SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある?   作:ごはんはまだですか?

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ゆ、ユグドラシルと異世界は違うから(震え声)


※ジルクニフ、ネコ時代


第8話 カリスマは単独クラスだって途中で気が付いた

△濁った 霧深い 廃園

 一抱えもある大理石の柱は打ち捨てられて長いのか、地から伸びた蔦が蔽い、葉の隙間からみえる表層には苔が生え美しかったであろう紋様を陰らせている。青々とした草にまぎれて乱雑に生えている朽ち捨てられた石柱は墓標に似ていた。

 それでも、ここがニブルヘルムのように死という沈黙に満ちていないのは、生命力溢れる様々な植物と、その蔭に潜むネズミや飛び交う虫などの小さな命が、作られた架空のものであっても存在しているからだろう。

 

「この前、モグラを捕まえたから食べたんだけど、ネズミもうまいのかねぇ」

「食堂にモグラ料理が増えていたのは、アナタの仕業でしたか……」

「闇視、土魔法強化。わかりやすい追加効果が出てたわな」

 

 雑談をするギルドメンバーの後ろをジルクニフはついて歩きながら、ネコのビーストマンを選んではいるがネズミを食べる気にはならないな。とつらつらと考えていた。

 湿気を嫌って耳をぴこっと動かせば、足元にいる召喚獣のネコ型モンスターが気にするように見上げてきた。その茶色の毛並みを撫でてから、視線を上げれば、フィールド全体を覆っている深い霧と背の高い草で隠れてはいるが、離れた場所に戦闘中のプレイヤーグループがいるのに気が付いた。

 

 アバターの頭上に浮かぶ白いプレイヤーネームのすぐ下には、最下級の装備を数点だけ身につけたネコのビーストマンばかりが4人いた。

 開始時に選択できるものではあるが全員が同じ種族ばかりだというのもそうだが、縛りプレイでなければ初心者しか使わないデータクリスタルも碌に当てていない最下級の装備をしているのに中レベル用のフィールドにいるのも妙であった。

 不審に思いながらみているうちに、勝利した4人はどこかへと歩き去っていった。

 

「この頃、ビーストマンが増えてきてはいまいか? 先の町でも何人か見かけたぞ」

「ああ、ジルクニフさんのせいですよ」

「私がなにをしたというのだ」

 

 自らが選んでいることもあり、なんとはなしに仲間意識を感じて一際目につくとはしても、あまりに見かける機会が増えているように思えた。フィールドでさえもすれ違ったことを切っ掛けに抱えていた疑問を口に出せば、自分のせいにされ驚き思わず言い訳じみた声が漏れる。

 

「カリスマエンペラーを取得したじゃないですか」答えるモモンガは、まるで小学生にものを教えるようなゆっくりとした口調だ。「スキルなら日々新しいのがみつかりますが、クラスなんて発見できたら、お祭り騒ぎにもなりますよ」

「しかもジル君てば、条件とか取得可能スキルや魔法とかの情報を公開してないからねー」

「クラス名だけ見せびらかして、あとは内緒とかマジ焦らし上手」

「てか鬼畜」

「そんな訳で、判明している条件をできるだけ揃えて取得に必要な条件を探っているんですよ」

 

 たっち・みーが話を締めくくれば、あとはジルクニフがドSか天然か、下らない議論になだれ込み纏まりがなくなった。もっとも、この集団に始めからそんなものがあったのかは疑問だが。

 

「ちなみに、直接、尋ねにくればいいと思いませんでしたか?」

 

 人間よりも巨大な蟻の問いかけに、自分のせいにされた諸々に不満を残しながら黙って首肯すれば、ギチギチと顎を鳴らす警告音を笑い声の代わりにあげられた。

 

「まだ自覚が薄いよおなので、改めて言わせてもらいますがジルクニフさん、あなたわアインズ・ウール・ゴウンに所属したのですよ」

「それぐらいは解っている」

「いいえ、わかってわいません」

 

 蟻と猫の会話が気になったのか、雑談を繰り拡げていたメンバーが近くに集まってきた。

 まだ初期種族のため、彼らの胸よりも低い身からすれば、縦も横も何回りか上回る巨体に囲まれるとそれだけでのしかかるような強い圧力を感じる。

 必然的に見上げることとなる視界にうつるのは逆光で顔に影を落とし、歪んだ造形を更におぞましい貌に変えたモノたちだった。

 ざらりとした質感や細かい触覚の先までリアルに再現された蟻。水死体の肌を剥ぎとり纏ったような生々しいが冷たい表皮をした軟体動物。はち切れんばかりの筋肉を惜しげもなくさらす土色の鬼。自然界には存在しない冗談じみた鮮やかなピンク色をしたぬるぬるの肉塊。

