Deathberry and Deathgame Re:turns   作:目の熊

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お読みいただきありがとうございます。

第三話です。

前話と同様、サクヤ視点を含みます。
苦手な方はご注意ください。

よろしくお願い致します。


Episode 3. Back to the Struggle -lado llama-

<Sakuya>

 

 トーナメント試合行程

 

 第一試合

 「一護 vs. ユージーン」

 

 第二試合

 「サクヤ vs. アリシャ・ルー」

 

 第三試合

 「三位決定戦」

 

 第四試合

 「決勝戦」

 

 

 システムシャッフルにより、トーナメントの組み合わせはこのようになった。

 

 正直なところ、こちらにとってかなり好都合な組み合わせだ。初戦で同族同士潰し合ってくれれば、決勝にはかならず私かルーのいずれかが進める。仮に優勝できなくとも私たちで二位、三位を獲れれば、獲得アイテムを元手に交渉することも不可能ではない。最悪、鉱石以外は失っても構わないのだ。目的達成の可能性は十分高い。

 

 脳内で打算を巡らせながら、広場中央に設けられた決闘舞台(デュエルスペース)を見る。一試合目に対戦することとなったユージーン将軍と、オレンジ髪の青年サラマンダー改め一護君が互いの武器を抜き、対峙していた。

 

 ユージーン将軍の獲物はレジェンダリー級の両手剣《魔剣グラム》だ。先の戦いでスプリガンの少年剣士に負けはしたが、ALO最強クラスの一品であることに変わりはない。刃を非実体化させて防御をすりぬける『エセリアルシフト』の脅威は凄まじい。前述の彼は二刀による多段防御で克服していたが、一護君は果たして対応できるのか。

 手にした曲刀――確か《アイン・オルガ》という銘だったか――を下段気味に構える彼を見る。主武装の格では確実に劣っているが、特に気負う様子もなく真っ直ぐに将軍を見据える姿は堂々としていて隙がなく、やはり非凡な才を感じる。私の勘が鈍っていなければ、の話ではあるが……。

 

 と、決闘開始のカウントダウンを知らせる電子音が鳴り始め、同時に舞台に立つ二人の間の空気が一気に張りつめた。将軍はグラムを上段に構え、一護君は下段から脇構えへと変える。

 

 果たして先手を取るのはどちらか。

 周囲が固唾を飲んで注目する中、カウントの機械音が淡々と刻まれていき、

 

 そして――、

 

「らああああぁぁぁッ!!」

「ドアアアアァァァッ!!」

 

 カウントがゼロになった瞬間、両者の姿が消え、次の瞬間衝撃音と共に交錯した。

 

 お互いの速さが凄まじく鮮明には捉えられなかったが、ユージーン将軍の強烈な打ち下ろしに対し、一護君がパリイからのカウンターを試みたように見えた。将軍の斬撃は相変わらずだが、一護君はそれと同等の速度で突進し真っ向から迎撃して見せた。やはり、只者ではない。

 二人はそのまますれ違い、すぐに反転して再度武器を構えた。見た所、どちらも無傷のようだが……いや、違う。目を凝らすと、一護君の肩口に一文字の傷が刻まれているのが見える。ユージーン将軍には目立った傷はないが、HPが僅かに減っている。対して一護君のHPの減少幅は二割弱ほど。この状況が示す意味とは――、

 

「……ほう。グラムの一撃を受けて、その程度か。俺に反撃を掠らせたことと合わせて、誉めてやろう」

「てめえ……何だよ今の斬撃は!」

 

 防御不可能の斬撃を受けても一護君は怯まず、即座に地面を蹴って斬りかかった。

 

 左――と見せかけて右から斬り下ろし。弾かれた剣を引き戻して、胸を抉るが如き刺突の二撃目。今度は小手で防がれるも、追撃の左拳が真下から強襲。将軍の鳩尾に決まった。

 

 鈍い轟音と共にHPが削られ、ノックバックでユージーン将軍の状態が傾ぐ。その体制が戻る前に、一護君が一息に肉薄。猛烈なラッシュで一気に攻め手を奪い取った。

 

 軽量な曲刀のため、速度と手数では一護君の方が有利。次々と放たれる斬撃がたちまち将軍の体表を捉え、HPを削っていく。

 

 だが、武器の性能差は如何ともしがたく、

 

「ふんぬ!!」

「――チッ!]

