カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼   作:サバ缶みそ味

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 『007スペクター』を見て再び007熱が燃え上がり(?)007シリーズを鑑賞中。
 ロシアより愛をこめてとかサンダーポール作戦とか好き(コナミ感
 ボンドガールはワールド・イズ・ノットイナフのソフィーマルソーがお好き(異論は認める)


78話

 仄かに照らされる街灯の明かりすらもかすんで見えてしまう濃霧の夜。人通りには誰一人もおらず、霧のせいでよりいっそう静観としたイーストエンド・オブ・ロンドンのストリートをひたひたと歩く人影が一つ。黒いローブを羽織り、黒の軍服姿のカツェが辺りを警戒しながら歩いていた。

 

「‥‥なあ、一つ聞いていいか?」

 

 カツェは少し歩いて振り向く。半ば呆れ気味にその先を見つめた。

 

「なんでぞろぞろとついて来てるんだよ…」

 

 カツェは自分の後ろからついて来ているカズキ、タクト、ケイスケ、ナオトへと視線を向けた。

 

「やっぱ大所帯の方が心強いじゃん?」

「カツェ、これが俺達の最強フォーメーションなんだぜ!」

「お前、ナオトはすぐに道迷うんだぞ?誰かがついてやんねえと」

「道に迷いかけた」

 

「お前等…メヌエットの指示を全く聞いてなかったのかよ…」

 

 彼らは本当に人の話を聞いてもいないし聞いても覚えてすらいない。恐らく彼らの様子を見ているメヌエットは今頃また胃を痛めているのかもしれないとカツェは肩を竦める。

 

「この辺りは余は臭くてかなわんし、薄汚れるから歩きたくは無かったのだが…アリアの為ならば余は構わんぞ!」

「…ん?おい、ちょっと待て…」

 

 どこか高飛車な野郎な声が聞こえたと思いカツェはよく目を凝らしてみると、カズキ達の後ろからちゃっかりハワード王子がついて来ていた。

 

「王子、汚れた仕事もかっこよくこなせばアリアは惚れてまいますぜ!」

「そうかそうか!カズキよ、それでアリアは余への好感度がアップするのだな?」

 

「イヤイヤイヤ!?なんで王子ついてきてんの!?」

「ほら、チームに王子がなんかかっこいいかなーって。水戸黄門みたいでさ!」

「原因お前か!?」

 

 カツェはタクトの頭をスパーンと叩く。王子の身に何かあったら一大事だし、メヌエットもMI6などの諜報員達もハラハラドキドキで胃を痛めているのは間違いないとカツェは確信した。

 

___

 

 時間は6時間前に遡る。一度時計塔で凛やアリア達と別れたメヌエット達は再び自宅に戻ってこれからやる切り裂きジャック探しの支度に取り掛かっていた。

 

「いいですか?この濃霧に起きている切り裂きジャックの事件は過去の事件と共通点があります」

「凄くヤバイ」

「…たっくん、すぐに人の話に割り込まない」

 

 メヌエットがこれから話そうとしているのにタクトはナオトが作ったシュークリームを頬張りながら口を挟む。セーラがいつものようにタクトにツッコミをいれ、出鼻をくじかれたメヌエットはずっこけそうになる。メヌエットは咳払いをしてから仕切り直す。

 

「事件が起こるのはイーストエンドかホワイトチャペルで霧の濃い深夜。そして被害者は女性という事です」

「霧の濃い深夜で被害者は女性ってか…つまりどゆこと?」

「だからさっき言ってたじゃねえか」

 

 カズキとケイスケのやり取りを聞かなかったことにしてメヌエットは話を続ける。

 

「そこで、貴方達は濃霧の深夜にイーストエンド、ホワイトチャペルへ見回りを言ってもらいますわ」

「被害者が女性なら…カツェかセーラが先頭に?」

 

 ナオトの問いにやっと真面目な質問が来たと待ちかねたようにすぐに頷く。

 

「ええ。お二方は異能者でもありますし、彼女たちの後ろから貴方達がいつでも戦えるよう待ちかまえます。もし、切り裂きジャックが彼女達の前に現れたのなら一斉に飛び掛り捕えるのです」

「いや、ちょ、俺達でやるのかよ!?」

 

 相手は模倣犯の通り魔か、もしくは本当に本物の切り裂きジャックかまたはた亡霊か、未知の相手をすることにケイスケは焦るが、そんなケイスケを見てメヌエットは愉悦の笑みをこぼす。

 

「勿論、やってもらいますわ。貴方達の戦い、彼女達からは高評価のようですので」

「…絶対に何かやらかすと思う」

「今回は装甲車はねえから安心だ…」

 

