カオスな4人衆!?最強のSランク武偵を目指せ‼   作:サバ缶みそ味

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 斬撃のレギンレイヴ、北欧神話を舞台にしたどこか地球防衛軍みたいなアクションゲー。剣のアクションが爽快で好きでした。地球防衛軍でのアリの大群をロケランかグレネードでぶっ飛ばすくらいの快感(コナミ感
 ただ重い


112話

DAY:2

ケイスケは待ちぼうけをくらっていた。そしてどうして自分がここで待たされなければならないのか、苛立ちを募らせていた。

 

 今自分が入る場所、そこは秋葉原の街中のど真ん中にあるメイド喫茶。きわどい丈の長さのスカートを穿いた少々色っぽい制服を着たメイドが猫撫で声で接客をしている。

 

「ったく、どうして俺がここで待たされなきゃならねえんだ…」

 

 ケイスケは愚痴をこぼしながら何杯目かのお冷を飲み干す。もしカズキかタクトがいたらメイドなんかほっといて勝手に大騒ぎをするのだが今は自分一人しかいない。

 

 理子に連れてこられ、そして何も言わずにここで置いてけぼりにされてからはや2,3時間も待たされている。ケイスケの苛立ちと怒りのオーラのせいかウェイトレスのメイドも来店客もビクビクしながらケイスケには近づこうとしなかった。

 

「もー、ケーくん怖すぎだよー。うちの子達ビビらせすぎぃ」

 

 苛立ちがピークに達する寸前、ようやく理子が戻って来た。他のメイドとは異なり白いフリルが沢山ついている赤くメイド服を着ており、彼女の後ろには理子に着せられたのか白と黒のロングスカートのメイド服を着せられたリサがついてきていた。

 キャピっとアピールする理子をケイスケは有無も言わずにアイアンクローで返事をした。いつも以上に怒り爆発寸前のオーラを出しているケイスケにリサはわたわたとする。

 

「オイ、何時まで待たせる気だったんだ?」

 

「いだだだ!?け、ケーくんアグレッシブすぎるよ!?じゅ、準備をしてたの‼」

 

「準備だぁ?」

 

 ケイスケは理子の頭を掴んでいる手を放して訝し気に見つめる。理子のいつもの嘘かと思っていたがリサが何度も頷いているのでどうやら本当らしい。

 

「で、なんの準備だ?お前の化粧か?」

「それはもう済んだって…これから民由党の鬼島の補佐、鷹山の事務所に潜入してあいつの予定表とその他データを盗みに行くの」

「‥‥はいぃ?」

 

 突然潜入して盗むとかいう話を振られてケイスケはポカンとする。しかも店中でそんなこと言っても大丈夫かと思ったがメイド達は何も反応をしていない。先ほど理子が『うちの子達』と言っていたのできっとここも彼女の活動拠点の一つなのだろう。それにしても準備とはその事かと呆れ、ジト目で理子を睨んだ。

 

「準備ぐらいなら俺も普通に連れてけよ。待ちぼうけされるよりもマシだ」

「そうしたいのもやまやまだったんだけどねー…ケーくんがつけられたらまずいし、というかリサから聞いた話だけどもホワイトハウスにアクセル踏んだまま車で突っ込むおバカを連れて行けますかねぇ?」

 

 理子はお返しと言わんばかりにため息をまじりに呆れ気味でケイスケを見つめる。正直理子はこの事を聞いて遂にやらかしたかと思った。こいつらならいつかやるんじゃないだろうかと考えていたが果たしてその予感は的中してしまった。もし彼らがキンジと同じようにアリアと本格に関わって色金の事件に巻き込まれていたら、と考えるとゾッとする。そんな理子に対し、ケイスケはケロッとしていた。

 

「あ?それはたっくんだろ」

 

 媚びないし引かないし省みないし。理子はガクリとこけそうになる。ああ言えばこう言う、ブレないケイスケに理子は気を取り直して話を進めた。

 

「ミッションは簡単、理子とケーくんは変装して潜入。そんで盗む。ね、簡単でしょ?」

「大雑把すぎんだろが、ざけんな」

「うそうそ!ジョークだから、デスソース飲まそうとしないで‼」

 

 テーブルに置いてあるデスソースの蓋を開けて理子に飲まそうとしているケイスケを慌てて止める。理子は持っていた紙袋からケイスケに変装用の服を渡す。

 

「あらかじめ鷹山の事務所に仕掛けをしたから後は潜入するだけだからさ」

「おいこれはなんだ?」

 