 

 グラムの特殊効果が再び発動。刀身を朧にかすませて曲刀の防御を潜り抜け、首元へと迫る。

 

 咄嗟に一護君は左腕をすべり込ませ、斬撃を強引に防いだ。HPのゲージがぐっと減少し、一気に三分の二まで削り取られる。

 

 追撃を叩き込もうとする将軍に蹴りを放ち、一護君は反動で大きく距離を取った。鋭く呼気を吐きだし、剣を構え直す。

 対するユージーン将軍は余裕の表情。手数で押し負けていることにも、HPの三割を一気に失ったことにも頓着しない様子で、猛禽を思わせる顔に獰猛な笑みを浮かべた。

 

「一度目の斬撃でグラムの透過斬撃(エセリアルシフト)に耐え、二度目で直撃を防ぐか。どうやら、獲物相応に腕は立つらしいな。俺はサラマンダー軍を預かる身として、同胞の手練れの情報は網羅していると自負していたのだが、同種族に貴様のような使い手がいるとは全く聞いたことがなかった……一体何者だ、貴様」

「別に何モンでもねーよ。ただのプレイヤーだ。ったく、いちいち上から物言いやがって……自分が知ってる全てが、この世界の全てだとでも思ってんのか? 見方とか土俵を変えりゃ、つえー奴なんざこの世にごまんといるだろうが」

「ふん、貴様に言われずとも、そんなことは百も承知だ。ここ最近で、世界は想像以上に広いことなど十分に理解させられている。それに……」

 

 口撃の応酬を止め、ユージーン将軍は一護君の左手首に視線を向ける。ついさっき斬撃を受け、刻まれた切断一歩手前の深い傷は、今ようやく修復されつつあった。

 

「貴様が如何に手数に優れようとも、俺の優位は変わらない。ちょこまかとすばしっこいその腕、次は一撃で斬り落としてくれる」

「上等じゃねーかオッサン。やれるモンなら……やってみろっての!!」

 

 叫び、二人は再度激突した。

 

 断続的に衝撃音が鳴り響き、地面は砂煙が立ち上り、攻守が目まぐるしく入れ替わる。先日の一騎打ちに勝るとも劣らない激戦に、周囲の者たちからは感嘆の声が上がる。

 ALO内でこれだけの近接戦闘をこなせるプレイヤーは、おそらく十人もいないだろう。一般とは格の違う戦いぶりを目の当たりにして、思わず口元が愉しさに歪むのが分かった。

 

 ……だが同時に、私はある違和感を感じていた。

 一護君の高速ラッシュに変化はないが、ユージーン将軍の様子がおかしい。先ほどの二撃目以降、グラムのエセリアルシフトを一回も使っていない。全ての攻撃を尽く一護君に防がれ、返しの斬撃で後退か微傷を強いられている状態だ。表情は微かに苦み走ったものへと変わり、まるでその姿は――、

 

「――エセリアルシフトを封じられている……のか? しかし、どうやって……」

「多分、あのヤンキー君の立ち回りが変わったからじゃない?」

 

 一護君に失礼な渾名を付けたらしいルーが、戦闘から目を離さずに言った。ケットシーの視力は全種族一であり、かつルーの持つ生来の高い動体視力があれば、私以上に戦闘の詳細が見えていることだろう。

 

 だが、一護君の立ち回りが変わったとは、一体……?

 

「最初にグラムが透過した時、彼は咄嗟に一足分だけ後ろに下がった。それでダメージを軽減しつつカウンターを狙う隙を作り出したんだヨ。

 けど、今は逆。ヤンキー君は踏込の瞬間、さっきまでよりも一足分だけ前に出て間合いを縮めて、ユージーン将軍が自由に斬撃を出せないように立ちまわってるネ。さらに、透過能力が及ばないグラムの(つば)にピンポイントで斬撃を当てることで、エセリアルシフトが発動しようがしまいが、片っ端から弾き飛ばすことに成功してル。

 間合い調節に太刀筋の精密コントロール……見掛けによらず、随分と器用だネ、彼」

 

 感心したような、どこか面白がっているような口調でルーは言い、そのまま観戦へと意識を戻した。

 

 その解説が聞こえていたわけではないだろうが、一護君は高速の斬撃を放ってグラムの鍔を真横から殴打。返しの一閃を防ぐべく頭上に構えられたグラムに真正面から斬り込み、鍔迫り合いへと持ち込んだ。

 

 激しく火花を散らしながら、青年サラマンダーは不敵な笑みを浮かべる。

 

「へ! グラムだかプラムだか知んねーが、たかが透過する剣を振ってるってだけで、俺を斬れるとか思ってんじゃねーぞ!!」

「ぐっ!?」

 

