Deathberry and Deathgame Re:turns   作:目の熊

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お読みいただきありがとうございます。

二十八話です。
シノン視点です。

宜しくお願い致します。


Episode 28. Rock'n'Roll -feat. sattlement-

<Sinon>

 

 記憶と過去。

 

 色々と相違点はあるだろうけど、明確に異なるであろう点として「間違いが含まれるかどうか」が挙げられる。

 

 記憶には誇張があり齟齬もある。記憶の主の当時の心境、知りえなかった情報などにより実際の真実と記憶する内容が異なるというのはよくある話だ。故に記憶は絶対ではない。

 それに、ある地点で衝撃的な事件が発生したとしてもその場所に人がおらず尚且つ訪れることもなければ、人々の記憶上その事件は「存在しないもの」となってしまう。

 

 けれど過去は違う。

 過去とは「既に過ぎ去った時間・出来事」である。つまり、現在より以前に発生した事象それのみを差し、誤って伝聞されることはあってもそれ自体を人間の意志感情で捻じ曲げられることはない。

 加えてそこに誰もいなくとも、その場所で何か事件が起こっていれば、それはその場所にとっての「過去」として世界の時間の流れの中に刻み込まれる。生物の介在如何に関わらず、決して間違うことのない無味乾燥なただの「昔起こってしまった事実」が過去なのだ。

 

 私の能力『ノッキン・オン・ユア・グレイヴス』は、この目で目撃した「過去に発生したあらゆる事象」を身体に纏い、また現実に召喚する。

 過去を思い描けば、それはその過去の現象と同じように確実に遂行される。「昔起こってしまった事実」がそのまま現実に投影される以上、そこに例外は無いのだ。

 

 知っていたわけではない。しかし、自身の魂から直接脳へと伝播してくる力の質は間違いなくそう語っていた。文字通り「過去は私の力」なのだと。どれほどつらい「記憶」として残っていようと、どれほど忘れたい「記憶」であったとしても、変わることのないその「過去」を手に取り戦ってみせろと無音で囁きかけてくる。

 

「……いいわ、やってみせる。私が私として生きた過去全てを使って、戦ってみせる! 人類を滅ぼす毒の糧になんて、絶対にならないんだから!!」

 

 押し寄せる虚の群れ。野太い雄叫びを上げて突っ込んでくる一団に対し、私は霊力制御に意識を集中させて、

 

 

 ――再実装(リロード)  『手榴弾爆発(グレネードエクスプロージョン)

 

 

 直後、集団の先頭にいた虚の腰部が発光してソフトボール大の金属球が出現。虚がそれに反応するより前に起爆し、周囲三体を巻き込む爆風を巻き起こした。集団の勢いが削がれたのを視認しつつ、さらに能力発現。

 

 

 ――再実装(リロード)  『M134ミニガン一斉掃射(フルバースト)

 

 

 ずしりと全身を重力が押さえつける。両手に握られた六連式の銃身の矛先を、全身の筋力を総動員して持ち上げる。息をぐっと止め、両足を踏ん張り、

 

「……塵は塵に(Dust to Dust)。塵に過ぎない貴方たちは――塵に帰りなさい!!」

 

 同時に銃口が火を噴いた。

 

 まるで本当に火炎を放射しているかのような眩い焔光と共に、ギャリギャリと金切声を上げる銃身から無数の弾丸が轟音と共に吐き出された。必殺の暴風が勢いの止まった虚の集団を飲み込み、次々と滅却していく。

 キルカウントが莫迦らしくなる殲滅速度、その代償とでも言わんばかりの反動に気合で耐えること数秒、ミニガンが消失し、私は止めていた息を吐き出した。

 

 段々と能力の使い方が分かってきた。

 

 まず、過去の現象そのものを再現できる。狙撃の過程をすっ飛ばして「グレネードが標的の腰の辺りで爆発する『過去』」を呼び出すことで、問答無用であの大爆発を引き起こすことが出来た。

 

 それと、過去目撃した武器を召喚して、かつ過去と全く同じモーションで動かすことが出来る。シノンのMP7、ベヒモスのミニガンの動作を完全にトレースして射撃できたことがその証拠だ。

 

 装弾数や武器の構造なんて全く気にする必要はない。何故なら召喚しているのは武器そのものじゃなくて、私の身体と霊力を憑代として「武器を使って敵を攻撃した過去」を丸ごと現実に引っ張ってきているのだから。その過去に起きた現象は、絶対に全てそのまま再現される。

 

 

 ミニガンの弾幕を逃れた二体の虚がのけぞるような体勢を取る。もし上空の二方向からさっきと同じように光弾を乱射されたら、今度こそ回避しきれない。一発一発はどれも小型だったが動きが速かった。仮にもう一度ミニガンを再実装したところで、相殺できる保障もない。

 

 ……ならば。

 

「ごめんキリト。あんたの『過去』、ちょっとだけ借りるから……!」

 

 背後に横たわるキリトに対し『過去視』を発動。同時に流れ込んでこようとする膨大な過去の中から目当て(・・・)の過去だけを探し当てる。

 

 大剣を振るう巨大なモンスターを討伐――いや、違う。

 

 十数人の剣士に襲われても無傷のまま――これも違う。

 

 迫りくる無数の銃弾を弾く――これだ!

