SKO41に入った鮮血帝だけど、なにか質問ある?   作:ごはんはまだですか?

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訳:漫画ベドちゃん、最高にかわいい


第6話 やかましい

 ほいほいとケーキに釣られたのは馬鹿な行いだったかもしれない。ぶくぶく茶釜は行儀悪くフォークを咥えたまま半目で騒ぐものたちを眺めた。

 

 

 

 タブラ・スマラグディナに呼び止められたのはレイド戦が終わった後のことだった。

 初見故に手こずるかと思われていたが、意外にあっさりと片付き、戦利品を分配した参加メンバーたちは肩透かしを覚えながら散々にばらけていった。

 改めてパーティを募集して素材探しにいくのには時間が足りず、スキルや装備の組み合わせを試すほど退屈はしておらず、ナザリックに帰ってはきたものの特になにかをしようとする気にもなれず、茶釜は暇と時間を持て余していた。

 今日はもうログアウトして寝てしまおうかと、9階層の廊下を這いながら予定を立てていると、弟のペロロンチーノと連れ立って歩くタブラに声を掛けられたのだった。

 

「ぶくぶく茶釜さん奇遇ですね。これから時間はありますか?」

 

 雰囲気作りのためにわざわざボイスチェンジャーを使った声は、幕一枚隔てたような現実味の薄い響きを持っている。神秘的な声を目指すのは構わないが、その声で昨日の晩御飯の話をしたりするのだからギャップがすごい。

 

「別に空いてるけど」

「よろしければ相談にのってはいただけませんか?」拘束具に絡められた灰色の頭を、機嫌を伺うために傾げるとタブラは続ける「謝礼といってはなんですがケーキの新作レシピをお渡ししましょう」

「内容による」

 

 自分は相談の内容によると言ったつもりだったが、タブラはケーキの種類についてだと思ったらしく次々と品目をあげていった。防御力が上昇する(極小)モンブラン。攻撃をくらった時に一定確率で受けるダメージを軽減するNYチーズケーキ。水耐性が一定時間上昇するベリータルト。

 

 ユグドラシルでケーキを食べても、味わえるわけでも腹が膨れるわけでもない。

 だが、ケーキは食べられる。カロリーも! 脂も! 気にせずケーキが食べられるのだ! それだけで心の栄養が満たされていくのだ。

 

 ぶくぶく茶釜は異議を唱えることなく、話が長いことで知られる男の、おそらく長いだろう相談に付き合うことにした。

 タブラが話す場所として選んだのは、彼の自室であった。ネオ・ゴシック調の室内にはアーチ形ニッチとコリント式円柱が等間隔に立ち並び、冷たく青い石畳を覆うは毛の長くこなれた真紅の絨毯であり、天井からつるされたシャンデリアの揺らぐ灯りが刻まれた流紋装飾に影を落とし時折動いているかのような錯覚を見る者に感じさせる。

 まるで殺人事件でも起きそうな洋館を思わせる内装は、まさに彼好みであった。

 バロックとロココが入り混じったナザリックにおいて、木と漆喰、それに石で作られた部屋はそこまで違和感を覚えさせない。趣味を爆発させたギルメンの自室ともなれば、ペロロンチーノなんかは知の殿堂ならぬ、エロゲのポスターが天井から床まで張られた恥の殿堂となっており、他にも個性的なところでは死獣天朱雀は古民家風にしたてあげており、聞いた話だが、ぷにっと萌えの部屋は幼稚園風だとか。

 このように個人々々の部屋と廊下では違う区切られた世界感をもつことも少なくはない。

 

 初めて入った部屋を、物珍しさから失礼にならない範囲で眺める。ふと、光輪を掲げ持つドロップアーチの扉がわずかに開いているのに気が付いた。隙間からみえる続きの間に並ぶのは錆びた鋏やメス、紫や緑など様々な色のフラスコなどの、こちらもタブラのホラー趣味全開のおどろおどろしい研究室があった。

