Deathberry and Deathgame Re:turns   作:目の熊

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二十六話です。

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Episode 26. Rock'n'Roll -feat. reunion-

『――と、まあそんな流れだったわけだよ。僕とて丸投げしたわけじゃない。詳細な下調べの元キリトくんの安全面は最大限に考慮した上で的確な報酬と彼の同意に基づく確約を取るという潔白な段階を踏んだわけで、決して僕の一存と独断で依頼内容を締結したわけでは……』

「そういうお役人的な言い訳は余計。そんなの聞きたくない」

「まったくだ。別にアンタがわりーことしたわけでもねえのに、そういう責任転嫁を口にすっからイラっとくんだよ。クリスハイト」

『うっ、キリトくんに負けず劣らず、友人方も中々手厳しいねぇ……」

 

 そう言って、スクリーンに映る長髪の眼鏡男・クリスハイトは苦笑いを浮かべた。接続に相当な時間がかかっちまったが、それもそのハズ、コイツはALOの中に居やがったんだ。

 

 てっきり「件の依頼主は現実世界にいるもんだ」と思いこんでた俺は。スクリーンに映し出された水色髪のローブを纏った優男を見た時「コイツちょっとヤバいヤツじゃねえか」とこめかみを引きつらせたが、ヤツの尖った耳を見て事情を察した。

 

 訊く限りじゃ、どうもこのクリスハイト、俺らよりも先にアスナに呼び出しを食らってたらしい。アイツはキリトの受けた依頼内容を聞き出した後、すでにログアウトしてキリトの現実の肉体がある病院で、ヤツの無事を祈っているらしい。

 

 クリスハイトの他に画面に映っているのは、アスナと一緒にBoBを観戦してたリーファ、リズべット、クライン。あと、リーナのファンだとかいうネコミミ生やした小柄な女子プレイヤー……名前は、えっと、アレだ。パンの袋とかに一緒に入ってそうな感じの……そうだ、シリカだ。半年前のオフ会以来会ってねえから忘れかけてたが、多分当たってるハズだ。

 

 で、そんな面子を前にしながらキリトに依頼した内容の詳細を問い詰めて、おおよその事情を把握するとこまではいった。途中言葉に詰まった時はリーナが家の名前をチラつかせて強引に推し進めてたが、その度にクリスハイトは冷や汗を流していた。ルキアと白哉とか、京楽さんとかを見ててもあんま感じなかったが、名家ってのはやっぱスゲーなと、ちょっとだけ感心しちまった。

 

『……しかし、まさかあの『英雄』こと『死神代行』一護くんと東伏見家のご令嬢がタッグを組んで僕に迫ってくるとはね。予想外だったよ』

「白々しい。あなたがSAO時代の上位プレイヤーの行動傾向を掌握していたことくらい知っている」

『い、いやはや実にお手厳しいな、莉那嬢は』

 

 一応相手がお役人サマだったから最初は敬語で話していたリーナも、他の連中がタメ語で話してるのに釣られたか、それとも苛立ちが上面の敬語を押しつぶしたせいか、いつも通りの言葉づかいで押し通してる。手元のミルクティーを飲み干し、ガチャンと乱暴にソーサーにカップをおろす。

 

「だいたい、SAO生還者が四人集まってなんで死銃の正体が分からなかったの? 私と一護は中継映像を見てすぐに気づいたのに」

『す、すみませんリーナさん。わたし、最前線に出てなかったからレッドプレイヤーの情報には疎くて……』

『あたしも鍛冶職だったから、いま一つ記憶が……』

『俺もサムライだったからな。どうにも記憶が……』

「一応ツッコむけどクライン、貴方だけ言い訳になってない。討伐戦に参加した身で気づけなかったとか、一護以上に記憶力残念」

『ぐぅ……』

 

 自分も気づけなかったくせに好き勝手言ってるリーナにディスられて渋面をつくるクライン。それをスルーしつつ、さりげに俺までけなしやがった食欲魔神の頭を小突いた。

 

「気づいたのは俺だけだろ。勝手に自分を混ぜんな」

「一護、細かいこと言わない。私たち、パートナー」

「都合のいい時にそういうのを持ち出すんじゃねーよボケ」

「……それは置いといて、クリスハイト、ザザの個人情報は取れそうなの?」

『すでに指示を出してある。面倒な手続きをいくつか経由することにはなるためポンと出てくる代物じゃあないけど、それでも彼に逃亡の隙を与えない程度には迅速に判明すると思うよ。勿論、彼の関連が確定した時点で調査員を向かわせる』