 おそらく彼らをやる気にさせるための口上だと思うが、あの騒がしい4人のハチャメチャな戦い方を見て来たセーラとカツェは遠い目をしていた。

 

「深夜になる前にイーストエンド、ホワイトチャペルへと二手に分かれて動いてもらいますわ」

「うむ…で、余は何方へ行けばいいのだ?」

「…えっ?」

 

 メヌエットはちゃっかり紛れ込んでいたハワード王子の方へギョッとする。まさか王子は本当にこの捜査に乗りかかるつもりなのか。

 

「いえ、これは危険ですし、ハワード殿下は見ているだけの方が…」

「何を言うか。余が活躍すればアリアの株が上がるとこやつらが言っておったぞ」

 

 本当に何という事をしてくれたのでしょう。メヌエットは状況を理解しておらずドヤ顔をする馬鹿4人の方をキッと睨んだ。彼らに難題をふっかけるつもりが彼らが爆弾を抱え込んできた。心なしか胃がキリキリいいだした感じになりそうになりながらもそれを抑えながらメヌエットは一度咳払いをする。

 

「と、兎に角。これは危険ですので。ハワード殿下は彼らの応援だけでよろしいのです」

「むぅ…確かに余に何かあったら一大事だな。ここはお前達に任せry」

 

「キンジなら火中の栗を拾う勢いで立場や危険を顧みずに乗りかかるもんなー」

「だからキンジはリア充だもん。爆発すればいいのに」

「それでげへへーっていうし」

「モテル」

 

「余は負けておられん‼余も出るぞ!」

「殿下、やめたほうがいいです」

 

 うまいようにカズキ達に言いくるめられてしまっていた。サイオンに諌められようともハワード王子は聞く耳を持たず、やる気満々になっていた。

 

「お願いです殿下。絶対に、ぜっっったいに彼らについて行かないでくださいね!?」

 

___

 

 全力でフラグが立つ台詞を言ったメヌエットの説得も虚しく、ハワード王子はカズキ達について来てしまった。

 

「というかお前達、二手に分かれていくはずじゃなかったのかよ」

 

 本来ならばカツェと一緒に行動するのはカズキとケイスケのはずだったのにちゃっかりホワイトチャペルへと向かうはずのナオトとタクトがついて来ていた。

 

「え?俺とたっくんはイーストエンドじゃなかったの?」

「いやナオトがケイスケとホワイトチャペルだったんじゃね?」

「お前等覚えとけよ。俺とたっくんがイーストエンドだろ」

「俺、東アジアね‼」

 

「本当に人の話を聞いてなかったよこいつら!?」

 

 言う事がバラバラだし、聞いたこともバラバラ。アリアが言っていたとおり、上が『左』と指示を出すと4人とも人の話を聞かずにバラバラに行動する。統率がきかない連中を抑え込むのは至極至難の業である。よく4人でまとまって動けるのかと疑問に思えてくる。

 

「一応、あたしが囮なんだけどお前等ちゃんとすぐに戦える準備はできているのか?」

 

 カツェは心配気味に尋ねると4人はそれぞれの銃器を見せる。しかし、4人のど真ん中に突っ立っているハワード王子はキョトンとする。

 

「何を言っている。お前達が余の武器だ!」

「王子ぃぃぃっ!?」

 

 素なのか、それともこの4人の影響なのか、本当に大丈夫なのかと不安になってきた。もし何かあったら速攻でドイツへ逃げ込もうとカツェは内心で決めた。

 

 その時周りの霧が一層に濃くなり、ぞくりと背筋に寒気を感じる気配がした。カツェはすぐさま懐中時計を取り出し確認をする。時計の針は長針短針とも12時をさしていた。

 

「霧の深夜か…お前等距離を取れ」

 

 カツェはカズキ達に少し距離を取って離れるように指示を出す。これまでの被害者の女性は真夜中を独りでこの道を歩いていて襲われた。ならば同じような状況でいけば切り裂きジャックは現れるのではないか、少々ゴリ押しではあるがこれで霧の事件の突破口となるならばいいだろう。

 

 先程まで静観としていた霧に包まれた道がまるで誰かにじっと見られているような、不気味な雰囲気へと変貌したことにカツェは緊張を押し殺しながら慎重に歩き出す。カツェの懐には水の入ったウィスキーボトルを入れており、もしもの時には能力を使うつもりであった。

 

 進みながら警戒しつつ、後ろでカズキ達はちゃんとついて来ているのかとふと気にかけていた時、視線の先で何かが揺らいだ。黒くて小さくて見えにくかったが確かに何かが動いていた。目を凝らしても何もいないので気のせいかと安堵した。