 開いているのではなく、開けているだろう隙間を自らの精神衛生のために無視すると、茶釜は球花飾りの繰形が縁取られた琥珀色の机上に並べられたケーキを見比べる。白い皿をキャンパスに、絵の具のように色とりどりの洋菓子がきらめいている。生クリームの透明な白さも、砂糖漬のフルーツも、どんな宝石よりも美しく思えた。

 スポンジにタルトなど種類の違う5つのケーキ。これを全て食べてもいいのだが、レシピがもらえるのは一つだけ。つまりは次の頼みごとのための見せ餌なのであろう。本音をいうのであれば全部欲しいが、策にのれば次から次へと無理難題を押し付けられるリスクがあった。ここは一番ほしいものだけ貰い、未練は残さずに去るのが吉かな。

 どれを選ぼうかと目を彷徨わせていると、部屋とケーキに気を取られ半ば忘れかけていた本題を切りだされた。

 

「相談事ですが、アルベドの鎧についてなのです」

「製作中の神器級装備だっけ?」

 

 弟の返答に、茶釜はケーキ皿から目をあげると、茶菓子を用意する傍ら呼び寄せられた、タブラの横に立つ全身鎧をみる。先に外装だけ仕上げ、今はギミックをくみ上げている最中だという甲冑は、邪悪な漆黒と鮮血の赤で彩られ、禍禍しい棘も角も、悪魔か暗黒騎士かという重みある雰囲気を漂わせていた。

 

「この鎧、どう思います?」

「「黒くて固い立派なモノ」」

 

 問いかけられた姉弟の声が図らずも揃う。姉はえっちぃ仕事も多いロリ系声優として、弟はエロゲオタとして、ごく自然体で答えた結果であった。赤くなったモモンガが慌てふためき、やまいこが教育的指導と拳を落としそうな言葉に、タブラは満足げに2・3度、深く頷いた。

 

「そう言ってくださるあなたたちだからこそ、私は相談にのってもらおうと思ったのです」

 

 鎧にかぶせるように設計図を表示させ、タコに似た異形種は水かきのある節くれだった長い指を振りまわしながら、長々とした説明を語りだす。

 

(オタクの話って長いんだよね)

 

 茶釜は重要なところだけは頭にいれながら、話の大半を聞き流していく。聞き手ならば設定魔の冗長な話にも嬉々として耳を傾けるペロロンチーノがいるので十分であろう。同化がどーだの、三重構造がどーだの、そんな言葉を耳半分に、手付かずだったメインディッシュを口に放り込んでいく。

 

(うん、パイの薄いサクサク系もいいけど、クッキーみたいな厚いタルト好きだな)

 

 チーズケーキの下に敷き詰められたタルト生地にフォークを刺せば、堅い手ごたえが返ってきた。もう少しだけ力をいれれば、ぽろりと崩れてしまい、あわてて掬いあげて頬張る。香ばしそうなタルト生地の崩れた際に散った粉も、4つ股のフォークの跡を残すしっとりとしたチーズクリームの壁面も、よく再現されていて現実世界とまるで変わらない。味までとはいわないが、これで匂いがあったら最高なのにと、体験型ゲームの制約を恨みながら、ちまちまとチーズケーキを削っていく。

 柱のようになった最後の一口分を、倒さないように気を付けながら口に運べば、ちょうどタブラの話も佳境に入るところであった。

 

「つまりは露出が足りないんですよ!」

「……どういうことなのよ」

 

 ケーキと一緒には飲み込めない結論に、茶釜は思わず呟いてしまった。口の中だけで発した言葉であったが、タブラの耳にはしっかりと届いていたようで、設計図の上にさらなるイメージ図が広げられていく。

 

「せっかく三段階に外れていくのですから、徐々に露出していくべきでしょう」いまや鎧が見えなくなるほどに枚数を重ねたウィンドウの、そのどれもが大なり小なり肌色をしていた。「邪悪な暗黒騎士の中身が、エロい女淫魔(サキュバス)! これこそギャップ萌え!」

