SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある?   作:ごはんはまだですか?

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【捏造注意】コタツをよく知らない人が本やネットの知識のみで書いています。
なんかあったかいらしいねアレ。くらいの認識です。……光る?


007話 多くの廃人を生みだした依存性・中毒性の高い合法暖房「KOTATU」

 バハルス帝国、帝都アーウィンタール。

 黄金の都と謳われ、この世の春を謳歌する賑やかな街の更に中心部にそびえ立つは帝城であり、広く遍く力を顕示するかのように天を突くかの如くそびえ立っている。

 人の背よりも高い石を組んだ砦のごとく堅固な構造をした建物の、外側を囲う廊下のトレーサリーが施された寄り添う夫婦のようなランセット窓は狭く昼であっても暗い。だが、厚く重い扉を開けて室内に入れば中庭からの光が明るく違う一面をみせてくれる。

 居住区では木張りで断熱を図っているが、執務室のほとんどでは石壁がむき出して、かけられたタペストリーが辺りを覆ってはいるが焼け石に水で、冬になれば皇帝であっても寒さに手をかじかませながら書類にサインをするはめになるのであった。

 

 城というよりも要塞と言った方が印象を伝えやすい構造の訳は、西のリ・エスティーゼ王国、南の竜王国、はたまたスレイン法国といくどとなく繰り返してきた戦の歴史故にだ。いざという時のために守りを固めてきた結果が、この居住性のことを後回しにした使い勝手の悪い城郭だ。城というのは元々防衛のための建物であるからおかしいことではないのであろうが、住居として政治の場として姿を変えてきた昨今において、隣国のそれ自体が芸術品のようなヴァランシア宮殿を例に出すまでもなく、国内の領主たちが力を見せびらかすために農民の血を絞りあげて築かせた贅を凝らした城の数多さが物語っている。実際に、このような砦のような城を住居や政治の場として使っているのは要塞都市を除けばこの大陸を見ても少数になりつつあった。

 さて、この城だが、実際に中に入ってみると、察しの良いものならば外から見た時との大きさの違いに気が付くだろう。いくつもある中庭の為かと、誤魔化されがちだが、実際に測ってみれば差は一目瞭然だ。

 

 では、その外観と内装の差はどこへいったか。答えは壁の中にある。

 

 分厚い石積みの壁や床のあちらこちらには通路が通されているのだ。人間がやっと通れる程度の幅から、馬が通れるほどの広さのものまでいくつもの通路が壁の中を縦横無尽に走っている。それは下働きのものたちが貴血から身を隠して働くためのものであり、有事の際には戦うため、または逃げるための使われるものであり、秘密裏に客人を招くためのものであり、親に連れられてきた幼い貴族の子供たちが目を盗んで探検するためのものであった。

 隠し通路というにはおおっぴらに存在が知られている壁の中の通路だが、窓もなく四方八方に折れ曲がり、また惑わしの術がかけられているため、道を知らぬ者が入り込めばたちまち迷いさまようこととなる。遭難して死した者が今も夜な夜な出口を求めて這いずる声が壁の中から聞こえる、そんな怪談話もメイドたちの間では交わされている。

 

 そんな隠し通路だが、もちろん皇帝の執務室にも存在している。

 謁見の間のタペストリーの後に繋がる道、礼拝室横の小さな控え室に繋がる道、それらは急ぐ時に国のトップが慌る姿を見せないようにと使ったり、表には出せない会合を行う際に用いられてきた。

 そして時には息抜きのためにも。

 

 謁見の間と執務室を繋ぐ隠し通路。惑わしの術が放たれた魔力さえも狂わすせいで魔法的な明かりは使えず、また閉鎖空間であることから火も使えない。己の手さえもみえない暗闇の中を手さぐりで進むうちに出会ういくつもの分かれ道のうち、すぐに突き当たる袋小路のハズレの道。だが、そこはごく一部のものだけが知る秘密の部屋であった。

 

 

「あー、疲れた~」

「お疲れお疲れ」

 

 

 彼らがいるのは狭い部屋であった。数歩も歩けば壁に当たる部屋は平民の住む家であれば違和感がないのだが、雄大な力強さを感じさせる帝城にあっては下男の居室にも劣る質素さだった。だが、ここはまぎれもなく城にある隠し部屋である。まるで暗がりの通路を歩いているうちにまったく違う場所へと出てしまったかのようであった。

