カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼ 作:サバ缶みそ味
撫でてたらボクサーの前脚がボディーブローをするかのように直撃。威力は本当にボクサー…シャレにならんです…大型犬の脚力はすごい。
金色の魔狼となったリサはブラドへと襲いかかった。獣の吠え声と共に鋭い爪を、牙を振るう。ブラドの身体を切り裂き、食いちぎる様に噛みつく。ブラドは怒り任せに金狼の前脚を、口吻を掴み投げ飛ばす。空中でくるりと身を翻して着地をした。ブラドを睨む翡翠色の瞳は全てに敵意を向けた恐ろしい獣そのものだった。タクトは目の前の金狼の姿を見て驚愕し口をこぼす。
「リサが狼だったなんて…」
カズキ達はただ呆然と立ち尽くしていた。吸血鬼と秂狼の対決といった空想上の出来事がいま目の前に起きている、自分たちが踏み入れる隙がないと感じて動けないでいたのだった。
「こ、怖すぎて割入ることができないな…」
「というよりあのゴリライモを倒せることができるんじゃ…?」
カズキとタクトはどうしたいいかあたふたとしだす。吸血鬼と互角に戦える『ジェヴォーダンの獣』なら勝てるかもしれない、その話を聞いていたタクトは吸血鬼と秂狼の戦いを見ながらナオトの方を見る。黙ったまま見ていたナオトだったがすぐさまAK47のリロードをした。
「だめだ‥ブラドの回復が早い」
ナオトはすぐにでも割入ろうと隙を伺っていること、ナオトの即答にカズキとタクトは驚きリサとブラドの戦いをまじまじと見る。金狼の牙や爪の攻撃で確かにブラドの体に傷をつけているのだが引っ掻き傷も噛まれた傷も、嚙み千切られてもすぐに再生をする。
一方のリサの方は掴まれ、投げられ、叩かれ、切り裂かれてもすぐに体勢を立て直して飛び掛っている。しかし、傷の回復はできているがブラド程の早さは無く、金色の毛並みに赤い血が付着しており、勢いも徐々に弱くなっていた。
「魔臓をどうにかしないとダメだ。このままだと…リサが死ぬ」
「死ぬって…どうするんだよ!?」
ナオトの観察にカズキは怒り叫ぶ。入る隙が無くて立ち尽している自分たちの無力さに苛立っていた。このまま見殺しにしてたまるか、とどうにかしたかったのだ。するとタクトが真剣な眼差しでカズキとナオトを見る。
「リサを止める!」
「止めるって…できるのか!?」
カズキは心配そうにする。金色の魔狼となったリサは敵も味方も関係なしに襲い掛かる。タクトが近づいても襲い掛かって噛み殺されるのではないか。そんな心配するカズキにタクトはむっとして怒鳴る。
「俺達はソウルメイトだろ!?やんなきゃいけないだろ‼」
ソウルメイト、宇宙ヤバイほどのサイキョーの絆。カズキ達のおかげでリサは少しずつ生き方を変えようとしている。自分達は彼女を助け、支えているのに自分達だけ逃げるわけにはいかない。タクトはそうカズキに言い寄る。
「たっくん…くさいけど、やるしかねえな!」
くさい台詞だけど、今は仲間を助けるのが優先だとカズキはニッと笑う。
「犬畜生の分際で…この俺に勝てると思っていたのか!」
獣の分際で貶され傷をつけられたブラドは怒り、金狼の爪を避けて脚と口吻を掴み首へと牙を立てた。強く唸り恐れをしないで猛る金狼から悲痛の吠え声が響く。怯んだところを地面へ叩き付け強く蹴とばす。よろよろと立ち上がり睨む金狼にブラドは舌なめずりしながら低く笑う。
「ぐははは…金狼の血、頂こうじゃねえか」
吸血鬼は優れた遺伝子を持つ人間を吸血し、自分の遺伝子を上書きして進化していく。『ジェヴォーダンの獣』といった強力な生物の血を吸えばより強力な吸血鬼へと進化できる。ゆっくりと弱っているリサへ近づく。