「そう、なら一刻も早くそうするべき。キリトの方も決着を付けたみたいだし」

 

 そう言ってリーナはもう一つ展開されてるウィンドウに目を向ける。BoBのライブ映像が映し出されてるそこには、死銃との決戦を終え、満身創痍になったキリトがシノンの元に歩み寄る姿が映し出されていた。その背後には死銃の首が転がっており、その上に『死亡(DEAD)』のアイコンが浮かんでいる。

 

 

 ――そう、キリトとシノンは、辛くも死銃を打ち倒した。

 

 

 洞窟から出てきたキリトが囮になり、死銃の狙撃を誘う。無音で飛んできた弾を超反応で回避し、予測線が見えた瞬間にシノンが狙撃で死銃の狙撃銃を破壊した。けど、ライフルをエストックに持ち替え、死銃からザザの戦いへと回帰したヤツとキリトが交戦。少しずつキリトが押され始めた。

 

 だが、その劣勢をシノンが黙って見てなかった。

 スコープの壊れたヘカートを持って岩陰から飛び出したかと思うと、躊躇うことなく交戦エリア目掛けて突撃。ヘカートの銃口をななめ下に向けたまま発砲し、反動で銃口をはね上げることで弾道予測線を捻じ曲げて(・・・・・)みせた。ねじ曲がった弾道の先にあったのは、ザザの胴。食らえば確実に即死する部位だ。

 その狙撃手らしくない曲芸撃ちに動揺したのか、ギリギリで回避したザザの気配から鋭さが欠け落ちた。その瞬間をキリトが逃がすはずもなく、透明マントで逃亡しかけたザザにハンドガンと光剣の異色二刀流でトドメを刺して勝負が決した。

 

『分かっていますとも、莉那嬢。事件性が明確でない以上まだ警察には通報できないが、証拠が固まり次第すぐにでも向かわせられるよう努めることを約束しよう。そして一護くん、情報提供感謝するよ。今度莉那嬢と一緒にどこかでお茶でもいかがかな?』

「ンなこと言ってるヒマがあったらとっとと現実帰って仕事しろよ。人の命がかかってんだぞ」

『おお、至極まっとうな返答だね』

「見かけによらず、って言いてえのか。聞き飽きてンだよ、その言い回し」

『いやいや、そんな悪意を込めたつもりはないんだよ、いや本当に……と、それじゃ、君のお言葉に従って僕は現実に帰るとしよう。また後程、事態が落ち着いたら連絡させてもらうよ。それじゃ、失礼』

 

 何故か地味にイラッとくる笑顔を浮かべつつ、クリスハイトが通信を切る。と、それを見計らったかのようなタイミングで俺のスマホに着信が入った。液晶に表示されてる名前は『浦原喜助』。

 

「わり、リーナ。ちっと外で電話してくる」

「別に室内でしても良いのに。私は気にしない」

「俺が気にすんだよ」

 

 霊力に目覚める可能性があるとはいえ、今はコイツに浦原さんとの会話の断片を聞かせるワケにいかねえ。適当に会話を打ち切って部屋の外に出て、エレベーターと反対側、廊下の突き当たりにあるラウンジのソファーに腰掛けつつスマホを耳に当てた。

 

「俺だ。浦原さんか?」

『黒崎サン、今どちらに? 空座町内に霊圧がないようですが』

「今? 新宿の駅前だ。解析結果が出たってンならちょっと待っててくれ。完現術使えば十分ちょいで戻れる」

『いえ、むしろ好都合です。こちらには戻らずそのまま湯島に向かって下さい。可能な限り、大急ぎで』

「湯島? 何でだよ。あァ、詩乃のコト言ってんなら大丈夫だ。この前話した死銃ってヤツなら今俺の仲間が仮想世界でブッ倒した――」

 

 

『違います黒崎サン……解析結果が正しければ、おそらくあと数分で文京区上空に多数の虚が出現します。一般隊士に抑えられる規模じゃない。このままいけば、戦闘力の無い霊力持ちである朝田サンは、極めて高い確率で死にます』

 

 

 一瞬で頭に血が昇った。

 

