カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼ 作:サバ缶みそ味
新しい時代に入りましたがどうぞよろしくお願いいたします
「はっやーい‼たっのしー‼」
「うるさいって‼いちいち叫んでないで追い払いなさいよ!?」
ユアンは後ろで喧しくはしゃいでいるタクトに苛立ちながらも原付のアクセルを握り締め速度を最大限に上げて猛スピードで車道を飛ばす。
どれくらいの距離を飛ばしているだろうか、もともと通学用に格安の中古買った原付なのだがまさかこんなことに酷使するとは思いもしなかった。本来出すことのない速度を出しているのでいつ限界が来てもおかしくない。
ユアンはいつ原付がおかしくなってもおかしくないという焦りと後ろに乗せているタクトが喧しくて募る苛立ちに挟まれながらもバックミラーで後方を確かめる。
車の間を縫うように道路を常人ではありえない速さで駆けてこちらへと追いかけている二人の男の姿が見えた。梁山泊の燕青と鉄牛がタクト達を追いかけている。
何度も接近をしてきているところをタクトがMK3手榴弾やフラッシュバンを投げて牽制をして近づけさせないの繰り返しで長いチェイスを繰り広げていた。しかし手榴弾にも限りがありタクトの手持ちは残り少ない。たとえ銃弾に切り替えても完全には追い払えない。どうにかして撒かなければ、とユアンは焦りながら考えていた。
「…って、なんで私が考えないといけないのよ⁉何かいい手はないの⁉」
「焦るようなことはないぜ!リラックスリラックスゥ~」
「今ここであんたを突き落としてやりたい!」
こんな状況でもタクトはマイペースで結構のんきしていた。話もかみ合わないし何を考えているのかも分からないユアンは原付に乗せるんじゃなかったと後悔した。隙あらば突き落として逃げてやろうかと頭によぎる。
そんなことを考えたその刹那、鉄牛が持っていた斧を投げた。斧は縦に回転しながらタクトの足へとめがけて飛んでいく。
「あぶねええっ⁉」
ぎょっとしたタクトは思わずヒョイッと足を開いて躱した。斧の刃にあたることはなかったが原付の後輪部分に見事に斧が突き刺さった。原付はバランスを崩しガタガタと揺れ始めた。
「ちょ、何でよけたのよ⁉」
「避けろとガイアが囁いたんだぜ!」
テヘペロとふざけるタクトにユアンはいら立ちをさらに募らせる。きっと遠山なら何かビックリドッキリ体術でもつかって弾き返していただろうと後悔するが今はその場合じゃない。このままバランスを崩し倒れてしまえば捕まってしまう。ユアンは意を決して原付のアクセルを強く握りスピードを上げて無理やり歩道の乗り上げた。その勢いで原付は倒れてしまうがその寸前にユアンは飛び降りて華麗に着地する。
「このまま路地裏へ逃げるわよ!」
すぐ近くにあった路地裏への入り口が見えたのでそこへ逃げ込んで撒く。一か八かとユアンは焦りながらタクトの方へと視線を向ける。が、そばには肝心のタクトの姿がいない。
「あ゛あ゛ぁぁぁっ⁉」
肝心のタクトは原付からうまく飛び降ることなく原付と一緒に倒れてゴロゴロと転がっていた。その姿を見ていたユアンは思わずずっこけてしまう。
「下手くそか⁉」
なんでうまく着地することができないのか、彼が本当に遠山と肩を並べられるほどの武偵なのか疑ってしまう。しかし今はそんなことを思っている場合ではない。タクトを無理やり起こし、彼の手を引っ張って路地裏へと逃げ込む。
追いかけてきているだろうがユアンは振り返らずタクトを引っ張って駆ける。突き進んだり途中で曲がったり迷路のように入り組んだ路地裏を只管駆け回った。