「おい…そこの脳筋ゴリラ野郎…」
ふと声を掛けられたのでブラドはジロリと後ろへ振り向く。そこには先ほどぶっとばされたケイスケが立っており、般若のお面をつけて表情が見えなかったがかなり怒っている様子だった。無力な人間如きが、また無駄弾をするかとブラドはあざ笑ってやろうとしていた。しかしそんなことは言わせないかのようにケイスケは怒号を飛ばす。
「倍返しじゃボケエエっ‼」
ケイスケはM60機関銃をブラドに向けて乱射した。こっそりとC地点に自力で向かい、用意しておいたM60を取っていたのだった。作戦C、トリップマインや銀の十字架を含めた爆弾がダメだったら機関銃で一斉掃射。ケイスケの怒りが具現したかのように機関銃は火を吹く。
「おい‼リサをなんとかすんならさっさとしろ!」
ケイスケは呆然としているタクト達にも怒声を飛ばす。3人は頷いてすぐに動いた。カズキはM60を取ってケイスケと共にブラドを足止めし、ナオトとタクトでリサを止めに入った。
「リサ…大丈夫?」
タクトは恐る恐るリサへ近づく。しかし、牙を剥き出し、敵意に丸出しで唸り威嚇する。タクトは一瞬ビクッと震えたがそれでもゆっくりと近づいて行った。
「怖がらなくていいだぜ…?俺達が助けてやるからな」
タクトはゆっくりとリサへ左手を優しく近づける。唸り続けたリサは牙を剥きだし左腕ごとがぶりと噛みついた。左腕に激痛が走る。
「い゛え゛あ゛っ!?」
「たっくんっ!?」
タクトの奇声、悲鳴を聞いたナオトは咄嗟にAK47を向けた。しかしタクトは撃つなと首を振って、激痛に我慢しながらもニッと笑う。
「はは…いいコミュニケーションだぜリサ…よーしよしよしよしよしよし!」
タクトは痛みに耐えながら右手でムツゴロウさんが動物をあやすようにリサの頭を、金色の毛並みを物凄く撫で始めた。
「逃げろだなんて言うなよ。俺達一緒にやってきたソウルメイトじゃないか!ソウルメイトは絶対に見捨てないぞ‼」
タクトは顔も近づけ撫で続けた。今にもタクトの左腕が食い千切られるかと思われたその時、唸り声が止みリサは力を緩めた。タクトははっとしてリサを見る。敵意が消え、いつものような優しい翡翠色の瞳でリサはタクトを見つめていた。ゆっくりとタクトの左腕を口から離し、舌で優しく舐めた。一部始終を見ていたナオトは驚いていた。まるで奇跡か偶然だと、意外とすごいタクトの力に驚きで何も言えなかった。
「たっくん…すっげえ」
「どーだ‼この俺が第二のムツゴロウと言われたかったアニマルムツゴロウマスター、菊池タクトだー‼」
タクトはドヤ顔をして叫ぶ。リサはタクトの襟を咥えてひょいと持ち上げタクトを自分の背中に乗せた。つやつやでふかふかな美しい金色の毛並みに触れてタクトはさらにテンションをあげた。
「いよーし、行くぞリサ‼一緒に倒すぞー‼」
「ずるいぞたっくん‼俺も乗せろ!」
リサに乗って駆けるタクトを追うようにナオトは走った。一方、カズキとケイスケはM60を撃ち続けブラドを足止めしていた。肉片が飛び、ハチの巣になろうともブラドは倒れることは無かった。減りつつある弾数に二人は焦る。
「くそっ‼まだ倒れねえのかよ‼」
「ケイスケ、諦めるな。撃ちまくれー‼」
弾切れしたら間違いなく殺しにかかって来る。それでもどうにかしなければならない、二人は必死に撃ちまくった。ふと後ろからタクトの叫び声が聞こえてきた。振り向けばリサに乗ったドヤ顔のタクトが駆けてきた。その後ろにちゃっかりナオトが追いかけている。
「カズキ、ケイスケ‼お待たせ‼」
「おおっ!?たっくん、なんかもののけ姫みてえ‼いやもののけ野郎か!」
「やるじゃんたっくん!」
