短編集   作:かえるくん

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 この短編は作者の勝手な自己解釈と考察の塊です。興味ない、何言ってんの?って方は読まないことをオススメします。別にアンチとかではありません。

 陽乃と八幡の会話ですが楽しい要素はないです。キャラが違うのもお許しを、二人には自分の思考の代弁をしてもらっているだけなので。


その他
本物とは


 とあるカフェの一角。陽乃と八幡は向かい合っていた。

 

「さあ、本物が欲しい比企谷君。その後の調子はどうかな? 手に入った?」

 

 飲んでいたコーヒーを置いて陽乃は八幡に問う

 

「いいえ。第一、俺は本物ってものが存在しうると、手が届くものだと思っていません。それでも欲しいからあがいているんです」

 

 それに肩をすくめながら八幡は答える。

 

「醜いわね」

「自覚済みです」

 

 陽乃のおちょくりを八幡は軽く受け流す。

 

「君の言う本物ってなんなのかな」

「それは、相手を理解したいという自己満足を互いに許容できる上辺だけじゃない関係、ですかね」

 

 八幡は考えながら言う。いまいち自分でもわからないのだろう。

 

「なるほど、じゃあここで一つ質問だよ。何故君は理解したいと思うのかな?」

 

 陽乃は突然八幡に問題を投げかける。

 

「大切だからじゃないですか? 自分にとって大事なもののことはちゃんとわかりたいですから」

 

 八幡は普通の調子で答える。それに陽乃は少し不服な顔をする。

 

「んー、半分かな。もう一歩足りないよ。どうして大切なものは理解したい?」

「……傷つけなくてすむから、ですね。相手の思考や感情が理解できれば自分は完璧に的確な対応や行動をすることができる。そうすれば相手を傷つけなくてすむ、でもこんなの不可能ですよ」

 

陽乃の追加の問題に八幡は答えるが、最後は首を振り自分の述べた理想を否定した。

 

「まあ不可能だね。では更にもう一段階踏み込もう。何故傷つけたくない?」

「大切なものって得てして傷つけたくないものですよね。その理由? …失いたくないからですか」

「ご名答。どんなこともすべては自分の思いや感情にたどり着く」

 

 八幡の答えに陽乃は満足したように言う。そして更に続けた。

 

「例えばさ、宝物ってあるじゃない? 物ね。それに傷をつけたときは物凄くショックを受ける。で、その後修理するなりもっと大切に保存するなり自分のみで折り合いをつける」

「まあそうですね。で、何が言いたいんですか?」

 

 八幡は首を捻って陽乃に続きを促す。

 

「じゃあ傷をつけた大切なものが人だった場合、さっきとは話が違う」

「そりゃ、相手に感情があるから修復は難しいですよ。人との繋がりなんて築くのは大変で壊れるのはあっという間っていうのが定石でしょう」

「そうだね、それは傷つけたとき"距離"が生まれるからだよ。そのせいでそれまでみたいに近づくことは難しくなるし、最悪の場合それは成長し崩壊に繋がる」

 

 陽乃は特に表情を変えることなく言う。

 

「つまり、その距離ができてしまうことが恐いから傷つけたくない、そのために理解したいと」

「そうなるかなって私は思うんだけど」

「はあ、納得はそこそこできますけどそれが俺の言う本物となんの関係が?」

「よし、じゃあここからは君の話をしよう」

 

 ぱんっと一つ手を叩いて陽乃はそんな提案をする。

 

「俺の話?」

「そう。君の過去だよ」

「俺の過去なんてろくなもんじゃないですよ」

 

 八幡は苦笑いを浮かべながら言った。

 

「知ってるよ、いくつか話は聞いたし。原因は何であれいじめにあって、だいたいいつも一人だったんだよね」

「間違ってはいませんよ」

「そんな君は学校にいても家にいても肩身の狭い思いをした。つまり君には明確な自分の居場所がなかった。だから君は奉仕部という居心地のいい場所に、雪乃ちゃんとガハマちゃんにこいつらとならって、初めて居場所を感じたそこに本物を求めた。ずっと欲しかったものを求めたんだよ」

 

 陽乃は八幡から目をそらさない。

 

「じゃあ、俺のいう本物ってのは…」

「そう、君のいう本物は、君の欲しているものは"絶対的な居場所"なんじゃないかな。壊れないという絶対性を持っている関係。だからこそ互いの傲慢さや醜さを許容し合える。確かな繋がりがあって互いに理解し合える関係」

