくいものになってしまっていることだ。あたし一人がそこからアブれてしまっている状況に対して「わりーな」と言ってくれているのだ。慌てて横に首を振って、表面だけでも否定の意志を示す。
「ううん。全然へーきだよ。ああやって楽しく大騒ぎしてるのを見てるだけでも楽しいし、あたしが顔を出せば受け入れてくれる。それだけで十分」
一護さんみたいに気にかけてくれる人もいるしね、とおどけたような笑みを付け加えてみせる。本当は最初の乾杯と軽い自己紹介タイムの後、ずっと一人で座っていたのだけれど。
あたしの内心を見透かそうとするかのように、一護さんは明るいブラウンの瞳で私をじぃっと見た。「一護は超のつく鈍感屋だからなー」とお兄ちゃんは言っていたが、その鋭い相貌に見つめられると心の底を覗かれてしまうような気がして、ふっと視線を逸らしてしまう。その反応を見た一護さんは浅くため息を吐いて、
「……んじゃあ、いっちょ顔出しに行くか。ウチの相方が暴走してるトコに」
「へっ? ぼ、暴走?」
「おう」
空になったグラスを手に、一護さんが立ち上がった。連れられてあたしも樽から腰を上げ、テーブルを三つ寄せ合ったところに出来ている一番大きな人だかりへと向かっていった。
「よぉリーナ。戦果はどーだよ」
「上々」
その中心にいたのは、トマトソースで口元を真っ赤に染めているリーナさんの姿だった。首から下げている紙エプロンや両手もべったべたになっており、本当に私の四歳上なのか疑わしい食べ散らかしっぷり。っていうかこの人、お兄ちゃんの話だと名家出身のお嬢様じゃなかったっけ。お上品さの欠片もないんだけど。
「……うぇー、ぐるじい…………」
「リ、リズ!? どうしたの?」
あたしの素っ頓狂な叫びに、テーブルに突っ伏していたリズベットは青い顔を起こして反応した。
「ぅう、調子に乗ってリーナとビザの大食い対決に挑んだんだけど……もうムリ、吐きそ……ぅっぷ」
「わ、わー! ちょっとリズ!? もどすならトイレ行きなさいトイレ!」
慌てるアスナさんを余所に、本当に死にかけているリズは固まって動けなくなっている。思わず顔をひきつらせていると、横からずいっと乗り出してくる小柄な人影があった。
「えへー、直葉しゃーん。こえおいひいれすよぉー。はい、あーん」
「シ、シリカ!? なんでそんなに顔真っ赤なの!?」
それは、最近仲良くなった人たちの中で一番親しい友人、シリカだった。眼がとろんとしていて、顔は一護さんの比じゃないくらいに紅潮している。どこから調達してきたのか手にはチョコバナナを握ってふらふらしているが、これはもう明らかに酩酊状態だ。十代半ばの女子校生がなぜそんな状態に……。
「はい、あーん!」
「え、えっと、あたしはいいよ。ほら、リーナさんにあげたら?」
「じゃあリーナしゃん! あーん!」
「私はパス。アスナお願い」
「アスナしゃん!」
「え!? えっと、その……い、一護! 一護がチョコバナナ食べたいって言ってるよ!」
「んぅー、一護しゃん!! はい、あーん!!」
「い、いらねえよ! っつーかそんなモンどっから持ってきた!?」
「なんですかわたしのバナナがたべられないってゆうんですかあ!?」
「ボリュームがでけえよボリュームが!! 何なんだよお前酔ってんのか!?」
「酔ってるわよぉー……」
「何でだよ!?」
「何でよ!?」
思わず一護さんとあたしの叫びがハモる。女子校生がほろ酔い気分になっている事実を認めたリズベットは、アスナさんに介抱されながら覇気のない声で答える。
「……エギルが持ってきたアルコール1%以下のカクテル、皆で飲んだんだけど、シリカだけカクテルと間違えて大人組のホットワインを飲んじゃったみたいなのよねえ……美味しい美味しいって言いながらぐびぐび飲んでるから、大人連中が面白がって煽ってたんだけど……まぁさかホンモノのお酒とはねえ……」