カズキとケイスケもタクトの活躍に喜んだ。ブラドは凶暴な『ジェヴォーダンの獣』が自我を取り戻し、彼らのいう事を聞いていることに驚愕していた。
「たとえ犬畜生を手懐けたとしてもこの俺を倒すことはできん‼」
「…次、作戦D。いくぞ」
ナオトはカズキ達に呼びかけ、カズキ達は頷きにやりと笑う。まだ作戦があるのかとブラドは呆れ、低く笑う。どうせ無駄撃ち、無駄弾だろうと。
「いくぞー‼作戦Dはダメ押しのD‼」
「さっさと倒れろやクソが‼」
カズキとケイスケが再びM60を撃ちだす。予想通り、無駄撃ちだとブラドはほくそ笑む。しかし、ナオトが
「ぐるおぉぉぉぉっ!?」
ブラドは突然苦しみ始めた。傷ついた身体は再生することなく血が吹きだす。苦しみ悶えるブラドにカズキとケイスケはポカンとしていたがナオトはタクトに合図する。
「たっくん、リサ、今だ‼」
「よーし、リサ行くぞ‼ゴールデンウルフマウンテンパンチだ‼」
リサが、金狼が咆哮し、ブラドめがけて勢いよく駆け、ゴールデンウルフマウンテンパンチもとい強烈な後ろ蹴りをお見舞いした。ブラドは遠くまで吹っ飛ばされ倒れて動かなくなった。
「や、やっちゃったのか…?」
勢いでヤっちゃたかとカズキは少し不安になった。ケイスケは血だまりの上で倒れているブラドに近づき脈と呼吸を調べた。
「大丈夫、気を失っただけだ。生命力はさすが化け物級だな」
これだけやっても尚、生きていることにケイスケはため息をつく。人生はじめて吸血鬼という怪物と戦ったことに、もう化け物退治はこりごりだと苦笑いをした。カズキは自分たちの勝利だと喜んだ。
「や、やったー‼」
「というかナオト、よくわかったよな」
ブラドの4つの魔臓のうち、最後の魔臓が舌だと気づいたナオトにケイスケは感心した。ナオトはパーカーとサングラスを外し疲れたかのように息をつく。
「あれだけ顔をガードしてたら嫌でもわかる。一応ヘッドショットを狙おうとしたけど」
「おおい‼一人だけ気づくとかずるいぞ‼」
「そうだぞナオトー!乗せてくれなかったからって一人だけかっこつけるなよ‼」
ナオトが気づいたおかげで勝てたのにカズキとタクトはプンスカと怒る。喚く二人をよそにケイスケはリサを撫でる。サラサラとした金色の毛並みが靡いた。そんな時、遠くから多くの車が近づいてくる音が聞こえた。もしかするとこの騒動に他の武偵達が駆けつけてきたのだろう。このまま出くわしてしまうと事情聴取も面倒だが金狼となったリサを見て更に面倒なことになり兼ねない。
「リサを見たらとんでもないことになる…!」
「よし、リサ。このまま俺達を乗せて一先ず家に逃げ込むぞ」
リサはカズキ達が乗れるように低く屈んだ。ケイスケとナオトはすぐに乗ったがカズキは残りのM60を回収して急いで駆けるがこけてしまい咄嗟に尻尾にしがみ付いた。するとリサはすくっと立ち上がって物凄い速さで駆けだした。
「ちょ、リサ!?俺も背中に乗せてくれぇぇっ!?」
あまりの速さにカズキはびびりながら必死に叫ぶ。そんなカズキにケイスケはにんまりと、ナオトは哀れむかのように見る。
「悪いなカズキ。これ3人用なんだ」
「…しっかり捕まっとけ」
「ヒャッハー‼いけいけー‼」
ビルの屋上まで跳躍し、ビルからビルへ飛び移る様に跳び、ひと気のない所では風の如く駆け我が家へと向かった。そんな彼らの戦いを、魔狼となったリサを人の心を取り戻させた彼らの一部始終をジョージ神父は遠くで見ていた。
「うむ…やはり彼らならやってくれると信じてよかった」
ジョージ神父は彼らの活躍を満足する様に、駆けつけてきた武偵達、キンジとアリアそして理子に後を任せるように去っていった。
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「納得いかねえ…」