 ケイスケは理子から渡された服を広げる。背中に『名前を言ってはいけないネズミ』に似たキャラクターの絵が描かれている水色の作業着で、『ネズミーバスター』と書かれたロゴも張られていた。

 

「事前の仕掛けってもしや‥‥」

「ピンポーン、リサに協力してもらってネズミの大群を事務所に襲撃させたの。オプションでアライグマ数匹、カミツキガメ一匹」

「うわぁ…」

 

 ケイスケは絶句した。事務所に大量のネズミが敷き詰められていると考えるとぞっとする。それで時間がかかったのならば納得できる。

 

「要はそのネズミを駆除する業者に変装して忍び込むんだな?」

「そゆこと、でもリサってすごいよねー。口笛吹くだけであっという間にネズミの大群を呼べるんだから。手間暇かけず1時間で相手の事務所をネズミまみれにするんだから」

 

「‥‥ちょっと待て」

 

 その言葉を聞いたケイスケは真顔で理子の頭を片手で掴む。先ほどまで消えていた怒りのオーラが再び溢れかえる。いつでもアイアンクローができるようゆっくりと手の握る強さを強めていく。

 

「さっき1時間で事を済ませたと言ったよな?俺は2,3時間程待たされたのだがその間、お前は何をしてたんだ‥‥?」

「や、やだなケーくん、理子が人を待たすわけないでしょー?と、というか顔がメッチャ怖いよ…?」

「正直に言え、リサの着せ替えで遊んでいたな?」

「‥‥ちょ、ちょっとぐらい?だ、だってリサ何でも似合うry」

 

 テヘペして笑ってごまかそうとする理子に再びアイアンクローをした。ケイスケの沈黙の制裁が繰り広げられている最中、テーブルに置かれていた理子の携帯が鳴りだした。ケイスケは無言で携帯をとる。

 

「…俺だが?」

 

『あら?貴方が出たってことは理子はお仕置きされているのかしら?』

 

 電話の主はヒルダだった。というよりも今の状況をよく分かったなと感心する。

 

『まあどちらにしろ伝えておくわよ。鷹山は業者に連絡したわ、本物の業者の方は足止めしておくからその間に早く行きなさい?』

 

 どうやら車もすでに用意されているようだ。ケイスケはため息をついてアイアンクローをしている手を放す。

 

「ヒルダから連絡があった。ここで油を売る暇はねえ、さっさと済ますぞ」

「ふー…ようやくやる気になってくれたー、ケーくん運転はお願いね」

 

 理子は反省をしていないようでニシシと笑ってウィンクをする。ここで時間をかけている暇はない、ケイスケは無視して水色の作業着に着替えようとする。

 

「その前に…悪くはねえがここのメイドは色気を主張しすぎな気がするな。こう…質素ながらもお淑やかで瀟洒なものがいい。それを考えるとやっぱりリサが一番だな」

「あーうん、ケーくん?ご意見はどうもありがたいのだけど…リサ、顔真っ赤でオーバーヒートしてるよ?」

「」

 

 ケイスケにベタ褒めされてリサは顔を赤く染め、照れと恥ずかしさのあまりフルフルとしていた。しかしケイスケはその意味を理解していないようで頭にハテナを浮かばせて首を傾げながら支度をした。

 

****

 

 秋葉原から離れ千代田区永田町にある鷹山勇樹の事務所は二階建てのビルの様な建物だった。サイドに『ニコニコ☆クリーン』書かれたロゴの付いた白いバンから降りた作業員に変装しているケイスケはドヤ顔で腕を組んでいる鷹山勇樹の写真のついたデカイ看板を見上げる。こんなでかい看板があるのにどうして気付かなかったのだろうかと考えたが今は時間内に潜入することに集中した。

 ケイスケと同じように作業員に変装している理子は鷹山の秘書であろう人物に何やら見積もりの話をしている。まさかついでに金も取るんじゃないだろうかとジト目で睨む。にこやかに戻って来た理子は察したのかニシシと笑って首を横に振る。

 

「大丈夫大丈夫、お金は取らないよ。怪盗はお宝を盗むのであって現金はいりません」

「は?お前怪盗だったのか?」

「今頃ぉ!?前にリュパン4世だって言ったのにもう忘れたの!?というかもしかして真面目に聞いてなかった!?」

 