 安っぽい壁紙が貼られた壁にはカレンダーと古ぼけた掛け時計があり、板張りの天井からぶら下がる布張りの電燈は眩しくもない、やわらかなオレンジの光を放っていた。畳敷きの部屋の中央にはコタツが置かれ、天板にはお約束とばかりにミカンがかごに盛られていた。

 

 コタツに足を突っ込み、だらけ切った姿をさらすのはバハルス帝国の大君主ジルクニフ。そしてアインズ・ウール・ゴウン辺境領の絶対支配者アインズ・ウール・ゴウンその人だ。

 

 だが常ならば、この世のすべての富を積んでも釣り合わないと思えるほどの豪奢な装備を身につけた死の支配者も、それに数段劣るが緻密な刺繍布と飾りが歴史と伝統を感じさせる華美な衣装を纏う鮮血帝も、今はくたくたのジャージで、だらりと過ごしている。

 辺境候はコタツにつっぷしているし、皇帝はミカンの皮をせっせと剥いている。

 きっと彼らを知る者が見れば、幻覚か偽物かと断じることだろう。それぐらい、平素とは違うだらけきった姿だった。

 

「部下からの期待が重い……」

 

 心底疲れ切った声音のアインズは、むずがるような唸り声をあげると更にコタツに潜り込む。その様子を見たジルクニフがいたわる言葉を口にし、ミカンの山から一つ掴むと彼の前に置いた。オーバーロードは人間よりも長い骨の指でころころと小振りの丸い果実を転がして遊びながら、ただ空気が漏れたような、ため息を吐く。

 

 この秘密の隠し部屋を知る者は、彼ら二人しかいない。

 それも当たり前だ。ここは二人が全力で気を抜くためにわざわざ作り上げた部屋なのだから。場所とアイディアの提供はジルクニフ、そして作りあげギミックと内装を整えたのはアインズだ。他の誰も知らず立ち入らない小さな部屋で、支配者としての重荷を下ろし、ただのヒトとしてぐだぐだと過ごす。それはこの世界に現れてからずっと傅かれてきた者たちにとって、喉から手が出るほど欲しいものだった。

 春になれば魔法で作り上げた太陽光で日光浴しながら眠い眠いとうたた寝し、夏になれば扇風機前で宇宙人ごっこをし、秋の夜長には<遠隔視の鏡>で闘技場をビール片手に観戦し、冬になればコタツから一歩も出ずにだべり続ける。そこには超越者も皇帝もいない。友が残していった愛し子たちに慕われるオーバーロードも、数十万もの罪無き民を守り導く鮮血帝もいない。

 いるのは、時間までは何があろうとコタツから一歩も外に出ないと心に決めた駄目男が二人。

 

「味方だらけでいいではないか。こちらなぞ肉親であろうと隙あらば蹴落とさんとするどろどろした魔窟だぞ」

 

 ジルクニフはミカンの白い筋を一本一本丁寧に取り除くと、ようやく房を口に運ぶ。表情を変えずにもぐもぐと咀嚼する姿からは、甘かったのか酸っぱかったのか読み取れないが、次の房を食べたことから気に入らなかったわけではないようだ。

 手持無沙汰のアインズは、彼を真似て渡されたミカンの皮をむき始めた。肉の薄い指の腹ではやわらかい肉厚の皮はやりにくそうだが、なかなかにウマく剥いていく。だが綺麗に筋まで除いたとしてもアンデットの身では飲食はできず、ぬるぬる君に差し出してみるが一口だけは食べたが、好みではなかったようで、それ以降は差し向けても口を開けようとはしなかった。コタツの向かいに座るジルクニフをちらりと見るが、彼の前に積まれた皮の多さにこれ以上は健康によくないと、そっとアイテムボックスの中にしまい込んだ。

 

「ハードルをどんどんと高められる辛さは、そちらもわかっているだろう?」

「期待に答えれば答えるほど、更に上を望まれる辛さか」

「うぅ、本当の敵は過去の自分ですよ」

 

 支配者ロールも本音トークも入り混じらせながら、取りとめのない愚痴を浮かぶままに積み重ねていく。もし噂の的である守護者たちが、話の一片でも耳にいれたら躊躇いなく居た痕跡ごと消え去ってしまうようなないようなのだが、現世界最強の大魔法使いが慎重に慎重を重ねて、どんな魔法や異能(タレント)でも突破できない隔離空間になっているため、盗み見、盗み聞きされることは、砂漠の中に落とした砂糖粒を見つけ出すよりも可能性は低いだろう。

 だからこそ、安心してぶっちゃけ話もできるというものだ。

 