 

 

 ――特性再実装(パーソナル・リロード)!  《剣士キリト》!!

 

 

 「銃弾を剣で弾いた」過去を探し当て、複数あるそれら全てをまとめ上げて自身の身体に叩き込んだ。

 

 四肢が眩く発光した後、黒い衣と紫電をまき散らす光の剣が召喚される。GGOで何度も目撃した規格外の黒衣の剣士。その武装だけでなく、過去の動きそのものまでを自身に投影した。握ったことすらないはずの光剣がバカみたいに手になじむ。

 ぽっかりと空いた壁の穴、その数歩手前まで歩み寄り剣を斜に構える。私を蜂の巣にすべく飛んでくる光弾。瞬間、自身の眼球が高速で動き、その着弾範囲を視認。なめらかに腕がしなって剣が振り被られ、半瞬の後、弾かれたように閃いた。

 

 斬り下ろしで二発斬り捨て、振り上げて三発同時に破壊する。続く頭部への二撃を首をひねって避けつつ腿への一撃を防ぎ、そのまま手首の捻りだけで刃を急旋回。鞭の如く閃く幾筋もの斬撃が、後ろに飛んでいきそうな複数発を全て弾き飛ばした。

 

 さっきまでとは違う。過去の現象とそれを引き起こした武器だけじゃない、武器を操る使い手の過去も纏うことで、その過去における使い手の動きさえも自身に投影したのだ。

 

 ペイルライダーの超回避の時と同様、「銃弾を弾く」キリトの過去を纏った私は能力解除と並行してさらに次なる過去を選び出す。

 

 望むのは己が分身、水色髪の狙撃手。

 

 冥界の女神の名を冠する長大な凶器を繰る、冷酷無比な彼女を――。

 

 

 ――特性再実装(パーソナル・リロード)!  《狙撃手シノン》!!

 

 

 一瞬で武装が展開。燐光を纏ったヘカートⅡを構え、即座に標的をロックオン。戦闘で沸騰しかけていた脳内が急冷されて氷点下となり、轟く虚の雄叫びや瓦礫の崩れる音といった環境音が一気にミュートされる。

 

 そして、着弾予測円がぐいっと収束し虚の脳天で点になる光景を幻視した直後、指が勝手にトリガーを引いた。発射音とほぼ同時に虚の首から上が消し飛ぶのを視認するヒマもなく、手がボルトを引いて排莢。続く第二射で隣の虚の首を引きちぎった。

 

 遠くでベローナが嗤っているのが見えた。部下が殲滅されたことなど痛痒にも感じていない様子で。次なる戦策を愉しげに練っているかのような態度だ。

 

 何を企んでいるかは知らない。けれど敵に思い通りに事を運ばせてやるほど、私は悠長な性格をしてない。もう一度「ヘカートで狙撃する」シノンの過去を纏って偏差射撃を……そう思った私だったが、それは成せなかった。

 力が漲っていたはずの四肢がガクンと重くなる。いや四肢だけじゃない、全身の血管に鉛でも流れているかのような異様な倦怠感だ。たまらず膝をつく私。額から滝のような汗が湧いて埃まみれの床に滴る。視界すらまともに定まらない。

 

 

 失いそうな意識をどうにか繋ぎとめながら、私は己自身の身体に意識を向け、愕然とした。供給されたはずの一護の霊圧が、もう八割方消失していたのだ。

 

 

 元々私の霊圧の段位は九等霊威に届かない程。はっきり言って死神見習いに毛が生えた程度だ。けれど一護の霊圧を取り込むことで一時的に相当量の霊圧を保有できていたはず。

 

 なのに、それがたったの六度の能力行使で枯渇しかけるだなんて……。

 

「限界かねお嬢さん(フロイライン)。霊圧が急速に弱まっているところを見る限り、力を出し尽くしたというところか。人間が虚の一個小隊を壊滅させた、それ自体は褒め称えるべき奮闘かもしれん。だが私の行軍を阻止するには不足が過ぎる。せめて、例えるならそう――これを止められるくらいの武力を持っていなければ」

 

 ベローナがそう言って指を鳴らした。どうにか顔を上げて上空を見上げると、新たな黒腔が開き、中から巨大な虚が姿を現した。灰白色の身体は筋骨隆々として逞しく、何より大きい。身長で言えば四メートル近くはあろう。首から上はヘルムを思わせるフルフェイスの白い仮面が覆っており、胴の前面を鱗のようなものが覆っている辺り、防御性能が高いように見える。

 

 なけなしの霊力を振り絞りつつ、ヘカートⅡのみを再実装(リロード)。伏射体勢となり、虚の胴目掛けて狙撃を行った。だが、先ほどまでの虚のようにはいかず、弾丸は鱗に阻まれて粉砕、表面を削るだけに留まった。続けてもう一度、今度も胸の辺りに薄い傷をつけるだけに止まる。