その途中で突き当りを曲がったがその先は行き止まりだった。ユアンは足を止めて後ろを振り返るが燕青と鉄牛の姿はない。追いかけてくる気配はなく聞こえるのは自分の上がった呼吸。
「うん?ここら辺がゴール?」
あと聞こえるのはムカつくほどにぴんぴんしてて他人事のように暢気にしているタクトの声だけ。イラっとしながらもユアンは彼の口を手で塞ぐ。
「このまま静かにして。追手が来ないのがはっきりするまでここで隠れるの」
「なるほど~、いわゆるデスポーン作戦ですな!」
本当に理解しているのだろうか、タクトはウキウキワクワクしているようで余計に落ち着かない。そんな心配を抱えながらもここで身を潜めて過ぎるのを待つ。何とかして気配を消そうと試みるがタクトはじっとしているのが退屈なのかその場でジャンプをしたり小声で「木が気になる」とかくだらないダジャレを言い出して落ち着きがない。これでは見つかるのも時間の問題、見つかりませんようにとユアンは必死に願った。
その時、後ろから戸が開く音が聞こえたと思うとその直後に誰かが引っ張ってきた。ユアンとタクトは驚くが動けないまま中へと引っ張られた。尻もちをついたタクトは後ろを振り向いて見上げる。すぐ後ろには縦セーターを着、茶髪の長い三つ編みをした眼鏡をかけた女性がむすっとした表情で赤い瞳でタクトを見下ろしていた。女性はむすっとした表情のままため息を軽くついて口を開く。
「まったく、外がやけに騒がしいと思ったら…ユアン、貴女だったのね」
いきなり愚痴をこぼす女性にタクトはキョトンとするがユアンは目を丸くして慌ただしく立ち上がる。
「ひ、ヒナコ先生⁉」
「誰?」
ユアンが慌ただしくしている様子からして知り合いなのだろうか、タクトはキョトンとしたまま首をかしげた。
「この人は芥ヒナコ先生。去年私の学校で文学を教えてた非常勤の先生で、あまり人と関わらない先生で有名だったんだけど詩や咏の本当の意味とか詳しく教えてくれる素敵な先生なの」
「あなたはしつこく聞いてくる生徒だったから覚えてるわ…まあ悪くはなかったけど」
ヒナコはやれやれと肩をすくめてため息をつくと再びむすっとした表情でタクトを見つめた。
「それで、なんで追われてたの?男とのトラブル?大家に追い出されて借金取りに追われてたの?」
「え、ええと…わ、悪い男に追われてて…」
どう説明すればいいかユアンは口どもるがヒナコは彼女の説明を聞くことなくそのまま戸を閉めた。
「まあ別に理由はどうでもいいわ。一夜明ければまた静かになるでしょうし、それまでいても構わないわ」
「ほ、本当ですか⁉ヒナコ先生、ありがとうございます!」
「ふー!芥川キナコ先生太っ腹ですぜ!」
「というかあってすぐにわざと人の名を間違えるこの大馬鹿は誰?」
イラっとしたのかヒナコはジロリとタクトを睨むがタクトは恐れることなくビシっとかっこいいポーズをとった。
「この俺こそ芥川龍之介と互角のバトルを繰り広げたかったキノコマスター、菊池タクトだぜ!」
「いや知らないし。ユアン、貴女この馬鹿のせいで追われてるんでしょ?追い出してもいい?」
「お、追い出したいのはやまやまなんですけど……かくかくしかじかで……」
いろいろと訳があるのだろうと察したヒナコは大きくため息をついて踵を返した。おふざけをやめないタクトを見てそこまで詳しく気が失せてしまったようだ。
「もうこれ以上は聞かないわ…変に騒がなければそれでいい」
追い出されることなく匿ってもらえたことにユアンはホッとし、変なことをしないようにとキッとタクトを睨む。しかしタクトはなんで怒られたのかも理解しておらずはてなと首を傾げた。