「いちいち俺の医務室で不貞腐れるな」
ケイスケは医務室のベッドで不貞寝しているカズキを叱る。リサはそんな二人のやりとりに苦笑いしていた。がばりと布団を蹴とばしてカズキが起き上がって文句を垂らす。
「しゃあねえだろ!なんでブラドを捕まえた手柄が俺達じゃなくてアリア達になってんだよ!?」
吸血鬼で『無限罪』と呼ばれたブラドを倒したんだから俺達明日にでもSランクに昇格してるんじゃね?とカズキは楽しみにしていたが後日、武偵校掲示板や諜報科からの情報でアリア、キンジ、峰理子がブラドを逮捕し大手柄という情報を見てカズキは真っ白になっていた。
「俺達は倒しただけ。結局、逮捕したのはアリア達なんだから仕方ない」
ナオトは眠たそうに正論を言う。戦ったのは自分達で、後始末をアリア達に押し付けたのだから文句は言えない。カーテンを開けてタクトは嬉しそうにする。
「でもさ、リサちゃんも助けることができたしいいじゃん」
「み、皆様、本当にご迷惑をおかけしました」
リサは照れながらペコペコと頭を下げる。あの時の事を思い出した4人はピシッと固まる。あの後、無事に家に戻ることができたが巨躯の狼では中々入ることができなかったので地下駐車場へと入れた。
どうすれば元のリサの姿に戻るのか4人は考えているうちに金色の毛が煙のように消えて行き、元の姿に戻った。だが戻ったのはいいが頭に可愛らしい犬耳、お尻辺りにフサフサの尻尾をちょこんとつけた一糸纏わぬ姿だったので4人は物凄く慌てふためいた。ケイスケはコーヒーを一気飲みしてリサに苦笑いする。
「こ、今度は気を付けるからな」
「ケイスケ様、ナオト様、カズキ様、タクト様…皆様のおかげでリサは一歩進むことができました」
4人にリサは嬉しそうに微笑んだ。正体は巨躯の秂狼だとしてもリサを受け入れまたいつものようにいられることに4人もリサも笑いあう。ふとリサは思い出したようにはっとした。
「そうでした。皆様にお伝えしなければならないことがあるんです」
「え?どんなこと?」
「彼女は武偵高校に通学してもらいます」
突然、医務室に現れた声も姿も服装も何もかもが日本の平均的特徴の男性の声と姿に4人はぎょっとした。彼らの目の前にいるどこにでもいそうな普通の男性、彼こそが東京武偵高校の校長の緑松武尊である。
「君たちの
「ということで皆様と一緒に学んでいきます。よろしくお願いしますね」
4人は突然の事で一瞬驚いたが、もう見つからないようにこっそり連れていかなくてもいい、一緒に登校できることに喜んだ。
「よかったなリサ‼くれぐれもケイスケにこき使われないように気を付けるんだぞー」
「こき使うならてめえらだ。リサ、よろしくな」
「…リサ、おめでと」
「いやったー‼今日は祝うぞー‼校長先生、ありがとー‼」
タクトは喜んで感謝するが既にそこには校長の姿は無かった。武偵校では『見える透明人間』として恐れられている。そんなことを4人は気にせずテンションをさらに上げる。
「よーし、そうなればさっそくリサの入学祝いをしよう!」
「たっくん、ナイス判断‼それじゃあ焼肉といこうぜ‼」
「行くか。今日は授業をサボタージュして祝うぞ」
リサはもう授業をさぼる気満々の3人の行動にビックリするがすぐにくすっと笑って頷いた。
「はい!リサもお供いたしますね!」
「……」
3人はリサを連れてドタドタと医務室を出た。最後にナオトはぺこりとお辞儀をして医務室を出て行った。
「…やれやれ、本当に賑やかな生徒ですね…」
静かになった医務室の回転椅子に腰を掛けた緑松校長は4人に対して苦笑いをしていた。
カオスな4人といえばM60。そんなイメージがあります。(個人的)