 

 

 

 

「‥‥ねえ」

 

 

 

 その刹那、物凄い悪寒と殺気がぞくりと体を駆け巡った。カツェはピタリと止まって、恐る恐る目で真横を見た。自分のすぐ横に、頭を隠せるほどのボロボロの黒いローブを羽織った自分よりも小柄の人物がいた。気配を探れることなく、すぐ傍に現れた事にカツェは戦慄する。よく見るとその人物の手には刃が大きなナイフが握られていた。間違いなく、この人物が切り裂きジャックだということを確信した。

 

 カツェはぞくりとする恐怖と混乱に堪えながら考えだす。直ぐに水の能力を使って離れるか戦うか、懐にかくしてあるワルサーP99を引き抜いて撃つか。けれどもここまで近づかれたことに気付けなかったこと、近づいた相手を咄嗟に反撃できる隙があるのか悩みだす。後ろにはカズキ達がいるはずだが、彼らがこの状況に動けるかどうかすら怪しい。色々と必死に考えを張り巡らしているカツェにその人物は気にもせずに話しかけて来た。

 

「‥‥あなたは、わたしたちのおかあさん?」

 

 問われたことにカツェは更に混乱する。こいつは何を言っているんだ。その言葉に何の意味があるのかとさらに焦っていく。しかもナイフを突きつけてきだしたので増々厄介になる。違うと言っても襲い掛かってくるだろうし、そうだと言っても間違いなく襲い掛かってくるだろう。カツェは差し違える覚悟を決めてウィスキーボトルを取り出す。このまま水の能力を使って反撃に移ろうとした。

 

 

「レッドマウンテンブラストーッ‼」

「うらーっ‼」

 

 そんなカツェの考えを漁っての方向へ投げ飛ばす勢いで霧の中からタクトとカズキが飛び出して来た。突然の子ことで黒ローブの人物はビクリとしてカツェから離れた。

 

「あなたがおかあさん?」

「いや!俺は母ちゃんじゃない。母の味の再現率で定評のある漆黒のシングルマザー的な存在、菊池タクトだぜ!」

「???」

 

 一体彼は何を言っているのか、ドヤ顔で自己紹介しだしたタクトに対してその人物は頭にハテナを浮かばせて首を傾げていた。それでも尚、両手にナイフを持って身構えている。

 

「じゃあおかあさんじゃないの?」

「いや、母さんならあいつ」

「俺的にはあいつがぴったりだぜ!」

 

 カズキとタクトは後ろの方へ指をさす。その先には今の状況に目を丸くしていたハワード王子がいた。

 

「…えっ?余の事?」

「いやお前らなにしてんのぉぉぉっ!?」

 

 矛先をハワード王子に向けたことにカツェは焦りだす。彼女の考えた通り、黒のローブの人物は疾風の如くハワード王子へと駆けだした。目にもとまらぬ速さにカツェは驚愕しすぐにナオトとケイスケの方へ叫んだ。

 

「気を付けろ‼そっち行ったぞ‼」

 

 ハワード王子にむけて刃渡りがでかいナイフが振りかざした寸前、ハワード王子の前にでたナオトが咄嗟にジャックナイフを取り出して凶刃を防いだ。

 

「…‼びっくりした…」

「おらあっ‼」

「確保だーっ‼」

 

 ナオトの驚いた瞬間に取り出したビックリナイフで防いでいる間にケイスケとタクトが飛び掛った。しかし黒のローブの人物はひらりと身をかわし、二人はナオトにダイレクトアタックしてしまった。

 

「いってえ!?たっくん、ケイスケ何してんだ‼」

「わたしたちはおかあさんにあいたいの。じゃましないで」

 

「させるかよっ‼」

 

 ハワード王子に近づこうとする黒いローブの人物に向けてカツェはウィスキーボトルの蓋を開け、流れた水で弾幕を飛ばす。相手は弾幕を躱したり、ナイフで斬ったりと素早く動いていく。中々当たらない事にカツェは苛立たずにしっかりと相手の隙を伺っていた。

 

「カズキ、今だ‼」

「おけーい‼」

 

 自分の傍でSR-25を構えて狙いを定めていたカズキに合図を出し、カズキは引き金を引いてSR-25を撃った。空を掛ける弾丸が水の弾幕の間を通り抜け黒のローブの人物へと迫る。黒のローブの人物は飛んできた弾丸に気付き、スレスレを躱した。弾丸は頭のフードを掠め、ハラリと外れた。

 