「流石はタブラだ! そこにしびれる憧れる!」

 

 興奮し高らかに叫ぶ男の姿に、薮をつついてヘビを出すということわざが脳裏に浮かんで消えない。ビキニアーマと便乗して叫ぶ弟はとりあえず後で泣かす。

 もはやケーキを味わうどころではなくなった騒ぎに、茶釜は食すことを諦めて、じっくりと身を入れて話を聞くことにした。たぶん、この乱痴気騒ぎのテンションを放っておいたら、他にも飛び火して被害が拡大することは避けられないだろう。防火壁になるのは不本意であるが、止められるのが自分しかいない状態ではするしかなかった。

 せめてケーキ分は働くとしますかね。

 

「ちなみに、このダメージ仕様は失敗でした。露出が増えるのはいいですが、弱体化しているような外見は守護者総括としてふさわしくないですから」

 

 タブラは手を振って宙に浮いているウィンドウをどかすと、コンソールをいじくり全身鎧の外装を変更した。ダメージ仕様との単語通り、あちらこちらが傷つき剥がれた手甲や裂かれたサーコートから下の生身が覗く姿は、扇情的ではあるがナザリック最奥の王座を守る者としては確かにふさわしくないと思えた。

 

「露出を増やすことの問題としては、装甲が減ることで単純な防御力が落ちることですね。パージして素早くなる展開も熱いですが、防御特化の持ち味が失われてはいけません」

「うーん、アクセサリでどうにかなんねーの」

「ペナルティをつけて、ステータスの底上げとか」

 

 三々五々と交わされる意見にあわせて、鎧の外装も次々と変わる。一部だけ透明になったり、アクセサリーが増えたり、先ほどペロロンチーノが叫んでいたようにビキニアーマーになったり。

 そうしているうちに、鎧のないところから露出する肌が、貼りつけられたポリゴンであることにふと気が付いた。あちらこちら散乱するイメージ図や、ころころと変わる外装に気を取られていたが、改めてよくみれば、角の生えた面頬付き兜は振るえて、中からかすかなすすり泣きが漏れている。

 

「ちょっ、これ誰が入ってんの!」

「ジルクニフさんですよ。たまたま通りがかったところを協力していただきました」

 

 すでに違うものに飛び火していた状況に思わず茶釜の声が荒くなる。初期メンバーがほとんどを占めるアインズ・ウール・ゴウンにおいて新参に入るジルクニフは濃いキャラクター故に、いじられることが多い。

 たぶん、タブラ・スマナグディナは底意地悪い思いではなく、単純に目についた人物を捕まえただけなのだろう。そこでたまたま通りすがってしまう運の悪さもジルクニフのいじられポイントなのだろうか。

 

「なに巻き込んでんのよ!」

「中身があったほうがいいと思いまして。アルベドを連れてくるよりも手っ取り早かったですし」

「もうやだ、おうちかえる」

 

 先ほどまで完全に無き者として扱われていたので我慢できていたのだろうが、ここにきて一人の人間として認められ、かばわれるまでに至って、彼の感情が抑えきれなくなったのか泣き声が音量を増して、ついには両手で顔を覆って床にしゃがみ込んでしまった。

 露出度の高いエロ鎧から聞こえるのが、男のガチ涙声だなんて、そんなギャップはいらない。

 

「次は踊り子風の衣装着せようぜ! コレクションから持ってくる!」

「清純系から一転、淫靡な衣装、いいですね。さっそく着せましょう」

「自重しろ弟。やめたげてタブラ」

 

 三者三様の声が混じり合い、部屋は大層やかましくなった。着せ替え人形にされたジルクニフの泣き声なんて、誰にも聞こえないぐらいに。

 

「異世界こゎぃ。ロクシーたすけて」

 

 助けを求める声も、どこにも届かず、やかましい声にかき消されて消えていった。




この前、会社にVRゲームを製作してる人達が撮影しに来てたんですよ。
仮想現実を作るために、現実のデーターを取らんといかんて矛盾しているような納得できるような。

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