「そんなものあるわけがないじゃないですか」

 

 八幡は力なく言う。それに陽乃は軽い調子で返す。

 

「そうかな?」

「あるんですか?」

「私はなくはない、限りなく近いものはあると思うよ。互いを理解し合うことは不可能かもしれない。でも壊れるか壊れないかなんて誰にもわからないよ。100年は大丈夫って建物が50年で壊れることもあるし、50年しかもたない建物が100年たっても立ち続けることだってある。すべては結果論なのよ。壊れたか、壊れなかったか、ただそれだけ。死ぬときに、壊れず残っていて自分でよかったって思えればそれは本物って言っていいんじゃないかな。死ぬそのときまであり続ける居場所だから」

「やっぱり本物ってのはあやふやなんですよね」

「まあ終わりを迎えたときにわかるものって感じかな」

 

 二人でコーヒーをすする。しばらくして陽乃が口を開く。

 

「ヱヴァわかる?」

「まあある程度は、急にどうしたんですか?」

 

 突然の無関係そうな質問に八幡はびっくりしながらも答えた。

 

「これは完全な私の勝手な考えなんだけど、あの人類補完計画が今話している本物の極限の形態だと思うのよ」

「他人との境がない状態ってやつですっけ」

 

 ひねり出すように八幡はいう。

 

「そうそう。ATフィールド、絶対恐怖領域。私達が完全に理解し合うことができない原因よ。私達は個を持っている。思考回路も感じ方も何もかも違う。それは本人にしかわからないし、本人さえも説明できないことがほとんど。そこに踏み込まれるのも踏み込むのも恐ろしい。そのせいで互いに傷つけ合う。だから皆が境界を引く。じゃあどうすれば理解し合えるのってなったときに…」

 

 陽乃の言葉に八幡が続けた。

 

「個じゃなくなればいい。相手と混ざり合って一つになることで個だったものを完全に共有する。自分に相手を組み込んで、自分も相手に組み込まれる。誰も傷つかないし傷つくこともない。でもそれじゃ自分なんてなくなってしまうじゃないですか」

「そうね。だから私達は互いに傷つけ合うしかないのよ。その度に生まれる距離を頑張って縮めていくしかない。その繰り返しの先にきっと本物はある」

 

 少しの沈黙のあと陽乃は切り出す。

 

「ではここからが本題です」

「え、今のが本題じゃ」

「今までは全部前置き。本題は、君が奉仕部でそれを手に入れられるかどうかよ」

「それは…」

 

 八幡は言葉がでない。そんな八幡に陽乃は告げる。

 

「私は正直かなり難しい事だと思うわ。理由は男女で複数人だからよ」

「……」

 

 八幡はまだ口を開けない。

 

「一番のネックはガハマちゃんが君を好きだと言うことよ。これが君とガハマちゃんだけの話だったら問題はない。けど現実は雪乃ちゃんがいる。雪乃ちゃんが君に恋愛感情を抱いているかは定かじゃないけど、もし三角関係になったら可能性が格段に落ちる」

 

 陽乃は更に続ける。

 

「もしそうなったときに二人が関係を続けるために気持ちを殺してしまったらもうそれはゲームオーバーよ。だから君には絶対にどちらかを選ぶか、もしくはどちらも選ばないか決断しなくちゃいけないときが来る。まあこれは雪乃ちゃんが君を好きな場合だけど」

「違う場合は?」

「それでも君次第かな。結局言いたいのは恋愛感情を見ないふりはできないってこと。君が本物を彼女達に求める限りそれは絶対に必要なんだよ」

 

 八幡は難しい顔をしたままだ。

 

「では、そんな君にお姉さんがアドバイスをしてあげよう」

「アドバイスですか」

「うん。ちゃんと自分で答えを出すことだよ、妥協とかじゃなくて、自分でこれだって思える答えを出すこと。それで二人のどちらかが傷つき、もしくは両方が傷つき、そして君が傷ついたとしてもね。その傷はすぐには癒えなくても時間がきっと治してくれる。で、最後に諦めない、できてしまった距離をなくす努力し続けること。じゃ、頑張りたまえ青少年」

 

 陽乃はそう締め括って席をたち去っていく。

 

「ありがとうございます」

 

 八幡はそう言って頭を下げた。

 

 





 シリーズの方よろしくです。

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