 

これ(・・)は純然たる虚ではない。かつての支配者が残した改造破面を下地とし、私の毒ではなく霊子制御で私に隷属している存在だ。弱体化していない分、先ほどまでの兵卒諸氏とは一線を画す。さてお嬢さん(フロイライン)、君はこれ(・・)を止められるかね。君にとっての断頭台となりうるこれ(・・)を打ち倒すことができるかね」

「……回りくどい、言い方、ね……いちいち、癇に障るヤツっ……」

 

 ろれつさえ怪しい口でベローナに言葉を返す。けれど確かに、今の私にとってアレは脅威だ。今までの虚と同じように、攻撃すれば倒せる相手じゃない。今までと同じように過去の現象を再現しただけじゃ、勝てる確率は低すぎる。

 

 これまでやってきたのは、私が過去視を含めて目撃したことのある過去の現象や動作の再現であって、そこに「現象の結果」は含まれていない。

 さっき、私はヘカートⅡを再現して「標的を狙撃し着弾させる」という過去の現象を連続で呼び出した。しかし、再実装(リロード)して保障されるのはあくまでもそこまで。「胴体に着弾する」という現象は必ず再現されても、それが「敵の体を撃ち抜く」という結果に至るとは限らない。単純な話、私がヤツの防御を突破できるだけの霊力を込めて狙撃していなければ、出力差で押し負ける。

 これまでの雑兵相手の攻撃が全て通っていたのは、連中がベローナの毒により弱体化していたが故。相手が自分の攻撃を凌ぐ霊圧の持ち主であれば、いくら過去の現象や武装、人物の動作を再現したところでダメージが入らない。

 

 窮地に陥った私を精神的に甚振りたいのか、巨躯の改造破面はゆっくりとした足取りで空中を踏みしめ、ゴリラのような疑似四足歩行で近づいてくる。万が一ここで拳を向けられても、立ち上がることすらできない私に避ける術は無く、また攻撃を防ぎきれるだけの力もない。ましてや反撃なんて、夢のまた夢だ。

 

 

「………………じゃない」

 

 

 でも、それが何だ。

 

「…………いいじゃない」

 

 私の能力は「過去を纏い、それを現実に放出する」こと。

 

「……せばいいじゃない」

 

 現象も、武器も動作も再現して通用しないのなら……。

 

「殺せばいいじゃない……!」

 

 

 その結果ごと(・・・・・・)、現実に引きずり出してみせる!

 

 

 自身の過去へと潜り込む。

 

 GGOで経験した幾千の戦闘。それに埋もれるようにして存在する、ただ一つを探し当てる。私が唯一現実で経験した明確な「戦闘」行為。一撃で「敵」を仕留めた、その過去を引っ張り出す。

 

 途端、ごうごうと耳鳴りが始まる。どくんどくんと心臓が早鐘を打ち、眩暈の酷さが増していくのが分かる。手に伝わったあの反動、鋼鉄の感触、血の臭い、そして、あの男の胡乱な眼が、過去を直視することで今までで一番強く重く、私に圧し掛かってくる。つらい、怖い、逃げたい。弱気な自分が心の中でそう叫び、過去を閉ざしてしまおうと暴れ狂う。

 

 

 ……でも、それじゃダメだ。

 

 

 決めたはずだ。つらい過去さえも捨てずに歩むと。

 

 誓ったはずだ。私を過去の人になんてさせないと。

 

 

 だったら、あの過去も受け入れてみせろ朝田詩乃。他の誰でもない、私自身の過去であることを、今、ここで。

 

 

「……私は逃げない。そう心に、私の魂に誓った。忌むべき過去であっても、この刹那(いま)を越えることが出来るなら……私はもう一度、人殺し(・・・)になってみせる! 私と、私の友だちを生かすために! この現実に抗うために!!」

 

 

 

 ――完全再実装(パーフェクト・リロード)! 《黒星・朝田詩乃》!!

 

 

 

 渾身の霊力を込めた直後、爆発的な光が私の手の中に集束。直後、手の中に一丁の拳銃が握られていた。シンプルな外見。グリップには黒い星のマーク。

 

 黒星・五四式。

 

 かつて私が人を殺した銃。

 

 過去と同じようにそれを真っ直ぐ持ち上げ、虚の眉間へと向ける。虚の動きはまだ鈍い。私の小さな銃に己が貫かれることなど想像だにしない様子で。

 

 息を吸い、吐き、また吸い、吐ききって止める。身体から余計な力が抜けたのを体感し――発砲。パァンッ、という軽い音と共に発射された一発の銃弾。それが虚の眉間に吸い込まれるようにして飛んでいき、命中する。銃口の跳ね上がりに押し負け、もんどりうって床に倒れ込む私の正面で、虚の動きが止まった。

 

 何の痛痒にも感じていない様子で、声の一つすら上げない。さっきのヘカートⅡの狙撃の方がまだ効いていた印象がある。今にも再びこっちに足を踏み出してきそうな雰囲気さえあった。

 

 

 ……けど、それは絶対にない。

 

 