 突きあたりの窓をブチ割って外に飛び出そうと考えたが寸前で自制し、逆サイドに猛ダッシュ。地上への直通エレベーターを呼ぶボタンをぶっ叩いた。扉が開くコンマ数秒さえもじれったく、筐内に飛び込んで閉ボタンと下降ボタンを続けて乱暴に押しつつ、浦原さんを問い詰める。

 

「どういうコトだよ!? 死銃はもう倒したんだぞ!?」

『その死銃なる人物が今回の件とどのように絡んでいるのかはまだ不明です。が、黒崎サンから受け取ったデータとアタシらがかき集めた情報から判断すれば、もう虚の大量出現まで時間がないンス。四の五の言ってるウチに、朝田サンも、それ以外の人たちも死ぬ可能性が高いんです。急いで下さい』

「くそっ……!」

 

 悪態を吐きながら、一階に辿り着いた高速エレベーターの扉から飛び出す。ダッシュでエントランスを抜けてビルを飛び出し、同時に視覚防壁を発動。そのまま地を蹴って跳躍し、

 

「――『クラッド・イン・エクリプス』!!」

 

 完現術を纏い、一気に空中へと駆け上がった。夜の闇を裂くように完現光をまき散らしながら、ひたすらに自分を加速していく。

 

『……手短にではありますが、解析結果をお伝えします。

 まず黒崎サンから新しく受け取ったデータから、心不全死者の周期の起点が判明しました。十一月九日、場所は中野区の住宅街ッスね』

 

 十一月九日、中野区……ハッとした。死銃事件の一件目が発生した日と場所だ。

 

『そこを起点として心不全の周期は関東全域をゆっくりと時計回りで旋回しています。そのペースから考えて、今日の周期が重なる地区が文京区なんスよ』

「けどなんで虚が大量発生するってことになンだよ。尸魂界のデータベースじゃ今まで異常はなかったんじゃねーのか」

『ええ。そこに関しては、鉄裁サンから上がってきた報告が絡んできます。黒崎サン、覚えてます? ここ数か月の間、虚が弱体化してるってアタシが言ってたことを』

「ああ。それと整が減ってるっつー話で、アンタはそれがおかしいとか何とか言ってたよな」

『ハイ。その悪い予感が当たりました。虚らは確かに弱くなっていた。ですがそれは、死神に倒されやすいように計画された『意図的な弱体化』だったんです。

 なぜならここ数か月の間に発生した虚の霊体には……生きている人間の因果の鎖を浸食する『毒』が仕込まれていたからッス』

 

 その言葉に、思わず顔が引きつる。因果の鎖、つまり魂と肉体を繋ぐ楔を浸食するってことは、虚がそこにいなくても人が突然死する可能性が高いってコトだ。ンなモンがまき散らされてたなんて……まったく気づけなかった自分を俺は呪った。

 

『極めて精巧な毒ッス。一度取り込まれれば魂の内側まで浸透し、時間をかけてゆっくりと鎖を侵していく。前にウチの『絶望の縦穴』に入ったでしょ? アレと原理は似ています。一般的に、死神は霊なるものの気配には敏感ですが、生きている何の力もない人間の変化には疎い。霊圧知覚に長けた隊長格が疑念を持った状態で捜査して、初めて識別できる程のこの毒になんて、絶対に気づけません』

 

 絶望の縦穴。確か、俺が死神の力を取り戻すために入ってた深い穴のことだ。因果の鎖の浸食を早める気体が充満してて、数か月かかるはずの鎖の浸食を大幅に縮める作用がある。あの時の猶予時間は三日くらいだったハズだが……。

 

「浸食には、どれぐらい掛かる?」

『個人差もあると思いますが、およそ四日前後です。しかも浸食は鎖の端からではなく、全体を平行して進行していきます。つまり、鎖が切れるのと鎖が消失するのが、同時に起こる。この意味……分かりますか?』

 

 熟考しなくても、その恐ろしい問いの答えはすぐに出てきた。

 

「……因果の鎖が残ってるうちは死んで幽霊になっても虚にはなんねえ。それが、肉体が死ぬと同時に鎖が消えちまうってことは、死ぬと同時に虚になっちまうってことかよ!」

『そうッス。そして、もう一つ。霊体は虚になる前、爆散してその場から姿を消します。再生される場所は基本的にランダムですが、この毒には別の作用があり、爆散後の霊体を必ず特定の座標に転移するよう強いる効果があること、そして弱いながらも洗脳効果を持っていることが分かっています。