 今頃になって理子は怪盗であったことに驚くケイスケに理子はさらに驚く。しかしケイスケにとって理子が怪盗だろうがなんだろうがどうでもよかった。

 

「本物の業者が来る前にさっさと片付けるぞ」

「ま、まあケーくん達だもんね?たぶんアリアがシャーロックの曾孫娘だと言っても驚かないだろうし‥‥気を取り直して潜入するとしましょうか」

 

 ケイスケと理子はマスクをつけ、バンのトランクから台車と大きな青地のプラスチックのコンテナと青いボックスを下して事務所へと入った。

 中は案の定、ネズミの大群に占領されていた。床一面に敷き詰められるほどの大量のネズミにケイスケはギョッとして引くがここで怖気ついてしまったら先へは進めない。ケイスケはコンテナを乗せた台車を押して進んでいく。

 するとネズミ達はモーゼの十戒で割れた海の様にケイスケ達に道を開けていく。ネズミ達はケイスケの押す台車に乗せられたコンテナを見て怯えるように慌ただしく避けていく。ネズミを一匹も踏みつぶすことなくオフィスへと入ることができた。

 

「やっぱすげえよリサは。大助かりだ」

 

 ケイスケは感心しながらコンテナの蓋を開ける。コンテナの中から犬耳を生やしたリサが照れながら犬耳をピコピコと動かし尻尾を振る。動物たちの本能か百獣の王であり『ジェヴォーダンの獣』であるリサには勝てないと察している。

 

「け、ケイスケ様、私がお手伝いできるとすれば、これぐらいしか出来ません。タクト様達の様に大きなことは‥‥」

 

「いやリサが正しいからな。たっくんは‥‥もう論外だけど」

「まぁたっくん達が潜入すれば3秒でバレるか、派手に壊すか爆破するかのどっちかだもんねぇ」

 

 装甲車で突っ込んでくるわ、グレネードを投げて爆破させるわ、武偵とは思えない行動をするこの4人組を考えると妥当だと理子は苦笑いして頷く。理子とケイスケは鷹山の部屋に入ると彼の所有物であろうデスクトップパソコンの電源をつけると理子はケースからUSBを取り出してセットをする。

 

「さてと、こっから理子の本領だよ!ケーくんとリサは書類を漁っといて」

「そういえばヒルダは足止めするって言ってたが何をしてんだ?」

「ヒルダには信号をジャックして自然渋滞を点々と起こしてもらってるの。だから時間は限られてる」

 

 渋滞を起こさせてもいずれは本物の業者がやってくる。これは時間との勝負、のんびりとしている場合ではない

。理子がどれだけの速さでデータを漁って盗んでいる間、ケイスケはリサと共に引き出しを開けたり、戸棚のファイルを開いて相手の不正の証拠になりそうな物を探した。

 

 しかし出てくるものは過去のマニュフェストについての資料やら従業員の名簿、よくわからない数字の並んだ資料とあれこれ漁っても猿楽製薬に送っている裏金の不正データや民由党の不正の証拠となりそうな資料は出てこなかった。

 やはりいかがわしいものは紙にして此処には隠さず、己のパソコンに隠しているのだろう。ケイスケは理子の進み具合を確かめる。

 

「どうだ?めぼしいものはあったか?」

「うーん、しょっ引けるほどものはなさそう‥‥やっぱり鬼沢の方が良かったかなぁ。予定表も手に入れたし、一応鬼沢と猿楽製薬の誰かとメールをしてないかメールデータもごっそり盗んでおくね」

 

 理子はキーボードを素早く入力してどんどんとデータを盗んでいった。あっという間に作業を済まし「余裕」と言わんばかりにドヤ顔をする理子を無視してケイスケは何時でもここから出れる支度をする。

 

「あとはネズミ達だな‥‥リサ、頼んだ」

「はい、お任せください!」

 

 リサはフンスと張り切ると口笛を吹いた。すると彼女の口笛にビクリと反応したネズミ達は怒涛の勢いでオフィスを抜けだし、廊下を駆け、どんどんと外へと出て行った。まるでバーゲンセールに押しかける買い物客の如くの勢いだ。リサをコンテナに隠して台車に乗せて押し、ケイスケと理子は平然と出て行く。秘書との話は理子に任せてケイスケはバンにコンテナと台車をトランクへと入れ、すぐさま理子を乗せてバンのアクセルを踏み鷹山の事務所から離れて行った。

 

「一応は予定表は盗めたし成功か?」

「まあね…五分五分ってところかな?」

 