 今の私は床にへたり込み、虚は床に手をつくような恰好をしている。あの時と同じ構図。そして既に二発の銃弾を腹と胸に当てている。あの時と同じ被弾箇所。

 

 この状況を作り出すことが出来て初めて私の能力は全開となる。

 

 完全再実装(パーフェクト・リロード)は現象、武器、動作の全てを再現するだけじゃない。それらが過去にもたらした結果まで、忠実に再現することができる。例えそれが何であっても、例え相手が誰であっても……例えその結果が死であっても(・・・・・・・・・・・)

 

 虚は動きを止めたまま、ゆっくりとその巨体を崩れさせた。血らしい血さえ漏らさず、しかし確かに絶命した改造破面は、そのまま落下し眼下の闇に吸い込まれて消えていった。衝突音は聞こえない。地面に激突する前に、他の虚と同じように塵になって消えたのだろうか。

 

「……ぐぅッ……!?」

 

 ビキッ! と肩から異音が響き、思わずうめき声を上げた。同時にメキッ、ミシリ、と身体の節々からイヤな音が響き始める。次いで襲ってきた裂くような激痛に、堪らずその場で蹲ってしまう。まるで筋肉を絃にしてバイオリンでも弾いているかのような尋常ではない痛みは、自分の貧相な身体がついに能力についていけなくなったことを意味しているようだった。

 

 もう四肢に力が入らない。五感が急速に鈍化していく。

 朦朧とした意識の中で、私は欠片ほど残った霊圧を軸にもう一度完全再実装(パーフェクト・リロード)の発動を試みていた。残存霊圧的にはもうどうにもならない。けれどそれでもまだ打つ手が、勝機があると信じ、持てる精神力を全て動員して霊圧をかき集める。

 

 ……浦原さんから聞いた。

 

 能力には消耗限界を超えると全く出せなくなるものと、消耗限界を超えても命を削って出し続けられるものと二種類ある、と。

 そして、存在そのものが霊子で形作られているが故に消耗限界が厳格になっている死神と違い、霊力の扱いに慣れていない人間の魂魄は、それを容易く踏み越えることが理論上は(・・・・)可能だ、と。

 

 即ち、命さえ削れば、まだ私は戦える。

 

 消耗限界に屈して敗北すれば、どうせここで命が潰えるのだ。だったら多少寿命が縮まるくらいのリスク、身体が壊れるかもしれない危険性なんて気にしていられない。現実と戦うために過去を全て受け入れたのに、その現実に負けてたんじゃ意味がない。

 

 

『……ありがとう、一護。私、頑張ってみる』

 

 

 去り際の彼にそう言ったのは、自分自身だったはずだ。

 

 なら、ここで頑張らないでどうする。

 

 ……勝て。

 

 勝って生き残れ。

 

 命を賭して戦い抜く覚悟を決めろ!

 

 

「……ッ!?」

 

 ぼやける視界の奥で、何かが光った。

 

 

 無数の光点だったそれが少しずつ鮮明になり、やがて異形の人型を模っていく。これはただの光じゃない。仄かに光るそれらは全て――霊圧の輝きだ。

 

 それを自覚した途端、尽きかけていた自分の霊圧が爆発的に高まっていく。一護の霊圧を取り込んだときと同じように魂魄が破裂してしまいそうな感覚。しかし今度は抑え込まず、むしろ全力で解放する。

 

 命を燃やして生きる。そう決めて、私は脳裏に強く過去を描く。思い出すのはあの路地裏、初めて見た虚を一瞬で葬った、黒い着物姿の青年。その姿が脳に焼き付いてしまうくらいに強烈にイメージし、

 

 

 ……そして、

 

 

 ――完全再実装(パーフェクト・リロード)! 《死神代行・黒崎いち――

 

 

 

 閃光。爆発。

 

 

 

 一瞬、自分が生きているのかさえも分からなくるくらいの白光が視界を蹂躙した。もしかしたら数秒間失神していたかもしれない。それさえも判断できないような衝撃を感じ、ようやく視界を取り戻した。

 

 そこには、今の爆発で半壊したと思われる私の部屋の惨状。そこから視線を自分の方に向けると、一護の姿を構成する核にしようとしたせいか、火傷したかのように赤く腫れ上がった右手があった。普段の私であれば確実に悶絶しているはずの負傷なのに、それに見合った痛みは感じない。いや、感じる余裕がないと言うべきだろうか。

 

 ……何故なら、

 

 

「…………い、一護……?」

 

 

 突如として現れた、本物の一護。

 

 彼が私の手を抑え込むようにしていることへの驚愕。私のかすれ声に反応することなく俯き、ただ強く固く、私の手を握っているから。

 

 そして……、

 

「あなた……左腕(・・)が…………!」

 

 

 その左腕が、見るも無残に焼け爛れていたためだった。

 

 