 そして白く乾いた骨である死の体現者。

 

 活動拠点にしているヘルヘルムの常闇であれば怪物にもお化けにも ――実際にいるモンスターだが―― 思える、それらがジルクニフを揃って見下している。彼らの表情には嘲りも侮りも、何かしらの感情の色は浮かばない。フルダイブとは言ってもアバターでしかない異形の化身には、顔のパーツを動かす機能が付いていないからだ。

 感情も、自意識も、生命さえも感じられない仮面がこちらを見下ろしている。

 

 口元を動かさずに、骸骨が喋る。

 

「ジルクニフさん、あなたも身に覚えがあるでしょう? 助けてもらったとしても全力で逃げたくなる、関わりを持ちたくないDQNギルドのことは」

「漏れも昨日、フィールドで出会い頭、悲鳴をあげた人間種(ヒューマ)にUCアイテム投げられて走り逃げられましたよ」

「アイテムを貰った上に、散々追い回してから殺しました☆ミ」

「隠し鉱山をみつけたら、発掘している痕跡があったんで、待ち伏せて掘りにきたトコをPKして装備ごと鉱山を奪いました」

伝説級(レジェンド)ぷまいれす(^q^)」

「PK不可のワールドで馬鹿にされたんで、集まれるギルメン全員呼んで、そいつの後ろをずっーーーーーと付いて回りました」

「新キャラでやり直そうとしてたので、優しい私たちわシークレットサービスを続けてあげました」

 

 モモンガの言葉を皮切りに、ゲームとはいえ眉をひそめるような迷惑行為が挙げられていく。

 野良パーティを組んだ時やネット上でAOGの話は散々聞いてきたし、自分自身もアインズ・ウール・ゴウンには様々な労をかけられてきた。良くも悪くも。

 このギルドには様々なものたちがいる。悪を演ずるものがいる。現実世界の鬱憤を仮想空間で晴らそうとするものがいる。ただ楽しんでいるだけのものがいる。無意識に人の害となるものがいる。右に倣えで悪に加担するものがいる。けれど、皆、人間だった。命を数としてしか見ていない、歪んだバケモノはいなかった。

 

「ようこそ、アインズ・ウール・ゴウンへ(^^)」

 

 だからだろうか。

 

 かなりの迷惑行為を自慢げに話されても、

 一回り以上も大きな異形たちに囲まれていても、

 脅しているようにしか思えないことを言われても、

 夢に出そうなグロテスクな仮面に見つめられていても、

 

 

 

 恐ろしいと思わないのは。

 

 

 

 

 

 笑顔のアイコンを浮かべるアインズ・ウール・ゴウンへ、ジルクニフは同じく笑顔を返した。





***




「ちなみにカリスマエンペラーの取得条件わなんですか?」
「発見されそうなギリギリまで伏せて、情報料を吊り上げようZE☆」

 悪そうな声で問いかけてくる二人に、利用すればアイテムや金、はたまた地位や優越感を得られるレアクラスの情報を、ジルクニフは惜しげもなく明かす。無論、話を盗み聞かれないように対策はした上で。

「エンペラー・ハイエンペラーを取得状態で、ギルド・クランに一度も所属せず、フレンドリストに300人登録だ」
「カ、カリスマ……」

 話を聞いていた中の一人が思わず漏らした言葉に、さほど気に払わず彼はさらに続きを話す。
その口調には当たり前の、少しばかり苦労すれば誰にでもできることを言っている調子しかない。ジルクニフ(イケメンの一軍様)にしてみれば、条件さえ知っていれば簡単にそろえられるものだという認識しかないのだ。だから、隠したり誤魔化したりしなくてもよいと考えての上だった。

「更に上位クラスがないかと1000まで埋めてみたが、なにも発生しなかったので、そこで区切りにして勧誘されていたアインズ・ウール・ゴウンに入ったのだ」

「せん…だと…!?」
「カ、カリスマ……」
「リア充こゎぃ」

 その後、しばらくジルクニフはカリスマやエンペラーと呼び続けられ、最終的には厨二皇帝に落ち着いたのは別の話。

 ちなみに隠しクラスの情報は、ロンギヌスの槍と交換で売れた。


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