 不正の証拠は手に入らなかったが予定表は手に入った。いつ鷹山と鬼沢が猿楽製薬に接触するか確認はできる。後はそこから証拠が手に入ることを願う。

 

「どうやら鷹山と鬼沢は明後日に猿楽製薬の社長、木村雅貴と会うみたい。場所と時間も決まってる」

「また変装して潜入すんのか、面倒くせえな‥‥」

「そんなことよりケーくん。理子にご褒美とかないの?ナデナデしてくれてもいいんだよぉ?」

 

「は?寝言は寝て言え」

「あだっ!?ちょ、ケーくん厳しすぎぃ‼これじゃあキーくんの方が断然マシだよぉ!」

 

 ゲンコツし終えたケイスケは面倒くさそうにため息をついた。

 

__

 

「‥‥たっくん、何やってんの?」

 

 セーラはジト目でタクトを睨んでいた。結局拠点地になってしまった高層ビルの一室、そこは何処かのテレビスタジオのようなセッティングがされており、タクトは白いテーブルの上にご飯を炊いた炊飯器とお茶碗、卵と醤油、そしてコンパクトなミキサーのような機械を置いていた。

 

「何って、宣伝だけど?」

 

 お前は何を言っているんだと言わんばかりにタクトは不思議そうに首を傾げる。というかお前は何を言っているんだと此方が言いたい。

 

「宣伝って意味が分からないし、というかその機械は何?」

 

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた!」

 

 ドヤ顔をするタクトに聞くんじゃなかったとセーラは後悔した。そんな彼女の後悔も気にもせずタクトはそのミキサーのような小さな機械を高々と掲げる。

 

「これぞ、究極の全自動卵かけご飯製造機!」

「意味が分からないのだけど」

「これは母ちゃんが卵かけご飯作るの面倒だからと言う理由で作られた試作機、これを世に売り出せば大ヒットセラー間違いなし!」

「菊池財閥何やってんの‥‥」

「そんで動画で宣伝して全自動卵かけご飯製造機と共にイ・ウーをアピールして…」

「それだけはやめて」

 

 卵かけご飯だけならまだしも卵かけご飯とセットでこの組織を宣伝するのは本当にやめて欲しい。そもそもイ・ウーは秘密結社なのだから公に宣伝するのもやめて欲しい。

 

「まあまあ、そう言わずにこの全自動卵かけご飯製造機の実力を試してみれば分かるぜ!」

「いや何も分からないし」

 

 タクトは気にもせずに全自動卵かけご飯製造機を使い始めた。卵を自動に割り、黄身と白身を分離させ、白身を撹拌させてホイップ状にさせてホカホカのごはんにのせると醤油をかけて食べ始めた。

 

「びゃああああ美味いーっ‼やっぱり機械で作る卵かけご飯は一味違いますねぇ!」

 

「食べながら叫ばないで」

 

 変顔でご飯粒を飛ばしながら叫ぶタクトをセーラは嫌そうに睨む。そんなセーラにタクトはニッと笑って卵かけご飯を勧めた。

 

「セーラちゃんも食べて見なよ‼びゃあ美味いって言うぜ!」

「い、いや私は‥‥」

 

 断ろうとしたがタクトが頑なに勧めてくるので仕方なしにセーラも卵かけご飯を食べることにした。かつては各地で傭兵として活動していたセーラであったが実のところ卵かけご飯を食べるのは人生で初めて。恐る恐る卵かけご飯を口にした。口に含むと食べた事の無い味とまろやかさにセーラは見開く。

 

「美味しい…!」

 

 初めて食べる卵かけご飯の美味しさに思わず微笑んでしまう。その直後、パシャリとカメラのシャッター音が聞こえた。音のした方を見るとタクトがタブレットを持って写真を撮っていた。

 

「うし、これをチラシにして公表しよう」

 

 何度も写真を撮ってニッコリと笑うタクトにセーラは顔を真っ赤にすると、涙目になりタクトを追いかけた。

 

「うわあぁあぁっ‼かえせ。かえせ!」

 

 プンスカと怒りながら涙目で追いかけるセーラにタクトはにこやかに走って逃げる。

 

「ついでに母ちゃんにこの写真をお送って‥‥もう返信キタ!何々『でかした!ばあちゃんが大喜びして自分のお墓に持ってくみたい』だってさ!」

「送るな!持ってくな!」

 