 見れば、彼が纏っているのはあの輪郭がはっきりしない黒い着物。死神のものではない、完現術『クラッド・イン・エクリプス』の霊圧の衣だった。

 死神状態の一護がちょっとやそっとで負傷することはまずない。それだけの霊圧硬度を持っているからと一護自身から説明されたことがある。けれど、完現術の素体はあくまでも生身の人間の身体。どれだけ彼が超人的な身体能力を発揮できたとしても、受けるダメージに対する耐性は死神のそれより遥かに劣る。故の大怪我。

 

 焼けて裂けた皮膚から血が吹き出し、ぽたぽたと床に滴り落ちる。血の雫の幾つかは私の手にも滴り、火傷のせいかマグマのように熱く感じる。まるで無言を貫く一護が流している血の涙のように見え、途端に胸の奥が苦しくなった。

 

 何故、そうまでして私の力の解放を止めたのかは分からない。けれどその理由が私のためであったことくらいは、混乱している自身の思考回路でも判断することが出来た。

 

「……ごめ……なさい……腕、血が……!」

 

 一護の身体を支えようと手を伸ばす。傷に対して私に何かできるわけでもない。けれど、こんな深手を負った彼を目の当たりにして平静を保つことなど不可能だった。

 

 震える手を持ち上げ、私は彼の肩に触れようとした――が、それは不発に終わった。

 

 触れるまであと数センチのところで、背後に虚が殺到。それを察知した一護が勢いよく身を翻し、右手に集束させた黒い霊圧の刃を滾らせ、

 

「月牙――天衝!!」

 

 横薙ぎに一閃。巨大な漆黒の斬撃で、突っ込んできた集団を一瞬で灰燼へと変えてしまった。さらに群がる虚に対し再度月牙を放つかに見えた一護だったが、彼はその場で大きく息を吸い込むと、

 

「――ルキア!! 恋次!!」

 

 誰かの名を叫んだ。

 

 直後、虚の群れの背後に二つの黒い人影が瞬間移動してきたかのように出現し、

 

「――舞え。袖白雪」

 

 低い女性の声と共に半数が氷結して砕け散り、

 

「吠えろ! 蛇尾丸!!」

 

 もう半数は鞭のように伸長した巨大なダンビラが斬り裂いた。

 

 私が討滅するのに全力を賭した規模の虚の軍勢が一瞬で撃破された事実に傷の痛みも忘れて唖然としていると、やはり瞬間移動したかのように二人が一護の両脇に現れた。どちらも黒い着物……死覇装を着込んでいる。

 

 片方は先ほどの氷結攻撃の主らしい小柄な女性……いや、少女か。

 歳の頃は私より少し上くらいに見えるが、華奢な肢体に反する凛とした堂々たる立ち姿はどう見ても同年代のそれではない。艶やかな黒檀色の黒髪に大きな瞳。手には美しい純白の日本刀を持ち、左腕に『十三』と書かれた木製らしい腕章を付けている。

 

 もう一人からは全く対照的な印象を受けた。

 胸倉や額巻きに隠れた眉の辺りには刺青のようなものが浮かび、燃えるような赤髪を後頭部で一纏めにしている。体躯は一護と同じか少し高いくらいの高身長で手には先ほどのダンビラ。吊り上がった三白眼からはものすごい威圧感を感じる。女性と同じく腕章を付けていて『六』と記されている。

 

 一護、この人たちは一体……そう私が問う前に、新たに一人の人影が室内に出現した。

 

 同じように死覇装を着ており、外見年齢は二十代後半程か。やや赤みがかったような豪奢な長い金髪に、私が見て恥ずかしくなるくらい豊かな胸元を強調した出で立ち。やはり腕には腕章が付いており、こちらには『十』の文字。

 

「乱菊さん!」

「ギリで間に合ったみたいね一護。はぁーい、アナタが一護の妹弟子さん?」

「そンなんじゃねーよ! とっとと人払いと防御の結界張ってくれ!!」

「んもー、ノリ悪いわねぇ……朽木、結界内の一般人に白伏。恋次は援護よろしくー!」

「はっ!!」

「応!!」

 

 私に声をかけてきていた金髪女性が指示を出し、赤髪の男がダンビラを振り回す。向かってきていた虚を数度の斬撃で一掃したと同時に女性陣二名が複雑な印のようなものを結び、同時に両の掌を床に叩きつけた。すると崩れた部屋の外側を橙色の壁……おそらく結界が覆い、さらに室内の空気が一瞬だけ震えた。

 

「よっし。これで一段落ね。あーもー久々の実戦は肩凝るわぁー、あたし胸おっきいから」

「……松本副隊長。私を見ながら当てつけのように仰るのは止めてくれませんか」

「別にそんなんじゃないわよ。朽木、あんた自分の貧乳気にしすぎ」

「んなっ!? わ、私はそのような不埒な悩みなど……!」

「まあ、この二人の茶番は置いといて、だ……おい一護。テメエの妹弟子だか何だか知らねーが、このガキ本当に人間か? なんで生身で死覇装なんか着てんだよ」

「よく見ろボケ恋次。それはコイツの完現術で作った霊圧の死覇装だっつの。多分だけど、俺の過去を纏って戦おうとしてたンだろ。な、詩乃」

 