 迫り合いから一点、曲刀使いとは思えない剛力で押し切り、斬り上げでユージーン将軍の胴を斬りつけた。

 将軍は小手で防ごうと左手を付き出したものの、斬撃の威力に押し負けたのか、防御を崩され、HPを大きく減らして後退した。

 

 完全に、一護君が戦いの流れを掴んでいた。

 

「よおオッサン。アンタさっき、優位は変わらねえとか、俺の腕を斬るとか言ってたよな。確かにアンタの剣はつえーよ。速いし、体捌きも巧い。

 ……けどよ、まだ俺の底力を見せた覚えはねえぞ。武器の性能で負けてるってンなら、技と力でそれごと叩き潰す。次はその透けまくりのウザい剣ごと、アンタの腕を一撃で斬り落としてやる」

「……上等な口をきくな、小僧が」

 

 意趣返しされた将軍は静かにそう返すと、両手剣を八相に構えた。同時に体勢を低く沈め、羽根を思い切り後方に伸ばす。典型的な重突進の構えだ。

 

 それに一護君が気づき、迎撃のために曲刀を正眼に構えるが、

 

「……一つ言っておこう。まだ底を見せていないのは、俺も同じだ。『最強』を舐めるなよ新星(ルーキー)。サラマンダーの真の戦い方とはどういうものか、その身体に刻み込んでくれる!!」

 

 咆哮と共にユージーン将軍が高速突撃。火焔を極限まで圧縮したような眩い赤光をたなびかせ、破城鎚の如き刺突突進を繰り出した。

 

 サラマンダーが最も得意とする重突進攻撃、その中でも貫通力に長けた刺突系重突進である。しかもグラムの攻撃力を伴った状態で繰り出されるその威力は規格外であり、付けられた通称は《緋鎗》。両手剣であってもランスを凌駕する射程と貫通力を誇る、正に人器一体、緋色の槍のような大技であった。

 

 一護君もその威力に気づいたらしく、咄嗟に迎撃から一転、羽根を広げての空中回避にシフトした。しかし交錯の瞬間に避けきれなかったのか、大きく吹き飛ばされ、地面を滑る。

 

 将軍はすぐに一護君を再補足し、再度の重突進をかけた。グラムと一体になり、投擲槍のような鋭さで一直線に襲いかかる。

 

 しかし今度は一護君も冷静だった。吹っ飛びから着地して宙返りで突進を回避、背後に回り込んでカウンターの斬撃を放つ。が、将軍の防具の特殊効果により半球状の炎の壁が展開され、刃が届くことは無かった。

 

 攻撃後の隙を突いたつもりが逆に体勢を崩された形になり、一護君が舌打ちする。そのまま二撃目を出そうとはしたが、

 

「――甘い!!」

 

 ユージーン将軍がいつのまにか詠唱していた炎の範囲攻撃魔法が完成。一護君の髪色と同じ橙色の火炎の波が、彼の元に一瞬で殺到した。

 

 爆発でも起きたかのような轟音が鳴り響き、一護君は再び大きく飛ばされる。

 

「クソッ! そういや魔法って手があったか! なんつー範囲のデカさだよ!!」

「当然だ。魔法禁止などという詰まらぬ制限、設けた覚えは毛頭ない!」

 

 そのまま将軍は再度突撃を敢行、さらに同時に魔法詠唱を開始し一護君が回避した先に範囲攻撃を叩き込む。突進と魔法詠唱の同時行動(ダブルアクト)により、一気に攻勢を取り戻した。

 一護君の方も幾度も吹き飛ばされながら反撃に転じようと試みるが、突進の破壊力と時折展開される防具の特殊防壁により、思うようにダメージを与えられないでいる。

 

「ありゃりゃー、こりゃ流石にヤンキー君負けちゃうかもネ。魔法の反撃が出来ないってことは、多分純戦士(ピュアファイター)なんだろうし、それじゃ魔法戦士のユージーン将軍には適わないヨ」

「ああ、良い勝負だったのだがな……」

 

 惜しい気持ちを隠さず、私はルーの言葉に応じた。先日に引けを取らない名勝負だったのだが、この辺りで潮時か。やはりスプリガンの彼のようなダークホースなど、そうそういないということか。

 

 

 ……いや、待て。

 

 おかしい、何か変だ。

 

 

 再びの違和感が私を襲う。しかも今回はユージーン将軍ではなく、一護君に感じている。ダメージを微減程度に留めながら吹き飛びまくっている青年サラマンダーに、先ほど以上の違和感を覚えていた。

 

 ……そうだ。

 