ヒナコの後に続いて進んでいくとこじんまりとしたタンスとちゃぶ台、絨毯とベッドだけとかなり質素な部屋についた。窓から射す街灯の明かりと仄かに照らす照明だけで部屋はやや薄暗い。ベットに視線を向けると古めかしいトランクと分厚い本が置かれており荷支度の途中だったようだ。
「ヒナコ先生…香港から出るのですか?」
ユアンが恐る恐る尋ねるとヒナコは当たり前だと言わんばかりに即頷いた。タンスから衣類を取り出し、まじまじとトランクを見つめるタクトを押しのけてトランクを開けて入れ込んだ。
「ええ、どういうわけか藍幇が内部抗争をして近頃物騒になったでしょ?私、面倒ごとに巻き込まれるのは大嫌いなの。だから香港…いえ、この国から出ていくのよ。ユアン、巻き込まれたくなかったら貴女もすぐに香港から出た方がいいわ」
もうすでに巻き込まれているのだが。ユアンはジト目でタクトを睨んだ。しかしタクトは褒められていると勘違いしててへへと照れだす。そんなタクトをほっといてユアンは首を横に振った。
「私は…出ていくことはできません。ここが私の居場所ですから……」
ここで生まれ、育った。そして遠山をはじめいろんな人に出会った。この騒がしい4人組は置いといてこの香港には思いれがある。ユアンはそう話して首を横に振るとヒナコは眉を顰める。
「何も自分を縛ることはないのよ?自分の好きなようにしてもいいじゃないの?」
それでもユアンは首を横に振った。ヒナコは目を見張ると大きくため息をついた。
「……これだから人間は……」
ぼそりと、ヒナコがそうつぶやいたのをタクトは聞こえた。声色からして怒っているようで、自分が何かやらかしたのだろうかと今になって気づいたタクトはそんな二人の間に割って入りだす。
「まあまあ、難しい話はここまでにしといてさ?ゆっくりくつろいだら?ほら、お茶とお菓子があるし?食べようぜ!」
「ここ私の部屋なんだけど。あんたは勝手にくつろぎすぎよ!あと勝手に人のお菓子を食べるな!」
人の気を知らずに暢気にちゃぶ台に置かれていた月餅を貪るタクトから取り上げようとしたその時、何かの気配を察したのかヒナコがすぐさまタクトとユアンを引っ張る。その直後、二人のそばにあった壁が勢いよく壊れた。大穴が空き埃が舞い上がる中、外の明かりに照らされながら大男が入ってきた。
「どこに隠れてやがると思えばこんなところに隠れていやがったのか。よーやく見つけたぜ」
壁に大穴開けて現れたのは鉄牛だった。鉄牛は不敵な笑みを見せてタクトとユアンに向けて斧を向けた。
「変に暴れたら容赦はしねえ。ここは大人しく俺達の言う通りにするんだな」
ついに追い込まれてしまった。ユアンは悔し紛れに鉄牛を睨んだ。今の自分には抗う術はなく、タクトは何を考えているかわからないから期待はできない。どうにかしてヒナコ先生を巻き込ませることなくここから逃げれるかと考えを張り巡らせる。ユアンが焦っている最中、ヒナコがむすっとした表情でずかずかと鉄牛に近づきだした。
「ひ、ヒナコ先生……⁉」
驚いたのはユアンだけではなく鉄牛もいきなりのことで驚いてあたふたとしだした。
「お、おい。へ、変に近づくんじゃねえって。巻き込まれたくなかったらこの場から…」
「……変に暴れてんのはあんたでしょ。勝手に人の家の壁を壊して……覚悟はできているんでしょうねぇ?」
かなり激昂しているようだ。彼女の赤い瞳には怒りが込められており、その鋭い睨みに鉄牛はたじろぐ。どうしたらいいかと焦っていたが彼女の眼を見た鉄牛はふと気づいた。