 騒ぐ女性陣を放置して私を睨みつける赤髪の男の問いに、一護が事もなげに答えてみせた。彼の問いかけに一拍遅れて首肯で応えたはいいものの、何故それを知っているのかが分からなかった。

 

「い、一護……なんで私が過去を纏う能力に目覚めたって知ってるのよ? それに私が完現術って……?」

「ここに来る途中、浦原さんから連絡もらって知ったんだ。ごく少量だけど、オメーん中に虚の霊圧が混ざってるってな。先週、路地裏で虚に襲われただろ? あん時浴びた虚の毒が一時的に魂の奥まで浸透しちまったせいらしい。テッサイのおっさんがお前の霊圧制御に使ってる機械整備してる時に気づいたってよ」

 

 完現術というものは、確か虚の霊圧を内包していることが習得条件だったはず。一護は死神の力と融合した虚を内に宿しているために完現術が使えていると言っていたが、知らないうちにそれと似た境遇になっていたなんて。

 

「んで、そのオメーに浦原さんがこっそり持たせた『お守り』ん中には俺の霊圧を圧縮した丸薬が詰まってた。もし詩乃が命の危機に瀕してそれを使った場合、元から持ってる『過去視』の力と完現術の素質、そんで完現術者でもある俺の霊圧が組み合わされば、高い確率で『過去を纏う』能力になるだろうって浦原さんは予測してた。

 けどもし完現術を使って生き残ろうとした場合、そのまま完成されちまうとヤバいことになる。完成する瞬間はそいつの完現術の核になってるモンから今までため込んだ魂が一気に噴出するから術者の身が持たねえ。必ず誰かがそばにいて抑え込まなきゃなんなかった。何を核にして覚醒すンのかは俺も浦原さんも見当つかなかったからちっと焦ったが……俺の完現術を再現しようとしてて助かったぜ。俺の核は右手の代行証だったから、そこを押さえりゃそれで済む。

 ま、今回の襲撃が無くても遅かれ早かれ覚醒してたンだし、ホントなら浦原さんトコで俺の霊圧取り込む鍛練してる時に完成させてくれりゃラクだったんだけどな」

 

 そう言って自身の爛れた腕を見て一護は顔をしかめて見せた。大怪我のわりには大して痛そうにはしていないが、やはり私の身を護るためだったということを知り、仕方なかったとは言え申し訳なくなる。

 

「っと、そういや詩乃。腕の火傷、大丈夫か? けっこー痛いだろ、ソレ」

「え、ええ。ちょっと痛いけど……あんたの深手よりは百倍マシよ。そっちこそ大丈夫なの?」

「俺のは気にすんな。ちゃんと後で治してもらうさ。おいルキア、コイツの腕を治してやってくれ。あとその隅っこで倒れてる連中も……って、片方キリトじゃねーか。コイツの巻き込まれ体質も大概だな」

「え? 治すって……」

「じっとしていろ。案ずるな、この程度の傷ならすぐに治せる。それと、その完現術は仕舞え。能力を使われると治しにくい」

 

 ルキアと呼ばれた黒髪の少女はそう言うと、ボロボロで上手く動かせない私の身体を支えてゆっくりと横たえた。能力を解除した私の腕に両手を重ねるようにして翳すと、淡く色の光が灯る。ほんのりと暖かな感覚が右手を包み込んだ。

 

「さて、こっちはこれでいいとしてだ。恋次、一角と弓親ドコ行ったんだよ。この辺には霊圧ねえぞ」

「一角さんたちはこの地区から逃げようとしてる虚の分隊の殲滅に行ってるぜ。どっちが多く狩れるかって弓親さんと張り合ってたし、あの人たちなら取り逃がすこともねーだろう」

「そうかよ。んじゃ後は冬獅郎だけか、アイツは今どこに……」

「……何をもたもたやってやがるのかと思えば。呑気に雑談してるなら表に出て来い、お前ら」

「あ、隊長ー」

 

 声のする方に首を向けると、結界に四角い穴が開き、そこから小柄な銀髪の少年が入ってきた。手には背丈に近しい長さの太刀を握り、他の人たちと違って白い羽織を上に重ねている。

 

「ちょっと隊長、せっかくあたしが張った結界に穴開けないで下さいよー。修復するの、意外とメンドクサイんですからね」

「うるさいぞ松本。黒崎、阿散井。いつまで話し込んでいるつもりだ。用が済んだら表の雑魚の殲滅を手伝え」

「いいじゃないっすか。ぶっちゃけあんな連中、日番谷隊長一人で余裕でしょ。こン中じゃ、ルキアと並んで連中の毒とかいうのと相性いいんすから」

「そういう問題じゃねえんだよ阿散井。いいからさっさとしろ……」

 

 そこまで言いかけ、日番谷というらしい少年隊長はさっと振り向き、刀を正面に翳して

 

「……霜天に坐せ。氷輪丸」

 

 刀身から巨大な氷の竜を撃ち放ち、結界の穴目掛けて飛び込もうとしていた虚全てを氷漬けにしてしまった。当然の結果とでも言わんばかりの一瞥でそれを見やった後、横になり治療を受けている私の方を向いた。