 いくらなんでも吹き飛び過ぎ(・・・・・・)だ。

 

 あの炎の範囲魔法は、射程圏内のプレイヤーに『燃焼』のバッドステータスを付加することが主目的であり、物理的な衝撃はさほどではない。回避し損ねるどころか、直撃してもあそこまで吹き飛ばされることなどありはしないはずなのだ。

 それに、あの重突進だって、確かに凄まじい威力ではあるが、その分直線的だ。故に回避に要する移動距離は短く、ほんの一メートルばかり横に避ければすむ話。当然難易度は高いものの一護君にそれが出来ないはずはないし、それが分からない程に焦っているとも思えない。

 

 なのに、先ほどから何度となく吹っ飛ばされる彼。これは一体、どういうことなのか……。

 

 ――やっぱ瞬歩と同じようにはいかねえってか。

 

 ふと、出会いがしらの彼の独り言を思い出す。彼の言う「瞬歩」が何なのかは分からない。が、あの時一護君は速度調節に失敗し、この蝶の谷に高速落下してきたと言った。

 

 もし、今の過剰な吹き飛びの原因もその「瞬歩」の失敗にあるのだとしたら、どうだ?

 もしこの推測が正しければ、この状況の意味が変わる。一護君はユージーン将軍に追い詰められ逃げまどい「吹き飛ばされている」のではなく、活路を見いだしトライアンドエラーを繰り返している結果として自ら「吹き飛んでいる」ことになる。

 

 そして、もしそれが完成(・・)したとすれば、その時、勝負の行方は――そう思った瞬間、爆炎の音が鳴り響き、直後に目の前に高速で人影が落下してきた。小隕石が衝突したかのような爆音と共に地面に叩きつけられ、もうもうと砂煙が上がる。

 

「――どうした、威勢がいいのは口だけか?」

 

 上空から野太い声が響く。

 

 見上げると、グラムを肩に担いだユージーン将軍がゆっくりと下降してくるところだった。その立ち振る舞いには余裕があり、まだまだ健在という雰囲気だ。

 対して落下物の正体である一護君は、残りHPが半分に満たないほど。しかし、片膝を地面に着いたその姿は将軍よりも消耗しているように見えた。

 

 言葉を返さない一護君に向かって、将軍は言葉を続ける。

 

「サラマンダーの真骨頂は重突進攻撃と炎の範囲魔法だ。純戦士(ピュアファイター)の貴様では到底ついてこれまい」

 

 勝利を確信したかのように、将軍は平素の堂々とした態度でうなだれる青年サラマンダーに告げる。勝利宣言にも似たその宣告には、サラマンダー最強の名にふさわしい圧が籠っていた。

 

 動かない一護君に向かって、これで終わりだと言うようにユージーン将軍は重突進の構えを作る。

 

 が、その瞬間、

 

「――そうでもないぜ」

 

 一護君の声が、はっきりと響いた。

 

 負け惜しみでも、強がりでもない、将軍以上の自信に満ちた声。その声にユージーン将軍の構えが緩んだその時、一護君は顔を上げ、

 

「こっちはアンタの攻撃に……ようやく身体が慣れてきたとこだ」

 

 そう言いつつ、ニイッと不敵な笑みを浮かべて自身の首を指で突ついた。

 

 私たちも対峙する将軍も、一瞬彼のジェスチャーの意味が分からなかった。だが、ユージーン将軍が視線を下に向けた時、

 

「なん……だと!?」

 

 その意味が判明した。

 

 砂塵に紛れて今の今まで気づかなかったが、将軍の首に真一文字の大きな傷が刻まれていたのだ。将軍自身ではその傷の大きさは確認できないだろうが、傷から立ち上る血煙のような真紅のエフェクトで、その傷の存在や深さを悟ることができるだろう。

 

 負傷したことにすら気づかせない、超高速の斬撃。それをウィークポイントである首に叩き込まれていたのだ。HPも先ほど見たときから急減少し、三分の一を下回っている。

 

「ったくよー、こっちが習得(・・)に難儀してる間に好き放題撃ちまくりやがって……仮想だろーが何だろうが、熱いモンはクソ熱いんだっての」

 

 剣を持たない左手で後頭部をガリガリと引っかきながら、ゆっくりと立ち上がる。再び前を向いたその顔には一辺の焦りも疲労もなく、そこにはついさっきまでユージーン将軍が纏っていた「勝利の雰囲気」が漂っていた。

 

 その表情にユージーン将軍が警戒したかのように剣を構え直すが、

 

「――トロい!!」

 