「なっ…!?」

 

 露わになった相手の顔を見たカツェとハワード王子は驚愕した。銀色の短い髪の翡翠色の瞳をした女の子だった。幼い見た目だが、顔には傷跡が付いていた。

 

「そうまでして邪魔をするの…だったら貴方達から解体する!」

 

 少女はキッと睨み付け、カズキの方へと勢いよく迫った。カズキはすぐさまSR-25を撃つがそれすらも身軽に避けて迫ってくる。カズキへナイフの刃が迫る寸前にナオトが蹴り上げる。

 

「ナオト、ナイス‼フォローは俺に任せろー‼」

「うおおおっ‼レッツトライ!」

 

 せっかくナオトが防いでくれたのに今度はカズキとタクトが少女に飛び掛り、案の定少女はひらりと躱し、またしてもナオトが二人のダイレクトアタックの餌食となった。

 

「なんですぐに飛び掛るんだよ!?小学校のサッカーか!」

「たっくん、武器を使えよ!持ち腐れか!」

「だからお前等わちゃわちゃするな!」

 

 敵前でギャーギャーと騒ぎだす4人に少女はどうしたらいいのかと戸惑っていた。やはり彼らが騒いでる隙にとターゲットを再びハワード王子に向け、迫った。

 

「‼サイオンっ!」

「…御意」

 

 ハワード王子がサイオンに呼びかけると、ずっと気配を消してハワード王子の護衛をしていたサイオンが勢いよく飛び出し、少女の腕を掴んで強く握りしめ持っていたナイフを落とさせる。

 

「…っ‼」

 

 痛みに耐えながら睨み付けている少女にサイオンは冷静に冷徹に見つめる。

 

「すまないな、これも任務だ。殿下の命を狙うのならばたとえ女とて加減はせんぞ」

 

 サイオンは強く拳を握って鳩尾へと拳を放った。鳩尾を抑えながらへたりと座り込み、痛みに涙目になりながらも耐えようとしていた。

 

「か、確保ーっ‼」

「…三度目の正直」

 

 相手が逃げ出さないようにとタクトとナオトが飛び掛り、やっとのことで捕えることができた。カツェは想像以上の実力を持っていたサイオンに驚きを隠せなかった。

 

「流石は007、か…出来れば相手にしたくねえぜ」

「見事だったぞサイオン!流石は余の伝家の宝刀よ!」

 

 自分の手柄のように胸を張っているハワード王子にサイオンは軽く笑って一礼する。一応これで切り裂きジャックらしき人物を捕え、霧の通り魔事件を終止符が打てるはずであるが、彼女が一体何者なのか何のためにこの事件を起こしたのか調べなくてはならない。一度メヌエットとセーラに報告をしておくかとカツェは考え込む。

 

「…二人とも、そのまま逃がさないようにしてくれ」

 

 サイオンはナオトとタクトに声を掛け、少女に近づくと懐からグロッグ18Cを取り出して銃口を少女に向けた。流石のサイオンの行動にはカズキ達も驚愕していた。

 

「さ、サイオン!?」

「止めるな。こいつは殿下の命を狙ったのだ。私は殿下の命を守る者、殿下の命を狙うのならばいなる相手も容赦なく仕留める」

 

 00セレクションのエージェントは任務で相手を殺しても罪に問われないマーダー・ライセンスを持っている。それでも尚タクト達はサイオンを止めようとした。

 

「いくら何でもそいつはダメだろ!」

「マーダー・ライセンスを持ってもマーダーだめ!」

「カズキ、クソギャグ言ってる場合じゃねえだろ」

「ならばどうするのだ?このまま殺さずに捕えてもこいつは間違いなく人に刃を向けるぞ?」

 

 サイオンの言う事にも一理あるが、相手は幼い少女。本当にこのままサイオンの言うとおりにしてはいけないとカズキ達は目で訴える。どうすべきか考えていたタクトは何か閃いたのか、ポンと手を叩く。

 

「そうだ!ハワード王子‼」

「ん?よ、余に何か用か?」

 

 何を考えたのかハワード王子は身構えるがタクトはそのまま耳打ちしてヒソヒソと話した。タクトの考えを聞いたハワード王子はギョッとする。

 

「なっ…!?余にそれをやれと言うのか!?」

「これを止めるのはハワード王子しかいないって‼できたらかっこいいぜぇ?」

「む、むぅ…」

 

 ハワード王子は躊躇いつつも、少女の方に視線を向ける。少女は未だに痛みに耐えながら涙目でハワード王子を見つめた。

 

「お、おかあさん…いたいの、いたいのいやだよぉ…」

「‥‥」

 