 

「そういえば、まだお前に名乗ってなかったな。先に確認する。お前が過去視の能力者であり且つ完現術者、朝田詩乃だな?」

「……う、うん」

「そうか。護廷十三隊十番隊隊長の日番谷冬獅郎だ。到着が遅くなって済まなかった」

「あ、あたしもー。同じく副隊長の松本乱菊よ。後で能力のこととか色々聞かせてね。過去視ってなんかカッコいいじゃない」

「は、はい。私でよければ……」

「んでね、そっちの赤毛のイレズミ男が六番隊副隊長の阿散井恋次っていうの。ガラは一護並に悪いけど、まあ悪い男じゃないから怖がんなくていいわよ」

「なんで一護と俺を比較すんすか乱菊さん!」

「マッタクだ。俺なんかよりオメーの方が千倍ガラも頭もわりぃモンな。赤パイン」

「一護てめえケンカ売ってんのかゴルァ!!」

「……ま、あんな感じで似た者同士ってワケ」

「な、成程」

 

 いがみ合う二人は確かに似ているような気がしてあっさりと納得の返事を返してしまう。首を元の位置に戻すと、私の腕の治療にかかっていた術が解けたように見えた。

 恐々と腕を動かしてみると、見事に痛みが消えていて驚いた。傷跡も残らず完璧に癒えている……が、そのかわりに肩や反対の腕、腹筋といった他の全身が痛み、思わず呻いてしまう。

 

「こら貴様、まだ治療は終わっておらぬぞ。無暗に動くな」

「ご、ごめんなさい。えっと……」

「十三番隊副隊長並びに同隊隊長権限代行の朽木ルキアだ。貴様は朝田といったな。そこのオレンジ頭と親しいそうだが、彼奴と行動を共にするのは中々苦労が絶えんだろう。付き合う友人は選んだ方が良いぞ」

「ほー、言うじゃねーかルキア。聞いたぜ、オメー霊術院でボッチだったらしいじゃねえか」

「う、うるさい! 黙っておれこのたわけ! とにかく朝田! 貴様は人の身でありながらよくこの苦境に耐えた。後は我々に任せて休んでおれ。直にこの騒がしい夜も終わる」

「今一番騒がしいのはオメーだけどな」

「うるさいと言ったはずだぞ一護!!」

「へーへー」

 

 さっきと似たような応酬。一護が茶化し、茶化された方がツッコむ。なんだかずっと昔からそうしてきたような自然なやり取りをしながら、一護は私の方を見た。眉間に巌の寄った、鋭くも優しい眼光が、私の疲弊しきった身体には日の光のように温かく感じた。

 

「詩乃。ホントによく頑張ったな。ルキアが言ったように、後は俺らが片付ける。大丈夫だ、すぐに終わらせてくるからよ」

「……うん。分かった」

 

 短い会話。けれどそれだけで安心できる。信じた通り、彼は最後の最後で助けに来てくれた。身を挺して私の能力の完成を助けてくれた。命を救ってくれた。頼もしい沢山の仲間と一緒に。

 

「…………ありがと、みんな」

 

 ちょっと気恥ずかしくて小声になってしまった私のお礼に、皆が笑みを浮かべて応えてくれた。そのまま各員が行動に移り、迎撃とここの防衛の二手に分かれた。

 

「おい一護」

「分かってる。けど大丈夫だルキア。このままでも支障はねえ」

「そういう問題ではない。貴様が良くても心配する者がいるのだぞ」

「気にし過ぎだろ」

 

 端折られて会話の中身を十全に理解することは出来なかった。けれど一護が私をもう一度見下ろし、また笑って見せたことを考えると、私のことを言っていたらしかった。

 

「心配すんなよ、詩乃。あのザコ虚の群れとデブ破面一人倒すのに――」

 

 言いつつ、胸に代行証を押し当てて、

 

 

「――腕一本あれば十分だ」

 

 

 他の四人と同様の死覇装姿となって実体化した。

 

 完現術状態よりも数段上の高密度の霊圧が室内を軋ませる。それをさして気にするでもなく、一護は無傷な右手で背中の大刀を抜き放った。そのまま振り返ることなく結界の外へと跳躍し、戦闘の渦へと飛び込んでいく。霊術により治療を受けながら、私はそれをただ見送っていた。

 

「大丈夫だ。一護なら心配いらぬ。あの程度の傷で虚に後れを取るような男ではない」

「……別に、心配なんてしてないわ……です」

「敬語など要らんぞ。楽にして良い」

「そう……ありがと」

「うむ。朝田、貴様はこのまま暫し眠れ。事が済んだら起こす。友人たちの治療も任せておけ」

 

 そう言うと同時に、額に手を置かれた。途端、全身が弛緩し急速に眠気が襲ってくる。抗いようのない睡魔に負けて、私は目を閉じた。この数十分の命を賭けた戦いの疲労が甘く重くのしかかり、泥濘のような睡眠へと私は落ちていく。

 

 ……けれど、最後に一つだけ。言わなきゃいけないことがある。

 