 セーラは菊池一家全員に弄られてもうてんやわんや。これ以上タクトや菊池家の人間に振り回されては身が持たない。恥ずかしさとくたびれが募りだした時、タクトの携帯が鳴った。タクトは電話番号を見ると少し離れて電話をとった。もしかしたらカズキ達の誰かと連絡が取れたのかもしれない。願わくばケイスケかナオトあたりのストッパーになりそうな人が来てほしいとセーラは願った。

 

 タクトは電話をし終えて携帯をしまうと何やら楽しそうにしながらセーラに近づく。様子からして先ほどまでのふざけた雰囲気ではないと察した。

 

「セーラちゃん、さっそくお仕事の時間だぜ!出発だ!」

「―――お仕事?」

 

 突然のことでセーラはポカンとする。仕事とはどういうことなのか、というかいつの間にそんな事を承っていたのか。

 

「ようやくイ・ウーらしくなってきたな!」

 

 タクトはワクワクしながらジャケットを羽織る。イ・ウーらしいという事は誰かさんの武器を運ぶのか、それとも要人の護衛か、何かの標的の偵察か、考えた。だがタクトの事だ、何を考えているのかさっぱりわからない。そもそもイ・ウーのリーダー(仮)自ら出るのかとセーラは呆れながらついていった。

 

****

 

「‥‥たっくん、仕事って‥‥ナニコレ」

 

 セーラは頭を抱えながらジト目でタクトを睨んだ。今自分達がいる場所は桜が満開の大きな公園。花見客が賑わう中、自分達の目の前には幼稚園児が沢山いる。

 

「何って‥‥引率だけど?」

 

 セーラはずっこけた。仕事とは言っていたがやはりそんな気がしていた。あれこれと言いたい事は山ほどあるのだがタクトは構わずにこやかに答える。

 

「迷子にならないようにしっかりと護衛しなきゃ!最近は子供達を狙う犯罪もあるしね!」

「一応イ・ウーも犯罪組織なんだけど‥‥こういう仕事は武偵に任せとけばいいのに」

「お花見シーズンは忙しくて手つかずの所が多いんだ。特に園児の引率とかは引き受ける武偵は少ないし」

「だからって…というかこれ引き受けたの誰?」

「母ちゃん。今回は手助けしてくれたけど明日から自分でやれってさ」

 

 あの電話の主はどうやら菊池サラコだったようだ。彼女を通して今回の仕事を受ける形になった。呆れるセーラとは反対にタクトは張り切る。

 

「さあ行くぜ!俺についてこい!」

「たっくん、ちゃんと引率して」

 

 タクトは我先にと進み、園児達もはしゃぎながら引率の先生達についていく。引き受けたからにはやるしかないとセーラはため息をついて園児達がはぐれない様に見ながら後方からついて行った。

 途中タクトが園児たちに弄られたり、タクトが迷子になってはぐれそうになったりとほぼほぼセーラがフォローする形になった。そのおかげか迷子になる子はタクトを除いて一人も出ずに済んだ。漸くお弁当の時間で休憩をとれるようになり、セーラは楽しみながらお弁当を広げているタクトをジト目で見つめる。

 

「たっくん、なんでこの仕事を引き受けたの…」

「ん?ブロッコリーサラダは嫌いだった?」

「いや、いい‥‥」

 

 セーラはそっぽを向いてブロッコリーサラダを食べる。悔しいが美味い。どうしてこんな似合わない仕事を引き受けたのか理由を考えたが思いつかない。気づけばタクトは園児達とお弁当のおかずの交換をし合っている。こっちの気も知らず随分と楽しそうにしているなとセーラは苦笑いをした。

 

「そうだ!セーラちゃん、あれやってよ‼」

「え?あれって…?」

「こう風でぶわっと!ってする感じにさ」

 

 つまりは此処で風を起こせというようだ。セーラは渋るがタクトが某CMのチワワのような期待の眼差しでセーラを見つめてくる。やらないと駄々をこねるかもしれない上に面倒な事になるとセーラはため息をついて手を翳す。セーラの周りに風が巻き起こると桜の花びらが舞い上がり、壮大な桜吹雪が舞い上がった。その光景に園児たちは喜びの声を上げ、更には他の花見客達も歓声を上げた。

 セーラは普段はこんな事に風の力を使ってはいないのでくたびれたようにため息をつくが、タクトは彼らが喜ぶ顔を見て満足そうに頷いていた。

 

 