 一喝と同時に一護君の姿が消え、次の瞬間には将軍の胸に逆袈裟が叩き込まれていた。フラつくこともできずただ負傷した将軍の背後で、血を払うように曲刀を素振りする一護君の姿があった。

 

「き、貴様……一体何を!」

「答えるかっての。今まで炙られまくった恨み辛み、今ここで返させてもらう。あと、もう一度言っとくぜ、オッサン。先に腕を落とされるのは――アンタだ!!」

 

 再び一護君の姿が掻き消え、怒涛の勢いで将軍の左腕を切断。HPが凄まじい勢いで減少する。

 そのまま将軍の背後に回り込み、水平一閃。さらに正面から二撃、真上から斬り下ろし、再び正面から閃光の如き刺突。

 

 最早何連撃なのかも分からない、無数の斬撃の雨が将軍の身体を徹底的に蹂躙した。隻腕となったユージーン将軍も応じて反撃を出すが、手数が違い過ぎる。

 

 将軍が一撃を出す間に、一護君は三度剣を振るう。腕を、脚を、胴を背中を顔を首を。斬撃が、刺突が、殴打が、一切容赦なく叩きつける。

 大気が悲鳴を上げるかのように風切り音が響き渡る中、私は自身の予感が的中したことを確信した。

 

 《音速舞踏(ソニック・ワルツ)

 

 元々プレイヤーに備わっている敏捷性に、羽根を用いた瞬間的な加速を加えることで超高速のダッシュを可能にする、地上・空中双方において最難関の技術だ。羽根で空気の壁を叩くようなイメージが必要というが、あまりに難易度が高い上に制御が難しく、実戦で使えるような代物ではない、という評価がプレイヤーの大多数を占めている。

 

 私の知る中で最速のシルフであるリーファでさえ、成功率は最高で六割といったところ。戦闘への応用など、出来たものではなかった。

 故に戦場でこの技の使い手に出会うことなどまず無いだろうと思っいたのだが……まさか、こんなところで出会うとはな。空いた口が塞がらなくなっているルーの横で、私は呆れたような笑みを零していた。

 

「この――図に乗るな、小僧がぁッ!!」

 

 が、このまま終わるユージーン将軍ではない。

 

 インターバルから回復したのか、再度防具の特殊効果が発動し、半球状の炎の壁で一護君の連撃の手を止めた。HPはもうレッドゾーンに達し、満身創痍の状態。しかしそれでも、闘志は削がれていなかった。

 

 連撃が止んだ一瞬のうちに重突進の構えを作り、ユージーン将軍は《緋鎗》による突進を敢行。紅の残光を曳きながら最高速で突撃する。

 

 真っ向から相対した一護君は臆することなく曲刀を上段に構え、《音速舞踏(ソニック・ワルツ)》を発動。迫りくる将軍に正面から突っ込み――、

 

「――遅えッ!!」

 

 一切の躊躇なく、将軍の首を刎ねた。

 

 残り僅かだったHPがゼロになり、将軍の巨躯が炎に包まれ燃え崩れた。後には小さなリメインライトとHPを五割弱残した一護君。

 

 その上に輝く、

 

 『 Winner : Ichigo 』

 

 という単純明快な勝利者宣告、そして観衆二百人の大歓声が残されていた。

 




感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

デュエル第一回戦、vs. ユージーン戦でした。
すり抜け能力ってBLEACH側の誰かが持ってそうな気がしたのですが、意外といませんでした。残念。

後半一護がやや苦戦気味なのは、三か月眠っていた鈍りと、瞬歩を習得しようと難儀していたせいです。
加えてユージーン将軍は原作よりも強化気味です。でもグラム一本だと普通に負けてしまいそうな気がして、範囲攻撃の魔法も覚えてもらいました。キリト君も戦闘中に広範囲幻惑魔法使ってましたし、これくらいは出来るでしょう。ね、将軍?

それと、一護に魔法を使わせるか悩んだのですが、やっぱり一護に詠唱は似合わんだろう、ということで、脳筋……もとい純戦士スタイルでいくことに。死んだら脳チンなので、どう足掻いてもガードできない将軍の範囲攻撃の魔法は疑似瞬歩をトライアンドエラーしつつ死ぬ気で回避しておりました。

次回は決勝戦。褐色猫耳か色白パッツン、どちらかが相手です。勿論しっかり強化してます。


……あと、このトーナメント回で三話も引っ張ってますが、次話含めてあと六話で一章終了(予定)だったりします。最難関GGO編がもう目の前……。

と、ともかく次話投稿は九月九日の午前十時を予定しております。

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