 この一か月で私を導き助けてくれた、あのぶっきらぼうな死神に向けて。誰にも聴こえていなくても、言っておかなきゃいけない気がして。夜と睡魔の闇に紛れ込ませるようにして、たった一言だけ。

 

 

 

 ――私を救ってくれて本当にありがとう、一護。

 

 

 

 

 




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『ノッキン・オン・ユア・グレイヴス』解説。

(1)再実装(リロード)

望んだ過去の現象、および武器を始めとする過去視認した非生物の再現。

「相手の腰に付いているグレネードが爆発する」という過去起きた現象を再現すれば、相手の腰にグレネードを召喚して即座に爆破することが出来る。

「敵を薙ぎ払ったミニガン」という過去の武器を再現すれば、過去やった通りの動きで掃射する。無論、薙ぎ払いのコースは全く同じなので、自分の意志で曲げることはできない。







(2)特性再実装(パーソナル・リロード)

望んだ過去の現象や過去視認した武器を、その使い手の動作や身体能力を含めて再現する。

もし詩乃が「敵を薙ぎ払ったミニガン」ではなく「敵を薙ぎ払ったミニガン使いのベヒモス」という形で再現していた場合、彼の強靱な膂力も身体に宿すことが可能となり、詩乃が気合で堪えることになったミニガンの反動も、再現された膂力で軽減することが出来ていた。

ペイルライダーの跳躍力、キリトの動体視力、シノンの遠距離エイム力といった身体的支援効果が付いていたのもこのため。

また、《剣士キリト》を再現して纏った時のように「複数の類似した過去を同時に纏い、状況に応じて最適な過去を選んで即時自動再現する」という芸当も可能。

虚たちが放った光弾のコースと、キリトが経験しているアサルトライフルの掃射の弾道は同じではないため、ただ普通に「キリトの銃弾斬りの過去」を再実装しただけでは防ぐことが出来ない。
そのため、詩乃は「キリト」というカテゴリに「銃弾を剣で弾いた」過去をまとめて詰め込んでから「剣士キリト」として纏うことで、飛んでくる光弾の弾道に見合う最適な過去(斬り上げで防ぐ、袈裟斬りで防ぐ、回避する、刀身で受け止める……etc.)を一発ごとに適宜再現し続け、全ての光弾を防ぎきることに成功している。ちなみ弾道識別は自動で行われる。

(1)では一つの過去に沿った動きしか出来なかったが、こちらは状況に応じて「複数の過去を瞬時に、かつ自動的に使い分ける」ことができる。複数人の人物の過去を詰め合わせにして変則的バトルスタイルになることも可能。

ただ、再現する過去の選択を自分の意思ではなく能力に委ねてしまっているため、霊力消費は半端じゃなく激しい。たった数分でガス欠になった一番の原因はこれ。







(3)完全再実装(パーフェクト・リロード)

過去の現象・武器・人物動作だけでなく、その結果まで再現しきる。

(1)と(2)は自分自身が行為する「現象」までは忠実に再現するものの、それが相手にどんな与えるかという「結果」までは再現しきれない。
これは単純な霊力の出力差の問題で、自分が攻撃に込めた霊力より相手の防御力が高ければ減衰・相殺されてしまう。「相手に当たる」ところまではいっても「当たった弾がダメージを与える」ところまではいけないということ。無月を撃っても籠っている霊力は詩乃のものなので、あんな威力は出せない。出したかったらあれと同量の霊力を籠める必要がある。

しかし(3)は相手が格上であっても「過去と一定以上類似した状況を作り出す」という条件さえ整えば発動し、相手のスペックに関わらず強制的に過去と同じ結果をもたらすことが出来る。もたらす結果が強力であるほど、また相手が強いほどに発動条件が厳しくなる制約が存在する。

発動に成功したら本当に逃げられない。「撃った弾で相手が死ぬ過去」であれば、当たった対象が一護でも死ぬ。

なお、月島さんの能力と組み合わせた場合、詩乃が望んだ過去を『ブック・オブ・ジ・エンド』で詩乃自身に挟み込み、それを『ノッキン・オン・ユア・グレイヴス』で再現することでよりカオスになる。
あらかじめ「一撃で敵に大怪我を負わせたことがある」過去をねつ造して挟んでおけば、完全再実装の成功率も上がる。

……ただ、詩乃が月島さんを敵に回した場合、再現する過去を書き換えられると、もう書き換え以前の過去は使えなくなってしまう可能性が高い。


尚、これらの再現全ては詩乃の肉体の都合を一切考慮せずに再現される(手足が千切れているなど、物理的に不可能な状況になればその限りではないが)。
故に碌に鍛えていない詩乃の身体には相当な負荷がかかる上、過去の再現が終了すれば一度能力が解除されてしまう。そもそもの霊力の消費量も半端ではない。


……とまあ、やたらと強いけれど詩乃が人間の枠内に居る限りでは制限がある能力でした。
尸魂界が彼女をどう認識するのかは次話で書きます。


次回はGGO篇最終話、後処理と後日談です。
つるりん&ゆみちーコンビの出番は次話に先送り。


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