「あの、予想で喋って申し訳ないんだけど、それ多分、下手したらとっ捕まるやつなんじゃ……」
詳しくないけど未成年への飲酒強要は普通に犯罪なんじゃ……と思っていたら、シリカが糸の切れた人形のように倒れ込んだ。とっさに受け止めたあたしの腕の中で、幸せそうにむにゃむにゃと夢見心地に浸っている。
とりあえず酔いを醒まさせてあげないと。そう思いつつどうしたら良いのか分からず困っていると、目の前にしゃがみ込んだ女の子が水の入ったグラスを差し出してきた。
「えっと、これを飲ませてあげて、そのまま寝かせてあげたら良いと思います。食べ過ぎとか飲み過ぎたときは、お水をたくさん飲んで休むのが一番身体にいいから……」
「あ、ありがとう。えっと……」
「あっ、ごめんなさい。サチっていいます。キリトの妹さん……だったよね?」
「うん。直葉っていうんだ。よろしく」
挨拶を交わしつつ、受け取ったグラスの水をシリカに飲ませてあげる。朦朧とした
意識の中でもちゃんと水を飲み干したシリカの小柄な身体をえいやっと抱え上げ、即席ステージの上に寝かせた。誰が書いたのか「リスポーン待機所」というちょっとシャレにならない張り紙がされており、簡単なマットがしいてある上に横たえるとサチが濡れタオルを持ってきてシリカの額に乗せてくれた。
「これでいいかな……すごいね、直葉ちゃん。女の子をお姫様抱っこしちゃうなんて」
「えっへへ、まあ部活で鍛えてるからねー。サチこそ、なんか介抱の仕方とか手慣れててすごいじゃない。実家がお料理屋さんだったりするの?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど……SAOの中で食堂をやらせてもらってたから、その経験、かな」
「へぇー!」
仮想世界内で食堂を経営かあ。なんて女子力の高いことを、とちょっと憧れを抱きつつ、詳しく話を訊いてみようと質問を重ねようとしたとき、
「おいディアベル!! テメエいい加減にしろ! ケイタを放せ!!」
一護さんの荒っぽい絶叫が聞こえてきた。
そちらを見ると、短髪の純朴そうな顔立ちの男の子にヘッドロックをかけている優等生っぽい出で立ちの男の人が目に入った。ディアベルと呼ばれたその男の人を一護さんが静止しようと奮闘しているが、どうも完全に出来上がっているらしく、拘束が緩む気配は全くない。
「なにを言うんだい一護君! オレとケイタ君は今、日本の教育史について熱い議論を交わそうとしているところなんだ!! なあケイタ君、そうだろう?」
「く、くるし……頭痛い……たすけ、て……っ」
「ほら! 彼もそう言っているじゃないか! よしよし始めよう!! まずは教育を語る上で重要な、かの福沢諭吉先生の言葉からだ。天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず――」
「ウゼー! なんてウゼー酔い方だテメエは!! 相ッ変わらずの絡み酒ヤローだなオメーはよ! サチ! 水くれ水!! あと直葉! こいつを引っ剥がすのに手ぇ貸してくれ!!」
「は、はい!」
お呼ばれして、サチは水を取りにカウンターへ、あたしは独りで大演説を始めたディアベルさんを止めるためにそれぞれ動き出す。
色々思うところはある。あたしと皆の間にある差が縮まったわけでもない。
……けれど今は、今だけはこのバカ騒ぎに巻き込まれててもいいかな。そう思い、あたしは皆が大笑いしている中に飛び込んでいった。
前回以上に勢い任せの執筆となりました。
キリト視点で書く予定が「アニメでパーティー中ボッチだった直葉、ちっと可哀そうすぎねえかい?」という思いつきに至り、こっちで執筆し直しました。
あと、他のBLEACH勢とSAO勢の絡みをご期待の方々、もう少しだけお待ちを。