 これは推測を半分交えていますが、毒で因果の鎖を浸食されきった霊体は親玉である『筆頭固体』の元に転送されると考えらえます。そこで同じ毒を植えつけられて洗脳され『筆頭固体』の奴隷となる。その際に代償として『筆頭固体』に霊力を吸い取られ、弱体化した状態で虚化する。

 そして、地区ごとに配備された死神に怪しまれないよう、関東全域を転々と移動していく『筆頭固体』の動きに合わせて随時現世に送り込まれ、わざと死神に倒される。死ぬ瞬間に塵となった虚の霊圧圏内に人間がいれば、その毒が感染。そして因果の鎖を持たない死神には効果がないから気づかれない……おそらく、こんなところでしょう』

 

 ですが、問題はここからです。そう言った浦原さんの声が一層真剣味を帯びる。高層ビルの谷間を駆けながら、俺は耳に当てたスマホから流れる声に注意を傾ける。

 

『『筆頭固体』自身の霊圧規模はそう大きくないでしょう。黒崎サンからもらったデータから判断して、一度に毒を仕込んで送り出せるのは多くて四、五体が限界のはず。しかし、虚たちから吸収している霊力の総量はかなりのものになるはずッス。

 ですが、自身の霊圧規模を凌駕する霊力を保有し続けるのはとても難しい。黒崎サンから頂いたデータの死者と、筆頭固体の霊圧規模、霊力の吸収率、弱体化した虚の討伐件数……これらを総合して限界保有量を計算すると、今日、この日が霊圧規模に対する吸収限界、臨界点になります。となれば、必ず何らかの形で発散しに来るはず』

「だから虚圏かどっかで大量の虚に毒仕込んで奴隷にして、一気に現世に送り込んでくる……そういうコトか!?」

『それが極めて高い可能性で起こりえます。

 今まで自分の毒で虚にして手元に置いていた虚や、虚圏の虚。それらに自身の毒を仕込んで現世に放ち、その混乱に乗じて一時的に臨界点以上の霊力を持った状態で自身も現世に出現。霊力の高い人間の魂を片っ端から喰らって自身の霊圧を底上げ。討伐された虚によって撒かれた毒で出る多くの死者の霊力を食らってさらに強化する。これが今起こりうる最悪のシナリオッスね。

 半刻前、夜一さんが尸魂界に向かいました。京楽サンから増援を引き出してもらおうとしてるトコッス。アタシと鉄裁サンは解毒剤の調合に入りますので、黒崎サンはとにかく朝田サンを保護しつつ文京区の虚討伐へ……』

 

 そう浦原さんが言いかけた瞬間、悪寒が背筋を駆け巡った。加速し続けていた自分に急制動をかけて停止し、右手に霊圧の刃を纏う。直後、俺の頭の上でバカでかい黒腔が開き、無数の虚がわらわらと湧き出してきた。眼下を見渡すと、湯島の駅が先の方に見える。ギリで間に合ったみてえだが、この数はっ……!

 

「浦原さん!! もう既に虚の群れが押し寄せてる! このままブッ倒しても毒がまき散らされちまう、どうにか毒を散らさずに倒す方法とかねえのかよ!?」

『虚は消滅時に必ず霧になって崩れ去ります。毒はその霧状の霊圧に含まれている。それを拡散させないように倒せればいいんスよ。アナタの高い霊圧なら、例え完現術の状態でも可能なハズです』

「拡散させねえように……高い霊圧……そういう、ことかよッ!!」

 

 思いつき、通話を切って胸ポケットに放り込んでから、宙を蹴って踏み込む。鈍重な動きで迎え撃とうとする虚の顔面目掛けて霊圧の刃を叩き込み、

 

「――月牙天衝!!」

 

 斬り裂きながら月牙を撃ち込んだ。黒い霊圧のうねりが虚の全身を飲み込み、焼き尽くして消滅させる。

 

 思った通り、虚の残滓らしき霧は俺の霊圧に飲まれ、散らずに消えていった。鬼道系じゃねえ俺の能力でも、大量の霊圧を籠めた月牙なら虚の霊体を力押しで消せる。身を翻し、襲い来る虚に次々と月牙を叩き込んでいく。

 

 ……だが、数が減らねえ。

 