 少女の涙を見てハワード王子は何か決心がついたのか、少女に歩み寄った。サイオンがすぐさま近づこうとしたがハワード王子は手で止めた。

 

「…お前に問うぞ。お前は切り裂きジャックか?」

「う、うん…わたしたちはジャック。ジャック・ザ・リッパー」

 

 やはり彼女で間違いなかった。しかし、この少女が本当に過去の切り裂きジャックと関連しているのかは未だに分からない。ハワード王子はそのままジャックに問い続けた。

 

「では、なぜこんな事をしたのだ?」

「こんな事?おかあさん探し?霧の夜に女性を斬ればおかあさんに会えるっておかあさんが言ってた」

 

 彼女の言うおかあさんとはハワード王子の事ではないのは分かっているが、誰かがこの少女に過去の切り裂きジャックの事件と同じように事件を起こす様に指示を出していたという事が分かった。

 

「それはいかん…そんな事をしてもお前の母には会えんぞ」

「ええっ!?おかあさんに会えないの…?」

 

 ジャックはポロポロと涙を流し、泣きだした。ずっと純粋に信じ続けていたのだろう。そんなジャックにハワード王子は少しどもりながらも話しかけた。

 

「だ、だから…もう通り魔事件を起こさないのなら…よ、余が…余がお前のおかあさんとやらになってやろう‼ええい、というか余についてこい‼」

 

「え…ほんと‼おかーさーん‼」

 

 先程の涙が嘘のように晴れ、ジャックは大喜びでハワード王子に抱き着いた。潔癖症なのか薄汚れたローブを着ているジャックに嫌々と離れさせようとする。

 

「よ、余に抱き着くな!って、お前下はどうした!?下着だけではないか!?薄汚れるから抱き着くなー‼」

「で、殿下。この者の始末は…」

 

「サイオン、そんな事はもういい‼こんな所で余の前で死体を見せるような真似をするな!こ、こらいい加減抱き着くな!ええい、このままメヌエット女史に知らせ、時計塔へゆくぞ‼」

 

 ハワード王子はやけくそ気味に荒ぶりながら向かいだす。サイオンはあんぐりとしていたがタクトの方へ視線を向けた。

 

「…殿下を説得させ、私を止めたのか」

 

 英国王子の命令ならば例え007とて従わなければならない。これなら彼女は殺されずにすむ。彼らの行動には自分の予想とは違うとサイオンは苦笑いした。

 

「…正直な所、殿下の前で死人を出すのは躊躇っていたところだった。しかも相手は幼子…タクト、少しながらもお前には感謝する」

 

 そう言ってくれたサイオンに対してタクトはケロッとした表情をしていた。

 

「ん?ハワード王子にお前がママになるんだよ‼って言っただけだど?」

「」

 

 それを聞いたサイオンは再び目を丸くして口をあんぐりと開けた。自分の予想を上回るどころか遥か斜め下をいく彼らに頭を抱える。というよりも王子になんてことを言ったんだと呆れることしかできなかった。サイオンの気持ちを代表してカツェの鉄拳がタクトへと飛んだ。

 

「お前何してくれてんだぁぁぁっ!?」

「あ゛ええぇぇっ‼」

 

 

____

 

 

 

「‥‥傲りましたね、ブラックウッド卿」

 

 

 軍服の様な黒のロングコートを着た、薄茶色の長い髪をした女性、伊藤マキリは濃霧の中で深くため息をついた。

 

「切り裂きジャックに単純な指示だけをして、そのまま放置するなんて…嗅ぎ付けられるとは思っていなかったのですか?」

 

 もしあの子が全てを話し、彼らが一つ一つ事件を紐解いていくと必ず自分達の下へと辿り着いてしまうだろう。ましてや【極限宝具・エクリプス】の在処まで突き止められ、この計画は完膚なきまで潰されるだろう。

 

「いや、これでいいのだよ。次の段階へ移れる」

 

 霧の中からゆらりと同じような軍服の様な黒いコートを着た、オールバックの男性、ブラックウッドが伊藤マキリの隣に立つ。

 

「奴等はこのままおびき寄せられ、自ら落とし穴へと落ちていく。そうすれば私の願望は叶うのだ」

「‥‥それよりも()()()()を使うおつもりで?」

 

「ああ。彼らも私も同じ目的だったから馬が合った。彼らもそろそろ動くころだろう‥‥その時はお前も手伝ってもらうぞ、伊藤マキリ」





こちらの型月スペックは色々とどの英霊も、魔術もずば抜けてヤバイ能力ばかりなので、かなり控えめにしております…

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