「それなのだが、見ていて思ったことがあるのだ」

「なんですか?」

 

 8つめのミカンに伸びたジルクニフの手に呆れながらアインズは問いかける。脳内には重い渦があるのに、コタツに入った脚先からはじんわりとした熱が伝わり、まるで風呂に入っているかのような、休みの朝寝時の布団の中のような、おだかやなぬくもりに包まれる心地よさがあった。

 だが、その春雲に似た白い眠気はジルクニフの言葉で、一瞬で晴れることとなった。

 

「アインズに対する守護者たちの姿は、母親はなんでもできると信じている幼児に似ているな。と」

 

 言われたことが耳に入ると同時に、NPCたちの設定された年齢ではなく実年齢が脳裏に浮かびあがる。一番年上のものであっても、まだランドセルを背負うような歳であることに、他人の指摘があって初めて気が付いたのだ。最後の方に作られたパンドラに至ってはヒヨコ帽にスモッグ、黄色い園カバンを下げているありさまだ。

 

 そうして思い返してみれば、確かに言われたようにNPCたちの言動は、かつて幼かった自分が親に向けていた態度によく似ていた。何かしら手伝えることはないかと自分なりに考えて頑張り、ほんの一言だけでも話しかけられれば喜び、丸い石や綺麗な花など宝物をみつけては走り寄っていく。

 仕えることを至上の喜びとするメイド。ただの雑談にも全身全霊で答えてくる守護者。ほんの気まぐれで口にした戯れで、世界を捧げようとするNPCたち。

 過剰な、重たすぎる期待だと思っていた。だが、幼児だと思ってみれば、自らが知る世界だけがすべてだと思っている子供だと思ってみれば、ごく普通の、慕うものへ向けた親愛でしかなかった。

 

「ちょっと納得はできましたけど、母親はやめてください。なくしはしましたけど、男なんですから」

 

 確かに彼らの態度は父親を尊敬するそれよりも、母親を慕う子を思わせるが、自らの性別に対する拘りはまだ捨てされていない。ただのゲームでしかないユグドラシル時代でも、いくら優遇されているからといって女性用装備を使う気にはなれなかったのと同じだ。

 しっかし、男性用装備のビジュアルの雑さや突拍子のなさはひどかった。アメザリ、キリン、たまご、本当にひどい。

 

「なにをなくしたんだ」

「なにをなくしたんです」

 

 ミカンを二つ並べたジルクニフの手元から、下らない話は終わりだとカゴごとミカンを没収する。ぶーぶーと文句を言われたが、指先が黄色くなるまで食べては夕食が入らなくなるだろうに、とそこまで考えて、このような思考になるあたりが母親といわれる由来なのかと落ち込んだ。

 

 その後も、特に身にならない噂話や愚痴などをとりとめなく話していると、やがて柱にかけられた時計の針が休憩の終わりを知らせる。

 

「ああ、働きたくない」

「海でも眺めにいきたい」

 

 名残惜しげに気だるい空気を払い落し、ふたりは平素の状態へと身支度していく。あくび一つを最後に脳のぼやけた眠気はすぐに幕を引きあげ、傅かるるを当たり前とする絶対的な上位者が君臨する。

 

 コタツのぬくもりはまだ体に残っているが、部屋から出ればすぐにしんしんと底冷えする城内にふるえることとなるだろう。

 あたたかさが外へと持ち出せないように、ここで話したことの全ても外にでればなかったこととなる。ヒーターの下で狭いと蹴り合ったことも、ミカンでお手玉をしたことも、トランプの勝ち負けも、なかったこととなる。

 

 

 

 笑いあったことも。

 

 

 

「では、先に行くぞ」

「ああ、またな」

 

 同時に出て密会がばれないようにアインズが扉を開けて一人でていくのを、ジルクニフは先ほどまでの身軽なジャージと比べると肩が凝りそうな装飾品の数々を整えながら見送る。

 一人分広くなった部屋は、静かで、少しだけ寒い。

 

 死の支配者然とした後ろ姿が消えた扉を眺めて、ため息を吐こうとして止める。

 神人と同じ世界にあれたのならば、本当の友になれたのだろうか。そんな願望以下のくだらないことを考え、密かに覇剣の皇竜玉を取り寄せさせるなんて、きっとコタツの熱に脳みそがのぼせていたからだろう。

 

 代わりに短く嘲笑を含んだ息を吐くと、靴底を鳴らして冷たい外へと出て行った。


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