 元々俺の能力は殲滅戦には向いてない。一体一体を倒すのは早くても、月牙天衝、それも慣れきってない完現術の月牙じゃ限度がある。俺が斬った端から虚が湧き、四方八方から襲い掛かってくる。

 

「くそっ……なんでこーゆー時にドイツくんだりに行ってンだ、あの滅却師は!! 雑魚殲滅と霊子吸収はお手のモンだろーが!!」

 

 八つ当たりしながら月牙を放ち、目の前の三体を消し飛ばす。次いで襲ってきたコウモリ虚の飛びかかりを伏せて回避しつつ、腹を殴って上空に打ち上げる。

 殺到しようとしてた虚の一団にブチ当たり、連中の動きが止まったところ目掛け、左手に新しく展開した刃を横に一閃。さらに重ねて右の刃を縦に一閃して、

 

「月牙、十字衝!!」

 

 黒い十字の月牙でまとめて叩き消した。轟々とうねりを上げる火焔みたいな高濃度の霊圧に灼かれて虚共が消えていくが、その穴を埋めるように小さな黒腔がいくつも展開され、瞬く間に包囲網を作ってきた。

 

 舌打ちしながら突撃する俺の胸元でスマホが振動しているのが感じとれた。左手の刃を解除して手をポケットに突っ込み、耳に当てる。

 

「浦原さんか!?」

『ハイ、黒崎サン。夜一サンが戻りました。京楽サンから書簡が届いたんで内容をお伝えします。

 『事態は分かった。上級隊士により構成された大部隊の派遣要請、その妥当性についても理解する。

 しかし報告に依れば、件の虚は高い霊圧を込めた直接攻撃または鬼道系攻撃による即時滅却によってのみ一般人に被害を出さずに討伐できるという。先の戦争で多くの隊士を失くし、隊制度も半壊している現在、それを成せる人材の把握や部隊結集にはそれなりの時間を割かなければならないのが現状である。よって、新四十六室は当要請を一時保留。別案を現在審議中である』』

「ンな悠長なコト言ってる場合か!! 今虚が来てるってンだよボケ!!」

 

 思わず浦原さんに対して暴言を叩きつけちまう。この人に言っても仕方ねえのに、あんな戦争やっても未だに頭のカタい連中に怒りがこみ上げ、その激情を乗せた月牙で虚を消し飛ばしていく。

 

 が、浦原さんは俺の八つ当たりを聞いても口調を変えず、言葉を続けた。

 

『まだ続きがあります。

 『――であるんだけど、ボクはそんな悠長なこたぁ言わないよ。総隊長権限を行使して、現行の隊長二名の同意があれば過去凍結・解散された公式部隊の再招集をかけて即時現世に送り出すことが出来る。

 と言っても生半可な腕の隊士じゃ、送ったところで意味は無い。浦原店長の言う毒の拡散を広げてしまう恐れがあるからね。しかし、上位席官陣は先の大戦で多くが戦死しているというのもまた事実。残念ながら、そちらの要求をそのまま通すってわけには行かないんだ。だから――、

 

 

 一番隊隊長並びに護廷十三隊総隊長京楽春水、二番隊隊長砕蜂、六番隊隊長朽木白哉の連名申請で、六年前の破面現世侵攻時に召集された『日番谷先遣隊』を再結成。

 

 

 十番隊隊長日番谷冬獅郎を筆頭とする六名を現世に派遣。速やかに事態を終息させるよう指示した。これから四十六室に直接かけあって四番隊山田三席主導の治療部隊、十二番隊阿近副隊長指揮の技術支援班も結成して、追って現世に派遣する。手が空き次第ボクもそっちに向かうことにするよ。新米能力者さんの顔も見てみたいし。

 

 一番隊隊長 京楽春水』……以上ッス』

 

 プツンという音と共に浦原さんの声が途切れたと同時に、背後から一匹の黒揚羽が現れた。夜の闇の中でもはっきり見えるソイツに一瞬気を取られた、その時だった。

 

 

 

「――まったく。コンを持ち歩けと前々から言っておるだろう、このたわけ」

 

 

 

 凍てつくような冷気と共に、背後から聞き慣れた声が聴こえた。

 

 

 




感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

やぁっと死神勢登場にこぎ着けた……。

次回は再びのシノン視点です。
彼女の「過去視」に付けられた能力名が判明します。


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