 花見を終え、公園の引率だけでなく幼稚園への帰り道まで護衛をするとは思いもしなかった。園長からお礼を言われ、更には帰りは園児達に盛大に見送られ半ばセーラは恥ずかしかったがタクトはやり遂げたと満足していた。

 

「‥‥たっくん、楽しそうだね」

「当たり前でしょ!ファーストミッションは大成功だぜ!」

 

 これを機にどんどんと仕事を入れるとイ・ウーのリーダー(仮)は自ら先陣して奮闘しようと張り切っていた。そんな明後日の方向で叫ぶタクトをセーラは静かに見つめる。

 

「‥‥たっくんはイ・ウーをどうしたいの?」

 

 セーラはずっと気になっていたことを尋ねた。イ・ウーはもともと超能力者集団の秘密結社だ。突然そんな組織のリーダーになることになったタクトだが、彼の母親の意思ではなく彼自身どのように考えているのか。あるいはまったく考えていないのか。尋ねられたタクトは難しい顔をして考え込む。

 

「うーん‥‥世界征服とか、己を極めるとかカッコイイけどさー、そんなスッゴイパワーを持つ超人軍団ならやっぱそのパワーは正しいことに使わなきゃね!」

「正しいこと?」

「そうだなー、誰かのためとかでもいいし、カッコいいこととか…あ、やっぱり世界中の皆がアッと驚くぐらいの楽しい事とかさ!」

 

 ニシシと笑うタクトにセーラはポカンとした。彼の考えは単純で子供っぽいが、彼のいう事は世界侵略を企てる『主戦派』や己の鍛錬を目的とする『研鑽派』を否定し、これまでにない別の考えだった。今の彼の思想はその程度のものだろうが、きっとこの先大きなものになるのかもしれない。

 

「そのためにも笑顔溢れるアットホームな職場を目指すぜ!」

「たっくん、それじゃあまずいんじゃ」

 

 ブレないタクトにセーラは苦笑いをする。取りあえず今は彼のサポートをするために奮闘しなくては、ここで胃を痛めている場合ではないと固く決めた。

 

 漸くビルへと戻って来たが、入り口で誰かが待っているのに気づく。先日押しかけてきたパトラと、彼女の隣には防弾コートを羽織った髪の長い男性だった。セーラはその男性を見ると物珍しそうにする。

 

「遠山金一…本当に来たんだ」

「正直、驚いたよ、まさかシャーロックがタクト君に一任するなんて」

 

 キンジの兄、金一は苦笑いしてタクトを見つめる。しかしタクトは『誰この人?』みたいな顔をして首を傾げていた。多分カナの状態でないと理解してくれないのかもしれない。しかし今はそれに云々言う場合ではない。

 

「金一が来たってことは‥‥フレイヤが動いたの?」

 

 セーラは少し深刻な顔をして金一に尋ねる。元イ・ウーのNo.2『斬撃のレギンレイヴ』と呼ばれた厄介者、フレイヤもう動いたのならばタクトがすぐさま狙われるかもしれない。この状況を打開するためには遠山キンジ、もしくは彼の兄金一の力を借りるしかない。セーラと問いにパトラは頷く。

 

「フレイヤめ、すぐにでもこやつを処断したいのやもしれん。明日に開かれるイ・ウーOB会でこやつを招待させる気ぢゃ」

 

「え?パーティー?じゃあおめかししなきゃね!」

 

「たっくん、それどころじゃない」

「フレイヤが何かしかけてくるかもしれない。取りあえず、明日は俺とパトラでタクト君の護衛は務めよう」

「そうしてくれると助かる…」

 

 パトラと金一がいればなんとか『斬撃のレギンレイヴ』に対抗はできるだろう。後はタクトが変な事をやらかさなければと懸念する。

 

「一つ気になってんだけど‥‥」

 

 そんな中、タクトが真剣な表情で尋ねてきた。ようやく事の重大さを意識するようになったのかとセーラとパトラは感心する。

 

「‥‥カナさんって男だったの!?」

 

 セーラとパトラはずっこけ金一は苦笑いをした。せっかくの雰囲気が台無しである。 

 

「…やっぱりタクト君は平常運転だったようだね‥‥」




 メイドさんはロングスカート(異論は認める)
 
 4人ずつストーリーを繰り広げさすとスッゴイ字数に‥‥シカタナイネ(白目
 
 あの卵かけ御飯を作る道具は正直欲しいと思ってしまった。
 でも一度当たると怖くて食べれない…当たると本当に死ぬほど痛いぞ

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