「その目……げぇっ⁉も、もしかして⁉あんたは虞の姐ry」
「歯ぁ食いしばれぇ‼」
彼女の握りしめられた怒りの拳が鉄牛の顎に見事にクリティカルヒットした。アッパーカットの形で殴られた鉄牛は勢いよく天井に突き刺さった。衝撃でパラパラと埃が落ちる中、彼女の思わぬ姿にユアンは目が点になった。
「まったく……誰に追われているのかと思えばこの大馬鹿だったのね」
「あ、えーと…は、はい…」
あやふやなままユアンは答える。天井に突き刺さってぶら下がったままの鉄牛をじっと見たヒナコはため息を大きく漏らしてジト目でタクトを見つめた。
「はあ…どうやら原因はあんたのようね。何があったか詳しく話してくれる?」
「いやー……姐さん、まさかこんなところで隠居生活していたなんてなぁ」
再び気配を感じたヒナコはすぐさま後ろへと下がって声がした方へと睨んだ。いつの間に入ってきていたのか、燕青がにこやかに手を振っていた。
「鉄牛に燕青…梁山泊の連中が何の用?私は絶対に関わらないわよ…」
「そんなこと言わずにさ?あんたがいてくれるのならこっちとしては心強いんだから」
ヒナコがギロリと燕青を睨むが、彼は臆することなく愛想振舞って近寄ってくる。
「この人と知り合いなの?」
状況を把握していないのか、タクトが月餅を食べながら燕青に尋ねた。暢気にしている場合じゃないのと勝手に人の月餅を食べるなとこの最中でどうして緊張感がないのかとヒナコは叱りたかったがなんだかごちゃごちゃしてて言えなかった。その代わり燕青が楽しそうに頷いた。
「おうとも。俺達の大先輩でもあり、今の藍幇の問題を解決してくれるかもしれない心強い味方だぜ?」
「だから言ってるでしょ。もう藍幇に関わる気はないって。ほっといて頂戴」
彼の言葉にヒナコは嫌そうに首を横に振る。ユアンはヒナコの力だけでなく梁山泊や藍幇とも関わりがあったことに驚きを隠せなかった。
「ヒナコ先生が…ヒナコ先生、貴女はいったい…」
「教えてあげよう。芥ヒナコ…本当の名は虞美人。かの覇王、項羽の妻『虞姫』さ」
燕青の言葉を聞いてユアンはさらに驚愕した。
「ヒナコ先生が…⁉ほ、本当なんですか…⁉」
ヒナコ、もとい虞美人は燕青を睨んだままユアンの質問に答えなかった。彼女が歴史上の人物だったことにユアンは驚きどう答えたらいいのかわからなかった。虞美人は殺気を放ち始め燕青を睨んだまま動かない。燕青もいつ彼女が襲ってくるかと額に汗を流して身構える。この殺伐とした空気にユアンもどうしたらいいか戸惑った。
だが、一人だけ結構暢気にしていた。
「そっかー、虞美人っていうんだ。じゃあぐっさんて呼ぶね!」
突然のタクトの発言に全員ずっこけた。虞美人はすぐさまタクトに視線を向けて睨む。
「あんた…そんな場合じゃないでしょ⁉ていうか気安くぐっさんて呼ぶな!」
「うーん?親しみを込めて?」
「だからいらないって言ってるでしょうが‼」
「というかたっくん‼空気を読みなさいよ⁉」
虞美人とユアンがぷんすかとタクトに怒るがタクトはなんでと首をかしげる。雰囲気が崩れたことに燕青はやれやれと苦笑いをして肩をすくめる。
「あんた、けっこう大物だな…こんな状況なのに流されてねえって」
「…はっ!そうだった忘れてた!」
「ようやく状況を理解したのね!遅すぎるけどこのまま黙ってry」
「虞美人って何?」
ふたたび虞美人たちはずっこけた。
FGOよりぐっさん
CVが好きな人だったのと声と姿がベストマッチだったでした。
ここのぐっさんは原作のぐっさんより人間関係マイルドです
ちょっと違う…と思ってしまうかもしれませんがすみません